逃げ上手の皇太子殿下   作:HMMLER

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1911年9月14日

 

 生まれてから7年、父上━頼重殿━と再開してから四年がたった。

 

 父上と再開して、臣下となってから私はかつての諏訪の地でされたように、父上にみっちりと教育された。

 最も教育の内容は前世とはまるで違うものだった。

その内容といったら…数学、歴史、理科、地理、神学……といったものであまりの多さと難解さで頭がパンクしそうだ。

 ついでに言えば語学と言った物も学ばされた。母語のロシア語だけでなく英語、ドイツ語、フランス語…、まぁ最もこっちはドイツ語に関しては母上がドイツ人だったことや、姉上達がフランス語を日常で使っていたこともあってそこまで苦労しなかった。

 

 そして加えて、父上は私に

 

「若様には現下の民達の暮らしぶりを是非わかっていただきたい。」

 

と言うことで、あくまで非公式かつお忍びではあるが、よく見学と言ったことに連れて行ってくれた。

 

何でも父上はそのことを提案した際、実の父親━ニコライ二世━の家臣に猛反発されたそうだが、

 

「まぁ、グレゴリーの言うことだから大丈夫じゃないか」

 

と鶴の一声で許されたそうだ。自分でも何だけど父上━ニコライ2世━…あんな怪しい身なりの父上━頼重殿━を物凄い信用しているな…。

ん?何だか父上がごっちゃになってきた。いかんいかん……。

 

そしてその見学の一環ということで、今度にはグレビッチ実科学校と言うところに連れて行ってくれるそうだ。楽しみだ。

 

 

 で、そんな私だが…。私は今、ロシア帝国支配下のキエフという都市の劇場にいる。

 何でも私の曽祖父であるアレクサンドル二世が農奴制を廃止して、今日で五十年と言うことで、その記念式典の一環として、"オペラ"と言うものを見るらしい。

 

 "オペラ"と言うのは父上…ニコライ2世曰く、何でも歌物語のようである。

 そしてそんなオペラを見るのは私以外に、私の父上━ニコライ2世━

、母上、姉上達、そしてニコライ2世の側近たちであった。

 だが、そんなメンツの中に父上…頼重殿は入っていなかった。何でも父上曰く、

 

「私は皇帝陛下の側近たちに嫌われているのでね…遠慮させていただきますよ。」

 

とのことで、今回は来ていなかった。

 

 そういえば、キエフに行く前に父上━頼重殿━がこう言っていたなぁ。

 

「ハッキリとは分かりませんが…今回の式典で、何かある気がします。それも…誰かが死ぬような…。若様に関しては大丈夫でしょうが…、気をつけてください。」

 

と、今のところ何もないが…果たして何が…。

 

 

 

 

「ねぇアリョーシャ!むつかしい顔してどうしたの?」

 

 そう言ったのはアナスタシア皇女であった。

 

「い、いやぁ。ちょっと考え事してたんだ。」

 

「宮殿から出てきてからずっとそんな顔してたよ。ねぇ、何を考えていたの?」

 

「い、いやぁ。そんな大したことじゃないよ。」

 

「えー、何よ教えてよ〜。」

 

(さて、どう答えたもんか…。)

 

アレクセイがそう考えていると、1人の男が近づいてきた。

 

「殿下…。少しよろしいですかな?」

 

そう言ったのは、ロシア帝国首相、ピョートル・ストライピンであった。

 

「あっ…首相…。すまないナーシャ、少し席を外す。」

 

「えー、アリョーシャ…。」

 

「なーに、すぐ戻ってくるさ。」

 

 

そういうと、席を立ってストルイピンと共に席から少し離れたところに歩いて行った。

 

 

 

 

 

 席から離れたところにおいて、ストライピンは開口一番にこう言った。

 

「殿下…、殿下が今"臣下"だと思っているものは所謂奸臣…つまりは殿下をたぶらかす悪い家臣でございます。私は殿下に無礼とは思いつつもこう申したい。一刻も早くあの山師を遠ざけてください。あの山師は危険です。」

 

「……………。」

 

 父上…………滅茶嫌われてない?

え、いやあんな身なりをした上、胡散臭い祈祷師となればそりゃあ奸臣にしか見えないけど!おまけになんか後光が光っててより胡散臭さが増してるけど!なーんここまで嫌われるわけ…?父上なんかしたの?

