【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第58話「オタク君。今年もよろしくね!」

「いや~、楽しかったね」

 

「はい、色々あって楽しかったです」

 

 新幹線に乗り込んだオタク君と優愛。

 昨日のコミフェの事、今日の東京見学の事。2人の話しのネタは尽きない。

 

「でも、親と一緒じゃなくて良かったんですか?」

 

「うん。多分年末まで仕事だから、一緒に居ても夜ご飯一緒にするくらいだし。それに」

 

「それに?」

 

「年末の東京ってカップルばっかりなんだよ! そんな中一人で見学とかしてたらヤバくない? 寂しい奴じゃん」

 

 基本一人で行動する事が多かったオタク君だが、年末年始やクリスマスのカップルが多い時期は、引け目を感じる時がある。

 彼女が居ればとまでは思わないものの、ワイワイムードの中、ぼっちでオタクをやっていると、ふと我に返った時に寂しさを感じたりする。

 なので、優愛が言いたい事をオタク君は何となく理解出来た。

 

「そうですね。この時期に一人だと、寂しく感じたりしますしね」

 

「そうそう。オタク君良く分かってんじゃん!」

 

「はい、なので今年は優愛さんのおかげで楽しめました」

 

「こっちこそ、オタク君のおかげでめっちゃ楽しめたし!」

 

 ありがとうございましたとオタク君が頭を下げると、優愛がこちらこそと言いながら同じように頭を下げる。

 そんな和やかなムードだが、優愛が当然のように爆弾発言をする。

 

「所でオタク君」

 

「はい?」

 

「同人誌ってやつ? 何買ったの?」

 

 そう、優愛の好奇心を考えれば、当然の質問である。

 体中から冷や汗が噴き出るオタク君。

 着替えなどが入った荷物は家まで宅配を頼んだので、持っている荷物は少ない。

 その少ない荷物が、同人誌である。

 

 オタク君が買った同人誌は健全な物だ。だからそれを見せるのは問題はない。

 だが、チョバムとエンジンが買って来てくれた物はその限りではない。

 思い出されるのは、コミフェでの会話だ。

 

『拙者、エッチな同人誌買って来るでござる!』

 

『あっ、僕の分もお願い!』

 

 そう、確実にエッチな同人誌が紛れている。

 

「どうしたの?」

 

 固まるオタク君を、不思議そうに覗き込む優愛。

 キョトンとした顔をしている優愛だが、実はわざとやっていたりする。

 オタク君のサークルに出会う途中に、そういった本が並べられてるのをチラリと見えたからだ。

 なんなら本の宣伝のポスターできわどいものもいくつかあったほどだ。

 

 なので、オタク君はそういった本を買っているだろうとなんとなく理解していた。

 そして、その事を問い詰めたらどんな反応をするか、面白がって言っているのだ。

 魔性の女である。

 

「色々かなぁ?」

 

 オタク君。ごまかし方がヘタクソである。

 

「へぇ、どんなの買ったか見せて? そのかばんの中に入れてたよね?」

 

「えっと……」

 

「隙あり!」

 

 困って思わず目を逸らした一瞬の隙に、カバンを取られてしまい、中の同人誌を見始める優愛。

 このままスケベな同人誌を見られれば、しばらくの間優愛に弄られるのは確定である。

 

 いや、その程度ならまだ良い方である。

 ドン引きレベルの内容の物が混じっていて、弄りすらしなかったらおしまいである。 

 神に祈るような気分のオタク君。ふいに携帯のメール音が鳴った。

 携帯の画面を見ると差し出し人はチョバムのようだ。

 

『今頃鳴海殿に「何買ったの?」と言って戦利品を見られてそうな小田倉殿へ。R18物は全部、別の荷物に混ぜておいたでござるよ』

 

 チョバム、ファインプレーである。

 

『君のような勘の良いオタクは好きだよ』

 

 チョバムにお礼のメールを送るオタク君。

 首の皮一枚で助かったようだ。

 

 優愛は同人誌を丁寧に整えてからカバンに入れて、オタク君に返した。

 

「優愛さんが読んでても面白くなかったですよね」

 

「ううん。そんな事ないよ。なんていうか、皆一生懸命作ったんだなってのが伝わってくるし」

 

 そう言って笑う優愛。

 オタク君にとってギャルのイメージは、こういうもの(同人誌)を馬鹿にしたりキモイと言ったりするイメージだった。

 今も何か言われないか不安だったが、優愛を見てそんな風に思う自分を少し恥じるオタク君。

 

「優愛さんって、優しいですね」

 

「そんな事ないって、急にどうしたの」

 

「いやぁ、オタクってキモイとか言われたりする事が多いけど、優愛さんはそういう偏見の目で見ないで僕にも優しくしてくれますし」

 

「そんな事ないよ……絶対に」

 

「優愛さん?」

 

