きさらぎ駅を舞台にしたパロディの2本目です。
「原作」の終トレに比べるといまいち変さ加減が足りないような。
ーーーだだっ広い草原。
向こうを見ればあまりに遠い山々が青く霞み、なだらかに見える。
その間を風が吹き過ぎ、波のように草をなびかせ、緑色の光をきらめかせている。
草原を2つに割るように細い一本の線が地平線まで伸びている。
線路だ。
こんもりとした緑に覆われた土手に赤錆びた線路が延々と伸びている。
どこか懐かしいような、幻想的な…
そして、草原の海の中にポツンと無人駅。
線路の瘤のようなホームがひとつだけ。
片側に牧場の囲いのような木製のホーム柵。
今どきトタン屋根の駅舎。もちろん改札口などない。
………と、そこへ、線路の遥か向こうから、ポツンと何かが走ってくる。
最初は小さな影だったが、次第に黄色い姿が見えてくる。
電車だ。
2両編成の列車が、どこかのんびりと駅へ近づいている。
鉄道ファンが見れば、その車体は西武2000系と呼ばれるものだと分かるだろう。前面の車窓の上に行先を表示するプレートが『池袋』とある。
***
運転席にいるサイドポニーテールの制服姿の女の子が、ブレーキレバーを引く。
***
キ〜〜〜〜〜…と静かに停まる電車。
ドアが開いて、褐色肌で茶髪の元気そうな女の子が中からホームを見ている。ぽかん…と口を開けて。
久賀玲美「(ハッとして)……え、なに!?」
すると、隣からオカッパ頭の小柄な女の子が横をすり抜ける。
東雲晶「駅だろ(ポン、と降りる)」
今度はふくよかな女の子が後ろから来て、
星撫子「駅だねえ(降りる)」
最後に、運転席のポニテ少女が来て、
千倉静留「…今度は何が出るんだろう(降りる)」
最後にふくふくした柴犬が降りる。
ポチさん「くぅん」
ということでホームに並ぶ五人。サ〜ッ…と風が髪をなびかせる。
静留「…普通だ」
撫子「普通だね…」
晶「普通、なのか…?」
撫子「ねえこれって、武蔵横手駅に似てなくない?」
静留「あの山羊人間が出てきたやつ?」
晶「そうかも」
しかし、草むらがなびくだけで、誰かが出てきそうな気配はない。
玲美「(キョロキョロ)ゾンビは?ちっさい人は?キノコは?」
晶「マタンゴならいないぞ」
玲美「マタン…なに?」
晶「『マタンゴ』。キノコ人間。1963年。本田猪四郎監督の特撮ホラー映画。ウィリアム・ホジスンの『夜の声』原作」
玲美「またもぅ〜、晶ちゃんわかんない暗号言うし」
晶「暗号じゃない!ちょっとは知性ってのを身につけろ」
静留「晶の知性ってだいぶ斜め上みたいだけど…」
晶「(ギロッ)なんか言った?」
静留「い、いや、なんでもないですぅ(汗)」
撫子「でも…ほんとに何にもないね」
ポチさん「わぅ」
いやほんとに草っぱらだけ。
玲美「(ホームの縁に座り込む)なんだも〜、なんにもないのかよー。つまんなーーーーぃ(と足ブラブラ)」
晶「余裕だなお前」
静留「…あれ?何この看板」
撫子「西武池袋線にこんな駅あったかな…?」
晶「どうした」
静留「いや、駅名がさ…」
晶「あ?ひらがな?『ひばりヶ丘駅』じゃないの…(と、目を丸くする)」
静留「『きさらぎ』って聞いたことないけど」
撫子「あっちは『かたす』で、こっちは『やみ』。…ねえ静留ちゃん、前の駅は飯能だったよね?」
静留「確かそう」
晶「(蒼白)…ヤバい!ヤバいヤバいヤバいヤバ〜い!!(髪を掻きむしる)」
静留「どうしたのよ」
玲美「晶ちゃんがまた壊れた」
晶「人をしょっちゅう発狂するみたいに言うな!…それより、ここは超ヤバい。すぐに出発しよう!」
撫子、周囲を見回す。
撫子「別に何もないけど」
晶「そうじゃなくて、この駅自体がヤバいんだって!」
静留「落ち着きなよ。まさか駅がわたしたちを襲うわけじゃないでしょ?」
晶「知らないのか…『きさらぎ駅』の都市伝説。ここへ来た人間は、二度と戻れないかもしれないんだ」