 

 

「首相殿……あなたはそう言いますけど、あの人のどこがそんなに気に食わないのです?別に悪いことなんか…。」

 

「いいえ!してます!」

 

うわっ、なんかひどく語気を荒げた。えっやっぱなんかしたの。

 

「良いですか。皇帝陛下や殿下、そして皇后陛下はあの山師を信用して、あたかも聖人であるかのように扱っていますが!あの人の本性は全く別物!あの山師の生活は淫乱で退廃を極めてとても言い尽くせるものではございません!」

 

 ええ…そこまで言うの?いや、でも父上が臣下になって以来そんな素振りを見せたことなんてなかったと思うけどなぁ。ん?でも、前にやたらと朝、疲れた様子で宮殿に来た時があったけど、その時…

 

『いやぁ、畏れ多くも私を信仰してくださる貴族の婦人方の"相談"を朝までずっとしてましたもんで…。』

 

と言ってたなぁ。あれってもしかして…

 

あんなことやこんなことをしていた。ッテコト…?!

 

「つまり…貴方はあの人を聖人ではなく性人だと言いたいのですね。」

 

「そう!ってエェ…。」

 

 ん?なんかまずいこと言ったか…?

あっやべまだ7歳なのに性人とか言っちゃった。これも父上━頼重殿━の刷り込みってことにされちゃう。やばいやばい…。

 

 

「………えーっ。つまり、そんな退廃的な人間が殿下のおそばにいるのはふさわしくない!私はそう言いたいのです!」

 

 

 んーっ、あの父上がそんなことをしていたとはな…きっとどこかの貴族の夫人でも寝取っちまってその貴族の怒りでも買ってここまで嫌われてるんだろう。こりゃ今度きっちり叱らないかんな…。まぁでも首相殿に対する答えは決まってるんですけどね。

 

「首相殿…。あなたの言いたいことはわかりましたが…。あなたが思っている以上にあの人は有能で忠義の心がある。そんな人間を今更手放す訳にはいけませんので…。あの人には私からチャーーーーーーーンっと叱っておきますのでどうぞ心配なさらずに…。」

 

 さてどう答える…?

オヤ、ため息を吐いた。あっめっちゃ失望してる顔してる…。

 

「そうですか…分かりました…。話は終わりです…。わざわざこの男の話を聞いてくれてありがとうございました…。」

 

 そう言うと、ストルイピンはトボトボと去っていったのであった。

 

(あれま…めっちゃ失望させちゃった。大丈夫かな…。まぁそんなことより席に早く戻ろう…。)

 

 

 彼が席に戻ると、アナスタシアが待ちくたびれたような顔で待っていた。

 

「あっアリョーシャ!早く早く劇が始まるよ。」

 

「大丈夫だって。劇が始まるまで5分はあるよ!」

 

「そうは言うけど…ところで首相とは何を話したの…?」

 

「まぁちょっとグリゴリーについてね…。」

 

「グリゴリー…?あの人が何かしたの?」

 

「いやまぁ、ちょっとしたことでね…。)

 

(話せるわけないんだよなぁ。こんなこと…。)

 

 

 

 その後、アナスタシアとしばらく話した後、オペラが始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後

 

 

 たった今休憩時間になった…。

うーん。よくわからん!何だか見ているうちに眠くなってきてしまったし、隣のアナスタシアなんかはもう脳死状態で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その又数十分後

 

 

 二回目の休憩…。この劇と言うかオペラ長いなぁ、何分あるんだろう。

 しばらく席でボーッとしていよう…。

 おや、あれはストルイピン首相…。他の数名の貴族と話しているな…。

父上のことについて話してるのかな…。きっと悪口だろうなぁ…。

全く父上ときたら何をしてるんだか…。

 

 

 

 ん?何だろう…そこにメガネをかけた人が近づいて行く…。あんな人いたっけなぁ…。

 

 

 

 彼がそう思うと同時にあたりに乾いた二発の音が響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、ピョートル・ストルイピンはユダヤ人のドミトリー・ポグロフに銃撃されこの4日後死去することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四日後

 

 

 

 

 

 死んだ

 

 

 

 

 

 その三文字は私の脳裏に重く錘をつけられたかのごとく、頭に響いた。

 

 

 あの日…あそこで説教を垂れられてから僅か数時間後にあそこで銃撃されるとは思いもよらなかった。

 

 

 そして、今、死んだ。

 

 

 暗殺されて死ぬ…。

 こんな死に方を見たのは…前世以来だ…。

 

 

 

 

 私は…今まで平和だと思っていたのが崩れ去る…。そんな音を耳にしたように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピョートル・ストルイピンの死…。

ロシア帝国という旧時代の遺物を何とか近代化させようとした男の死は、その後のロシア帝国の暗い運命を想起させるものとなった。

 

 

 






多分次回、あのチクタクおじさんが出ます。

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