ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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135話 本物と偽物

 強い風が粉塵を吹き飛ばしていく。

 

 この粉塵は激しい戦闘によるものだ。パワーローダーのガトリングや片方だけ残ったミサイルランチャー。背部のブースターを全力稼働させれば、こうなるのは当然の結果だった。

 

 ただし、その甲斐あって連邦生徒会前のカイザーPMCは死に体になっている。彼らが用意した戦闘車両はガトリングで穴だらけになっているし、兵士たちもミサイルの爆風や掴まっているホシノの攻撃で倒れている。地面も陥没の痕が目立つ。

 

 相手の虎の子だろう。残りの二つのパワーローダーは、一つはカヤツリの操縦する機体の下敷きになり、関節がお釈迦になったところを撃破。二つ目は、相方の撃破に固まったところを、ホシノによって操縦席に至近距離から散弾をしこたま撃ち込まれ大破している。

 

 そうなれば後は二人の独壇場だ。パワーローダーに乗ったカヤツリには普通のPMC兵や戦闘ヘリは物の数ではないし、ホシノもそうだ。

 

 だから、もう残っているのは目の前で立ちすくむジェネラルだけだ。

 

 彼は言葉にならない声しか出ない様子だった。圧倒的に有利だったのに、ここまで負ければ放心もする。おおよその気持ちは理解できるが同情はしない。

 

 

「さて、どうするかな」

 

 

 眼前のジェネラルの処遇について、カヤツリは悩んだ。

 

 順当に考えれば拘束するなりなんなりして、カイザーとの交渉に使うのだが。生憎と今のカヤツリの身分は覆面水着団、テロリストだ。マトモな交渉は望めない。

 

 先生に引き渡そうにも、まだ所在は分からない。だからといって放置するのも危険だ。追い詰められた人間は何をするか分からないし、未だに他の場所にはカイザーPMCは残っている。

 

 

「拘束だけしてさ。転がしておくしか無いんじゃない?」

 

「それしかないか」

 

 

 カヤツリは自機であるパワーローダーの肩に立つホシノの提案に賛成する。大いに不満ではあるが、これが最善の方法だ。視線をジェネラルに向けると、空元気か、現実逃避を止めたのか、彼は叫び出す。

 

 

「ファウスト! 貴様!」

 

『五月蝿いですね……シンバルを持った猿のおもちゃよりも五月蝿いです』

 

「おもちゃだと! ……止めろ! 離せ!」

 

 

 暴れるジェネラルをパワーローダーの左アームで握り込む。ジェネラルは全力で抵抗しているが、純粋な力では万に一つも勝ち目は無い。

 

 

『あまり暴れると、身の安全は保証しませんよ? 実は慣れていないせいか力加減が難しくて……手が滑って、壊れたおもちゃみたいにぐしゃぐしゃになりたくないですよね?』

 

「グッ……ガァ!」

 

 

 ファウストのマネをして、少し馬力を上げると、ジェネラルの身体が嫌な音を立てる。流石に生命の危機を感じたようで、彼は静かになった。

 

 

『少しいいかい?』

 

 

 もう何度も呼び出しが掛かっていた無線に応答すると、疲れたようなセイアの声が聞こえた。

 

 

『おそらく戦闘直後だろうに済まない。少し此方も立て込んでいてね。連絡が遅くなったが……先生が見つかったよ。もちろん、五体満足で無事さ』

 

 

 それは確かに朗報だった。セイアの声にも喜びの色が混じっている。

 

 

『ヴァルキューレの生徒が個人で探し出した様でね。端末も態々回収してくれたらしい。おかげで直ぐに見つかった。もう、此方の増援部隊と合流済みだ。今からシャーレ奪還に動くそうだよ』

 

「あはは……いいですね。説明はしましたか?」

 

『あまり役に引っ張られないようにしたまえよ。今のでナギサがまたおかしくなった』

 

 

 つい、ファウスト節で話したカヤツリにセイアが通信の向こうで呆れている。確かに奥の方で、バタバタという何かの暴れる音が激しくなった。

 

 

『ああ、説明だったね。したそうだよ? 流石の先生も顔が引き攣っていたらしいが。後で私たちは呼び出しかもしれないね』

 

 

 きっと先生の説教が待っているのだろう。その割にはセイアは嬉しそうだった。

 

 

「先生は、この状況をどうするって?」

 

 

