伝説の老騎士、アイドルVtuberになる。   作:東出八附子

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84話 アイドル・エクス・マキナ

 

―― ルルーファ・ルーファ ――

 

「あいたたた……ちと、やりすぎたな」

 

 光鎧装(ルクサル)を解除し、突入地点から脱出した俺は、のんびりと準備体操に勤しんでいた。負傷者の救助や状況把握、消火活動でお相手さんもてんやわんやだ。目標の滑走路はほぼ全損。地面は深くえぐれ、離着陸どころか歩行すら困難であろう。ついでに、滑走路に出ていた妙な形の戦闘機も破壊できた。戦果は上々だ。

 光鎧装(ルクサル)による癒術(クラーティオ)の障壁を展開して空気抵抗を除去しつつ肉体を継続して回復し、最大速で目標へ()()()()を喰らわせる。特撮で見る必殺キックの超強力版といったところだ。シンプルながらも効果は抜群だ。

 問題点があるとすれば、体への負担がデカすぎるって点かな。癒術(クラーティオ)で治しながらの突撃だから良いものの、コイツが無ければ肉体がミンチになっていたところだ。それと攻撃時の余波が大きすぎる。直撃した場所以外も被害が大きそうだ。使う機会があるか知らんが、次の機会はもっと威力を絞らねば。

 

『――せよ。老兵(ロートル)1応答せよ』

 

 おお、突入の衝撃で音信不通だったインカムが復活したか。しかし、リンの声は透き通っていて管制映えするなあ。

 

「こちらロートル1。健在である」

『ご無事でしたか! 状況は?』

「当初の作戦通り、滑走路の粉砕に成功。これより殲滅を開始する」

『承知しました。お気をつけください。好戦的な(クォン)の幹部が接触してくる頃合いです』

「いよいよか」

『特に(チェート)にはご注意を。相手と闘う事しか頭がない戦闘狂です。6本の機械腕と2本の剛腕を巧みに使い――』

「そいつはやっつけちまった」

『……やっつけちまいましたか』

「こちらの回復中に問答無用で仕掛けられたもんだから上手いこと手加減が効かなくてな。風剣(ヴェート)で腕を全部ぶった斬って、本物の腕を癒術(クラーティオ)でくっつけて、頭を撫でて叱ってやったら大人しくなったぞ」

『対人では部隊最強クラスの実力者なのですが……いえ、ロートル1の前では皆が赤子なのですね! 理解しました!』

「なんかすまんのう」

 

 殺意を感じたので、咄嗟に不壊剣(ラグニス)を出現させ、目の前に盾として設置した。直後に大量の銃弾が夕立のごとく殺到する。防ぐのは光鎧装(ルクサル)でも構わないが、数秒とはいえ装着に時間がかかってしまうのが悪い点だ。

 

「まずは地上と海上の設備と兵器を沈黙させる。その後はシャワー室まで誘導してくれ」

『シャワー室?』

「俺の技で巻き上げた土砂を被っちまってな。美人が形無しだ。とてもじゃないが、これから要人へ会いに行く格好じゃなくなっちまった」

『それは大変です。士官用の綺麗なシャワールームを知っていますから、そちらへ案内します。服も汚れているでしょうし、ついでに女性用の衣服もかっぱらってしまいましょうか!』

「火事場泥棒みたいで気が引けるな」

『正義のためなら問題なし! 勧善懲悪です!』

「善の所属なら何をやっても良いという意味じゃないからね、リン?」

 

 発砲音が途切れるのを待ってから、俺は不壊剣(ラグニス)の柄を踏み台にして高くジャンプした。その勢いで敵陣の最中に着地し、炎剣(フラマー)風剣(ヴェート)の二刀流で敵の()()()()を撫で斬りにしていく。さてと。炎剣と風剣だけでどこまでいけるかなっと。

 

 

 

―― 『(クォン)』エージェント 大師(マスター)(ウー)』 ――

 

 いま目の前で繰り広げられている惨事があまりにも非現実すぎた。飛び交う怒声。鳴り止まぬ警報。祖国は一瞬で阿鼻叫喚の戦場へと生まれ変わっていた。

 

[火炎竜巻、依然弱まらず! 航空機、全機が全壊! 消火システム作動せず! ジェット燃料に引火する! 速やかに退避されたし!]

[対空装備全損! 復旧見込み、ありません!]

[装甲車部隊全滅! 部隊の人的被害無し! 目標は依然健在!? 俺は何を言っているんだ!?]

[海上支援は!? ヘリも飛ばせないだと!? いつの間に侵略されたんだ!]

[エージェント『(シェン)』、『(チュウ)』、依然生命活動(バイタル)停止――いえ、再動した!? 安定領域まで回復!?]

「『(ワン)』はどうした!」

(ワン)は消息不明! GPS探知できません! バイタルサインより位置情報特定中!]

「不死身の(ワン)だぞ!? 傷を瞬時に治癒する治癒能力(ヒーリングファクター)と、人類の領域を超越した身体能力(フィジカル)を持っている! 奴は人類最強だ! 少なくとも負けは無いはずだぞ!?」

[駄目です! 報告が間に合いません! 目標の侵攻が早すぎる!]

 

 聞いたこともない報告ばかりが飛び交い、報告している本人たちが混乱の極みの最中に晒されていた。そして驚愕すべきは、この被害状況を生み出した張本人は、まだたったひとりの人間も殺していない。つまり、余力を残してこの戦果なのである。

 ここまでとは。ここまでの戦力差があろうとは。人類の範疇を大きく逸脱しているではないか。

 

[!? 地上の通信室より司令部へ入電!]

