伝説の老騎士、アイドルVtuberになる。   作:東出八附子

68 / 172
60話 おねえさんたちのうたげ 後編

 

―― 帝星ナティカ ――

 

 それはアリアさんから放たれた、無慈悲な死刑宣告だった。

 

「とりあえず歌ってみましょうか。

 聞いた話だと、私の楽曲『好きよも好きよは恋のうち』、いっぱい練習してくれたんですよね。それでお願いします」

「………………は?」

 

 ………………は?????

 

:あ、これ、マジで何も聞かされてないヤツだ

:アリたん、歌に関しては行動力の化身よな

:歌以外は受け身なんだが 歌以外は

:姫さん、なんちゅー低い声だwww

:声のトーンの落差がwwwwww

:天国から地獄www

 

「う、歌うって、今ですか!? 今からですか!?」

「まずは現在の実力を知らないと指摘しようが無いですから」

「確かに仰る通りですけど、今ですか!? どうして今やる必要があるんです!? 配信後じゃダメなんですか!?」

「配信後は別の配信へお邪魔することになってまして……それと、スケジュールの関係上、次にナティカさんと関われるのが、ちょうど1週間後でして。頑張ってスケジュールを調整してもらったんですけど、次の1週間後が限度なんです」

 

ぐぬぬぅ! さすが最大手の大先輩! スケジュールの密度がダンチちゃんだ!

 

「プロデューサーからトレーナーのお話を貰ったんですよね!? ボイスサンプルが届いていませんか!?」

「私も請求したんですけど……その……」

 

 めっちゃ言いにくそうにしてる!? まさか……まさかとは思うけど……。

 

「『直接聞いてあげてください。そっちのほうが絶対に面白いです』と、堂々と言われてしまって。あまりにもキッパリハッキリ言われるものだから、私、それ以上は何も追求できなかったんです」

「あの人はあああああああ!」

 

:wwwwwwwwwwww

:プロデューサーwwwwww

:ヤタのプロデューサー、ノリがじゅうもんじwwwww

:ヤタのTwisterアカウント、けっこうおもろいで

:公式フォローしたわww

:ナティ姉、激怒の絶叫www

:今日の姫さん楽しすぎるwwwww

 

「うーん、嫌ですよね……私もナティカさんの立場だったら嫌なんですけど……」

「まさかのご容赦!?」

「いえ、プロデューサーさんからコメント頂いてまして。『ナティカさんが歌うのを拒否したら、公式チャンネルでナティカさんのサンプルを MV(ミュージックビデオ) に編集して公表するから、それを参考にレッスンお願いします』と」

「うががががあああ!!!!」

「あ。ちなみにですが。私のレッスンを受けてもらう以上、歌の披露はいずれしてもらいます」

「まさかの追い打ち!?」

 

:もうやめて! ナティ姉の怒りと絶望のゲージはMAXよ!

:怒りで肌の色が真っ赤になってそう

:退路の断ち方よwww

:見事なまでにVの洗礼ですな

:やりたい仕事をやる やりたくない仕事もやる これが企業の辛いところだぜ

:個人でもストレスがっつり溜めそうな企画やるヤツ多いけどな

 

 お仕事すっごい真面目なのに、たまに羽目外すんだよなあの人! この前ちらっとお仕事のパソコン覗いちゃった時なんか、『初公式配信 着ぐるみでローション相撲』とか『実践TRPGセッション(配信したシナリオでボイスドラマやってもらう 本人たちにはドッキリで配信中に公表)』っていう没の企画書を見ちゃった時は、「あ、この人ちょっと危険かも」って思ったけど!

 アリアさんも歌に関しては侮れないぞ。のり子ちゃんに聞いたけど、歌に関してはストイックな方らしいから、レッスンに関しては何を言ってくるのか分からないや。

 

「ネガティブなイメージを持たれてしまうのは重々承知なんですけど、実は山ほどメリットが多くてですね」

「メリットですか!?」

「まず一つ。現時点での実力をリスナーに知ってもらえる。

 二つ目。実力の成長度合いを知ってもらえる。

 三つ目。歌の披露に対して度胸がついて抵抗が少なくなる。

 そして最後に、これが一番のメリットなのですが……たくさんのリスナーの方々からご指摘を頂けることです。リスナーの方々は、私よりもずっとトレーナー経験の豊富な方がいますし、音楽に明るくない方からも意見を貰えたりもします。浅くも深くも意見を頂けるんです」

 

:それもタダどころかお金まで貰えるんだぜ!

