機動戦士ガンダムSEED Destiny “M”   作:神谷萌

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嘆きの慟哭

 C.E.71、オーブ連合首長国 ────

「ハァ……ハァ……」

「ハァ……ハァ……マユ、大丈夫?」

「ハァハァ……うん……あっつ……」

 オノゴロ島在住、モルゲンレーテ勤務のアスカ夫妻は、長男のシン、長女で末妹のマユとともに、軍事施設、軍需施設を避けて、林道の中を、避難民が集まる一般港へと向かっていた。

 6月15日。この日、パナマにあった自陣営最後のマスドライバー施設を失った地球連合軍は、オーブのカグヤ島にあるそれを奪取する事を主目的に、侵攻を開始した。

 地球連合は一応、オーブへ最後通牒を突きつけていた。だが、その内容は、オーブ現政権の退陣、オーブ国軍の解体と、主権国家としてのオーブを否定するものだった。

 当然、オーブはこれを拒絶。

 だが、これこそ、地球連合軍の事実上の主導者となっていたムルタ・アズエラエルの本意とするものだった。

 連合は予告通り、大兵力を以って、()()『オーブ解放作戦』を開始。

 オーブは決して軍事弱国ではなかったが、連合の主戦派である大西洋連邦とは、海上戦力では圧倒的な物量差があった。

 また、国土が群島で構成されるオーブは、海上からの攻撃を受け止めるのに必要な縦深が存在していなかった。

 ────…………完全中立を貫くということは、誰も助けてくれない、ということでもある。

 連合はオーブが非協力的なことから、オーブに “親プラント国” のレッテルを貼ったが、一方でオーブ氏族のサハク家の指導で連合のモビルスーツ開発に参加していて、その責任の所在をウヤムヤにしていたため、プラント側もオーブを敵視、とは言わないまでも、少なくともオーブ救援という()()()()()()をする義理も余裕もなかった。

 例え、字面として受け入れられないような要求であっても、島国が、孤立無援の状態で、スタンドオフ攻撃で敵を漸減する機会を失った段階で、徹底抗戦は被害を出すだけでまず目標達成は不可能なのである。

 だが、オーブの事実上の頭脳であるウズミ・ナラ・アスハは、その選択をしてしまった。

 オーブ軍は最初、水際撃退を試みて、連合にある程度の損害を強いたが、連合のモビルスーツがオーブの島々に取り付き始めると、軍の組織的な活動はほぼ崩壊した。

 その一方で、短いとは言え48時間の猶予があったにも関わらず、一般市民の避難やその体制はまったく整っていなかった。

 ドォ……ォオォォォン

「っ……!!」

 シンが石を踏んで少し深く踏ん張った時、振動と轟音が、アスカ一家の周囲まで届いてきた。シンは体勢を立て直しつつ、一時的に立ち止まる。

「大丈夫だ、目標は軍の施設だろう」

 父親が言う。他の3人も一瞬立ち止まっていた。

「急げシン」

 僅かだが、遅れていたシンに、父親が声をかけつつ、一家は再度駆け出す。

 アズラエルは可能な限り、軍事施設、それにモルゲンレーテの軍需工場の被害を最小限にするよう指示していたのだが、彼がそれを知る(よし)はない。

 ようやく木々の切れ目に、避難船への乗り込みが行われている港湾が見えてきた ──── と、思ったところへ、青緑のモビルスーツを載せたサブフライトシステムが、正面から低空を掠める。発生した強い逆風が、アスカ一家を襲う。

「キャーッ!!」

 母親が悲鳴を上げた。その時、先頭正面にいた父親が咄嗟に振り返り、母親とマユの頭を抑えるようにして、自身ごと身を伏せさせた。殿(しんがり)にいたシンも、同時に、2人の背中をかばうようにしながら、身を屈める。

 至近距離にいたオーブ軍のMS、MBF-M1『アストレイ』が、その2機に向かってビームライフルの射撃を浴びせようとする。

 だが、それは命中しない。

 それに気付いたのか、青緑のMS ──── GAT-X131『カラミティ』が、サブフライトシステム ──── モビルアーマー形態のGAT-X370『レイダー』から飛び降りると、即座に振り向き、M1アストレイ 2機に向かって複数種類の射撃兵器を発砲する。

