ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「改めて見ると凄いね」
先生が台に固定されたレールガンをぺたぺた触っている。普段とは違って、どこか興奮した口調だった。カヤツリはよく本で見る。ショーケースの中のトランペットをみつめる少年というのはこういう物なのかもしれないと思った。先生の目はまるでそれだ。たぶん、”欲しいな”とでも思っているのだろう。
「気を付けてくださいよ。しっかり固定されてるとはいえ、先生の上に倒れ込んだら……」
「分かってるよ」
先生はカヤツリの言葉が気にならないのか、レールガンを触る手が止まっていない。レールガンの重さを本当に分かっているのか疑問だった。アレはアリスの光の剣と同じくらいの重さだ。アレが倒れ込んだら先生だとそのまま圧死しかねない。
「うわ!」
「何やってるんですか……」
先生がどこか変なところを触ったのか、レールガンの外装が展開する。勢いよくガチャガチャと動くが、前回の反省を踏まえてか台の固定は強固だ。びくともしない。先生も勢いよく飛びのいたが、壊したわけでは無いと気がついて安心したようだった。そして何かに気がついたかのように目を丸くする。
「なんか前と微妙に形が違うね」
「よく気がつきましたね……」
カヤツリは感心した。展開後の様子はおそらく一度しか見ていないのに違いにすぐ気がついたからだ。カヤツリは変わった部分を指さした。
「追加装甲ですね。盾代わりにするんです。ビナー相手なら使う機会はありませんが、それ以外には撃つわけにはいきませんから」
単純に言えば前の仕様に戻したのだ。そこらの人間にフルチャージでなくとも砲撃を当てるわけにはいかない。それなら、まだ鈍器として扱った方がマシだ。先生は納得したようで大きく頷いているが、何かに気がついたのか、”あ”と声を出す。
「そういえば、ソフトウェアは大丈夫だったの?」
「大丈夫でしたよ。いくつか疑問は残りますが」
「疑問?」
「害は無いそうなんですが、まだ機能が残ってるらしいんですよね」
カヤツリはレールガンを撫でながら、展開した外装を元に戻していく。その間に、ヴェリタスに言われたことを思い出していく。
「リミッターが掛かってるそうですよ」
「ずっと? もしかして……」
「ええ、ビナー相手の時もです」
元に戻ったレールガンを元に戻して、先生の疑問に答える。もし、リミッターが掛かっていなかったらビナーに止めを刺せたのではないだろうか。
「解除条件は?」
「それが分からないんですよ」
それはエンジニア部も気にしていたことだ。レールガンにしては様子がおかしいと言っていた。レールガンにしては耐久性が過剰だとか。そもそもレールガンの機能は後付けなんじゃないのかとか。カヤツリには違いが良く分からないが、カヤツリよりも腕のある彼女たちが言うのだからそうなのだろう。
心配そうな顔をする先生に向かって安心させるように、カヤツリは言い訳を並べる。
「……まあ、滅多にレールガンとして使う事は無いでしょうし。他人が使おうにも、この重さですからね。持てるのは精々がアリスかノノミ後輩くらいじゃないですか。ビナーもしばらくは砂の底でおとなしくしてますから」
「気を付けるんだよ? 変なことがあったら言ってね」
先生に無用な心配を掛けたくなくて、カヤツリは無難な返事をする。さっきも言った通りに、早々このレールガンを使う機会は訪れない。それは先生も分かっているのか、ひとまずはそれで通すようだった。
「先生もこっち来てよ! ヴェリタスの皆が呼んでるよ!」
モモイの声に従って、傍から離れる先生を視界の端に収めながら、カヤツリはあたりを見回す。