 宙吊りのジェネラルに聞こえないようにマイクを切って、小声で呟くと、セイアの返答は納得できるものが返ってくる。

 

 

『情報を共有した全員で君たちを追いかける。ほら、あるだろう? サスペンスドラマの崖際のやりとりをするのさ。後は追い詰められた君たちが、制御権を置き土産に、生死不明になればいい』

 

 

 順当な手だった。真相は闇の中に消えて終わる。しばらく騒がしいだろうが、時間が直ぐに解決する。世の中の人間は飽きっぽくて、そんな事を追い続けられるほど暇ではない。

 

 納得して了解の返事をしようとするカヤツリに、セイアの頼みが耳に入った。

 

 

『上空からの映像をみているが、今、ジェネラルを確保しているね? 余裕があれば頼まれてくれるかい? 君たちにも関係のあることだから、言わなくても分かるだろう。そして急いだ方がいい。そっちへカイザーの増援部隊が向かっている。先生も其方への救難信号を出すが間に合うかは分からない』

 

 

 無言でカヤツリは通信を切る。セイアは増援を心配しているが、カヤツリはそうではない。ホシノと一緒なら物の数ではないし、ジェネラルを盾にすればカイザーは攻撃できない。

 

 だから、じっくり、ゆっくりやればいい。そんな考えを抱きながら。カヤツリはカメラの目の前まで鷲掴みのジェネラルを移動させた。

 

 

「……何が聞きたい。ファウスト」

 

 

 今のカヤツリはパワーローダーの中だ。姿が見えず、さっきのスピーカー越しの声しか判断材料がないジェネラルにとっては、ファウストにしか見えない筈だ。

 

 

『嫌ですね、ジェネラルさん。今のホストは私ですよ? 何が聞きたいじゃありません。察して、言うくらいはしてくれないと。あまりに歓待が下手であるようなら、私の手が滑りますよ?』

 

「ファウスト! 貴様! こちらが下手に出ればつけ上がるなど、身の程を……ガ、グ……」

 

 

 あまりに察しが悪いので、馬力を上げる。ジェネラルが呻き声すら出せないレベルまで。

 

 

()()()()()()()。身の程を知るのは貴方の方です。ジェネラルさん。今の貴方はそんなことを言える立場じゃありませんよね? こういう危機管理は前任の方から教えてもらわなかったんですか? ああ、貴方は現場主義だとか? 最終的には武力で制圧するのが一番とか考えている口ですか?』

 

「貴……」

 

『き? 何ですか? まさか、貴様なんて言おうとしたわけではありませんよね?』

 

「……古代兵器の事か」

 

 

 増援の時間稼ぎもあるのだろう。ジェネラルは不満そうにしながらも話に乗ってきた。

 

 

『ええ、私は物分かりが良い人は好きですよ。あの舟について話してくださいね』

 

 

 舟という単語に、ジェネラルはビクリと反応した。

 

 

「何故、貴様が……」

 

『知っている。そう言いたげですね? 別に大したことではありません。目と耳が沢山あるだけです』

 

 

 嘘である。舟の事は理事に聞いて知っている。黒服が舟と呼ぶものがアビドス砂漠に埋まっている事。それを掘り出すためにアビドスの土地を奪った事。カイザーはそれを未だに見つけられていない事。

 

 

『まあ、私の事はどうでもいいんです。問題は舟の事ですから。聞きたいのは一つだけ。”はい”か”いいえ”で答えてくださいね。あれはサンクトゥムタワーの制御権が無ければ動かせない。これで合っていますか?』

 

 

 今一番にやられたくない事は、この状況をひっくり返されることだ。さっきも言った通りにカイザーPMCは死に体ではあるが、プレジデントの言った古代兵器。あれの影響が分からなかった。カイザーがここまでの暴挙に出るのだ。それ相応の価値はあるのだろう。それにプレジデントが一切姿を見せないのも気にかかる。

 

 

「そうだ。あれの起動にはサンクトゥムタワーの力が必要だ」

 

『”はい”か”いいえ”で、と言ったのですが……はぁ、良いです。聞きたいことは聞けました』

 

 

 カヤツリは操縦席で一息つく。カヤツリがサンクトゥムタワーの制御権を持っている限り。もうカイザーはどうしようもできないと言う事が分かったからだ。プレジデントが姿を見せないのも、どうにか起動させようと四苦八苦している可能性が高い。

 

 そんなカヤツリの機嫌をぶち壊すように、ジェネラルが笑い出す。

 

