伝説の老騎士、アイドルVtuberになる。   作:東出八附子

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15話 これだから陽キャ共は

 

―― 六条安未果 ――

 

「いいですか? 私はとても怒ってます」

 

 私はびくりと震えた。紅焔アグニスの演者である佐藤のり子さんは怒り心頭で仁王立ちしている。

 

「特殊な状況だったってのは分かるよ。ちょっとアドレナリンがドバーっと出ちゃってやらかしちゃったんだよね。気持ちは分かります」

「お嬢……もうその辺にしておいてくれ」

「黙らっしゃい。自分がやらかした罪の重さを分かってないでしょ。いいから正座しろ」

 

 佐藤さん、怖い。顔もまあ……怖いけれども、それよりも口調がヤンキーみたいでめっちゃ怖い。凄みのある声だ。

 声かけたくないなー……でも流石に()()()()()だよね。

 

「あ……あのー」

「あ゛?」

「ひぃっ!? ごめんなさい! ごめんなさい!」

「あれ……わああ、こっちこそ驚かせてごめんなさい! こらルル! まだ説教終わってないよ! 正座しとけっつってんだろうがっ!」

 

 佐藤のり子さんは怒っていた。

 私にメイド服を着せて事務所まで歩かせたルルちゃんに対して。

 

 

 

 私がメイド服から普段着へ着替え終わったので説教の舞台が事務室から控室へ移った。それでも佐藤さんは止まらない。

 

「六条さん可愛いから、可愛い服を着せたくなる気持ちは分かるよ。事実、可愛かった。写真を撮らせてほしかったくらいには可愛かった。トランジスタグラマー最高。ナイスコーデ、ルル。

 でも本人が乗り気じゃないのに無理矢理着せたらダメでしょうが! 六条さん涙目になってたよ!」

「嫌とは言われてなかったし……」

「ノーと言うのに勇気が必要な人種なんです、日本人ってのは! はーやだやだ。これだから美人は一般女性の気持ちを理解できないんだから」

「姫はカワイコちゃんだろ?」

「実際可愛かったとしても、本人が自覚して受け入れてなかったら、それは一般フツ面女性なんです。Vtuberの中身がおじさんや私みたいな女ばかりだと思うなよ。実際は美人でも顔出しできずにVtuberやってる人だって山のようにいるんです! ルル然り! 社長然り!」

 

 止めて。本人の前で美人談義しないで。嬉しいけど、顔面溶けそうなほど恥ずかしい。

 でも悪いことばかりじゃなかったけどね。道中でナンパされちゃったし。ルルちゃん目当てだったろうし、ちょっと怖かったけど、嬉しい気持ちもあったりする。

 

「俺も人付き合いが浅い方では無いし、女の気持ちも理解しているつもりだが……いやはや、まだまだ知らない世界があるな」

「たった3ヶ月だけ女を経験したからって、女を知った気にならないでくれますかルルさんや」

「え? さささ、3ヶ月!? 女になって3ヶ月!?」

「やべ」

 

 のり子さんは自分の口を塞いだ。もう遅いけど……どういうこと? 性転換手術?

 

「ごめんルル」

「別に隠す気は無いから構わんぞ。寧ろ共有したほうが話しやすいまである」

「サンキュ。ルルは3ヶ月前から記憶喪失なの」

「はい!?」

「姫が想像しているような面白いものじゃないよ。3ヶ月より前の記憶をぜんぶ忘れた訳じゃない。残っている記憶の中身が曖昧で、いつ体験したのか思い出せないだけだ。ついでに3ヶ月より前は男としての記憶でな。医者には記憶障害と人格障害、性同一性障害の併発で片付けられた」

「そんなことあるんですか……」

「障害と言っても、医者としてはあくまで俺の現状に説明をつけたかっただけだよ。そういうキャラだと思ってくれ。だから同情はまったくいらないぞ。それどころか見るもの触れるもの聞くものが新鮮なものばかりで2度目の人生が楽しすぎる。寧ろ得した気分だ」

 

 だから男口調だったんだ。漠然とした感想だけど……心が強いなあ。ルルちゃんの立場だったらきっと不安で挫けそうなのに。

 

「お嬢。もう立っていい?」

「うん。言いたいこと言ったし」

 

 メイド姿で立ち上がるルルちゃん。メイド喫茶でよく想像するような露出の多いミニスカじゃなくて、ロングスカートの清楚な服装だ。モデル体系だから滅茶苦茶映えるなー……こんな人と同じようなメイド服着て歩いてたのか、私。

 

「着替えちまったんだな。娘が嫁入りしちまうようで素直に寂しい気分だ」

「ご、ごめんなさい。お気持ちだけで大丈夫です。ルルちゃん、ありがとうございました」

「姫向けにサイズ調整してあるんだ。俺が持っていても仕方ないからあげるよ」

「と言われても、もう着る機会無いですもん。ところでさっきから気になってたんですけど……姫って何ですか?」

「君の事だが? 六条安未果」

「なんで姫呼びなんです!?」

「帝星ナティカがお姫様の設定だったからだ。それに君はどこか姫と思わせるような雰囲気があるね。だからかな」

 

 あだ名! ニックネーム! 家族以外から生まれて初めて付けられたよ。姫は恥ずかしいけど、嬉しいな。

 

「羨ましいな。私なんてお嬢だよ、お嬢。なんか差を感じちゃうなールルさんや」

「母君の愛情を一心に受けている姿を見てたらお嬢になっていたな。だいたい直感で決めてるから、嫌だったら遠慮なく言ってくれ」

「嫌じゃないけど。相変わらず納得いかない説明。それにしてもさ……」

「ひっ!? なななな、何でしょうか、さ……佐藤さん」

 

 気がついたら佐藤さんが私をじーっと見ていた。頭のてっぺんから爪先までまんべんなく。メイド服ほしいのかな?

