機動戦士ガンダムSEED Destiny “M” 作:神谷萌
「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない!! 互いに手を取って歩む道を選ぶと!」
「誓っていません!!」
「な…………」
キャットウォークのMSハンガーを見下ろせる場所で、デュランダルに詰め寄っていたカガリが、開放されたガイアのコクピットに立つマユに視線を向ける。
その傍らに立っていたアレックスも、軽く驚いた様子でマユに視線を向ける。デュランダルも、意外そうな表情をしていた。
「どういう意味だ!?」
カガリは、一瞬気を抜かれた表情を再度険しくして、マユに視線を向ける。
しかし、マユは、年長者に睨まれても怯むことはなく、むしろ憤怒の色をより強めて、その視線をカガリに向け返した。
「ユニウス条約は、停戦と、悲劇的な戦争行為の制限…………戦争の結果を決める講和条約ではありません! 想定し得る再戦に備えて軍備を整えるのは当然の事です!」
「だからといって、強すぎる力はお互いを挑発し、その悲劇を引き寄せることになるだろう!」
感情は多分に含まれているが、どこか形式張った言葉遣いで声を張り上げているマユに対し、カガリは激情を伴った口調と表情で言い返す。
タリアが慌てて間に割って入ろうとするが、デュランダルがそれを手で制した。タリアが、デュランダルに視線を向けると、デュランダルは、口元で薄く笑み、タリアに視線を走らせる。
「今回、ZAFTの兵器はユニウス条約をまったく逸脱していません。プラントは条約を遵守しています!」
マユは、険しい表情で声を大きく張り上げつつも、どこか淡々とした感じを感じさせる口調で、そう言った。
「しかし ────」
「むしろ! あの襲撃者達こそ、どこから来たのですか!? 禁止されているミラージュコロイドを使って!!」
カガリが言い返そうとしたのを遮って、マユは更に畳み掛けた。
「それは……」
カガリは、言い返そうとしたものの、言い澱んでしまい、視線を左右に泳がせてしまった。
「あのような存在に備える為に、力が必要なんです! その為にオーブだって軍備を強化しているのでしょう!?」
マユは更に詰め寄り、強く睨むような視線をカガリに向ける。
「お、オーブの軍備は、専守防衛のためだ!」
少しだけ勢いを取り戻したように、カガリはマユに視線を向けなおし、睨みながら、胸に手を当てて声を上げた。
「プラントの軍備も防衛の為です! まさか侵略の為とでも仰っしゃると!?」
「その為に、これ以上の力が必要だと言うのか!?」
「それはプラントの政府と国民が決めることです! オーブが決めることではない!!」
「ユニウス条約の趣旨に反していると言っているんだ!」
「また条約ですか!? プラントがユニウス条約を締結したのは地球連合各国です! この時点ではオーブは独立主権国家ですらない! ユニウス条約についてオーブは第三国でしかない!!」
「なっ……────」
自身の主張の根底を覆されて、カガリは言葉を詰まらせる。目を見開いて、愕然とした様子になる。
その発言を聞いた時、黙って傍観者に徹していたデュランダルも、軽く驚いたような表情になった。
「そもそも、オーブが主権回復できたのは、アイリーン・カナーバ暫定議長ら、プラント側の交渉手腕に依るところが多いでしょう! プラントが原状復帰を選択したからオーブは再独立できたんでしょう!? それをあたかも連合の立場に立って、まるで大西洋連邦の代弁者に成り下がるんですか! あの戦争で犠牲になったオーブの市民はなんだったんですか!!」
硬い様子の口調だったマユだが、その後ろの方になるにつれ、その激情が混じりだす。
僅かな沈黙。傍らにいたルナマリアやヴィーノは呆然とマユを見ている。
「それは……いや……しかし……」
マユが冷静さを欠き始めた以上に、カガリは、デュランダルに向けていた自身の理屈の
