ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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136話 犯罪王ファウスト(いたって普通の生徒──阿慈谷ヒフミ)

 熱気がカヤツリの肌を焼いていた。

 

 近くで火が燃えているわけではないし、強い日差しが当たっているわけでもない。それは自分たちを取り囲む人の熱気だった。

 

 上空には、クロノスや他学園のヘリが旋回し、地上には見知った顔と、彼女たちが率いる部下がいる。暴れていた不良生徒も、野次馬なのか見慣れない生徒もいて全校集会の様相だ。

 

 今いる場所。カイザーから奪還したシャーレの屋上からは、夜が明けたのもあって、それが良く見えた。

 

 端的に言えば、格好だけならカヤツリ達は追い詰められていた。

 

 

「大丈夫なんですか……?」

 

 

 横並びの真ん中、戦隊モノで言うならリーダーの位置についたヒフミが不安が滲んだ言葉を漏らす。

 

 

「さっきまで自信満々だったじゃないか。それに言ったろう。見世物になってもらうって」

 

「言いましたが、こんなのは想像していなかったと言いますか……想像の数百倍はいませんか……?」

 

「もっと多い」

 

 

 さっと人混みを確認すれば、確かにかなりの生徒がいる。制服から見て、ゲヘナとトリニティが大多数だが、チラホラとカメラを向ける私服の生徒もいる。野次馬根性でやって来たか、幾人かクロノスの報道官も混じっているかもしれない。上空も地上もここから距離はあるが、大声を出せば内容は筒抜けだろう。

 

 

「え? それって……」

 

「だから、見てる人間はもっと多い。直接ではなく映像越しだけど」

 

 

 それを聞いたヒフミは、ファウストの格好の上からでも分かるくらいに、緊張してカチコチになっている。

 

 その様子を見て、ホシノが心配してカヤツリを小突いた。

 

 

「大丈夫なの? あれで上手くやれる?」

 

「大丈夫も何も…もう動いてる」

 

「何が?」

 

 

 カヤツリはホシノにも分かるように、顎をしゃくった。覆面ですらない、水着の下。それを覆面代わりに被るハナコが、隣のヒフミに何やら囁いている。

 

 

「多くの人たちに舐め回すように見られている。ふふ、つまりはそういうことですね」

 

 

 彼女の名前は知っている。エデン条約の騒動の話し合いに居たからだ。あの時とは様子が全く違うが。

 

 あの時の印象は、普通に頭が回る人間。それは、ヘリ内での説明に注釈を入れてくれたことから間違えてはいないと思う。きっと仲間思いでもあると思う。そうでなければ、アズサを迎えに行ったヒフミについていかないし、固まったヒフミの緊張を解そうと何てしないだろうから。

 

 

「エッチなのは駄目! 死刑!」

 

「あん」

 

 

 そんなハナコはコハルに引っ叩かれて色っぽく悶えていたが。

 

 

「いや……余計に心配なんだけど」

 

「ありゃポーズだよ。本気じゃない。多分、きっと、メイビー……」

 

 

 それを見たホシノの表情はすぐれない。ホシノの疑念を打ち消す方法は今のカヤツリにはない。むしろカヤツリも自信が揺らいできた。

 

 ハナコの格好が格好だ。目を覆いたくなる。覆面水着団だから、水着を覆面にするという思考が理解出来ない。

 

 それでも変な格好や際どいことを言って、突っ込まれる事で場の雰囲気を緩めた。それはとても効果的だ。何しろ誰も傷つけないし、現にヒフミの緊張が緩んだ。

 

 方法に問題点があるとすれば、頭をやたらと使う点だ。攻め過ぎて下品過ぎてはいけないし、逆に芋引けばパンチが足りない。その点を彼女はそういうキャラで通すことで解決した。だから、見た通りの変人という訳ではない筈だ。

 

 

「そろそろ、覚悟はできたかい? ファウスト」

 

 

 補習授業部たちのじゃれ合いを横目で眺めていると、カヤツリの耳に久しぶりに聞く声が聞こえた。視線を正面に戻すと、久方ぶりに見る先生の姿が映る。後ろにはシャーレに閉じ込められていた代行の姿も見える。

 

 先生の姿はどこか薄汚れて草臥れていたけれど、大きなケガはなく元気そうに見えた。

 

 

『覚悟? 覚悟とは何のことですか?』

 

 

