機動戦士ガンダムSEED Destiny “M” 作:神谷萌
「ふぅ…………」
ミネルバの着艦デッキから、誘導に従って
『ストップ、そこでいいぜ』
音声だけの通信は、声はマユには聞き慣れたものだった。
ヴィーノの指示に従い、その場でシステムを
コクピットハッチを開く。
「よっ、お疲れさん、かな?」
1人の、やはり新人の整備員、それもマユの見知った顔が、外からコクピットを覗き込んでくる。
コクピットハッチにはタラップが当てられていたが、彼、ヨウラン・ケントは、ほぼ無重力下の浮遊で、そこへと来ていた。
「うん……あ、そうだ」
返事をして、コクピットのシートから立ち上がったマユだったが、その事を思い出して、背後を振り返った。
「どうした?」
マユの不自然な様子に、ヨウランもよりコクピットの奥を視認しようとする。
「女の子?」
シートの後ろから、その姿がはみ出してきているのを見て、ヨウランが問いただすように言う。
「うん、ほっぽりだすわけにもいかなくて、乗せてきちゃったんだけど……」
「…………そいつも、あいつらの仲間、いや、もしかしてガイアも……?」
困惑した表情で言うマユに、ヨウランは眉を
マユは、まず、コクン、と頷いて、ヨウランの推論を肯定しつつ、そのヨウランの方を向く。
「医務室に運びたいけど、まず艦長の許可を取らないといけないよね」
「そうだな」
マユが、困惑気な表情のままそう言うと、ヨウランも、少し苦い顔をして肯定した。
その時 ────
グワァアァァァッ……ォオォォォン……
「うわっ!」
「きゃっ」
ミネルバ全体が激しい振動に見舞われた。
「被弾!? 攻撃されたのか!?」
コクピットの外から、そんな声が張り上げられたのが、聞こえてくる。
「マユ、大丈夫か?」
やや切迫したような様子で、ヨウランが声を掛ける。
「う…………────」
「うん、大丈夫、よっ、と……」
マユは、シートとコクピット側面に手をついて、体勢を立て直そうとすると、
ブチブチブチブチッ
「!?」
「!?」
マユは、目を
何かに引っかかった感触とともに、マユのZAFTレッドのジャケットのボタンが弾け飛び、肩からずり落ちつつ前が大きく開いた形になってしまう。
マユは、とりあえずステラの手を拘束し、同時にガイアのコクピットのデッドスペースに固定する為に、ありあわせの布 ──── 自分の着ていたシャツを裂いて、即席の紐にしていた。
ジャケットが剥がされた結果、僅かな膨らみをジュニア用のノンワイヤーブラが包んでいるだけの、歳と全体の体格の割に妙に艶めかしい上半身が露わになった。
「被害確認!」
「艦体に損傷はありません! 全ステーション応答正常。格納庫で混乱が発生!」
激しい振動に見舞われた直後、タリアがその対応を指示していた。
男性オペレーターが返答すると、タリアはさらに矢継ぎ早に下令する。
「敵艦の位置は!? 再スキャン急いで! 次は撃ってくるわよ、CIWS起動、アンチビーム爆雷投射!」
「ボギー01、発見しました! 右88°、上68°、距離500!」
「引き離されたようだな……」
男性オペレーターの報告を聞いて、デュランダルが険しい表情で呟いた。
「ええ、やってくれます……こんな手で逃げようとは……」
タリアは、忌々しそうな表情、憤怒の口調でそう言った。
「だいぶ手強い相手のようだね」
デュランダルが更に言うと、今度はタリアは、艦長席のスツールを回してデュランダルを見つつ、荒い口調で言う。
「ならば尚の事、このまま逃がすわけには行きません! あの機体が敵の手に渡ればどうなるか……」
「ああ」
デュランダルも、短く同意の言葉を発した。
「今からでは議長に退艦いただく事もできませんが、私は本艦はこのままあの艦を追うべきだと考えています。よろしいでしょうか?」
「私の事は気にしないでくれたまえ」
タリアの問いに、デュランダルは険しい顔のまま答える。
「私だってこの火種、放置したらどれほどの大火になって返ってくるか……それを考えるのは怖い。現状では、あれの奪還、もしくは破壊は、何にも勝る最優先事項だと思ってくれて構わない」
「ありがとうございます」
デュランダルの返答に、タリアは、そう言ってから、
「トレースは?」
と、CICクルーに問いかける。
「可能です」
男性オペレーターの返答が帰ってきた。
「では、本艦は引き続きボギー01の追跡を行う。進路設定」
「目標トレース、進路設定」
「機関出力最大、最大戦速」
タリアの指示の下、ミネルバが増速し始めた、そのタイミングだった。
