ここからダル・セーニョ   作:辛酸

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おまつりサクソフォン2

 中間テストが終わり、不思議にも部長とあがた祭りに行くことが決まったあの日から数日が経ち、遂にあがた祭りの当日を迎えた。6月のお祭りということもあり、天候を心配していたのだが、どうやら快晴であり、傘を持つ必要はなさそうだ。

 結局のところ、上野部長から当日の部活で何か話されることはなかった。本当はあの日のことが何かの冗談で、今日はお祭りなんていかなくてよいのではないだろうか。などと考えはしたが、『一度部活から帰って、18時に宇治駅集合ね♪』と書かれたメールが送られてきたことから、その想像は打ち砕かれた。

 

 六地蔵駅に向かう途中の道は、多くの人々で埋め尽くされていた。自分が想像したようなお祭りの輝かしいイメージは、周囲に出店がなくともそこにある。

 改札を通って電車を待つ。祭りの熱にあてられて、心なしか、迎えに来る電車もいつもとは違う光を捉えている。ほんのり明るくて、暖かい。それが梅雨時の湿気のせいなのか、本当に違う照明を使っているのか、確かめようがないことが、自分には神秘的で善いものに見えた。

 電車を降りた先に見えたものは、花畑のように一面に広がる出店の数々だった。その付近には、自己の存在を証明するかの如く、ぼやけながらオレンジ色の光が灯されている。この景色はさしずめ、夜闇に舞う蛍と同じだろう。人工的ではあるが、この景色だからこそ出せる美しさもあるだろう。

 

「藤原君、お疲れ様」

 

 景色に圧倒されていた自分にとって、その声は現実に戻るための切符と同じだった。

 

「その、上野部長……ですよね?」

 

 声の出どころにいたのは、自分を祭りに誘った張本人、上野響部長だった。なぜなら、この状況で自分に話しかけてくる人物など1人しかいないからだ。そう考えでもしない限り、この状況は奇妙だった。なぜなら、目の前にいた人物はおよそいつもの上野部長とは思えない風貌をしていたからだ。まず目を引くのその髪色だろう。付け毛なのだろうか、派手で真っ赤な線が艶のある黒を貫いている。全体的に黒で染められたファッションには、ところどころに痛そうな銀色の装飾がつけられている。着ているシャツには毒々しい紋様が刻まれて、近寄りがたさを演出している。帽子に隠れた顔を見ると、精巧な化粧の跡が見え、目は赤色に輝いていた。これが、アイシャドウとか、カラコンとか、そういうものなのだろうか。美智恵先生が言っていた風紀の乱れにこれはカウントされないのだろうか。そもそも、先輩はこういうイメージのある人だっただろうか。疑問は絶えない。

 明らかにたじろぐ自分の様子を見て、上野部長(?)はニヤニヤと口角を吊り上げる。なんとも悪戯な。

 

「そうじゃないって言ったら?」

「怖さで心臓が止まるかもしれません」

「あはは!面白いこと言うね!やっぱり藤原君を誘って正解だったかも」

 

 部長はひとしきり笑うと、お祭りの中心、明るい方に向けて歩を運ぶ。

 

「それじゃあ、お祭り行こっか」

 

 ◆

 

 眩しい。お祭りで思ったのはそんなちっぽけな感想だった。遠くから見るとあんなに淡くぼんやりと輝いていた提灯たちも、近くで見るとあまりにも光が強い。店が生み出す喧噪も、1つの大きな唸り声のように頭に木霊する。人と人がひしめき合い、今にもぶつかりそうな距離感。普段は歩きやすく広い道路も、今や見る影もない。人の熱気と湿気が混ざって、外気温は高潮、茹だるような暑さの中を歩くのは、まるで煉獄で焼かれる罪人のよう。あんなにも幻想的な風景に見えたものなのに、どうして近くに寄って見てみると、こんなにも評価が違うものなのだろうか。その答えはわからないが、自分がいつの間にか人混みを苦手になってしまったことだけは確かなようだった。

