ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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今回も独自設定あります


122話 夢の中での事

 その部屋は穏やかな雰囲気に満たされていた。

 

 机の上の山のような菓子、その脇にはジュースのペットボトルが数本並んでいる。部屋の窓からは柔らかい陽光が差し込んで、丁度良い明るさと暖かさを演出していた。代わりにと言ってもいいのか、その部屋に出口は無い。カヤツリにとっては余り喜べはしない状況だった。

 

 何も無いならそのまま寛いでいてもいいが、状況が状況だ。カヤツリはアリスとの戦闘で気を失ったら、この部屋で目が覚めたのだから。寛げるはずもない。

 

 そんな、落ち着かないカヤツリを、正面のソファに座ったセトが、困った様に眺めている。

 

 

「まあ、ゆっくりしていきなよ。焦っても仕方がないし」

 

 

 そんなことよりを言うものだから、ついカヤツリのセトを見る目が厳しくなる。以前に引きずり込まれた時とは随分と様子が違う。部屋もセトもだ。

 

 生徒会室だった部屋はかつてのカヤツリの部屋に変わっているし、セトの服装も寝巻きのようなラフな格好だ。就寝前の寛ぎ空間といった様子に制服のカヤツリはかなり場違いだった。

 

 

「何度も言うけど、焦ったところで目は覚めないよ。自然回復しかないんだ。ここに来た時に説明はしたでしょう? キヴォトスにしつこくこびり付いてる敗北者達の話も、その兵器の話も」

 

 

 棒状のチョコレート菓子を摘みながらセトは、もう片方の手で菓子の箱をカヤツリに放る。

 

 

「……いつまでかかるんだ?」

 

 

 自分好みのそれを捕まえて、カヤツリはセトへと問いかける。

 

 目が覚めたカヤツリに、セトは最初から説明してくれた。アリスの事、彼女が今どういった状況にあるか。そして無名の司祭と名もなき神々の王女の事を。

 

 少なくともその説明で、カヤツリはヴェリタスの部室の件は納得することはできた。後の事は余り心配はしていない。先生がどうとでもするはずだからだ。今のカヤツリにとっての心配事は別にある。

 

 

「まぁ、一ヶ月は掛かるよ。いいじゃない。ゆっくり休みなよ。王女の件は手を打ってあるし、もう心配はいらないから」

 

 

 カヤツリの心配事、それを知ったか知らないが、セトはのほほんとしている。

 

 

「だったら何で、アリスとの戦闘の時に出てこなかった?」

 

 

 セトはアリスの正体を知っていた。それならば危険性を分かっていたはずだろう。カヤツリの知っているセトの性格なら、いつかのようにカヤツリを乗っ取ってアリスを破壊してもいいはずだった。セトにはそのチャンスはいくらでもあったのだから。

 

 

「出てこれないよ。そもそも、私がカヤツリ君が起きている時に出てきたことなんてなかったでしょ。柴関の時もカイザーの時だって、君は意識が無かったじゃない?」

 

「俺が気絶した後は?」

 

「かなり無理すれば出てこれるけどね。今度は神秘が無くてガス欠だよ。戦おうにも動けないんじゃ出てきてもしょうがないでしょう?」

 

 

 そんな風にセトは答えて、そして何か思い出したかのように菓子を運ぶ手を止めた。

 

 

「それと、私が出てきた時は記憶が曖昧だから仕方がないのかもしれないけど、もう一つ条件があるんだよ。薄々分かってるんじゃない?」

 

 

 少し心配そうな表情でセトは言う。カヤツリとしては知ったことでは無いのだ。それについてはセトの方が何倍も詳しいから、それをカヤツリに聞くのは意地が悪いのではないのか。

 

 

「ああ、ごめんね。意地悪だったかな。君と話すのは久しぶりだからさ。この前は喧嘩別れみたいになっちゃったし」

 

 

 ただずっと、押し付けられた菓子箱を持ったまま睨んでいるカヤツリに観念したのか、セトは申し訳なさそうな表情になった。

 

 

「簡単に言うとね。君が怒ってないと出てこれないんだよ。多少の部位で短時間。一・二秒くらいならそうでもないんだけど」

 