静留・撫子・玲美「「「ええっ?」」」
ポチさん「わぅ?」
***
<ここから都市伝説シーン>
セピア色に染まった電車の車内。
窓の外は真っ暗闇。
煌々と灯る蛍光灯が白々しく座席を照らしている。
乗客は1人を除いて誰もいない。
晶『きさらぎ駅ってホントに聞いたことない?』
撫子『う〜ん…あるようなないような…』
玲美『あたし知ってる!電車に乗ったら人喰い人種に襲われるんでしょ?ホラー映画で観たもん』
晶『それは<父祖>。クライヴ・パーカーの。全然違う』
静留『じゃあどういうの?』
晶『簡単に説明するぞ。
きさらぎ駅っていうのは、ネットで流行った都市伝説。2ちゃんねるのオカルト掲示板に書き込みが
あって、夜中に電車に乗ってたら様子がおかしいって。名前は<はすみ>。葉っぱに純って書くやつ』
乗客の一人、OL風の女性客が不安そうに辺りを見回しながら、スマホに打ち込んでいる。
晶『誰もいなくなったし、いつもならとっくの昔に着いているはずの駅が来ないって』
静留『それどこの電車』
晶『遠州鉄道って本人は言ってた』
撫子『遠州…って言ったら、浜松の方じゃない?』
晶『そうだ。終点は山奥。でも、着いた駅は<きさらぎ>。だだっ広い草っ原のある無人駅だ』
玲美『それって今いるとこじゃん』
晶『だからそう言ってる』
きさらぎ駅のホームに降りる女性客。辺りは真っ暗。一つだけの電柱に明かりがポツンと点いている。
晶『そんなド田舎なのに圏外じゃないらしく、普通に電話もメールも出来たらしい。警察に電話したら「そんな駅はない」ってイタズラ電話だと思われた。誰も助けに来ないから、仕方なく線路伝いに元来た方へ歩いて行った』
ホームから降りる女性客、スマホのライトを頼りに線路の上をとぼとぼ歩いてゆく。
撫子『それ危なくない?電車を待ってた方が…』
晶『事実危なかった。後ろから声が聞こえるので振り返ると…』
「……お〜〜ぃ、…ぉお〜〜〜ぃ…」
女性客、後ろを見る。
片足だけの老人が唐突に線路の上に立っている。暗いので顔がはっきり見えないが、首がおかしな角度に曲がっている。
老人「(ユラユラしながら)線路を歩くとあぶないぞぅ…」
玲美『うひーーーーっ!』
晶『玲美が怖がってどうすんだよ』
女性客、慌てて走り出す。
走って、走って、走って…… 息が苦しくなって立ち止まり、整える。
そして、見上げると…
目の前に真っ黒なトンネルが口を開けている。
静留『そこ入った!?』
晶『しばらく躊躇していたらしい。スレッドの住人に相談したが、絶対入るなっていう意見と、そのトンネルを抜けたら帰れるって意見に割れて、迷ったみたいだ』
撫子『帰れるってなんでわかるの?』
晶『さあな。勘だろ。どんな無責任な意見を言おうが、ネット上じゃ誰も責任を取らない』
静留『で、入ったの?』
女性客、意を決して、スマホをかざしながらトンネルの闇へ…。
玲美『危ないじゃーん!』
静留『で?で?』
反対側の穴の闇から、小さな光。
次第に近づいてきて、女性客が現れる。
静留・撫子・玲美『ふぅ…』
撫子『帰れたんだよね?葉純さん…』
晶『途中経過が分からないんだが、誰かの車に乗せてもらったようだ』
乗用車の助手席にいる女性客。
運転席で男がハンドルを握っている。車内が暗いので顔ははっきりと見えない。
玲美『ヘーイ!ってサムズアップしてヒッチハイクしたんだ。ラッキー♪』
晶『ラッキーじゃない。その後彼女は失踪した』
撫子『え?』
夜道に吸い込まれてゆく車…。
遠くでどこからかお囃子が微かに聞こえている…。
晶『正確にはそこでスマホのバッテリーが切れたらしい。でも、最後に書き込みする時、隣の男が訳わからん事を喋り始めたって…』
静留『それ絶対ヤバいじゃん!』
玲美『飛び降りろぉー!』
撫子『それで…終わり?』
