機動戦士ガンダムSEED Destiny “M”   作:神谷萌

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仮面の女

 ── 私は……

 モビルスーツのコクピットの中で、1人自問する。

 ── 私は、何故ここにいるのか……

 MSの操縦法は解っている。自身の手足、いや、それ以上とさえ思える程、自在に操る事ができた。

 だが、()()()()()()()強烈な違和感がある。本来の自身の在り様ではないという感触が拭えないのだ。

 それどころか、時折、()()()()()()()()()()()()()光景が、脳裏をよぎる。得体の知れない何かが、自身の記憶の中に強引に詰め込まれている感覚があった。

「私は、…………どうして……」

 声にして口から出しかけた、その時。

 予定されていた識別信号を発しているMSが2機、アーモリー1の外壁に穴を開けて、飛び出してきた。

 ── 2機……?

 彼()、ネオ・ロアノークは、パイロットスーツのヘルメットの下で、怪訝そうに声を出す。眉を(ひそ)める表情が見えてきそうだが、彼女の顔の大部分は、頭部の前面まで届く仮面で隠されていた。

 直後、意識を切り替える。

 最初の2機、アビス、カオスに少し遅れて、もう2機、MSが穴から飛び出してきた。

 1機は、赤く塗られているZAFTの新主力MS、ジェニス。

 もう1機は ────

『ネオ、すみません』

 通信用ディスプレイに、カオスのコクピットのスティングが通信を入れてきた。

「ステラは、失敗したのか」

 淡々とした怜悧な口調で、しかし明白に咎める様子でもなく、ネオはそう言った。

『はい』

 スティングは、哀しげな表情で言った。

「ならば……仇ぐらいはとってやらんとな!」

 アーモリー1の壁面の外側に張り付いていた、ガンバレルストライカーを背負った、パーソナルカラーの濃いワインレッドに塗られたGAT-04『ウィンダム』を、発進させる。

「MS隊、赤いやつを引き離せ。新型は、私がやる」

 

 

「──── っ、っ」

 空気の奔流から抜けると、スラスターを吹かして宇宙空間でほぼ静止させつつ、状況を把握しようとする。

「コクピット気密異常なし……ふぅ」

 マユは、声に出して確認しつつ、一瞬、緊張を緩めて小さなため息を()いてしまった。行き掛りでガイアに乗り込んでしまったため、パイロットスーツを着用していない。

 モビルスーツはそのものが宇宙服に例えられ、通常、コクピットは宇宙線防御や気密・与圧されているが、戦闘に使われるものだし、特に宇宙空間で登場する際は、宇宙服であるパイロットスーツを着用するのが普通だ。

 いや、マユ自身だけならまだいい。

 シートに座ったまま、そのシートの後ろ側を振り返る。

 そのデッドスペースにうまい具合にすっぽり嵌ったのか、膝を抱える姿勢で押し込まれたステラは、彼女自身の拘束も兼ねて、ありあわせのもので縛っていたこともあって、頭を打ち付けたりしている様子はなかった。

 再度小さなため息を吐いた後、前を向いて座り直す。

「バッテリーが危ないな……」

 サブディスプレイのコンディション表示を確認し、気になるところを声に出して呟いた、 ──── その直後。

「え、な!?」

 ロックオンアラート、まではいいのだが、ディスプレイに複数の警報が踊る。

「この!」

 横転するようにガイアを急機動させる。その次の瞬間、直前までガイアが存在していた場所を、無数のビームが薙ぎ払った。

「ドラグーン!?」

 教練隊配置の為に頭に叩き込んだZAFTのMS装備品技術から、その名を声に出しつつ、狙い撃ちされないよう急機動を続ける。

『マユちゃん!?』

 ルナマリアが、驚きつつ心配したような表情で通信を入れてくるものの、

「え、こ、こいつら!?」

 ガイアとの間を塞ぐかのように、2体のMSがルナマリアのジェニスの前に立ちはだかるかのように接近してくる。

 2機は低反射材塗料で暗めに塗られていたが、ここまで接近すれば、そのディテールを確認することができた。

「このMS、それじゃこいつら、連合なの!?」

 毒付き気味の困惑の声を出しつつも、エールストライカーを背負ったGAT-02L2『ダガーL』が、ビームサーベルを構えて斬りかかってくるのを、アンチビームバックラーで凌ぎつつ、自身のビームサーベルで斬り返そうとする。