『タリア・グラディス艦長、報告いたします』
艦内通信用のディスプレイに、深刻そうなマユの顔が表示された。
デュランダルが、それを見て、僅かに、意外そうな表情をしたが、他のその場にいたクルーは、それに気づいた様子はなかった。
『事後報告になりましてすみません。ガイアの強奪阻止の際、民間人の格好をした若い女性を1人、保護しました。現在、打撲等の負傷がある為、医務室にて治療をお願いしております』
「あの場にいた、民間人、か」
『議長……』
タリアを差し置いて、反応したデュランダルを見て、マユは、一瞬だけ驚いた表情になったが、そのまま、ディランダルの方を意識したように報告を続ける。
『はい。おそらく、他の2機の強奪犯とは仲間と思われます。まだ意識が回復しておりませんので、確認はまだですが』
「どうしますか?」
マユの報告の口上を聞いてから、タリアは、再度デュランダルの方に視線を向け、問いかけた。
「もし実行犯の一味というのであれば、確認したいことは山ほどある」
デュランダルは、直接タリアに視線を向け返して、そう言ってから、マユが映っているディスプレイの、送信用のカメラへ向き直した。
「扱いは丁重に。ただし、連合兵である可能性は極めて高い。その事を念頭に安全を確保して対応するよう、医務室の人間に伝えてくれ」
『了解です。それともうひとつ』
「まだあるの?」
アーサーが、間の抜けたような様子で、驚きの声を出した。
『オーブ代表カガリ・ユラ・アスハと、護衛のアレックス・ディノと名乗る人物が、やはり緊急避難的に我が軍のMSを使用し、現在、ミネルバ艦内に居られます。ちょうど入れ違いになりますが、負傷している代表の治療を終え、現在、士官用ゲスト室で待機して頂いているとの事で、議長の面談を希望されているとのことです』
こちらは、当事者はミレッタであり、マユは伝聞なので、そのように説明した。
「オーブの……」
これまた厄介なものを拾った、という様子で、タリアが呟く。
「よろしい。そちらの方も私が対応しよう。代表にはそう伝えてくれ。それと、マユ・アスカ。今回の件について君とも直接話がしたい」
「議長?」
デュランダルの言葉を聞き、タリアは何かに気づいたかのように、小さくだが問いかけるような声を発する。だが、デュランダルはそのままマユへの言葉を続ける。
「後ほど、ブリッジまで出頭してくれ」
『マユ・アスカ、了解しました。こちらからは以上です』
「了解、通信終わり」
タリアの言葉で、ディスプレイは一旦、消灯した。
「すみません、変なお手数おかけしてしまって……」
マユは、医務室のスツールに腰掛けながら、申し訳なさそうに言った。
ボタンの吹っ飛んでしまった自身の物の代わりに、マユにとってはかなりぶかぶかな、標準サイズのZAFTレッドのジャケットを着ている。
「あなたのせいではないでしょう」
ミネルバの軍医長は、そう言いつつも、憂鬱気にため息を
「それより、奇妙な話だとは思わないかね?」
「奇妙?」
軍医長の言葉に、マユは、キョトン、としつつ、言葉を鸚鵡返しにした。
「この
「まぁ……一応、動かないよう、雁字搦めには固定してましたし……────」
マユは、先程ヨウランの前で起こした一件を思い出しつつ、緊張感の抜けた苦笑でそこまで言って、表情を多少引き締め直す。
「それに、OSも初期状態で、それほど鋭い動きはできませんでしたから」
「それでも、だよ」
軍医長は、そう言いつつ、視線をベッドで横になっているステラに視線を向ける。
「連合兵の疑いが濃厚だと言うが……まさか…………強化人間という事はないだろうな」
「強化人間?」
自身も視線をステラに向けつつ、マユは、軍医長が行ったその単語を、反芻するように自身でも声に出した。
「ヤキンの時に、連合が使った、薬物によって身体能力を向上させた、時にMSパイロットの為の兵士のことだよ。確か、ブーステッドマンと言ったかな?」
「ブーステッド……マン……」
軍医長からその単語をその単語を聞いて、マユは、表情を曇らせ、やや視線を伏せがちにしつつ、今度は重い口調でそう、声に出した。
「単純な能力では、平均的なコーディネィターを上回る物があったようだが、情緒が半ば破壊されていて、統率に難があった上、薬物依存症の状態のせいで活動時間も限られた。結論から言えば、成功とは言いがたかったようだがね」
「…………」
軍医長も、どこか呆れがまじりつつも重い口調で言ったが、マユは、それ以上に重苦しい空気を纏って、視線を伏せていた。
「…………」