 M1アストレイは、2基ともそれに胴体を貫かれ、爆散する。

「キャーッ!!」

 今度はマユが悲鳴を上げる。至近でのMS火砲の射撃と、M1アストレイが爆散する、衝撃波と振動が、アスカ一家を襲っていた。

 そこへ、今度は別の、単独飛行能力を持つモビルスーツが、上空からカラミティを狙って撃ちかける。

 カラミティは急機動でそれを避け、青と白のMSがビームライフルから放たれた射撃は、アスカ一家の後方の離れたところへ着弾する。

 カラミティと青白のMSが一旦離れたところで、アスカ一家は再び港湾へ向けて駆け出す。

「マユ……マユ、頑張って!」

 マユの手を引いていた母親が、そう声をかける。マユを振り返る余裕はない。

 ──────── その時。

 マユが石を踏み、姿勢を崩しかけた時、マユのポーチから、携帯電話が落ちた。

「あぁーっ、マユのケータイ!」

 ピンク色の、フィーチャーフォンスタイルの折りたたみ型携帯電話端末は、林道から少し外れた、土手下へと転がっていき、木の根元で止まった。

「そんなのいいから!!」

 母親は、ヒステリックに甲高い声を上げ、マユの手を引くが、

「いやーっ!! ん、うーっ!」

 立ち止まってしまったマユは動こうとせず、母親の手を振り払おうとすらした。

「取ってくる」

 そう言って、マユの後ろにいたシンが、飛ぶようにして、土手下へと降りていく。

 シンは携帯電話を拾うと、軽い身のこなしで林道へと駆け上がる。

「ほら、マユ!」

「お兄ちゃん!」

 シンが携帯電話を差し出し、マユが顔を綻ばせて、右手を伸ばした瞬間 ────

 閃光 ──── 衝撃、熱波に襲われ、その身は吹き飛ばされた。

「今、着弾したあたりに避難民がいたぞ!」

「誰かいるかーっ!?」

 オーブ軍の、避難民の誘導にあたっていた兵士が、林道の出口へと上がってくる。

「ぅ……あ……?」

 一時的な錯誤の状態から、軋む身を起こそうとした時、そこへ兵士が駆け寄ってくる。

「大丈夫か!?」

 兵士に抱えられて身を起こしたところで、視覚への認識が戻ってくる。

 最初に見えたのは、ピンク色の携帯電話。

 ── あれ、でも……あの腕は、どうしてあんなところにあるんだろう?

 そして、その携帯電話を握っている、2つの手。

 一方の小さな腕は、途中でちぎれている。

 そして、もう一方の腕は ────

 目を見開く。ピンク色の携帯電話を握った状態で、血濡れで倒れている ────

 

 ──── 兄、シン・アスカの姿。

 

 ──── 完全な覚醒、あるいは動揺と混乱を発生させ、回復した認識能力で周囲を見る。

 兄と同じように、四肢の関節があらぬ方向を向いた状態で、血溜まりの中に倒れている母。

 倒され吹き飛ばされてきた木の下敷きになり、斜面に血を垂らしながら倒れている父。

「っ……ぁ」

 千切れた小さな腕とともに、兄が握っている携帯電話のところまで、ふらつくようにして歩いていく。

「ぁっ……う、ぅぅ……ぅ……」

 屈み、利き手で携帯電話を拾おうとするが、なぜか、うまくいかない。

「お、おい」

 兵士が、その背中を追って声をかけてきた時。

 ゴッ、シュワーッ!

 カラミティとレイダー、そして、それを追う青と白のMSが超低空を通過し、発生した暴風に洗われる。

 それを感じて、振り返った。

 空中を飛び回りながら撃ち合う、カラミティ、レイダー、そして ────

 

 ──── 青と白のモビルスーツ、ZGMF-X10A『フリーダム』。

 

「っあ、うあぁぁっ!!」

 片腕となった身体を起こし、フリーダムの姿を視線で追いつつ、口から、その姿からは考えられないような声を溢れさせる。

「ぁあぁぁぁァァァっ、うぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 片腕を失った少女が、しかし泣き叫ぶのではなく、慟哭と憤怒の気迫に満ちた咆哮を上げる。

