機動戦士ガンダムSEED Destiny “M”   作:神谷萌

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波乱の前震

 ガーティー・ルー CIC。

「離脱は成功、と言ったところですかな?」

艦長席のイアンが、指揮官席に座るネオに、面白くもなさそうな様子で、そう訊ねた。

「さて、どうだかな……」

 ネオの方も、無愛想な、僅かに苛立ちを感じさせるような様子で、言う。

「すでにこちらの予定通りにはやらせてもらえてないんだ。楽観視はできない」

「確かに、エクステンデットをいきなり1体、失ったのは手痛かったですな……」

 イアンはそう言い、一瞬、CICの後方へ視線を向けた。

 艦内では、スティングとアウルが、行動終了後の “メンテナンス” を受けているところだった ──── ────

 

 エクステンデット ──── 先の大戦で運用され、最終的に、その推進役でもある当時のブルーコスモス総裁・ムルタ・アズラエルの死もあって、失敗と位置づけられたブーステッドマンに代わる、新たなモビルスーツ・モビルアーマー用生体CPU、強化人間。それがスティングやアウル、そしてステラだった。

 精神操作、薬物による身体強化と意識の改造、このあたりの手法はブーステッドマンと同じだ。

 だが、ブーステッドマンは、()()過程において薬物と外科的手術に頼りすぎたがために、情緒を必要以上に破壊しすぎ、強力な身体能力とともに、凶暴性も増幅され、同時に綿密な作戦を遂行する思考能力に欠けてしまった上、薬物依存が強すぎて行動時間の成約もついてしまった。

 それに対して、エクステンデッドでは、初期段階での薬物や外科的処置をマイルドにし、神経への干渉による精神制御により高い能力を得ている。これにより、人格を維持して破綻した行動を抑制し、機動兵器の生体CPUとしてだけではなく、潜入任務など緻密な行動も可能とし、行動時間もブーステッドマンよりは長くとることができた。

 とは言っても、程度問題でしかない。人格は維持されていると入っても、元の人格は半ば破壊した上で、都合よく再構築したものだ。ブーステッドマンに比べれば、一定期間の耐用を考えているとは言っても、処置・施術によって、人としての寿命を大きく縮める事になる。

 また、行動時間が伸びたと言っても、精神に一定のストレスをかけた後は、「ゆりかご」と呼ばれる精神・神経調整器によるメンテナンスを必要としていた。

 

「作戦目標の60%も達成できれば、上出来とは言えるが、上がどう判断するか、な」

 ネオは、口元に手を当てて、思案する様子で、呟くように言った。

「それに、作戦の結果に上が満足したとしても、以降、彼らが使えるかどうかという問題も残るでしょう」

「そうだな」

 イアンの言葉に、ネオは同意して、軽くため息を()いた。

「ステラを失ったのは私としても手痛くはあるが、兵士として使う以上は、メンバーが欠けることは、受容できないと使い物にならない、それは確かだが…………」

 ネオは、そう言いつつ、先ほどイアンがしたように、「ゆりかご」での措置が行われている部屋の方を向くように、CICの後方を振り返った。

「まぁいい。ともかく、今は予定通りの作戦行動をとるだけだ。敵の追撃に備えつつ、予定ポイントBへ向かえ」

「了解」

 

 