晶『ああ。その時はな』
静留『その時は?』
晶『7年後に帰還できたって書き込みがあったらしい。けど、本人かどうか確かめようがないし』
撫子『それがきさらぎ駅…』
晶『他にも迷い込んだっていう奴が何人かいる。一人は明らかにフェイクだが、他は分からない。そもそも書き込み自体が珍しいし、本当は何人行方不明になったのか誰にも分からない』
<シーン終了>
***
玲美「だけどお、その葉純って子の書き込みだってフェイクかもしんないじゃん」
晶「だったら良かったんだけどな。…で、今いるここが、そのきさらぎ駅ってわけだ」
玲美「(看板を振り向いてガチョーン!)そ、そうだったぁ〜〜〜!」
静留「だけどさ、あっちは置いてかれたんでしょ?あたしたち電車あるじゃん」
撫子「でも向こうは『かたす』で反対は『やみ』だよ?ちゃんと池袋線に戻れる?」
静留「う…それは」
晶「保証はないな」
撫子「だったら善治郎さんに聞いてみようよ」
静留「あ、そうだった!」
線路へ飛び降りる静留、トンカチでカカカカンと叩いてモールス信号を送るが…
静留「(線路に耳を当てて)…返事がない」
晶「音信不通?」
静留「わかんないけど、ウンともスンとも言わない」
撫子「じゃあ…この線路、池袋線に繋がってないのかも」
静留「それでどうやってここへ来た?途中でポイントなかったよね?」
晶「ううん…時空を歪ませて来たとしか言いようがないな。葉純の場合だって遠州鉄道っていう現実の線路から迷い込んだわけだし」
撫子「それって戻れる?」
晶「わからない。そもそも脈絡がないのが都市伝説だし」
静留「孤立無援、ってわけか…」
撫子「どうやって戻るかだね」
玲美「う〜ん…玲美ちゃんの超推理では、そのトンネルってのを見つけてくぐるしかない!」
晶「不安しかないんだが…」
静留「ここでジッとしてても始まんない。どっちかへ行ってみよう。違ってたら、ここへ戻ればいいし」
撫子「そうだね。今は昼間だから危険が少ないかも」
玲美「そうと決まったら出発シンコー!」
撫子「今度は私が運転する」
晶「知らないぞ…どっちへ行くつもりだ?」
玲美「え〜っとね…」
玲美、その辺に落ちてる枝を拾い、放り投げる。クルクルと回る枝、カランとホームに落ちて、先っぽで示す。
玲美「『やみ』だ!」
静留「えらくアバウトな…」
玲美「ヨージンボーっていう映画でやってた」
晶「黒澤明か?玲美にしちゃ珍しいな」
玲美「なんだよう。玲美ちゃんだって時代劇観るんだぞう。エーイ、トァー、ズバッ、ドシュツ!」
静留「だいたい内容はわかった」
撫子、運転席でマスコンを動かす。
プァン…とゆっくりと走り出す電車。
静留「撫子ちゃん、何出るかわかんないから、ゆっくりね」
撫子「わかってる」
運転席から見る線路は、ずっと草原の奥に続いている。
ゴトン、ゴトン、ゴトン…
一見するとの〜んびりした光景だが…
撫子「…あった!」
前方から山が迫り、その下に真っ黒な穴。
撫子「(後ろを振り向いて)トンネルあったよ!」
玲美「マジ!?」
静留たち、運転席へ押しかける。
トンネルは少しずつ近づいてくる。
静留「さっきはなんにも無かったのに…」
玲美「都市伝説ヤバ過ぎ…!」
撫子「どうする?抜ける?」
と、ポチさんがふいに後ろを振り返り、ウゥーと唸る。
晶「…ポチさん?」
「…おぉ〜〜ぃ、おぉ〜〜〜い…」
晶「あ?」
振り向いた晶、後ろの車両に片足しかない不気味な老人が立っているのに気づく。首が傾いてほとんどもげそう。
老人「そっちへ行っちゃ危ねぇぞぅ〜〜〜」
晶「うぎゃーーーっ!でっ出た〜〜〜っ!!」
静留「ちょっと!人んちの電車に勝手に乗り込まないで!」
晶「いや、それより走行中の電車にどうやって乗ったのか気になるんだが⋯」
老人「あぁ〜〜〜ぶねぇぇ〜〜〜ぞぉぉぉ〜〜〜〜ぅぅぅ…」
ピョン、ピョン、とこちらへ迫ってくる。
