ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
エンジニア部の天井に大穴を開けた主犯であるレールガンは、作業台の上に拘束されていた。
突然の砲撃と天井に穴が開くと言う惨事にカヤツリは大騒ぎになるかと思ったが、カヤツリの予想は大きく裏切られる。エンジニア部の対応が余りにも迅速だったからだ。
エンジニア部は、全員こういった事態に慣れているのか、レールガンを拘束し、天井の穴の応急手当を終えた後。各々の仕事へと戻っていく。賞味、数十分の早業だ。
そんな中で、カヤツリとウタハはこの事態の原因についての話し合いをしていた。
「分からないね……」
「分からない? 何にも?」
異変を起こしたレールガンをざっと調べたウタハの一言に、カヤツリは思わず聞き返した。分からないにも種類があるはずで、何もという訳ではないはずだ。
カヤツリの予想通りに、ウタハは何が分からないのかを説明し始めた。
「砲撃が出来る事は分かるんだ。君たちがコトリからも聞いたように。近々、ヴェリタスと合同での調査の予定があるからね」
ウタハの発言にカヤツリは頷く。コトリはパーツも新調したと言っていたから。機能が回復して砲撃できた事には疑問はない。
「弾は? 抜いてなかったのか?」
「もちろん弾は抜いてあるんだ。これは安全管理の基本だからね」
「じゃあ、あの天井の穴は?」
弾が無いと言うのなら、あの天井の穴はおかしかった。空砲であるならば穴が空く筈が無い。
「そうだよ。だからおかしいのさ。一体何を撃ち出したんだい? それに余波だけでこうだよ」
ウタハが手に何かを持って、カヤツリに渡す。それは溶けた鉄の様な塊だった。握り拳一つ分くらいの大きさだ。どうにも分からない。こんな物はあのケースには無かったからだ。
「これはレールガンを固定していた鎖と土台さ。きっと、外装が開いた時に千切れたんだろう。そのまま暴発に巻き込まれて、溶けて固まってこの様さ。とんでもない出力だよ」
遠くの作業台に横たわるレールガンを眺めながらのウタハの呟きに、カヤツリはあまり良く無い考えが浮かんだ。
「あれを……」
「おすすめしないよ?」
「どうしてだ? セキュリティか? 別に人に向けて撃つなんてしない」
「そうじゃないんだ」
レールガンを持ち帰る事と、使おうとする事の両方を。そうしようと声を掛けようとしたカヤツリに先回りして、ウタハはその行為を止めた。
カヤツリは困り顔をする。前にも使っていたから使い方は知っているし、別に人に向けて撃つ訳では無い。けれど、ウタハが懸念しているのは、そういう事では無いのだろう。
「君が変な使い方をしない事は分かる。先生からの紹介だし、アレの解析の手伝いからもね」
ウタハはいつにも増して真剣な表情で言う。
「君じゃなく、そのレールガンが信用できない。分からない事だらけさ。私はマイスターとしての責任がある。私の作品ではないけれど、少なくとも関わった責任がある」
「だから、使わせないって?」
「本当ならそう言いたいよ。少なくともヴェリタスを呼んで、彼女たちと私たちで解析して安全性が確認できたらかな」
カヤツリは少し考える。静かな部室内では、天井の穴から外の音が良く聞こえた。
「どれくらいかかる?」
「順当にいけば一ヶ月くらいかな。君が身体を張って、完徹で手伝ってくれるなら、最低限の安全確認で良いのなら、二日間で済む」
「二日で」
即答するカヤツリに、ウタハは少し驚いた顔をしている。そのまま、不思議そうな顔でカヤツリに聞いた。
「無視して持って行かないんだね。てっきり、強引に持っていかれるかと思っていたよ」
「そんなことはしない。二日くらいなら何とかなるし、専門家が言うんだ。言う事は聞く」
「アリスが大事かい?」
妙なことを言うウタハに、カヤツリは変な顔になった。思わずウタハを睨みつけてしまう。アリスがいる方を見ながら、ウタハは少し揶揄うように話す。
「アリスが光の剣を大事にしてくれるのは知ってるさ。製作者としても嬉しいことだよ。でも、いつかは直面することだよ。それが今日でも私は良いと思うけどね。君が苦労を背負い込む必要はない」
「自分で気がつかなきゃ意味がないし、あんなに笑ってるのに?」
カヤツリはウタハと同じ方向を見る。
カヤツリとウタハが話している場所から離れた場所で、アリスはコトリを質問攻めにしている。ニコニコしているアリスとは反対に、説明好きのはずのコトリはどこか疲れた顔をしていた。