¥3000:みなもんの歌はアリたんだけじゃなくてワシ等が育てたまである

:なあ……歌唱しようや……

 

:いやでも、無理強いは良くないんじゃ?

:本人嫌がっとるしのう

:悪ノリだけで促すのはちょっとなー 俺もナティ姉の立場だったら嫌だし

:反対派も出てきたな でも言われてみれば確かに強硬しすぎか?

 

 まずい、リスナーが荒れてきちゃったぞ。アリアさんのチャンネルをこのまま荒らすわけには……! うう、胃がキリキリしてきた気がする……!

 あれ、スマホから通知だ。アリアさんから!? そうか、コラボ配信するために連絡先を交換してたんだ。おっと、プロデューサーからも来ているぞ。

 文字で連絡ってことは、配信では話さない方が良いってことだよね。

 ――あ。

 

「どうでしょう、歌えそうです? 前みたいに鼻血が出そうなら言ってくださいね」

 

:アリたんも無理言ってる自覚があるんだろうな

:ていうか、炎上する予想ついてるだろうに、よくアリアは承知したな

:会社の指示か? アリたんも結構困惑してるぞ

:やっぱYaーTaも新参の会社だな まだまだ見通しが甘い

 

:↑と、おもーじゃん?

:アリアちゃん。聖歌隊の方々。杞憂民ですぞ。

:たぶん姫さんの性格を全部計算しての無茶ぶりだよ

:ここからがナティ姉なんだよな

 

「やるますっ! やりますっ! うた、歌いますっ!」

「わっ」

 

:うおお!? 音量ォ!

:覚醒キタ!

:それでこそナティ姉!

:追いつめられると輝くのよねえ

:お嬢や団長では見られない輝き これだから姫さん最推しなのよ!

 

 そりゃ頑張るしかないでしょ。アリアさんは私に歌を強要することに心を痛めて滅茶苦茶心配してくれているし、プロデューサーは、アリアさんに無理を言って引き受けてもらったとも、アリアさんが炎上覚悟でこの台本を引き受けてくれたって教えてくれたし。

 確かに追い込まれなきゃ私は歌を披露しそうにないから、今回は荒療治だけれども、二人とも私の成長を願ってくれたんだ。応えたくもなっちゃうよ。

 

「それじゃあ『好きよも好きよは恋のうち』のカラオケ音源と歌詞、準備します。本番まで心を落ち着けてくださいね」

 

 よし、荒らし上等! 何を言われたって、へこたれるもんか!

 

 

 

・・・・・

・・・

 

 

「………………」

「あの、アリアさん?」

 

:これは……

:あまりの衝撃に言葉が見つからない

:えーと

:お、おい 誰か声をかけてやれよ って、今ガチで思ってます

:おいおいおい……今の視聴者3万超えてるんだぞ……誰も気の利いた言葉が見つからないなんてあるのかよ

:くるしい ナティ姉を救えない俺が情けない

:助けてくれ、音程が仕事を一切しなかったんだ

:こ声がいいよね こえが

:まさかみなもんを超える逸材が生まれようとは

 

 うーん、やっぱりやらかしちゃったか。続けて歌の練習はしていたんだけどなー。この前、一回だけカラオケの採点が50を超えたから、ちょっとは聞けるんじゃないかと思っていたけど。甘かったかー。

 でもこれが私の目いっぱいなんだよなー。ぐすん。

 アリアさんの沈黙が怖い。何を言われるんだろう。

 

「あの、あの。もしかして、やっぱりレッスン取り止めでしょうか」

「………………」

「そうですよね、お忙しいところに無理言ってるんですもんね。話題性重視の提案だったんでしょうけど、無理を言い過ぎてますよね。あまりにも酷すぎますよね」

 

:いや、そうでもないぞ

:ナティ姉、勇気ふり絞って正解だよ 希望はある

Minamo.ch 飛沫みなも:私よりすごいかも

Minamo.ch 飛沫みなも:もちろん良い意味で

 

「へ? 良い意味で?」

「あ。みなもちゃんに感想を取られちゃった。ごめんなさい、意見をまとめるのに時間がかかりました。

 結論から言うとですね、ものすごいポテンシャルがあると思います。全然大丈夫です」

「え……ええええええええええええ!?」

 

:うえええ!? どこに希望があるのん!?

