ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「それで、そのあとどうなったの?」
先輩が興味津々な顔で続きを促した。ホシノとカヤツリはパトロールから帰ってきてから質問攻めにあっていた。ヘルメット団に尋問していたら思いのほか長引いたのである。それで心配した先輩から生徒会室で事情聴取を受けていた。自分の拳銃の整備をしながらカヤツリは続きを話す。
「迫撃砲を壊した後ですか?あの後残ったヘルメット団に色々聞いてました」
あのあとカヤツリは拳銃を突きつけて脅しつつ、複数人から今回の経緯を聞き出していた。後ですり合わせて事実か確認するためだ。それで分かったことは禄でもない事だった。
「それで何が分かったの?」
「どうも、アビドス砂漠の各地点で爆撃しろって依頼が回ってるみたいなんですよ」
カヤツリの答えを聞いた先輩が不思議そうな顔をする。言ったカヤツリもこの依頼の意図が良くわからなかった。同じ場所は一つもなく、時間もバラバラ、爆撃する武器も迫撃砲だったりロケットランチャーだったり、すべてが不自然だった。
「私、そんな依頼は見たことないよ」
「それはそうですよユメ先輩。その場で武器と引き換えに依頼するらしいですから、よっぽど秘密にしたいんでしょう」
ホシノの言う通りで、とても情報が洩れることに対して気を使っている。依頼を持ち掛ける人物も毎回違うらしい。ホシノとカヤツリに毎回襲撃されて金欠だったヘルメット団はその取引を断る選択肢はなかったようで、今ではほとんどの不良生徒たちが砂嵐も気にせずに、アビドス砂漠で爆撃を繰り返しているらしい。
「だから最近砂埃がひどいんだね」
「砂嵐もひどいですからね」
先輩とホシノが最近の気候について話している。確かに、ここ最近砂嵐がひどくて宝探しもしばらく行っていない。砂嵐が来ると掃除が大変でカヤツリは嫌いだった。近々、校舎に防砂用の壁でも作ってやろうかと思っているくらいだ。ちょうど拳銃の整備が終わり、懐にしまい直していると先輩が何かを懐かしむように言葉を零した。
「それにしても、皆で砂漠を爆撃するなんて昔のアビドスみたいだね」
いきなりとんでもないことを言い出す先輩にカヤツリは疑いの目を向けた。ホシノも同じような目をしている。とんでもないエピソードが多いアビドスとはいえ、いくら何でもそんなことはないだろう。二人の疑いのまなざしに先輩は慌てながら弁明した。
「ひぃん。二人ともそんな目をしないでよ。嘘じゃないよ。昔、まだオアシスがあった頃にオアシスの魚を取るのに手榴弾とか投げてたんだって。すぐ禁止になったらしいんだけど」
「ダイナマイト漁じゃないですか。当たり前ですよ」
ダイナマイト漁?カヤツリはそんな言葉を聞いたことがなかった。漁と名前が付くぐらいだから漁の一種なのだろうが。ダイナマイトの単語が物騒でまともな方法ではないんだろうなと感じさせた。
「ダイナマイト漁ってなんだ?」
「知らないの?カヤツリ」
知らないことを尋ねるカヤツリが珍しいのか、ホシノがこちらをまじまじと見る。そのまま、にやりと笑って説明してくれた。
「簡単に言うと、爆発の衝撃で魚を気絶させて漁をするんだよ。気絶した魚はぷかぷか浮いてくるから爆弾一個で漁ができるのが利点かな」
「そんな都合よくいくのか。それ」
「いかないよ」
笑っていたホシノの顔が真顔になった。この反応を見るにあまりいいものではないらしい。
「死んじゃう魚も多いし、必要以上に獲れるからね。成魚も稚魚も関係ないから繰り返すとそこから魚がいなくなるよ。だから禁止になったんだよ。きっとね」
流石、水族館であれだけはしゃいでいただけはある。魚関係の知識は豊富だった。これから、それ関係で分からないことがあったら聞いてみようとカヤツリは思った。アビドスではそんな機会は中々ないだろうが。
「ただ、砂漠で泳ぐ魚なんていないから、そこは気にしなくていいよ。カヤツリ」
