ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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112話 超天才清楚系病弱美少女ハッカー

 先生の案内した特異現象調査部の部室は、いかにもという感じだった。

 

 部屋に窓はないが、天井の照明と至る所にあるモニターの明かりで十二分に明るい。こういったことに疎いホシノは何に使うのかはよく分からないが、モニターや高そうな機械が並んでいる様は、まさに秘密基地といった趣だ。

 

 ここに来るのも大変だった。先生の後を追い、入り組んだ路地を抜け、エレベーターを何回も乗り継いだ。はっきり言って通った道を全ては覚えていない。

 

 

「おや、先生。お早いお帰りですね? そんなに私の顔が見たかったのですか? それも当然でしょうか……私はミレニアムの超天才清楚系病弱美少女ハッカー……」

 

 

 部屋の中には二人の生徒が居て、そのうちの一人、車いすに乗っている方。厚着をした何処か儚げな雰囲気の長髪の生徒が先生に向かって長々と台詞を話している。随分と自分を褒める発言が多い。ホシノは目の前の生徒の力量は知らないし興味もあまりない。興味があるのは話し合いの内容だけだ。それはきっと隣のカヤツリもそのはずだった。

 

 隣にいるカヤツリは先生の肩越しに、その女生徒をじろりと見ている。雰囲気がアビドスに居る時と大分違うから、あれがカヤツリの仕事モードなのだろう。ホシノが見る限り、あまりいい印象を抱いていないように見える。

 

 

「……部長。お客さんだよ。あんまり待たせるのも悪いと思う。それに、来ることは先生からの連絡で知ってるでしょ」

 

「しかしですね。エイミ。こういうのは様式美であって……」

 

「……」

 

 

 もう一人の、やたらと制服をはだけさせている桃色の長い髪を後ろで括った方の生徒が長話を断ち切った。表情はあまり動いていないが、どことなく視線が呆れていた。話を聞かない部長とやらは言い訳をしていたが、無言で圧を掛けている彼女に対しては根負けしたようだった。服装と性格は正反対らしい。ただ、二人とも怒ってはいなさそうだから、これが二人の間ではいつもある事なのだろう。

 

 

「お待たせしました。私が特異現象調査部の部長。ミレニアム最高峰の病弱美少女。明星ヒマリです。そちらが後輩の和泉元エイミ」

 

「よろしく」

 

 

 ぺこりと軽くエイミが頭を下げる。カヤツリが対応するように会釈するので、慌ててホシノも追従した。

 

 今回は、カヤツリがメインで話すことになっている。ホシノは今回のが初めてなのもあって見学だ。必要な時はカヤツリが話を振るし、相談もするというのは事前に聞いていた。

 

 続けてのホシノとカヤツリの挨拶が終わった後、ヒマリが早速とばかりに話し始めた。

 

 

「アビドスの対策委員会は、今回のデカグラマトン調査に協力してくれると言う事ですね」

 

「ビナーだけだ。それ以外のは手に余るし、それ以上はそれなりの物を要求する」

 

 

 カヤツリはバッサリとヒマリの提案を断ち切った。いきなり喧嘩腰だがそれでいいのだろうか? ホシノは不安になった。そんなホシノを見かねたのか先生が小声で解説を入れてくれる。

 

 

「今のは頷いちゃいけないんだよ」

 

「どうして。先生。こっちが頼むんだから、いきなり空気を悪くするのは良くないんじゃ?」

 

 

 ビナーを何とかしないといけないのは、アビドスの都合だ。ミレニアムは調査だけすればいいのだから。もちろん撃破した方が良いのは確かだろうが、態々リスクを取らなくてもいい。

 

 ホシノの答えに先生は少し笑って補足する。

 

 

「今、ヒマリはデカグラマトン調査って言ったでしょ? 今回ホシノたちが相手するのはビナーだけだよ。デカグラマトンじゃない。アレに頷いたら、ビナー相手の対価で守護者全部を相手にしなくちゃならないよ」

 

 

 言われてみればそうだと思い返す。今回はデカグラマトンに感化されたAI。通称、守護者のうちの一つ。ビナーの対応についてだ。危ないところだったと、ホシノは内心冷や汗を流した。

 

 

「うへ、なんか怖いねぇ。おじさんこんなの初めてだよ……」

 

 

