頼重と時行が再会を果たしていた頃、部屋の扉の外ではニコライ2世、そしてアレクセイが心配でやってきたアレクサンドラ皇后、アレクセイの主治医がいた。
「2人ともおそいですなぁ。と言うか本当にあのまま放っといて大丈夫だったのですか?何でも2人とも抱きついていたとか…。もしや、あの山師、皇太子殿下に危害を加えられるかもしれませんぞ。」
「いや、大丈夫だろう。」
「と、言いますと?」
「アリョーシャが言っとったぞ。ただハグをしてるだけだとな。あの子、小さいから大の大人にハグをしていると抱きついているように見えるだけなんだろう。」
「ハァ…。」(あっ、こりゃダメだ。陛下、親バカだったんだった。)
「しかしそれにしても遅いですね…。あの人のことだからないとは思うけれどまさか何かあったんじゃ…。」
「きっと、あの山師、治せなくてウロウロしてるんでしょう。あんなことを宣っていてね!」
「…宣っていたとは?」
「何でも殿下の病を完治してやろうと宣っていましたよ。」
「えっ…そんなことを…。いや…でもあんな神秘の力を持っているんだから…きっと…。」
(ふん!治せるもんか!皇后陛下も早くこんな神秘主義への幻想から早く目覚めてくださいよ!)
主治医がそう思っているとドアが開く音がした。2人が出てきたのである。
「アリョーシャ!」
「痛みは大丈夫なのかい?あの出血は?」
「皇帝、皇后両陛下…。吉報です。アレクセイ皇太子殿下の病は完全に治りました。」
次の瞬間皇后と皇帝の目は輝かせ、信じられないといった具合で口をあんぐりと開けた。それと同時に主治医の顔色はみるみる悪くなっていった。
「ラスプーチン殿!本当に治ったんですね!」
「ええ、本当です。」
「ああ何てこと、喜びで私あの世に逝ってしまいそうだわ。アリョーシャや、アリョーシャや。よかったねえ。治って本当によかったねえ。」
「うん!もう全然痛くも何ともないよ!」
「ああラスプーチン殿。あなたのお力は本当だったのですね。」
「ウソだ!」
主治医は叫んだ。それと同時に皇帝夫妻は怪訝な顔をして振り向いた。
「薬物か鎮痛剤でも打ったんだ!皇太子殿下!少しお体をお見せください!」
「うわ!」
主治医はアレクセイの体をくまなく見たが、どこにも注射痕はなかった。
「く、くそ。ならば注射器は…。」
その次に部屋に入ったり、ラスプーチンの体やカバンをくまなく探して、注射器を探そうとしたが、なかった。
「注射器もない…。なら催眠術だ!催眠術で皇太子殿下にそう言わせてるんだ!」
「ホウ…。何か証拠でも?」
「そ、それは…。」
「さっきから私が何かイカサマか何かをやっていると考えていると見受けられるますが、そもそも本当に治っていることは皇太子殿下の内出血によるアザがなくなっていることからも明らかじゃないですか。」
「そ、そうだが…。」
「さあ、この賭け、私の勝ちでよろしいですかな?」
「クッ…。わかりましたよ…。陛下、もう私はこんなところにはいられません。後任の医師を探ししだい直ぐに辞めます。」
「エッ…。」
「御免ッ。」
そう言うと主治医はスタスタと去っていった。
「あっ…行ってしまった…。」
「良いではありませんか、あんなヤブ医者。ラスプーチン殿と比べて何もできなかったんですから。」
「そっそうか…。まぁ、それはそうとして…。ラスプーチン殿…。」
「ハイッ。」
「此度はアリョーシャの病を治してくれたこと、礼を言う。」
「いえいえ…。私はただ義務をはたしただけですよ。」
「ラスプーチン殿…、私からあなたに何か褒美を与えたい…。何なりと申してくれ…。」
「よろしいので?」
「ああ。何でも良い。」
「ならば…。」
そう言うと彼は皇太子の方をみて目配せをした。そして…
「私は皇太子殿下の臣下になりとうございます。」
「アリョーシャの…臣下に…?」
「ええ。」
「それで良いのか…?」
「殿下は将来のロシア皇帝になるお方…。しかも私の未来視によればこのお方はロシア史1番の名君になるでしょう。と、なれば…私もこのお方のご功績に与しなければ損というもの。それこそが望みです…。」
「……アリョーシャはどうだい?」
「僕、この人のことがすき!だから、ずっと一緒にいたい!」
「そうか…。わかった。ラスプーチン殿…。あなたをアリョーシャの臣下とすることを認めよう…。以後、アリョーシャの最初の臣下としてアリョーシャの右腕になってくれ。」
「ええ…。陛下、そして殿下の期待にしっかりと応えていきましょう。」
「まぁ、とりあえず今日のところはアリョーシャの回復を盛大に食事会でも開こうじゃないか。まぁ、とは言ってもアリョーシャの血友病は国家機密だからあくまで家族内だがな。それとラスプーチン殿…、今日の食事会にはあなたもきてください。今日の食事会はあなたが主人公ですよ。」
「それはどうも…。ありがたく参加させていただきます…。」
「それとラスプーチン殿…。あなたを友人として…ファーストネームのグリゴリーと呼んでも…?」
「何と…!陛下に名前で呼んでもらえるとはこのラスプーチン、ありがたきしあわせでございます…。」