 

「……くくく、呆れた欲深さだ。貴様が代わりに使おうと思ったのだろうが。残念だったな。あれは貴様らでは使えん。たった数人ではな」

 

『貴方達カイザーに言われたくはありません。本当に味方の足を引っ張る事しか言いませんね。貴方は』

 

 

 呆れが多く含まれた言葉を投げつけられたジェネラルは黙った。負け惜しみなどではなく、本気でそう思ったのが伝わったに違いない。

 

 

『人数の問題という事は、大型の船ですか。それも貴方たちが欲しがることから考えて、戦闘用でしょうか。ああ、もしかして、そこまで強気に出ると言う事は戦艦というか空中要塞の類ですか。空を飛べない機械頼りの私たちは空中戦には強く出れませんからね』

 

 

 ジェネラルは黙ったままだが、動揺しているのがカメラアイの明滅でよく分かった。あれだけの情報を吐いたのだ。少なくともそんなことは理事なら絶対にしなかった。相応に煽り散らかしているので、かなり平静さを失ってはいるのだろうが。本当にこんな奴が理事の代わりかと思うと、カヤツリは悲しくなってきた。

 

 

「貴様がどう思おうと構わん。貴様はもう終わりだ!」

 

 

 気を遠くにやっている間に、ジェネラルが勝ち誇っていた。少し遠くの方を見れば、カイザーの増援らしきものの影が見える。ようやく待ち望んだものが来たのだから、ジェネラルが勝ち誇る気持ちはよくわかる。だが、それは少し早いのだ。

 

 

『貴方だけのお客さんでは無いようですけど?』

 

「……何? 何を言って……」

 

 

 ジェネラルにも見えるようにアームを動かす。カイザーの増援とは反対側から、戦闘ヘリが一機だけやってきている。ヘリのロゴはこの距離ではよく分からないが、少なくともカイザーのタコマークではない。

 

 その戦闘ヘリはミサイルを放ち、搭乗員も銃を持ち出しての銃撃を行い、カイザーの増援を横腹から食い破る。操縦士の腕がいいのだろう。カイザーの攻撃をものともせずに爆撃を続けている。おそらくセイアの言った増援部隊だった。一機だけというのも不安ではあるが、先生は選りすぐりの部隊を送ってくれたらしい。

 

 順調にすべてが上手くいっていて、全能感がカヤツリを覆っていた。そのおかげで一瞬見たモノが信じられなかった。

 

 

「……ヒフミ? それに……なんだ? あのガスマスクは」

 

「うへぇ……ノノミちゃんやセリカちゃんもいるよ……」

 

 

 無線でのホシノの呟きを拾ったカヤツリは、急いでセイアを呼び出す。すると数コールのあとにセイアがのんびりとした声で返事をする。

 

 

『この音からして増援が間に合ったようだね』

 

「ヒフミが乗ったヘリが来ているんだが、それに後輩も乗っている」

 

『……何だって? 少し待ちたまえ。確認する』

 

 

 暫く待てばセイアから再びの連絡が来た。

 

 

『補習授業部のメンバーが全員いない。君の見たモノは夢ではないということだね』

 

「……なんでだ?」

 

『きっと彼女たちは、あのファウストの放送でいてもたってもいられなくなったんだろう。そして、君たちの後輩と連絡を取り、先生の救難信号を拾ってしまいここに来た。信じがたいが、そう言う事だろうね。……全く、ナギサがさっきの君の言葉で気絶してくれていて助かったよ』

 

 

 カヤツリの頭の中の予定があっさりと崩れ去った。少なくとも、今すぐに彼女たちと合流しなければならない。それにはカイザーの増援が邪魔だった。

 

 カヤツリはパワーローダーの操縦をオートへ変更し敵の設定を変更する。左手はそのままでだ。ジェネラルは今の状態で固定されたまま、パワーローダーはカイザーの増援部隊に向かって戦闘態勢をとる。

 

 

「待て! 私をどうするつもりだ!」

 

『このままここに置いていくんですよ』

 

「何!?」

 

 

 怪訝な顔でジェネラルはこちらを見る。これは彼の予想を外れた処遇なのだ。普通は人質にでもして、身代金を要求する。けれど今回はカイザーの作戦阻止が目的だ。それは達成されているから、あまり欲張る必要はない。聞けたいことも聞けたし、ジェネラルの地位を少し落としておく必要がある。これはカヤツリとアビドスの未来のためには必要なのだ。