薄暗いが、かなりの広さを持つヴェリタスの部室内。部室と言うか一つの建物だ。カヤツリと先生が居た反対側にはゲーム開発部とヴェリタスのメンバーが何かを取り囲んで話している。広いとはいえ静かな部室だ。だから、彼女たちが話す声も良く聞こえた。
「見せたかったのって? ロボット?」
先生が興味深そうに”それ”をみつめている。部室のあちこちに五つほど置かれているそれは、奇妙な物体だった。人間の胴体ほどの大きさの球体から数本の長い触手のようなアームが伸びている。その内二本は妙に太い。
「ミレニアム学区の郊外で見つかったんだ。危険物だったら、シャーレに引き取ってもらわないといけないから。中々、個性的なデザインだよね」
先生の問いにヴェリタスの小塗マキが機嫌良さそうに答えた。カヤツリは良く知らないが、マキはモモイと仲がいいらしい。開発部を呼ぶように頼んだのも彼女だった。危険物かもしれないなら先生が必要なのも頷ける。
シャーレの建物には危険物保管庫がある。そこは文字通りに各学園が抱えきれない危険物が詰まっているらしい。らしいというのは、カヤツリは実際に中を見たことが無いからだ。先生が言うには一つを除いて大したものは無いそうだが。没収した爆弾が爆発したら危ないからと誰にも近づけさせないのだ。
「個性的というか、奇怪というか……確かに初めて見るようなデザインだけど」
ミドリも妙なものだと認識しているのか、どこか距離を置いていて、ユズも気になるのか自分の考えを口にする。
「これってミレニアムで作られたものなのかな……」
「たぶん違うと思うな。デザインが違い過ぎるからね。態々、こんな風にする利点はあまりないと思うよ」
カヤツリからしても、見たことが無いデザインだ。パッと見た感じは、SF映画に出てくる敵の宇宙船の様なフォルムだ。そもそも、あの触手のようなアームで自重を支えられるのだろうか。あれだったらもう少し太い足の方が良いとカヤツリは思った。
「それで、何かわかったの?」
「いいえ。全く」
先生の問いに、ヴェリタスの音瀬コタマと小鈎ハレは首を横に振る。マキを含めた三人はロボットを指さして説明する。
「電源ボタンも、接続ポートもありません。これでは内部にアクセスができません」
「装甲に継ぎ目すらない。開けることができないから、起動しない理由がソフト面なのかハード面なのか分からない。アビドスのレールガンとは違ってね」
「部長か副部長なら分かったかもしれないけど。部長の方は最近全然姿を見せないんだよね。副部長は今ここに居ないし、私たちじゃお手上げだね」
そうともなれば、彼女たちにはどうしようもないだろう。それこそ装甲を焼き切るまでしないといけないのかもしれない。先生も同じ考えに至ったのか、周りを見渡している。
「ここにある以外にもあるの?」
「ここにある五台の他に、きっかり二十台。外に積んであるよ。一つくらいはバラしてもいいかも」
どうにも話の方向はとりあえず一台を解体する方向に進んだようだった。この様子ではゲーム開発部の刺激になったかどうか怪しいが、空振りもまた悪いことでは無いだろう。そう思いつつ、ゲーム開発部を見ているとカヤツリは違和感に気がついた。
「アリス?」
いつの間にか、あのロボットを囲む輪からアリスの姿が消えていた。それに、話し合いにも参加していなかったように思う。いつもなら”インベーダーですね!”くらいは言って騒いでいそうなものだったが。
静かに視線を動かして探せば、また別の所に積んであるロボットの前にアリスは佇んでいた。カヤツリが近づくと、アリスが何かを呟いているのが聞こえた。
「……アリス、これ、知ってます」
「どこかで見たのか?」
「……あ。カヤツリ」
どこか茫然としたような様子のアリスに声を掛けると、アリスは驚いたようにびくりと身体を震わせた。ゆっくりカヤツリの方に振り向いて、どこか不安そうな顔で話す。普段の様子とは大違いだった。