「そんなの、あの時だってそうだったただろ」

 

 

 戦闘中など大抵は思考は攻撃的であるモノだ。それはカヤツリにとっては当然のことだった。

 

 

「そういうんじゃなくてね。怒っているとはいっても、普通のじゃダメなんだよ。激怒した時なんだよ。それこそ相手を殺してしまいたいって思うくらいのね」

 

 

 セトの言葉を聞いて、カヤツリは黙り込んだ。何処か否定できない自分がいたからだ。自分の腹に据えかねる事をされて、それがどうしても許せないとき。それは確かにあったからだ。

 

 

「始まりの時は自覚があるんじゃない? その時は私はまだいなかったけれど、今回の事を考えれば、案外あの時が切っ掛けなのかもしれないね」

 

「出来レースの時……?」

 

「そうだと思うよ? あの時だって意識が無いんでしょ? 幾ら自爆に巻き込まれたとはいえ、マトだって一ヶ月寝込むほどの量の爆薬は積まないよ。たぶん目が覚めなかったのだって今回と同じで神秘切れなんじゃないかな」

 

「何が言いたいんだ?」

 

「もう分かってるでしょ。私がその時に入れ替わる理由も、王女との戦闘後に今みたいになっている理由も、出来レースの時に一ヶ月も目が覚めなかった理由も」

 

 

 カヤツリが今ここにいる理由は簡単だ。セトもさっき言った通りに神秘切れだ。目覚めるのに一ヶ月かかると彼女は言った。それは出来レースの時も同様だった。となると出来レースの時も同じ理由で自分は目が覚めなかったのだろう。

 

 出来レースとアリスとの戦いの違いは激怒しているかどうかだった。けれど、神秘切れという結果は同じだ。けれど激怒している時、柴関とカイザーの時は倒れていない。それに共通するのはセトに乗っ取られているかどうかだ。

 

 

「入れ替わってる時は倒れてない……」

 

「はい、正解」

 

 

 正解の景品のつもりなのか、またセトが菓子箱を放ってくる。新しく箱を開けながら、セトは絡繰りを説明する。

 

 

「別に毎回私が怒って暴れてるわけじゃない。君が本当に怒った時に代わりに暴れてるんだよ。やり過ぎないようにね。だから、私が代わった時は倒れてない。倒れた時は権能を使ったからだよ。あれは燃費が悪いからね」

 

 

 ふうと、セトは一息つく。

 

 

「今回はあのレールガンのお陰で、ある程度は燃費が良くなったけど、王女の攻撃を防ぐのに使い過ぎ。おかげで先生たちには被害が無かったわけだけども、君がガス欠になっちゃあね」

 

 

 本末転倒だよと、また菓子を摘まむのを再開したセトに、カヤツリは聞いてみることにした。心配事を聞く前に聞かなければいけないことが増えたからだ。

 

 

「あのさ」

 

「うん? 何かな」

 

 

 セトはどこか嬉しそうに、にやりと笑う。セトに悪意が無いのは分かるが、カヤツリとしては居た堪れない。

 

 

「そんなに? ただ怒ったくらいでそんなことになるのか?」

 

「うん。だって君は不安定だって黒服が言ってたでしょ。君の元が元だから出力は桁違いなんだけど、調整がヘタクソなんだよ。零か一かなんていう極端なレベルでは無いんだけどね。それでも、蠟燭に火をつけるのに焼夷弾を持ってくるレベルくらいには過剰なんだよ」

 

 

 カヤツリは黙って頭を抱えた。感情コントロールができないというには行き過ぎている。これではホシノの事をとやかく言えないし、セトにエラそうな事は言えなかった。

 

 

「そんなに落ち込まなくてもいいよ。君のせいじゃないんだし。最近は大丈夫じゃないかな」

 

「君のせいじゃない?」

 

「そうだよ。君はちゃんとここに来たわけじゃないからね」

 

 

 セトは慰めのつもりなのか、また知らなかったことを言う。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「私も、君の記憶を漁ってる時に見つけたんだけど……どうにもね。少し、話が逸れるよ。それでもいい?」

 

 

