ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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124話 二日ぶりの再会

 ホログラムが消え、ドローンが動かなくなった。

 

 リオは頼んだ通りにアリスへカヤツリの言葉を伝えてくれるだろう。これでアリスに対してのカヤツリのできることは終わりだ。後は朝を待って、アビドスに帰るだけだった。けれど、その前に、カヤツリにとってのやらなくてはならない事が幾つか残っている。

 

 カヤツリは携帯を取り出して、ホシノへ電話をかけた。呼び出し音が響くのがよく聞こえるが、しばらくの後に留守電のメッセージに切り替わる。四、五回同じことを繰り返すが結果は同じだった。

 

 もう夜も遅い。もしかしたら寝ているのかもしれない。この二日はホシノに対して、かなりの心配をかけたのは想像に難くない。積まれた見舞いの品や着替えがあるのを見る限りは、何回かアビドスと往復はしているだろうから。

 

 そのうちにカヤツリは無性に喉の渇きを覚えた。リオと話している時にはあまり気にしなかったが、口の中がやたらと乾燥している。二日も寝たきりだったのだ。水分は点滴で何とかしただろうが、その分口内は渇ききっていた。道理で喋りにくいはずだ。

 

 探せば自販機くらいはあるだろうと、カヤツリは床のドローンを片付けつつ、財布を探す。幸いにも財布はすぐに見つかるが、カヤツリの幸運はここまでだった。

 

 

「こんばんは。カヤツリ君」

 

 

 部屋の外で黒服が待ち構えていた。いつもの顔に、いつもの服装。トドメにいつもの怪しい雰囲気。疑う余地も無いほどに、カヤツリの目の前にいるのは黒服だった。

 

 

「ただの見舞いですよ。喉が渇いているのでは?」

 

 

 何か言おうとしたカヤツリの先手を取って、黒服がここまで来た目的を口に出す。発言の通りに黒服の手には飲料水の缶が握られていた。

 

 

「それだけじゃないでしょう?」

 

 

 その缶一つで何をさせようと言うのか。カヤツリは渋い顔になる。

 

 カヤツリは黒服の事をよく知っている。今まで、報酬に色をつける事はあっても無償で何かをくれた事はない。そういう時はあったが、大抵同じくらいの労力を払う羽目になる。タダより高い物は無いと言うが、黒服の場合は特にそうだ。

 

 

「大した事は頼みませんよ。それにまたここに来たのは、貴方の様子を見る為もあります。理論上は安全でも万が一ということもありますからね」

 

 

 そう言いながら、黒服はカヤツリをジロジロと舐めるように見る。カヤツリとしてはあんまりいい気はしない。今のカヤツリの服装は薄い病院着だし、リオ相手の会話も始めは恥ずかしかったのだ。

 

 

「……見る限りは良いようですね。……おや? 良いのですか?」

 

 

 無言で腕を突き出したカヤツリに、黒服は驚いたように確認する。

 

 何故、黒服が驚くのか分からない。先生との契約、自分を目覚めさせること。それの確認ならしっかりやるべきだ。中途半端は一番いけない。そう教えたのは黒服だろうに。

 

 

「契約は最後まで完璧に。そうでしょう?」

 

「クックックッ……そうでしたね。それでは、遠慮なく」

 

 

 何処から取り出したのか、黒服の手には注射器が握られていた。慣れた手つきで、消毒と採血を終わらせて。お手製の機械にかけている。カヤツリの血液を飲み込んだ機械は静かな唸り声をあげていた。黒服は手持ち無沙汰なのか黙ったまま動かない。結果が出るのにしばらくかかるのだろう。

 

 

「……用というのは?」

 

 

 機械の唸り声が響くだけの個室は居心地が悪い。機械音をかき消すように声を出すと黒服はようやく反応した。

 

 

「これです。忘れ物ですよ」

 

 

 パチンと黒服が指を鳴らすと、部屋の中にレールガンが現れた。それは部屋の壁に最初からそこにあったかのように立てかけられていた。

 

