【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第38話「いつもアタシや優愛に色々してくれてありがとな。感謝してるよ」

 午後の体育祭のプログラムもほとんど終わり、残すは応援合戦だけとなった。

 応援合戦なのにラストにやるのは、これ如何にと思うが、まぁそういうものなのだろう。

 

 オタク君のクラスは、全員鬼殺の衣装に着替え準備万全である。

 それぞれのクラスの応援合戦が終わり、次はオタク君のクラスである。

 

『俺たちE組、イカスぜE組!』

 

 そう書かれた応援旗を持って登場するのは山崎だ。

 オタク君の手によって、鬼殺に出てくる柱のキャラそっくりにメイクされたその姿に、全校生徒が圧倒される。

 彼が歩くだけで歓声が所々から上がるくらいだ。

 

 

「隊員集合!!!」

 

 合図とともに、オタク君のクラスメイトが山崎の元へ集う。

 そこから鬼と戦っている演技が始まり、次にクラスメイトの個人技が始まる。

 

 ヨーヨーを使ったパフォーマンスから始まり、手品をする者、タッグでブレイクダンスをする者など。

 鬼と戦う設定はどこに行ったのやらと思うが、まぁそこら辺は自分たちが盛り上がれれば何でも良いのだ。学園祭とはそういうものである。

 こんなカオスな内容でも、劇をしたいと言っていた生徒も満足そうにしている。ならば何も問題ないだろう。

 

 演技の終了と共に、拍手が飛び交う。

 

「お前たち、最高の応援だったぞ!」

 

 戻って来たオタク君達を迎えたのは、担任のアロハティーチャーである。

 普段のアロハシャツは脱ぎ、オタク君達と同じ衣装を着ている。

 実は貸衣装用に作った物を勝手に拝借して着ているのだが、誰も彼を責めようとはしない。

 体育祭が終わればもう使わないというのもあるが、彼の信条であるアロハを脱いでまで衣装を合わせてくれたのがちょっと嬉しかったからだったりする。

 

 次々と応援合戦が続き、3年生の最後の応援合戦が終わった。

 それぞれの応援合戦を審査員が採点し、集計をする事10分。

 どうやら採点が終わったようだ。スピーカーからスイッチを入れた際のキーンとした音が漏れる。

 

「お待たせしました、応援合戦の集計結果が出ました」

 

 一瞬の間が空く。

 

「応援合戦1位は、1年E組です」

 

 やはり老若男女問わず大人気アニメの効果は大きかったようだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 オタク君も、クラスメイトも思わず声を上げる。

 喜びの余り抱き合っている生徒も居る位だ。

 

「よっしゃ。胴上げだ!」

 

「えっ、僕!?」

 

 誰かが叫ぶと、皆が一斉に集まりオタク君を胴上げし始める。

 自分が胴上げされる物だと思っていた山崎、タイミングを逃し仕方なく応援旗を振り回している。

 

 確かに衣装だけではなく、山崎の完璧なコスプレは1位に大きく貢献しただろう。

 だが、それはオタク君がウィッグの調整やメイクしたからである。

 なんならクラス全員分の衣装もオタク君の成果だ。

 ならば胴上げされるのは、やはりオタク君であろう。

 

 その様子を他のクラスメイトは笑いながらも、拍手を送って見守っていた。

 こうして体育祭のプログラムは全て終了した。

 

「惜しかったね、もうちょっとだったのに」

 

「総合3位でも十分凄いですよ」

 

 応援合戦で一気にポイントを稼いだが、運動部が少ないオタク君のクラスは総合では3位という結果で終わった。

 それでも担任もクラスメイトも満足そうだ。

 

「ねぇねぇオタク君。この後カラオケで打ち上げするらしいけど、来るよね?」

 

「僕もですか?」

 

 乗り気じゃない、というよりは自分も来て良いのかという感じである。

 中学時代はその手の集いからはハブられていたために、少々気後れするオタク君。

 

「当然じゃん。オタク君が来ないでどうするのさ!」

 

「そ、そうですか。僕も行って良いなら」

 

 胴上げまでされておいて、ハブられるわけがないだろうと思うが。

 まぁ、ハブられ経験が長かったのだ。そう思ってしまうのは仕方のない事である。

 誘われる事自体は嫌ではないオタク君。

 

「それじゃあ、着替えが終わったらクラスで待っててね!」

 

「はい」

 

 そう言って優愛は更衣室へ向かった。

 

「トイレに行ってから戻るかな」

 

 オタク君。早くトイレに行きたいほどではないが、着替えてからクラスで待つには少々辛い感じである。

 着替える前にトイレで用を済ましてから行こうと校舎に入る。

 

「あれ、リコさんはもう帰るんですか?」

 

 校舎に入ると、既に制服に着替えたリコにばったり出会った。

 

「あぁ、着替えは終わったしね」

 

「クラスの打ち上げとかは行かないんですか?」

 

「あー。そういうのはあまり得意じゃないからさ、適当に用事があるって言ってきた」

 

「そうですか」

 

 一瞬リコはクラスメイトとの関係が悪いのではないかと思ったオタク君だが、文化祭の展示の時はクラスメイトと悪い関係に見えなかった。

 だから本当にそういう集まりが苦手なだけだろう。なら問題はないはずだ。

 

 それじゃあと言って別れようとした所で、リコの様子が少し変な事に気付くオタク君。

 チラチラと見て何か言いたそうである。

 

(委員長って呼ばれてた女、一体どんな関係なんだ?)

