【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第61話「間接キスも何も、アタシらキスしてんだから今更だろ」

 オタク君達が初詣で並び始めてから30分経った。

 やっと境内の中に入った所である。

 

「ところで、これ何処に向かっているんだ?」

 

 リコの言葉に、誰も答えられない。

 右も左も人ごみで混雑しており、もはや自分たちが何処に向かっているかすら良く分かっていない状況である。

 某大佐のセリフが吐きたくなるほどだ。

 

 オタク君が上を見上げると案内が書かれた大きな布が、木と木の間に固定されている。

 色々と書かれているが、人が多すぎてまともに見る事すらできない。

 分かるのは真ん中にデカデカと書かれた「本宮」という場所くらいだ。

 

「とりあえず、本宮と書かれた場所に向かってみましょうか」

 

 多分それだけデカく書かれてるのだから、参拝する場所という事だろう。

 実際にそこであっていた。本殿近くになると「しばらくお待ちください」と掲げられた看板が見えた。

 やっと着いた。そう思って安堵したオタク君達だが、そこから参拝出来るまでに20分はかかるのであった。

 

 参拝が終わったオタク君達、鳥居を抜けそのまま出口へ。

 人が多いとはいえ、立ち止まる事が無いので帰りはスムーズであった。

 

 並び始めたばかりの頃はおみくじを引こうとか、宝物館を見に行こう等と和気あいあいとしていたオタク君達。

 だが、実際に並び、時間が経つにつれ、そんな気持ちは薄れて行った。

 参拝が終わる頃には、誰からともなく「もう戻ろうか」と言い出し、おみくじも宝物館もスルーして出口へ向かっていた。

 

「お兄ちゃん達はこの後どうするの?」

 

 どうすると言われても、参拝の予定しかなかったので何もない。

 オタク君がどうしましょうかと聞く前に、答えが返って来た。

 

『ぐぅ~』

 

 リコの腹の音である。

 オタク君が迎えに来てから準備をしてすぐ出たので、当然リコは朝食を食べていない。

 口にしたのはオタク君が買って来てくれたココアだけ。そんな状態で1時間以上参拝の為に並ばされたのだ。

 当然腹は減る。

 

 腹の音に反応し、全員の視線がリコに向く。

 

「お腹が空いたし、喫茶店でモーニングとかどうかな?」

 

「お兄ちゃんお腹の音鳴らしすぎ」

 

 お腹を抑え、今のは自分のお腹の音ですアピールをするオタク君。紳士である。

 勿論、今もなお鳴り続けてる音が何処から出ているか誰もが気づいて居るが、あえて気づかない振りをする面々。紳士淑女の集いである。

 

「ア、アタシはそれで構わないよ」

 

「希真理達はどうする?」

 

「喫茶店でモーニングとか大人っぽい! 薙ちゃんも玲ちゃんも行かない?」

 

(希真理ちゃん、ここは断る場面じゃないのかな?)

 

 薙のアイコンタクトに全く気付かない希真理。 

 

「そうですね。薙はどうす……る?」

 

 希真理は気づかないようだが、玲は気づいたようだ。

 笑顔でニコニコしながらも、威圧感を放つ薙に。

 

 喫茶店に興味はないが、高校生という中学生から見たら大人な人たちがどんな付き合いをしてるか興味津々な玲。

 だが、このまま希真理に従いついて行けば、薙がめんどくさい事になるのは予想がつく。

 天秤にかけた結果、薙の機嫌を取ることにしたようだ。

 

「希真理、玲。私達はこの後、新年の初売りセールで服見に行く予定でしょ。早くしないと売り切れちゃうよ?」

 

「そ、そうだったな。お兄さんの誘いはありがたいけど、私達は行くか」

 

 なおも抗議の声を上げる希真理だが、薙と玲に引きずられ人ごみに消えて行った。

 妹たちを見送った後に、近くの喫茶店に入るオタク君とリコ。

 

「リコさん、そんなに頼んで大丈夫ですか?」

 

「腹減ってるし、これくらい食べれるだろ」

 

 普通の喫茶店メニューは軽食という名の通り、やや少なめのボリュームであることが多い。

 だが、オタク君達が入った喫茶店は、その逆を行く事で有名な喫茶店である。

 大体の品はボリュームが多いのだ。

 なんならボリュームが多すぎるので、同じ商品のミニサイズも用意されるほどだ。

 

 お腹が空いてるのだから、このくらいはいけるだろう。

 

 そんな甘い考えで注文をすれば、確実に後悔する。

 もしオタク君やリコがこの喫茶店に行き慣れているのなら、そんな間違いは絶対にしなかっただろう。

 だが、学生身分で喫茶店は中々行く事は無い。コーヒー一杯何百円は高校生には大きな出費であるからだ。

 

 そんな行き慣れていない学生が、正月というイベントを得て懐が潤っているのだ。

 間違いが起きないはずがない。

 

「……」

 

「……」

 

 メニューが届き、その大きさに絶望するオタク君とリコ。

 コーヒー、まずこいつが下品なデカさをしている。お前は生ビール中ジョッキと間違えて出て来たのかといいたくなるようなサイズである。

 大きいサイズが普通サイズとたいして価格が変わらないのだから、選んでしまうのは人間の性と言うもの。

 さぁ飲んでみろと言わんばかりにデカイカップに入れられたその姿は圧巻である。

 

 そしてコーヒーについてくるサービスのモーニングセット、トーストにゆで卵にバター。

 他にも小倉あんやジャムが選べたりするが、この辺りはまぁ普通である。

 

