伝説の老騎士、アイドルVtuberになる。   作:東出八附子

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46話 私は言葉アリア

 

―― 最上詩子 ――

 

 収録スタジオの一室。私の前に設置されたモニターでは、そのアリアが華麗なステップを刻みながら熱唱していた。今現在、言葉アリア6周年記念ライブの配信の真っ最中である。

 ライブと言ってもリアルタイムで歌っているのではなく、収録した映像をリアルタイム風に編集した映像を生配信しているのだ。昨今のVtuberたちは、この収録編集スタイルのライブが主流である。

 ライブはまだ序盤。今は私のオリジナルソングを蒼火(そうか)セッカちゃんと一緒に歌っている場面だ。紅蓮烈火ほど激しくはないけど、ハイテンポなロックテイストの曲で、アリアらしからぬ曲調の激しさから出るギャップから人気は高い。

 さて。録画ライブの最中で、私が自宅じゃなくて配信スタジオにいるのか疑問に思うかもしれないけど、それにはちゃんと理由がある。

 この3Dライブの後半で、本当の意味でのライブ配信――リアルタイム配信をするためだ。部屋にはスタッフさんたちやマネージャーが配信にむけての準備をしている。

 そしてマネージャーさんたち以外にも――。

 

「あーひゃひゃひゃひゃ! きめぇえええ! 団長の絵、超きめええ! あひゃひゃひゃ!」

 

 えーと……なんか騒がしくてごめんなさい、スタッフさんたち。この馬鹿笑いの正体は蒼火セッカこと赤羽根せつなちゃんです。いま流れてる配信の映像では、ものすごく清楚かつパワフルな声で歌っているのに、同一人物とは思えない笑い方だ。今日は仕事を終えて私の様子を見に来てくれたんだけど――ひと目見た瞬間に、「なんだ、もう全然大丈夫じゃん!」と言って、スマホで動画を見始めたのだ。うーんフリーダム。

 

「せっちゃん……スタッフさんに迷惑だよ」

「すまんすまん。あー、だめだ。コレ暫く、あたしの中で擦り続けるわ」

「YaーTaプロの三人が私のライブの同時視聴してるんでしょ」

 

 企業勢が他企業のライブ配信を同時視聴するってだけでも珍しいのに、あの話題の三人が視聴するのだから、とてもホットな配信になっている。同時視聴としては異例の同接1万超えだとか。GS(ウチ)側の同時視聴も8000人くらいいるから、どっこいどっこいではあるけどね。

 

「いいなー私も見たいなー」

「絶対に今は止めとけ。腹筋が犠牲になっちまう」

「何でそんなに笑ってるの?」

「紅焔嬢がオタっぽいハチマキとサイリウムの絵を書いてこいって宿題出したら、伝え方をミスったせいか、団長とナティ姉がハチマキ巻いてサイリウム持ったオタクを描いてきてさ。団長の描いたオタが超リアル調のデザインしてるんだよ」

 

 うわ、めっちゃ気になる。

 

「そいつがめっちゃヌルヌル動くからキモいのなんの――あ、さすがに引っ込めちまったか。全員紅焔嬢の絵になっちまった」

「ちなみに他の二人はどんな感じ?」

「紅焔嬢はなんつーか……初めてマウスを触った小学生が初めてペイントツールを触ってハッスルした絵って感じ。

 ナティ姉もオタ(ジョ)描いてきてるんだけど、キャラ設定凝ってるし、滅茶苦茶絵がうまい。元は漫画家かイラストレーターだったんじゃねーかな」

「……みんな個性的だね」

「出た、当たり障りのない優等生の回答」

 

 後で絶対に見ようっと。今の私は、見たくても見られないからね。時間や精神的な意味じゃなくて、物理的な意味で。

 今の私は、身体の所々からカメラが設置された旧式のモーションキャプチャースーツを着ているのだ。スマホを触ろうものなら画面に傷をつけてしまうかもしれない。最近のスーツなら、もっと軽量で、もっと高性能で、見た目もあまり阻害しない代物へと進化している。だけど、今日はこの旧式スーツで頑張るのだ。

 