 先生が今言った合言葉が茶番劇の始まりの合図。セイアとの打ち合わせの通りに、カヤツリは用意していた台本の台詞を話し出す。

 

 幸いにもここにいる全員は覆面の類を被っている。だから動く口元は目立たない。

 

 

「捕まって怒られる覚悟だよ。ある意味では助かったのは確かだけど、少しやり過ぎかな」

 

 

 苦笑いのまま、そう先生は言う。今の言葉は先生の本音だろう。上手い事タイミングがかち合って、カイザーの計画を阻止することが出来た。成果だけ見れば万々歳なのだが、先生の立場としてはその手段は認められないし、特例で無罪放免という訳にもいかない。

 

 

『周りを囲んでいるようですが、私には信頼する仲間たちがいます。幾らでも逃げおおせて見せますよ。まだまだ、私の負けではありません』

 

「本当にそうかい?」

 

『……』

 

 

 ヒフミの方は痛いところを突かれたかのように身じろぎし、カヤツリの方は黙り込む。先生が言う”負け”とは、ここから逃げられると言う事ではないからだ。

 

 

「ファウスト。ゲームをしようって君は言ったね。ゲームに勝敗はつきものだろう? その結果を君は見ないふりをしていないかい?」

 

『……そうですね。確かにそうです。ゲームには勝敗はつきもの。その通りです』

 

 

 あの勢いのままにぶち上げたファウストの犯罪告知。その中でD.U.地区の銀行を襲うと宣言した。宣言はしたが、本当に襲うわけでは無く、あれはカイザーPMCを合法的にサンドバッグにするための方便だった。

 

 だから、銀行強盗など欠片もしていない。勝ち負けを論ずるまでもなくファウストの負けは最初から決まっていた。

 

 

『私たちは、D.U.地区内の銀行を一つも落とすことが出来ませんでした。仲間を使わなかった。カイザーPMCが思ったよりも使えなかった。要因は数え上げればきりがありませんが、負けは負けです』

 

「なら、一つくらいお願いを聞いてくれてもいいんじゃないかい?」

 

『……いいでしょう。敗者は勝者の言う事を聞くものです』

 

 

 ”それなら”と先生はにっこりと笑って言う。

 

 

「サンクトゥムタワーの制御権を返してほしい」

 

『驚きました。”おとなしく捕まれ”とは言わないんですね。私を捕まえて奪い取ればいいでしょう。それが捕まった銀行強盗の末路というモノですから』

 

「だって君は制御権を濫用しなかっただろう? 君は舞台を整えるのに使っただけだ。君は初めからそれを盗むつもりは無かったんだろう?」

 

 

 ヒフミが”つい”と顔を背けるふりをする。

 

 

 ──機能停止した連邦生徒会には最低限しか人はいないと思いまして、何か面白いものは無いかなと。まあ、散歩に行ったわけです。

 

 ──そこで、善良なるキヴォトス市民の私が、間一髪でサンクトゥムタワーの制御権をかすめ取ったわけです。

 

 

 アレは予防線だった。あくまでカイザーが強奪しようとしていたそれを、保護の為に奪い取った。あくまで成り行きでそうなった。手元で遊ばせておくのも勿体ないから、ゲームの舞台を整えるのに使った。そう言う筋書きだ。

 

 

『分かりました。先生。それでいいのなら、お返ししましょう。”覆面水着団の首領ファウストが、シャーレの先生へサンクトゥムタワーの制御権を譲渡します”……はぁ、これでいいですか?』

 

 

 ヒフミがやれやれと言うように首を振る。遠くの方のサンクトゥムタワーの光が再び強く輝きだす。それは、制御権があるべきところに戻った証だった。

 

 

『では、お願いも聞いたところで、私たちは退散させてもらいますね』

 

 

 場の緩んだ雰囲気を切り裂くようにカヤツリは台詞を飛ばす。その場の覆面水着団の全員が一歩後ろに下がるのに、眼前の、カヤツリ達の撤退方法を知らない先生や代行は妙な顔をする。

 

 全員が居るのは屋上の端。その後ろには何もない。上手く壁などを使って降りたところで、地上には多くの生徒がひしめいている。全員に話が通っているわけでは無いから、幾ら強くても多勢に無勢で取り押さえられる。

 

 そんな事は百も承知だ。

 

 上空の数多のヘリの中に、アヤネ後輩が操縦するヘリを混ぜてある。合図で降下したそれに乗って退散するだけだ。

 