「そう畏まって貰わなくて構わんよ。むしろアリョーシャを治した君は間違いなくこの世に現れた聖人のようだ。こっちの方が畏まってしまうほどだよ。」
「ハハハ…。陛下にそう言われほどでもありませんよ…。」
「ん?そうかな?まぁとにかく君の友人になってくれるかな…?」
「もちろんでございます…。」
2人がそう言っている中、アレクセイは待ちかねたように2人の間に割って入った。
「ねぇちち…じゃなかったグリゴリー!早く一緒に遊びに行こうよ!」
「おっと…。殿下は遊びたがっているようだ…。すいませんが殿下の臣下として遊ばなければならないので陛下とのお話は後になりそうです。」
「おおそうか。じゃあ2人で存分に宮殿の庭で遊んでこい。」
「うん!」
そう言うとアレクセイはラスプーチンの手を引いて去っていった。
「グリゴリーの最初の臣下としての仕事は子守か…。それにしても臣下になりたいと言う願いは意外だったなぁ。」
「アリョーシャがロシア第一の名君になるなんて…。誇らしいわ…。」
「あぁ、それも私達が待ち望んだ男の子が、だ。きっとなかなか男の子が生まれなかったのも…、神の試練で、その試練を乗り越えた結果祝福してくださったんだろう…。」
「あぁ…。あの子の将来が楽しみだわ…。」
2人はしばらくの間、アレクセイの将来に思いをめぐらせ。そして、そんなアレクセイを治したラスプーチンへの感謝の思いを巡らせていた。そして同時に、試練を乗り越えて2人の子供に祝福を与えて下さったと考えている神への感謝の気持ちを巡らせた。
最も2人にとっての本当の試練はこの約10年後に訪れるのだが。
「ところで若様…。遊ぶと言っていましたが、逃げ上手の若様のことだからもしかして遊ぶのって…。」
「?もちろん鬼ごっこだよ。」
「あっやっぱり。でもこんないかにも老けてそうなおっさんにそれは酷ですって。」
「嘘だぁ、老けてるように見えるけど。父上は1869年生まれだから38歳でしょ。十分いけるって。」
「いや38でも十分おっさんですって!それにwikiの情報によると私1859年生まれって事になってて、今の年齢は48の50手前のおっさんになるんで実際そう間違われるほど私老けてますって。」
「今なんかものすごくメタいこと言ったような気が…。まぁ、1859年生まれでも1869年生まれでも悪魔と契約してるから力あるし問題ないな!」
「え、それは…。って若様ぁぁぁ?!もう行っちゃった…。相変わらず早いなぁ若様。」
今世でも相変わらず逃げ上手の時行であった。
それから約二ヶ月後
1907年6月26日
その日、ロシア帝国支配下のグルジアの中心都市であるチフリスの広場は大騒ぎになっていた。
現金輸送車の馬車が強盗団によって襲われたのである。
この強盗団…、ただの強盗団ではなかった。この背後にはウラジーミル・レーニンが率いる革命集団、ボリシェヴィキがあった。
そして…この強盗団の一員としてあの男…ヨシフ・スターリンが参加していた。
さてこの強盗団事件。結果としては史実と同じく強盗は成功し、革命資金の確保に成功するのだが…。この強盗団の一員としてある男が参加している点において史実と相違していた。
その男の名前はニコライ・ブハーリン。本来ならばこの男は史実においてはこの年、モスクワ大学法学部に入学している頃であり、この事件とはほぼ無関係であった。しかし、レーニンによる強い勧めによって、スターリンらの強い反対がある中、飛び入り参加することとなった。
レーニンは後に何故一介の新米党員(この時のブハーリンはボリシェヴィキの前身であるロシア社会民主労働党時代から数えてもまだ2年の新米党員であった。)を重要な銀行襲撃事件に無理を言って加えたのかを語った。
「私はある夜、夢を見たのだ。夢を見ること自体はそんなおかしなことではないのだが…、その日の夢はいつもの夢と違って…何と言えば良いのだろうか…兎に角奇妙な夢だったのだ。それで私が見た夢というのがね…私は東洋の…おそらく日本か中国の庭園に1人佇んでいたんだ…。そしてしばらくそこで突っ立っていたら、いきなり矢が飛んできて私の頭を貫いたんだ…。不思議なことにそれでも私は生き続けていてね…。それで矢を射ってきた方を見たらそこに1人の男が弓を構えて立っていたんだ…。その男というのがねやたらと髪が長くて、髭を生やした…おそらく二十代後半から30代前半ぐらいの男でね…。そのまま私に近づいて人間の声とは思えない声でこう言ったんだ。
『モスクワノニコライ・ブハーリンヲチフリスノゴウトウダンニイレロ。』
そう言うと同時に私の目は覚めた…。その時、私は何かとてつもない恐怖を感じたんだ…。そして論理的ではないとわかっていながらもモスクワで党員に所属しているニコライ・ブハーリンを探し出し、無理やり強盗団に加えたんだ…。」
このようなことをレーニンは述べた。なお、この直後、レーニンは脳卒中で倒れることとなる。
この強盗団に参加した面子は後にボリシェヴィキの一員として活躍することとなるが…、そこにブハーリンが加わっていたことは、後に彼がレーニンに一目置かれることとなることにつながるのであった。そしてそれはのちにロシアの歴史を大きく動かすきっかけになるのであった。