 そして出て来たデザート、ドーナツ状のすっきりした甘さが特徴の熱々のパン。真ん中にはソフトクリームがこれでもかと言わんばかりに盛られている。

 大きさは小さめのケーキ1ホール分に匹敵するサイズだろう。1個ではなく、1ホールである。

 カロリーは驚異の約1000キロカロリー。ラーメン約2杯分である。 

 

 お腹が空いていると言ったリコだが、食べる前から既に食欲が失せかけている。

 大の大人でも一人で食べるには厳しい量だろう。

 完全にやらかしである。

 

 とはいえ、食べなければ無くならない。

 

「いただきます」

 

 届く前までは、コミフェがどうだった等の話題で盛り上がっていた2人だが、完全に無言になっている。

 普通サイズのホットコーヒーしか頼まなかったオタク君は、普通に完食している。あとは優雅にコーヒーを啜るだけだ。

 

 対してリコは、やっと4分の1を食べた所である。

 1口サイズに小さく切り分けたつもりでも、リコの口にはバカでかい。一口だけでも十分にお腹を満たせるであろう。

 そんなのが、まだ大量に残っているのだ。

 

「リコさん、大丈夫ですか?」

 

「別に、まだ平気だし」

 

 嘘である。

 既に後悔の念に駆られているリコ。

 だが、頼んでおいて半分以上残すのは流石に恥ずかしい。

 無理をしてもう一口切り分けている時、ある考えが彼女の脳裏に浮かぶ。

 

(食べれないなら、食べさせてしまえば良いんじゃないか)

 

 リコの目の前には、心配そうに見つめるオタク君がいる。

 ニコリと笑みを浮かべたリコが、フォークを伸ばそうとして一旦手を止める。

 

(ここからだと、手を伸ばしても届かないな)

 

 そのまま席を立ち、自分の皿とコップを移動させオタク君の隣に座る。

 

「ほら小田倉も食べたいだろ? あーん」

 

「えっ……」 

 

 何となく予想は付いていたが、それでも困惑するオタク君。

 先ほどまでリコが使っていたフォークで食べれば、間接キスである。

 

 間接キスは気にしないリコ、口を開けようとしないオタク君に肩が触れ合う距離まで寄ってくる。

 

「ほら、小田倉。口を開けろって」

 

「は、はい」

 

 観念してアーンをするオタク君。

 口の中には暴力的な甘さが広がる。

 

「どうした、甘すぎたなら、コーヒー飲むか?」

 

 そう言ってリコは、ストローが刺さった自分のアイスコーヒーを差し出す。

 ストローに口をつければ、フォークなんて非ではない程の、間接キス状態である。

 

(恥ずかしいし断るべきだろうけど、この量をリコさんが一人で飲むのは難しいし、仕方ないよね)

 

 オタク君、自分に対し必死の言い訳である。

 顔を赤くしながらズズズとストローに口を付ける。

 

 オタク君のそんな姿に満足したのか、今度はフォークでデザートを切り分け、食べるリコ。

 一口食べて、何度かの咀嚼の後に、オタク君が口を離したストローに口をつけアイスコーヒーを飲んでいく。

 

 オタク君がもじもじと挙動不審になっている事に気付くリコ。

 

「んっ、どうしたんだ?」

 

「いえ、その間接キスになっちゃうけど良いのかなって」

 

「なんだ、そんなの気にしてたのかよ」

 

 なおも照れるオタク君。

 そんな様子が、ちょっとだけ可愛いなと感じたリコ。 

 たかが間接キスで恥ずかしがるオタク君に対し、自分の方が大人になった気分になる。

 

「間接キスも何も、アタシらキスしてんだから今更だろ」

 

 なのでちょっと大人ぶった事を言ってみたつもりだった。

 結果、言っておいて顔を真っ赤にしてしまう、見事な自爆である。

 心臓の音が聞こえるんじゃないかと思えるほどに加速し始めるリコ。隣では同じように顔を真っ赤にするオタク君。

 

「ほ、ほら、もう一口食えよ」

 

 誤魔化すようにデザートを切り分け、オタク君にあーんをするリコ。

 同じく誤魔化すように、あーんをして食べるオタク君。

 

「やだっ、あそこのカップル顔を赤くしながらアーンしてる」

 

「見たらダメだって、でも可愛いね」

 

 そんなオタク君達の様子を、近くの席に居た女性2人組がクスクスと小声で話している。

 小声で喋っているつもりだが、当然オタク君達の耳にも届いている。

 

 その会話で、今自分たちがどれだけ恥ずかしい事をしていたか思い知るオタク君とリコ。

 普通ならこのままイチャイチャし続ける方が恥ずかしいはず。

 だが、2人は今冷静な判断力を失っていた。

 

(早く食べ終えなければ!)

 

 そう、離れれば良いだけの話なのを、目の前のデザートを食べきれば良いと判断してしまったのだ。

 

「リコさん、今度は僕があげますよ」

 

 フォークを手に取り、一口サイズに切り分けたソレをリコの口元に運ぶオタク君。

 何故そんな事をしてしまったか? 彼は完全に混乱しているからである。

 早く食べ終える為に、手を動かそうと考えた結果なのだ。

 

「あ、あーん」

 

 パクりと食べ、もごもごと咀嚼し飲み込むリコ。

 

「ほら、次は小田倉の番だ」

 

 今度はリコがフォークを手に取り、オタク君にアーンをする。

 気づけばお互いがアーンをするバカップル状態が出来上がっていた。

 そんな様子をクスクスと聞こえる声で笑いながら見る女性2人組。

 

 何とか食べ終わったオタク君とリコ。

 食べた直後で苦しい腹に耐えながら、そそくさと退店する2人。

 

 彼らが去った後の店内には、オタク君とリコの真似をしようとしたカップル数組が、デザートの大きさと量に絶望し顔を青くしていた。

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