【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第68話「リコさん。お誕生日おめでとうございます」

「ご注文の品をお持ちしました」

 

 オタク君とリコが入ったのは、一般的な漫画喫茶である。

 2畳程度のマットスぺースを仕切りで個室化し、机とPCが置いてあるだけの空間。

 1人でならそこそこの広さを感じるが、2人一緒になると密閉感が出てしまう。

 

 漫画喫茶なので、完全に個室化は出来ないため、申し訳程度の覗き窓があるが、オタク君が上着をかけて見えなくしている。

 決してやましい事をするわけではないが、見られるのは恥ずかしいと感じるのは当然である。

 

「いただきます」

 

 オタク君達が注文した料理は、値段の割にはボリュームの少ない、どこからどうみても冷凍食品である。

 オタク君にとっては物足りない量ではあるが、リコには十分な量のようだ。

 2人は料理を平らげると、リコが早速買ったばかりの板タブを取り出した。

 

「早速使い方教えて欲しいんだけど、良いか?」 

 

 リコが漫画喫茶を選んだ理由は、オタク君に板タブの使い方を教えてもらうためである。

 ならばわざわざお金のかかる漫画喫茶でなくても、自宅で良いではないかと思うだろうが、リコの家には家族が居る。

 誕生日の日に男を家に連れ込もうものなら、家族から何を言われるか分からないだろう。

 

 連れ込んだ理由を「板タブの使い方を教えてもらうため」と答えれば、絵を描いている事が家族にバレてしまう。

 かと言って理由が言えなければ、(よこしま)な目で見られるだろう。

 なんなら両親がオタク君に構って、板タブの使い方を教えてもらう所の話ではなくなってしまう。

 

 かと言ってオタク君の家に行く場合、時間がかかってしまう。

 お昼を済ませてから行けば、3時は過ぎてしまうだろう。

 日が沈むのが早くなったこの時期に、あまり遅くなるのは宜しくない。

 

 なので、漫画喫茶を選んだのだ。

 

「はい、良いですよ」

 

 何故リコが漫画喫茶を選んだのか、なんとなく理由を察したオタク君。

 リコの言葉に笑顔で頷き、板タブを受け取り、USBをPCに接続する。

 そして、適当なフリーのイラストソフトをダウンロードし起動する。

 

「普通に絵を描くだけじゃなくて、こういう使い方もあるんですよ」

 

 タブレット側に付いているボタンが4つ。

 オタク君はそれぞれのボタンの設定を変えていく。 

 割り当てたのは保存、取り消し、新規レイヤー、レイヤー移動である。

 

 絵描きにとってはこまめな保存は大事である。

 唐突に電源が落ちたり、フリーズをした時に保存をしていなかったら、それまでの苦労がパァである。

 

「へぇ、便利だな」

 

「右手で描きながら、左手でボタン押すだけで色々出来るので、慣れたらかなり楽ですよ」

 

 その後はイラストソフトの使い方を大まかに教え、気が付けば2時間以上の時間が経っていた。

 不意に、オタク君がドキッっとする。

 

 今までは集中していたために気にならなかったが、2人は密着しながら作業をしていたのだ。

 時には一本のペンタブを、2人で一緒に握りながら。

 

 集中力が切れ始めたオタク君。

 結果、密着しているリコに気が行ってしまうのである。

 

 オタク君の握っているペンタブを、リコも一緒に握っている。

 リコは出来るだけ描きやすいようにと、オタク君の膝の上で横になっている状態だ。

 自分の胸元にリコの頭があり、シャンプーの良い香りをさせているのが余計にオタク君を興奮させる。

 

 リコが何か言っているが、オタク君は頭が回らず「あぁ、はい」と上擦った回答しか出来なくなっていた。

 

「小田倉、大丈夫か?」

 

「えっ、大丈夫ですよ?」

 

 思わずリコから目を背けるオタク君。

 そんなオタク君の反応で、今の自分の状態にリコも気づいた。

 オタク君の膝の上で、ネコのようにくつろいでいる自分に。

 

 オタク君とリコ、お互いに顔を赤くし気まずい沈黙が流れる。

 もしここが誰かが居るか、誰かが来るような場所だったらリコも一旦離れただろう。

 

 だが、今までのリコの行動で分かるだろうが、リコはオタク君と2人きりで誰も居ない、誰も来ない空間という条件下においては、物凄く大胆になるのだ。

 今がその条件を満たした状態であった。

 

「メシ食ったから、ちょっと体が熱くなってきたよな」

 