 

「やっぱりもったいないなー……」

「ふぇ?」

「よし」

 

 良くない予感っ!

 

「六条さん。明日の日中は予定空いてる?」

「よよよ、予定ですか!? なんでですか!?」

「親交会がてらショッピングしない? 女の子同士で」

「しょぴっ!?」

「今日は配信が終わったら予約してるホテルに泊まってから実家に帰るんだけど、せっかく東京まで来たんだし、観光とか買い物してから帰りたいな、って。一人で行くくらいなら誰かと行ったほうが絶対に楽しいじゃない?」

「ええと、ええと……」

 

 なんで誘われてるの私!? そんなリア充みたいなイベント、ゲーム中でしか知らないよ!? どうしよう。二人で会話なんて無理無理! ついさっきノー言えない人に無理強いは良くないって佐藤さん自身が言ってたよね!? どうしよう、おしゃべりなんて出来ないよ。きっと飽きられちゃう……どうすれば傷つけず嫌われず断れるかな。

 いやでもこの流れならルルちゃんも来るよね? 二人の会話はちょっと聞きたいかなーって思ったり。仲良さそうだし。私喋らなくて済むし。

 

「ルルも来る?」

「悪い。携帯の調達と配信の準備があるから辞退する」

 

 うぬぅ!?

 

「そういえばルルはスマホ壊したって言ってたっけ」

「立場上、俺一人じゃ手続きが面倒でな。保護者と一緒じゃねえとたぶん無理なんだ」

「い、一緒に買っちゃ駄目なんですか!?」

プロフィール(プロフ)で見たけど姫は男が苦手だろ。俺の保護者、筋肉ムキムキのゴリラみてーな奴で、容赦なくバシバシ背中を叩いてくるタイプだけど大丈夫か?」

「すみません。たぶん無理です」

 

 1番苦手なタイプだよ……プロデューサーでギリギリってラインなのに。

 

「いつか紹介したいけどな。良いやつだよ」

「ルルは次の機会だねぇ……じゃあ2人で行こうか、六条さん」

「んぐっ!? ふ、ふふ、フタリ!?」

「ルルがいなくて残念な気持ちは分かるけど、ひとりは寂しいんだよね……ね、お願い。人助けと思って。女の子2人なら楽しいよ」

 

 『人助けと思って』は陽キャ御用達フレーズなんだね、私、学習した! どうする? 本気で困ってるよ。顔の傷が気にならないくらい可愛く困ってるよこの子!?

 それにしても……この子、絶対に勘違いしてるよね……まあ嬉しいんだけどさ。

 

「あああ、あのね佐藤さん。わわたし、女の子じゃないよ」

「え。男!?」

「性別じゃなくて年齢の話だよ、お嬢」

「ん?」

「姫は女の子(ガール)じゃないぞ。淑女(レディー)だ」

「……ん?」

「肉体的な年齢で言えば、俺の20歳設定より年上。プロフィールは見なかったか?」

「………………そこまで見てない」

 

 ぐりんっ、と目が開かれた状態で佐藤さんがこちらを見た。顔の傷も相まって凄くホラー。言わねばなるまい。

 

「に……にじゅうろくさいです」

「はあああ!? 私より背が低くてルルよりおっぱいデカくて私より10コも年上ぇええ!? 同い年だと思ってたんですけど!?」

「ひいいっ! チビでごめんなさいぃ!」

 

 でも胸は関係ないよね!?

 

「え……なにこの会社。童顔の若作りしかいないの? エルフの血でも引いてないと入社できないの? 社長の28ですら詐欺だと思ってたのに、もうこんなの詐欺を通り越して洗脳でしょ……」

 

 佐藤さんがショックを受けて精神が危険な領域に達しそうな雰囲気を和ませるかのようなタイミングで控室からノックの音が響き渡る。

 

「開けます。賑やかに盛り上がっているところすみません。佐藤さん、そろそろ準備を――」

「プロデューサー! 年いくつですか!?」

「は? 23ですが」

「ありがとうございます! 中和されました!」

「よく分かりませんが、お役に立てたなら何よりです」

 

 ちょっと老け顔ではあるけど、忘れちゃいけないよ佐藤さん。プロデューサーは23歳で子持ち既婚者(勝ち組)だからね?

 

「配信前で気合い充分ですね。準備が整いました。行きましょう。お二人は会議室にノートパソコンがありますので、そちらでYutubから紅焔アグニスの配信視聴をお願いします。視聴環境のチェックも兼ねていますのでご協力ください」

「よっしゃ! やるぞ〜。やるぞ〜……ルル! 六条さん! 一番槍行ってきます!」

「うむ。有言実行してらっしゃい」

 

 一番槍は成果出しちゃった後だもんね。先陣を切るが正解かな。

 佐藤さんは意気揚々でプロデューサーと一緒に控室を出ていった。佐藤さんの配信にはスタッフ総出で取り掛かるらしい。私達に配信チェックを任せるほどに人手が足りないみたい。

 それにしても、疲れたぁ……。話していて楽しい子だし元気が出るけど、カロリーも持ってかれるような感覚もあるよ。あ。結局行く行かないの流れがフワッとしたままだった。ゆっくり考えよう。

 

 

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