「アリスは覚えていません。見たこともないはずなのに、アリスの中にはこれの記録があります」
「……大丈夫か」
カヤツリはアリスを気遣う。カヤツリはアリスの事情を良くは知らないが、自分に覚えのない記憶や知識があるのは怖いのではないだろうか。自分が自分でなくなるような感覚は嫌だろう。
アリスは大丈夫だと頷くが、視線はロボットから離れていない。今にもそれに触ろうとしたり、手を引っ込めたりを繰り返している。
完全に機能停止しているように見えるが、まだ完全に調査が終わったわけではない。調査が始まったどころかまだ何も分からない状況だ。それなら触らぬが吉に違いない。
そう思ってアリスを引き留めようとするカヤツリに声が掛けられる。
「二人でこそこそ何やってんのさ」
モモイだった。どこかニヤニヤとしている表情は、普段と様子の違うアリスを見てすぐに消え失せ、心配そうな表情になる。じろりとこちらを見るモモイにカヤツリは無言で首を振る。
「ん? あれ。私のゲームガール……。アリス……?」
アリスに声を掛けようとしたモモイのポケットが光っていた。モモイの呟きからして、壊れていたはずの携帯ゲーム機だろう。モモイは一瞬それに気を取られたようだったが、アリスに声を掛ける事を優先したようだ。しかし、アリスの反応が無い。目を閉じて固まっている。
「離れろ。アリス、モモイ」
カヤツリはアリスとモモイに警告した。アリスの目の前のロボットが痙攣したように動いたからだ。その痙攣は徐々に大きくなり、装甲やカメラにも赤い光が灯り始めている。先生たちの方でも慌てた声がするから、部室内にある五台ともが起動したと思っていい。
「アリス! 危ないから離れるよ!」
「アリス!」
モモイの声にもカヤツリの声にもアリスは反応しない。それどころか、部室内からロボットがカヤツリ達の方へと集まり始めている。そんな中でようやくアリスが口を開いた。
「……起動開始」
「アリス……?」
さっきとも雰囲気の違うアリスに戸惑うモモイに近づいて、カヤツリはアリスからモモイを引きはがし、そのまま先生の方まで距離をとった。モモイは抵抗しなかったが、直ぐに我に返って暴れ出す。
「カヤツリ何すんのさ! アリスを置いていく気!?」
「違う」
カヤツリの頭の中で警鐘が鳴っている。今ここに至ってカヤツリの中のスイッチが入った。カヤツリに戸惑うモモイへ静かに告げる。
「アレはアリスじゃない」
「コードネーム”AL-1S”起動完了。プロトコルATRAHASISを実行します」
ロボットたちと同じ赤い光を瞳に宿して、アリスの姿をした何かがカヤツリ達へ光の剣を向けた。
□
「モモイは先生を外へ連れて行ってくれ。早く!」
豹変したアリスを目の前にして、カヤツリはモモイに怒鳴った。早く先生を部室の外へ逃がさなければならない。暫定アリスの向ける光の剣。フルチャージしたあれを部室内で撃たれれば余波だけで部室が吹き飛ぶ。カヤツリやモモイは直撃さえしなければ大丈夫かもしれないが、先生は生死にかかわる。
「分かった!」
モモイは先生の所へ駆けていく。ゲーム開発部とヴェリタス、それと先生の指揮。それだけあれば、おそらく外で起動している二十台のロボットを撃退できるだろう。問題は目の前のアリスだ。少なくとも先生たちと自分が部室から撤退するまでフルチャージした光の剣を撃たせてはいけない。
「武装のチャージ開始。完了までおよそ三十秒」
ご丁寧に状況のアナウンスが入った。目の前には起動したロボット五台。それを掻い潜って奥にいるアリスのレールガンの発射を妨害しなければならない。
ただ、困ったことにカヤツリの武装はハンドガン一丁のみだ。モモイを連れて下がったせいで、アリスまでは距離がある。絶望的な状況だが不安は無かった。不思議と確信があった。