「そ、そうですね! ご飯を食べた後って体が温まってきますよね!」

 

 オタク君、もしかしたら自分の顔が赤くなっているかもしれない。

 なので、リコの話に乗っておけば顔が赤くなっていたとしても誤魔化せる。そう考えての発言だろう。

 だが、それは悪手である。

 

「アタシも上着を脱ぐかな」

 

 コートを脱ぎ、壁にかけるリコ。

 コートの下に来ていたトップスは肩出しの物である。 

 

 冬になると厚着になるため、少しの露出でもスケベに感じてしまう時期。

 絶対領域に、肩出しのトップス。オタク君には十分な刺激である。

 リコの足や肩に釘付けになりそうな目線を、理性でグッとこらえるオタク君。

 その一瞬の隙をリコがつく。

 

「よっと」

 

「えっ、リコさん?」

 

 オタク君の胡坐(あぐら)の上に座るリコ。

 

「わりぃ、もしかして重かったか?」

 

「いえいえ、そんな事全然ないですよ」

 

 悪いと言いながらも、退こうとしないリコ。

 オタク君もオタク君で、自分から退かそうとする事はしない。

 

「それでさ、これってどうやって使うんだ」

 

「あぁ、これはですね」

 

 この状況を乗り切るために、絵を描くことに集中しようとするオタク君。

 だが、そんな事をさせる程、リコは甘くなかった。

 

「んッ!?」

 

「どうしたんだ?」

 

 リコは振り返ると、ニマァと笑みを浮かべてオタク君の顔を見る。

 オタク君の左腕を、リコは左腕で抱きかかえるように掴んでいた。

 まるでこれは自分の物だと主張するかの如くである。勿論狙ってやっている。

 

 普段のリコは大胆ではあるが、ここまで分かりやすい行動はあまり取らない。

 多分、からかうのが上手な女の子の漫画を読んだ影響だろう。 

 

「いえ、なんでもないですよ」

 

 リコの行動にモノ申したいオタク君、だが言えばこの状況は終わってしまうかもしれない。

 だから、左腕や体にかかる柔らかい重圧を感じながら、必死に冷静に振る舞うのだった。

 

 そんなオタク君を見て、リコは満足していた。

 近頃は弟に身長を抜かれチビだと言われたり、クラスメイトからも小さい事で弄られる事が多いリコ。

 なので、自分が優位に立つ優越感に浸りたかったのだ。

 

 自分の挙動に対し、オタク君がオロオロする姿を見て可愛いと思えば思うほど、リコの心は満たされていく。

 恥ずかしがる思春期の少年に接するお姉さんになった気分である。

 

 リコが左腕に力を込めたり、オタク君にもたれ掛かる。

 もしここでオタク君が事故を装い胸を触ってしまったとしても、リコはからかうだけで怒らないだろう。

 

 それでもオタク君は自分から手を出さない。

 もしリコが「触って良いよ」と言ったとしても、何度も確認してからやっと触れるレベルだろう。

 ヘタレである。

 

 ヘタレであるが、絶対に手を出さないというオタク君の紳士っぷりを理解しての行動である。

 オタク君をからかっているリコではあるが、彼女はそんなオタク君のヘタレな所に無意識的に甘えてしまっているのだ。

 

 結局の所、リコは甘えん坊なのである。

 今まで長女故にあまり甘える事が無かったリコ、だから甘えん坊な部分は鳴りを潜めていた。

 あの日、オタク君がリコの頭を撫でた事で、リコの甘えん坊の部分が出てしまったのだろう。

 

「おっ、結構上手く描けたことないか?」

 

「そうですね。カラー初めてにしては上出来だと思いますよ」

 

「そうだろ?」

 

 リコ。無言で頭を差し出し、オタク君に撫でろの催促である。  

 オタク君としても、役得なので断る理由はない。

 

 2人が漫画喫茶を出たのは、空が暗くなりかけた夕暮れ時だった。

 

「またな」

 

「はい。あっそうだ」

 

「ん?」

 

「リコさん。お誕生日おめでとうございます」

 

 オタク君の無垢な笑顔に、リコも微笑みを返す。

 

「あぁ、ありがと」

 

「家まで送っていきましょうか?」

 

「家族に見つかったら何言われるか分からないから、やめとくわ」

 

「そっか、そうですね。それじゃあ気を付けて」

 

「おう」

 

 軽く手を振って、それぞれ帰路に着く。

 家に帰ったリコが今日の事を思い返し、ベッドの中でバタバタしていたのは言うまでもない。

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