 ホシノとて、大人相手の対応をしたことはある。相手は理事や黒服だが。今のは、あの二人とはまた違う攻め方だった。あの二人は、致命的な場面までは普通だったから。今のようにいきなり仕掛けてはこない。初めての経験にホシノの不安が増してきた。

 

 

「そんなに落ち込まなくていいんだよ。ホシノは初めてなんだから。これから覚えればいいし、カヤツリもそう思ってるよ。だから、事前にカヤツリがメインで話すって言ったんだよ」

 

 

 期待してるんだよ、と先生は言う。それでも、ホシノにはアビドスの立場は弱いのではないだろうかという思いもあって、思わず言葉が漏れる

 

 

「でも、相手が話を切り上げたら?」

 

「それはないよ。私が噛んでいるから、アビドスを邪険に扱うと言う事は、紹介した私の面子を潰すことになるからね。今はよくても次は無い。それに、対策委員会は前よりもいい立場にいるんだよ」

 

「どういうこと?」

 

 

 ホシノは先生に質問する。今回は確かにそうだろう。アビドス砂漠を一番知っているのは対策委員会だろうから。でも、それは今回だけの話だ。立場が良いと言うのが分からない。利子が減ったとはいえ借金はまだ残っているし、生徒数も六人しかいない。自治区の土地もまだ取り返せていない。

 

 

「調印式で助けに行ったでしょ。覆面水着団としてだけどさ。でもあれで、ゲヘナやトリニティの生徒会はアビドスがまだ健在だって認識したんだよ。今までは存在してるかも怪しいみたいな状況だったしね」

 

 

 前までの状況には物悲しいものを感じて、それの脱却は喜ばしいが、それではあまり変わらないのではないだろうか。ホシノは心の中でそう思う。

 

 

「それは前提だよ。ホシノ。一番は違うんだ」

 

 

 先生は少し嬉しそうな口調で続きを話す。

 

 

「一番はね。あの状況で助けに行ったことだよ。あれは無視しても良かったのに。でも危険や損得を考えずに、昔の借りを返すために助けに来た。そういった人たちとは仲良くしたいと思うのが普通だろう? あれで、アビドスは信用を積み上げたのさ。しっかりと恩だと思ったら返してくれるってね。だから、他の学園も話を聞いてくれるし、助けてくれると思うよ」

 

 

 先生の話を聞いて、ホシノはふと、先輩の言葉を思い出した。かつて自分が切って捨てた言葉だ。カヤツリが来る前に、怒りと不信に染まっていた自分に言った言葉。

 

 

 ──疑念、不信、暴力や嘘。そういうものを当たり前だと思うようになったら自分を見失っちゃうよ。そうやって取り戻したアビドスは、私たちが思い描いたアビドスにはならない。

 

 ──だからね。ホシノちゃん。困っている人をみたら手を差し伸べるの。お腹を空かせていたり、寒さに凍えている人がいたら助けてあげるの。

 

 ──そういった小さい積み重ねが、いつか大きな奇跡になるんだよ。

 

 

 あの時自分は甘い言葉だと聞きもしなくて、奇跡なんてもっと珍しいものだなんて言ったけれど。今更になって先輩の言葉を実感するだなんて思わなかった。

 

 あの時に否定した先輩の言葉が今、現実になっていた。

 

 今、自分は先輩に誇れる自分になれているのだろうか。まだまだ自信は持てないままだけれど。さっきまでの不安は消えていた。正しいことをしているという実感があるからだ。

 

 ホシノがそんなことを思っている間にもカヤツリとヒマリの話は続いている。

 

 

「調査というのは主に何をどうするか聞いても?」

 

「守護者。この場合はビナーですか。ビナーと接触し反応を観測する。詳しくはデカグラマトンへのですが。こういう手順になります。アビドスはどこまで?」

 

「ビナーへの接触はする。そちらはどこまでやってほしい? むしろどこまでやって良い?」

 

 

 カヤツリとヒマリが矢継ぎ早に言葉を交わす。前提条件の確認だろうか。

 

 

「最優先はビナーの反応を確認することです。接触だけでは不十分な場合、戦闘に発展する事も考えられます。仮の話ですが撃破まで行ければ最上でしょうか」

 

 

 カヤツリは黙って頷いている。ただ、ヒマリも以前のビナーの事は想定外だったのか、不思議そうに呟いている。

 