その確信を裏付けるかのように、カヤツリの後方で轟音が響く。何かが回転してカヤツリの目の前まで飛んできた。飛んできたそれ──レールガンを地面から引き抜いて、カヤツリはロボットに襲い掛かる。
「まずは一機」
上段から外装が展開したレールガンを叩きつける。面白いように相手の外装が潰れた。そのまま動かなくなる。
前に足を一歩大きく踏み出して、腰の回転を加えながら、レールガンを引き抜きざまに横へと薙ぐ。並んだ二体が壁まで吹き飛ばされて動かなくなった。
「これで三機」
身体が軽かった。いつかの出来レースの日の様だった。それと柴関が吹き飛んだ日。もしかしたらそれ以上かもしれない。身体を覆う万能感がカヤツリを前へ前へと突き動かす。
突撃してくるカヤツリからアリスを守るかのように二体のロボットが前に出る。
まだレールガンの本体をぶちかますには距離がある。二体のロボットは射撃態勢に入っていた。カメラに灯る赤い光と同じ光線がカヤツリに向かって放たれる。
それはレールガンを盾代わりにして押し通る。銃弾ではなく光線だから反動は殆どない。照射される光線ごと二体のロボットを薙ぎ払う。二体ともアリスの両脇を通り抜けて壁にめり込んだ。
ここまで近づくとアリスの顔が良く見える。アリスから嫌な気配をひしひしと感じるし、カヤツリの目には無表情のはずのアリスの顔に焦りが浮かんだような気がした。
「脅威接敵。迎撃開始」
レールガンの砲口が輝き始める。まだ三十秒は経っていないが、チャージ不足でも構わないのだろう。ここまで接近されたなら距離を離すためにも攻撃は必要だ。
ちらりと後方を確認する。先生たちはまだ部室から出られていない。想像の通りに外でもロボットが起動しているようだった。フルチャージでない分、余波はさほどでないだろうが、先生たちを守るためにも、どうにかして砲撃を相殺しなければならない。
カヤツリはレールガンを構えた。砲身が展開し上下に割れる。
チャージはしていない。していたところでアリスが大けがをするし時間も足りない。そもそも弾も入っていない。
けれど、カヤツリは心配はしていなかった。どうにかなるという確信がまだある。それを証明するかのように、砲身の間に青い光が走る。
それは束になって固まり、槍のような形に凝集した。それを見たアリスの顔がはっきりと焦ったように表情が崩れたのをカヤツリは見た。
「回避行動開始」
光の剣から放たれる一条の極光がヴェリタスの部室の天井や壁を破壊した。アリスはレールガンを周囲に向かって掃射したからだ。部室の天井や壁が崩れて、カヤツリとアリスの間に瓦礫の壁ができる。直後にカヤツリのレールガンから放たれた雷光がアリスに向かって放たれた。
雷光は障子紙を破るように瓦礫を突き抜けていく。瓦礫を突き抜けた雷光にアリスはレールガンを向けた。再度の射撃で雷光は搔き消えたがレールガンも弾切れの様だった。
「有機生命体の反応、いまだ残存。武装のリロードを開始します」
今の攻撃で部室はもう跡形もなくなっていた。壁の残骸はあるが天井はもうないし、高そうな機材もスクラップと化している。その瓦礫の中でアリスとカヤツリは向かい合って立っていた。
「脅威の検索開始。内部記憶領域に完全一致する該当なし。近似の検索結果あり。脅威度最大”セトの憤怒”。対象を最優先排除対象に設定します」
「まずいな……」
瓦礫の下から皆の声がする。さっきのアリスの砲撃で天井の瓦礫が降ってきている。カヤツリは砲撃の余波で吹き飛ばしたが、皆はあれで生き埋め状態になったようだ。アリスの様子を確認しながら声を聞くが、一番心配した先生の声は聞こえる。ゲーム開発部やヴェリタスの声も聞こえるから、きっと無事だろう。ただ、このまま戦闘が続けば無事である保証はない。どうにかしてここから引き離さなければならない。
「対象の行動をラーニング。過去の経験と合致。格闘戦へ移行」
「チッ」