「繋げ!」

 

 モニターに通信室の室内が映し出された。応答の相手は――。

 

『やあ、待たせたかな。YaーTaプロダクション所属、1期生のアイドルVtuber、ルルーナ・フォーチュン――もといロートル1だ』

「ルルーファ・ルーファ!」

 

 やはりというべきか、我らの目標であった。司令室の一同が息を呑む。画面いっぱいに彼女の美貌が映り込んだから感嘆したのではない。地上が再起不能になるまで暴れまわり、大きく消耗しているはずなのだが、当の彼女は缶コーヒーを片手に息ひとつ乱していない様子。驚きを隠せないのは当然だ。

 

「要件は何だ」

『要求じゃなくて、ただの連絡だよ。地上もあらかた片付いたし、もう少ししたら君たちが潜んでいる地下へ侵攻しようと思うてな。今は小休憩といったところだ』

「!?」

 

 またもや室内がざわついた。『(クォン)』の幹部たちは既に『(ウー)』を除いた全員がルルーファ・ルーファの元へ向かっている。

 つまり。

 

「馬鹿な!? 我らが誇る『(クォン)』の幹部を軒並み退けただと!?」

『おそらくそうなる。正直、大体の者が一撃だったもんだから、誰が幹部で誰が一般兵なのか、あまり見分けが付かなかったがな。

 こいつは忠告なんだが、兵士幹部問わず、もう少し訓練したほうがいいぞ。はっきり言って練兵不足だ。『(クォン)』とやらの武力と諜報力に頼りきっている印象だったよ。不壊剣(ラグニス)の出番すらほぼ皆無だ』

 

 幹部は人知を超えた力を保有しているからこそ幹部なのだ。一人ひとりが一個中隊以上の力を有しているんだぞ!?

 

(ワン)はどうした! どこへやったのだ! 貴様と同じく治癒能力を持つ男だ!」

『おお、彼は覚えておるぞ。今頃は太平洋を泳いどる』

「……何だって?」

『島の東へ()()()()()のだ。並の攻撃では効果がなくて割としぶとかったものだから、面倒になって戦線離脱させておいた。後で救援を寄越してやるから、サメに食われないよう祈ってやってくれ』

「なんてこった……!」

『……まさかとは思うが、彼はカナヅチではないよな? こんなしょうもないことで不殺を破りたくはないぞ』

「遊び感覚で戦う貴様の知ったことではない! 人の生命を玩具にするな!」

『君らが他人の生命の尊さを語る資格は無いと思うがね。それに人間の生命は尊重するべきだと考えとるよ。奪う必要が無いなら丁重に扱う。ゆえの不殺だ』

 

 通信室から島の東端までの距離は……考えたくもない。未来永劫、誰にも破られることのない人間投擲の世界記録であることは間違いない。

 

『聞きたいことは以上かな? もう少し休んだら地下への侵攻を開始する。万全の迎撃準備を期待する。以上。ロートル1、アウト』

 

 ぶつりと音を立てて映像と音声が打ち切られる。世界各国の軍すらも恐れる俺たちを、レジャーランドのアクティビティ感覚で蹂躙か。

 

「化け物め! 隔壁を下ろせ! 司令室からデッキへ繋がる通路以外、全部だ! 中に兵が居ても構わん! 全て封鎖しろ!」

 

 司令がコンソールを叩きながら激昂した。司令の号令と共に、基地内に設置されている非常用の隔壁が降ろされていく。ミサイル弾の直撃にも耐える代物が何重にも設置されれば、流石の彼女もすぐには突破できまい。

 とはいえ、おそらく時間の問題だろう……もはやなりふり構ってはいられまい。

 

「司令。()()()()の状況は」

「まだ連絡が来ていない。このままでは突破されるまでに間に合うかどうか……」

「残存兵士を可能な限りルルーファの元へ送りましょう。時間が稼げるなら子ども達も使っていただいて構いません。下手な兵よりは時間を稼げるかもしれない」

「……君は彼女たちに好かれているようで好かれていなかった。その理由がよく分かるな」

「感情なんて任務の障害でしかないんですよ」

『『(ウー)』! 大師(マスター)(ウー)』はいるか!』

「総帥閣下!」

 

 突如音声とともにモニターに総帥閣下が映し出された。条件反射で一同が敬礼してしまう。

 

『敬礼などしている場合か! この状況下で!』

「今どちらにおられるのですか!?」

『わざわざデッキまで出向いて、兵たちと一緒に貴様の()()()を用意していたのだ、無能なウスノロ共め! 司令部はさっさと(ウー)()()()()を渡さんか!』

 

 司令は俺に一枚のカードを手渡した。これで俺は戦える。俺が使う()()は人間が対象ではないが、彼女はもはや人間の範疇に入れてはならないだろう。

 

「全ての武装の使用を許可する」

「エージェント『(ウー)』、必ず敵に一矢報いると約束します」

『デッキへ誘導しろ! 狭い空間なら、あの出鱈目な突撃も使われないはずだ!』

「承知しました、総帥閣下!」

[目標、基地内に侵入! 地下一階を侵攻中!]

[隔壁駄目です! ほぼ機能しておりません! なます斬りです!]

「総員、白兵戦用意! 自決は不要だ! 奴への抵抗にはならん!

 行け、『(ウー)』! 奴に目にものを見せてやれ!」

 

 俺は司令に敬礼すると、部屋を飛び出し、総帥が待つデッキへと全速力で駆け出した。

 

 

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