ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

135 / 337
134話 二人ぼっちのクーデター

「知らなかったよ。あんな特技があったなんてね。隠してたの?」

 

「いや? 言う機会が特に無かっただけ」

 

 

 ホシノとカヤツリの二人は、身体を寄せ合って隠れていた狭い通風孔から飛び降りる。さっきの演説に使った部屋は半分ほどが、仕掛けた爆弾のせいでボロボロになっていた。

 

 カヤツリは急いで、そこかしこに倒れ伏すPMC兵に寝たふりをしたのが居ないか、スタンロッドを突き入れていく。

 

 

「やっぱり慣れてるね」

 

「何が?」

 

 

 カヤツリをカバーするようにショットガンを構えて立つホシノは、カヤツリの腕に向けて顎をしゃくる。

 

 

「だから、さっきの声真似といい、今の手際といい。こういうのに慣れてるねって。それに楽しそう。あと何、その装備。それは初めて見たんだけど」

 

「手のこれか?」

 

 

 左手を覆うグローブを見ながら、ホシノが頷く。

 

 

「そうだよ。何に使うの? 手袋って割には右手もそうだけど、左手のはもっと仰々しいよ。機械の鎧か何かみたいになってるけど……」

 

「見せたじゃないか。さっき」

 

 

 カヤツリは通風孔を覆っていた格子を指さす。それは通風孔から離れた床に枠ごと転がっている。固定のネジを一つ一つ外したわけではなく、カヤツリが持ち前の怪力で引きはがしたのだ。

 

 

「ああいうのは素手でもできるけど、多用すると手を痛めるんだよ。というか昔に実際痛めた」

 

「……前の仕事で? 潜入が主とか言ってなかった? まさか、毎回出口をこじ開けてたわけじゃないよね」

 

「まさか。今回みたいなのはレアケースだよ。あと、持ち込めるものに限りがある。普通はホシノみたいな重装備は持ち込めない」

 

 

 大体は、従業員に成り代わるか、人気のない時間帯に忍び込む。その時に、今のホシノのようなショットガンなどの火器は持ち込めない。ショットガンやアサルトライフルを背負って仕事する大人はいない。いくらキヴォトスでも、持っていて怪しまれないのは精々が拳銃か手榴弾くらいだ。

 

 

「となると使えるのは、これと、これと、これだけだ。いくつかは見てるだろうに」

 

 

 ちょうど、兵士に突き込もうとしたスタンロッドと、太ももの二丁の大型拳銃と、自分の手足をホシノに示す。大体は何事もなくスムーズに終わる事もあったが、何回かは銃撃戦になったことがある。

 

 大抵その時の相手はロボット兵だった。あの装甲相手に正面から打ち合いをしていてはジリ貧だから、まあ、色々と荒っぽい手を使う事になる。ホシノには後輩たちに、特にシロコには見せる事を禁じられたそれを、あのロボットの固い装甲相手に素手でやれば、手も痛める。

 

 

「よし、終わりだ」

 

 

 最後のPMC兵にロッドを突き入れる。バチリと電撃が走るが特に反応は無い。

 

 

「次はどうするの? このまま籠城する? それとも、こっちから行く?」

 

「どっちがいい? 好きな方を選んでいいし、他のでもいいよ。そっちがやりやすい方でいい」

 

 

 ジェネラルの言葉から察するに、練度の高い部隊が突入してくる。それを二人で止めなければならないのだから、最大戦力であるホシノに配慮するのは当然だった。

 

 ホシノは腕を組んで悩むそぶりを見せた後、覆面の下で、ニヤリと笑ったように見えた。

 

 

「半々にしようよ。ほら、昔にシロ……あの娘が強請った時にやったヤツ」

 

「……ああ、あれか。懐かしい。トラップ張りつつ、遊撃するヤツか。いいよ」

 

 

 本当に懐かしい事を言う。まだシロコが跳ねっかえりだった頃。ホシノとの直接対決は分が悪いと思い知ったシロコが、別口の対戦方式を提案した。ホシノと直接戦って勝てないなら、別の方法でという訳だ。