静留「くっ…(身構える)。それ以上近づくと怪我するよッ」
老人「そそそっちはぁぁぁ〜〜〜〜…(歯のない口を開けて笑う)」
静留「てえっ!」
ーーーーブニッ。
ゴムみたいに凹む謎の老人。
前蹴りを戻すと、ボヨヨンと元に戻る。
静留「うえぇっ、気色悪っ!」
晶「こいつゴムゴムか!?」
玲美「ゾンビじゃないの!?」
ニタニタ笑いながらなおも近づく老人。
静留「このおっ!」
拳と蹴りを叩き込むが、ことごとくスカる。体がブニョブニョと歪むだけでダメージを与えられない。そして静留の手首を掴む。
老人「村においでぇ〜〜〜」
静留「(蒼白)うぎゃーーーっ!冷たーーーい!!」
玲美「静留ちゃん、どいて!」
後ろから突っ込んでくる玲美、握っていたゴーヤを思い切り老人の口に叩き込む!
老人「おごごごごごごぉ!!!!(のたうち回る)」
玲美「どうだっ!美味いだろっ!?」
晶「ゴーヤ恐るべし…!」
晶、とっさにドアの開閉装置の蓋を開けて、レバーを動かす。そして走行中の電車のドアを開ける。ドッと風が吹き込んでくる。
晶「静留ちゃん!」
静留「おうよっ!吾野流柔術『桜吹雪』っ!!」
ドコドコドコッ!!格闘ゲームのように五月雨式に蹴りを放ち、謎の老人を電車から放り出す。
老人「うにょにょにょぉにょ………!」
線路の上で不定形にグニョグニョ転がりながら消えてゆく。
玲美「いやったー!カッコいい!」
静留「はぁ…はぁ…なんなのよ」
撫子「ーーーートンネル入るよっ」
ゴーーーー… 耳鳴りとともに窓の外が真っ暗になる。
車内灯の青白い光の中、静留・玲美・晶・ポチさんが不安そうに寄り添う。
延々と続くトンネルの闇。
晶「まさかこのまま…?」
撫子「出口!」
みんなが運転席へ駆けつけると、真っ暗闇の向こうに、やや明るい闇がある。
玲美「出られる?」
撫子「もうすぐ」
***
ついにトンネルを抜ける。…が、その向こうは一転して真夜中。
相変わらず線路の両側は草っぱらで、空に天の川が横たわっている。
そして、電車のライトの先で唐突に踏切。
玲美「線路が消えてる!?」
静留「ブレーキ!!」
撫子、力いっぱいブレーキを掛ける。
キィィ〜〜〜〜〜…とかろうじて停車する電車。
そこには、普通とは逆に踏切が線路を遮り、道路を横断させている。そしてその向こうに途切れた線路の続きが延びている。
玲美「なにこれぇ!?走れないじゃん」
晶「どうしても通さないつもりか…」
すると、横断している道路の向こうにヘッドライトの光。だんだん近づいてくる。
その車は黒塗りのバンで、ちょうど踏切のところで停車する。
運転席のドアが開き、男が一人降りてくる。
男「あれ、こんな所に電車…? おーい、きみたち。そこで何やってるの?」
ごく普通の外見にごく普通の態度の男に、顔を見合わせる静留たち。
静留「…普通っぽいけど」
玲美「ねえ晶ちゃん、あの人がおかしくなるわけ?」
晶「う。いや…都市伝説では」
男「きみたち、どこから来たの?乗せてってやろうか?」
撫子「(運転席の窓から)あ、はい、ちょっと待っててください。…どうする?」
静留「とりあえず、ここがどこか聞きたいけど」
玲美「あたしも」
撫子「晶ちゃん、あの車に乗ると危ないの?」
晶「確信はないが…」
玲美「んじゃ、行こっか」
晶「あ、おい」
電車のドアから飛び降りて車へ向かう。
話し合う一同。
男「…ああ、そうなんだ。大変だねえ。そういうことは交番に聞いた方がいいな。私じゃ分からないし」
撫子「交番はどこに行けばありますか」
今いる場所は見渡す限りの草原と田舎道。人家の明かりなど一つも見えない。
男「ここは辺鄙だからねえ。相当遠いよ。送っていくから乗りなさい」
玲美「おじゃましまーっす♪(乗り込む)」
晶「玲美ちゃん!…ったく調子良い(乗り込む)」
撫子「今はお誘いに乗るしか…」