 

 ジェネラルが自分の方を見ないように調整し、カヤツリはパワーローダーから、ホシノと共に脱出する。

 

 

『貴方はジェネラル(将軍)でしょう? ジェネラル(将軍)なら、最後まで戦うべきだと思いません?』

 

 

 ここで味方相手に殿をやってもらう。それを理解したジェネラルの顔が絶望に染まるのが見える。

 

 

『それでは、頑張ってくださいね』

 

 

 ジェネラルの返答を聞かないまま、二人はその場から全速力で逃げ出した。

 

 

 □

 

 

 上空を移動中のヘリの中は重苦しい空気で満ちていた。乗っている乗員全員が覆面を被っているのもそれに拍車を掛けているが、一番の理由はまた別だった。

 

 

「言い訳はそれで全部ですか?」

 

 

 ノノミ後輩が怒っていた。覆面を被った彼女から怒気が漏れ出ている。むしろ、一番怒ると思っていたヒフミがあまり怒っていない。乗り込むとき、開口一番に此方を心配するヒフミを思い出してカヤツリは涙が出てきた。

 

 

「理由は説明したし、謝ったじゃないか……」

 

「そうだよ。ノノミちゃん……」

 

「今の私はクリスティーナです。偽ファウストさん」

 

 

 何故だか分からないが、取り付く島もない。ここに至るまでの理由と経緯は説明済みで、今向かっているのもそれの最終調整のためだ。到着まであと少しの所まで来ているのを察して、ノノミ後輩は大きくため息をついた。

 

 

「随分と二人で楽しんだようで……心配したんですよ。シロコちゃんの事もありますし、カヤツリ先輩は帰ってこないし、ホシノ先輩は飛び出していくし……

 

 

 ”そんなことしたのか”そういう意図を込めてホシノを見ると、ホシノは気まずそうに視線を逸らした。つまり、大した説明もせずに後輩を置いて飛び出してきたのだ。それは、ノノミ後輩も怒るだろう。

 

 

「それに何ですか、あの放送は。サンクトゥムタワーの制御権の強奪? ヒフミさんの迷惑を考えたんですか?」

 

「いえ、私は……そんなに……驚きましたが。理由を聞けば、あれは仕方ない事ですし……」

 

 

 ヒフミが庇ってくれるが、ノノミ後輩の厳しい視線は変わらなかった。

 

 

「別に話してくれなかったことに怒っているわけでは無いんです。遠ざけようとしたわけでは無いことは分かっていますし、状況が状況ですから、対応しきれない事もあるでしょう。それで連絡する暇が無かったのも分かります。これがキヴォトス全体の危機だったことも、機密性が高いことも」

 

 

 ノノミ後輩だけでなく、セリカ後輩も、運転席で操縦をしているアヤネ後輩も、ここには居ないシロコも。彼女たちが抱いた気持ちは理解はできる。

 

 

「それでも、気がついたら連絡くらいはしてください。心配しますから。私たちが逆の立場だったら嫌でしょう?」

 

「……そうだな」

 

「うん……」

 

 

 二人で頷いていると、じぃっとノノミ後輩はカヤツリとホシノをねめつけて、ふうと仕方なさそうに息を吐く。

 

 

「もう過ぎた事です。この償いは後でしてもらうとして、今は作戦に集中しましょうか」

 

 

 なにか聞き捨てならない事をノノミ後輩は言った気がしたが、彼女はもう一度同じことを言う気は無いようだった。仕方がないので、作戦の説明を始めるが、その前に確認することがいくつかあった。

 

 

「それで……そっちのは……? 協力してくれるってことで良いのか?」

 

 

 ガスマスクを被っているのと、普通に覆面を被っている者、最後にあり得ないものを被っている者。三者三様の出で立ちの三人の女生徒に尋ねると、彼女たちは無言で頷く。彼女たちの正体はヒフミがいる事からもバレバレだが、ここで言うのは野暮なのかもしれない。というか、指摘してあの名状しがたい物の説明をされたくない。それはどう見ても被るモノではないからだ。被っている生徒は突っ込み待ちなのだろうが。覆面水着団だからって、幾らなんでもあんまりだ。

 

 

「……はぁ。じゃあ説明するが、これからすることは簡単だ。話が通っている風紀委員会、C&C、正義実現委員会と先生の前で茶番をする」

 

 

