Infinite Stratos -Children's small dream- 作:Tommy
今回は導入回。つまりはプロローグです。なので短めです。
勘弁してくれ。というのが織斑一夏の心境だった。
周りを窺えば視線、視線、視線、視線。クラスメイトや同学年の生徒どころか上級生のものまで、凄まじい量の視線が客寄せパンダよろしく一夏へと集中している。この中に男の視線があればまだ話は変わっていただろうが、いかんせん感じられるのは女の視線ばかり。男の一夏としては居心地が悪いにも程があった。
物珍しいのは分かる。この学校は明分化されてこそいないものの、実質的に女子校と一緒だ。入学の前提条件として女でなければならず、男が入学する可能性など皆無であった状況で、その男が不可能を可能にして入学してきたのだ。興味がいくのもまぁ仕方ないことではあるのだろう。
しかし、しかしだ。それにしても限度というものがある。こんな途切れる事のない視線の集中咆火を受けては精神が休まる暇がない。ぶっちゃけて言ってしまえば止めてほしいのだ。この状況下で言う勇気はないが。
これでまだ一時間目が終わったあとの休み時間である。昼休みや放課後になったらどうなるかなど考えたくもなかった。
はぁ、と溜め息が漏れる。いっそ病欠しようかなとも思ったがそれは後が恐いので即座に却下した。拳骨程度で済んでくれたらいいが最悪地獄を見る羽目になる。その場合翌日には男子高校生の死体が一つ出来上がっていることだろう。
「随分な人気だな、一夏。大丈夫か?」
精神的な疲労から、一時間目の終了とともに机に突っ伏した一夏に声がかけられた。頭だけ動かして誰だか確認すれば、そこにいたのは本人曰く生まれつきらしい不機嫌そうな目付きをした長い髪をポニーテールにした美少女。六年ぶりに再会した幼なじみだった。
「ぶっちゃけキツい。ただでさえ知識不足であたふたしてるのに、これだけ注目されるとかな。なぁ、箒。なんとかしてくれないか」
「無理に決まっているだろう。まぁ、どうせすぐ治まるだろうし、それまでは甘んじて受け入れておけ」
彼女、篠ノ之箒のにべもない言葉に一夏は項垂れる。いや、一夏自身箒一人の力でこの状況をどうこう出来るとは思えないが、それにしたって気持ち少し位考えてくれてもいいじゃないか。こう、幼なじみの誼的に。
久しぶりに会ったというのに冷たいなとも思ったが、この六年直接会いこそしなかったものの頻繁に連絡を取り合っていた事を考えるとそれも仕方ないのかもしれない。一夏にしても久しぶりと思う反面、まるで昨日会ったかのような気安さも感じている。 正直こんな状況下で箒が同じクラスに居ることは一夏にとって素直にありがたかった。
「ていうか、なんでこんなことになったんだろうなぁ」
「お前がISを動かしたからだろう。ほとんど自業自得だろうが」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
納得がいかない、と一夏は頭を抱えた。箒の言葉は反論の余地のない正論で、事実一夏がここに来ることになったのは一夏自身の失敗が原因だ。それでも、頭では分かっていても感情は理解を示さない。
「はぁ……。あの時の俺を殴ってやりたいよ」
思い出すのは約二ヶ月前のあの日。よりにもよって高校受験の試験会場を間違えるなどという大ポカをやらかした日のことだ。
会場で迷ったあげく適当な部屋に入り込んで、全く違う高校の受験を受けてしまったうえに何の冗談か受かってしまった。今ならあの日の自分自身を、容赦も遠慮も一切なく助走をつけて殴り飛ばしても構わないと思ってしまう。
「ま、早々に諦めてここでの学生生活を楽しむんだな。お前好きだろう?ハーレムというのが。よりどりみどりじゃないか」
「箒、お前な」
よりにもよってそんな目で見ていたのかと戦慄する。幼なじみの表情はそう信じて疑っていないそれだ。一体誰がそんなことを教えたのか、ぶっちゃけて言ってしまえば心当たりがありすぎる。思い出すのは箒の姉とその幼なじみ。自由奔放を通り越して常識に喧嘩を売っているとしか思えないような事の数々を実行して、それに一夏と箒を巻き込み続けたバカップル。一夏の姉にして彼らのもう一人の幼なじみであった織斑千冬の制止がなかったらどうなっていた事やら。考えたくもない。
少なくともろくな事にはならない。というか今でさえろくな事になっていないのだ。歯止めが利かなくなった彼らは際限なく暴走する。あれでも大概だったのにあれ以上に巻き込まれるなどごめん被りたかった。
「なんだ?違うのか」
「違ぇよ。人を色情魔みたく言うんじゃねぇ」
「おかしいな。あれだけ女を引っ掛ける一夏は間違いなくハーレム願望があると姉さんと弥月さんが言っていたのだが」
「あの二人は」