:めっちゃ音程外しまくってたし

:たぶん本人が一番びっくりしてるぞwww

 

「確かに音程は壊滅的でした。音程が上がるところは上がりすぎて、下がるところは下がりすぎる。キーコントロールが極端で上手くいってないんです。声のパワーを持て余して振り回されてるイメージですね。

 はっきり言うと『音痴』になってしまいますが、でもこれは十分に矯正できますし、音程がまったく理解できていない、ということも無いみたいです」

 

:音程の外し方が綺麗でしたね

:ほぼ全部ずれてるけど、的外れではない

:調整が極端なところを直せばワンチャンありますねぇ

 

「声に関しても、歌の時は喉だけしか使わない歌い方ですが、配信で叫んでいる時はしっかりお腹から声が出せています。それを歌に乗せることができれば十分に魅力的な歌唱ができますよ」

 

 う、嘘でしょ? プロデューサーから完全に見放されていたのに、評価が予想の10倍は高いぞ!? ほっぺた引っ張って――あ痛たた……夢じゃないですねぇ!?

 

「あとは、そうですね……歌詞をかんでしまったり、息継ぎのタイミングが上手く掴めなかったり、呂律が回らずにリズムを崩してしまうことはありましたが、それ以外でのリズムはちゃんと取れていました。音楽ゲームはよくプレイしますか?」

「は、はい。『ワールドビート』のアプリはよくプレイします。スコアもそれなりです」

「えっ! ナティカさんも――オホン」

 

:一瞬同志を見つけた声になってたなアリたんww

:かわええww

:ワルビーは神ゲー 異論は認めない

:常にセールス上位だし、良ゲーは間違いない

 

「リズムはしっかりと取れていますので、まだ楽にレッスンできそうです。音程とリズムは音楽の2大要素と言って過言ではありませんから、どちらか一つがクリアできているのは教える側としてありがたいです」

 

:みなもんはリズム感すら独特だったよなー

:みなもんの場合、何歌っても別の曲に聞こえたよ 姫さんはまだ原曲の名残が残ってる 歌詞とリズムが分かるから

 

「さしあたって取り掛からなくちゃいけない課題は4つですね。まずは基本中の基本を徹底的に体へ覚えさせましょう。

 音程を調整すること、声の出し方を覚えること、口や舌の動かし方を覚えること、歌そのものを憶えること、です。そこさえ押さえてしまえばかなりの歌い手になれます」

「本当ですか!?」

「はい。断言します」

 

 慰めや嘘じゃなさそうだ……! すごい、すごいよアリアさん! たった一回聞いただけなのに、いっぱい改善点を教えてくれる!

 希望が出てきたぞ! 私もアグちゃんに並べる日が来るかもしれない! 頑張るぞ! 頑張るぞっ!

 

「良かった。元気になりましたね」

「これだけ褒められたらテンションだって上がりますよ! 上がらざるを得ないっ!」

「では気力があるうちに、もう一つ聞いていただきたい事が」

「え……?」

 

:また急降下wwwwサプライズがトラウマになりすぎww

:今日の姫さん感情バグりすぎだわwwwwww

:ていうか、改めて思ったんだけど、姫さんの音域かなり大きいよね 上下幅がめっっっっちゃ広い感じする

:マジでポテンシャル高いと思う

:例のアレの適性も高いのでは?

 

「ふふふ……そろそろナティカさんの適性に気づき始めているリスナーさんもいらっしゃるようですね」

「適性?」

「実はナティカさんにもう一つ、別口で依頼を貰っていまして。ボイトレはボイトレでも、歌のボイトレではなく、まったく別種のボイスです。

 こちらは多分、そこまで苦も無く会得できると思いますよ。今日はオンライン対談なので、ちょっと無理ですが」

「オンラインじゃできないこと、ですか。うーん?」

「字幕変えますねー。ナティカさん、読み上げどうぞー」

「言葉アリア直伝ASMR講座……ASMRゥ!?」

「その通りです! 歌のレッスン依頼がそちらのプロデューサーさん経由でしたが、この依頼はアカルからの依頼でして。申し訳ないですが、私としては、むしろこちらのほうが乗り気だったりします」

 

:おいおいおい……誰だ、この神提案した奴は? アカルんじゃねえか!

:社長ナイス! アカルん生放送してくれ、スパチャ送らせてくれええ!

¥50000:感謝を……圧倒的感謝を!

¥10000:そのボイス、言い値で買おう!

¥10000:ナティ姉のASMR……妄想はデビューから今日までずっと続いていた! そう、今日までずっと!

