おかげで投稿が一日遅れたじゃないか。
「待テヨ。少しボクと、夜の散歩でもしないカイ?」
いつにも増して真剣な表情で、私を散歩に誘うマホロアちゃん。……今日の私は、本当にモテモテだ。
シロコちゃんに先生、そしてマホロアちゃんまで。
……どうしてみんな、私の決断を止めようとするのかな。
「…………」
目の前のマホロアちゃんは、私の返事を待つようにじっと動かないで私を見つめている。ちょうど通り道を塞ぐような形で。
さすがに、このまま通り過ぎさせてはくれないよね。まあ、私はさっきも先生とも散歩してたんだけど、まだ歩きたい気分だし。ここは素直に受け入れよう。
「……うん、分かった」
「ヨシ。ジャア、ボクに着いて来テ」
少し移動して手招きするマホロアちゃんは、先ほどの真剣な表情は無く、いつも通りの表情だった。それなのに、私にはいつもとは違う表情に見えた。
───
砂にまみれた街中を歩く。夜というのもあってか、開いている店はコンビニを除いてほとんどない。
「このコンビニは、ボクがいっつもお世話にナッテルところナンダ。ここの弁当がホンットーに美味しいンダヨネ!ホシノは、コンビニとかって使うノ?」
「私は、たま~に使うよ。弾薬の補充だとか、時間が無い時とかね」
「オ~、確かニ、コンビニの弾薬は安いから補充しやすいモンネ。ア!この近くの公園もよく使うンダ。人が少ないカラ、ゆっくりスルのに最適何だヨネ」
マホロアちゃんは、行く先々の建物のことを私に話してくれる。まるで私にその建物の魅力を語るように。マホロアちゃんも、ここで過ごして、何か思うところがあったのかな。
……マホロアちゃん、か。思い出すように目を閉じる。
最初の印象は、はっきり言って悪いものだった。唐突に仕事を先生に押し付けたと思ったら、そのまま帰ろうとして、挙句アビドスを馬鹿にしたんだからさ。
言っていることは最もだったし、演技なのも分かってた。でも、それでも、私たちがアビドスの復興を目指して培ってきた努力を全部否定されて、悪感情を抱かない訳が無かった。
彼の印象が変わったのは、その翌日。彼は、普段私たちがみんなでしている掃除を、一人で夜通しやっていたそうなんだ。先生が、そう言っていた。
『マホロアなりにお詫びをしているんだよ。……マホロアは、ちょっと素直じゃない所があるから。だから、マホロアのことを許してくれないかな?』
それが、「マホロアなりのお詫び」と知って、マホロアちゃんは単純に悪いヤツではないのかな、って思った。うわべだけ取り繕っているっていう線もあったけど、そうならあんなに廊下をきれいにしないはず。
それからも、銀行を襲ったり、シロコちゃんと模擬戦したり、アヤネちゃんと一緒に勉強会をしていたり、とマホロアちゃんは先生と同じようにアビドスの一員のような存在となっていた。
彼が突然助けを求めた時も、私以外のみんなは助けに行ってくれたみたいだし。……彼を仲間と思っているのは私だけじゃない。
「オーイ、聞いてるカイ?」
あらら、考え事していたの、マホロアちゃんにばれちゃった。
「あ、ごめん。ちょっと考え事しちゃってた。おじさんってば、最近ちょっと物思いにふけることが多くてね~。年のせいかな?」
「……ソウカイ。マァ、ココは言わずとも分かるデショ」
マホロアちゃんに促され、目の前の建物に意識を向ける。最初に目に入る「柴関ラーメン」の文字。そして、見慣れた木造の外観。……いつの間にここまで歩いてたんだね。
「ミンナが絶賛シテタから、試しに一回食べてみたンダ。……まさに最高だったヨ。サービスもいいし、ラーメンも美味しいし、安いしでいいことづくめの店だったネ。コレは、確かにミンナがリピーターになる訳ダ」
マホロアちゃんはしみじみと柴関ラーメンの良さを語る。マホロアちゃんも、ここの良さを理解してくれたみたいだね。
「でしょ?ちなみに、セリカちゃんはここでバイトしてるんだよ~」
「エ、ホントに?今度、バイトの日に食べに行こうカナ」
「ほどほどにしときな~」
マホロアちゃんが、明らかに冷やかす気満々の声でそう呟いていたので釘を刺しておいた。
───