 

「ビナーの脅威レベルを見誤っていました。まさか、これほどまでとは。カイザーPMCも捨てたものではないのかもしれませんね。撃退には成功しているようですから」

 

「ん? ちょっと待ってくれ。撃退? 壊滅じゃなくてか?」

 

「はい。基地は映像の通りですが被害はそうでもありませんし、ビナーの撃退には成功しています」

 

 

 カヤツリは難しい顔をしているし、ホシノもヒマリの回答には疑問が残る。

 

 ビナーが撃退できるものであることは知っているが、それはビナーが引いてくれればの話だ。前回はカヤツリを執拗に着け狙っていたから、目覚めた今。また、アビドス校舎に突撃してくるのではないかとホシノとカヤツリは思っていたのだ。

 

 むしろ、カイザーPMCが偶然にも足止めの形になっていて、ビナーはまだやってきていないのだと。そういう風に二人は想像していた。

 

 

「何でだ? ビナーが退く理由がないだろう? カイザーPMCに手加減をする理由なんて……」

 

「前提が違うのかもしれません」

 

 

 ヒマリが入手したであろう映像をモニターに映した。映像はかなり荒いが、ヒマリの手腕だろうか段々とくっきりしてきている。

 

 

「カイザーPMCの戦闘記録では、ビナーはある一定範囲から出てきてはいません。その範囲に侵入したときだけ攻撃しています」

 

 

 それは以前までのビナーの行動だった。けれど、それだと辻褄が合わない。ホシノとカヤツリに機能停止寸前まで追い詰められたビナーが反撃をしてこないなんて。もし、それほどまでに穏やかであれば、前回アビドス校舎まで突撃してこなかったはずだ。

 

 

「派手なことはしないように、デカグラマトンに命令されてるんじゃ?」

 

「いいえ。先生。デカグラマトンは他のAIを感化していますが洗脳ではありません。ですから、命令は出せるでしょうが、それはお願い以上の物にはなりません。それに従うかどうかは個々のAIの判断に委ねられています」

 

「やりたくてもできない?」

 

 

 カヤツリの質問に答えるように。モニターに映る映像の解像度が、はっきりと見える範囲までに上がった。

 

 

「その通りです。これでは仕方がないのでしょうね」

 

 

 ノイズとぼやけで、良く見えなかったビナーの全体像が明らかになる。一言でいえば満身創痍だった。

 

 白い装甲はどこか煤けていて、傷やへこみが目立つ。一際目立つのは、抉れた頭部だ。左目であろう場所の装甲は直り切っておらず、黒い大穴が空いている。あの大穴に消えた時と比べて大きく変わっていないように見える。

 

 

「ミレニアム随一の天才である私とて、ビナーの思考が完全に分かるとはいえませんが。この状態まで追い込まれた相手に、このまま攻撃を仕掛けるのは無謀でしょう?」

 

 

 ホシノはビナーの行動理由に納得した。この有様でリベンジに走るのは無謀だ。少なくとも現状の回復に努めるべきで、カイザーPMCが壊滅まで行かなかったのは、そこまでする労力を惜しんだのだろう。

 

 そう考えて、自信満々であろうヒマリにカヤツリが真顔で言う。

 

 

「理由は分かったが、傷が治れば突撃してくると言う事じゃないのか?」

 

「このまま手をこまねいていればの話です。撃破までするとしたら、どの程度の物をご所望ですか?」

 

「光の剣」

 

 

 カヤツリがはっきりとそう言った。ホシノには聞き覚えの無い名前で、どんな武器かも予想がつかない。ただ、ヒマリや先生、エイミも知ってはいる様子だった。

 

 

「アリスの力が必要だと?」

 

「正確には、光の剣レベルの火力だ。あれくらいないとビナーの装甲を抜けない」

 

「……なるほど。そう言う事ですか。困りましたね」

 

 

 カヤツリの答えにヒマリは先ほどから表情を変えない。必要性は理解するが、何か頷けない理由があると言ったような感じだ。ホシノには何となくその理由が分かるような気もする。

 

 アリスの事はホシノも知っている。ホシノの知らぬ間にカヤツリに懐いていたミレニアムの少女。あのデートの尾行事件でしか面識はないが、天真爛漫と言った感じの少女だった。