おおよそ、あのレールガンが勝手に起動するという状況に興奮したアリスが、その理由をコトリに聞き続けているのだろう。コトリも答えてあげたいのだろうが、今の所は理由は不明だから、説明しようもないのだろう。
コトリには悪いが、どこか微笑ましい光景だった。
「違いないね。じゃあ、君には手伝いとして、アリスの相手をしてもらおうかな。何、用があったら呼ぶからさ」
ウタハの言葉を背にカヤツリは、コトリをアリスから救出するべく、足を速めた。
□
「カヤツリ! あれをどうやったのかアリスに教えてください!」
よろよろと、どこか疲れ果てた様子でウタハの方に戻っていくコトリを見送るカヤツリに、アリスは飛び掛かかってきた。アリスは、カヤツリの制服の裾を引っ張りながら、さっきと同じ質問を繰り返す。
アリスはこうすれば、カヤツリが大体は質問に答えてくれることを知っているからだろう。
「知ってどうするんだアリス。別に背負って持ち運べばいいだろう?」
「そうじゃありません!」
カヤツリの話題逸らしはアリスには通用しないようだった。両目が興奮で輝いているアリスは訴える。
「まるで、勇者みたいでした! アリスもやってみたいです!」
まあ、シチュエーションとしては最高の部類だろう。
かつての武器が持ち主の到来とともに目を覚ます。実にアリスの好きそうな要素である。ただ、教えるも何も原因が不明なのだ。
作り話をしてもいいが、騙すようで気が引ける。だから、少し関係ありそうで関係ない話を織り交ぜつつ、納得させればいい。
「アリスにはまだ早いんじゃないか?」
「それは、アリスが見習いだからですか? カヤツリみたいではないからですか?」
「……どういう事だ?」
アリスの発言の意図が読み取れなくて、カヤツリはアリスに聞き返す。アリスは両眼をぱちぱちさせている。
「カヤツリはアリスの先輩です!」
「まあ、そうだな」
それはそうだ。カヤツリは三年生で、アリスは一年生だ。順当にいけばそうなるが、それはカヤツリだけに限定されることではない。
「でも、他にもアリスより年上の人はいるだろう? 向こうにいるウタハだってそうじゃないか」
「そうですが、カヤツリとは違います!」
その”違い”がカヤツリには分からない。性別の事を言っているのならそうだろうが、どうにも話が噛み合わない。どうにも訳が分からなくて、近くの椅子に座り込む。
「どこが、どう違うんだ?」
「はい! アリスに色々教えてくれるのはカヤツリだけです! だから、カヤツリはアリスの先輩です!」
机を挟んだ向かい側にアリスが座ってそんなことを言う。アリスの発言で、カヤツリはもっと分からなくなった。
アリスに物を教えるのは、カヤツリだけではないはずだからだ。ミレニアムの同級生や、先輩達。それこそ先生だってアリスに教えたことくらいあるはずだった。
「勉強の事を言っているなら、それは大げさだと思うぞ」
「それは、そうです。皆、アリスに優しく教えてくれます。でも、カヤツリとは違います。皆はカヤツリみたいに教えてはくれません。アリスにチュートリアルはしてくれません」
「チュートリアル? ……ああ、答えしか教えてくれないってことか」
単純に教え方の問題だろう。カヤツリは最初に会った時のシャーレでの勉強会があったから、”こんなことが出来るようになる”とか、そういった事を言いつつ教えている。答えじゃなくて、やり方を。単純にカヤツリは、黒服に教えてもらったこのやり方しか知らないのだ。
「はい! だから、カヤツリは先輩です! 勇者の先輩です!」
どうにも理解に苦しむ単語が出てきた。後にも先にもカヤツリは勇者になる予定はない。どうにも、アリスの言う勇者とカヤツリの思っている勇者には齟齬がある気がする。
「アリスが思う勇者ってどういうものか教えてくれるか? アリスの言葉で良いからさ」
カヤツリの質問に、アリスは迷うことなく話し出した。満面の笑顔でだ。
「はい! 勇者は世界中を旅して冒険します。アリスは色々な世界を冒険しました。吸血鬼のお城や魔法の世界、ロボットの世界もありました」
きっとゲームの話だろう。少なくともカヤツリはそう解釈した。アリスの話はまだ触りだ。ここからが本題のはずだと、カヤツリはアリスの話に集中する。
