ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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11話 本音

 アビドス校舎への道を急ぎながら、カヤツリはこれからのことを考えていた。ビナーの相手は3年ぶりで、昔を思い出しながら必要なものを選定していたら、外はもう暗くなっていた。とりあえずは、あの装甲を抜く火器と速度に追いつく”足”が必要だった。火器はあのレールガンでいいし、足は何か適当な乗り物を見繕ってもらえばいいだろう。

 

 オーナーは撃破といったが、カヤツリはビナーを倒せるとは思っていない。3年前、捨て身でやって撃退が精々だったからだ。今回も同じようにいくとは限らなかった。あれはそれなりに賢く、負けると判断したら逃げる程度の知能はあるのだ。

 

 オフィスで画面越しに見た二人の姿を思い出して軽く舌打ちをする。あの二人は何をしているのか。小一時間問い詰めたい気分だった。今のアビドス砂漠の状況は分からなくとも、3日前の時点で危険なのはわかりきったことだろうに。そんな事を考えているうちにもうアビドスの校門前に到着していた。

 

 生徒会室に近づくと電気がついている。どうやら砂漠から戻ってきているようだった。カヤツリはそのまま、生徒会室の扉を開けた。その音で先輩が此方へ振り向く。仕事でもしていたのだろうか机の上に色々広がっている。

 

 

「あっ、お帰りカヤツリ君。調べ物は終わったの?」

 

 

 先輩は笑顔でカヤツリに話しかけてくれるが、ホシノの姿は見えない。

 

 

「一段落着いたので、戻ってきたんですよ。ホシノはいないんですか?」

 

「ホシノちゃんは先に帰ったよ。ついさっきだから入れ違いになっちゃったね」

 

 

 仕方がないためカヤツリは先輩と情報共有することにした。ホシノへの言伝は先輩がやってくれるだろう。その前にカヤツリは先輩に一つ言わなければならなかった。

 

 

「それよりですね先輩。なんでアビドス砂漠に二人で行ったんですか?」

 

「えっ。何で知ってるの」

 

「何でバレないと思ったんですか、俺もアビドス砂漠を調べるって言ったでしょう」

 

「あ……。そうだったね」

 

 

 えへへ、と頬をかいて笑う先輩にカヤツリは毒気を抜かれた。怒る気も失せたが本題を切り出す。

 

 

「それで、二人で砂漠で何してたんです」

 

「カヤツリ君の手伝いをしようと思って、二人でヘルメット団の人に聞き込みをしてたの」

 

「いや、本当に何してるんですか?いい鴨じゃないですか」

 

「ホシノちゃんが守ってくれたからね。大丈夫だったよ」

 

 

 先輩は何もなかったかのように言うが、絶対何回かは襲われたに違いない。この3日間のホシノの苦労が目に浮かぶようだった。先に帰ったのもそれで疲れたせいなのだろう。先輩が聞き取り結果を紙で手渡してくれたが、特に目新しいものは無かった。全くの無駄足である。カヤツリの口からため息が出る。なんだか先輩と話しているときはため息ばっかりついている気がした。

 

 ただ問題は、カヤツリがいない間にアビドス砂漠に聞き取りに行っていたことだ。危険なのは分かっていたし、それも見越してカヤツリは単独で行ったのだ。こっちの思惑を言わなかったのは悪いと思っているが、釈然としない気持ちだけが残る。

 

 

「カヤツリ君は何かわかった?」

 

 

 先輩の声にどう答えたものか、カヤツリは悩んだ。正直に言えばどうなるだろうか。

 ──実は2・3日後にビナーが突っ込んできます。何とか全力で止めてはみますが、できなかった場合、校舎は無くなってしまいます。それまで避難しておいてください。

 

 こんな説明でおとなしく避難してくれるとは思えなかった。一緒に戦うとまで言い出すのが容易に想像できた。むしろここでおとなしく避難するような人達ならカヤツリはここまで頑張っていない。

 

 ちらりとカヤツリは先輩を見る。相変わらずのぽわぽわした顔をしている。まだカヤツリには嘘をつくという手段が残っていた。ただカヤツリは彼女たちに噓はつきたくなかった。

 

 