「しかし、わざわざ旧式を引っ張ってくる必要あったのか?」

「今回は無理を言って用意してもらったんだ。どうしてもこの環境で配信したかった」

「初心に還る……だからライブのタイトルも『オリジン』か」

「うん」

「めんどくさい性格だよな、お前も」

「それ自覚してるから言わないで……スタッフさんに苦労かけて、けっこう悪いとおもってるんだから」

「でも、良い意味でのめんどくささだと思うよ」

「……ありがと、せっちゃん」

 

 スタッフから配信準備開始の合図が告げられる。もう少ししたら本番だ。

 

「そんじゃな詩子。頑張れよ。ま、今のお前なら心配してねーけど」

「うん。任せて」

 

 せっちゃんは収録現場から離れ、機材担当のスタッフと一緒に私を見守って――ないや。配信の続き見てる。ああ、お願いだから、スタッフさんを巻き込まないで。

 ……でも、心配してないって裏返しの態度だから、それはそれで安心かな。

 軽く最終リハーサルを行い、機材のチェックも済ませる。

 

『はーい、次は最後の曲でーす! その前に重大告知、いきまーす! 場面……移動です!』

 

 配信内のアリアがコールする。カメラアングルが引いていき、場面転換の演出と共に画面が暗転する。いよいよだ。

 言葉アリア(自分)がメインの3Dライブって、いつぶりだったかな。自分の誕生日記念はすっぽかしたから……一年ぶりくらいになるのか。

 今流れている映像を収録した時期は、長いブランク明けで、まだ私が「ひとりぼっち」の最中にいる頃だったせいか、歌にはやや情熱が感じられず精彩に欠けている。GSのアイドルというプライドだけで歌っているだけだ。

 それでもライブの評判は上々だ。聖歌隊(ファン)たちの熱烈な『おかえり』コールが後を絶たず、暖かく優しく迎え入れて褒めてくれる。

 先日聞いた、灯の呼びかけが頭によぎる。

  

『しーちゃん。YaーTaプロに来ない?』

『もうすぐ配信する、言葉アリアの6周年記念ライブ。そこまでに答えを聞かせて、しーちゃん』

 

 これからもアカルのいないGSのアリアとして生きるのか。

 これからはアカルのいるYaーTaのアリアとして生きるのか。

 悩んだ。とてもとても悩んだ。この悩みばかりは誰にも相談できない。自分だけで整理しなくちゃいけない難題だった。

 でも、そんな悩みも、もうすぐ終わる。

 

 答えを出すよ、灯。

 

 

 

 

―― 言葉アリア ――

 

Aria Ch.言葉アリア

【3D Live】Origin/最後に重大告知します!【#言葉アリア6周年】

18.3万人が視聴中 チャンネル登録者数 138万人

 

:改めて、やっぱりアリたん推しを自覚したわ

:ライブ告知の雑談配信で元気な声が聞けて安心した

:久しぶりにアリたんの配信来たけど、登録者数10万くらい減ってる……

:ブランク感じさせないな

:最初期と比べたら雲泥の差なんだよな。ホント成長したよね(後方腕組み古参

:ほんと記念ライブ開いてくれてありがとうすぎる

¥3000:ありがてえ……ありがてえ……

 

『はーい、次は最後の曲でーす! その前に重大告知、いきまーす! 場面……移動です!』

 

:お、いよいよか

:何かな……何かな……

:めっっっっちゃ不安

:どうしてもネガティブな予想になっちゃう

:でもあの方がアリたんの悩みを解決してくれたから……

:団長マジで様様だよ……ありがたや

:ワンチャン、YaーTaプロ移籍もありえるか?

 

:ん?

:あれ、この背景

:雲の上?

:これ、アリア最初の3D配信の背景やないか!

:これはガチの生配信ですね

 

「いやー、この姿も久しぶりだね」

 

:初期衣装!?

:一番最初のモデルじゃないですか

:最初の配信の再現するから、ライブのタイトルがOriginだったのか!