「アリスは夢を見ているみたいでした。色々な世界を旅して、そこにいる人たちと話すのは楽しいです。パーティメンバーと一緒ならもっと楽しいです! だから、アリスはゲームが大好きです! ゲームはアリスをいろんな世界に連れて行ってくれるからです!」
その気持ちはカヤツリにも分かる。カヤツリの場合は本だったりするのだが。それでも、旅をした気分にはなれるから。そのことを話すアリスの声は、本当に楽しそうなものを、自分の好きなものを語る喜びに満ちていた。
「だから、アリスは勇者になりたいです。様々な世界を旅して冒険する勇者に。いつか、ゲームの中だけではなく、ゲームの外でも冒険をしたいです。そして、もっとたくさんの物を見たいです。皆と一緒にです」
アリスの勇者は、カヤツリが想像していたモノとは違っていた。ああいった偉大なものになりたい。そういった意味だと思っていた。
もちろん、その意味も含むのだろう。けれど、一番の理由はそうではない。
「カヤツリはアリスにチュートリアルで教えてくれました。スキルの覚え方を、このスキルで何ができるようになるのかを。アリスの冒険に必要なものを教えてくれました。アリスは色々なことが出来るようになりました。だから、カヤツリは勇者の、アリスの先輩です!」
主人公の総称として、勇者という言葉を使っている。アリスがRPGが好きな理由は頷けた。あれは、主人公に自身を投影して楽しむものだから。
ゲームの世界だけでなく現実世界でも、アリスは同じことがしたいのだろう。でも、ゲームと現実は勝手が違う。現実はゲームのようにサクサクと技術は覚えられないし、何を覚えればいいのかも教えてくれないから。やり方を知らなければどうにもならない。これに関しては答えは無いのだから。
だから、それを教えてくれたカヤツリを勇者の先輩と呼ぶのだ。
自分と同じような武器を使い、自分に必要な、もしくは必要になるであろうことを現実でも使えるように教えてくれる。ポジション的には先代勇者だろう。カヤツリにはまだ死ぬ予定はないけれど。
だから、今回の事もこんなにせがむのだろう。
アリスとしてはゲームの中の事が現実に起こっているから。ああいう経験をしてみたいだろう。
できる事なら、アリスの話を聞いた今なら、経験させてはやりたいが方法が分からない。だから、少し夢のある話をすることにする。
「アリス。百鬼夜行の方の噂を知ってるか?」
「知りません! 教えてください!」
非常に元気のいい返事にカヤツリは苦笑する。昔に黒服が言っていた内容だが、今回の件にはぴったりだろうから。
「簡単に言うとな。大切にした物には意思が宿るって言うお話だよ」
「意志ですか?」
「そう、意志。そうしたら、光の剣もアリスの所まで飛んでくるようになるかもしれないな」
ハッとした表情の後、アリスの目がさっきのように輝きだした。アリスは座っていた椅子から勢いよく立ち上がる。カヤツリはアリスが次に言うであろう言葉が予想できていた。
「さっきのは、そういう事ですか!? カヤツリはあの剣を大事にしていたんですね!」
「うーん。まあそうかな」
使っていた時は大事にはしていたが、数年間放置していたから。あれに意志があるとしたら結構怒っているのかもしれない。だから、アリスにはそうならないような方法を教える。
「じゃあ、アリス。もうやるべきことは分かるか?」
「はい! アリス。光の剣を大事にします……。でも、何をすればいいんでしょう……」
意気揚々と返事をしたアリスの声が萎んでいく。カヤツリはカラカラと笑うが、アリスはムッとした表情になる。
「む。カヤツリ。知っているなら教えて下さい!」
「まずは手入れができなきゃいけないんじゃないか? 今は、光の剣のメンテナンスはエンジニア部に丸投げだろう? 一応、精密機械だから。エンジニア部に見てもらわなくちゃならないだろうが、ある程度は面倒見てやらなきゃな」
「でも、アリスはやり方を知りません……」
「じゃあ、一緒に聞きに行こうか」
「一緒にですか?」
アリスがキョトンとした顔をしている。カヤツリは笑って、席から立ち上がった。
「うん。俺も自分の剣の手入れの方法を忘れたからさ。一緒に聞きに行こうか。ほら、丁度呼ばれてるしな」
カヤツリの視線の先には、ウタハが手招きをしていた。近くには丁度いいことに、先生とヒマリがいる。まさかとは思うが、あの砲撃で様子を見に来たのかもしれなかった。
アリスも先生たちに気がついたのか、嬉しそうにしている。そして、そのままそちらの方へと駆けだした。
「カヤツリも一緒に行きましょう! クエスト開始です!」