「……明日から2日間。ホシノと二人でどこかへ出かけてくれませんか。お金は俺が出しますし、準備もしますから」

 

 

 カヤツリは自分の不器用さに泣きたくなった。これでは何かあると言っているようなものだ。3人での旅行とでも思ったのか、先輩は嬉しそうな笑顔で続ける。

 

 

「もちろん、カヤツリ君も行くんでしょ?」

 

「ホシノと二人でって言ったじゃないですか。俺は行けませんよ」

 

「行けないって、どうして?」

 

 

 書き物の手を止めて先輩がカヤツリに聞き返す。カヤツリの視界にこっちを向いた先輩の顔が入った。時々先輩が見せる真面目な顔だ。カヤツリはこれが苦手だった。この顔をしているときは絶対に押し切られるからだ。

 

 

「やらなきゃいけないことがあるからですよ」

 

「それは、カヤツリ君一人でやらなきゃいけない事なの?」

 

 

 そういうわけではない。きっと3人でやったっていいのだ。カヤツリは絶対に反対だった。ホシノは百歩譲って良いかもしれないが、先輩は論外だった。

 

 カヤツリはもう何を言っていいのかわからなかった。本当のことを言ったところで着いてくる。嘘はつきたくないし、この時の先輩相手についてもバレるだろう。

 ただ、自分の提案に”分かった”と言ってくれるだけでいいのに、今はそれがとても難しかった。真実を言ってストレートに現実で叩き潰すのが一番だったのかもしれない。

 黙り込むカヤツリを心配そうに先輩は見ていたが、安心させるような声色で言う。

 

 

「大丈夫だよ。3人いればなんだってできるよ。だから話してみて。ね?」

 

「……明日か、明後日にここに鯨が来ます。このままだとこの校舎は奴に潰されます。それでも何とかなるっていうんですか」

 

 

 毎度毎度、こういう風に喧嘩を売るような言い方しかできない自分が本当に嫌だった。初めて会った時も、3日前もずっと変わらない。

 そのまま、オーナーから聞いた今回の騒動の顛末を先輩と共有した。それを聞いて不安そうな顔をする先輩にカヤツリは先輩に微笑みかける。

 

 

「まあ、でも安心してください。俺が何とかしますから。奴はアビドス砂漠まで引っ張っていくので、先輩とホシノが帰ってくる頃には終わってますから」

 

「カヤツリ君は、大丈夫なの?」

 

 

 こういう時の先輩の勘の良さは本当に厄介だった。カヤツリはホシノほど硬くはないし、速くもないから、ビナーの攻撃のほとんどが直撃すれば致命打だった。もちろん、カヤツリだって無駄死にする気はない。適当にアビドス砂漠の奥地まで誘引して、レールガンをビナーが音を上げるまで撃ち込み続けるだけだ。まあ普通に帰ってこれれば上々かもしれない。

 

 微笑んだまま何も言わないカヤツリに何かを察したのか、先輩は傍の椅子を引いてカヤツリに座るように促した。

 

 

「カヤツリ君。私にできることはないの?なんでもいいよ」

 

「無いです。無いから、万が一、俺が失敗したときのために、二人で避難してくださいって言ったんですよ」

 

「ホシノちゃんは?」

 

 

 カヤツリは言葉に詰まった。ただ、カヤツリの拘りなだけでホシノの能力に関しては文句のつけようがないのだ。

 

 

「ありますが、連れていけませんよ」

 

「どうして?ホシノちゃんだって、嫌とは言わないと思うよ」

 

「だからですよ」

 

 

 カヤツリはあの3日前の自分を絞め殺してやりたかった。今回だって、自分がレールガンを撃たなければ何事もなく終わっていたはずだった。ちょっとホシノに見せびらかしたかっただけだったのに、自分の慢心とミスで状況が悪化するのは昔と何も変わらない。

 

 幸せな日々は永遠に続くわけではないことを自分は知っていたはずだったのに。一度取りこぼしたものを幸運にも拾い上げることが出来たのに。それをカヤツリは調子に乗って台無しにしたのだ。しかも他人を巻き込んで。それはビナーの後始末で相殺するしかないのだ。

 

 

「自分の不始末にホシノを巻き込めませんよ」

 