「その機体、悪いが我々が頂いて行く!」

 ガンバレルを操作する度、ネオの頭の中でチリチリと、鋭い痛みではないものの刺激のようなものが神経を走るような感覚がある。だが、その自覚とは別に、身体は想定した操作を完了させていた。

 ガンバレルをやや迂回させるようにしながら、M70AMSATミサイルを発射させる。

「っ ────」

 マユは、ミサイルをガイアの急機動で躱すが、その回避した先に、2機のガンバレルがガイアの正面を占めていた。

「くっ ────」

 慌てて、さらに強引に捻ってかわそうとするが ────

 ── まずッ、間に合わな ────

 パ・パ・パ・パ

 マユがそう考えた次の瞬間、ビームガンの射撃が、的確にガンバレルを撃ち落としていた。

『待たせたな、マユ』

 通信ディスプレイに、金髪の美男子が表示される。

「レイお兄ちゃん!」

 マユの表情が明るくなった。

 灰白色のジェニス・アパリションが、『イントルーダーシルエット』を装着した状態で姿を表す。

 イントルーダーシルエットは、元々のシルエットシステムの計画からは外れて、ZGMF-X1000が採用するはずだった「ウィザードシステム」から『ガナーウィザード』をエクステンショナルシルエットシステムに移植したものだ。

 ──── 気が緩んだのも一瞬の事。

「!」

 ガイアのコクピットのロックオンアラートが鳴る。

 先程とは別の方向から、2機のガンバレルがガイアを狙って接近、射撃体勢に入ろうとしていた。

 ── 遠隔兵装の攻撃、だとするならその死角は!

「そこだぁァァっ!!」

 全力でガイアのスラスターを吹かし、一直線にウィンダムの本体へと向かっていく。

 バシュ、バシュッ!

 一瞬、ガイアを追うのが遅れたガンバレルを、レイが高エネルギー砲で撃ち落とした。

「くっ!」

 ネオは、ウィンダムの腰部に装備されているビームサーベルを、その右腕に構えさせようとするが、それより早く、ガイアがウィンダムの懐にまで接近してくる。

 ── どうする気だ!?

「こうだ!」

 ウィンダムの極至近距離まで飛び込んだガイアは、身体を腰で捻るようにして、既に起こしてあった右側のグリフォン2ビームブレイドで、ウィンダムに斬りつけようとする。

 間一髪、ウィンダムはアンチビームコーティングのシールドで、それを受け止めた。バチバチと火花が散る。

「!?」

 間髪入れずに、今度はマユが、ガイアにビームサーベルを構えさせようとするが、その僅かに間合いを取り直した瞬間、ウィンダムは腰元のラックに搭載されているスティレット・ロケットハンドグレネードを、ガイアに投げつけてきた。

 マユは、今度は自身が反射的にシールドでそれを防ごうとする。

 ドドドドンッ

「きゃっ!」

 爆圧でガイアが揺さぶられる。咄嗟に姿勢を保とうとするも、

「っ!」

 OSが未調整のため外部からの衝撃に対応しきれず、手動で姿勢を立て直す間に、ウィンダムがビームサーベルを構えて、上段から斬りかかってくる。マユは再度シールドで受け止めようとして ────────

 

 