『目標接近、距離8000。コンディションレッド発令。全パイロットは出撃待機に移れ』
アラート音とともに、その放送が、カガリの反論がないまま会話を遮った。
『艦長、ブリッジにお戻り下さい』
アーサーの声でそう告げられてくる。
それを聞くと、マユは、真剣な表情ながら、その険を消して、敬礼の姿勢になる。
「ご歓談中の
そう言って、コクピットハッチの下側を軽く蹴り、パイロット用更衣室へ向かう。
「おらそこ、なにボサッとしてやがる! 始まるぞ!!」
「うわっ、やべっ!」
呆然と立ち尽くしていたヴィーノが、エイブス班長に怒鳴られ、慌てて行動を開始する。
「本当に申し訳ない、姫」
この場から去ったマユに代わり、デュランダルが謝罪の言葉を口にする。
「彼女はオーブからの移住者と聞いていたのですが……」
「え…………」
自身も多少の困惑をしているかのようなデュランダルの言葉に、カガリは、アレックスともどもその顔を凝視して、愕然としたような表情になった。
一方 ────
「どうしちゃったの? マユちゃん?」
「別に」
背後から追いついてきたルナマリアに、マユは、未だ不快そうな感情を隠しもせず、素っ気なく返した。
「やはり追いつかれたか……」
口元を忌々しそうに歪めながら、ネオは、ディスプレイの表示を見つつ、そう言った。
ガーティー・ルーCIC。
「連中も早々寝ぼけているわけではないということですな。さて、いかが致しますか?」
イアンは、難儀そうに言ってため息を
「そうだな…………デブリ帯でやり過ごす、可能か?」
「問題ありません」
ネオの問いかけに、イアンは、ニュートラルな表情と口調で、そう言った。
「大きめの……そうだ」
自ら、ディスプレイに表示された付近の宙域図を見ながら、ネオは、呟くように言う。
「廃資源天体に接近して紛れろ。そこでデコイとすり替われ」
「了解しました」
イアンは、ネオに答えてから、具体的な指示を出す。
「目標マーク! アンカー射出用意、一旦引き寄せてナックルをかける!」
イアンの命令に従って、ガーティー・ルーは、付近に存在するデブリ帯の中でも、ひときわ大きな採掘済みの資源天体へと艦首を向けた。
「進入と同時にメインスラスター停止、惰性で進行! デコイ射出用意!」
「リー、私も出るぞ。艦を頼む」
イアンの下令が一段落すると、ネオはそう言って、指揮官席から立ち上がった。
「了解しました。お任せ下さい」
イアンの言葉を聞いてから、ネオはCICを後にした。
同、パイロット用ブリーフィングルーム。
「例の新型艦だって?」
アウルがスティングに問いかける。
「ああ。来るのはあの黒い新型かな?」
スティングは、答え、口元に怜悧な笑みを浮かべた。
「それじゃあ、今度こそ生け捕るか、バラバラか……だな」
アウルも、愉快そうな様子で言う。
「バラバラ……だな」
鋭い笑みを浮かべたまま、スティングはそう言った。
「楽しいことになりそうだ、なぁ…………、……──── ?」
スティングは、顔全体で破顔しつつ、
だが、 ────
「…………」
「…………」
スティングとアウルの間に、奇妙な沈黙が流れる。
「ど、うしたん、だ、よ?」
自身も、不快感と緊張を伴う様子を見せながら、アウルはスティングに問いかける。
「い、いや…………」
スティングは、曖昧な返事をする。
「2人とも、準備はいいか?」
妙な緊張が張り詰めかけたところへ、ネオが入ってきた。既に、パイロットスーツを身に着けている。
「ネオ」
2人は、思わず、縋るような視線をネオに向けてしまった。
それに気づいているのかいないのか、ネオは、指示を出す。
「敵の先制部隊を2人でひきつけろ。その間に母艦を叩く」
「OK、解りました」
「けどよ、ネオ」
スティングは了解の言葉を発したが、アウルは、含むところがあるように、ニヤニヤとしながら、ネオに問いかける。
「別に、潰しちまっても構わねぇんだろ?」