静留「だね」
全員が乗り込み、バンが発進する。
4人掛けの後部座席に向かい合わせで座っている静留たち。足元の間にポチさんがうずくまる。
静留、男に声を掛ける。
静留「あの…」
男「ん?なんだい」
静留「さっきの線路、なんでああいうふうになってるんですか?」
男「線路?…ああ、あれね。あれなんだろうね。オジさんも初めて見るよ」
晶「何の用で走ってたんですか」
男「え?」
晶「こんな真夜中に車なんて普通ないですよね」
撫子「晶ちゃん」
晶「仕事の帰りですか」
男「仕事…まあ、そんなものだね」
晶「何の仕事ですか」
撫子「失礼だよ、晶ちゃん」
玲美「そうだよ。なに疑ってんの」
静留「あたしたちの電車が停まったタイミングに合わせるように来て、都合よく6人乗りの車って…都合良すぎますよね?」
玲美「静留ちゃんまで」
静留「あんな踏切すぐ気づきますよね。なんで線路が切れてるんですか。あたしたちを停めるみたいに」
男「ははは、困ったなあ。そんな事言われても…」
晶「女子高生が真夜中にうろつていたら疑うんじゃないんですか?全然疑いませんよね?仕事、なんですか?」
男「オジさんの仕事はね、人を拾う仕事なんだ」
撫子「え?」
玲美「タクシーの運転手?」
男「いや、駅に着いた人を迎えるのが仕事で」
しん…と車内が静まり返る。
静留「…『迎える』?」
男「この辺は迷子になる人が多いからねえ。誰かが迎えに行かないと怒られちゃうからなあ」
玲美「怒るって誰?」
男「もうすぐお囃子だから巫女さんが必要なんだよなあ」
撫子「巫女さん…?」
男「お清めに間に合わないと漂白されちゃうからさ」
玲美「こいつナニ言ってんの?」
撫子「あのっ。交番ってもうすぐですか?降ろしてもらえるんですよね?」
男「ん?ああ、交番は去年逃げちゃってねえ。今みんなで探してるんだ。なにしろあのお巡りは…おっと、それは内緒だ」
晶「(ハッと)………聴こえる」
静留「?」
気がつくと、車内にお囃子の拍子が微かに聞こえてくる。そしてリーン…リーン…と鈴の音。
車のライトは舗装されていない凸凹の上り道をドンドン進んでゆく。周りは真っ暗闇。ただ星空だけが煌々と輝いている。
玲美「ちょっとオッサン!どこ連れてく気?」
晶「山だ…!」
静留「山?」
ライトの明かりの向こう、黒々とした壁のような山の稜線がだんだん夜空に浮かび上がってくる。
静留「山奥へ引きずりこもうって!?」
撫子「な、なにがあるの!?」
玲美「止めろ〜〜〜!」
後ろからガッ!と男の頭を両手で抱える玲美。と、その男の頭がポキリと折れる。
玲美「うぎゃっ!?」
ブランブランしている男の首、ポトンと足の間へ落ちる。
男の首「しおはやしおはやしおはやしおはや…」
その間にも残りの部分が運転を続けている。
晶「ロボットみたいだ」
玲美「あたし殺してないよね!?殺人罪で死刑にならないよねッ!?」
撫子「殺したというか、もげたというか…」
晶「そもそも人じゃないだろこれ」
静留「とにかく停めなきゃ」
静留、席の間から無理やり前へ出て、男の遺体?に掴みかかる。
静留「こんのっ…!放せぇ!」
ハンドルを巡って格闘する静留と男の両腕。バンがフラフラと左右に揺れる。ガードレールのない山道を危なっかしく走り抜けてゆく。
車の中で転げ回る玲美たち。
玲美「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
晶「静留ちゃん、がんばれ!」
撫子「なんでもいいから停めてぇ〜〜〜!」
と、ポチさんがにわかに立ち上がり、
ポチさん「ウワンッ!!(男の右腕に噛みつく)」
静留「ポチさんナイス!(左腕を渾身の力で引っ張る)」
ついに二人の力に負けて男の手がハンドルを放す。
静留、男の体を押しのけ、首を蹴飛ばしてブレーキを踏む。
キキィーーーーー!!