 上野部長の格好へのショックといい、お祭りが想像以上に過酷な戦場だったことといい、これは早々に疲弊してしまうかと思ったところなのだが、お祭り自体の楽しさは想像を超えたものだった。日曜日のランニングついでにふらふらと街を歩くのとはまた違う、人が深めてくれる面白さがそこにはあった。

 

「藤原君、激辛料理見つけたよ!全然売れてないけど!」

「上野部長、この辛さならもっと唐辛子とかタバスコ入れた方がいいですよ」

「うん、売れない理由が分かった気がする」

 

「上野部長、かき氷2つも食べてお腹壊さないですか?ただでさえお腹冷えそうな格好しているのに……」

「いい?お腹を出すのはファッションだから、そういう事を女の子にいうのはマナー違反だから。覚えておいて、ね?」

「す、すみません……」

「わかったなら、これから気をつけるように。あと、その唐揚げを1つ献上すること」

 

 いや、思い返してみると怒られることの方が多かった気がする。本当に上野部長は自分と来て楽しいのだろうか?とはいっても、気にしてもきっとどうしようもない。自分程度が場を盛り上げられるなら、すでにやっているのだから。

 さて、何故こんな回想をしているのかといえば先ほど上野部長が「私焼きそば買ってくるから待ってて」と言ってかけていったからだ。ここから少し離れた店に行ったのは、どうやら美味しいお店を知っているかららしかった。

 石垣に腰掛ける。ガヤガヤと騒がしい周囲は、音量を変えていないのにも関わらず遠くに聞こえる。静かに目を開けると、目の前を通り過ぎているものが、色とりどりの影のように見えた。赤、黒、茶、縞々。それを普段は服と呼ぶことを思い出す。なるほど、人波とはこういう形をしているのだ。さっきまでその波の中にいたというのに、離れるだけでこうも他人事で、静かで、孤独なのか。とめどなく流れ続けるこの波が、届かない位置に自分はいる。紫、緑、グレー、ピンク、そして白。その白が突然動きを止める。この色は、何の理由で足を止めたのだろう。自分もこの色といっしょに流れたら、わかるのだろうか。何故流れるか、知れるだろうか。

 

「藤原創」

「は、はい!……あ、美智恵先生、ですか?」

 

 白、などと言っている自分を恥じた。自分はどこまでボケていたのだろう。この人は吹奏楽部副顧問、美智恵先生ではないか。そういえば、今日の部活で見回りに参加すると言っていたような気がする。そうか、学校の周りでの祭りなど、風紀が乱れる場としては最もらしい。先ほどその実例を見た類なのだから。ならばもしや、上野部長の存在は隠したほうがいいだろう。一人で来たということにしなければ。

 

「隣、少し座ってもいいか?」

「あ、はい」

 

 美智恵先生が少し離れて腰掛ける。

 

「藤原、今日お前は一人で来たのか」

「えっと、そうです」

「そうか……。ところで、先ほどお前がかなり個性的な人影と2人でいた姿を見たのだが」

 

 そんなことはお見通しと言わんばかりに、美智恵先生は言葉を続けた。驚いた。見られていたのか。

 

「えっと、あの人は、その、遠い親戚の大学生の方というか、そんな感じです。京都のお祭りに来てみたいようでして……」

「ほう、それは本当か。お前の家系は、どうやら美術を解することに特に秀でているみたいだな」

「きょ、恐縮です……」

 

 先生の視線が痛い。美智恵先生は、何を考えているのかよくわからない。厳しいような、優しいような、真反対であるはずの感想を同時に抱く人だからだ。心配されているのかと思えば、厳しさとしてそれが表出する。その厳しさは規律として有効に働いているのだろうが、だからこそ評判は二分される。3年生の担任であるはずなのに、美智恵先生について耳にするのはそれが理由だろう。

 美智恵先生は明らかに動揺している自分を見て、ため息をついた。これは独り言だが、とその息のまま続ける。

 

「上野はあれで繊細な人間だ。受験期というのもある。様々な障害がある中で藻掻いている。何か気に障るようなことがあっても、許してやってくれないか」

「上野部長が……?」

 