 

 ホシノが見た感じ、荒事には慣れていなさそうな印象を受けるし、実際にそうなのだろう。確かゲーム開発部だったか。そんな部活に所属しているとも聞いた。そんな生徒をビナー戦に引きずり出そうと言うのは、中々に非道な行いではないだろうか。

 

 

「難しいですね。幾ら全知たる私でも、まだ不確定情報が多いままではリスクを飲み込めません」

 

「アリスを巻き込みたくないの?」

 

 

 先生の問いにヒマリは頷いた。ホシノにはアリスが聞きわけが悪いようには見えなかったが、きっと可愛がられているのだろうなとは思った。ホシノも後輩を巻き込まないためにやらかしたことがあるから、気持ちは分かる。

 

 けれど、それではビナーを何とかできない。ヒマリやエイミは調査ができればいいのかもしれないが、アビドスにとっては死活問題だ。このままではいつまでもビナーの影に怯えなくてはならない。

 

 

「銃だけ借りれば? 態々アリスを連れて行かなくても良いと思う」

 

 

 エイミがそう言うと、ヒマリは渋々といった様子で了承した。

 

 

「仕方ありませんね。アリスには悪いですが、上手く誤魔化すしかないでしょう。それはカヤツリさん。貴方からお願いできますか? ダメそうなら先生か、こちらからフォローはしますので」

 

「分かった」

 

「上々です」

 

 

 言葉の通りに、ヒマリの機嫌は良さそうだった。それではと、ヒマリはホシノの方に視線を向ける。急に来るものだから、ホシノは少し驚いた。

 

 

「ホシノさんからは、何か要望はありますか?」

 

 

 それはカヤツリが考えておいてくれと言った事だった。おかげでホシノは焦らないで済んでいたし、何を言うかはすぐに思いついていた。

 

 

 □

 

 

「ごめんね、ヒマリ。色々とお願いしちゃって」

 

 

 カヤツリとホシノがエイミに連れられて退室した後、先生とヒマリは二人で話していた。

 

 

「私はこのキヴォトスに咲いた一輪の清楚な花。ああいった事には縁遠いですが、先生に満足していただけたなら、私も一肌脱いだ甲斐があったというものです」

 

 

 ニコニコとヒマリは機嫌良さそうに答えている。ヒマリには連絡を取った際に色々と頼みごとをしていた。

 

 さっきの話し合いで、いきなりヒマリがカヤツリを引っかけようとしたが、普通はそんなことはしない。さっきホシノに先生が言ったように、先生の紹介で来たアビドスにそういう事をするというのは、先生の顔に泥を塗る行為だ。それをヒマリが分かっていないはずがない。

 

 それは、先生がお願いしたのだ。きっとカヤツリには気がつかれているだろうけど。ホシノにはいい機会になったのではないだろうか。ホシノも要望を無理のない範囲で話し合えていたし、先生の目論見はおおよそは上手くいったと言えるだろう。

 

 

「ヒマリ。聞きたいことがあるんだけど」

 

「この世界のすべてが詰まった頭脳を持つ私に答えられる範囲であれば」

 

 

 相変わらずのヒマリに苦笑しつつも、先生は気になっていたことを口に出す。

 

 

「アリスに何かあるの? 今回の情報すら与えたくなかったみたいだけど」

 

 

 今回の件に巻き込みたくないという理由は理解できる。ただ、銃を借りればいいというエイミの提案に対してさえ、考え込んでいたのが気になった。確かに個々の生徒の銃は、その生徒のアイデンティティと言っても良いかもしれない。対策委員会の銃も色合いや、アクセサリーなどが違ったりする。カヤツリはそういったものは無いようだが。例えるならお気に入りのカバンのようなものだろうか。そんな頻繁に貸し借りはしないだろうが、あそこまで渋るとは考えにくかった。

 

 

「先生はアリスの事を知っているでしょう? 先生があの廃墟から連れてきたのですし、電子上のモノは最高のハッカーである私が細工しましたから」

 

 

 先生は、ヒマリの答えともいえない発言に黙り込んだ。

 

 アリスは正確にはミレニアムの生徒ではない。これは、先生とヒマリ、ゲーム開発部とその他少数しか知らない事だ。カヤツリも知らない。

 