急制動を掛けられたバン、スリップしてグルグル回り、
静留・撫子・玲美・晶・ポチさん「「「「「わわわわわわ」」」」
ようやく停まる。
玲美「ふぅ〜〜〜…とりあえず落ちなかった」
静留「ったく、どこ連れてくんのよ…(文句言いながら助手席のドアを開ける)」
バンから降りる五人。
例のお囃子の音色がいっそうはっきり聞こえてくる。
そこは山の中腹にある森の中の空き地。駐車場になっているのか、他にも車が何台か置いてある。
空き地の端に細道の入り口。
静留たち、細道を下りてゆく。
下りるにつれお囃子がだんだん大きくなる。
晶「…葉純もここに連れて来られたのか…?」
先頭のポチさんが細道を外れ、脇の草むらを掻き分けてゆく。後に続く静留たち。
草の間からこっそり向こうを眺めると…
そこは広場になっている。
櫓がその中央にある。
提灯が四方に張られた綱にぶら下がり、列を作って灯っている。
櫓の上には太鼓を叩く人と笛を吹く人たちがいる。
それをぐるりと輪になって囲む人々。白い浴衣を着て、回りながら踊っている。盆踊りに似ているが、どこか緩慢で不気味な動作…。生気というものがない。
撫子「…盆踊り?」
玲美「え〜…陰気くさい」
静留「なんでこんな山奥で…」
<ォオオオォォォ〜〜〜ィィイイイイイィィ…>
晶「うえっ!?」
頭上からおどろおどろしい声が響いてくる。木霊(こだま)のような妙な声だ。それが十重二十重になって辺りを包む。
ーーーーザッッッッ!!!
いきなり踊っていた人たちが停まり、いっせいにこちらを向く。その顔には狐の面が被さっている。多数の狐面がジッ…と静留たちを見つめている。
撫子「ひっ」
静留「これヤバそう…!」
ピィ〜〜〜ヒョロヒョロヒョロロロロロッッッッ!!!
突然櫓のお囃子が音量を爆上げし、耳をつんざく。と、静留たちの体が勝手に踊り出し、ヨロヨロと広場の方へ歩いてゆく。
静留「なに?なに!?」
玲美「体が言うこときかない〜!」
撫子「まさかわたしたち生け贄に…」
晶「くっそ、操り人形かよ!」
広場の真ん中へ引きずられてゆく静留たち、狐面の人たちに囲まれる。言葉を発せず、ジッと静留たちを見ている。
先頭の狐面がポツリと言う。
狐面A「…お供えじゃ」
それを真似るように「お供えじゃ」「お供えじゃ」「供えじゃ」「えじゃ」…と狐面が皆つぶやき、ハモる。
玲美「あたしたち、食べても美味くないからッ」
狐面の群の後ろから、お面を持った者が五人現れる。そっくり同じ狐のお面だ。その五人、静留たちへお面をかざし、被せようとする。
頭上では狂ったようにデタラメなお囃子が演奏されている。
晶「やめろー!お前らの仲間になんかなるか!」
静留「くっ…体が動けば!」
玲美「こらーっ!そんなもん被せたらぶっ飛ばすからね!!」
と言いながら身動きが取れない玲美。
迫ってくるお面。
玲美「ううう…!」
ポチさん「ーーーわうっ!」
その時、狐面たちの足元をすり抜けてポチさんが駆けつけ、いきなり玲美の足首をガブリ!と噛む。
玲美「ッてーーーーーっ!!(飛び上がる)」
呪縛が解けた玲美、お面を被せようとした者の腹を蹴る。
玲美「なにすんじゃわれ!」
狐面B「ぐふっ」