 それだけ言って美智恵先生は立ち上がる。まるでそれだけを伝えに来たようだった。というか、あの姿でも上野部長とわかるのだろうか。

 

「今のは私の独り言だ。たとえ聞こえていても反応しないように。それにどうやら、風紀を乱す生徒がいるかと思えば、ただ祭りを楽しんでいる生徒がいただけだった。藤原、お前も何かあれば相談するように。わかったな?」

「あ、わかりました」

 

 よろしい。それだけ言って美智恵先生は視界の外に去っていった。一体どういうことだったのだろう。そもそも迷惑をかけているのは自分の方なのだから、許されてほしいのもこちらであるはずなのに。混乱した自分は、先生が去っていった方向を見つめることしかできなかった。

 

 

「藤原君お待たせ、結構時間かかっちゃった」

 

 程なくして、上野部長が帰ってくる。その手にはしっかりと焼きそばの袋が下げられていた。座って焼きそばを食べて、ようやくお祭り巡りは再開された。先生と出会ったことを、上野部長には秘密にした。単純に、どう言ったらいいかわからなかったからだ。踏み出す一歩は、少しだけ遅くなった気がした。

 歩き続けるうちに、無限に続くように思われた回廊は、次第に人の輪郭がはっきりとし、出店の数も少なくなった。見えてきたのはお寺だろうか。ここまで来てしまうと、地図を見なければ帰れないような、全く知らない土地になる。だがここに地図は無いのだから、頼れるのは先輩だけだ。戻るだけならどうにかなるかもしれないが、なるたけ安全な道を進みたい。だがそんな願いとは裏腹に、急に先輩は動きを止めた。

 

「藤原君、近くに景色がいいところがあるんだけど、山登りに興味ない?」

「山登り、ですか?」

 

 山登り。普段からそこまで聞く言葉ではない。だが確かに、この神社の奥には大きくそびえ立つ山がある。

 

「大吉山っていうんだけどね、ここの展望台から見える景色がすごく綺麗なの。それに、祭りの日なんて人は全くいないだろうし、絶好かなって」

「上野部長、ありがたいのですが、余り帰りが遅くなるのは……」

「平気だよ。そこまでだいたい20分くらいだし、8時を少し過ぎる頃には帰れるはず」

 

 腕時計を見ると、現在時刻は19時数分。もしかして、集合が18時だったのはこのためだったのだろうか。とはいえ、早く帰れるというのであれば断る理由はない。経験は表現力を磨く最高のインスピレーションだ。きっと音楽の役に立つのであれば、ある程度のことは許容すべきだ。そう考えて、闇が象る明所へ足を踏み出した。

 

 山道は静かだった。それなのに、一言喋るだけでどこまでも響いていきそうな、そんな幻聴を聞いた気になる。漏らす息の音も、頬を伝う雫が垂れる音も、髪が揺れる音も、運動で早くなる鼓動も、それらがひとつになって、音楽のように伝わってくる。暗い場所から、ほんのり明るい街を見る。街のほうがステージで、こちらが客席。奏でるのは自分で、聴くのも自分。そういえば、そうやって観客が奏でる音を音楽として表現していた楽曲が存在していたな、などと思考を巡らせる。

 考えを巡らせ続けるうちに、視界が開けた。星の光が弱くなって、代わりに眼下の光が美しく輝く。ひとつひとつが星粒のようなこの街並みは、まさしく京都、そして宇治という街が生んだ芸術だろう。北海道に住んでいた頃、祖父に連れられて所謂「100万ドルの夜景」を観に行ったこともあるが、この景色もまた格別だ。函館には函館の、宇治には宇治の、住んでいる人の生む輝きがあることを、よく理解できる。連れてきてくれた部長には、特に感謝しなければならない。

 

「この景色、いいでしょ。……なんて言っても、私もお祭り中とか夜にここに来たのは初めてだから、感動具合はおんなじな気がするけど」

「いえ、この景色が見れただけで嬉しいです。ありがとうございます、部長」

 

