とある晩夏の満月の日に起きた異変、今では永夜異変と呼ばれる異変。それから短くもない月が経過したある日、霧の湖の畔に建つ、紅く窓が少ない洋館で事は始まった。
「ふあぁ…今日もいい天気だなぁ。少しお昼寝でもしちゃいましょうか」
と、呟くのは緑のチャイナドレスを身にまとい、星のマークを付けた帽子をかぶった、紅魔館の門番である紅美鈴だ。彼女がこう考えてしまうにも仕方がないほどに、今日は天気が良く、絶好の昼寝日和なのである。もっとも、天気などに左右されず彼女はいつも居眠りをしているのだが。
「それじゃあ、少しだけ…おやすみなさい」
と、門の柱にもたれ柔らかな日差しとともにやってきた眠気に身を任せ眼を閉じる。数分もせずに、夢の世界に旅立てる。彼女がそう確信を抱いたその時である、
「ちょっと、美鈴!起きなさい!その頭にナイフを突きさすわよ!」
まどろみの中、眼を開いた美鈴の前には片手に荷物、反対の手に陽光を受けてきらめくナイフを構えた紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が立っていた。
「あちゃあ、見つかってしまいましたか」
反省した様子が見えず笑顔で答える美鈴の姿を見て、咲夜は視線と構えを少し鋭くしながら
「見つかるも何も、人里に出かけるのを見送ったのはあなたでしょう?私が帰ってくるのをわかっていながら、居眠りをするなんて私への挑戦状かしら?」
「いえいえ、決してそんなつもりはありませんよ!この紅美鈴、たとえ眠っていようとも何人たりと通しません!」
「全く、調子だけはいいんだから。今日は勘弁してあげるから、本当にしっかりしてよね」
(あれ?おかしいな。お仕置きがない?)
いつもと様子が違うことに気づいた美鈴は咲夜のことを改めて観察してみる。すると、彼女のメイド服がところどころ汚れていることに気づいた。
(ん?砂埃?ここを出たときはあんな汚れはなかったはず…道中、もしくは人里で何かあったのかな?)
返事をする様子がなく、あまつさえ人のことをじろじろと見だした美鈴を見て咲夜は思わず怒鳴ってしまう。
「ちょっと、美鈴!聞いているの?人の事、じろじろ見ていないで返事をしなさいよ」
「おっとっと、これはすみません。それにしても咲夜さん」
「なによ?」
「道中もしくは人里で何かありました?」
「あら、よくわかったわね。道中に少し幽霊が多くてね。ちょっと蹴散らしてきたのよ」
「幽霊ですか…?」
「そうよ、まったくちょっと人里に行くだけの用事だったのに勘弁してほしいわ」
おかげで、服が汚れてしまったわと、メイド服をぱたぱたと叩いている。そんな中、
「ちょっと、探ってみますね」
と、美鈴はフッと気合いをいれ、気を使う程度の能力を発動させて周囲の気を探ってみる。その姿は、先ほどまで居眠りをしようとしていたとは思えないほどに凛としたものだ。
(紅魔館の近辺にはあまり、湖を超えてから…確かに多いですね。これは…あの時期がそろそろやってきますね。そういえば、もうじき60年が経ちますね。こちらに来てからは初めてで少し気が抜けていましたね。)
ひとしきり探り終えたのを確認してから、
「咲夜さん、今日、レミリアお嬢様はお目覚めですか?」
「ええ。今日は珍しくお目覚めになっているわよ」
それを聞いて思わずニヤリとしてしまう。
「さすが。すべてお見通しってわけですか」
「一体なんのことよ?」
「いえいえ、こちらの話です。ちょっと、用事があるのでレミリアお嬢様に会ってきますね」
「あら、居眠りしていたことを自己申告しにでも行くのかしら?」
「ははっ。それも楽しいことになりそうですが、今回はやめときますね」
「まぁいいわ。私も帰ったことを伝えに行かなければいけないし、一緒に行くわ」
※場所は変わって紅魔館内部
「お嬢様、ただいま戻りました」
「あら、咲夜おかえりなさい。ちょうどよかった。美鈴を呼んできて頂戴」
「美鈴でしたらちょうどこちらに」
美鈴だけでなく、お嬢様まで美鈴に用事があるとは、いったい何なのだろうと疑問に思いながら、美鈴を前にだす。
美鈴は、お嬢様の前に立ち、
「お嬢様、明日よりしばしの休暇をいただきたいのですが」
対し、レミリアは
「もちろんよ、私もそのことで話があったのだから。今回はどれくらいの日数が必要なの?」
「今回は、4日ほどで済むかと」
「わかったわ。というわけで咲夜。4日間美鈴はいなくなるからメイド妖精で門の警備を強化しておいて頂戴。」
「わかりました。お嬢様」
「じゃあ、美鈴。今日からでいいわよ。また4日後に会いましょう」
「はい。お嬢様。ありがとうございます。また、4日後に」
そういって、美鈴は部屋から出て行った。あとに残されたのはどこか腑に落ちないといった表情をした咲夜と、全ては運命通りといった顔をしたレミリアだった。
「咲夜、不思議な表情をしているわね」
「はっ、失礼を」
「構わないわ。そうね、いい機会だし、話しておくわ。美鈴はね60年置きに休暇をとっているのよ。あなたにとって初めての経験だし突然悪かったわね」
「いえ、教えていただきありがとうございます。むしろきちんと休暇を取っていたことを知ることができ、安心しております」
「そうね。それにしても、休暇といってどこで何をしているのか…」
「お嬢様はご存じないのですか?」
「そうなのよ。聞いたところで教えてくれないのよ。気にならないっていえばうそになるけど、プライベートにまでとやかく言うつもりはないからね、いずれ話してくれるのを期待しているわ」
「そうだったのですか。一体何をしているのでしょうね…」
「そうね…」
と、本日より休暇を過ごす紅美鈴に思いをはせる二人であった。
※場面変わって
主と上司に何をしているのかと考えられている当の本人は、自室で荷造りをしたのち、紅魔館を出立し森のはずれに来ていた。
「お待たせしました。そこにいるのでしょう?そろそろ出てきてくださいよ」
と、声をかける。しばしの沈黙の後…
「スキマに隠れている私の気配を見つけるあたり流石ですわね」
と、スキマから現れたのは妖怪の賢者、八雲紫であった。
「武を極めんとしている身。さらには能力まである。これで、気配を見つけられないのでは武人の名折れってやつですからね」
「ふふふ…そうでしたわね。鈍っていないようで安心したわ。では、行きましょうか?」
と、紫が手に持った扇子を振る。そして、目の前には人が通れるほどの大きさをほこるスキマが現れる。
「そうですね、行きましょうか。紫様」
「ええ。行くわよ、
かくして、二人は目前のスキマに歩を進めたのであった。
一話目読了いただきありがとうございます。
美鈴について色々と妄想していたらいつの間にかこんなものを…
ところどころ表現のおかしいところ等があるかもしれませんが、ご容赦ください。
では、お楽しみくださいませ。
2014/09/24 ちょっこと気になるところを修正