 ヒマリが言う”あの廃墟”と言うのは、ミレニアム自治区内に点在しているものだ。連邦生徒会によって立ち入りが禁じられた無人兵器の徘徊する危険地帯。

 

 アリスが居なかった頃の廃部の危機にあったゲーム開発部は、シャーレに助けを求めた。内容としては、伝説のゲーマーが残した聖書G.Bibleの入手。それがあればどんな神ゲーでも作れるという触れ込みだった。

 

 それがあるのはミレニアムの廃墟。それを求めて侵入したそこで、地下の工場と思われる場所で、先生たちは眠るアリスを見つけたのだった。

 

 

「それは、アリスがロボットだから?」

 

 

 その廃墟から連れ出された直後のアリスはまさに機械のような行動しかしなかった。自我も記憶もない、機械のような受け答えしかできない。どうにもゲーム開発部の作ったゲームの影響で、その頃の様子は今では見る影もないが。

 

 

「ええ。人間そっくりで非常に可愛らしくていい娘ですが。だからこそ、デカグラマトンにはまだ関わらせたくないのです。恐らく無いとは思いますが、あの娘が感化されたりでもしたら大変ですから」

 

 

 なるほどと先生は思う。その事態は避けなければならなかった。だからこそ、ヒマリは遠ざけたのだろう。それは後輩を可愛がるヒマリらしい行動ではあった。

 

 

「先生。私からも一つ、いいでしょうか?」

 

 

 ヒマリがさっきの先生と同じような事を言う。先生には拒否する理由は無いので、頷いて肯定すると、ヒマリは少し嫌そうな顔で聞いて来た。

 

 

「カヤツリさんでしたか? 彼が。エンジニア部にある、あのジャンクの元の持ち主で良いのですか?」

 

「そうらしいね」

 

「彼は、アレをどこで手に入れたと言っていましたか?」

 

「人から貰ったんだって、私も知っている人だよ。でも関わることはお勧めしないかな」

 

 

 黒服から貰ったという事をカヤツリから聞いている。少なくとも先生は、黒服に生徒が関わることが良い事とは思えなかった。だから、黒服の存在をヒマリには教えないし、誰にも教える気は無かった。

 

 ただ、ヒマリは残念そうでもなく、どこかすっきりしたような顔だった。

 

 

「アビドス砂漠の奥地やミレニアムの廃墟で拾ったとか、そういうわけでは無いのですね?」

 

「うん。それは確かだよ。気になるの?」

 

 

 そう聞かれたヒマリは、何かを思い出したのか嫌そうな顔になった。

 

 

「気になっているのは私ではなく、リオですよ。エンジニア部では解析できなかったアレについて、リオは何かしらの見当をつけていましたから。自分で聞けばいいのに、理由も話さずに私に頼むのですよ。また重大な何かを一人で抱え込んで、一人で何とかしようとしているのでしょう。相も変わらずため込んで淀んだ水のような性格です。嫌な顔にもなります」

 

「でも、嫌いじゃないんでしょ」

 

 

 ヒマリは嫌そうな顔をしているけれど、本当に嫌いなら、思い出しもしないだろう。お互いどうだか知らないが、ヒマリは、きっと認めてはいるのだろう。けれど、どこかお互い譲れない所があって、こんなことになっているのかもしれない。

 

 

「ええ。大嫌いですとも。ミレニアムの生徒会長だと言うのに、まだ先生に挨拶一つないのでしょう? やはり貯水槽の淀んだ下水のような女です。澄んだミネラルウォーターのような私とは大違いですね」

 

 

 ぷりぷりと怒ったようなヒマリに、先生はこれ以上踏み込むのを止めることにした。しばらくすると、ヒマリは落ち着いたようだった。

 

 

「まあ、いいでしょう。リオはリオですから。今はデカグラマトンの事に注力するとしましょう。これが終わったら、アリスの事で先生に話すこともありますから」

 

 

 ヒマリの言葉に対する質問を先生は飲み込んだ。ヒマリが今ではないと言う事は、まだ早いのだろう。デカグラマトンの結果次第で内容が変わるのかもしれない。

 

 結果がどうであれ、先生は生徒たちの為にやることをやるだけだ。それは今やっていることだから。

 

 今頃、アリスの所に向かっているカヤツリ達を考えて、先生は少し笑った。

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