 ──────── マユ・アスカ、9歳。

 父母、そして兄を失った少女は、その歳、その姿からは想像もできないような、怒りを湛える瞳で、獣のような咆哮を響かせた。

 

 

 政治的独立を求めるスペースコロニー群、P.L.A.N.T.(プラント)と、プラント住民の大部分を構成する、遺伝子調整人間 ──── コーディネィターの自決を認めない地球連合の軍事的対立は、連合側の軍現場部隊の1人の独断により、プラントのコロニー群のひとつ、ユニウス7への核ミサイル攻撃、被弾したユニウス7の崩壊によって、全面戦争へと発展した。

 およそ1年半に渡ったこの戦争は、連合側の政治指導の空白と、プラント側の戦力の枯渇という事態により、休戦条約が結ばれることとなった。

 その血を血で洗う戦いの発端であり、悲劇の地であるユニウス7で締結された「ユニウス条約」において、今後の相互理解努力と平和とを近い、世界は再び安定を取り戻し ────

 

 ────…………次なる抗争へと進む為の、準備期間へと入った。

 

 

 

 ユニウス条約の締結から、約1年半後。

 C.(コズミック)E.(イラ)73年 10月2日。

 休戦後に、L(ラグランジュ)5点に新設された軍需工場コロニー群アーモリー・シティ。その1番コロニーであるアーモリー1において、新型MS搭載大型戦闘艦、LHM-BB01『ミネルバ』竣工記念式典の準備が進められていた。

 すでに第一線級の機体とは言えなくなった、ZGMF-1017『ジン』が、白銀色に塗られ、装飾を施されている。他にもZGMF-515『シグー』、TFA-2『ザウート』といった、先の大戦で使われ、余剰となったモビルスーツに、装飾を施す作業が行われている。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 格納庫の路地から出てきたジンと、1台の軍用オフローダーの進路が交錯した。

 ドライバーが急ハンドルを切り、それにカウンターを当てて、体勢を立て直す。寸での(ところ)で接触事故を免れた。

「ん、もう! 安全確認義務違反、再講習6時間だぞ」

 オープントップのオフローダーの、助手席に乗っていた少女が、接触しかけたジンを振り返って、白い手袋を嵌めた右手の指でその頭部を指し、むくれたような表情でそう言った。

 コーディネィターの優位性による教育課程の圧縮と早期の精神的成熟を理由に、成人が13歳とされているプラントだが、それでもその少女は、このような場所にいるには幼すぎた。

「ははっ、厳しいな、マユは」

 運転席でステアリングを握る、ヴィーノ・デュプレは、苦笑しつつ、からかい混じりにそう言った。

「あ、ヴィーノお兄ちゃん、私のことバカにしてる?」

「いえいえ、そんな事ありませんよ、赤服(ZAFT Red)様」

 ヴィーノがマユ、と呼んだその少女に、どこまで本気で怒っているのか解らない怒り顔で、ヴィーノに向かって抗議するような声を出す。それに対し、ヴィーノは、やはり(おど)けた様子で、前を向きつつ苦笑しながら、茶化すようにそう言った。

 

 ──── マユ・アスカは、連合制圧下のオーブから脱出した後、トダカというオーブ軍人に支援されていた。

 しかし、地上で大半を占める、コーディネィト非施術者 “ナチュラル” の反コーディネィター感情、大西洋連邦のプロパガンダに端を発するオーブ出身者への悪感情、これらの高まりにより、マユら、オーブのコーディネィター孤児を地上に住まわせておくことに危機感を感じたトダカは、彼女らをプラントに移住させた。

 プラントに渡ったマユは、何かの決意を固めたかのように、数ヶ月の講習の後、プラント移住者向けの教育検定で飛び級の判定を得ると、ZAFT軍事アカデミーに入学した。

 入学後も優秀な成績を維持し、特にMS搭乗員としては特段の才覚ありと判定された。

 アカデミー修了時は、その成績上位者に贈られるZAFT上級隊員としての証、ZAFT・レッドを進呈された。

 ただし、年齢において本来の規定年齢に達していないマユのZAFT・レッドは、名誉称号扱いであり、規定人数の20人の中には含まれていない。

 