最後のホシノの言葉がカヤツリの中で引っかかった。少し前にホシノと同じような会話をしたような気がしたのだ。今を逃すともう思い出せないような気がして必死に記憶の糸を辿る。確か場所は生徒会室で、先輩とホシノとカヤツリもいた。今と同じように。
──そこには”鯨”が出るんだ。
──そんなところに鯨なんて出るわけないじゃないですか。海じゃないんですから、そんな鯨聞いたことも見たこともありませんよ。
──思い出した。まだ、ホシノを避けていた時の会話だ。鯨の話をしていた時だ。カヤツリの頭の中で嫌な想像が組みあがっていく。減ってきたヘルメット団、依頼主も目的もよくわからない爆撃依頼、爆撃地点と時間の関係、最近多い砂嵐、ダイナマイト漁と砂漠を泳ぐ鯨に、とどめは今朝のオーナーの忠告だ。
カヤツリは地図と今朝のヘルメット団の聞き取り結果を突き合わせて、地図に彼女たちの爆撃地点を時間ごとに書き込んでいく。結果をみてカヤツリは想像が現実になる可能性が高いことに恐怖した。
アビドス砂漠のある地点からアビドス砂漠の入り口まで爆撃位置が日を追う毎にずれてきている。ただ、自分の仮説を確定させる為には、今朝の分だけではまだまだデーターの数が足りなかった。
ちらりと楽しそうに話している先輩とホシノを見る。最近よく笑うようになったとは思う。カヤツリが手伝ってくれと言えば手伝ってはくれるだろう。でもこれからカヤツリがやることは、ホシノや先輩には関わって欲しくなかった。彼女たちは知らなくていいことだ。下手したら生死に関わる事に巻き込みたくなかった。カヤツリはしばらく考えた後、決心する。一人でやろう。
「先輩。少しいいですか」
「どうしたの?カヤツリ君?」
カヤツリの声に何かを感じたのか先輩がホシノとの話を中断して振り返る。ホシノも不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「明日から少し生徒会の手伝いを空けます」
「突然だね。何かあったの?」
「調べ物です。一週間くらいで終わるので、すぐですよ」
カヤツリは平静を装いながら言葉を続ける。そんなカヤツリを見てホシノが口を開く。
「アビドス砂漠の事?どうせ、砂嵐でやることもないから手伝うよ」
「いい」
「なんで?」
今回の手伝いは困るからだ。オーナーの手を借りる都合上、オフィスに入り浸りになる。カヤツリはホシノとオーナーをあまり会わせたくなかった。
心配して言ってくれているのは分かっている。でも今回ばかりは、どうしても駄目だった。だから、初めて会った時みたいにホシノを怒らせる事にした。
初めてここに来た時とはえらい違いだとも思う。あの時とは全くの逆だからだ。あの時は逃げるためで、今回はここを守るためだから。これから、やろうとしていることは同じなのになんだか可笑しかった。
今朝みたいに、尖った雰囲気になるホシノにカヤツリは言い放った。
「邪魔」
「そう。じゃあいいよ。行ってきなよ」
ホシノの反応にカヤツリは面食らった。怒らせようと思って割と暴言の類を吐いた。目論み通りに行った筈なのに、逆にこっちの胸が痛い。なんだか居た堪れなくなって、そのままカヤツリは自分の空き教室へ逃げ出した。
□
「ホシノちゃん。良いの?」
「良いって何がですか。ユメ先輩」
空き教室に退散したカヤツリを見送ったホシノに先輩が声をかけてくる。なんの反応も見せないホシノを訝しんでいるようだった。
「カヤツリ君。どう見てもおかしいよ。急に態度が変わったじゃない」
「そのくらい、見てわかりますよ」
伊達に数ヶ月の付き合いではない。カヤツリが隠し事をしているときくらい、ホシノにはお見通しだった。実は朝の失言も見逃しただけだったりする。
「アビドス砂漠の依頼の件で引っかかっているんでしょう。そこを突いたら一気に口数が少なくなったので。アイツ隠し事する時はあんまり喋らないんですよ」
「そこまで分かってるのに、手伝わないの?」
不思議がる先輩にホシノはため息をついた。先輩に向き直って説明する。