 

 今の状況と似たようなものだ。シロコが突入役で、ホシノが巡回の警備役。そして部屋で仕事をしている自分が、お宝兼、警護役。シロコが自分を叩きのめして、校舎から連れ出せれば勝ちの変則勝負。

 

 あの頃のシロコはまだ突入計画を立てる事なんて知らなかったから、正面から校舎に突入し、自分が仕掛けたトラップに全部引っかかって、ホシノに捕まっていた。まあ、トラップに引っかからずに自分の所まで来れたとしても、あの時のシロコに負ける道理は無かったけれど。

 

 

「じゃあ、早速やろう」

 

 

 後ろを振り向いて、モニターに向かう。今の自分たちは、成り行きとはいえ凄まじいまでの権力を持っている。連邦生徒会本部のセキュリティシステムや防火設備を弄ることなど造作もない。

 

 

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「……何。どこに仕掛けたいかの話か?」

 

 

 ”きっと違うんだろうな”とカヤツリは尋ねておいてそう思う。ホシノの様子が変だからだ。さっきとは違って、聞きにくいことを聞こうとしている気配だ。

 

 

「もし……もしだよ? 今みたいじゃなかったら。昔のままだったらって思わないの? そっちの方が良かったなって」

 

「しょうもないこと聞く」

 

 

 防火シャッターを遠隔で起動して道筋を制限しつつ、溜め息をつく。

 

 

「一応聞くけど。理由は?」

 

「なんだか、楽しそうじゃなかった? 皆と居る時よりも楽しそうに見えたからさ。昔の方が良かったのかなって」

 

 

 覆面の下で顔を歪ませる。ホシノは変なところで鋭いのだ。今気づかなくてもいいだろうに。

 

 

「そうだな。一部は否定しないよ。今、俺は楽しんでる。毎日、頭の隅で考えていることを考えなくていいから」

 

 

 毎日毎日、借金の事を考えるのは疲れる。だから、全部忘れて暴れられる今は楽しい。相手に配慮もしなくていいのだ。すっきりする要素しかない。どうせ、あれだ。ホシノが居ない時にやっていた事を、自分が楽しそうにやっているものだから、今更不安になったのだろう。

 

 

「ただ、それは誰のせいでもない。成り行きでここまで来たけれど。それでよかったと思っているし、アレが無くても、嫌でも関わる事になったと思うよ」

 

 

 黒服は自分をアビドスに行かせたがっていた。もし、ホシノや先輩に弾かれても何か別の手を考えただろう。理事あたりと手を組んで、借金取りとして派遣でもさせられたかもしれない。

 

 

「楽しいのは一人じゃないからだよ。二人で今、やってるから楽しい。前にも言ったし、そっちもそうだろうに。俺はやりたい事しかやってないんだ。だから、今更気にすることは何もない。そっちが気に病むことはない」

 

 

 ホシノの事だから、アビドスの借金の事とか、昔のアビドス砂漠で突っかかったせいで巻き込んだとか、しょうもない事を考えているのだ。人には幾らでも迷惑を掛けていいと言うくせにだ。我儘を言うようになってマシになったと思っていたが。まだ、先輩が居なくなってからの悪癖は治らないらしい。 

 

 

「……どうした?」

 

 

 ホシノが黙りこくって何も話さないから。ホシノの方を振り向くと、なぜだかホシノが真っ赤になっていた。覆面越しから見える目と口の周りが赤いから、すぐわかる。

 

 

「いや~随分ストレートに言うなーって。いつもは強請らないと言ってくれないのにね。うん。今の答えと言い方で納得できたからいいよ。うへへ、即答とはねぇ……うへ……」

 

 

 なんだか、ホシノがくねくねしている。これから戦闘が始まるのに。今の様子を見る限り不安しかないが、追及するのは止めることにした。

 

 ホシノに突っ込まれて困るのはこちらだからだ。だから、赤い顔をホシノに気がつかれないように、深く覆面を被り直した。

 

