アビドス編は後数話で完結すると思います。
「協力ですか……具体的に何を?」
「ちょっ……マホロアちゃん!」
私の代わりに犠牲になるつもりなのか、という意を込めて叫ぶ。マホロアちゃんは手を挙げて私の発言を制する。「待て」と言っているのだろう。
「大丈夫ダカラ」
そう私に耳打ちすると、再び黒服の人に向き直るマホロアちゃん。……これから、何を話すのだろうか。私を止めて目的は達成しているはずなのに。
彼らの思惑は、私には分からない。
「マァマァ、少しアイスブレイクでもシヨウじゃないカ。契約が無くナッタ以上、今は落ち着いて話せるカラネェ。時間は大丈夫カイ?」
「ええ、私は大丈夫ですが……」
「ならヨシ。ジャア、最近キヴォトスに現レタ『新種の生物』ッテ、知ってルカイ?」
「新種の生物」。マホロアちゃんが襲われたって言ってた変な生物のことだろうか。……ますますマホロアちゃんが何をしたいのか分からなくなる。
「もちろん、知っていますとも。『異界の鳥』に、各エネルギーを体現する『エレメント』たち。私たちの与り知らぬところで突然観測されたこれらの強大な神秘は印象に残っていますよ。ああ、この言い方では伝わらないでしょうか?」
「イヤ、十分ダヨ」
「なら、良かったです。それと、マホロアさん。あなたのことも知っていますよ。一時は、キヴォトスを危機に陥らせた『覇王』であったと。その崇高な神秘は、どこに行ったのでしょうか?」
「そうなの……?」
「ヘェ、そこまで知ってるんダネ」
黒服からのカミングアウトにマホロアちゃんは動じず、何も知らない私がうろたえることになった。本当に、何者なの?
一度は信頼したマホロアちゃんのことがまた分からなくなる。
「……ナラ、話は早いネ。その様子なら、『ハルカンドラ』も知ってるダロ?」
「知っていますが、その都市が先ほどの話と関係あるのですか?」
「ボクは、『ハルカンドラ人』ダ。かつて、このキヴォトスとも交流がアッタ文明の生き残りナンダヨ」
「クックックッ……これはこれは、また随分と大きく出ましたね。しかし、何故そのようなことを私に?」
「ボクがこれからする提案に必要だからダヨ」
「ハルカンドラ」を始めとして様々な聞きなれない単語が飛び交う。……完全に蚊帳の外になってるな、私。
内容が理解できないからこそ、私が割り込んで何か言えるはずも無く。会話はいまだに続く。
「サッキ言った『新種の生物』たちは、全てハルカンドラの負の遺産が招いたモノダ。……キミは、ボクが『覇王』だと言っタネ。ダケド、ボクがそうなったノモ、全部アイツの……『マスタークラウン』のせいダ」
「ふむ……その『マスタークラウン』とやらは見受けられませんが?」
「アイツは今居ないヨ。『
「私たちでも観測できないような存在が、キヴォトスの外にいると?」
「ソウ言ってるんダヨ。ソシテ、その『マスタークラウン』が侵攻を始めたンダ。……
明らかに話が飛躍している。私だったら、こんな話は信じないだろう。キヴォトスが滅ぶなんていうことは、砂嵐よりも酷い「何か」が起こることなんだから。
「確かに、聞く限りではキヴォトスの危機のように思えます。しかし、今の話は、机上の空論に過ぎません。その上で、協力を仰ぎたいと?」
「備えあれば憂いなし、とは言うデショ?アイツが来るまでの共同戦線、といったトコロカナ。もちろん、キミたちにも利益はあるハズダ。『ハルカンドラ』の技術を、知りたくないカイ?」
「なるほど、対価はあの都市の技術、ということですか。本音を言うならば、あなたにその技術の一部を見せてもらいたいのですが……いいでしょう。話を聴いてから決めます」
黒服の人も、マホロアちゃんの話は信じていない。でも、話は聞くつもりのようだ。マホロアちゃんは、淡々と契約の内容を述べ始めた。
「ウン、ソウ言ってくれて嬉しいヨォ。ジャア、条件を決めようカ。一つ、この契約は『ゲマトリア』とボク……『マホロア』個人との一時的な同盟関係を結ぶモノでアル。コノ契約ハ、両者の署名がされ、締結された時から有効とし、『マスタークラウン』の侵攻を防いだ時点で失効スル」
「二つ、『マホロア』は『ゲマトリア』に『ハルカンドラの技術』を提供スル。コレは、サッキも言ったネ」
「三つ、『ゲマトリア』はこれ以上『アビドス高等学校』に所属する生徒と関わらないコト。……この学校ハ、ボクの計画で重要な役割を持っテルカラネ。下手に荒らしてもらっちゃ、困るカラ」