「識別信号確認。LHM-BB01、アーモリー1管制とのリンク確認」

「気密正常、艦内線量に異常なし。全システムリンケージ、アップ確認。コンディションオールグリーン」

 アーサーの宣言に続き、メイリンが状況を読み上げる。

「索敵急いで! ガイア、ジェニスの位置は解る!?」

 タリアが険しい声で言う。

「ガイア、ルナマリア機、レイ機とリンク再接続」

 メイリンとは別の、男性オペレーターが告げる。

「ガイアの現在座標より相対方向、上55°、右22°、距離150に大型艦の反応、識別信号の整合なし!」

「それが母艦かね?」

 デュランダルが訊ねるように言った。

「おそらく」

 タリアは、短く答えた後、

「現状の反応パターンをデータベースに登録。以降、この目標の名称をボギー(Bogey)01(ワン)とする!」

 と、張り詰めた声で指示する。

「了解、不明艦の名称をボギー01に設定」

 男性オペレーターが(こた)えた。

「ガイアやルナマリア機、レイ機との通信は!?」

「……ダメです」

 タリアの問いかけに、メイリンが、ヘッドセットのレシーバーに手を当てつつ、表情を歪めながら言う。

「宇宙港の破壊の影響で、電波障害が激しく、通信リンク上がりません!」

「3機の状況は?」

「不明のMSと交戦中……相手の機数は3機…………あっ ────」

 

 

「このっ、いい加減にしてよね!」

 自身の行く手を阻むダガーLの1機が、ルナマリアのジェニスに、上段からビームサーベルで斬りかかってきたのを、それをシールドで受け止めながら、自機のビームサーベルで、ダガーLの腰部を、シールドを避けて左から右に横薙ぎに斬った。

「逃さないわよ!」

 もう1機のダガーLがルナマリア機から間合いを取り直そうとした瞬間、間髪入れずにルナマリアのジェニスが上胸部のオプションスナップに着けているエクステンショナル・アレスターのアンカーを発射した。

 ワイヤーでダガーLの左肩を絡め取ると、強引に手繰り寄せてその腰部にビームサーベルを突き刺した。

 

 

「不明MS、2機反応ロスト。ですが残り1機、ガイアとレイ機2機がかりで追い込めていません!!」

 メイリンが、緊張を緩めずに言う。

「主砲戦用意! トリスタン、イゾルデ起動、発射機にナイトハルト装填! ……アーサー、何やってるの!?」

 タリアは、指示を出しつつ、アーサーが情報ディスプレイの表示を見たまま、ぼうっと立ち尽くしてしまっている様子を見ると、彼に檄を飛ばした。

「え!? あ!」

 アーサーは我に返ると、本来の自身の席に着いた。

「照準、ボギー01。よーく狙って!」

 タリアがそう指示すると、

「彼らを援護する方が先じゃないのか? タリア」

 と、デュランダルがタリアに訊ねた。

「そうですよ、だから母艦を撃つんです。そうなれば相手はそれに対処しなければなりませんから」

 タリアは、口元に笑みを混じえつつ、デュランダルに説明した。

「照準よーし!」

「ナイトハルト全弾発射! 主砲撃ち方始めーッ!」

 

 

 ボギー01 ──── ミネルバクルー、ひいてはZAFTがそう認識したその(フネ)は、ミネルバのXM47『トリスタン』主砲の射撃に対して、加速しながら回避運動をとった。迫るミサイルを、CIWSで迎撃している。

「くっ、ここまでか!」

 ネオは、露わになっている口元を歪めて、声に出してそう言う。

 ネオのウィンダムとガイアとで、ビームサーベルでの剣戟になっていたが、間合いが開いた瞬間を狙って、ウィンダムはガーティー・ルーの方向へと加速して、急速に遠ざかっていく。

「! ま、待て!!」

 マユは、反射的にガイアでウィンダムを追おうとするが、

 ポーン・ポーン・ポーン

 と、この場に急行してきたミネルバが、3色の信号弾を打ち上げた。

「帰還信号!?」

 反射的に声を出したのは、ルナマリアだった。

「は、はふぅ……」

 マユは、それを見て緊張が一気に緩んでしまい、気の抜けたような表情で、ガイアのシートにもたれるように身を沈めた。

『マユちゃん、大丈夫?』

 通信ディスプレイにルナマリアの顔が表示される。マユが気を緩めた間に、赤いジェニスがガイアのそばに来ていた。

「え……あ、うん、えっと」

 心配そうな表情のルナマリアを見て、笑ってみせようとしたが、力が入り切らず、締まりの悪い笑顔になってしまった。

「うん、私は大丈夫……ありがとう」

 マユは、ルナマリアにそう答えてから、シートの後ろに意識を向けて、

「私は……ね」

 と、小さく呟いた。

『マユ、ルナマリア、ミネルバに帰還するぞ』

 通信にレイが割り込んできて、角が立たないようにした口調でそう言った。

「う、うん」

 レイの声を聞いて、マユは、少し焦った声で答えつつ、ガイアを操作してミネルバに向かわせた。

 