 

 □

 

 

「よし、来たぞ」

 

 

 初めとはまた違う通風孔で、カヤツリはホシノに合図した。聞こえる足音からして、もう少しでこの真下の廊下を増援のPMC兵が通るはずだ。

 

 監視カメラの映像からカヤツリはカイザーのPMCが来ることを確信していた。もう、いくつもの監視カメラが壊されていた。この破壊速度から見て、複数の部隊が複数ルートでこちらに向かっている。

 

 障害物代わりの防火シャッターは柔ではない。破るには相応の時間が掛かる事は分かっている。少なくとも一度に全員を相手はしなくていいはずで、ルートも必ずここを通るようになっている。

 

 

「行くよ」

 

 

 頃合いを見てホシノが真下に飛び降りる。続けてカヤツリも飛び降りた。

 

 着地するなり、ホシノのショットガンから銃声が響く。至近距離から銃撃を浴びたPMC兵が吹き飛ぶのが、カヤツリの視界の端に映る。

 

 丁度、集団の中心に降りたようで周囲は敵塗れ。とりあえず自分の後方はホシノに任せる。ホシノもそのつもりだろう。

 

 目線だけで周囲を確認。正面に一。左右に一。合計三。後ろは気にする必要なし。

 

 

「貴様──ガッ」

 

 

 とりあえず、目の前のPMC兵の銃を下から左腕ではね上げ、そのまま喉元を握りつぶす勢いで掴む。フレームが歪む強さで握っている。まともに動けまい。

 

 

「そいつを──ギッ」

 

 

 右手で、拳銃を抜きつつ発砲。この距離なら見なくとも当たる。思い通りに右のPMC兵の足を撃ち抜き転倒させる。

 

 左のは掴んだ奴を盾代わりにして、右の拳銃で応戦。仲間を撃てないせいで反撃は無いから処理はすぐだ。その後は用済みの盾も動かなくなるまで銃弾を撃ち込む。

 

 

「やめ──」

 

 

 最後に転倒した兵士の背中を踏みつけて、同じように処理する。同時に、後ろの銃声も止んだ。誰が立っているかなんて確認するまでもない。

 

 

「次はどこ?」

 

「あっち」

 

 

 銃に弾を装填しながら、次が来る方向を教える。今ので居場所はバレた。一斉にやってくるだろう。数によっては同じ手は使えないから、正面からぶつかる必要がある。

 

 

「広いところに出よう。ここじゃ動きにくいよ」

 

 

 ホシノの言う通りだ。今いる廊下は4人くらいが手を広げれば埋まるほどの幅しかない。それに障害物もないから、ハチの巣にされるだろう。

 

 

「じゃあ、こっちだ。ロビーというか。大きい広場がある。色々置いてあるから壁にはなるだろ」

 

 

 目的の場所へと二人で駆ける。そこは思った通りの場所で、ガラス張りの大きな窓から外が良く見えた。遠くの空にはクロノスかカイザーのであろうヘリが飛び、地上には爆炎が見える。恐らく風紀員会とカイザーの戦闘だろう。いつもは静かなD.U.地区が大騒ぎになっている。

 

 

「来たよ。対応が早いね」

 

 

 ホシノが敵部隊を見て、感心したような口調で言う。見れば、大柄な盾持ちのPMC兵と、その後ろに普通のPMC兵が隊列を組んでいる。

 

 盾で敵の銃撃を受け止め、後方の火力役が攻撃する。よくある基本戦術だ。距離のせいもあるが、あの盾にホシノのショットガンの通りはあまり良くない。こういう時にはロケットランチャーや爆弾などの火器があるとはかどるのだが、生憎今回は持っていないし、爆弾はさっき使ってしまった。

 

 ホシノがショットガンを連射するが、予想通りの結果に終わる。

 

 

「やっぱり効きが悪いよ。どうする?」

 

「しばらく撃ち続けて様子を見てくれ、後はいつもみたいに行く。覚えてるか?」

 

