機動戦士ガンダムSEED Destiny “M” 作:神谷萌
「『ボルテール』と『ルソー』が、メテオブレイカーを持って先行しています。間もなく到着するかと」
ミネルバ、CIC。
アーサーが、デュランダルに向かって報告した。
「そうか。我々も急ごう」
ゲスト席に座っているデュランダルが、そう言う。
「地球連合の方からは、何か連絡はないのですか?」
タリアが艦長席を傾け、デュランダルに問いかける。
「まだ連絡はないが……だが、今から、月から
そこまで言いつつ、デュランダルはCIC内を見渡すように顔と視線を動かす。
「皆、全力で事態にあたってくれ」
「ハッ!」
CICクルーの総員が、一斉に
「こうして改めて見ると、デカいな……」
「当たり前だ、住んでるんだぞ俺達は。似たような場所に」
ZAFT・ナスカ級宇宙戦闘艦『ボルテール』。
CICの大きなメインディスプレイに映し出された、荒廃しつつも原型を残しているユニウス7を見て、ディアッカ・エルスマンが呟くように言うと、傍らに居た、と言うより、ディアッカがその傍らに付き従っていた、白服の士官姿の男性、イザーク・ジュールが、僅かな呆れを伴いつつも緊張感を保った口調で、言い返した。
「それを砕けって今回の命令が、どんだけデカい仕事かって理解できた、って話だよ」
ディアッカが、軽口のような内容に反して、まったくおどけた様子のない締まった表情で言う。
イザークは、部下であるボルテールのCICクルーを見渡して、檄を飛ばす。
「いいか、たっぷり時間があるというわけじゃない。追ってミネルバも到着する。手際よく動けよ!」
「了解!」
ボルテールの格納庫では、モビルスーツと、それが運搬する小天体破砕装置『メテオブレイカー』の準備が進められていた。
「あ」
「君は……」
ミネルバ、居住区から格納庫へつながる通路。
マユがエレベーターから降りてきたところで、アスランと出くわした。
「アレックスさん、でしたか……」
マユは、アスランにそう声をかけつつ、努めてニュートラルな表情を保つ。
「もう知ってるんだろう? 俺の本当の名前は……アスラン・ザラだ」
アスランは、どこか険しい表情をしつつ、マユにそう名乗る。
だが、それを聞いても、マユは特にそれに対するリアクションをとらなかった。
「────……そうですか、では、私はガイア……自機の確認がありますので」
どこか、キョトン、とした様子でアスランを見ていたマユだったが、僅かな沈黙の後に、そう言って、その場を離れようとする。
「あ、ま、待ってくれ」
「……何か?」
アスランが反射的に呼び止めると、マユは、振り返りつつ、あまり愉快そうではない表情で訊く。
アスランは、一瞬だけ逡巡した後、
「君は、オーブ出身だと聞いた。それがなんで、ZAFTに?」
と、マユに向かって訊ねる。
「……私には家族がいません」
「え?」
マユの答えに、一瞬だけ間の抜けた表情になってしまったアスランだが、すぐに申し訳無さそうな表情になる。
「そうか……前の戦争で……済まない」
「いえ、そこまで気を遣っていただく事でもありませんから」
「ただ ────」
マユは、そう言い残して立ち去ろうとしかけたが、アスランが更に言葉を発したのを聞いて、止まる。
「それでも、プラントへの移住は解る。ただ、ZAFTにいるのはどうしてだ? 君みたいな子供が……」
「…………」
アスランの問いかけに、マユは僅かに逡巡する。
「……力が欲しいから、そう言ったら軽蔑しますか?」
「…………軽蔑するということはないが」
マユの答えからの問いかけに、今度はアスランの方が、軽く当惑したように言う。
「それは、オーブでは叶えられないことなのか? ────」
「──── ZAFTと違って、今すぐにと言うわけには行かないだろうけれど」、と、アスランは続けるつもりだったが、それより先に、
「はい」
と、マユは即答していた。
「できませんし、それに関わらず、オーブに戻るつもりはありません」
「なぜ?」
アスランは、僅かに怪訝そうに眉間に皺を寄せ、重ねて問いかけ、
「さっきは、カガリ ──── 代表の事を、庇ってくれたじゃないか」
「あれは、別にアスハ代表だから庇ったわけじゃありません。自分も同じ意見だっただけです」
「それは、オーブを……ウズミ前代表を、その……」
「そうではないです」
言い辛そうにしつつ、さらに問いかけようとしたアスランの、その言葉が途切れたところで、マユが言う。
「私個人は、もう心底どうでもいいんですよ。オーブは。私も勝手に出ていったんだから、オーブはオーブで、好きにすればいい」
「で、でも」
アスランは、戸惑った様子で吃りながら、それども食い下がる。
「君は、さっき力が欲しいと言っていた。それは、君のような思いをする人を出したくないから、なんじゃないのか?」
「違いますね」
重々しい口調で言うアスランに対し、マユは、まずそう即答したものの、その後から、やはり難しい表情をする。それは言葉を選んでいる様子だと、アスランにも理解できた。
「────……いや、厳密にはそうとも言える、のかな? 負けたくない、そう、負けたくない相手がいるんですよ。より、直接的な意味で」