「四つ、『ゲマトリア』と『マホロア』は『マスタークラウン』に関連スル事柄について、共同で研究を行い、結果を両者で共有スル。『マスタークラウン』に関連スル事柄とは、『ハルカンドラ』、『新種の生物』、及び『
「五つ、いかなる状況においても、『マホロア』と『ゲマトリア』は敵対せず、対等な立場とシテ扱う」
「最後ニ、この契約は、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』とは一切関係の無い契約であり、この契約の責任は、『マホロア』と『黒服』に一任サレ、もし破られた場合、その代償はこの二名の話合いのモト決めらレル」
……話を聞く限りだと、マホロアちゃんの知識を売ってアビドスを守るような契約だった。その身を犠牲にするような契約などでは、無かった。
でも、何の問題も解決してないじゃないか。私が突破口になろうとした意味も。不安そうにマホロアちゃんを見る私に気付いたのか、マホロアちゃんは私を見て、頷く。「分かってるヨ」と言うように。
……ちょっとは、信用してみようかな。マホロアちゃんの提示した条件に、アビドスのことも混じってたし。
「少しお待ちを。あなたの言う『ハルカンドラの技術』とは何を指すのですか?こちらとしても、既存の技術を『ハルカンドラの技術』と言われるのは困りますので」
そうしていると、黒服の人が契約への懸念点を示す。流石に、そのまま通してはくれないらしい。
「言うのを忘れてたネ。『ハルカンドラの技術』は基本的にオーパーツの解析にナル。まだ解明されていないモノのネ。ボクなら、ハルカンドラの機械を見分けられるし、分析できるカラ」
「……いいでしょう。それで手打ちにします。こちらとしても、キヴォトスが滅ぶのは避けたいので」
「なら、紙を二枚、用意してくれるカナ。サッキ言った内容を書くカラ」
「ええ、こちらをどうぞ。複写式ですので、一度で大丈夫です」
「ソウカイ。ジャア……」
黒服の人がマホロアちゃんに紙とペンを渡す。マホロアちゃんは、紙に契約の内容を書いたかと思えば、真ん中あたりを持って、黒服に完成した紙を見せる。サイン欄には、マホロアのみの記載があった。
「コレで、大丈夫カイ?」
「クックックッ……大丈夫ですよ。では、私もサインしますね」
「押さえてオクヨ」
黒服の人のサインが終わったかと思えば、マホロアちゃんは後ろの紙をちぎった。これで、契約が成立したのだろう。
……結局、私は何もできなかったのか。
黒服の人は、契約書をまじまじと見つめている。
「クックックッ……」
「ヨシ、じゃあホシノ、帰るヨ」
「……うん」
私の気分は晴れないまま、マホロアちゃんと一緒にこの部屋を去った。
───
アビドスへの帰り道。
結局、私はアビドスを去ることは無かった。けど、代わりにマホロアちゃんが契約する羽目になった。
私が、契約させてしまった。何もしなければ、こうなることはなかったのに。
これで、大丈夫なのかな。ふと、マホロアちゃんを見る。
アビドスの街を一緒に歩くマホロアちゃんは、いつもの調子に戻っていた。あんなことなど無かったかのように。
見ている私に気付いたのか、マホロアちゃんはこちらを向いた。
「どうしたんダイ?」
「いや、結局私って、マホロアちゃんに助けられちゃっただけだな~って、そう思っただけだよ」
「……メーワクをかけタ、って思っテル?」
マホロアちゃんはそういう機微を見抜くのが上手だ。これまでのことからも、分かる。
「……うん。実際、そうでしょ?」
「アア、そうだネ、スッゴク迷惑だったヨ!」
「やっぱり……」
「ダカラ、この問題が解決したら、ボクの夢のお手伝いをしてもらウヨ。こき使ってやるカラ、覚悟しておくんダネ!」
ふざけるような調子で、私にそう言ってくるマホロアちゃん。マホロアちゃんの夢の手伝い、か。
「マホロアちゃんの夢って、どんなものなの?」
単純な疑問をマホロアちゃんに尋ねる。マホロアちゃんは、ちょっと言いずらそうにしている。……でも、話してくれるらしい。
「ボクの夢カイ?…………笑うナヨ。ボクの夢は、『全ウチュウでイチバンのパークを作るコト』ダ。……オイ!笑うナッテ!!」
マホロアちゃんの夢があまりに純粋なものだったから、ちょっと拍子抜けしちゃったみたい。すっかり暗い気持ちが晴れて笑っている私を見て、マホロアちゃんは怒ったような顔をしている。