 

「いろいろ情報が多い!? そんなに期待してるんですか!?」

「私、ナティカさんのASMR出たら、たぶん速攻で買って知り合いに布教しますよ」

「嘘でしょ!?」

「だって、もはやスタメンさんの総意と言って過言じゃないですよね?」

「確かに声は多かった――というより、特にアグちゃんからも口酸っぱく言われています。『ナティ姉にASMRやってもらいたい』って」

 

:気持ちは大いに分かる

Agnis Ch.紅焔アグニス:「死ぬほど羨ましい」と「いいぞもっと言ってくれ」という感情を足して2で割らないカオスが私の中で渦巻いています

:お嬢wwww

:お嬢もよう見とる

:同期と推しとの濃密なコラボを目前で見せつけられているのかwww

 

 アグちゃん、やっぱり見てるよね。会社の指示とはいえ、なんかアリアさんとコラボしちゃってごめんなさい。

 でも二人とも言ってたっけ。アグちゃんは声の圧が強すぎるし、ルルちゃんは囁き声が苦手だから――自分たちの声はASMR向けじゃないから、私に頑張ってほしいって。

 

「うーん、でも……ASMRって、えっちな声を出すやつですよね? 私、そういうのはちょっと……」

「いえ、全然ですよ? むしろ、そんな配信したらチャンネルBANされちゃいますし」

「あ、そうか。言われてみれば確かに」

「私のASMRは安心して聞いていられる、GS屈指の健全枠だって、よく言われます。何事もやり方次第ですね」

 

:逆にセーフラインギリギリを攻めるメンバーもいるけどなww

:それはどこのリリスちゃんかな?

:色気たっぷりなナティ姉のボイスを聞きたくもあるが 解釈違いとは思っている

 

「な、なるほど……なるほど……」

「あれ、ナティカさん? ずいぶん考え込んでいますけど、大丈夫ですか? 何か不安な点がありますか?」

「あ、いやいや。そうじゃなくて。今日の配信をやって本当に良かったな、って、しみじみ思ったんですよ」

「そうなんですか?」

「私って、アグちゃんやルルちゃんに比べたら、取り柄が全然無いし、アイドルらしいことなんて雑談くらいしか出来てなかったから……このままで大丈夫かなって不安だったんです。

 でも今日の配信で、たくさんの可能性が見えました。私もまだまだ頑張れそうだなって希望がしっかり持てました。全部アリアさんのおかげです」

「……ありがとうございます。私も、今日のコラボを引き受けた甲斐がありました」

 

 歌のレッスンと、ASMRかー……そろそろゲーム配信も解禁しようと思ってたし、夢が広がってきたなー。どうしよう、どんどんやりたいことが増えてきたぞ。アイドルなんて出来るのかな、不相応かなって思ってたけど、今は不安よりも期待の方が強くなってきた! あぁ、今日はなんていい日なんだろう! 最高だ!

 

「ではアリアさん。差し出がましいお願いかもしれませんが、ASMRの件もよろしくお願いします!」

「こちらこそ、願っても無いです! とりあえず、使わなくなった私のお古のマイク、送っておきますね」

「ええ!? そんな……いやでも、使わなくなったんだから、むしろ貰った方がいいのかな」

「はい、こちらからお願いしたいくらいです! 存分に使ってあげてください!」

 

Agnis Ch.紅焔アグニス:ぬああああ! 欲しいいいいいいい! 自分の声をこれほど憎んだことは未だかつて無い!

:お嬢wwwwwwwww

:お嬢が使ったら壊れそうってお嬢自身が分かってるから、自分もくれって言いだせないんだなwww

:↑そんな簡単に壊れるんかよwww

:↑ASMRのマイクは繊細だから、普通に声を出したらワンチャン逝くし、管理方法をトチっても逝く

:↑なにそれ爆発物かよ

 

「さて、ひとまず今日ナティカさんへお伝えすることは以上となります」

「興奮しすぎてカロリー消費が大変でした……でも、本当に今日はありがとうございます!」

「はい、どうもです。でも、今日はまだ終わらないですよ?」

「はへ?」

「まだ時間はありますから……レッスンの続き、しましょうか」

「え?」

「鉄は熱いうちに打て、というやつです」

 

:ナティ姉、放心!!

:だめだ、もう姫さんの心が悲鳴を上げすぎてリアクションが小せえww

 

「………………ちなみに、アリアさんがお呼ばれしてる配信って、いつからなんですか?」

「2時間後ですね。準備は済ませてあるので、向こうに合流するだけです」

「わーいスパルタだー」

「とりあえず今できることは教えるだけ教えちゃいますね」

 

 一つ訂正。今日は最高ではないかな……うん。

 明日、配信の予定入れなくて良かった。ちくしょう、今日は燃え尽きてやるからなーっ!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。