「んもう、そんな嫌味っぽい言い方しなくてもいいじゃない」

 マユは、まだむくれているような様子で、腕組みをしながら、助手席に腰掛け直した。

「悪い悪い」

 ヴィーノは、ニタニタと笑ったまま、言う。

「でも……、ま」

 マユは、膝に肘を突いて頬杖をつくような姿勢になり、言う。

「明日はミネルバの竣工式、それが済んだら、ヴィーノお兄ちゃん達ともしばらくお別れかぁ」

 マユには、同じMS搭乗員養成過程修了者のZAFT・レッド、それにアカデミー内でも “お隣さん” である整備要員養成課程修了者、その中に数人、特に親しい者がいたが、そのうちでもヴィーノら特に親しい者がミネルバへ、他の者も各実戦部隊へと配属されていく。

 その中で、流石にZAFTでもいきなり実戦部隊というのは回避したのだろう、マユには教練隊付となる辞令が出ていた。

「就役後は月軌道艦隊って言われてるけど、そうだとすると戻ってくるのは、短くても3ヶ月は先、だな」

 ヴィーノは、口元に笑みを残したまま、そう言った。

「今日はせいぜい、騒いどかないとね」

 マユが笑顔で言う。

 歓送迎会と言うわけでもないが、正式配属前の最後の1日ということで、仲間内でちょっとしたパーティーと言うか、そんな事を予定していた。

 2人も、その買い出しへ行く途中。なので、2人は私服姿だった。ヴィーノは、エメラルドグリーンのシャツにコットンパンツ。マユは、レモンイエローの、短い袖付きのアウターキャミソールに、白いミニスカートという姿に、普段から右腕だけに着けている、肩口近くまで届く白い長手袋、という出で立ちだった。

 オフローダーは基地・工廠施設を抜け、隣接する商店街の近くで、一旦路肩につけて停車する。

 助手席から、マユが路上に降りる。

「それじゃ、俺、ミレッタやショーン達拾ってくるから」

 ヴィーノは、ステアリングとシフトレバーに手をかけたまま、降車したマユの方を向き、そう言った。

「うん、また後でね」

 マユは、そう(こた)えつつも、ヴィーノの方に視線を向けたまま、歩き出した。

 ──── ドンッ

 マユは、歩く方向から衝撃を受けて、跳ね返されるように尻もちを突いた。

「大丈夫か、マユ!?」

 ヴィーノが、マユの背後から心配した様子で声をかけてくる。

「う、うん……」

 マユは、そう返事をしつつ視線を上げ、ぶつかってきた相手を見る。

「すいません、他所見していて……」

 相手が私服姿の人間だと確認できた時点で、マユは、謝罪の言葉を口にしながら、相手の顔を見る。

 年格好は、兄と同じ ──── いや、それは2年前の話だから、兄より少し年下、自分との間ぐらいの年格好だろうか? 緩いクセのある金髪をショートカットにした、可愛らしい顔立ち、と言っていいだろう、自分よりは年上だろうが、少女。