それからも、アビドスの街中を練り歩いた。マホロアちゃんもネタが尽きてきたのか、説明がどんどん端的なものになっていったけど、それでも会話は続いている。
「次が最後ダヨ」
「いや~マホロアちゃんも結構アビドスの街を満喫してたんだね~。おじさん、びっくりしちゃった」
「マァ、一時的とはいえ住んでるンダ。嫌でも詳しくなるデショ」
「あれ?っていうかこの道……」
マホロアちゃんが歩いている道は、すでに私たちが通った所。それも、最初の方に。私たちはその道を逆戻りしていた。
すなわち、着くのは……
アビドス高校。
「気付いたカイ?ココを最後にシヨウと思ってたからネ」
目的地を理解した私をみて、マホロアちゃんがそう言った。徐々に見えてくる閉められた校門と、見慣れた校舎。
「最初はコンナ砂だらけの大きな街、遭難するだけでナンニモいいとこナイ、ッテ思っテタ。デモ、違ッタ。気付いたンダ。ココにはココなりの良さがアル、ッテ」
「…………」
ただ、沈黙してマホロアちゃんの話を聴く。ここが、一番言いたい所だろうから。
「『みんなちがうからみんないい』ってノンキにアイツが言ってイタコトを思い出すネェ。……アノ時、アビドスのコトを馬鹿にしたことは後悔してるヨォ」
「柴大将が言ってたヨ。コノ場所で頑張っている生徒がいるカラ、ジブンも頑張れる、ッテ。……それでも、ホシノはコノ場所を去るつもりナノ?」
……ずるいなぁ、マホロアちゃんは。私が長く住んで、守ってきた街を一通り見せておいて、こんな質問をするなんて。そりゃ、私だって残りたいに決まってる。でも、他に方法が無いんだもん。
「じゃあ、どうすればいいのさ」
他の選択肢が欲しくて、マホロアちゃんに問いかける。
「ボクが知ってるワケないダロ。ミンナで考えるンダ。今まで、ソウして来たヨウニ」
「……それじゃ、駄目なんだよ」
長らく待っていた外部からの手助け。それに伴って、停滞していた状況も動き出した。便利屋や、風紀委員会。そして、カイザーの陰謀。その渦中にいても、先生とマホロアは私たちの味方をしてくれた。
でも、状況が好転したのは一瞬。今のアビドスは、カイザーのせいで苦境に立たされている。私たちの借金利子を法外なものへと引き上げ、保証金の請求までしてくるなんて。
彼らの助けがあっても、少しも解決への糸口が見えない現状に、ある意味絶望した。だから、私が解決への糸口を作る。
私が、少しでもアビドス復興への希望となれるのなら。それに、私よりもマホロアちゃんと先生の方があの子たちを導けるだろうから。
「何が駄目ナンダヨ!『保険』もあるッテノニ!」
否定されて憤るマホロアちゃん。……ごめんね。でも、私はそうするって決めたから。
「今から議論したって、もう間に合わない。それに、『保険』が効くかなんて、分からないでしょ?だから、確実な……」
「銀行を襲った時に言ったコトをモウ忘れたのカイ?『そんな方法に頼ってたら後になってもそうするようになる』、ッテ」
マホロアの言葉が私の心に刺さる。まさに、私がしようとしていることはその方法。でも、私には、他の方法よりもこの方法が最善に思える。アビドスの今後のためにも。
「でも、これが一番……」
「……キミはどうしても意見を曲げないンダネ。ソウイウところは、アイツに似ている。ダケドネ、そういう考えは、アイツは絶対にシナイヨ」
……アイツ、って誰なのさ。と聞く暇も無く、マホロアちゃんは続ける。
「白黒つけようカ。どちらが正しいのカ。明日、お日様が昇り始める頃に、ココに来イ。……モシ来なかったラ、ボクはアビドスへの協力を止メル」
「!!!」
あまりに突然の宣言に、上手く反応を返せない。ただ驚いた表情を見せる私を見据えながら、マホロアちゃんは続ける。
「キミが本当にコノ街を愛してイルノカを試すためダ。……ボクはヤルと言ったらヤルやつダヨ?」
「ジャア、明日」
私が反応できないのをいいことに、言いたいコトだけ言って、マホロアちゃんは校門を開けて校舎に戻っていった。
立ち尽くす私。校舎に戻るマホロアちゃん。歩いていく彼の後ろ姿には、明確な意思が宿っている。
この散歩で分かったことというのは、マホロアちゃんは、どうしても私を止めたいということ。
どうしてそこまでして、私を止めようとするの?