何かを言いかけたのか、マユは、口を開きかけたが、結局それは声として発されなかった。
「…………う……ん……」
細い声が聞こえてきて、マユは、慌てて立ち上がり、ステラの寝かされているベッドの方へと向かった。
「ステラさん……気がついた?」
そう言って、マユは、ベッドサイドからステラの顔を覗いた。
「お前……なぜ、ステラの名前、知ってる?」
ステラは、ほぼ仰向けに横たわった姿勢のまま、軽く睨むような、不愉快そうな表情で、マユに視線を向けてくる。
「え? ぁ……えーと……な、なんでだろねー…………?」
どう答えていいのか、とっさに思い浮かばなかったマユは、頭を左手の人差し指をつつくようなポーズを取りつつ、締まりの無い笑顔で、誤魔化すようにそう言った。
「…………」
もぞもぞ、とステラは動こうとするが、その身体は布のベルトで拘束されていた。
「あぁ……ごめんなさい。あなたにはれんご…………えぇと、モビルスーツ強奪犯の嫌疑がかけられています。今しばらく自由は効かなくなるけど、許して」
硬い内容を、努めて柔和な口調で、マユは告げた。
「モビルスーツ……強奪……」
「えっと、あ、そうか。ここはLHM-BB01。ZAFT MS搭載大型戦闘艦『ミネルバ』。その第1医務室です」
「ミネルバ……ZAFTの
マユが説明すると、ステラは、マユから視線を外しつつ、うわ言のような言い回しで、そう言った。
「ネオ?」
マユは、キョトン、として聞き返すが、ステラはそれに答えず、うわ言のような言葉を続ける
「ネオがいない……ステラ、怖い」
「え」
ステラの態度が、先程の敵意のこもった物から、急に、 ──── そう、マユよりも更に年少の子供が怯えるような様子になっていく。
「ネオがいない……ステラ、怖い…………」
「ステラさ、落ち着い ────」
「いやぁぁぁっ!!」
マユが宥めようとするも、それを聞かずに、ステラは恐慌の声を張り上げた。
「ネオがいない! ZAFTの……ステラ、いや、いやぁぁぁぁっ!!」
「待って、待って……」
ガクガクと震えながら叫び声を上げるステラに、マユは、少し慌てたようにしつつ、自身の上半身でステラの肩口あたりに覆いかぶさって、肩の後ろ側に手を当てて、浅く抱くようにする。
「大丈夫、誰もステラさんを傷つけようとはしないから!」
「でもっ、ここは ──── ネオが……っ ────」
「誰も……そう、私が、マユがステラさんを傷つけさせないからっ」
「!?」
マユが必死にそう言うと、ステラの甲高い叫び声が、唐突に止む。
「お前……が…………」
「うん」
ステラの反応に、マユは腕を緩めて、お互いの顔を見つめる間隔にする。
「あ、そっか、名前……私はマユ。マユ・アスカ」
そう言って、一瞬顔の全体で笑みを浮かべてから、ステラの身体をそっと下ろして、ベッドの脇に立って、ステラを上半身で覗き込む姿勢になる。
「こう見えても、特別枠でZAFTレッドを貰った天才なんだから。私がステラさんを傷つけさせない。だから、心配しないで」
「…………う、うん……マユ……」
胸に手を当てて自身を誇示しながら言うマユに、ステラは、どこか縋るような目で、マユを見つめる。
「あ、えっと、ちょっと、用事っていうか、仕事してくるから、その間、待っててもらえるかな?」
ステラの視線に、急に気圧されたように挙動を揺らがせながら、そう言った。
「うん。マユにも任務あるんだよね?」
「ま、まぁ、そう言うこと。ちょ、ちょっと行ってくるね」
マユは、そう言って、しかし、ステラから視線を外すタイミングを図りながら、ゆっくりと離れる。
「それじゃあ、軍医長、お願いします。私はブリッジに行ってきますので」
「あ、ああ……しかし、君……」
マユが少し申し訳なさそうに言うが、そのマユを見ていた軍医長が、歯切れの悪い言葉を出す。
「え?」
「い、いや……詳しい話は、君の身が空いてからにしよう」
「?……はい、解りました。よろしくお願いします」
軍医長にそう告げて、マユは、リニアサーボの扉を開けて、医務室の外に出た。
──────── そこで、閉じた扉に軽く寄りかかり、右手首を左手で握りながら、ふぅ、と、ため息を吐き出す。
「ウソ、ついちゃったなぁ……」
ラッキースケベ回(するとは言ってない)。
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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