「覚えてるに決まってるでしょ。あと三発撃ったらリロードに入るから」

 

 

 ホシノが放つ散弾の三発目。それが撃たれた後にカヤツリは盾持ちに向かって駆け出した。

 

 向こうは慌てた様子もなしに、盾持ちの隙間から、こちらに狙いをつける銃が突き出される。けれど、スピードは緩めずに目を瞑る。

 

 

 ──3・2・1

 

 

 ゼロ。そう心の中で呟くのと同時に、ホシノが投げた閃光手榴弾が起爆した。閃光自体は盾持ちの掲げた盾であまり効きはしていないが、銃撃が遅れるだけでいい。

 

 あの時のイオリは足だったが、自分は拳で十分だ。思い切り、短く息を吐いて、盾を殴りつける。

 

 ゴォンと鐘でも鳴るような音がして、盾持ちが後方の兵士を巻き込んで吹き飛んでいく。

 

 

「このイカレ野郎が!」

 

 

 仲間を殴り飛ばされた盾持ちがカヤツリの左右から盾で殴りかかる。そのまま迫る左の盾は縁に左手甲を当てて流す。

 

 流された方は勢いよく地面へ倒れ込むものの、右側。自分の後ろのがまだ残っている。この体勢では反撃が一人分しか間に合わないが心配ない。

 

 

「やらせないよ」

 

 

 ホシノが無防備な盾持ちの左側から急襲する。ショットガンの連射を受けて二人目の盾持ちは耐えきれずに倒れた。カヤツリは安心して、体勢が崩れて蹲った方の背中に銃弾を撃ち込み、殴り飛ばした方にも、同じ対応をする。

 

 もう陣形はズタズタだ。盾持ちと火力役は残っているが、もうここは陣形の内側で盾の中。盾持ちは自分が相手して、装甲の無い火力役はホシノが食い散らかして終わる。

 

 

「私の方が多いね」

 

「……それはずるくないか? それにいつの話だよ……もう覚えてないし」

 

「何? 不満なの?」

 

「当り前だろ」

 

 

 満足げなホシノが発言するが大いに不満だ。機動力のあるホシノの方が数を稼げるのだから、勝負になるはずがない。

 

 

「前に何回も言ったけど。大体、こういうのは数じゃなくてスコアで……ん? 何だこの音は」

 

 

 部隊が来た方、それとは逆方向から。何か重い物が床を踏みしめる音が聞こえる。それと激しいエンジン音も。

 

 ただ、そっちは防火シャッターで塞がれているから。容易に来れるはずが……。

 

 

「……カイザーだもんな。持ってはいるか」

 

 

 カヤツリの予想をあざ笑うかのように、防火シャッターを紙切れのように押し破って、巨大な何かが現れた。

 

 

「……お客さんだよ。しかも、久しぶりに見る顔だね」

 

 

 ホシノの言うとおりに、それは見覚えのある物だった。パワーローダーだ。あの時のような暴走状態でなく制御されている。右腕のガトリング砲と肩のミサイルランチャーも見える。左手は何も持ってはいないが、防火シャッターを押し破ったのだから馬力はある。極め付けに背中にはブースターもついている。いわゆる完全体だ。

 

 

「カバーするよ。あそこまで走って!」

 

 

 回転を始めたガトリング砲を見て、ホシノが盾を展開する。そこに向かって弾幕が襲い掛かった。ギャリギャリと盾が削れる音を聞きながら、二人は大きな円形のオブジェまで走り込む。

 

 

「なんかないの! レールガンとかさ!」

 

「ない! こんなことなら持ってくりゃ良かったよ!」

 

 

 盾の代わりにオブジェが粉みじんになる音を聞きながら、カヤツリは叫ぶ。あの装甲を抜く火力は今の所ないが、やりようはある。

 

 

「コックピットまで行ければ、ハッチをこじ開けられる」

 

「力技だぁ……まあ、それしかないかな。つくづく、最初のあれで爆弾を使っちゃったのが悔やまれるね」

 

 