「マユ・アスカ、出頭しました!」

 ミネルバ。

 マユは、ブリッジに到着すると、デュランダルの座っているゲスト席の近くに行き、敬礼しながら口上を告げた。

「事後承諾のかたちで、テロ容疑者を医務室に運びました事、謝罪いたします! なんなりと処分を!」

「いや、君を糾弾する意図はない」

 デュランダルは、そう言って苦笑する。

「緊急事態であれば、君の判断も仕方のないことだったろう。それよりも、ガイアの強奪阻止、ご苦労だったね」

「本職として、義務を果たしただけですが」

「身体の力を抜いてくれたまえ。しゃちこばらなくていい」

 杓子定規な様子を見せるマユの緊張を解すかのように、デュランダルは、手振りに穏やかな笑みを混じえてそう言った。

「問題はこの後の事だ」

 それを切り出すと、そのデュランダルの笑みが、少し引き締まったものになる。

「ガイアは君によって強奪を阻止されたが、残りの2機は未だ、正体不明の強奪犯の手中にある。この状況は君も理解してくれていると思うが、我々はこれを看過できない」

「はい、それはもちろんです」

 デュランダルの言葉に、マユも真摯な表情で言う。

「そこで、だ。君を正式にガイアの登場者に補し、このミネルバの乗員として参加してもらいたい」

「ええっ!?」

 デュランダルからそう聞かされて、マユ自身も目を円くして驚いたが、同時に、

「え、え~っ!?」

 と、アーサーも声を上げて、デュランダルの傍らに駆け寄ってくる。

「議長、それはいくらなんでも。彼女は正式な実戦部隊の人間じゃないんですよ!?」

 マユは、13歳に達するまでは教練隊や開発研究部門など、非実戦部隊にのみ配属されることになっていた。それに、ガイアにも本来のパイロットがいる。

 タリアも、声には出さなかったが、頭を抱えるようにしながらため息を吐き、やはりいい顔はしていない。

「だが、今の状況で、彼女程のパイロットを遊ばせておくのはもったいないと思うがね。それに、ガイアについてもだ」

「しかし……」

 今、この時ガイアを扱える人間が必要となる、と言うのは解る。複数のセカンドステージシリーズ相手に、数の優勢が確保できない状況で、ジェニスとリック・ジンオーカーだけでは不安が残る。

 ミネルバにはもう1機、セカンドステージ機が搭載されていたが、これはパイロットに高度な適性を要求し、現在のところ、そのパイロットを見出だせていなかったため、試験を目的に()()()()()()()()()になっていた。

 それでもなお、アーサーは食い下がった。

 すると、

「では、こうしよう」

 と、デュランダルは、悪戯っぽい笑顔になりながらそう言って、自身の懐から、透明な蓋の小さなケースを取り出し、それをマユに差し出した。

「マユ・アスカ。君をFAITHに任命する」

 

 FAITH。プラント国防委員会直属戦術統合(Fast Acting Integrate)即応本部隊(Tactical Headquarters)の略で、特務隊とも言われる。

 ただし、現在のFAITHは、それ自体が集団と言うより、その各々が、一般のZAFT隊員から部隊を組織し、機材を調達し、作戦行動をとる、上位指揮権をもつ人間であることを示す。

 

「議長、それこそ無茶な!」

 アーサーが、愕然を通り越した様子で声を上げる。

 マユの方は、事態についていききれずに、顔を少し紅潮させつつ目を見開いて、停止している。

「そんなことはないよ」

 デュランダルは、一旦、アーサーの方を向いて、言う。

「我々大人がただ混乱しているあの状況で、彼女は自身の判断でガイアの強奪を阻止し、敵のこれ以上の跋扈を抑止した。充分な功績と能力だ。国防委員会も私の意見に異は唱えないはずだ」

 説明が終わると、デュランダルは、視線をマユに戻した。

「襟章は、新品ではない予備のもので申し訳ないが、受け取ってくれるね?」

「えっ!?」

 デュランダルに促されて、マユは、我に返ったように、軽く驚いた声をだした後、姿勢を整え直す。

「あっ、は、はい。身に余る光栄、謹んでお受けいたします」

 そう言って、マユは、おずおずとした様子でケースに入ったFAITH襟章に手を伸ばし、受け取った。

「FAITH……私が……」

 まだ、現実味がないという様子で、マユはケースに入ったままの襟章を凝視している。

「既に君の権限は有効だと思ってくれていい。早々ですまないが、私も待たせている人間がいてね。失礼させていただくよ」

「あ、は、はいっ!」

 一瞬、ぼうっとしていたマユだったが、デュランダルの言葉に我に返り、その場で直立不動になって、敬礼をする。

「マユ・アスカ、任務遂行に移ります!」

 

 

「そこのお前ら何やってんだ!」

 ミネルバ、MS格納デッキ。

「ジェニスのフィールドストリッピングなんざ、乗艦前のプログラムでさんざんやってるだろうが! 手順通りにやればいいだけなんだぞ!」

 整備班長のエイブスの激が飛ぶ、その一方で、 ────

「本当にこんな設定にしちまっていいのかよ」

 OSのパーソナライズをしているガイアの、ハッチが半開きの状態のコクピット近くで、ヴィーノが呆れたように言う。

「いいの。4脚MAの弱点って四肢でしょ。そこを強めで、胴体は少し抑え気味のままでいいの」

「だからって、ちょっと極端過ぎるんじゃないのか、これ……」

 VPS装甲の設定変更について、マユはそう説明するものの、ヴィーノは、どこか納得しきれない様子で、苦笑と呆れ交じりに言う。

「ええぃ、この襟章が目に入らぬか」

「へいへい、FAITH様の言う通りにしますよ」

 マユが半ば(おど)け混じりに、FAITH襟章を着けた左襟を見せつけるようにすると、ヴィーノも冗談混じりに苦笑しながらそう言った。

 艦内からの電源で、ガイアのVPS装甲の動作確認をする。その四肢はほぼ白に、胴体は、暗めの群青へと色が変わった。

 