 相手は転ばなかったのか、先に立ち上がったのか、突っ立った状態でマユの顔を凝視している。

「あ、あの……」

 立ち上がったマユが声をかけようとしたが、

「おーい、何やってんだ、行くぞ、ステラ」

 彼女の連れか、2人組の若い男性 ──── 片方は少年と言っていい年格好 ──── が、少し離れたところから、彼女に声をかけてくる。

「あ、うん」

「え、あ、ちょっと……」

 ステラ、と呼ばれた少女は、短く返事をすると、マユが声をかけようとするのも構わず、小走りに走っていってしまった。

「なんだ? あいつら」

 ヴィーノが、怪訝そうな表情をしながら、呟くように言う。

「あれ?」

 マユが動こうとすると、何かが爪先に当たった。

 金属の棒のように見えたそれを、マユが拾い上げる。

「あの人の落とし物かな……」

 そう呟きながら、それを観察する。

「なんだい、そりゃ?」

 身体を乗り出すようにして、ヴィーノが覗き込んでくる。

「鉄の扇子……?」

 一点で止まったそれを開くと、複数の金属の板がつながった状態で、扇の形に広がった。

 マユは、扇子の存在については知ってはいたが、このような重い金属製の物を見るのは初めてだった。

 マユ、ましてやヴィーノには知る由もなかったが、それは鉄扇と呼ばれ、れっきとした武器とされるものだった。

 畳めば寸鉄として打撃に、開けば刃として斬りつける事ができる。

 ただ、実用性があるかと言うと微妙な処で、護身用の予備武装、あるいは武人の装飾具としての性格が強かったとも言われる。

「あの……ステラって人が落としたのかな?」

 マユは、一度、ステラ達の歩いて行った方に視線を走らせつつ、そう呟いた。

「ほっとけよ。あんなぶつかっておいて、こっちは謝ってるのに黙っていっちゃうようなヤツのモン。じゃなきゃ貰っちゃえ」

「そう言うわけにもいかないでしょ」

 ヴィーノの呆れ混じりの言葉に、マユは咎めるような声を出した。

「後で届けておかなきゃ」

 そう言って、マユはポケット付スカートの、そのポケットにその鉄扇を仕舞った。

「それよりヴィーノお兄ちゃん、いいの? ゲイルお姉ちゃん、遅れると怖いんじゃない?」

 マユが、顔の険しさを取り除きながら、ヴィーノを振り返って言う。

「わ、そうだった」

 ヴィーノは、ハッと気がついたように言い、クルマのインパネに置かれていたクロノグラフの文字盤を見ると、げっ、と驚いたように、慌ててシフトレバーを掴み、ギアを入れた。

「それじゃ、打ち合わせの場所で!」

「うん」

 マユとそうやり取りしてから、ヴィーノはクルマを発車させる。

 マユは、それを見送ってから、自分も早足で商店街へ入っていった。

 

 ステラ ──── ステラ・ルーシェは、同行者のスティング・オークレー、アウル・ニーダとともに、マユ達とすれ違う形で、ZAFT軍組織・工廠地区の門のひとつまで来ていた。

「ん、どうした? ステラ」

 年長に見えるスティングが、守衛とやり取りをしている余所で、ステラが自分の服をまさぐる様にしているのをみて、アウルが不思議そうに声をかけた。

「ないの、あれ……」

 ステラは、その仕種を続けたまま、アウルの方を向かないまま、答えた。

「あ、あの変な、鉄の団扇みたいなやつか」

「うん……せっかく、ネオに貰ったのに……」

 アウルは、特に気にもかけていないかのように言ったが、ステラは、気落ちした声を出した。

「どうした?」

 やり取りを終えたのか、スティングがアウルの更に背後から近づいてきて、2人に問いかける。

「あ、ステラがあの変な団扇みたいなやつ、なくしちまったみたいでさ」

「どこかに落としたのか?」

 アウルが軽い口調で答えると、スティングは、少し表情を険しくして、ステラに視線を向け、訊ねる。

「解らない……」

 ステラは、そう言いながら首を小さく左右に振り、気落ちしたように俯く。

「今更しょうがないっしょ、予定通りにいかないと、またネオの癇癪が爆発すっぞ」

 アウルが、肩を竦めるようにしつつ、軽薄な口調でそう言う。

 そうこうしているうちに、彼らの傍らに、軍用車が停車する。

「速く乗ってください、歩哨に怪しまれます」

 運転席の、ZAFT警備兵姿の男が、スティング達に声をかけた。

「行くぞ、ステラ」

「うん……」

 スティングに促され、ステラは、後ろ髪を引かれながらも、2人と共にクルマに乗り込んだ。

 

 それからしばらくして。

「さてと」

 ヴィーノ達と別行動していたマユは、一足先に一旦、基地・工廠施設内に戻ってきていた。更衣室で、ZAFT・レッドの上着の袖に腕を通している。

「機材の授受がこのタイミングとか、ちょっと慌ただしいけど……」

 マユのZAFT・レッドは丈が、マユの体格を考えたとしても短めで、下は白いハーフパンツを履いている。

 個人の主張を尊重するというZAFTの性質上、特に女性のZAFT・レッドは、ボトムをスカートにしていたりすることが多い。

 むしろ、本来のスタイルのまま着用しているのが、シホ・ハーネンフースぐらい、という有り様だ。

 マユは、スカートを片付けようとして、布にしてはズシリとした重さを感じた。

「あ……」

 ポケットに入ったままになっていた鉄扇を取り出す。

「ちょうどいっか」

 そう呟いて、鉄扇をハーフパンツの尻ポケットに移すと、左前ポケットから携帯電話 ──── オーブの頃使っていたフィーチャーフォン型汎用OS機ではなく、タッチスタイルのスマートフォンを取り出し、画面を点灯させ、ロックしたまま通知欄を見る。