 

(もしかして、頭を撫でろって事かな?)

 

「リコさん」

 

「ん?」

 

「今日はよく頑張りましたね」

 

 そう言ってリコの頭を撫でるオタク君。

 だが、即座に腕を掴まれる。

 

「おい。ちょっとこっち来い」

 

「えっ」

 

 リコに手を引かれ、近くの空き教室に連行されるオタク君。 

 

「えっと」

 

「ったく人が居る前でやるなって。あそこじゃいつ誰が通るか分からないだろ!」

 

 だったら初めから移動して欲しいと思うオタク君。

 そもそも撫でて欲しいという事ではないのだが、流石に分かれという方が無理である。

 

「……所で小田倉、優愛にも頭を撫でたりとかもするのか」

 

 委員長の事は上手く切り出せず、優愛の事を聞くことにしたリコ。

 

「えっと、たまに、ですかね」

 

 実際は一度だけだ。

 

「そうか……」

 

(アタシだけ特別ってわけじゃないか、そりゃそうだよな)

 

「でも、僕なんかが撫でても嬉しいか分からないですけどね」

 

 後頭部に手を当て、はははと軽く笑うオタク君。

 優愛やリコの頭を撫でているが、自分なんかが撫でて嬉しいのかと思ってしまうオタク君。

 相変わらず自己評価が低い。

 

「おい小田倉、ちょっとかがめ」

 

「……こうですか?」

 

「もうちょっと。そうそう、そこでストップだ」

 

 言われるままに屈むオタク君、ほぼ座る姿勢になるまで足を曲げさせられる。

 今のオタク君の高さは、大体リコの胸元の位置である。

 リコはそんなオタク君の頭を左腕で逃げないようにホールドし、右手でオタク君の頭を撫で始めた。

 

「小田倉、優愛に頭を撫でられたりはしたか?」

 

「いえ、ないですが」

 

「そうか」

 

(そうか、小田倉の頭を撫でたのはアタシだけか)

 

 一瞬だけフッと笑い、そのままオタク君の頭を撫でるリコ。

 

「普段からアタシや優愛に色々してくれてありがとな。感謝してるよ」

 

「そ、そうですか?」

 

「あぁ、本当だよ。よしよし」

 

 ちょっと姿勢を崩すだけで、リコの胸元にダイブしてしまうくらい至近距離で頭を掴まれ撫でられるオタク君。

 目の前にはリコの小さなお山が二つ。

 まじまじと見るわけにはいかないと思いつつも、顔を上にも下にも動かせないでいるオタク君。

 動かせばリコの胸に顔が付きそうだからである。

 

 しかし、オタク君は顔を動かさなくて正解だっただろう。

 もはや湯沸かし器の如く顔を赤くし、にやけるのを抑えきれず、目元までとろけそうな程にニヤニヤしているリコ。

 そんなリコの顔を見た日には、何を言われるか分からないし、どういう顔でリコを見れば良いかも分からなくなるだろう。

 

「小田倉、アタシに撫でられるのは嫌か?」

 

 普段のリコとは違い、トゲのない優しい声色でオタク君に問いかける。

 

「その、嫌じゃないです」

 

「嬉しいか?」

 

「……はい」

 

「そうか」

 

 まるで赤子をあやすように、オタク君の頭を撫でるリコ。

 されるがままのオタク君。

 

 どちらも顔が真っ赤になっているのは、夏の暑さのせいだけではないだろう。

 そんな時間がしばらく続いた。

 

「それでさー」

 

「マジでー」

 

 思わずバッと離れるオタク君とリコ。

 男子生徒2人がおしゃべりをしながら空き教室の前を通って行ったようだ。

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 お互い真っ赤になった顔を逸らしている。

 

「あ、あれだ。また頭撫でて欲しくなったら、いつでも言えよ」

 

「えっ、あっはい」

 

「そ、それじゃあな! 分かってると思うけど、優愛の前では言うなよ!」

 

「はい……さよなら」

 

 脱兎の如く空き教室から出て行くリコ。

 

「優愛さんやリコさんも、こんな気持ちだったのかな」

 

 オタク君。

 恥ずかしさと嬉しさが混じった、何とも言えない感情を胸に、しばらく空き教室で一人悶絶していた。

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