 ガコンと何かが開く音がする。この状況で考えられるのは一つだけ。ミサイルランチャーだ。

 

 

「行って! 後は流れで!」

 

「了解!」

 

 

 二人とも、もう原形を留めていないオブジェの影から飛び出す。一拍遅れてミサイルが着弾して、爆風が吹き荒れる。左右に分かれて、二人はパワーローダに向かって走る。

 

 少しだけ、どっちを狙うか、パワーローダーは迷ったようだった。結局は、見るからに重武装のホシノに向かってガトリングを乱射する。

 

 その選択は間違いで、ホシノは持ち前の俊足で銃弾を躱して迫る。その隙に、カヤツリはパワーローダーの後方へと距離と詰める。コックピットは頭のように見える部分だ。そこまで行ければ勝ちだ。

 

 

「ヤバッ」

 

 

 近づかれるのはまずいと、そう思ったのだろう。パワーローダーはブースターを吹かして急激な方向転換を敢行した。ガトリングがホシノではなく、カヤツリの方へと向く。急いで弾丸から逃げるようにカヤツリも走るが、ホシノのように早くはない。じきに弾が追い付くのは時間の問題だった。

 

 

「ええい! ままよ!」

 

 

 カヤツリは、肩のミサイルランチャーに向かって拳銃を連射する。大口径だけあって貫通し、中のミサイルに誘爆する。そのおかげでパワーローダーの体勢が大きく崩れた。

 

 

「倒れて!」

 

 

 ホシノが倒れまいと踏ん張る、パワーローダーの両足にショットガンを連射する。パワーローダーはぐらぐら揺れるが、たたらを踏んで耐えている。これで、カヤツリに対する攻撃が止んだ。

 

 

「倒れろ!」

 

 

 カヤツリはぐらつくパワーローダーに向かって走り込み。その勢いのまま飛び上がって、大上段から組んだ両手を叩きつけた。

 

 その部分の装甲が拳の形にへこんで、大きくパワーローダーが倒れ込む。カヤツリはハッチの継ぎ目を探すと、指を突っ込んで、ハッチの蓋を強引に押し開けた。

 

 

「……そんな目で見るなよ」

 

 

 化け物を見るかのような目で見るパイロットに銃弾を撃ち込む。パイロットが沈黙したので、パワーローダーは静かになった。

 

 パワーローダーが停止すると、辺りに沈黙が下りる。ひとまずは凌げたらしい。大きく息を吐いて、カヤツリはパワーローダーの上に座り込んだ。

 

 

「スコアで言うなら、これで同点?」

 

 

 ホシノがヘラヘラ笑って、カヤツリの隣に腰を下ろす。

 

 

「まだ続いてたのか。それ」

 

「うん。昔よくやったでしょ。引き分けだね」

 

「ハハハ……よくやったよなぁ」

 

 

 それを聞いてカヤツリは吹き出した。ホシノとまだ喧嘩だらけだった時、よくこれで競い合っていたのだ。毎回こっちの勝ちだの、そうじゃないだの。通算何戦何勝だの。そういった小競り合いをしていた。

 

 昔は細かく勝敗を覚えていたのに、お互いにそれを忘れて久しい。

 

 本当に、昔に戻ったような気持ちだ。あの時の自分に、今の自分の状況を言ったらどうなるだろうか。それとホシノも。なんだかそのギャップが可笑しかったのだ。きっと信じられないような顔をしたに違いない。

 

 

「まだ来るの?」

 

「うん。地上が良く見えるだろ。まだまだ一杯だ」

 

 

 ここは上階だ。だから、窓から地上が良く見える。下には戦車や戦闘ヘリ、PMC兵士たちがたむろしているのが良く見えた。

 

 

「ちょっときついね。先生はまだかな」

 

「まだ連絡はこないから、手間取ってるんだろう」

 

「そう……間に合うかな」

 

 

 ホシノの心配は理解できる。後数回は戦えるだろうが、このままではもたない。体力もそうだが、弾もだ。今の戦闘で持ってきた弾の半分近くを失った。敵から回収するにしても、口径が合わないし、武器ごと拝借するにしてもジリ貧だろう。

