艦これ 〜硫黄島への手紙〜   作:蒼海 輪斗

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一通目 着任

 硫黄島。

 

 そこはかつての大戦で、日米両軍が血みどろの戦いを繰り広げた孤島である。現在は日本国防軍の統治下にあり、軍事要地とした利用されている。

 

 20XX年の深海棲艦出現に伴い、小笠原諸島防衛のため「硫黄島鎮守府」が設置された。しかし、硫黄島は劣悪な環境であるため体調不良を訴える提督が続出。そのため現在は一ヶ月の交代制で鎮守府の勤務を行っている。

 

 このように過酷な環境下での鎮守府運用であるため、提督たちの中では「最も最悪な左遷先」と言われている。

 

 

 

20XX年 3月

 

硫黄島上空

 

 日本国海軍の大型四発輸送機「連山」が轟音を響かせながら飛行している。その連山の中に若い青年と少女がいた。

 

 「山田提督、見えてきましたよ。あれが硫黄島です。」

 

 操縦士に声をかけられた青年、「山田賢人」が窓に目をやる。窓からはくさび型の島にひときわ目立つ山が見えた。硫黄島で最大の標高を誇る摺鉢山だ。

 

 「あれが硫黄島…」

 

 賢人が静かにつぶやいた。この島で大規模な戦いが行われ、多くの人命が失われたことは在学中の海軍兵学校で教わっていた。それを自らの目で見るとは夢にも思わなかった。

 

 「司令。そろそろ着陸するから席に座ろ。」

 

 賢人の隣で声をかけてきた少女は陽炎型駆逐艦娘一番艦の「陽炎」だ。彼女は賢人の秘書艦であり、海軍兵学校からの付き合いである。

 

 「山田提督、着陸しますので気をつけてください。」

 

 「はい。わかりました。」

 

 賢人は席に座り、手すりに掴まる。段々と滑走路が見えてきた。ガシャン、という音とともに連山は滑走路に着陸した。しばらく車輪で疾走し、降着場に着いたところでようやく止まった。

 

 扉が開かれ、賢人は硫黄島へと降り立った。島中を乾いた空気が満たしていた。

 

 「ここが…」

 

 降り立った千歳飛行場の前では海軍の関係者たちが待っていた。一斉に敬礼をされ、賢人も敬礼を返した。そのうち一人が賢人の前へ進み出て言った。

 

 「海軍硫黄島防衛団の中村と申します。階級は少尉。ここからは私が島内を案内します。」

 

 20代半ばの男性、「中村聡」がそう言った。それに賢人と陽炎が言葉を返した。

 

 「はい。海軍少佐の山田です。よろしくお願いします。」

 

 「お願いします。」

 

 「はい。それではまず島中を散策しましょう。覚える場所は多いですし、意外に広いのでジープを用意します。しばらくお待ち下さい。」

 

 そう言い中村は後ろの倉庫に走っていった。数分後、中村がM151を運転しながら賢人たちの前に進み出た。

 

 「どうぞ、乗ってください。」

 

 言われるままに賢人と陽炎はM151に乗車した。

 

 「それではまず摺鉢山から案内します。」

 

 中村がアクセルを踏み、タイヤが回りだし走り始める。生暖かい風に当たりながら三人の乗る車は整備されていない悪路を走っていった。

 

 

 しばらくすると、前方に大きな山が見えてきた。賢人と陽炎が身を乗り出してその山を見つめた。中村は車を止めると話し始めた。

 

 「あれがこの島最大の標高を誇る摺鉢山です。かつての大戦では旧軍の重要防衛地として使用されていました。現在は火山活動による崩落の危険があるため入山は禁止されています。」

 

 賢人と陽炎は摺鉢山を見上げた。ほとんど草木の無い、岩肌が露出した山だ。そして所々に砲塔のようなものが見えた。今でのこの島はかつての大戦の出来事を物語っているかのようだった。

 

 「それでは次の場所を案内します。」

 

 再び中村は車を走らせた。その車内で賢人が中村に問いかけた。

 

 「すみません。中村さん。」

 

 そう言うと中村が振り向いて言った。

 

 「中村でいいですよ。提督のほうが階級は上ですから。」

 

 「わかりました。では少尉、現在のこの島にいる人員は何人なんでしょうか?」

 

 中村はハンドルを握ったまま口を開いて答えた。

 