:懐かしいわー

:こうやって改めて見ると、まだ洗練されてないね

:これはこれで好きなんだ

 

「これはですねー。自分を見つめ返そうと、一度原点に戻ってみようと思いまして。告知と最後の1曲はこの姿で、この景色からお送りしたいと思います。まずは告知から」

 

:いよいよか

:ドキドキする

:ネガな発表じゃありませんように

 

 深呼吸を一回。

 

「まずは、お礼の挨拶をさせていただきます。聖歌隊の皆さん。GSのみんな、関係者の皆さん、そして……YaーTaプロダクションの皆さん。

 今日、この6周年という舞台に私を立たせてくれてありがとうございます。塞ぎ込んでいた私をいっぱい支えてくれて、本当にありがとうございます」

 

:ヤタプロの名前出た!

:他所扱いとはいえ避けては通れないか

:団長がいなかったら今日のライブは怪しかったもんな

 

「たくさんの人を心配させました。たくさんの人に迷惑をかけました。

 それでも皆は応援してくれた。心が折れそうな私を励ましてくれた。

 その声に、今こうして応えることができて、本当に嬉しく思っています」

 

¥12000:元気な姿を見せてくれれば 元気でいてくれれば それでもう

 

「別の配信でも言いましたが、アカルが卒業してから、配信への熱意が薄れて、私はこの業界に興味が持てなくなっていました。その一方で、これからの自分が想像できなくて、不安から押しつぶされそうにもなりました。

 私には多くの選択肢がありました。やはり卒業を進めてくれる人は多くいました。中には、他所への移籍や、歌手として独立するように進言していただいたりもしました」

 

:アカルんなら、アリたんを勧誘しそうなもんだけどね

:今のアリたんを躊躇なく引っこ抜きそう

:まさかこの発表って!?

 

「この半年間、たくさん悩みました。でも、そんな弱気なアリアは今日でおしまいにします」

 

 誘ってくれて、ありがとう、灯。

 

「私はアイドルを続けます」

 

 そして、ごめんね、灯。

 

(ガール)State(ステート)の言葉アリアとして――生涯を(ガール)State(ステート)所属として活動することを此処に誓います」

 

:おおおおおおお!

:よう言った!

¥50000:完 全 復 活 !! おめでとう!!

¥10000:改めて おかえりアリたん!

¥20000:またGSの言葉アリアとして、貴女の歌が聞ける……

¥5000:よかった……答えが出たんだね おめでとうアリア!

 

「今日はその決意を表明するために書き下ろした新曲となります。このステージで――すべてが始まったこの場所で、今の私が表現できる精一杯を込めて歌います。では聴いてください――」

 

「『Flying For Future』!」

 

:新曲! 待ってた!

:歌ってみたもオリジナルの新曲も、ずっと無かったから新鮮

:未来のための飛翔……タイトルだけでもワクワクする

:略称は3Fすね。間違いなく。

:ピアノのイントロだけでも決意感が滾ってますね!

 

 ごめんね、灯。ごめんね、みんな。心配かけさせたね。

 でも、もう大丈夫。

 これからの私は迷わない。

 

:!??

:うおおお!?

:今までのアリたんと全然違う!

:上手いっていうか、惹かれる歌い方だ

:完全復活どころじゃねえ! 今までのアリたんを超えてきた! 何段階も!

:声の力が今までと段違いで違う

:パワーに加えて、今まで積み上げてきたスキルが加わって、より仕上がってる

:今のアリたんならプロ歌手でも全然いけるわ……

:昨今の派手な演出が無い分、アリアの上手さがより際立つな

 

 もう1期生は戻ってこない。私を引っ張ってくれた同期はもういない。

 でも私にはたくさんの仲間がいる。1期生だけじゃなくて、後輩たちとの絆がある。

 私は、その想いを大切にしたい。これまでの私を育ててくれた、大切な場所だから、ここにいたい。この場所を守って、この場所からGSのみんなを支えたい。

 この始まりの場所に帰ってきて、改めて決意できたよ。私はここで頑張りたいって。

 新しい光と一緒に。皆の思い出と一緒に。私は未来を紡ぎたい。

 

:GSで頑張るって決意が伝わってくる

:何も演出無いのに、いなくなった一期生がアリアと歌ってるように見えてきた

:涙出てきた

:モニターが涙で見えねェ

メンバーシップに加入しました:ようこそ聖歌隊へ!