ポチさん、次々にみんなの足首を噛む。
静留「ぎっ」
撫子「うひっ」
晶「あいっ」
静留「(すかさず手近にいる者を投げ飛ばす)トリャーーーッ!ポチさん、ナイス!」
玲美「んもぉ〜〜〜あったまきた!」
暴走モードになった玲美、櫓の柱をスルスルと猿のように登り、
玲美「どけぇーーーーッ(蹴飛ばす)」
狐面C「ひえっ」
玲美「太鼓ゲームならあたしの方が上だし!」
晶「(下から見上げて)本物じゃなくてゲームかよ!?」
玲美「あたしの太鼓を聴けぇええええ」
ーーーードンドンドン♪カラッラララ!ドドンガドン♪
軽快だが滅茶苦茶なリズムで叩き出す玲美。
晶「あいつ絶対点数低いな…!」
狐面たち「「「おおおおお、ぅおおおおお」」」
玲美の太鼓を聴いてのたうちまわる狐面たち。
静留も櫓へ登り、笛を奪って吹き出す。
静留「え〜と、これ…こう?ーーーーンピィィイイイイイイィィィィィ♪♪♪」
狐面たち「「「ぅぎゃぁああああああああ」」」
玲美の太鼓と静留の笛で阿鼻叫喚となる広場。特殊な楽器なのか、大音量で歪んだ音色が響き渡る。
撫子「(耳を塞いで)なぁああにぃぃぃこのおとぉぉおおお」
晶「(同じく)人間にもダメージ入るんだがぁあああ!?」
ポチさん「(同じく)わぅ〜〜〜〜!」
…と、夜空の彼方から黒い気配が近づいてくる。
<…ンンンン…ングググググ…!!>
ドドド…!上を見ると、巨大な顔が降りてくる!
撫子「な…なにあれ」
晶「こいつが黒幕か!?」
<オマンラ…許サンゼヨォオオオオ>
静留「玲美ちゃん!」
玲美「合点っ」
静留と玲美、太鼓を二人で持ち上げる。そして口を開けて迫ってくる顔目掛けて太鼓を投げつける。
静留・玲美「「これでも喰らえぇえええええええ」」
<ーーーオゴッ!!!???>
太鼓を口へ放り込まれた巨大な顔、文字通り面食らって百面相になる。だんだん形が崩れ、人間のものとも思えぬ異形へ変化し、風船のように膨れ上がってついに破裂する。
ドォオオオオン!!!ーーーーーーーーー
強烈な風が吹き、無数の狐のお面が風に舞う。櫓が倒れ、静留と玲美がかろうじて地面に飛び降りる。
いつの間にか人がいなくなっている。
玲美「逃げろ逃げろ逃げろ」
一斉に広場から逃げ出す五人。細道を駆け上がると空き地に出、バンへ戻り、男の遺体?を引きずり下ろし、首を蹴飛ばして飛び乗る。
撫子「静留ちゃん、運転できる!?」
静留「やったことないけど、たぶん出来る!(キーを回してエンジン始動)…行くよ!」
跳ねるようにバックするバン、後ろの車をぶっ飛ばす。
玲美「踏むとこ違ぁ〜う!」
晶「アクセルは右!」
ガーッと来た道を転がる勢いで走り出すバン。ライトの中で曲がりくねる山道が踊っている。
静留「ブレーキってどこ!?」
晶「左だ左」
玲美「さっきはマグレって話!?」
ポチさん「わわわぅ」
撫子「静留ちゃん、もっとゆっくり」
静留「集中する!話掛けない!」
…と、後ろの闇からポツン、ポツンと光が現れる。
形からするとヘッドライトのようだ。
それが数台分接近してくる。
晶「…追ってきたぁ!」
静留、チラッとバックミラーで後ろを確認し、アクセルを踏み込む。
ーーーーギャギャギャギャ!