 

『それでは、皆さん──』

 

 

 ”ごきげんよう”そう口走ろうとしたカヤツリは口を閉じた。どうにも説明しがたいが、何か良くないものがやって来る。そんな嫌な予感が走ったからだ。それはその場の幾人かも感じたようで、辺りを見渡している。

 

 

「これは……空が……」

 

 

 周りから誰ともつかない呟きが漏れた。全員が空を見上げて不安げな表情を浮かべている。

 

 空が赤く染まっていた。

 

 朝焼けや夕焼けのような、オレンジがかかった赤ではなく、血のようなドス黒い赤色にだ。どことなく不安を掻き立てる色に全員が空を睨みつける。

 

 

「先生、あなたの力は、これ以上作用しない」

 

 

 その声の方に視線をやると、いつのまにか先生とカヤツリ達の間に、首なしのコートを着た絵を掲げる男が立っていた。

 

 

「ゴルコンダ……?」

 

 

 先生は名前を知っているのか、名前を呟く。カヤツリは姿形しか知らないが、アレは黒服の仲間だったはずだ。しかし、何回か会った時と様子が違う。

 

 

「ゴルコンダはもういない。私はフランシスだ」

 

 

 良く見れば違う。前は絵を抱えるように持っていたのに、今は実際は首のある部分に絵を掲げている。絵も前は後ろを向いた男の絵だったのが、正面を向いて何かを叫んでいる男の絵に替わっていた。

 

 

「デカルコマニーと共に、新たにお前を見守る者。従って、最後の宣告を傾聴せよ」

 

 

 前までのゴルコンダ? と違ってフランシスとやらは強引だ。自分の言いたいことだけを言いに、ここまでやってきたらしい。

 

 

「これまでは一つのジャンルを掲げていたが故に、”先生”が主人公であることが出来た。”物語”であったから、あなたは無敵だった。これはそういう”物語”だった」

 

 

 そこから、少しフランシスは言い淀む。

 

 

「……だが、これまでの”物語”は忘れるがいい。これからお前の身に起こることは最早その様なモノではないのだから。全てが捻じれ、分解され、無秩序な力が暴れまわる。理解不能で不条理な世界へと」

 

 

 カヤツリには言っていることの半分も分からないが、先生にはある程度の理解はできているようだった。何となく伝わるニュアンスとしては、”これから、今までにないことが起こる”と言ったところだろうか。

 

 

「これが、もう物語ではなくなったとするなら、お前はもう何者でもない。学園と青春の物語は幕を下ろした。覆され、解体されたジャンルで、お前の価値は揺らぎ、地に落ち、無価値なものとなる。しかして、始めるのだ。今までのような──」

 

「そんなことは、どうでもいいんだ」

 

 

 フランシスの長い話を先生が正面からぶった切った。どことなく機嫌が悪そうに。

 

 

「好きにすればいい。何が起ころうとも、どんな未来でも、私はそれを生徒たちと乗り越えていく」

 

「……そうか。であれば、それを見守るとしよう。先生。いや、主人公よ。まずは、この状況を切り抜けるといい」

 

 

 そのまま、フランシスは消えた。もう影も形もない。あるのは、ただ空から降り注ぐ赤い光だけだ。

 

 どうしたものかと、カヤツリは考える。タイミング悪く、フランシスが現れたせいで茶番が台無しになってしまった。しかし、このまま手をこまねいていても何にもならない。直ぐに予定通りに行くことに決めた。

 

 

『突然のお客さんでしたが、私たちはこれで──』

 

「サンクトゥムタワーが!!」

 

 

 下の方から、地上の方から。そんな叫び声が聞こえた。さっきからの邪魔にイラつきながらも声の方を見ると、ある事に気がつく。

 

 一つしかないはずのサンクトゥムタワーが複数見えた。近くに一つ、遠くに複数。数えて六つ。それらは、今までのような青い光ではなく、空と同じような赤い光を放っている。キヴォトスの安定に必要なサンクトゥムタワーに異常が起こっている。

 

 

『異常事態だ。ここからでも見えるだろうが、例の反応から塔のようなものが顕現した』

 

 

 珍しいセイアの焦った声だ。それを掻き消すように、地上からまた大声が聞こえた。至る所から、内容は様々だが、狂乱しているような、絶望しているような内容の発言だ。主に不良生徒からが多いようで、他の者が止めようとするが、狂乱は収まるどころか、他の生徒にも広がっているように見える。

