ヤベェヤベェよ…
朝飯食ったから…(意味不明)
「え…?」
思考が急停止した。若様と呼ばれるのは前世以来である。見れば彼の後ろからは後光が出ているではないか…。まさか…まさか…。
しばらくの間どちらとも口を動かすことはなかった。最初に口火を切ったのは向こうのほうからであった。
「会いたかったですぞ!!!!!若様!!!!」
「まさか…まさか…あなたは…。」
「そう、あなたの烏帽子親!諏訪頼重でございますぞ!!!」
「まさか今世でも貴方様とお会いになれるとは感激でござい…」
「若様…?」
彼は涙を堪えきれなくなった。あの洗礼式の直前で虫が良すぎると思いつつも願ったことが本当に起きるとは…。あの乱以来二度と会えないと思ったあの父が!今!目の前にいるのである。彼は血友病のことなどお構いなしに飛びついたのであった。
「父上ぇ………。私も会いたかったよぉ………ウッウッウッ………」
時行の涙は頼重の黒い修道服につたっていった。頼重もそれに気付いたが、拭うことなくただ無言で時行を抱きしめたのであった。
一時間後
「これで治ったでしょうね、貴方様の病は…。」
「ほ、本当に?」
「ええ、正真正銘神に誓ってもね。」
あの再会の後、時行はしばらく泣きじゃくって離れなかった。しばらくして頼重のあまりの大声のせいでニコライ2世が部屋に入ってきて、その様子を怪しまれたが、時行が機転を生かして何とか再び部屋を2人で独占することができたのだった。
その後、頼重は、時行に話したいことがあり、その前に貴方様の病を治したいと大急ぎで儀式を行い、たった今それが終わったところであった。
「しっかし何とも奇妙な運命ですね…。父上ともう一度世をともにするとは…。」
「私もですよ…貴方様とはいずれかの世で会うかもしれないと思っていましたがまさかこんな形とはね…。」
「そういえばあの医者さえも匙を投げるようなあの病を治すなんて父上も転生して神通力の腕をあげましたね。前世では、神通力があると言っても諏訪の領地以外ではあまり頼りなかったですが…。」
時行がそう言うと、頼重は真剣な顔をして時行の方に向かった。
「時行様…。今回お話したいことというのは実はそれに関係しているのです…。」
「ん?どういことなんです?」
「実は…」
頼重はポツポツと今世にきた理由を話し始めたのであった。
彼の話すところによると、彼は中先代の乱で死んだあと、四十九日の間現世に留まり、その魂は諏訪の領地に戻っていた。ここまでは良かった…。
ところがある時、どう言うわけか彼は直感的に大陸の元の方に向かわなくては行けないと強く感じ、魂のまま元の方に向かった。 何でも彼の言うところによればそうしなければ時行が将来危なくなると感じたそうだ。
ところがその時には現世に止まる四十九日が終わるまでもうほとんど時間がなく、四十九日が終わる時には彼の魂はまだ元の一都市である開封にあった。
そして、その上運悪く彼の魂は開封にある、ユダヤ人の教会であるシナゴーグの上であったのだ*1。
シナゴーグの上で四十九日が終えたその直後、彼の魂は本来向かうべき所ではなく、ユダヤ人が信仰していたアブラハムの神の死後の世界に向かってしまった。
彼は気づくと暗い生い茂った森の中におり、しばらく歩いていると門が見えてきた。門の上にはこう書かれていた。
"
彼は書かれている言葉の意味がわからず、そのまま入ってみようとしたが、そこをある1人の男…いや、人ならざる者…によびとめられた。
呼びとめた男の正体は悪魔であった。名をメフィストフェレス。ドイツの大詩人ゲーテが編曲した「ファウスト」と言う戯曲にその名前が認められるこの悪魔は頼重に近寄ると開口一番にこう言った。
「俺と契約を結べ。」
頼重は当然のことながら困惑した。開封であの世に召されたかと思えば、暗い森の中に放り出され、門が見えたと思えば謎の男に呼び止められ、その上契約を結べと言う。欧州人ならともかく純日本人の…しかも中世の日本人ならこんな状況に対して困惑しても仕方がなかった。