 確かに黒服の言う通りに忘れ物と言えば忘れ物だ。アリスの鎮圧の時以来、何処にあるのか知りもしなかった。おそらくミレニアムのどこかにあったそれを黒服は拝借してきたようだった。

 

 

「使えと?」

 

「その機会があればの話です。そしてそれは零ではありません。まだ今日は終わっていませんしね」

 

 

 そんな意味深なことを黒服は言う。このレールガンを再び使う機会が訪れるなど、そんなことは考えたくもなかった。リオと先生の争点はアリスをどうするかという話だった。どういう風に転んでも変わるのはアリスの状況だけだ。

 

 

「……また倒れるでしょう?」

 

 

 これの使い方など、ビナーのようなデカブツ相手に撃ち放つ以外の活用法など思い浮かばない。セトは使い方が悪いと言ったが、どう使えばいいのかは聞いていなかった。使えば、二日前と同じようにまた倒れるだろう。

 

 

「ええ。貴方が想定する使い方をすればそうでしょうね」

 

 

 使い方が間違っているかのような物言いに、カヤツリは不機嫌になる。説明書も何もついていないモノをどう使えと言うのか。壊さないだけ褒めて欲しいくらいではあると言うのに。

 

 

「クックックッ……基本的には使い方は間違っていません。それは銃ですから。単純に一人で使うからいけないのですよ。それだけのモノを相手にしている時には相応の出力が要るものです。以前のキヴォトスに来る前の貴方ならともかく、今の貴方ではね。単純に力不足ですよ。格不足と言っても良いでしょう」

 

 

 ここまで言われてしまえば、カヤツリにも理解はできる。普通に使うなら問題ないが、ビナーや暴走状態のアリスを相手にして一撃で戦闘不能にするには一人ではいけないのだろう。撃てはするだろうが二日前のように倒れる。セトが言ったのも普通に使う分という意味だろう。おそらく相手の格が高すぎて、どう頑張ってもカヤツリ側の力不足なのだ。

 

 

「……ホシノに何かしましたか?」

 

 

 カヤツリの語気が強くなる。一人で使うのがいけないのだと黒服は言う。それなら二人で使うのだろう。黒服が態々言うという事はもう一人はホシノだ。ホシノ以外なら黒服は普通に言うだろうから。

 

 

()()何もしていませんよ?」

 

 

 黒服は否定しなかった。それは肯定の意味だ。嫌な想像が頭の中を駆け巡る。さっきのリオの言葉や先生の話。やけに見覚えのある部屋。そして繋がらないホシノへの電話。

 

 

「何度も見たでしょう? まだ足りないんですか?」

 

「ええ、足りませんね。私の仮説を証明するにはまだ足りません。それに私が求める物はまだ一度も直には見ていませんから」

 

 

 嬉しそうな黒服の言葉にカヤツリは臍を噛む。きっと黒服は見たいのだろう。何が見たいのかは分からないが、黒服はそのためにここまでお膳立てした。自分を目覚めさせ、レールガンを自分の元に戻るようにした。おそらく、アリスの件自体には絡んではいないだろう。絡んでいるのなら、こうまで不確実な手段はとらない。

 

 

「心配しなくとも、貴方たちに害はありませんよ。誓ってもいい。それこそ紙へ文字に起こしても良いでしょう。私は見たいものがあり、貴方は安全にそれを使い外敵を打ち払う。貴方が大好きな両者とも得をする取引ですよ。それに、まだそれが起こるとも限りませんから」

 

 

 ふうと、カヤツリは息を吐いた。カヤツリの完敗だった。別に勝負をしていたわけでもないし、黒服にもそのつもりはないだろう。そうであれば自分は少なからず違和感くらいは覚えただろうから。

 

 今回アビドスの時のように黒服は騙そうとはしていない。要所要所で善意を振りまいて確率に任せただけだ。それが結果的に黒服の利益になっていた。以前のようには悪意を感じなかった。だから気づけなかった。

 

 

「今回は貴方の真似をしただけです。貴方が私を信じたように、私も貴方たちを信じてみました。不確定かつ得られる利益は最小限ですが、私は貴方たちを敵に回したくはないので。お互い得るものはあったはずですよ?」

