【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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閑話「りこきす」

 放課後の第2文芸部。

 オタク君が部室に入ると、既にリコが来ていた。

 チョバムとエンジンはまだ来ていないようだ。

 

「お、おっす小田倉。優愛は?」

 

「今日は用事があるそうで、まっすぐ帰りました」

 

「そ、そうか」

 

「はい」

 

 軽く会話を交わすが、お互いすぐに無言になってしまう。

 先日のハロウィンで、キスしてしまった事を意識しているからである。

 

「そうだ、足は大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、翌日はちょっと腫れたけど、もう大丈夫だよ」

 

「そうですか。それは良かった」

 

 そしてまた、しばしの無言。

 どこかぎこちない会話を繰り返す事数回。

 リコが軽く息を吸って吐き出し、意を決したように話し出す。

 

「いやぁ、キス、しちゃったな。アタシたち」

 

「えっ、ええ」

 

「ほら、友達同士でキスするとかあるしさ。それの延長みたいなものだし、あまり気にするなよ」 

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ははっ、そうだよ」

 

 なるほど、そういうものなのか。などと思うわけが無い。

 いくらオタク君が鈍感とはいえ、流石にそれは嘘だと気づく。

 だが、それを指摘する勇気があるわけもなく、そうなんですねと言ってリコに釣られたように笑うオタク君。

 

「お、小田倉がどうしてもって言うなら、またしてやっても良いぞ」

 

「えっ……」

 

「ほら、友達同士でする延長みたいなものだしさ。小田倉がして欲しいって言うなら、アタシは別に構わないし」

 

 戸惑い気味のオタク君に対し、リコは茶化すように笑っている。

 リコは笑って余裕を見せているつもりなのだろうが、手足をあたふたと動かし、顔を赤くしている。

 戸惑ってはいるが冷静なオタク君、リコの行動が明らかに照れ隠しなのは分かっているが、何と言えば良いか分からず狼狽えるばかりである。

 

「あの、リコさん」

 

「そ、そうだな。ほら、小田倉しゃがまないと出来ないぞ」

 

 何が「そうだな」か分からないが、リコがこのままキスしようと言っているのは理解出来た。  

 リコの顔をじっと見るオタク君。

 

 オタク君に見つめられ、思わず目線を外したり、上目遣いもじもじしているリコ。

 普段のようなガサツさを感じさせられない。

 

 思春期のオタク君からしたら、美が付く少女とキス出来るのは千載一遇のチャンスである。

 まだ半年ほどの付き合いではあるが、こういう時のリコは「なんちゃって冗談でした」なんて言わない事くらいは分かっている。

 分かっているが、もしそう言われたら自分はその恥ずかしさに耐えられるかと、思わず考えてしまう。

 

(もし冗談だと言われたら、一緒に「そうですよね」と笑えば良いだけだし)

 

 どうやら好奇心が勝ったようだ。

 しゃがみ込み、リコの目線までしゃがむオタク君。

 

「ぶぇっくしょん!!!」

 

 オタク君がリコの肩に手をかけようとした瞬間だった。

 少し離れた所から大きなくしゃみが聞こえて来た。

 思わず飛び跳ねるように離れる2人。

 

「エンジン殿、風邪でござるか?」

 

「花粉症ですぞ。この時期は本当にキツイですな」

 

「それは大変でござるな。薬あるけど要るでござるか?」

 

「かたじけないですぞ」

 

 コツコツと部室に近づいてくる足音と声。

 そのまま遠慮なく部室のドアが開けられた。

 

「おや、小田倉殿と姫野殿、もう来てたでござるか」

 

「鳴海氏は今日はお休みですかな?」

 

「あぁ、優愛さんは家の用事があるってさ」

 

 もはや優愛とリコが居る事が当たり前の光景となってしまった第2文芸部。

 なのでオタク君とリコが居る事よりも、優愛が居ない事の方が疑問視される。

 

 おかげでオタク君とリコが2人で居る事を怪しまれる事が無く済んだ。

 もし2人で何してたか聞かれていたら、ボロを出してしまっていたかもしれないだろう。

 

「アタシは顔だけ出して帰る所だったからさ、それじゃあまたな」

 

 そそくさと帰るリコに対し、特に疑問を持たずさよならの挨拶をするチョバムとエンジン。

 ちょっと怪しい行動ではあるが、それに気付けるほど2人はリコと親しいわけではない。

 

「さて、それじゃあ今日は男3人でオタク会話としゃれこむでござるか」

 

「コミフェに出店するサークルをチェックですぞ」

 

「小田倉殿も欲しい本が、あれば遠慮なく言うでござる」

 

「買って来るかは別問題ですがな」

 

「うん。ありがとう。それじゃあ……」

 

 3人はコミフェのカタログを眺めながら、それぞれ何が欲しいかを言い合う。

 大手は買うのに時間がかかり過ぎる上に同人ショップに行けば買える、それなら出来る限り現地でしか手に入らない物を選ぼう。

 しかし、せっかくの現地なのだから、新しいジャンルにも挑戦してみよう。

 

 カタログを見てそんな会話をしているだけで、気が付けば下校時間を知らせるチャイムがなっていた。 

 

「今日はお開きの時間ですな」

 

「ごめん、ちょっとトイレ」

 

「拙者も」

 

「某もついて行きますぞ」

 

 仲良くツレションである。まるで女子のようだ。

 無人となった第2文芸部。

 ゆっくりと、掃除用具入れの扉が音も無く開かれる。

 

「小田倉君とリコさん、キスしたんだ……」

 

 中に居たのは、委員長である。

 部室に先回りして掃除用具入れに入り、今度こそ皆を驚かして笑いを取ろうとした委員長。

 だが、オタク君とリコの会話を聞いて出るに出れなくなってしまっていたのだ。

 

 蒸気のような汗で火照っているのは、暑さだけのせいだけではない。

 オタク君とリコの様子を見て、委員長はドキドキしていたのである。

 

 ふらふらとおぼつかない足取りで、委員長は部室を後にした。

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