その様子をこの悪魔もわかったようで、頼重に対して丁寧にこの世界を解説した。
曰く、この世界は死後の世界ではあるが、頼重の知っている仏陀の宗教や彼が実際に神官を努めている神道の黄泉国ではなく…全くそれらとは趣の違う神、すなわちアブラハムの神だとかヤハウェだとかアッラーと呼ばれる神による死後の世界であると言う。
そして本来ならそれぞれの宗教の人々は一部の例外をのぞいてそれぞれの宗教の死後の世界に行く手筈である。ところが彼の場合はシナゴーグの上で浮遊していたところをあの世に召されてしまったがためにこの世界に来たと言う。
続けてメフィストフェレスが言うには、アブラハムの神というのは現世において殺人、強姦、窃盗その他諸々の罪を犯した人間はもちろんのこと、彼の神が異教と認めた宗教を信じるものをことごとく地獄にて永遠の業火に焼くと言うことであり、アブラハムの神にとってはバッチリ異教どころか、自ら現人神であった頼重があのまま門をくぐると地獄の阿鼻叫喚に巻き込まれていたところであった。
そしてメフィストフェレスは続けて、
「私と契約を結んで、その契約を履行したならばお前を本来の死後の世界に連れ戻してやる。」
と言った。
頼重は(こんな恐ろしい世界早く出たい…出たいィィィィィ)と、藁にもすがる思いで契約を結んだ。
さて、その契約の内容と言うのが…
「お前が生まれた日本国から一つ、我らが王サタンでも手に負えないとんでもない悪霊が我々方の世界に、お前が死んだ数十年後に迷い込んでくるだろう…。そいつは最初は我らが王に従い、現世にアブラハムの神が「ナザレのイエス」と名乗って顕現して1904年が経った年には人間の姿で生まれて現世を乱すだろう…。だが、いつになるかはわからないが、そいつはいずれ我らが王を簒奪するだろう…。そこで私がお前にして欲しいのが、お前も現世に行ってその悪霊を退治してきてほしい…。もちろんその際にはお前に力も与えるから…。」
と、言うことであった。
そのことを了承すると、メフィストフェレスは「幸運を祈る。」と言って彼を1869年のロシアに転生させたのであった。
この話を聞いて、時行は面食らった。話す人が頼重でなかったら、こんな話は信じないだろう。さらに言えば時行のような中世の人間ならともかく、コテコテの近代合理主義者ならこの種の話は眉唾物として一蹴するだろう。
「えっと…つまり、父上は死んだあとに手違いで別の死後の世界に行ってそこで悪魔と言うのと契約を結んで、この世にやってくるだろう…悪霊を退治することを目的として転生し、それでそのメフィストフェレスとやらが力を与えた力で私を治したということで…?」
「そう…そう…。いやぁ理解が早くて助かりますなぁ!ハッハッハッ!」
「ハァなるほど…。ところで父上と今世で再び再開したというのは偶然なんですよね?」
「ん?あぁまぁそうですね。」
「と、なると、あなたと最初に会った時にまるで私がここにいるのを知っていたかのような口ぶりというのは…。」
「あぁ、それはですね。実は今世でも私、予知能力を得ることができましてねぇ、そのおかげで貴方様がここにおらっしゃると言う事や、その将来を予知することが出来ましたもんで。」
「そうなのか…。となると、さっきの能力の上達っぷりを見るに予知能力も格段に上昇したんじゃ…。」
「えっあっそれは…。」
「私のどんな未来を見たんです?」
「えっとそれはですね…
んーと若様の未来は…××か?いや、私がいるから××××かもしれない…。いや、でもそうじゃなくてワンチャン××××××…、いやそんなわけない◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️のせいで…、いやでもワンチャン×××××
が頑張れば…。いやいや×××があるわけない…いやでも…。ウーン。」
「あ、もしかして予知能力の方は前世と変わんない?」
「アッハイ。」
「そっかぁ…。」
「でも若様…、このことだけはハッキリしているのですが…。遅かれ早かれこの国は自壊して…長い混迷の時代がこの国にやってきます。」