予想通りの解答に一夏は項垂れる。これは箒の再教育を考えなければならないかもしれない。
一夏はモテる。ぶっちゃけた話認めたくはないがそれは一夏自身自覚している事であった。なぜなのかは分からないが男三人で歩いていれば一夏だけ逆ナンされた事も珍しくはない。あのときは怖かった。何が怖かったって一緒に居た二人からの嫉妬と殺意にまみれた視線が怖かった。無意識に膝が笑っていたのを覚えている。
「とにかく違う。俺は別にハーレム願望なんて持ってない」
「む、そうか。ならそういうことにしておこう」
駄目だ。分かってない。
◇
『しかし、随分と面倒くさいことになったな』
「同感だよ。仕方なくはあるがな。一夏を守れるなら安いさ」
『相変わらずお熱いことで、このブラコン』
「茶化すな弥月。こっちはこれでも真剣なんだ」
『はいはい』
「それで、まだ原因は分かってないのか?」
『ああ。いろんな方向から解析してはいるんだが流石に一夏本人のデータがないとどうにもな。横流ししてくんね?』
「出来るわけないだろう。これでも私は教師だぞ」
『まぁそうだわな』
くつくつと忍び笑う声が電話の向こうから聞こえてくる。連絡を取るのも久しぶりだが幼なじみの変わらない様子に織斑千冬は苦笑した。
ふと上を見上げれば抜けるような青空が広がっているIS学園の屋上。そこには千冬以外の人影は居ない。故にこそその会話は誰にも聞かれる事はない。でなくば彼女たちもこのような会話はしなかったであろう。
ここは一夏と箒の通う学校だ。世界中からISの操縦者にならんと夢見る女子が集まって来るところ。それはつまり様々な国籍の人たちが集まって来ると言う事で、同時に他国に知られたくない事さえも筒抜けになる可能性がある。当然可能性としては低い事であろうが、今の千冬たちの話している内容が内容だ。用心するに越した事はない。
『取りあえず解析は続けるよ。束も珍しく張り切っててな、もう三徹してるんだよ』
「またあいつは。体は大丈夫なのか」
『そこは大丈夫。俺が見てるし、あいつも倒れるまではしねぇよ。なんだかんだ言って自分の体の限界は分かってるみたいだしな』
「だと良いがな」
『少し位は許してやれって。夢への一歩になるかもしれないんだぜ。あいつが自分を抑えられるはずがないだろ』
それもそうだな、と千冬は頷いた。確かにあいつはそういうところがある。別に悪い事ではないし、千冬個人としてはむしろ好きなところだ。もう少し周囲への被害を考えてくれたら嬉しいところではあるが。
『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』。三人の夢を実現させる手段として束が十年かけて造り上げた超高性能マルチフォーム・スーツ。本来宇宙開発用として設計されたものではあるが現在では世界各国の軍事の中枢を担っているそれを発表して世界の常識を根底から覆したのが彼女だ。その行動力は確かに凄いものがある。
しかし、同時に色々大変だったのも事実だ。夢を追うために世界を巻き込むなどスケールが大きい事を一切ためらわずにやるのは流石に勘弁して欲しかったというのも本音である。
「男がISを動かす。そんなイレギュラーをよりにもよって一夏が起こすとはな。どこか運命を感じるよ」
『確かに。IS関連って大体俺たちが原因だもんな。血筋って奴?』
「なんのだ」
『こう、世界を変える原因』
「……否定できんな」
そもそもISは女にしか動かせない。なぜそうなったのかは開発者である束本人にも分からない事ではあったが、事実としてそうであった。だというのに男である一夏がISを動かした。あるいは動かしてしまったということか。結果として世界はISによる二度目の変革期を迎えている。
現在の風潮は女尊男卑だ。ISを使える女は強くて、使えない男は弱い。千冬たちにしてみればなんだそれはと一笑に付すものではあるが、少なくともそれが今の世界常識である。それに真っ向から喧嘩を売るその事態は確実に一波乱を呼び込むであろう。
さてどうなるか。先は分からんが少なくとも。
「動くだろうな」
『
「それ以外に誰が居ると」
『それもそうか』
くつくつと幼なじみの笑う声。
どれくらいかかるかは分からないが動く事は間違いないだろう。
『まぁ安心しろ。こっちの準備はできてる。向こうが動けば何時でも行動に移せるさ。だからまぁそっちは一夏のことだけ考えとけ』
「そうさせてもらう」
その言葉を最後に電話が切れた。
別れの言葉もなく唐突に切れたそれに、千冬は苦笑する。いつもの事だがまた束が何かしたらしい。幼い頃から唐突に電話が切れる時は決まってそうだった。その仲は相変わらずなようで実に微笑ましい。
千冬は踵を返して屋上から去った。
結構伏線はってます。なので意味不明なところがあるかと。
オリキャラの影が出てますが、本格的な登場はまだ先ですね。早く書きたい。