 カヤツリは黙って頷いた。どうせここにいても何もすることは無いのだし、今はセトの話に興味があった。自分の傍にあるソファに座るとセトはどこか満足そうな顔で話し出した。

 

 

「王女が初めから完成体じゃない理由は話したよね」

 

「テクスチャのせいだって、さっき自分で言ったじゃないか……」

 

 

 このキヴォトスを覆うテクスチャのせいで、そのまま入ってこれないのだと。だから、アリスと鍵に分ける必要があったとセトは説明していた。

 

 

「自治区境界線での身体検査みたいなものだね。兵器は持ち込めないけど、生徒と謎のプログラムなら素通りだよ。後は中で組み立てればいい。じゃあ、王女がキヴォトスに兵器のまま入ったらどうなると思う?」

 

「……そもそも入れないんじゃないのか?」

 

「入れるよ? 入れるけど、テクスチャに消されるんだよ。テクスチャは世界観……物理法則に近いものだからね。学園都市に大量破壊兵器や神々なんてものは存在しないでしょ? だから、王女や名もなき神々が入った場合は、その意味を失くして霧散する。だから、王女はテクスチャを破壊しようとしてるんだし……」

 

 

 ふと、カヤツリはアリスが呟いていた言葉を思い出した。プロトコル、アトラハーシスとかなんとか言っていた気がする。

 

 

「そう、それ。兵器の本体はそっち。まあ、それは置いておいて、テクスチャの問題は名もなき神も忘れられた神も区別しないんだ。入ったが最後消えるか、他の皆みたいになるしかない」

 

 

 ここで少し言葉を切って、セトは口を噤んだ。いよいよ本題に入るようだった。

 

 

「まだ君が君になる前、君の最後の記憶は怒りだよ。相当お冠だったみたい。さっきも言った激怒ってやつ。来たくて来たわけじゃないんだろうね」

 

「だから、こうなっているって?」

 

「そう。このテクスチャに強引に合わせられたようなものだよ。無理やり型に押し込められたみたいにね。そりゃあ不安定にもなるよ」

 

 

 カヤツリはソファに身体を沈み込ませる。少しショックだったからだ。もう終わった話だし、記憶の無い自分としてはどうでもいい。ただ、自分がいつ爆発するかも分からないと言うのは不安でしかなかった。

 

 

「それは安心してもいいよ。激怒と言ったけれど、それも最上位のじゃないといけないからね。それこそ、誰かの生死に関わるとか。そんな日々の生活でイラついたからって出るようなものじゃない」

 

 

 それを聞いて、カヤツリは安心した。カヤツリは大きく息を吐くが、また心配事を思い出す。

 

 

「そういえば、アリスに手を打ったって言ったけど……」

 

「それはお楽しみだね。悪いようにはしないよ。壊さない。約束してもいい」

 

「どうした……?」

 

 

 優しい顔で言うセトにカヤツリは驚いた。セトからしたら最優先破壊対象のはずだからだ。だから、カヤツリを乗っ取らなかったのか聞いたのだし、手を打つと言うのも過激な手段だと思っていた。どういった心境の変化だろうか。

 

 

「心配してくれるのは嬉しいけれど、博愛主義に目覚めたわけじゃない。ちゃんと理由はあるよ。理由というか出来事だけど」

 

「そんなことあったか?」

 

 

 考え込むカヤツリに、セトはぼそりとその出来事を口に出す。

 

 

「テラノが来たでしょう? あれが出てこれるようにお膳立てをしたのは私だよ。本当に大変だったんだから……あの不法侵入者め……」

 

 

 実に嫌そうな口調だった。その時の事を思い出したのか、機嫌の良さそうな穏やかな雰囲気が刺々しいものになる。非常に声が掛けにくいが、カヤツリは臆さないで意見を言った。

 

 

「テラノとアリスの二人には関係ないだろ」

 

「そうだね。それはそうだ。問題なのはそっちじゃなくてね。テラノの第一声だよ。君と会ったテラノは最初になんて言った?」

 

 

 第一声? カヤツリは記憶の海を探る。朝起きたら、テラノが隣にいて、起きたテラノは信じられないような顔でカヤツリを見つめて、抱き着いて来たのだったか? 確か……

 