 

 

『こちらでも調査を進めていたが、シスターフッドからの情報だ。塔からのあの光は人々を狂乱させるらしい。まだ効果は弱いようだが……遅かったようだね』

 

 

 地上では混乱が広がっている。混乱の声がどんどんと大きくなっていて、暴動にまで発展していた。セイアにもこれが聞こえたのだろう。風紀委員会や正義実現委員会、C&Cも地上にいるだろうから、まだ銃撃戦にはなっていないが、このままでは時間の問題だった。

 

 

「止めないと」

 

「先生!?」

 

「無茶よ! 先生じゃ、あの人混みに巻き込まれたら……!」

 

 

 今度はセリカ後輩とコハルが、地上の混乱を止めようとする先生を押しとどめていた。確かに、先生ならこの混乱と暴動を止められるだろう。でも、それは通常の混乱の場合だ。今の状況でのこのこ前に出れば、銃撃戦に巻き込まれる。

 

 

『皆さん! 話を聞いてください!』

 

 

 響くヒフミの声に覆面水着団全員がカヤツリを見た。カヤツリは慌てて首を振る。今の声は自分の声真似でもないし、台本などこの状況では何の役にも立たない。今の声は正真正銘のヒフミの声だった。いつの間にか、傍に居たはずのヒフミは屋上の端。地上を見渡せる場所に立って叫んだようだった。

 

 そのおかげで暴動の声が静まった。地上の暴徒が屋上に立て地上を見下ろすヒフミを見上げている。見ていると言うよりは睨みつけていると言った方が正しいか。たぶん、状況からしてこの事態の黒幕をファウストだと誤認しているのだ。

 

 

 もう声を出した後だ。もう止まらない。声を出したヒフミが、ファウストが何とかするしかない。カヤツリ達と先生にはもう見ていることしかできないのだ。

 

 

 □

 

 

「私は怒っています!」

 

 

 勢いのままに、ヒフミはファウストの格好のまま叫んだ。普段なら決してできない行動だが、怒りがそれを可能にしていた。

 

 

「五月蠅い! お前がこの状況を引き起こしたんだろう! 何てことしてくれたんだ!」

 

 

 地上からヤジが飛ぶ。そうだそうだと追従する声も。至る所で、ヒフミに、ファウストに向かって怒りが叩きつけられた。

 

 

「ふざけるな! こんなことに巻き込みやがって! 何が怒っていますだ。私たちは被害者で、お前にそんなことを言われる謂れはない! あるなら言ってみろ!」

 

「あります!」

 

 

 ヤジを飛ばした不良生徒は、ヒフミの短く力強い言葉に怯んだようだった。

 

 

「あなたたちが、全てを台無しにしようとしているからです!」

 

 

 ヒフミには、彼女たちの気持ちが良く分かった。彼女たちには何もない。ただ日々を流されるように生きている。自分と同じような生徒だからだ。きっとそれは殆どの生徒がそうなのだろう。皆が自分の事で精一杯なのだ。

 

 

「何も分からなくて、自分がどうなるかも分からない。これまで何もしてこなかったから、何ができるかも分からない。怖くてたまらなくて、逃げてしまいたくて、でも何もしないでいる事は出来なくて。丁度良く暴れる理由があるから暴れよう。何もしないで震えているよりもマシだから。違いますか?」

 

 

 でも、それはきっとヒフミに言われなくとも、彼女たちも分かっていることなのだ。ただただ、誰かのせいにしなければやっていられないほど弱いだけ。それは皆がそうなのだ。

 

 

「五月蠅い! じゃあどうしろって言うんだ! おとなしく家で震えて丸まっていろとでもいうのか!」

 

「違います! あなたたちにもできることがあるはずです」

 

「そんな綺麗事は……」

 

「綺麗事じゃありません!」

 

 

 ヒフミは野次に負けないように声を張る。

 

 

「あなたたちは行動しました。それが、野次馬であれ、火事場泥棒であれ、仕事であれ、あなたたちは、さっきまでの私の起こした騒動に参加しました。それはあなたたちがやったことです。自分が決めて行動したのなら、それはあなたたちのできる事です!」

 

 