 この感謝がしっかり伝わっているかはわからないが、上野部長は微笑んでくれた。いつも学校にいる時と格好も雰囲気も異なるとはいえ、こうして夜景を背後にした部長は、非常に絵になる存在だ。部長の纏う黒い衣服が、淡い輝きに照らされることで独特な雰囲気を漂わせている。

 

「ずっと、君とちゃんと話してみたかったの。こういう場所で、こういう雰囲気で」

 

 ……妙だ。なんなのだろう、この背中がゾワゾワするような不思議な感覚は。自分と部長は、一緒に祭りこそ楽しんだが、そういう関係ではないはずだ。それなのにこの雰囲気はまるで、これでは

 

「愛の告白」

 

 まるで心の奥底を読まれたかのような感覚。声が出せない。息がうまく吸えているかもわからない。自分があまり抱いたことがない不思議な感情。そういうモノに向き合ったことは一度もない。この焦燥を少しでも抑えるために、部長の顔を見る。目が合う。なんでだろう、こんなにも心を握られたように感じるのは。部長は相変わらず微笑んでいるままなのに。

 

「えぇ?女の子がこういう雰囲気作ってるのに、何その顔。そんなに怯えたような顔しないでよ」

 

 あはは、と乾いた声が響く。そうして気づいた。これが浮ついた感情などではなく、恐怖に似たモノだったことに。

 

「まあいいや、さっきのは半分冗談。今日はね、愚痴を聞いてもらいたかったの」

「愚痴、ですか?」

「そう、愚痴。例えば、あの部活が嫌いなこととか」

 

 そうして、上野部長はぽつりぽつりと語り始めた。

 

「見てればわかると思うけど、私、お飾りの部長なの」

「大して部活に友達なんていなかったけど、楽器を真面目にやってたからって理由で部長にさせられて、気が付いたら梨香子先生は懐柔されてて、もう意見なんてひとつも言えやしなかった」

「そうしてなんとか練習時間だけは確保できるように居場所を作ってたのに、たかだか数カ月前まで中学生だったような人たちに『何もしてくれない酷い部長』だなんて呼ばれて、正直意味が分からなかった」

「中世古ちゃんとか晴香ちゃんが庇ってるから、2人がかわいそうだから今も間を繋いでるだけで、正直鬱陶しいし腹が立つから関わりたくなんてない」

「私の3年間は、そんな意味もない席取りゲームのためにあったものなのかなって、ときどき思うの」

 

 ひどく空気が重たい。上野部長は、明らかに普段の様子ではない。今まで見ていた、人当たりがよくていつも笑顔だった部長はどこかへ行ったのだろうか。……いや、そもそも自分が見ていた部長が偽物で、これが本当の部長だったのだろうか。他の場では見せない、内に飼う獣の部分だというのか。

 

「で、でも、部長は慕われていると思いますよ」

「誰に」

「それは、殆どの1年生とか晴香先輩とか、それに田中先輩だって」

「それ冗談?1年生なんてそもそもどうでもいいし、晴香ちゃんは一緒に練習してるだけ。田中さんなんて、私が一番彼女の邪魔をしないって理解してるだけだよ。それで、たまたま会話してもいい対象に入っているだけ」

 

 息が詰まる。何も返さなくなった自分を見て何を思ったのか、上野部長は視線をそらして展望台から見える街を見下ろす。

 

「でもね、さっき1年生はどうでいいって言ったけど、君のことは結構好きだよ」

「……どういうことですか」

「さっき言ったでしょ?これは愛の告白で、それは半分正解なんだって。私、楽器上手い人好きだから」

 

 そういう点では田中さんの在り方も好意的に捉えてると言えるんだけどね。そう付け足して、上野部長は笑った。そうして振り返って、こちらを見て、ゆっくりゆっくり寄ってくる。

 

「でも、君は特別」

 

 一歩。

 

「だって君は、私と同じ楽器で」

 

 一歩。

 

「あの部活の誰よりも上手い」

 

 一歩。

 

「そんな君の音だもん、もう愛したいくらい好きになっちゃうよ。ふふ、違ったね、音楽が好きなら愛さないといけない、だよね」

 