 先ほどまでと優愛の様子が違う事に戸惑うオタク君。

 思いつめたような顔をした優愛が、困ったように笑う。

 

「昔ね、私オタク女って言われてたんだ」

 

「優愛さんが?」

 

 多少はアニメを見たり、ゲームをしたりはするがオタク知識は全くない優愛。

 そんな目の前に居るギャルがオタクとは、どう考えても結びつかないオタク君。

 

「ほら、うちって両親が有名な会社で働いてるでしょ? 中学時代だったかな、その会社から出た作品を学校に持ってきて『コイツの親、こんなゲーム作ってるんだってよ』って言われたことがあるのよ」

 

 数年前に出たS社で出たゲームを思い浮かべるオタク君。確か一部オタク向けのゲームはあったりする。

 だからと言って、優愛の親が関わったかは分からない。

 だが、馬鹿にするための口実にはなったのだろう。

 

「当時は私地味でさ、それでオタク女ってあだ名付けられたのが悔しくて、見返すために色々ファッション調べたりして頑張ってギャル目指したりしたのよ」

 

「そうなんですか……」

 

「別に元々ファッションとか興味あったし、好きだからやれたし、今もこういう格好したりするのは好きだからそこは良いのよ」

 

 頑張って、気が付けばオタク女って言われる事は無くなった優愛、

 それだけなら良い話だっただろう。

 

「でもさ、一回だけお父さんとお母さんに言っちゃったんだ。『オタクの仕事してて気持ち悪い』って……」

 

「……」 

 

「今でも後悔してるし、本当は謝りたいとは思ってるけど全然謝れなくてさ。こうやってギャルやってるのも何か当てつけがましいかもと思うと余計に」

 

『オタク君、悪い事何もしてないのに、勝手にオタクとかキモイとか言うの無くない?』

 

 思い浮かぶのは、優愛と出会ったばかりの事だ。

 かつてリコがオタク君の事を「きもくね?」と陰口を優愛に言った際に、優愛は本気で怒っていた。

 もしかして、あの時の優愛は、リコに対し腹を立てたのではなく、リコがかつての自分にダブって見えて、そんな昔の自分に対し腹を立てたのではないか?

 そう思うも、流石にその時の事を盗み見してましたと言うわけにもいかないオタク君。

 

「前の話なんですけど、とある人が『オタクだからキモイって陰口言ってた、ごめん』って謝りに来た事があるんですよ」

 

 あえて誰かは言わない。だが優愛にはそれが誰か分かっていた。

 

「別に僕に言いに来なければバレないのに、罪悪感を感じてどうしても謝りたかったみたいです」

 

「そっか……その人は偉いね」

 

「そうですね。謝れないのは苦しいですからね」

 

 そう言って、オタク君は優愛の頭を軽く撫でる。

 

「優愛さんも、お父さんとお母さんに謝ってみませんか」

 

「でも……」

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと分かってもらえるはずですから」

 

「……うん」

 

「もし不安なら、ついて行きましょうか?」

 

「そこまでしてくれなくても大丈夫だって、その代わりさ」

 

「はい?」

 

「もうちょっとだけ、頭撫でてくれたら勇気出るかなーって……」

 

「良いですよ」

 

 ゆっくりと優愛の頭を撫でるオタク君。

 いちゃついているカップルと見えなくもない2人だが、他の席のカップルも似たような感じである。

 しばらく撫で続けるオタク君、誰もそんな2人を気にする事なく時間は過ぎて行く。

 

 優愛の格好や生活スタイルは、普通の親なら多少は口出しするものである。

 何も言わないのは、もしかしたらその事件がきっかけで、親が優愛に対し遠慮してしまい何も言えなかったのかもしれない。

 

 

 翌日、大晦日。 

 

「こんばんは」

 

「オタク君昨日ぶり!」

 

 夜も23時を回った時間。

 普段ならそんな時間に歩いていれば、警察に呼び止められるが、この日ばかりは見逃される。

 2人は優愛の家の近くにある、小さな神社に来ていた。2年参りである。

 

「リコさんはやっぱり来れないみたいですね」

 

「そうだね」

 

『悪い。年末と年始は親戚が来てるから無理』

 

 ラ●ンのグループメッセージで誘いはしたが、どうやら親戚の集まりがあるようで、一緒には来れないようだ。

 

「親戚の集まりがあるなら仕方ないですよね」

 

「代わりに2日なら行きたいって言ってたけど、明日の夜にはお父さんとお母さん帰ってくるから私は行けないからなー」

 

「そうなんですか」

 

「うん。帰ってきたらいっぱい話す事があるからね」

 

 そう言ってにこりと笑う優愛。

 優愛の笑顔を見て、これなら心配なさそうだと感じるオタク君。

 

 しばらくして、鐘の音が鳴り響く。

 こうして新しい年が始まった。

 

「オタク君。今年もよろしくね!」

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