ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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139話 因縁の相手

「では、今回の作戦説明を始めます」

 

 

 部室のホワイトボードの前。カヤツリ達対策委員会の前で、アヤネ後輩が真剣な顔で口を開いていた。ホワイトボードは、今回の作戦情報で真っ黒になっている。

 

 

「アビドス砂漠のビナー。これが今回の作戦目標です。ビナーの撃破をもって作戦の成功になります。作戦の方法ですが、前回とほぼ同じです」

 

 

「はいはーい。しつもーん」

 

 

 その出鼻を挫くように、朗らかで明るい声が響く。アヤネ後輩は、どこか疲れたような表情で、声の主を指名する。

 

 

「……何でしょうか。便利屋68のムツキさん」

 

 

 礼儀正しいアヤネ後輩には珍しいが、少しばかり扱いがぞんざいだ。ただムツキの方はニコニコして気にもしていない。

 

 

「ムツキちゃんたちは、壊すのはビナーじゃないって聞いたんだけど?」

 

「……カヨコさん」

 

 

 今回の作戦どころか、概要すら怪しいムツキに、アヤネ後輩はカヨコの方を見た。

 

 

 ──説明してないんですか?

 

 

 そういう意味が多分に含まれた視線だ。

 

 今回、カヤツリ達が参加する作戦は全ての学園に関係することだ。だから、各学園と集団からの代表者と連邦生徒会で会議をもうしている。これは、その会議の情報共有に近い。今頃、あと五ヶ所で同じような会議をしているだろう。

 

 その会議には、アビドスからはアヤネ後輩を出した。自分とホシノは疲労でダウンしていたからだ。もちろん、今回の作戦を立てる都合で、ホシノと一緒に内容は聞いている。

 

 そして、便利屋68からはカヨコが出席している筈だ。仲間に情報を共有しないというのは、らしくない。

 

 

「……先生からの依頼で、社長が舞い上がっちゃってね。あと、その直前のファウストの演説もあってさ。もうずっと、こんな感じ」

 

 

 ちらりとカヨコは自分の隣を見る。そこには、便利屋一同が勢揃いしている。ただ妙に落ち着きがなかった。そわそわというか、ウズウズしていると言うべきか。アヤネ後輩は納得の呟きを漏らした。

 

 

「ああ……なるほど。先生からの簡単な依頼内容だけ把握していると……?」

 

「そう。ならもうここで、一気に確認した方が早いかなって。むしろ、そうしてくれると助かるんだ」

 

 

 カヨコはなんだか疲れた表情だ。逆にアルやハルカ、ムツキがテンション高めだったのは、そういう理由だったのだろう。

 

 アルは、ファウストのあのアウトロー然とした演説を直に聞いている。テンションがぶち上がらない方がおかしい。ハルカはアル第一だから、同様に機嫌がいい。ムツキは多分、面白そうな現場だからだろう。

 

 カヤツリと同じ結論に達したのか、アヤネ後輩は初めからやり直す事にしたらしい。ホワイトボードを裏返して、真っ白な面にマーカーを走らせ始めた。

 

 

「最初から説明すると。今回の原因は色彩と呼ばれるもののようです」

 

 

 ボードに色彩と書かれた円が書かれた。そこの真下へ六本の縦棒が円を描くように配置する。

 

 

「今回観測された高濃度エネルギー反応。そこから皆さんもご存知の通りに、謎の建造物が出現しました。このサンクトゥムタワーに似たこれは、虚妄のサンクトゥムと呼称されています」

 

「そうそう、これを壊すんじゃないの?」

 

「はい。そうですね。最終目標はこの虚妄のサンクトゥムです」

 

 

 ムツキの質問をアヤネ後輩はあっさりと肯定し、その理由として窓をマーカで指した。

 

 

「虚妄のサンクトゥムからは赤い光が放たれているのは、見ればわかりますよね」

 

 

 窓の外の空は真っ赤に染まっている。まだ昼前なのにだ。それはあの虚妄のサンクトゥムからの光が赤く、光量も尋常なものではないからだった。

 

 

「あの光は人を恐慌させるそうです。シャーレ前の暴動の如くに。そして、光は段々と強くなっている。ミレニアムからの情報では、あと二週間で最大出力に達し、キヴォトス全土を覆うと」

 

 

 そうなったら、どうなるか。最後まで言わなくても分かる。碌なことにならない。あの時よりも、出力の上がった光がキヴォトス全土を覆う。おそらくキヴォトス住人の全員が暴徒化する。それを想像したのかアルは白眼を剥いていた。

 

 

「それを回避する為には、発生源である虚妄のサンクトゥムを、六本全て破壊する必要があるという事です」

 