さっきのカヤツリと同じようにアリスが光の剣を振り回しながら殴りかかって来る。バックステップでカヤツリは攻撃を躱したが、躱した先の地面に光の剣が突き刺さる。余程あの雷光を撃たれたくないらしい。
さっきとは真逆にアリスが光の剣を振り回す。地味にやりにくい。カヤツリのレールガンで鍔迫り合いなどはできない。そうできないように上段と側方からの振り回ししかやってこない。疲れを知らないのか動きも止まらない。
「吹っ飛べ」
隙を見つけて、光の剣の上から蹴りを叩き込む。アリスは小さいから、蹴りと光の剣の重量で後方へと吹き飛んだ。すぐさま態勢を立て直したアリスは光の剣をカヤツリに向ける。
「フルチャージ完了」
「コイツ!」
光の剣を振り回しながらチャージをしていたらしい。もしかしたら隙もわざと作ったのだろう。無表情なのにアリスがニヤリと笑ったようにも見える。躱すにもここは部室の跡地だ。躱せば生き埋めになっている皆がどうなるか分からない。
カヤツリも急いでレールガンを構え直す。さっきと同じように雷光で相殺すればいい。そう思って構え直した瞬間に、自分の覚えのない知識が警告する。
──さっきの戦闘不能になるよう手加減した雷光では相殺できない。あれを相殺する威力の微調整はできない。あれを飲み込む出力はアリスを殺すだろう。
「ああ、もう! しょうがないな!」
カヤツリはレールガンを向けるのを止めた。追加装甲を展開し盾とする。”盾”に雷が走り、辺りに風が吹く。防ぎきれはするだろうが、自分がどうなるかは分からない。ただ、アリスを殺すよりはましだ。
「発射」
”盾”に砲撃が直撃する。余波であたりの瓦礫が舞い、カヤツリも吹き飛ばされそうになるが歯を食いしばって堪える。自分の中の何かがどんどんと消費されていく。
ただこれくらいならまだ平気だ。光の剣は単発だ。もうすぐに射撃は終わる。その考えはアリスの一言で打ち砕かれる。
「フルオートへ変更。攻撃続行」
それを聞いたカヤツリは盾を構える手に力を込めた。弱まっていた圧が再びカヤツリを襲う。
エンジニア部がいつの間にか機能を増設していたらしい。考えてみれば、彼女たちがカヤツリのレールガンでできる事を光の剣で再現できないはずがない。
カヤツリにとっては長い攻防の末。盾にかかる圧力が消えた。どうやら向こうも打ち止めらしい。まだ、ギリギリ意識は保てている。
「排除失敗。対象生存。武装の冷却及びリロード開始。再チャージ実行」
カヤツリは舌打ちする。迂闊に動けない。先生たちはまだ瓦礫の下だ。さっきの行動からしてカヤツリが先生たちを守っているのはバレている。アリスへ接近すれば、皆が埋まっているここを狙うだろう。先生たちが出てくるまで耐えるしかない。皆を人質に取られている今、カヤツリが今取れる手段はアリスの殺害だけだからだ。そして、それができない事を目の前のアリスの姿をした誰かは知っているのだ。
再びアリスは光の剣をカヤツリに向けた。冷却も終わったらしく、光の剣は唸りをあげる。
「チャージ完了。発──」
「おとなしく寝てろ。チビスケ」
アリスの上空から、目にも止まらない速さで飛び掛かった人影が、至近距離で銃撃を浴びせた。不意を突かれたアリスは眠ったように倒れて動かなくなった。
「おい、アンタも……」
小さな人影が話し掛けてくるが、カヤツリは返事をする余裕は無かった。目の前が朦朧としているし、さっきまでの万能感は消え去って、強い疲労感が身体を襲っているからだ。
ただ、一先ずの危機は脱したようだった。倒れたアリスからは、もう嫌な気配を感じないし、どうにもこの人影は味方らしい。さっきの手際からして、最悪またアリスが暴れてもどうにかなるだろう。
カヤツリはもう限界だった。人影に返事をする余裕も無く、そのまま地面に倒れる。
──ホシノに怒られるなぁ。
そんな益体も無い事を考えながら、カヤツリは意識を落とした。