 

「ごめんねって……」

 

「そう、それ。おかしいでしょう? 第一声が”ごめんね”なんて、なんで謝罪なの」

 

「向こうの俺とは仲が悪いんじゃないのか」

 

「それで、別世界の君に謝るの? 意味不明だよ。小鳥遊ホシノはそんな逃げを打つ奴じゃない。気に入らないけど、それは言える。それは君も分かってるでしょ」

 

 

 出まかせの答えをカヤツリは口に出すが、セトはそれを一蹴する。刺々しい雰囲気は収まる気配がない。それはカヤツリでなく、他の誰かに向けられたもののようにも見える。

 

 

「たぶんね。向こうの君は小鳥遊ホシノと話せないんだよ。それがどういった理由かは分からない。でも、それは小鳥遊ホシノの所為なんでしょう。少なくとも小鳥遊ホシノはそう思ってる。だから、君に”ごめんね”なんて言うんだ。自己満足にすぎないのにね。ああ、浅ましい」

 

 

 相変わらずのホシノ憎しのセトの発言だったが、カヤツリは反論できなかった。それは薄々分かっていたことだったからだ。だから、カヤツリは黒服に探りを入れたのだし、ホシノに黙ってシロコや後輩たちに色々仕込んでいるのだ。

 

 

「だから、君も手を打っているように。私も手を打つことにしたの。君とは違ったアプローチでね。君は自分が不在の時をカバーするようにしてるみたいだけど……」

 

「それが、アリスを破壊しなかったことに繋がるのか?」

 

 

 アリスを破壊しない事はカヤツリにとってはありがたいことだが、セトにとってはそうではない。戦闘時はチャンスが無かったとはいえ、いつやったかは分からないが対策を打っているあたり、そうなのだろう。カヤツリに迫る危険を排除するのがセトの行動理念だったはずだ。そんなセトがリスクを放置するのは理解しがたかった。

 

 

「アイツ──テラノが来なかったら、モモイだっけ? あの娘のゲーム機に居た鍵を折を見て壊してた。直前まではそうしようと思ってた。でも止めたの」

 

「何を思ったんだ?」

 

 

 カヤツリの疑問にセトは薄く笑って答えた。それはどこか自嘲しているようにも見えた。

 

 

「まだ何もやっていないのを壊すのは違うなって。そう思ったの。壊すのは後でもできるでしょう? 君にも言われたことだし、たぶん向こうの私はそれをやったんでしょう。それにアリスはまだ君の友達だからね。私も慕ってくる娘を壊すほど鬼じゃないよ。……ライン越えしたら壊すけど」

 

 

 セトの答えがカヤツリは少し嬉しかった。その選択をしたと言う事は、セトが自分で選んだのだろう。最後にあった時とは随分様子が違ったから、良い方に変わっているのではと思えたから。

 

 

「それで、君の心配事だけど」

 

 

 セトが顔を背けて、言葉を切り出した。最初に聞こうとしたことを今。答えてくれるらしかった。

 

 

「小鳥遊ホシノが心配だと思うけど、無理だよ。こればっかりはどうにもならない。私の意地悪で起こさないわけじゃないんだからね。回復するまで待つしかないよ。一ヶ月って言ったのはそういうことだよ。出来レースの時よりかはかからないんじゃないかなっていう予想しか建てられない」

 

「そうか……」

 

 

 カヤツリは落胆した。どう見ても、セトが嘘をついているようには見えなかったからだ。

 

 カヤツリはホシノが心配だった。どう考えても、これはホシノの所為ではないのだが。ホシノの事だから、自分の所為だと抱え込む危険性があった。何をしでかすか分からないし、早く目覚めて安心させてやりたかった。

 

 

「だから、休みなって言ったの。それに、いつまで小鳥遊ホシノを介護するの? 本当に気に入らない」

 

「言い過ぎじゃないか」

 

 

 じろりとセトをカヤツリは睨む。ただ、セトは刺々しい雰囲気をさらに強めるが、溜め息をついてそれを収めた。

 

 

「君がそう言うなら、これ以上は言わないよ。あの日のままではないし、成長も感じられる。羽目を外し過ぎな部分は否めないけど。ただ、今はもう休んで……」

 