 さっきセイアが言った事と同じだ。ここまで騒ぎが大きくなれば、有耶無耶には終わらない。必ず事を起こした誰かが責任を取らねばならない。

 

 

「今回の事件は表向きにはファウストが起こしたことになっている。それとカイザーか。このどちらかが、派手にやられなければならないわけだ」

 

「カイザーじゃダメなの?」

 

 

 協力者のうちの一人、黒くて少しダボダボの制服を着た方が言う。

 

 

「大げさにやられてくれないんだよ。それに、仕方ない事ではあったが、どうしてもカイザーよりもファウストのインパクトが強くなった面もある」

 

 

 本当はカイザーが一番の巨悪だとできればそれが最善だった。けれど、決定的な証拠が無かった上にサンクトゥムタワーの方を優先した結果。そうせざるをえなかったのだ。

 

 

「大衆が求めるのは納得なんですよ。カイザーではやったことがファウストよりも小さいので、それ程の納得が得られません」

 

「ありがとう。そういうことだな」

 

 

 非常に分かりやすい解説のお陰で、彼女は納得したのか頷いている。ここまで行けば後は簡単だ。

 

 

「ファウストを格を落とさずに負けさせる。その上でサンクトゥムタワーの権利を先生に返す。これが茶番の大まかな内容」

 

「私は何をすればいいんですか?」

 

 

 ヒフミがしっかりとカヤツリをみつめている。理由を聞いている時の深刻そうな顔と、ファウスト名義でやったことを聞いていた時のような慌てた表情は見られなかった。

 

 

「立っているだけでいい。台本とシチュエーションは即興でこっちが何かする。台詞もこっちが勝手に話す。だから……」

 

「無理をしなくても良いと?」

 

 

 そう言ったヒフミにカヤツリは頷いた。元々、ヒフミを巻き込まないように立ち回っていたから、ヒフミが居なくてもなんとかなる。むしろ、普通の学生を自認しているヒフミにはファウストの肩書や業績もさほど重要ではないはずなのだ。

 

 けれど、カヤツリの頷きを見たヒフミは可笑しそうに微笑んだ。

 

 

「確かに私は普通の学生です。皆さんのように強いわけでも、特殊な技術を持っているわけでもありません。ですが、私にも譲れないことくらいはあります」

 

「それは?」

 

「私はハッピーエンドが大好きです。前にも言いましたよね」

 

 

 それは知っている。エデン条約の時に彼女が大勢の前で語ったことだ。けれど、今はあの時とは違う。

 

 

「ハッピーエンドと言ったって、ヒフミが居ても居なくても、終わりは大きくは変わらない。それでもか?」

 

「それでもです。それに、カヤツリさんは変わらないと思っているようですが、私にとっては違います」

 

 

 ヒフミは、あの時の宣言を思い出すような雰囲気で告げる。

 

 

「だって、モヤモヤしませんか? 私に関わりのあることが、私の知らない所で解決しているんですよ? 幾ら大丈夫だと言われても納得できません。ずっとモヤモヤしたものを抱えているのは嫌です。それは私の思うハッピーエンドではありません」

 

「結果だけじゃなくて、過程もか。全部が納得できないと嫌だと」

 

「はい。私の大切な皆が納得できて、皆が笑って、誰も悲しまない。そんな話が私は好きなんです」

 

 

 ヒフミは自分も他人も納得できる終わりが欲しいと言う。そのためなら、何も惜しまないと彼女は言う。ヒフミは全部欲しいのだ。それはとんでもない強欲さだった。

 

 

「分かった。じゃあ、存分に見世物になってもらう」

 

「はい!」

 

 

 カヤツリは諦めた。この強欲さだ。だからこそ、ここまでアビドスの後輩たちと補習授業部を巻き込んで突撃してきた。そんなヒフミに何を言っても無駄だ。

 

 ふと、ジェネラルの言葉を思い出した。自分の、ジェネラルからしたらファウストのことを欲深いだとか何とか。

 

 自分もそう見えるように振る舞ったが、今思えば本当に強欲なのはカイザーでも、自分が演じたファウストでもなく、ヒフミなのかもしれない。

 

 彼女の求めるハッピーエンドは難しい。だからこそ、彼女は諦めない。妥協して満足しない。自分の案も跳ね除けた。多分、時間が止まってほしいなんて思わない。

 

 

「やっぱり本物は違うか」

 

 

 そんな誰に向けたともつかない呟きは、ヘリの音にかき消されて、自分以外には聞こえなかった。

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