 

 

「まあ、次は楽だよ。これを使うからな」

 

 

 コンコンとパワーローダーの装甲を叩く。パイロットを引きずり出しただけだから、再起動は容易だ。基本的に歩兵相手には無双できるだろう。

 

 パワーローダーをぽけーっと眺めたホシノは、はっとした表情になる。そしてすぐに、何か悪いことを考え着いた顔に替わった。

 

 

「いい考えがあるんだけど……聞く?」

 

 

 ホシノの考えを聞いたその直後、カヤツリは呆れた顔になって、同意するようにニヤリと笑った。

 

 

 □

 

 

『こちらD.U.地区上空からの映像です! 至るところで、戦闘行為が勃発しています!』

 

 

 テレビからクロノスのリポーターが大声で叫んでいる。言葉の通りにヘリからの映像のD.U.地区は真夜中の割にはかなり明るかった。銃のマズルフラッシュや爆発、火災の炎によってだが。

 

 

『現在D.U.地区では、カイザーPMCと各学園勢力との間で先端が開かれています! またそれに便乗した不良生徒の違法行為も激しさを増しています!』

 

 

 未曽有の事態だが、普段なら、心を痛めつつも、気にせず眺めていることが出来ただろう。何故なら自分はいたって普通の生徒だから。テレビの中の出来事は自分にとって遠い出来事だ。

 

 だから、直ぐに記憶の彼方に追いやって普通の生活を楽しめる。それが阿慈谷ヒフミにとっての日常だった。

 

 

『今までかつてない。サンクトゥムタワーの制御権の強奪というキヴォトスでは前代未聞の犯罪行為。それを為した、あの世紀の犯罪王ファウストの宣言から数時間が経ちました。まだ、銀行が被害を受けたといった報せは入ってきてはいませんが、彼女と、その仲間が潜伏していると思われるサンクトゥムタワーと連邦生徒会本部では、激しい戦闘行為が続いています!』

 

 

 しかし、その日常は儚くも崩れ去っていた。余りのショックで言葉が上手く出てこない。

 

 

『ああ! 今、連邦生徒会本部の上層階から、大きな何がが落ちてきました! ロボット! ロボットです! カイザーコーポレーション開発のパワーローダーです! ああ! しかも、誰か乗っています! 二人組です! 覆面を被った二人組です! ファウストの! あの犯罪王ファウストの仲間です! やはり、あの都市伝説は真実だったのでしょうか!』

 

 

 耐えきれなくなったヒフミはテレビの電源を落とした。が、またすぐに電源が入ってしまう。

 

 

「アズサちゃん!」

 

「ん? どうしたヒフミ。ちゃんと見なくちゃだめじゃないか。こういうのは良くない」

 

「違いますよ! アズサちゃんは私のことを何だと思ってるんですか!」

 

「もちろん。大事な友達。親友だと思っているさ」

 

 

 とてもまじめな顔で、アズサはしっかりとヒフミの目を見て言う。その目には曇ったものは何もなくて、それにヒフミはたじろいだ。

 

 

「だからこそ。ヒフミも見なきゃだめだ。私はヒフミにあまり悪いことに関わって欲しくない。だから見届けるくらいはするべきだ」

 

「だから、違いますよ! あれは私じゃありません!」

 

 

 するとアズサは悲しそうな顔になった。ズキリとヒフミの心が痛む。

 

 

「しかし……あの時、言ってくれたじゃないか。私は覆面水着団のリーダー。ファウストだって。だから、私とも一緒に居られると。あれは嘘だったのか?」

 

「いえ。あれは嘘ではありませんが……」

 

 

 すると、アズサの顔はパァッと笑顔になる。ヒフミの胸の痛みも治まるが、アズサはにっこり笑ったまま、さっきと同じことを言う。

 

 

「なら、ちゃんと見なきゃだめだ」

 

「ううう……どうしたら分かってくれるんでしょうか……」

 

 