「ごめんね~。あれこれ悩んでたのが馬鹿らしくなってさ。……いい夢だと思うよ。それ」
「……ソウカヨ」
思いっきり拗ねている口調である。結局、アビドスに着くまで、マホロアちゃんの機嫌は直らなかった。
そして、アビドスの校門まで来た時、機嫌の直ったマホロアちゃんは、ふと、私にこう言った。
「……キミのしたコトは、無駄じゃなかったヨ。おかげで、アイツにトッテモ有利な契約ができたカラ」
「え?でも、そんなに有利そうには見えなかったけど?」
「ア、ソウカ。紙に書いただけで、キミには言ってなかったモンネ。さっき言ったコト、大体嘘ダカラ、忘れてもらって構わないヨォ。重要なのは、アノ契約だから」
「え!?」
そう言うと、マホロアちゃんは校門とは真反対の方向を向いて、こう言った。
「クックック、黒服サン。
───
ホシノとマホロアが帰った後。
一人残った黒服は、未だにまじまじと契約書を見つめていた。
「……マホロアさん、どうやら私は、あなたを見くびっていたようです。あなたは、『先生』と同じ、もしくはそれを超える興味深い存在となるかもしれません」
独り言は続く。
「あなたが『魔術師』であることは、これまでの『先生』への調査ですでに知っていました。最初、あなたにはあまり興味がありませんでしたが、出会って、話してみて、分かりましたよ」
「『覇王』……『マスタークラウン』とあなたが呼ぶそれは、もしかするとあなたの中にあるのかもしれません。あくまで、私の予測ですがね」
「『魔術師』は、可能性や創造を象徴する存在です。そして、裏切りも。あなたがこれからどう生きるのか、見定めさせてもらいましょう」
「……さて、ひとまずはあなたの契約に従わなければなりませんね。私がこのような方法を見抜けなかったのは、あなたを子供だと思っていたからかもしれません。あなたの本当の目的は、これだったのでしょう?」
「マホロアさん。ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ」
黒服は、契約書を持って部屋から出ていく。その契約書には、マホロアが言っていたもの以外に、もう一つ書かれているものがあった。
ちょうど、
「六つ、『黒服』は『アビドス高等学校』の借金を全て返済スルか、『カイザーコーポレーション』の不祥事をまとめた資料を『先生』宛に匿名で送り届ケル。この項目のみ期限を設定し、期限は契約締結日を一日目として三日以内とスル」
登場人物紹介等
「小鳥遊ホシノ」
マホロアの契約に不安がっていたが、本人があっけらかんとしているのを見て、少し安堵している。自身が愛している場所へ戻れたことへの嬉しさもあるのかもしれない。
後にマホロアから契約の全てを伝えられる。
「マホロア」
二つ名「虚言の魔術師」。
平気で嘘をつき、人を騙していたため、その経験が役に立ったらしい。
今回も嘘をついている箇所が結構ある。
彼の目的は最初からアビドスを守ることであった。
契約の内容はそのついで。
「黒服」
マホロアを「子供」と思っていたがために騙された人。
「大人」として対応した場合は全て容赦なく見抜かれる。
マホロアはこれから「大人」として、そして興味深い観察対象として見られることになる。
ブルアカのメインストーリーでどの章が一番好きですか?
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Vol.1 対策委員会編
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Vol.2 時計じかけの花のパヴァーヌ編
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Vol.3 エデン条約編
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Vol.4 カルバノグの兎編
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Final. あまねく奇跡の始発点編
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Vol.5 百花繚乱編
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EX. デカグラマトン編