 「現在、我々海軍は提督を含めて20名。陸軍は40名。空軍のパイロットは12名駐屯しています。艦娘の皆さんの方は6名ですね。」

 

 「えっ、そんなに少ないの?」

 

 陽炎が身を乗り出して中村に問いかけた。

 

 「島の大きさの割に小さな鎮守府なので、それぐらいの艦娘しか配属されていないんですよ。おまけに資材の輸送が難しいため建造システムさえもありません。」

 

 「そうなんですか…。」

 

 賢人は目線を下に落とした。先週までいた海軍兵学校では「硫黄島鎮守府は有名な左遷先」という風の噂を聞いていた。まさかとは思ったものの、どうやら噂は正しいようだ。すると中村が振り向いて言った。

 

 「でも安心してください。深海棲艦の出没はそれほどではありませんし、沿岸砲や航空機6機、軽装甲車4台配備されています。」

 

 それを聞いた賢人はホッとした。提督になりたてでとんでもないところに回されてしまったと思っていたが、案外どうにかなりそうである。

 その時、陽炎が賢人に声をかけた。

 

 「そういえば司令。昨日中将となにか話してたけど何話してたの?」

 

 「えっ…。何って次の配属先のことだけど。硫黄島ののちに柱島に回す。みたいなこと言われただけだよ。」

 

 賢人がそう言うと、車が止まった。

 

 「ここが漂流木海岸です。かつて米軍はここから島への上陸を開始しました。そして日本軍の激しい機関銃掃射、重砲の直撃を受けて血に染まった海岸です。」

 

 その海岸は見たところありふれた海岸と何も変わりないものだったが、とても悲しい雰囲気があたりに充満していた。ここでの惨劇を思い浮かべて賢人は背筋が寒くなった。

 

 「それでは今日はこのあたりにしましょうか。これより庁舎に向かいます。」

 

 そう言うと中村は再び車を走らせた。独特な雰囲気をまとった海岸を後にすると、新築同然の建物が見えてきた。

 

 「あれが…」

 

 「そうです。ここが硫黄島鎮守府の庁舎です。中には駐屯艦娘の皆さんもいます。」

 

 車を降りると中村は「では私はこれで。何かあれば職員に聞いて下さい。」と言い残し、別の職員が用意した車に乗って、千歳飛行場方面へと向かっていった。

 

 賢人と陽炎はそのまま庁舎の中へと入っていった。まだ新しい木のぬくもりと静けさが伝わってきた。

 

 「まだ新築同様みたいだね。すでに4人くらい着任しているみたいだけど。」

 

 「そうね。まぁ、とりあえず駐屯艦娘に挨拶でも行きましょ。」

 

 陽炎に言われて賢人は廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 「はじめまして!特型駆逐艦の吹雪です!よろしくお願いします!」

 

 「同じく特型駆逐艦、綾波と申します。」

 

 「白露型駆逐艦、時雨だよ。」

 

 「軽巡洋艦、大淀です。よろしくお願いします。」

 

 「青葉型重巡洋艦の青葉です!お願いします!」

 

 「同じく青葉型重巡洋艦の衣笠よ!よろしくね!」

 

 執務室で待っていた6人の艦娘から一斉に自己紹介を受けた賢人は少し戸惑っていた。

 

 「あっ、えっと…。…今日から一ヶ月この硫黄島鎮守府に着任することになった山田賢人です…。よろしくね。」

 

 「もぉ〜司令ってば、おどおどしすぎ!あっ、私は陽炎型駆逐艦一番艦陽炎よ!よろしくね!」

 

 一通り挨拶を済ますと、賢人は早速書類仕事を始めた。それほど大きくない鎮守府であるため書類の量も大したことはなかった。2時間もすれば全ての書類を処理できた。

 

 「ふ〜、終わった。」

 

 賢人はソファに腰掛けると、中村から手渡された書類に目を通す。

 

 『硫黄島では様々な決まりが存在している。寝る前は必ず水を供えること。お供え物には絶対に触れないこと。砂は絶対に持ち帰ってはいけないこと。』

 

 このようにしてはいけないことが書き込まれている。賢人は「大げさだなぁ」とは思いつつ、決まりはしっかり守ることにした。

 

 彼はまだ知らなかった。この島に秘められた戦いの記録を。

 

 

 

 だんだんと暗くなる空の下の硫黄島に、生暖かい風が吹いていた。

 

 

 

 




不定期投稿です。(一週間に一回投稿できたらいいな)
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