 そして、最後の一歩。自分は、足が竦んで動けない。冷や汗が垂れる。近づいてきているだけなのに、どうしてここまで怖い。どうしてここまで、近寄ってほしくないと思うのか。

 

「でも、それも含めて全部嫌いなの。藤原君のこと、全部嫌い。だから、話してみたかったの。だから特別なの。これが、愛の告白のもう半分」

「すみま、せん。意、味がわかり、ません」

 

 息が苦しい。息が出来ない。言葉が出ない。言葉が紡げない。

 

「違うよ、嫌いなのはそういうところ。そうやって相手に合わせて機嫌を伺ってれば、人間関係を上手にできてると思ってる傲慢さ。心の奥底では他人なんて自分には関係ないと思ってるんでしょ?よかったね、それがバレてたら滝野君とかどう思うんだろうね?」

「……やめて、くだ、さい」

「いつもいつも笑ってられるのは、きっとそういう心があるからだよね?その反応、そういう自分の気持ちを自覚してないんでしょ?本当に最悪だね、藤原君は。でも当然か。音大目指すなら、ソロが上手ければいいだけなんだから」

 

 言葉が、こころを裂いていく。剝がしていく。消されていく。積んである壁が、消えていく。くずのように吹き飛ばされる。

 

「君がそんな風になったのはどうしてなのかな。どうでもいい他人に、機械的に接して、そんな心無い人になっちゃったのはなんでかな?ねえ、教えてよ。君が本当にやりたいことって」

「やめてくれ!」

 

 ドンッ、と音がして、虹彩が目の前の光景を切り取る。くしゃくしゃに歪んでいた視界がゆっくりとそのしわを延ばされていく。気が付けば、自分の腕が上野部長を突き飛ばしていた。うるさいと思ったら、肩の上下で息が荒くなっていることに気が付いた。パッと見たところ部長に怪我はないようだから、まずは自分が落ち着かなければ。人前でこんなに取り乱すなんて、まるで意味がないのだから。そう考えて深呼吸をすると、体の中が少し冷えて、ゆっくりと呼吸が落ち着いてくる。

 部長はといえば、その間自分に怪我がないかを確認して、自分の息が落ち着くのを待っていた。何がそんなに面白いのかわからないが、したり顔の部長はこちらの様子を伺いながら言葉を発する。

 

「君にも、そういう他人をどうにかしたいって気持ち、あるんだね。私、君のその分厚い仮面がもっと剥がれた見たいな」

「……余計なお世話です」

「ふふ、その反応だと意外と嫌われてないのかな。言ったのに、私は君のそういうスカしたところが嫌いだって。もっと他人を嫌いになるくらいの感情を見せてほしいのにな」

「話したいことはそれだけですか」

「そうそう、そういう君のエゴが私は見たかったの。なんでもかんでもどうでもいいっていう君じゃない。自分には全然関係ありませんなんて顔して、他人と関わる君じゃない。そういう、無難さなんて仮面全部はぎ取った君と、話したかったの。そうじゃないと、君と話す()()()()()。だからこれは、ちゃんと愛の告白なんだよ」

「……もう、今は喋らないでください」

 

 流石の上野部長も、ここまで直接伝えると静かにしてくれるのか、一瞬だけつまらなさそうな顔をして黙った。ただ、すぐに笑顔に戻ったその顔にも、翳りのあとは伺えた。

 何故、自分がここまで拒絶を感じたのかは、きっと上野部長の言うとおりだ。図星もいいところなこの感情は、だが結局どうすればいいのかなんてわからず、明確に自分の心に消えない雲を作った。だって今更、自分なんかが他人と関わる方法なんてこれしかないのだ。もう、これ以上“藤原創”を壊されては、どうすることもできやしない。

 

「まあ、今日はここまででいいんだ。流石にこんなイタい格好と言動した先輩に、すぐ本心なんて明かすわけないもんね。ごめんね、付き合わせて」

 

 上野部長のその発言を最後に、山を下って別れるまでの間、自分たちが話を交わすことはなかった。時刻は8時半。まだ盛り上がりを残した祭りの景色を背後に、自分の中は冷たい静寂が支配していた。

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