「可能ならな。だが、そちらに新型が行く可能性も高い。陽動を最優先とし、無理は避けろ」
ネオは、戒めるように厳しい口調で言った。
「なんだよ、俺達が負けるとでも思ってるのかよ」
「アウル、命令だ」
不服そうに、不貞腐れたような表情をして言うアウルを、スティングが窘めた。
「わぁってるよ、ネオに逆らいやしねーって」
アウルは、手を振りながらそう言いつつ、そっぽを向いてしまった。
「…………」
ネオは、口元をキュッとさせた。
ミネルバCIC。
「ボギー01、変針、本艦から見てアップ60°、右15°。デブリ帯に進入します」
「デブリ帯に進入して撒こうっていうのか!?」
男性オペレーターの声を聞いて、アーサーが大げさに驚いた声を出す。
「副長のあなたがそれでどうするの!?」
ちょうどそこで、CICへ入ってきたタリアが、アーサーを叱責した。
「あ、艦長……────」
アーサーは、そう言いながら振り返って、
「って、えぇ!?」
と、思わず立ち上がってしまいながら、驚きと困惑の声を出した。
タリアに続いて、デュランダルと、カガリ達が入ってきた。
「議長の提案よ」
自身も多少、辟易はしている、といった様子で、タリアは言う。
「
手振りを加えつつ、デュランダルが説明する。
そうは言うものの、カガリは、どこか憮然としたような、落ち込んでいるようにも感じられる、険しい表情をしている。
「目標まで6000」
「ブリッジ遮蔽。対艦対モビルスーツ戦用意。アーサー!」
男性オペレーターの声に、タリアは、指示を出しつつ、アーサーに嗜めるような声をかける。
アーサーは、多少戸惑った様子で、デュランダルやカガリ達を見てから、自身の席に戻った。
デュランダルやカガリ達も、ゲスト用のスツール席に腰掛ける。
「ボギー
デュランダルは、カガリ、というより、アレックスに向かってそう言った。
「はぁ…………」
アレックスは、どう反応するべきなのか、戸惑った様子で、曖昧な声を出した。
「はぁ……」
パイロットスーツを身に着け、ガイアのコクピットに収まった状態で、マユはため息を吐く。
「八つ当たりだよ……」
どこか自己嫌悪の言葉を、誰に聞かせるでもなく声にして吐き出した。
── あの時私が我が侭を言わなければ、あんな状況で携帯を無くすのが嫌だなんて言わなければ……
「っく」
目頭が熱くなってくるのを、堪える。
『右舷側発艦デッキ、気密シャッター閉鎖、ハッチ開放。リニアカタパルトリンケージアップ。ガイア、発艦シークェンスに移って下さい』
「…………よし」
気持ちを切り替え、表情を引き締める。姿勢を正し、射出の衝撃に備えた。
「マユ・アスカ、ガイア、行きます!」
床面に埋め込まれたガイドランプが、手前側から、ハッチの開かれた前方に向かって順次点灯し、リニアカタパルトが、ガイアを艦の前方の宇宙空間へ向かって射出した。
「────……名は体を表す、という。それならば、その名が偽りのものだったとしたら……その時、それは存在そのものも偽り、という事になるのかな? アレックス、いや、アスラン・ザラ君……」
「!」
デュランダルにそこまで言われて、アレックスは、愕然としたように目を見開いた。
「議長、それは!」
カガリが、慌ててデュランダルに視線を向け、制止するような声を出した。
「ご心配には及びません、代表」
口元に悪戯っぽい笑みを浮かべ、デュランダルは言う。
「私は何も彼を咎めようとは思っていない。カナーバ前議長の彼らにとった措置に異を唱える意図はないのです」
デュランダルがそう言うと、カガリは、未だ心配そうな表情をしつつも、立ち上がりかけた腰を下ろす。
「ただ、話をするなら本当の君と話がしたい」
デュランダルは、視線をアレックス ──── アスランに移して、言う。
「それだけだ」
『左舷側発艦デッキ、続いてミレッタ機、発艦シークェンスを開始して下さい』
「ミレッタ・ラバッツ、ジェニス、行きます!」