 このアズサとのやり取りはずっと続いている。話が全く前に進まないのだ。ずっと寮の自分の部屋でテレビとにらめっこしている。自分がやったことでは無いが、自分と似たような口調と声で、全く自分が言いそうにないことを流されるのは、気分が良くない。

 

 

「ちょっと! ヒフミ! 何してるのよ! 外は大騒ぎよ!」

 

 

 部屋の扉を破る勢いで、下江コハルが部屋に飛び込んできた。彼女もアレをヒフミだと勘違いしているらしい。その後ろからは浦和ハナコが、ニコニコといつものような笑顔で部屋をのぞいている。ちゃんとした制服で何よりだが、それはヒフミには何の慰めにもならなかった。

 

 これで、補習授業部勢ぞろいだが、ほぼほぼ全員がヒフミを疑っている。一度自分のことをどう思っているのか聞いた方が良いかもしれないと、真剣にヒフミは思い始めていた。

 

 

「まあまあ、コハルちゃんは落ち着いてください」

 

「だって! ハナコ! ヒフミが!」

 

 

 コハルはハナコの言葉が耳に入らないようで、ヒートアップしている。彼女は下っ端とはいえ正義実現委員会だ。こういう事には厳しい。この反応も当然だった。

 

 

「アレはヒフミちゃんではありませんよ? 距離的に不可能ですから」

 

「え? ……あれ? そうね。考えてみれば……あはは……」

 

 

 ただ、ハナコの一言で急速冷却されてはいたが。完全に自分がやらかしたことを自覚して、誤魔化そうとしている。

 

 

「そうですよね。まさか、ヒフミちゃんがそんな事をするなんて。思うはずがありませんよね」

 

 

 けれど、それを見たハナコは元々の笑顔をさらに深めて、焦るコハルを眺めている。揶揄い好きという彼女の悪癖が見て取れた。

 

 

「あ! でも、アズサも! アズサは何でここに居るのよ!」

 

「うん? それはもちろん。あの放送を聞いたからだが。誰かがヒフミを騙っているんだ。少しでも情報を集めるべきだ。ヒフミと確認するのは当然だろう」

 

 

 コハルは恥ずかしさのせいか、黙り込んでいる。ヒフミもアズサを疑っていたことが恥ずかしくなった。

 

 

「それで、ヒフミちゃんは何も知らないのですか? 今回の事は?」

 

 

 場が冷えたところで、ハナコがヒフミに確認する。コクコクとヒフミは首が外れる勢いで頷いた。全く今回の事はヒフミにとって想定外だ。寝耳に水という奴だった。

 

 

「うーん。困りましたね。おそらく各学園の上層部は把握していると思うんですが……聞きに行くのも……本当に困りましたね」

 

「ちょっと! ハナコ! 自己完結しないで、説明して!」

 

 

 事情が全く分からないコハルがハナコに噛みつく。ハナコは頭が良いから、今回の事に隠された真意をある程度は察しているようだった。ハナコはさっきまでの微笑みを、彼女にしては真面目な表情に戻して説明する。

 

 

「そうですね。都合が良いとは思いませんでしたか?」

 

「都合が良いって何よ。それは、そのために不法侵入したんでしょう?」

 

「違いますよ。あのファウストと名乗った方ではなく。巻き込まれたように見えるカイザーPMCの方です。正確には途中まで、ですが。それに真実かどうか分かりませんが、あの映像もありますから」

 

 

 その言葉にピンと来たのか、アズサが固い口調で話す。

 

 

「それは私も思っていた。全てが彼らにとってうまく運び過ぎている。先生と防衛室長の失踪。連邦生徒会の停止。治安維持業務を委託されたカイザーPMC。幾らなんでも不自然だ」

 

「ええ、幸運も続けば、不自然なものです。恐らくこの事態は前々から計画されていたのでしょう。きっと、行政権もサンクトゥムタワーの制御権も、彼らに奪われていたでしょう。あの”ファウスト”がいなければ」

 