砂利を飛ばしながら加速するバン。ライトの先はガードレールのない曲がりくねった坂道。
それを追うヘッドライトたち、幽鬼のように左右へ揺れながら迫ってくる。
撫子「振り切れない!」
玲美「しつっこい!」
静留「舐めんな!こちとら峠を制覇したんだッ(さらにアクセルを踏む)」
晶「今日が初めてだろぉぉぉ〜〜〜!」
尻を振りながら奇跡的に走り抜けるバン。まるでジェットコースター。
荒波に揺れるような車内。
玲美「いっけぇ〜〜〜!(平気)」
晶「…酔いそう」
撫子「お願いだから落ちないでぇ〜!」
ポチさん「ぁう〜〜〜〜」
静留「ああもう、うるっさい!」
ドスン、ガシャン、と崖にぶつかりながらバンが走る。
後ろのヘッドライトたち、静留のデタラメな運転ぶりについて行けず、道から外れて下へ落ち、スッと消えてゆく。
玲美「よっしゃぁぁぁ!静留ちゃんの勝ちぃぃ」
***
例の踏切の前でポツンと停まっている電車。
…と、横切る道の遥か向こうからポツンと小さな光の点。
少しずつ近づいてくる光、ヘッドライトになって、しまいには急激に接近する。
キキキィィィーーーーーーーッ!!!!
土煙を上げてバンが停まる。
静留「あ〜〜〜、やっと着いたぁ…」
晶「…今度から静留ちゃん以外が運転な」
撫子「無事に戻ったら免許取ろう…」
ポチさん「わぅ…」
玲美「あっはっは!おっもしろかったぁ〜〜〜〜」
晶「おまえ人間じゃないだろ…」
バンから電車へ乗り移る五人。
静留、運転席に着く。
電車のライトの前に踏切のバーが立ち塞がっている。
玲美「今さらだけどさ、電線なくても走るんだよね、この電車」
晶「ほんっと今さらだな…」
撫子「静留ちゃん、戻る?」
静留「………(ジッと途切れた線路を見つめる)」
晶「それしかないだろ」
玲美「ああ〜振り出しかよぅ」
静留「…進む。」
撫子「は?」
玲美「へ?」
撫子「え?」
静留、レバーを操作して電車をゆっくり後退させる。
撫子「戻るん…だよね?」
静留「いや。このまま突き進む」
玲美「ええっ」
100メートルほど後退し、一旦停車した電車、今度は前方へ動き出す。
晶「脱線する気か!?」
撫子「静留ちゃん!」
静留「(ガッと目一杯レバーを動かす)たった5メートル!いける!」
急加速する電車。みるみるうちに途切れた線路へ迫る。
静留「なんか掴まって!」
ガガガガガガッッッッッッッ!!!!ーーーーー
撫子・晶・玲美・ポチさん「「「「あばばばばばばば」」」」
一気に突入した電車、線路から飛び出すと一瞬フワッ…とわずかに浮かぶ。それからドスン、ガチャンッ!と奇跡的に線路を噛む。そのまま高速で突っ走ってゆく。
撫子「……抜っ…」
玲美「抜けたぁ…!」
晶「はぁ〜〜〜…」
静留「…あ」
トンネルが現れ、吸い込まれてゆく。短い走行の後、唐突に真昼の空へ突き抜ける。
そこは見慣れた…というか、異界化した池袋線の世界。
静留「ふぅ……やっと戻った」
撫子「そうだね」
晶「戻ったってどこから?」
静留・撫子「「え?」」
顔を見合わせる静留と撫子。
撫子「…どこだっけ」
静留「覚えてない…」
玲美「んん〜〜〜なんか変な所に行ったんだよなぁ〜〜」
晶「変って、ここも変だろ。…あれ?」
ふと自分の手を見つめる晶。なぜか狐のお面を持っている。
晶「んん…?」
どこか笑っているようなお面。
晶「気持ち悪い」
窓を開け、外に捨てる。
晶「(風になぶられながら)まだかなあ、池袋…」
玲美「葉香ちゃん無事かねえ」
撫子「きっと会えるよ」
運転席の静留、隣にいるポチさんの頭を撫でる。それからふと真顔になり、
静留「『かたす』…『やみ』…ってなんだっけ?」
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そんなみんなを乗せて走り去ってゆく電車………
<おしまい>