「ヴィーノお兄ちゃんから返事ないな……やっぱり、ゲイルお姉ちゃんに絞られてるのかな? ミレッタお姉ちゃんかな?」

 画面を消灯させたスマートフォンをポケットに戻しながら、更衣室を出た。

 教練用に回されてくる、TMF/A-802『バクゥ』初期型が格納されているハンガーへと向かう。 ──── その途中。

「おろ?」

 倉庫街の路地を抜けていく中、見覚えのある金髪が視界の端を()ぎった。

「あ、やっぱりステラさんだ」

 その姿を確かめると、尻ポケットに鉄扇が入っているのを確認してから、ステラを追って駆け出した。

「おーい、ステラさーん、ちょっと待ってよー!」

 マユは声を張り上げるが、工廠内に響くMSや車両の騒音で聞こえないのか、ステラ達は小走りに駆けていってしまう。

 マユは、しばらくステラを追いかけたが、やがて見失ってしまった。

「はぁ……はぁ…………あれ?」

 マユが息を整えていると、その事に気がついた。

 ハンガーのシャッターのひとつが、人が通り抜けられる程度に開いている。

「どーしてこの扉、開けっ放しになってるの?」

 そう言いながら、中に誰かいるのかと、そのハンガーの中に進入する。

 ハンガーの内部には、3機のMSが、立った状態で保管位置に置かれている。

「…………」

 鉛色のMS、非通電状態のPS装甲。ツインアイの頭部。

 それを見て、マユは立ち尽くす。

 自然と、脳裏に青と白のMS。

 フリーダムがカラミティ、レイダーと乱戦を繰り広げる。

 その足元には避難民。大部分は無辜の一般市民の筈だった。

 その中に、自分達もいた。

 ポーチから零れ落ちる携帯電話、我儘を言う自分、拾ってくると土手を駆け下りていった兄。

 閃光。

 衝撃。

 熱。

 そして ────

 

 ── あの時、私があんな我儘を言わなければ…………

 