 

「そういう問題じゃない」

 

「クックックッ……知っていますよ」

 

 

 舌打ちと共に、カヤツリはそっぽを向く。黒服はそれを見て笑っていたが、同時に機械の駆動音が止まった。結果が出たようで、黒服は機械を確認すると大きく頷いた。

 

 

「思った通りに異常なしです。これは忠告ですが、窓の外に注意しておくと良いと思いますよ? クックックッ……それではいい夜を」

 

 

 そっぽを向いたまま缶のプルタブを開けたカヤツリに、黒服はそう告げて、今度こそ姿を消した。

 

 

 □

 

 

 ちびちびと缶の中身──スポーツドリンクを飲みながらカヤツリはカーテンを開けた窓を睨みつけていた。

 

 もう病院着から制服に着替えている。あんなことを言われれば、こうするのも当然だった。少なくともレールガンを使う可能性があるのだから。黒服が姿を消してから数時間が経っているが、窓の外はミレニアムの夜景が広がっているだけだ。時間も時間だから建物の明かりは消えて、真っ暗闇だから見ごたえは無い。精々が街灯が点いているくらいだ。

 

 気の所為だったのかもしれない。きっと黒服の気負い過ぎだ。そんな事も考えるが、嫌な予感が消えてくれない。

 

 

「ん?」

 

 

 窓の外に何かがチラついた気がする。見覚えのある何かが視界の端に映った。もう一度窓の外を確認するが何もない。さっきと同じ光景が広がっているだけだ。

 

 

「……音? 何の音だ?」

 

 

 何か軟らかいもので固いものを殴打しているような。そこそこの勢いで何かが擦れる音が聞こえた。どんどんそれは大きくなって、近づいてきている。下から上へとやってきている。

 

 ガタリと窓から音がした。窓を見ても何も変わらないようにしか見えない。でもどこか違和感があった。それを見つけた時カヤツリはらしからぬ悲鳴を上げそうになった。

 

 ()()

 

 小さな手が、窓枠に引っかかっている。誰かが上がってこようとしている。

 

 ここは五階だ。状況が状況だから、カヤツリは声も上げられなかった。手の正体は分かっているが、まさか、こんなという思考が強い。

 

 窓枠の下から、段々と手の持ち主が露わになっていく、桃色の髪、二色の瞳、小さな身体という風に。それ──ホシノは鍵が開いたままの窓を開けて、病室の中へと侵入してきた。

 

 

「……」

 

 

 ホシノの顔は長い髪が前に掛かっていて良く見えない。どことなく息も荒くて肩も上下に大きく動いていた。

 

 きっと走ってきたのだ。アビドスからここまで。

 

 先生がカヤツリが目覚めたことをホシノに連絡したのだろう。きっとホシノは心配していただろうから、こんな時間でも先生は遠慮はしなかった。そうするだろうという確信がカヤツリにはあった。

 

 それを聞いたホシノはどうするだろうか。おとなしく朝まで待って、病院が開く時間に来るだろうか。少なくとも普通はそうするし、物理的にできないだろう。

 

 ただ、ホシノはできてしまうのだ。ホシノの身体能力なら、戦闘行為を考えないで、走り抜ける事だけを考えれば。

 

 病院の入り口が開いていないから、飛び跳ねて、壁を蹴って、ここまで上がってきたのだ。さっきまでしていた音はそう言う事だろう。

 

 さっきの黒服の言葉を思い出す。確かに黒服は何もしていないが、無性に腹が立つ。

 

 

「……ホシノ?」

 

 

 目の前のホシノは息を整え終わったようだった。肩も動いていないし、荒い呼吸音ももう聞こえない。ただ、じっと振り乱した髪の奥からカヤツリを見ているだけだ。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 カヤツリが声を掛けると、ホシノの姿が視界から消えた。次にカヤツリの腹部に衝撃が走る。ホシノが抱き着いて来た衝撃を殺しきれずに、そのまま後方のベッドに倒れ込んだ。

 

 

「カヤツリだよね……? 生きてるんだよね……? 夢じゃないよね……?」

 