「なによ。あの”ファウスト”とかいう奴は、それを知っていたんじゃないの? だから、侵入したんじゃ……」

 

 

 コハルの答えにハナコは首を振る。

 

 

「それなら、もっと前もって妨害ができたはずです。それこそ先生や防衛室長の失踪を防げば、それだけで彼らの計画は破綻するからです。その方が楽なはず。恐らくですが、ファウストにとっても予想外だったのでは? 目的は分かりませんが、連邦生徒会に侵入した時点で、そのことを知ったのでしょう」

 

 

 そして、ハナコはアズサに質問する。簡単な質問だった。今、報道から得られた情報で、ファウスト側の戦力はどれくらいか。そういう質問だ。

 

 

「ふむ。そうだな。おそらくは、かなりの上澄みだと思う。報道を見たところカイザーPMCはかなりの戦力を投入しているようだ。あれからもう数時間は経っている。弾も体力も、普通ならもう尽きているはずだが、まだ彼女たちは戦闘を続けている」

 

 

 ハナコはアズサに礼を言って、説明を続ける。

 

 

「あの演説は、彼女の異常ぶりが際立つように聞こえますが、よくよく聞けばおかしいんです。しっかりと説明をしているんですよ。何があって、こうなっているのか、カイザーPMCが何をしたのか。あれは演説の振りをした状況説明です。他の学園全てに向けての救難信号。しっかりと介入できる建前とカイザーPMCに対する時間稼ぎをしてくれている」

 

 

 ふうと、ハナコはため息をついて、ヒフミの方をじっと見た。とても真剣な瞳だった。

 

 

「もうヒフミちゃんには見当がついているんじゃありませんか? あのファウストの正体に。それは私たちも知っている人でしょう?」

 

 

 ここまで言われれば分かる。ファウストは自分と同じような声だった。それはファウストがヒフミだと知らなければできない事だ。きっと、アズサやハナコが思ったように巻き込まれないような気づかいをしている。

 

 それに、突発的な状況でここまで頭が回り、ある程度の戦闘能力を持つ人間。そして覆面水着団とファウストのことを知っている。そんな人は一人しかいない。

 

 

「……カヤツリさん?」

 

 

 しっかりとハナコは頷いた。

 

 

「きっと他のアビドスの方は巻き込んでいないのでしょう。彼は最低限の人数で戦っている」

 

「助けに行かないと……!」

 

「……何を言っているのよ。ヒフミ。私たちにできる事なんて……」

 

 

 ヒフミの答えにコハルが悲壮感を前面に押し出しながら聞き返す。しかしハナコは真剣な表情を崩さない。

 

 

「それでは、コハルちゃん。見て見ぬふりをしますか? 私たちはあの時に助けてもらったのに?」

 

「それは分かってるけど! 私もそれは間違ってると思うけど! 悔しいけどできる事はないの! 私たちより強いツルギ先輩やハスミ先輩が行ってるの! 私たちが行った所で、カイザーPMCを相手になんか……」

 

「……つまり、サンクトゥムタワーまで救援に行くと言う事か? 戦闘行為ではなく、ただ逃げる手助けをする。それなら私は賛成だ。借りは返すべきだと教わった」

 

 

 アズサがハナコの言いたいことを要約する。

 

 

「でも、足が無いわよ。使える車両は皆、先輩たちが持って行っちゃったし……」

 

「あります。私たちは持っていませんが、持っている人たちを知っています」

 

 

 足はある。ヒフミには心当たりがあったし、協力してくれるだろうという確信もあった。

 

 

「……分かった。私もついていく。正実の方から使えそうなものを持ってくる」

 

「コハルちゃんはいい子ですねぇ……では、ヒフミちゃんは、心当たりの方に連絡をお願いします。私も準備をしてきますから」

 

「私も準備をしてくる。ヒフミも準備ができたら集合だ」

 

 

 三人が部屋から居なくなったのを確認してから、ヒフミはアビドスの番号をコールした。

 

 

「覆面水着団のリーダー。本物のファウストとして、皆さんにお願いがあります」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。