 

「本当にお詫びの言葉もない。姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは」

 士官用談話室。

 そこで、デュランダルはカガリと、臨時の面談をしていた。

 側近役として、タリアが、一先ずの指揮をアーサーに任せて、付き添っている。

 姫、と呼ばれて、カガリは些かムッとしたような表情になるが、言葉にはそれを出さずに、

「襲撃した部隊については、まだ何も解っていないのか?」

 と、デュランダルに問いかけた。

「ええ、残念ながら、確証を得られるものは何も」

「ミラージュコロイドを使う、モビルスーツ搭載の大型艦とあれば、出処は限られそうなものだが……」

 デュランダルの答えに、カガリは少し表情を(しか)めて、呟くように言った。

「それはそうですが、現段階では状況証拠に過ぎません。決めつけは危険かと」

「…………、それは、確かにそうか……」

 デュランダルにやんわりと窘められて、カガリもそれを認めた。

「しかし同時に、だからこそ一刻も早くこの事態を収拾する必要もある ──── どのような勢力であれ、これを放置するわけには参りません」

「ああ、解ってる。それは当然だ。議長。今は何であれ、世界を刺激するようなことはあってはならないんだ。絶対に」

「ありがとうございます。姫ならばそう仰って下さると信じておりました」

 カガリの言葉に、デュランダルは芝居がかった様子の言葉を返す。

「そうだ……よろしければ、時間のあるうちに艦内をご覧になってはいかがですか」

 デュランダルが、カガリに総提案する。

「議長……」

 タリアが、諌めるような声を出すものの、

「一時的にせよ、いわば命を預からせて頂くことになるのです。それが盟友としての、我が国の相応の誠意かと」

 

 

「次はオートバランサーの、と……」

 半開にしたコクピットで、マユが呟く。

 ガイアの細部の動作設定をするため、インパネの端子に接続されたキーボードとマウスを操作している。

「ZGMF-6017(シックスオーセブンティーン)、ジェニス、はもうご覧になられていますね」

 マユがキーボードを叩いていると、デュランダルの声が聞こえてきた。

 コクピットハッチから僅かに身を乗り出して、こっそりとした動作で、声の方を覗き込む。

 すると、デュランダルとタリアとともに、カガリが、アレックスとともに立っているのが見えた。

 マユは、「げっ」、と、表情を歪めつつ、さり気なくを装って、シートに深く座り直し、どちらからも直接見えないようにした。

「マユちゃーん?」

 そこへ、ルナマリアが、ガイアのコクピットの外までやってきて、覗き込むようにしながら、マユに声をかける。

「見た? オーブのカガリ・ユラ・アスハだって」

「ふーん……」

 どこか興奮した様子を見せるルナマリアに対し、マユの方は、ルナマリアに直接視線も向けずに、素っ気ない返事をする。

「ふーん、って、気にならないの? ヤキン・ドゥーエの英雄って言われてる人だよ?」

「別に。興味ないなぁ」

 正直、これはマユの、些かの強がりを混じえつつも、偽らざる本心だった。

 しかし、そのマユの様子が、いつもと違う、と、ルナマリアには映った。

「どうしちゃったのマユちゃん? なんか、様子が変だよ?」

「そう?」

 ルナマリアが、少し心配気な声をかけてくるものの、マユは、やはりそっけない態度をとるだけだった。

「力か、争いが無くならぬから力が必要だと言ったな、議長は」

「ええ」

「だが、それでは今回のことはどう説明するのだ! あの新型機のために貴国が被った被害のことは!」

 そのカガリの声が聞こえてきた時、ビキッ、と、音がするかのような勢いで、マユの眉毛の上辺りで、静脈が浮き上がった。

「代表……!」

「だいたい、どうして力が必要なのだ! 今更!」

 アレックスが諌めようとするが、カガリはさらにヒートアップした様子で、デュランダルに食ってかかろうとする

「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない!! 互いに手を取って歩む道を選ぶと!」

「誓っていません!!」

 カガリがそこまで声を荒げた時、モビルスーツハンガーの方から、別の張り上げられた声が聞こえてきた。

「マユ……ちゃん?」

 ルナマリアが、唖然としてその姿を見上げている。

 マユは、ガイアの開いたコクピットハッチに立ち、口元を歪ませ、睨むような鋭い視線をカガリに向けていた。

 






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