¥50000:このライブ見て良かった……本当に良かった……

¥50000:おれ、アリアのファンで幸運だったわ

 

 みんな、この歌で安心できるかな。私はもう、ひとりぼっちにはならないよ。

 

:登録者数ガンガン増えてる!

:GSに残る宣言したからか

メンバーシップに加入しました:ようこそ聖歌隊へ!

:↑それもあるけど、最近のアリアは引退の危うさがあった だけど今のアリアから安心感しか感じられない

メンバーシップに加入しました:ようこそ聖歌隊へ!

メンバーシップに加入しました:ようこそ聖歌隊へ!

:メンバーシップ加入通知が鳴りやまねえ!

:離れていった人が戻ってきてるんだろうな

:↑プラス新規の人も絶対に増えてる。

 

 アカルが傍にいないのは寂しいけど、それでも私は頑張れるよ。

 だって私は、(ガール)State(ステート)の言葉アリアだもの。

 

『羽ばたいていくよ 彼方の未来まで 私も輝くよ あなたが照らした光と共に――』

 

 曲が終わり、閉じていた目を開く。

 モニターの様子は、過去に見たことが無いくらい盛況していた。

 

¥50000:おかえりなさい! これからもよろしくお願いします!

¥50000:お前は最高だー! アリアー!

¥50000:たのむからもっと払わせてくれー!

¥50000:本当に、生まれてくれてありがとう……

¥50000:推し続けるわ……絶対続けるわ……これからも一生応援します

¥50000:貴女がいるから私も頑張れる そう思わせてくれる、本当に素晴らしい一曲でした 出会ってくれてありがとうございます

 

 止まらないスーパーチャットの嵐。コメントは称賛と感動で埋め尽くされていた。

 よかった。みんな安心してくれた。

 こちらこそありがとうだよ、聖歌隊のみんな。みんなのありがとうの声が、私を力強く支えてくれているんだ。今はライブの形式だから、この場でコメントに反応できないけど、みんなのありがとうは伝わっているからね。

 心配があるとしたら、こんなに満額のスパチャをぽいぽい投げて大丈夫かな、ということと……スタジオの外でズビズビ泣きじゃくってるせつなちゃんかな。外へ出た瞬間に抱きつかれそう。配信が終わったらしっかりよしよししてあげよう。

 

「聴いてくれてありがとう。でもごめんなさいをしなくちゃいけません。

 この曲ですが、作り始めたのが二日前だったせいもあって、未完成品なんです。完成したら正式な楽曲販売とMVを製作するつもりだから、それまで待っていてくれないかな」

 

:たった二日!? このクオリティで!?

:心の迷いが無くなって、一気に気持ちが爆発したんだろうな

:未完成でこれなら、完成品はどうなっちまうんだ

 

 GSに残ると決意してから、この決意を灯たちに伝えたくて作った楽曲だ。

 製作期間はたったの二日しかなかった。練習は満足にできていない。ろくな編曲もできていない未完成品だ。

 でも不安は無い。この曲は、今の私のこころを、作詞の最中に浮かんだメロディへそのまま載せたのだから。言葉を伝えるためにベストは尽くしている。

 今の私のありったけ。今の私のこころ。今の私の全部だ。

 

「未完成品だけど、欲しいという声が多ければ、今のバージョンの配布も検討したいと思っています。早期購入特典か、メンバーシップ限定販売あたりが有力かな。決まり次第また告知しますね」

 

:何でも大丈夫だよ 絶対買うから!

:待ってるぞー!

:1000000%買っちゃうでしょ

 

「そろそろお開きですね。次回の配信はお礼のスパチャ読みの予定となりますので、よろしかったらまた見に来てください。

 それじゃあこの辺で――皆さん、おつアリア~!」

 

()()()()ー!」

 

:おつアリア~!

¥5800:本当に感動をありがとうー!

:連日配信だと!? あのアリアが!?

:戻って来たな言葉アリア!

:GSの未来は明るいな!

 

 

G―State.pro:おかえりなさい 言葉アリア

Luruna Ch.ルルーナ・フォーチュン:君の光、確かに見届けたよ

 

 

 

Aria Ch.言葉アリア

【3D Live】Origin/最後に重大告知します!【#言葉アリア6周年】

23.6万人が視聴中 チャンネル登録者数 143万人

 

 

 

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