その答えが見つからないまま、私は夜のアビドスに戻っていった。
───
昨日でアビドス高校を去るつもりだったのに。私は、いつの間にかこの場所へと戻ってきていた。
運動場では、マホロアちゃんが一人だけ、立っている。先生や他の子たちの姿は、無い。
「……来タカ」
「あんなこと言われちゃったら、来るしかなくなっちゃうじゃん」
一方的に約束して、もし破ったら助けるのをやめるなんて言われちゃったら、誰でもそうするよ。……私が未練を持っているから、かもしれないけど。
「それで?勝負っていうのは?」
「模擬戦ダヨ。……いや、決闘、が正しいカナ。どちらかが倒れるまで戦ウ。もしキミが勝ったら、好きにしてもらっていいヨ。デモ、ボクが勝ったら、ここに残ってもらウ」
私と向かい合って、淡々とマホロアちゃんはそう述べる。
やっぱり、銃撃戦だよね。だけど、それだとマホロアちゃんの勝ち目がほぼ無い。マホロアちゃん、明らかに銃撃戦に慣れてないし。
「……本当にいいの?」
「ウン。これが一番、公平だと思ってイルカラ」
承知の上でやっている。マホロアちゃんは言外にそういう意味を込めていた。
「ジャア、始めヨウカ」
朝日が見えてきた頃、アビドス高校で、二つの影が動き始めた。
───
「……キミは、本当に強いナ」
決闘が始まってから、私はマホロアちゃんをずっと圧倒していた。だけど、決め手となる攻撃が全然当たらない。
マホロアちゃんの動きは飛んでいても見切れているし、あの変な球──先生は「魔力球」って言ってたっけ──も十分回避できている。なのに、彼の隙をつくことだけが、出来ていない。
ふと、マホロアちゃんが戦いながら話しかけて来る。
「シャクだケドネ、ボクは速攻で負けると思っテタ。ホシノが対策委員会で一番強いコトは分かってたカラ。でも、そうならナカッタ」
「……何が言いたいのさ」
「キミ、今も迷ってルデショ?ボクを倒すカ、倒さないカ。じゃなきゃ、ここまで弾が乱れることは無いハズ。今のキミは、ボクみたいな照準をしてるヨ」
……倒すか、倒さないか。迷いを断ち切ったはずなのに、結局まだ私は迷っている。もう、何が正しいのかも分からなくなってきた。
「グッ……」
その時、私の迷いなんて知らないと、放った銃弾がマホロアちゃんを射抜く。それが決め手となったのか、彼は地面に落下した。
……やっぱり、こうなったか。
「……ボクの負けダヨ」
マホロアちゃんは観念したのか、潔く自分の負けを認めた。奇跡は、起こらなかった。
「本当にごめんね、マホロアちゃん」
これで、アビドスは安泰のはず。なのに、どうしてこんなに寂しくて、やるせないんだろう。
マホロアちゃんに背を向けてアビドス高校を出ていこうとする私。マホロアちゃんの表情は、見えない。
「……本当に出ていくんダネ」
「うん。だって、そう決めたでしょ?」
「イヤ、ボクは『好きにしていい』と言ったンダ。アトは、キミの選択ダヨ。ここに残るコトだって、出来ル」
思わず、振り返ってマホロアちゃんを見る。彼は、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「うへぇ~。やっぱりずるいなぁ、マホロアちゃんは」
「このくらいずるい方が、何かと生きやすいんだよネ。……ソレデ?どうするんダイ?」
最後のチャンスだけど、私はやっぱり、みんなにとっての希望になりたい。たとえ、寂しくても。
「やっぱり、マホロアちゃんたちがいるなら、アビドスの今後は安泰だね」
「……そうとも言い切れないケドネ。分かったヨ。ボクはもうこれ以上は言わナイ」
私の選択を理解したのだろう。マホロアちゃんはそう言うと、表情を見せないためなのか、私に背を向ける。
彼が何を考えているのかは、その後ろ姿から読み取れるはずも無かった。
「……じゃあね、マホロアちゃん。先生。そして、みんな」
私はそう言って、自分が愛した場所から一歩ずつ、遠ざかっていった。
───
「先生。ホシノ、行っちゃった。駄目だったヨ。…………ウン、ソウダネ。『プランB』ダ。……エ、ソンナものは無い?イヤ、昨日の夜に決めたダロ!」
「…………本当に大丈夫なのかって?ソコも昨日話したじゃないカ。先生モ、ボクも、これから忙しくなるんだヨ。……ウン、
「先生は、これから来る対策委員会のミンナを、安心させてほしいンダ。多分、ホシノがいなくなって、不安になるだろうカラ。ここから先のコトは、言わずとも分かるよネ?」
「…………ウン、覚えているヨウで安心したヨォ。じゃあ、その通りにヨロシク」
「……ヨシ、切れたナ。マッタク、とんだ頑固者ダネ。もう少し、自分の大切さを学んでほしいナァ」
登場人物紹介等
「小鳥遊ホシノ」
今回の視点主。
マホロアや先生の説得がありつつも、一度決めたことは変えられないらしく、そのまま去ってしまった。
しかし、アビドスを去ることにはかなり迷いを見せていた。
「マホロア」
ホシノを止めるためにアレコレと心を揺さぶったが、それでもホシノの決意は崩せなかった。
こうなることを想定していたらしく、昨晩先生と何かしら決めていたようだ。現在、ホシノを追跡中。
まだ諦めていない。
「先生」
昨晩マホロアと二人で会議を行い、今後の動きについて話し合っている。どうやら、『プランB』は存在するらしい。
初の他視点。ちなみにホシノ視点はもう少し続きます。
あ、それとまたアンケート変わりました。結局全部書くと思いますが、順番が前後するかもしれません。じゃんじゃん投票してってください!
ブルアカのメインストーリーでどの章が一番好きですか?
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Vol.1 対策委員会編
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Vol.2 時計じかけの花のパヴァーヌ編
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Vol.3 エデン条約編
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Vol.4 カルバノグの兎編
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Final. あまねく奇跡の始発点編
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Vol.5 百花繚乱編
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EX. デカグラマトン編