「負けたくない、相手?」
「フリーダムです」
「!!」
マユの答えに、アスランは目を見開く。よろめきかけるのを、必死に堪えた。
カガリは、しばらく部屋で考え込んでいた。
『そもそも、オーブが主権回復できたのは、アイリーン・カナーバ暫定議長ら、プラント側の交渉手腕に依るところが多いでしょう! プラントが原状復帰を選択したからオーブは再独立できたんでしょう!? それをあたかも連合の立場に立って、まるで大西洋連邦の代弁者に成り下がるんですか! あの戦争で犠牲になったオーブの市民はなんだったんですか!!』
そう声を張り上げる、自分達よりもさらに幼い少女の、乱暴さはないが明らかに怒りを伴った言葉。
カガリにとって、彼女の主張は許容し難く、だが、反論ができないものだった。
── だけど。
カガリは思う。それだけだったら、今頃ただ、父 ──── ウズミ・ナラ・アスハの理想と、少女の憤怒との間で板挟みになって、自身の無力さにみっともなく泣き言を言っていたかもしれない。
だが、その後の出来事が、ただ悲壮にくれる事を許さず、カガリの思考と感情を複雑にさせていた。
『いえ、言われても仕方のないことだと思います』
内容だけ考えれば、良識に
スツールに腰掛け、しばらく考えを巡らせていたカガリだったが、気がつくと、アスランがいない。
── しばらく、気持ちと考えを整理させてくれ、とは言ったが……
とは言え、何を考えているのかはだいたい解る。
── 艦橋だろう。
カガリは、そう思い、アスランを探そうと部屋を出た。アスランが何を考えているか想像すると、状況もあって待っていられなかった。
居住区から、艦橋や格納庫につながるエレベーターに乗り、その扉が開いたとき ────
「私個人は、もう心底どうでもいいんですよ。オーブは。私も勝手に出ていったんだから、オーブはオーブで、好きにすればいい」
カガリは、アスランの後ろ姿を見つけたが、それに声を掛けるより早く、アスランと会話している、あの少女の声が聞こえてきた。
反射的に、エレベーターホールからの別の通路の角に身を隠してしまいつつ、ふぅ、と小さくため息を
── そうか……
カガリには、ある程度だが、理解できてしまった。
最初、自分に反発したのは、あくまでプラント、ZAFTの人間としてだ。実際には、オーブを恨んでいるわけでもなんでもない。批判するつもりすらない。だから、自分の言っていることの方に筋が通っていると思えば、普通に賛同する。
── 好きの反対は、嫌いじゃなくて無関心、だったな……
そう考えていたカガリだったが、そのうちに、それを聞いてしまった。
「負けたくない、そう、負けたくない相手がいるんですよ。より、直接的な意味で」
「負けたくない、相手?」
「フリーダムです」
「!!」
カガリもまた、反射的に声が出てしまうのを、口を押さえて堪える。
「私の家族は、あれに殺された……両親も、兄も、私の目の前で」
マユは、俯きがちに視線を伏せつつ、低い声で、そう言った。
「それは……オーブを攻撃していたのは、連合だったじゃないか。フリーダムは、それを阻止するために……」
「そんな事は、どうでもいいんです」
戸惑いながら反論しようとするアスランの言葉を、ピシャリと遮る。
「島民の避難は終わっていなかった、そこでドンパチやった、それで私の家族が死んだ。私にとってはそれが事実、それが全てです」
先程までより、更に淡々として、却ってそれが空恐ろしく聞こえるような口調で、マユはそう言った。
「だが、フリーダムは……先の大戦で、パイロットごと……」
アスランは、その本人の名前が出てきてしまうのを、必死に回避しながら、言う。
「別にフリーダムそのものに復讐がしたいとか、そう言うことだけじゃありません。同じような存在が、周囲の損害考えずに暴れる人間が出てきた時に、私はそれに負けたくない。そう言うことです」
そこまで言い終えてから、マユは、口元に薄く笑みをつくった。
「そう……か……」
アスランの何処か諦観したような声。
マユの話している様子を見て、カガリは戦慄するように身体を震わせていたが、ぎゅ、と拳を握り、一度部屋へと引き返した。
「それでは、失礼しますね」
マユが格納庫の方へと立ち去った後、アスランは、艦橋へと向かった。すぐ近くにカガリがいたことには、彼は気付いていなかった。
「ユニウス7まで、距離1,200」
CIC。アーサーがそう告げる。
「光学映像出ます」
メイリンが言い、メインディスプレイにユニウス7の映像が出された。
「ボルテールと通信は?」
「それが、電波障害が発生しているようで……」
タリアが問いかけると、メイリンが、困惑したように言い、実際にタリアを見る。
「リンクが張れません。今、レーザーで試してみます」
「妙ね……」
タリアが、怪訝そうな顔で呟く。
「ユニウス7の移動が電波異常を引き起こしているのだとしても、地球の大気圏に捕まるまでは、それほど強いものにはならないはず…………」
そのタリアの後ろで、デュランダルも険しい表情をしていた。
すると、そこへ、