 そこまで思考が進んだところで、マユは、我に返ると、ぶんぶんと首を左右に振り、フラッシュバックしかけた記憶を振り払う。

「こんな事してる場合じゃなかった」

 そう呟く。

「この中にいるとしたら、ステラさん達は、マイウスの人達かなにかなのかな?」

 マイウス・シティはプラントを構成するコロニー群のひとつで、主に機械工学、重工業系の研究・製造拠点となっている。

 ZAFTのMSの部品の多くは、ここが由来だ。

「ステラさーん、いますかー?」

 マユは、そう声を張り上げながら、階段を上がって、モビルスーツコクピットにアクセスするキャットウォークに上がる。

 キョロキョロとあたりを見回し、フロアを見下ろしながら、マユが入ってきた方から一番奥のMSの前まで来た時。

 タタタタタ…………

「っ!?」

 発砲音に、一瞬驚いた表情になり、一瞬後にその表情を険しくする。

 MSのメンテナンス・コントロールルームの方からだった。

 この位置からは詳細は解らないが、尋常な事態ではない事態が発生している事は理解できた。

 咄嗟に、そのMSのコクピットハッチを開き、その中に身を隠し、ハッチを開いたまま、ハンガー内の様子を伺いながら ────

「う……」

 腰ホルスターの拳銃に手を伸ばそうとして、丸腰である事に気がついた。

 左手で腰を探った時、硬いものの感覚があった。

「…………なんとかなるか……っ」

 マユはそう言い、尻ポケットから取り出した鉄扇を左手に握った。

 発砲音が止んだ。マユがコクピットハッチから身を乗り出して状況を確認すると、コントロールルームから出てきただろうZAFTの整備員が、血濡れで倒れている。

 そして、続いて通路から出てきたのは ────

「!?」

 マユが確認したのは、ステラの連れとして記憶している、2人の男性だった。

 ハッチを開けたまま、一旦、MSのシートに腰を下ろす。

「まさか ──── ステラさん達は、テロリスト……!?」

 険しい表情で呟き、そして、身体に緊張を走らせる。

「よし、行くぞっ!」

 マユには、声だけではどちらか解らなかったが、ステラの連れの男のどちらかだろうと判断した。

 カンカンカンカン、と、キャットウォークを駆けてくる足音が聞こえてくる。

「!」

「!?」

 マユが隠れていたコクピットに、ステラが入ってこようとし、マユと正対する形になった。

「っ、このぉっ!」

 先程の、どこか不思議ちゃんのような雰囲気とは異なり、明らかな敵意を露わにした表情で、ステラはマユに掴みかかろうとする。

「っくっ!」

 ステラの右手がマユの左手を掴む。マユがそれを解こうと右手を伸ばし、さらにその手首をステラが掴もうとする。

「ぐぬぬ……」

「ぐっ!!」

 文字通りのがっぷり四つに組んだ状況になってしまっていたが、僅かな後、

「アスカ流頭突きぃっ!!」

 と、マユは、一旦自身の腕を引くようにして、ステラが前のめりの姿勢になった瞬間、そこへ強烈なヘッドバッドを打ち下ろした。

 もちろん、アスカ流、なんてのはアドリブで思いついただけのものである。

「あだだだだ……」

 マユの方も目がくらんだ状態になってしまったが、ステラは、意識を失って、そのマユの身体に向かって倒れ込んでくる。マユは、再度シートに座る形になった。

 ズガァアァァン!!

 ドガァッ!!

 響いてきた、爆発音、衝撃音で、マユは混濁しかけた意識を取り戻す。

 コクピットハッチの開口部から覗くと、並べられていた他の2機が起動し、VPS装甲に色がつき、ツインアイを灯らせた状態で、その腕、武装で、ハンガー内部を破壊し始めた。

「ちょっ…………ど、どうなってるのよ……っ」

 そう言いながら、マユは、身体を動かし始めていた。気絶しているステラの身体を縮こまらせて、コクピットのデッドスペースに動かないように押し込む。

「ごめんね、ちょっと窮屈かもしれないけど……」

 そう言って、シートに座り直す。

 コクピットハッチを閉じ、MSの起動スイッチを押す。

「私に使えるかな…………?」

 そう言いながら、OSの起動画面を見つつ、シートベルトを締める。

 

 Generation

 Unrestricted

 Network

 Drive

 Assault

 Module

 WEAPONRY

 

 ZGMF-X88S GAIA

 

「ガイア……」

 マユは、起動画面に表示された機体名を見て、それを呟く。

「設定デフォルトか……動かないよりマシってだけだね」

 マユがそう呟いた時、

『おいステラ、何をモタモタやってんだよ』

 と、通信モニターに現れた、ステラと同じくらいの年格好の少年が言う。

『早くしないと、ネオに怒られちまうぞ』

『急かすなアウル。全部が資料通りとは限らないんだ』

 別の、2人よりは年嵩に見える、若い男性が、そう言った。

 2人とも、先程見た顔だった。

 ── この人たち……ZAFTのMSを奪うために?

 そう認識すると、マユの頭に、一気に熱が集まってきた。

「武装は……よし!」

 OS画面で一通り確認すると、通信と同時に外部スピーカーのスイッチをONにする。

『いいかげんにしろぉっ!!』

 ガイアのヴァジュラ・ビームサーベルを抜き、構えさせる。

『げっ!?』

『何!?』

 アウルと呼ばれた少年が、間の抜けた声を出す。もう1人の強奪犯も驚愕の声を上げた。

 

「そんなに戦争がしたいの!? アナタ達はっ!!」

 





というわけで、SEED FREEDOM見た結果、前からウズウズとしていた本作の書き始めを投下しました。
ただ、現状他にもやっている作品がありますので、こちらは余裕が出来次第、と思っています。
反応が良ければ、すぐに続きを書くかもしれません。

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