「それで、カヤツリ君が怪我したら、私は悲しいよ。ホシノちゃんもきっとそうだよ。何か手があるはずだよ」

 

 

 先輩の説得が耳に痛い。カヤツリだって分かっているのだ。自分がまともな判断を下していないことくらい。先輩はともかく、ホシノがいればビナー相手に取れる手段が増える。装備だって今回は全額オーナー持ちの大盤振る舞いだ。一人で行くのはあまりにも不合理だった。でも、もし連れて行って最悪死んでしまったりなんかしたら、きっとカヤツリは耐えられない。

 

 

「理由を聞かせてよカヤツリ君。ホシノちゃんを連れて行かない理由」

 

「さっきから、言ってるじゃないですか。不始末に巻き込めないって」

 

 

 急に先輩が訳の分からないことを言い出した。さっきからカヤツリはそれを説明しているのに。

 

 

「それは今の話でしょ。3日前の時だよ。その時はカヤツリ君、自分の所為だって知らなかったはずだよね。でもわざわざ、ホシノちゃんを遠ざけて一人で調べに行ったのはどうして?」

 

「それは──」

 

 

 ──どうしてだろう。確かにあの時は自分の所為だと知らなかった。ビナーが迫撃砲で暴走する危険性はうっすらと予想はしていて、オーナーに頼るのは最終確認のためだった。ただあそこで、わざわざ怒らせてまで拒否する必要はなかったのだ。一言、”大人に関わることだから一人で行く”とでも言えばよかったのだ。結果論だが、ホシノには先輩と一緒に砂漠を調べて、自分は別方向から調べてもよかった。カヤツリは自分の事なのに訳が分からなくなっていた。

 

 

「ホシノちゃんのこと。信用してないの?」

 

「そうです。なんて言うと思いますか?いくら先輩でも怒りますよ」

 

 

 それはない。ホシノが”君がいい”と言ってくれた時、本当に嬉しかったのだ。此処にいていいと言われた気がした。とても救われた気がしたのだ。秘密や隠し事だらけの自分が恥ずかしくて、まともに返事を返せなかったけれど。カヤツリは本当に嬉しかった。

 

 

「本当に分からない?カヤツリ君」

 

 

 悩んで固まっているカヤツリを見て、先輩が少し笑って言った。先輩は分かるとでもいうのだろうか。

 

 

「カヤツリ君はね。ホシノちゃんに傷ついてほしくないんだよ」

 

「それは初めから言ってるじゃないですか。だから連れていけないって」

 

 

 分かり切った答えを言われてカヤツリは反発するが、先輩は首を横に振った。

 

 

「それは怪我とかそっちの意味だよね。それもあるんだろうけど、そうじゃなくて理不尽とか嘘とか、そういった”汚い”ものだよ」

 

 

 聞き入っているカヤツリを見て先輩は続ける。

 

 

「だから、大人相手の交渉事は全部カヤツリ君の管轄だし、3日前だって不自然にホシノちゃんを遠ざけたでしょ。カヤツリ君は気づいていないみたいだけど」

 

「……よく見てますね」

 

「私はカヤツリ君とホシノちゃんの先輩だからね。先輩は後輩の面倒を見るものだから」

 

 

 それにね。と先輩はカヤツリを見て微笑んだ。

 

 

「カヤツリ君は秘密だらけの自分が嫌いみたいだけど大丈夫。そんな事でホシノちゃんも私も、迷惑とか嫌だとか思わないよ。だから、どうするか一緒に考えようよ」

 

 

 ──本当に敵わない。自分でも把握していなかったものを言い当てられた。結局のところ、”汚いもの”に触れてほしくなかったのだ。むしろ、それにどっぷり漬かった自分も同じようにみられるのが嫌だっただけだ。今回のビナーだって、纏めれば汚い大人たちの後始末だ。それにホシノや先輩を巻き込んだから、自分で全部何とかしなければいけないと思ったのだ。バカみたいだった。これじゃまるで、失敗を必死に隠す子供ではないか。

 

 

「先輩」

 

「何?カヤツリ君」

 

「手伝ってください。ビナーを何とかしますよ」

 

 

 カヤツリの言葉を聞いて先輩は笑顔のまま頷いた。

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