「手伝って欲しくないんですよ。たぶん、後ろにいる大人の手を借りるつもりなんでしょう」
カヤツリはホシノが大人が嫌いなのを知っている。カヤツリ経由でアビドスに干渉されないように接触を最低限にする気なのだ。カヤツリのそういった遠回しな気の回し方にはホシノはもう慣れていた。
「でもホシノちゃん。そこまでわかってるなら、どうしてカヤツリ君にあんなこと言ったの」
「あんなことって、何ですか」
「行ってきなよって。突き放すみたいに言ったでしょ」
どこか心配そうに言う先輩をホシノは疑問に思った。しばらく考えて思い至った。
──ああ、またやっちゃったな。別にホシノとしてはそんなつもりはないのだ。少しむかついたから、ちょっとした仕返しのつもりだった。生徒会室から出ていく直前のショックを受けた顔をみてちょっと悪い気がしたが、それならあんなことを言わなければいいのだ。
「ユメ先輩はカヤツリがわざと怒らせるようなことを言っているのは分かりましたよね」
「それはわかるよ。最初にあった時みたいだったね」
「だから、それですよ」
先輩は頭上に疑問符を浮かべている。自分で答えを言ったくせに分かっていないのだろうか。この反応を見るに、まあ、分かっていないのだろう。
「カヤツリは私を怒らせたら、全部、誤魔化せると思ってたんですよ」
あれはない。本当にあれはない。カヤツリはまだ、自分が最初に会った時のままだとでも思っているのだろうか。ちゃんと言ってくれれば、余程の理由でない限り話くらいは聞いてやるのに。思い出したらホシノはまたむかついてきた。
「じゃあ、ホシノちゃんはカヤツリ君が頼ってくれなくて拗ねてるんだね」
「どうしてそんな答えになるんですか……」
「だって、カヤツリ君がちゃんと話してくれない事にイライラしてそんな事言っちゃったんでしょ。それは拗ねてるっていうんだよ。ホシノちゃん」
言われてみればその通りだった。あっという間にホシノの顔が赤くなる。先輩はそれを見てニコニコしている。ここにカヤツリがいなくてよかったとホシノは思った。何を言われるか分かったものではないし、なんだかとても恥ずかしかった。
「いや~。やっぱりホシノちゃんはかわいいねぇ」
「放してくださいよ!ユメ先輩」
そのまま先輩に抱きしめられて頭を撫でられる。いつもホシノはこれに抵抗できなくて、先輩が満足するまで撫でられるしかないのだ。しばらく撫でると先輩は満足したのか、ホシノに問いかける。
「じゃあ、どうするホシノちゃん。1週間カヤツリ君は帰ってこないけど」
「パトロールとか、校舎の点検とかあるでしょう?それでいいじゃないですか」
ホシノの答えを聞いた先輩は、少し悪戯を考え付いた子供みたいな顔で続ける。
「アビドス砂漠を私達で少しだけ調べてみない?」
「さっきの話を忘れたんですか。今のアビドス砂漠は不良生徒だらけなんですよ。しかもどこかしらで爆撃されてるんですよ。危険です!」
あまりの危機感の無い発言にホシノの眉が吊り上がり、口調も荒くなる。
「でも、カヤツリ君が帰ってきたときどうするの。ちゃんとまた同じように話せるの?」
「うっ」
たぶん、しばらくうまく話せないだろうなという想像は容易にできた。
「カヤツリ君は大人相手に頑張ってるんでしょ。じゃあ、私たちは生徒を相手に頑張ろうよ」
「不良生徒相手に聞き込みをするんですか。ユメ先輩は見た目から舐められがちじゃないですか。襲われますよ」
「ホシノちゃんが守ってくれるでしょ。それに、ホシノちゃんはちゃんと聞き取りで情報収集できるの?」
「ううっ」
聞き出す相手に銃を突きつけて何も話さないなら、どうしようもなかった。カヤツリみたいに言葉尻を捕えたり、餌をぶら下げて言質を取ったり、先輩みたいに聞き出すことはホシノにはできなかった。
「それにね。たぶんカヤツリ君も助かると思うんだ。無駄だったとしても、これだけやったんだから次からは相談してくれるかもしれないよ」
しばらく悩んだホシノは先輩の誘いに乗った。