「議長、お願いがあって参りました」
と、アスランがCICに入室してきて、席の横からデュランダルに声をかけた。
「どうかしたのかねアスラン君? ……いや、今はアレックス、と呼んでいたほうが良いのかな?」
デュランダルは、僅かに気障さを伴って、そう訊ねる。
「無理を承知でお願い致します。どうか、モビルスーツを1機、お貸しいただけないでしょうか?」
「ふむ…………」
「確かに無理な話ね」
デュランダルが直接答える前に、タリアがそれを聞きつけて、振り返る。
「今は他国の民間人、それも政府要人に近い人物に、そんな許可が出せると思って? それでなくともあなた達の取り扱いには……カナーバ暫定議長の取り計らいを無駄にしたいの?」
アスランの言葉が、大胆で荒唐無稽な提案に聞こえたタリアは、流石に呆れを隠せず、そう言ってしまった。
「解っています。でも、俺は彼女を…………」
「ん?」
「え?」
「いえ! ただ、この状況をただ見ていることができないのです」
アスランが言いかけた言葉に、デュランダルとタリアが反応したが、アスランは、とっさに訂正するような声を出しつつ、態度では慌てた様子を見せずに、言う。
「使える機体があるのならば……」
「気持ちはわかるけど……」
アスランの態度に、タリアは困惑した様子で言うが、
「良いだろう、非常事態ということで、私の責任で1機、貸そうじゃないか」
「議長!?」
会話を聞いていたアーサーが、素っ頓狂な声を出して立ち上がり、デュランダル達の方を見る。
「ですが……」
タリアも好ましくなさそうに言葉を継ごうとするものの、
「戦闘ではないんだ、艦長……」
デュランダルは、それを敢えて遮る形で、言う。
「彼の操縦技量なら滅多なことは起きないだろう? 出せる機体は1機でも多いほうが良い」
「貸せるとしたらリック・ジンオーカーだけですが、それでもよろしいかしら?」
ため息混じりに、タリアは言う。
「はい、構いません」
── 君は、君は戦うべきじゃない! そんな事で戦うべきじゃないんだ!!
『艦内はコンディション・イエロー継続』
メイリンの言葉が告げる。
『MS隊に発進命令、ガイア、発進してください』
「了解、マユ・アスカ、ガイア、行きます!」
LEDのガイド灯が待機位置から発進ハッチに向かって順次点灯し、カタパルトが作動する。外部電源ケーブルを切り離しつつ、ガイアはユニウス7の待つ宇宙空間へ向かって射出された。
『通達』
通信越しに、メイリンが告げる。
『臨時のパイロットが1名、参加するとのことです』
「臨時のパイロット?」
発進の順番待ちをしていたデイルが、戯け混じりの怪訝さを表情に出して言う。
『自分だ』
通信用ディスプレイに、CICのメイリンに変わって、すでにモビルスーツのコクピットに収まったアスランが表示される。
『もう皆知っていると思うが、俺の本当の名前はアスラン・ザラ。元ZAFTだ。訳合って姿を隠していたが、この事態に居ても立ってもいられず、デュランダル議長にお願いして加えさせてもらった。よろしく頼む』
「はぁ……」
自身からの音声送信は切ったまま、自機のコクピットでミレッタがため息を吐いた。
『こちらこそ! ヤキンの英雄とご一緒できるなんて光栄です! よろしくお願いします!!』
対して、ルナマリアの方は、どこか興奮したように言う。
そのルナマリアのジェニスが発進する。続いてレイ機、ミレッタ機が、左右のMS発艦デッキからカタパルトで射出される。その次に、
「アスラン・ザラ、リック・ジンオーカー出る!」
と、そう宣言し、アスランに貸し出されたリック・ジンオーカーが射出された。
最後に、やや小型のメテオブレイカーの入った運荷コンテナを背負った、ショーンとデイルのリック・ジンオーカーが発進する。
作業ということで、もともと換装システムを持たないガイアを除き、いずれも軽装状態だった。
『マユ? マユ・アスカ、聞こえているか?』
「え?」
その声に気がつく。
『もう少し、君と話したいんだ。話したいことができた。後で、時間を貰えないだろうか?』
「デートのお誘いでしたら、お断りいたしますが」
マユは、少し憤ったかのような口調と表情で言うものの、直後に表情を崩し、苦笑した。
『そんなことじゃないんだ。重要な話がしたい』
「えっと……」
冗談に対して、真剣な面持ちを崩さないアスランに、マユは一瞬、気圧されたような、リアクションに困ると言った様子になる。
──── その直後。
「! 待ってください、その話は後で!!」
サブコンソールのサイドディスプレイの表示に気が付き、慌てつつも混乱のない行動で、通信をミネルバに切り替える。
「ミネルバ! ユニウス7の様子がおかしい、戦闘時のような反応がある!」
「エクステンデットは出さないので?」
「ああ、
「そうですな……」
「代わりに、ダガー隊を偵察装備で出撃させろ。気が付かれない範囲から、映像をたっぷり撮影させてこい」
「了解」
アスランって絶対こういうとき冗談が通じないタイプだよねー……
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