 

 セトは言葉を切った後。何かに気がついたのか、大きく周りを見渡して、大きく舌打ちをした。

 

 セトの見ている方向をカヤツリが見ると、さっきまでは無かった扉が出現していた。カヤツリにはそれが出口だと直感的に分かった。あれを潜れば目が覚めるだろうと。

 

 

「は!? なんで神秘が!? ……ああ、黒服ね。実験で複製したやつを……なるほど、そういうこと。もしもの最終安全弁ってこと。良いように使ってくれるじゃない……!」

 

 

 セトの言葉を聞く限り、黒服が何かしたらしい。かなり怒っているようで、手に持った菓子の箱がぐちゃぐちゃになっている。

 

 しばらく、じっとして考えたセトは、カヤツリに向き直って、扉を指さした。

 

 

「はぁ……行きたいんでしょ? 行けばいいよ」

 

「悪い……」

 

「何度も言うけど、君が悪いわけじゃない。今回は黒服と鍵の所為だしね。悪いと思うなら、倒れないようにしてくれればいいよ」

 

 

 気にする必要はないと言うように、セトは片手を振って、そっぽを向いてしまった。やけ食いなのか、菓子を運ぶ手が幾分早いようにも見える。

 

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

 

 セトからの返事は無く、そのままカヤツリは扉を潜った。

 

 

 □

 

 

 カヤツリの想像通りに、扉を潜ると目が覚めた。長い間寝ていたようで、身体はだるいし、点滴の管やらなにやらが繋がっている。寝汗か何かで身体もべたつく。

 

 近くには先生と、ロボットの医者たちが居て、どこか慌ただしい様子だった。そのおかげか検査自体はあっという間に終わり、身体の管も抜かれ、蒸しタオルで身体も拭けた。

 

 もう、身体の状況は万全に近かった。

 

 

「起きたところ悪いんだけど……」

 

 

 先生は、復帰したカヤツリに対して、これまでの事を説明してくれた。モモイが怪我をしたこと、アリスが連れていかれてしまった事、それを今から助けに行くこと。後は黒服が処置をしたこと。

 

 

「ごめんね。カヤツリ。勝手に君を取引材料にした」

 

「別に気にしないでください。先生。どうしようもないじゃないですか。それに無事に終わったならそれでいいでしょう?」

 

 

 とても先生は後悔しているような様子だったが、カヤツリとしては気にしていない。全く気にせずに取引材料にされたのなら思う事はあるが、ここまで後悔することでは無いのだから。

 

 それよりも、アリスを救出することが一番だった。その前に余計な事を考えるべきではない。カヤツリとしては、先生にはそのことだけに集中してほしかった。

 

 

「早く、アリスの所に行ってあげてください。多分待ってると思いますよ」

 

「分かったよ。じゃあ、行ってくるから。安静にしてるんだよ」

 

 

 先生はカヤツリに送り出されて、病室を出て行った。どこか足取りも軽いから、カヤツリの危惧したことにはならないだろう。

 

 先生が居なくなると、部屋は静かになってしまった。もう真夜中だし、検査が終われば医者は居なくなった。先生も出て行った今、部屋に居るのはカヤツリだけだ。

 

 サイドテーブルを見ると見舞い品だろう。色々な物が乗っていた。果物やら、お菓子やら、食べられるものが多い。きっと対策委員だろう。

 

 

「ん? 何だこれは」

 

 

 見舞い品を整理していると、見覚えの無い物が目に入った。丸く平べったい円筒形の機械。掃除ロボットのように見えるそれ。見舞い品としては異彩を放っている。それに誰からの物か予想がつかなかった。

 

 しばらく弄っていると、その機械。円盤の縁が光り始めた。電源が入ったらしい。それはそのまま、カヤツリの手を離れ、床まで飛んで行った。

 

 そして中央部分が光り、ホログラムが浮かび上がる。

 

 ホログラムの人物は、カヤツリが直接見たことのない生徒だった。けれど名前は知っている。

 

 

『目が覚めたようね』

 

 

 ホログラムの生徒──調月リオは、じっとカヤツリをみつめていた。

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