 かなりのこじつけだと、ヒフミも理解はしている。それでも、行動したことは間違いではない。まずはそれを認めるところから始まる。行動しなければ何も始まらない。そのことをヒフミはエデン条約の時に身をもって経験したからだ。

 

 

「私はハッピーエンドが大好きです。皆が頑張って、それが報われる。そんな話が大好きです。それを綺麗事だとあなたたちは言うんでしょう。けれど、目指さなければ、それは決して訪れません!」

 

 

 そうでなかったら、諦めてヒフミが行動しなかったなら、アズサはきっと帰って来なかった。また補習授業部の皆で笑いあう事は出来なかった。

 

 ヤジはすっかり収まっていた。ざわめきはまだ残っているが、怒りの声は響いていない。残る声は一つだけだ。

 

 

「けど、私たちは何も結果を出せない!」

 

「出しましたよ。あなたたちは結果を出しました。あなたたちが知らなくても、私はそれを良く知っています」

 

 

 響くかつての自分の声を、ヒフミは優しく否定した。

 

 

「あなたたちは、この私に、ファウストに勝ちました。私とのゲームに勝って、サンクトゥムタワーの制御権を取り戻した。それはこのゲームに参加した皆の成果です。だから、それを暴れて台無しにしようとしたことに怒りました」

 

「それは、戦った奴だけだろう!」

 

 

 その質問に対する答えに、群衆が聞き耳を立てているのをヒフミは感じた。けれど、ヒフミは怖くなんてないのだ。

 

 

「そうでしょうか? 火事場泥棒の皆さんがいたところの銀行は襲えませんし、目撃者がいれば増援を呼ばれてしまいます。ただいられるだけでも厄介なものです。それに、あなたたちは無理やり連れてこられたわけではありませんよね? あなたたちは自分の意志でここに来た。自分の意志で参加することを決めたのでしょう?」

 

 

 これではまだ不十分だと、ヒフミには分かっていた。他人から言われたところで、自分でそれを自覚できなければ意味がない。

 

 

「もし、そうでないと。何も自分は出来なかったと思う人がいるのなら、まだ間に合います。次は自分の意志でできる事をやってみてください。ちょうど良く、今非常事態が起こっています。機会が転がっています。一人ではできないと言うのなら、周りの人を頼ってみてください。そんな人がいないと言うのなら、探してみてください。どうしようもなかったら、先生に頼ってみるのも良いと思います」

 

 

 妙な高揚感にヒフミは包まれていた。この場の全員の視線は全く気にならない。ただ自分が思った事を、エデン条約の時に学んだことを皆へ伝えたかった。

 

 案外やってみれば何とかなる事と、自分を見捨てないでほしい事、世界は決して冷たいだけではない事。目指し続ければ、ハッピーエンドに辿り着ける事。それは普通に転がっているのだ。自棄になって、諦めて、せっかくの機会を台無しにしている人たちに腹が立ったのだ。

 

 

「私は、私たちは、先生や戦闘部隊に負けたのではありません。ここにいる皆さんに負けたんです。あなたたちは、サンクトゥムタワーの制御権を強奪した、これまでに類を見ない、前代未聞の犯罪者であるファウストに勝ったんですから。勝者なら、勝者らしく自信を持ってください」

 

 

 最後の言葉をヒフミは紡ぐ。

 

 

「そして、まだまだ続けていきましょう。私たち自身の、青春の物語を!!」

 

 

 ヒフミは一息に言い切った。言い切った後はもう話し声はしなかった。近づいてくる上空のヘリのローター音が響くだけだ。

 

 

「やってみようかな……」

 

 

 ポツリと、そんな声が響いた。”じゃあ私も”、”それなら私も”そういった類の声は瞬く間に周囲に広がっていく。そして、その声が回り切った後、不良生徒や野次馬を中心に歓声が爆発した。

 

 

「ファウスト! ファウスト! ファウスト!」

 

 

 地上では、さっきとはまた違った騒ぎが起きている。けれどもそれは嘆きや怒り、不安が混じったものではなく。希望と興奮が混じったものだった。

 

 もう暴動は起きないだろう。そう地上を確認したヒフミは安心する。

 

 

「早く乗ってください!」

 

 

 そんなヒフミの前に、ヘリが上空から降りてきて、運転席から覆面を被ったアヤネが怒鳴る。

 

 ヒフミは緊張で重い体を引きずって、仲間たちとヘリに乗り込んだ後、達成感と安堵と共に意識を手放した。

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