ZGMF-6017の本来の普及型、ジェニス・
先行しているガイアを追う。
「マユちゃーん、おーい、マユー」
ガイアに通信を繋ぎ、呼びかける。
「え、あ、ミレッタお姉ちゃん?」
通信ディスプレイに表示された顔を見て、マユは一瞬だけ、戸惑った様子を見せてしまう。
『ボクも出るって、ブリーフィングで言ってあったじゃん』
「え、あ、あぁ、そだった」
『ちょっとちょっと、しっかりしてくださいよ、FAITH様~』
マユの反応を見て、ミレッタは
今はヘルメットで隠されているが、ショートカットのボーイッシュな容姿をしていて、赤みがかった黒髪に、前髪に一房だけ金髪の“自前メッシュ”がある。
緑服ではあるが、MS操縦技能は秀でたものがあるとして、先輩方を差し置いて、ジェニスが与えられている。
そして、マユとは縁があった。
マユ同様、前大戦でオーブでの生活基盤を失い、プラントに渡ったいわゆるオーブ難民出身だった。ただ、ミレッタの場合は、天涯孤独ではなく、両親は健在である。
だが、マユとは別の苦労があった。
ミレッタは、父親がナチュラル、母親が第1世代コーディネィターの、いわゆる“ハーフコーディネィター”だった。
ミレッタの一家が移住してきた頃には、だいぶ和らいでいたとは言え、プラントにはどうしてもナチュラルや、その子どもであるハーフコーディネィターには偏見がある。
ZAFTのアカデミーに志願したのは、「プラントへの貢献を認められれば扱いも変わる」と建前では言いつつも、「どこに言っても偏見の目で見られるのなら、いっそそれだけ気にしないでいい程きつい環境の方が良い」という自棄の面もあったりする。
たまたま在学中に、同じオーブ出身のマユと出会って、そこから親交ができたので、本来の性格が捻じ曲がらなくて済んだ。
また、前大戦では、親交のあった
──── 閑話休題。
「えっと、ごめん。何?」
マユは、少し決まり悪そうにしながら、ミレッタに聞き返す。
すると、
『気にするな。大した事じゃない』
と、通信にレイが割り込んできて、事も無げにそう言った。
状況は、ガイアと、ミレッタのジェニスが先行、やや遅れて、それぞれイントルーダー(ガナー)装備の、レイのジェニス、それにやや年上の緑服搭乗員であるショーンのリック・ジンオーカー。
『ちょっとちょっと、その扱いはないんじゃない?』
戯け混じりにも気を悪くしたような表情で、ミレッタが言う。
「まぁまぁ。で、ミレッタお姉ちゃんは何が言いたかったの?」
両方を嗜めるように言いつつ、ミレッタに問いかける。
『自慢じゃないけど、ボク、デブリ戦は得意だったからさ』
「うん?」
『それだけってわけじゃないけど、どうせなら、あの
『無茶を言うな。あの機体は試験要素が強すぎる上に、適正のあるパイロットが居なくて、データも満足に揃っていないんだ』
ミレッタの言葉に、レイが先んじて反論した。
「うーん、私も、そう言うしかないかなぁ、って言うか、私はレイお兄ちゃんよりアレのこと知らないし」
マユも、わざとらしく眉間に皺を寄せながら苦笑して、そう言った。
『ちぇーっ』
ミレッタが、
それを聞きながら、マユはサブディスプレイの表示を確認する。そして、追尾目標の情報を見て、驚いて目を見開く。
「追尾目標まで1500!? レイお兄ちゃん!」
『ああ、今気づいた』
レイが、緊張感のある声で、同意の言葉を返す。
── ここまで、迎撃もない、増速した様子もない、ってことは……!!
マユがそこまで考えた時、
『うわぁあぁぁぁぁぁっ!!』
と、通信越しに、ショーンの叫び声が聞こえてきた。
高火力モビルスーツか、モビルアーマー、それと思しきフルバーストの火線が、ショーン機を掠めた。
『嵌められたかも知れないぞ!!』
レイが、マユと同じ結論に行き着いただろう声を上げた。
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