 

 一方 ────

 ボギー01 ──── 大型艦地球連合軍第81独立機動群『ファントムペイン』の母艦、MS搭載大型戦闘艦『ガーティー・ルー』。

 そのシルエットはかのアークエンジェルの発展形であることを示しているが、その性格は、主力艦であるアークエンジェルとは大きく異なる。

 内部に入り込んだ、スティング、アウル、ステラの行動と、その脱出を支援するため、搭載しているMSで、アーモリー・シティの軍港施設に奇襲攻撃をかけた。

 ナスカ級、ローラシア級の数隻を撃沈し、軍港から緊急発進しようとしていた戦闘艦を破壊して、その施設の一部を使用不可能にするなど、ZAFTの守備隊を一時的にほぼ沈黙させていた。

 だが、コロニーの内部での戦闘が長引き、その為に時間を浪費しすぎた。ZAFTの新造艦であろう、大型艦が迎撃戦に参加し、守備隊も立て直しつつある。彼らにとって、状況は少しずつ悪化していた。

 ドガガガッ

 MS着艦デッキに、ネオのウィンダムが、かなり乱暴に着艦する。

「艦長! 撤収!!」

 ネオは、この母艦の艦内通信網と通信がつながると、艦長のイアン・リー少佐に対し、少し荒い声でそう言った。

「撤退準備! 格納庫閉鎖!」

 ガーティー・ルーのCICで、イアンが叫ぶような声で指示をする。

「敵ミサイル第2波来ます!!」

 オペレーターが声を上げる。

 CIWSがミサイルを迎撃するが、数発は至近距離まで接近して炸裂した。ガーティー・ルーの艦体が揺さぶられる。

「ぐぅっ……」

 ネオが艦橋に入ってくる。その顔は仮面から露出している部分だけでも、苦悶に歪んでいる事が見て取れ、掻きむしるような手つきで、豊かに膨らんだ胸元を押さえていた。

「大佐!」

 ネオより明らかに年上のイアンが、ネオを階級で呼びつつ、心配そうな表情を向けて、ネオに駆け寄ろうとする。

「いらん!」

 しかし、ネオはそう言って、イアンを退けた。

「それより、状況はどうなっている!?」

「は……」

 言いながら、指揮官席に向かうネオに、イアンが説明をする。

「あまりよくありません。撤収のタイミングが遅れました。MSにも想定外の損害が出ています。敵は高速で、追いつかれるかも知れません」

 それを聞きながら、ネオは、指揮官席のボックスを開けて、平たいケースを取り出す。それを開くと、使い捨て注射器型の薬液アンプルが入っていた。

 その1本を取り出し、針を覆うアクリルカバーを外すと、左腕の袖を乱暴に捲りあげて、露わになった二の腕に、半ば無造作に注射針を刺した。

「もう少し引きつけて……補助推進剤タンクを分離して……爆破。……ハァ、敵のセンサー類を無力化して姿をくらます……ハァ……ハァ……」

 苦悶し、歯を食いしばりがちになってしまいそうになるのを抑えて、イアンにそう指示する。かなり苦しそうな様子だったが、薬の効果か、荒かった息が徐々に落ち着いていく。

「りょ、了解……」

 イアンは、自身も一瞬、ネオの様子に気後れしてしまったが、

「聞いたとおりだ、準備しろ!」

 と、艦のスタッフに檄を飛ばした。

「了解」

 ネオが息を整え、疲労の様子を見せつつある中、ガーティー・ルーのスタッフは、整然と命令を実行に移し始めた。

 





ネオ・ロアノークの設定は、旧版準拠なんですが、今回書き直すに当たって、
「うーん……登場人物の男女比がなぁ……どうするかなぁ……」
と、割と悩んでいたのですが、最終的に「まぁ同人の二次創作だし」ということで、旧版に引き続きこの設定としました。
後々、あるMSの扱いも原作と異なる予定ですし。

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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