 

 カヤツリの腹部に、ホシノが顔を押し付けての、そんな呟きが聞こえる。カヤツリは申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

 ホシノからしたら、トラウマの再発に等しい。自分の居ないところで誰かがいなくなる。それはホシノにとって一番避けたい事だろうから。今回はカヤツリの落ち度だ。今は何も考えつかないが、やりようは幾らでもあったのかもしれない。

 

 

「……大丈夫だよ。生きてるし、ここにいるから」

 

「……うん! うん……!」

 

 

 カヤツリは顔を自分の腹から首元まで移動してきたホシノを正面から抱きしめる。ここまでの長距離走で火照ったホシノの体温が直に感じられた。ホシノも、カヤツリを手面から抱きしめ返してきて、その熱はもっと強くなった。

 

 

「怖かったよ……また、私は間違えたんじゃないかって」

 

 

 ポツリとホシノがそう呟く。

 

 

「ホシノの所為じゃない」

 

「うん。分かってるんだけどね……」

 

 

 ぎゅっとホシノの抱きしめる力が強くなった。カヤツリの首筋にホシノの吐息が当たってくすぐったい。

 

 

「どうしたら、安心できる?」

 

 

 カヤツリはそう聞いた。ホシノの為なら、カヤツリは大体の事はできるのだ。それを聞いたホシノは考えて、ぽつりぽつりと話し出す。

 

 

「抱きしめて、もっと強く」

 

「うん」

 

 

 ホシノの指示に従うと、ホシノは満足そうに息を吐く。

 

 

「明日から、しばらく、ずっと傍にいて」

 

「……わかった」

 

 

 要求のレベルが上がった。家では一緒だが、学校ではそうでもない。後輩たちの目もあるのだから、そこまで一緒には居ないのだ。ノノミあたりにはもうバレている気がするが。

 

 ただ、しばらく一人にして、ホシノを不安にさせてしまったのだ。この要求は理にかなっている。少し考えてカヤツリは了承した。

 

 

「明日から、どこにも行かないで。アビドス以外のどこにも」

 

「……」

 

 

 これはかなりハードルの高い要求だった。ホシノがアビドスから出したくないという要求は分かる。今回カヤツリはミレニアムに、アビドスの外に行ってけがをしたようなものだからだ。ミレニアムでなくてアビドスなら、ホシノは駆け付けることが出来るだろう。

 

 

「ダメかな……?」

 

「他ので」

 

 

 不安そうに、カヤツリに覆いかぶさったホシノが呟くが、これは了承しにくかった。これを了承すればあらゆることに支障が出るだろう。他のなら、幾らでも聞けるのだが。

 

 

「じゃあ、こっち向いて? 今はそれでいいよ……()()()

 

「それでいいのか?」

 

 

 ホシノがカヤツリの肩から頭を移動して、カヤツリの下からカヤツリを見上げていた。この状況で下を向けと言うのは、そういう事だろう。そんな事でいいのだろうか。そう訝しむカヤツリに、ホシノはうへへと笑いながら、口を開いた。

 

 

「今はそれでいいんだよ~。まだ時間は沢山あるんだし……まだ機会はあるからね。カヤツリは目を覚ましてくれたんだもの」

 

「はぁ……」

 

 

 カヤツリはホシノの言う通りに下──ホシノの方を向く。ホシノはそれを見て、満面の笑みになって近づいて来た。

 

 しばらくの間。二人はそうしていた。カヤツリも、なんだか今はそうしていたかったのだ。

 

 

 □

 

 

「……ふーん。色々あったんだね」

 

 

 暫くしてから、これまでの話を聞いたホシノは納得したような表情をして、カヤツリの隣に座っていた。さっきまでの、今にも消えてしまいそうな雰囲気はもう感じ取れない。すっかり、いつものホシノに戻ったようだった。

 

 

「それで、何かあったの?」

 

「ホシノが来た以外は何も」

 

 

 黒服は窓の外に注意しろと言ったが、まさかホシノの事ではないだろう。黒服もホシノが窓から侵入してくることまでは予想がついていないだろうから、また何か別の事があるのだろう。