「……!そんなことが…。いやでもこんな荘厳な宮殿を作るような国が自壊するなど。」
「それは見掛け倒しですよ、若様。良いですか、この国ははっきりと言って…ボロボロです。兵の質は悪く。民達は皇帝や貴族と比べて異常に貧しい。世は大いに乱れ、あちこちで兵や民達による擾乱が起きて、戦艦を乗っとるなんてこともあります*2おまけに1、2年前には…私達が前世で生きていた日の本に負けもしましたしね。」
「そ、そうか…。ん?さっき日の本と言ったが…もしかして私達が前世で生きた世界とこの世界は同じなのか?」
「その通りですよ若様。高い日本語の本も買って実際に調べたらあなた様の名前が載っていたぐらいですしね。まぁ…私の名前はなかったですが。ちなみに日の本は今は日本とか大日本帝国などと呼ばれるているそうですよ。」
「へぇ…てっきり別の世界かと思っていた…。」
「まぁそれはさておき…。この国こと…ロシア帝国と呼ばれているこの国はいずれ自壊するということはまぁほとんど確定しているわけです。ですが…貴方様が居れば…自壊して大いに乱れるであろうロシアに安定をもたらすことができるのです。」
「私が…?」
「うん、そうその通り。できる…できるよな?あっやべなんか自信なくなってきた…。できる?できるよな?うんうんできるできる。」
「イヤ、なんか迷いあったよね?!」
「まぁ大方できますよ…。多分!」
「多分?!」
「そう、そう。」
「多分、多分か…。でもそんな中途半端な者ができるわけがない…。ましてや前世で天下を取り損なった人間などが…。こんな人間などができるわけない………!前世で天下を取り損なって大勢を無駄死にに追いやった上!父上!あなたを含めた皆の期待を裏切ってしまったのですよ!!そんな私が…そんな大きな事をなすなど…。」
「若様……。」
「もう嫌なんです…。自分のために人が死んでいくのが…。」
「……………若様…………イヤ………"我が子"時行よ。」
「……!父上…。」
その目は澄んだ目をしていた。その目は前世で時行と頼重が初対面した時以上に真剣な眼差しをしていた…。
「私はお前を信じている…前世では天下を取り損なったかもしれない…、それで死んだ多くの人を無駄死にだと思って悔やんでいるかもしれない…。多くの人の期待を裏切ったと思っているかもしれない…。だが、私はお前を信じている…。お前がこのロシアの地で天下を取ることによって多くの人々が救われることを信じている。その過程で死ぬかもしれない人間が無駄死にではなく意義のある死になるだろうと信じている。私はお前に全幅の信頼を置こう。その上で私はお前に今世でも仕え、お前の天下取りに携わりたい。そしてどんな時でもお前の味方になろうと約束しよう。たとえそれが火の中、水の中…地獄でも…。」
「ち、父上…そこまでしなくとも…。」
「我が子にこうまでしなくて何が親だろうか?それにはっきりとはしていないが、お前が動くことによって大勢の人間…それも比喩ではなく百万単位で人間の命を救う未来も見たのだ…。だから…お願いだ…もう一度天下取りをやってくれないだろうか?そして私を臣下としてくれないだろうか?」
「父上……。……なぜそうまでして父上は私の天下取りにこだわるのですか?」
「………父として………息子が晴れ舞台に立つのを見たい…。それでは不十分かな?」
その答えを聞いて時行は微笑した。
「やっぱり父上にはかなわないな…。わかりましたよ。やってやろうじゃあありませんか。でも、その代わり貴方も私が天下を取るまでは絶対に死なないでくださいよ!特に自害はね!」
「我が息子よ…我が息子よ…よく言った…。
イヤッタアアアアア!!!ダシタアアアアア!!!」
「え、何その喜び方は…。」
「未来の一種の喜び方だそうです。」
「何だかその喜び方、臭い使われ方をされてそうだなぁ。」
ラスプーチンこと諏訪頼重そして、アレクセイこと北条時行。この2人のタッグはのちに歴史に大きな波乱を呼ぶこととなる。