□
「うわーん! アリスには難しすぎます!」
カヤツリの後ろで、コトリから光の剣の簡単なメンテナンス方法を教えてもらっているアリスが悲鳴を上げていた。どうにも難しいらしい。アリスに付き合っている先生も難しい顔をしている。
そんな二人を尻目に、カヤツリとヒマリ、ウタハは問題のレールガンについて話し合っていた。
「状況は理解しました。文字通りの特異現象ですか。なら、やることは一つですね」
「何をするんだ?」
そう問いかけるカヤツリに、ヒマリは自信満々の顔で宣言する。
「ハッキングをします」
「これにかい? いくら所有者のカヤツリがここに居るとはいえ、ヴェリタスが手を焼いた代物だ。幾らヴェリタスの元部長で、”全知”でも一人は厳しいと思うよ」
ウタハの懸念に、ヒマリは頷く。
「ええ、流石にミレニアムサイエンススクールにおける天才ハッカーでも、これを単独は厳しいでしょうね。ただ、最低限の安全性くらいは調べられるはずです。これだけの精密機械であれば、多少の制御プログラムは走っているでしょうから」
ヒマリの言う通り、それくらいなら何とか分かりそうな気もする。全部は分からなくても、それが分かれば、このレールガンがどういう物なのかは分かるはずだ。
「うん。それなら、最低限の安全性の確認はできるか。今、ソフトウェアがどうにかなるなら、二日もいらないかもしれないね」
「異論はないと言う事ですね。それではカヤツリさん。そのレールガンに触っていてください。それでセキュリティが緩むはずです」
ヒマリの指示通りに触れば、あの時と同じように外装の継ぎ目が発光する。全員が身構えるが、外装が展開するようなことは無かった。
手際よく二人がケーブルを繋いでいく。そして、ヒマリは自前のパソコンを使って、流れるような動作で調査を始めた。
「本当に固いですね。しかし、この全知にかかればこの通り。各部の起動データーを入手できました」
そんな言葉と共に、タンとキーボードをヒマリが叩く。どうにも調査は終わったようだった。得られた情報をヒマリが解説する。
「これを見るに、あの謎の部品はバッテリーのようなモノですね。ここまで小さいものは見たことが無いですし、バッテリーかどうかも怪しいですが」
「私もないね。この大きさで、あの出力は異常だよ」
二人が各々の見解を述べつつも、ヒマリは本題に入る。
「以前、これに触った人物が気絶したようですが、この部品が起動した時間と一致します。その時の状況から考えれば、まさに魔剣と言った感じでしょうか」
「セキュリティじゃなかったって事か?」
ヒマリは頷いて、自らの見解を話す。
「この部品がバッテリーのような物だとすれば。おそらくは体力か何かを触った者から奪ったのでしょう。それはカヤツリさんも例外ではありません。結果として、セキュリティの様になったと考えられます」
「それでは、あの砲撃は?」
「あれは排熱の様なものです。これまでのカヤツリさんの接触で十分に機能を取り戻し、余った分は放出した。待ち人が来た今、その必要は無いということでしょうね」
どこか安心したような顔でヒマリは話すが、ウタハもカヤツリも安心する理由が分からない。今の話で分かるのは、このレールガンが魔剣の様な特性があることだけだ。
「この銃は待っていました。カヤツリさんが帰ってくるのをずっと。だから、カヤツリさんが触ってからは大人しかった。帰って来たから、もう待たなくて良くなったから。だから、機能維持の為に他人から吸い上げる必要は無く、余った分は排熱した。もう、その必要は無いのですから」
そう言って、ヒマリは画面をカヤツリに見せる。それは、さっきヒマリが言った通りに、各パーツの稼働データーだった。
ある日だけ、稼働時間が長い。その日にカヤツリは覚えがあった。カヤツリがミレニアムに来た日だ。正確には、解析の為に銃に触れた日。
「少なくとも、ソフトウェアは安全でしょう。カヤツリさんがこれを紛失してから今日までに弄られた形跡も履歴もありません。ハードウェアは弄られた可能性がありますから、時間をかけて確認が必要ですが。それでも一日あれば十分だと思いますよ?」
カヤツリはヒマリの言葉を理解しながらも、画面の文字から目が離せなかった。聞き覚えは無いのに、どこかしっくりくる名前だった。
銃の名前であろうそれを、小声で呟く。
「
それに、返事をするように、外装の継ぎ目が静かに光ったように、カヤツリには見えた。