 

 窓の外はホシノが来る前と変わらずに暗闇が広がっている。ホシノも窓の外を見ておいてくれるが、特に気になる点は無いようだ。

 

 

「そういえば、目を覚ましてから何をしてたの? 先生が居なくなって、黒服が来るまでは特にやる事もなかったんだよね?」

 

「ホシノに電話してたけど……」

 

「え? ……ああ、ごめん。気づかなかったみたい。うへへ、五回もかけてくれたんだ……」

 

 

 カヤツリは胸をなでおろす。リオとの会話の事は話していない。特にカヤツリとしては変なことを言った覚えもないし、言ってもいいかなとも思うのだが。嫌な予感がした。ホシノにそれを言うと機嫌を損ねそうな気がしたのだ。今じゃなく、後で話した方が良いだろう。

 

 

「……飲み物買ってこようか。ここまで走ってきたなら、喉が渇いただろ」

 

「そうだね。ちょっとほしいかも」

 

「じゃあ、何がいい?」

 

「それでいいよ?」

 

 

 立ち上がろうとしたカヤツリを制止して、ホシノがカヤツリの脇に置いてある缶を指さす。それはカヤツリの飲みさしのスポーツドリンクだった。

 

 

「それより、新品の方が良いだろ」

 

「ううん。私はそれが良いな。それに自販機の場所知ってるの?」

 

 

 確かに、カヤツリは自販機の場所は知らないが、大方の予想は着けられる。けれど、ホシノは退く様子はなさそうだった。今も物欲しそうにその缶をみつめている。

 

 

「ほら」

 

「うん。ありがとう……うへ、うへへ」

 

 

 諦めたカヤツリが渡したそれをホシノは嬉しそうに受け取って、くぴくぴとホシノは残ったものを飲み干した。なんだかそれを見ているとカヤツリは無性に恥ずかしくなる。

 

 飲み物を飲んでいるホシノを見ていると妙な気分になりそうだったから、カヤツリは窓の外に視線を戻して、カヤツリは夜明けが来たのかと思った。窓の外、目に見えないほど遠く。地平線の向こうで巨大な輝く何かがせりあがってきていたから。

 

 

「なんだ……あれ?」

 

 

 一言で言うならコマだ。コマの軸と外縁以外を抜き去った形。真ん中の軸の周りから大分離れて、大きな円のようなものが軸を囲っている。それが太陽の代わりに地平線の向こうから登ってきていた。

 

 

「これのことか……?」

 

 

 黒服の言った機会がこれなのだろう。確かにレールガンを使うにふさわしい相手だった。あの大きさなら普通の銃では豆鉄砲にしかならない。

 

 ここからでも、あのコマもどきから妙な威圧感が感じられる。”まだ完成していないのだから、今のうちにどうにかするべきだ”と、知りもしないのに本能が警鐘を鳴らす。

 

 カヤツリにはその手段もあったし、その方法も黒服が話していたのも覚えている。この病院の内部構造は知っている。出来レースの時に入院した病院だ。だから、屋上までの行き方も分かる。

 

 

「行くよ。カヤツリ」

 

 

 カヤツリから話を聞いているホシノが、隣から立ち上がっている。一緒に行こうと言ってくれているのだ。

 

 

「いいのか? 黒服の言ってたのが本当だとは限らないんだ」

 

 

 下手な言い訳だとカヤツリは自嘲する。そんな事はないのはカヤツリが一番よく分かっているのに。結局、まだカヤツリは怖いのだ。ついさっきまでホシノを同じ状況に叩きこんで、リオに向かってあんなことを言ったくせして。

 

 

「……もうとっくにカヤツリは分かってると思うけど。私は大丈夫だよ」

 

「分かった。手伝ってくれ」

 

「うん!」

 

 

 ”ホシノを失うかもしれない”そんな恐怖はまだあるが、近くにホシノがいるなら、それを忘れられそうな気がする。カヤツリは恐怖を振り切って、ホシノと一緒にレールガンに向かって歩みを進めた。

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