「……ビナーとかいうのを倒す必要はあるのかしら? 話を聞く限りはその虚妄の? サンクトゥムとやらを壊せばいいのでしょう? その方がスマートじゃない」

 

 

 白目を剥いた状態から復活したアルが、至極まともなことを言う。

 

 

「ええ。できるならそうしたいのは山々なのですが……」

 

「そうは問屋が卸さないんだよ。社長」

 

 

 アヤネ後輩の言葉を引き継いで、カヨコが口を挟んだ。

 

 

「どういう事よ? ただ行って、爆弾辺りで破壊すればいいじゃない。それにあんなに大きいんだから、トリニティあたりに頼んで迫撃砲でも……」

 

「門番が居るんだ。それが邪魔してくるの。ミレニアムが先行調査したけど、なすすべなく撃退された」

 

 

 各サンクトゥムには門番が居る。それは今までに戦ってきた相手だった。そして、このアビドス砂漠のサンクトゥムの門番は……

 

 

「ここの守護者はビナー。正確にはそれの複製です。だから、まずはビナーを何とかしないといけないんです」

 

「……アヤネちゃん。同じ作戦と言いましたが。大丈夫なんですか?」

 

 

 ここのノノミ後輩の確認は、文字通りの意味だ。学習するビナー相手に同じ作戦で大丈夫なのか。そういう疑問だ。

 

 

「カヤツリ先輩」

 

「大丈夫だ」

 

「ふーん? お兄さん。やけに自信ありじゃない?」

 

 

 ムツキの揶揄いはスルーして、先生から聞いた事、つまりは黒服から聞いたことを話す。

 

 

「ビナーの複製とは言ったが、問題はいつの時の複製かってことだ」

 

「で? いつなの」

 

 

 ホシノの質問に、二ヤリとカヤツリは笑って答えた。

 

 

「最初だ。三人で戦った時のビナーだそうだよ」

 

「ああ、なるほど。いいかもしれないね。一番やりやすいんじゃないかな」

 

「だろう?」

 

「二人だけで会話しないでくれませんか……?」

 

 

 普段通りに話すカヤツリとホシノに、困ったような声で解説を求めるノノミ後輩には少し怒気のようなものが見えた。ファウストの件の怒りが再燃してはたまらないから、急いで簡潔に説明する。

 

 

「一番最初に戦ったビナーってことは、何も知らないんだ。これまで受けた不意打ちも何もかも。だから、これまでと同じ作戦で良いし、あの時とは違って人数もいるし、火力もある。やりやすいと思うね」

 

 

 これが、一番最近のビナーだったら最悪だったろう。これまでの作戦を全て知っているから、最適化した戦闘パターンで分断されかねないからだ。

 

 

「それでは改めて、今回の作戦説明を始めたいと思います」

 

 

 ホワイトボードをひっくり返して、アヤネ後輩が生き生きとし始める。やっと本題に入れたことが嬉しいようだった。

 

 

「大まかには、以前に取った作戦と同様です。陽動で目標地点までおびき寄せ、火力を集中させて撃破」

 

「作戦はシンプルね。詳細を教えてほしいわ」

 

 

 アルはようやく落ち着いたのか、仕事モードに切り替わったのか、引き締まった表情になっていた。それに対して、アヤネ後輩はボードをマーカーで指す。

 

 

「部隊を二つに分けます。陽動部隊と主力部隊の二つにです。陽動部隊はビナーを目標地点まで誘導し、主力部隊はその近辺で待機します」

 

「そして、一気に叩くと? そういう訳ね。良いわ」

 

 

 概ねはアルの言った通りだ。今までの作戦とはそれほど変わらないが、一つだけ大きな違いがある。

 

 それは、役目に集中できると言う事だ。

 

 今までは、人数が制限されていた。陽動役と攻撃役を兼任しなければならず、結局は瞬間火力が足りなくなり、ビナーの逃亡を許していた。

 

 けれど今回は違う。

 

 主力部隊は落ち着いて火力をビナーに叩きこむことが出来る。今までのように、チャージ時間を気にして逃げ回る必要はない。

 

 いいことずくめの作戦に思えるが、問題は陽動役だ。ビナーの攻撃をいなしながら、目標地点までビナーを誘導しなければならない。とはいっても選択肢はないのだが。それを知ってか知らずか、アルが勢い良く宣言する。

 

 

「陽動は私たち、便利屋68が行くわ! 危険な役目を請け負ってこそ、ハードボイルドというものでしょう!」

 

「はぁ……相変わらずだね」

 

 

 気勢をあげるアルにカヨコはため息をついているが、口元は微笑んでいた。そのまま、アヤネ後輩にある要求をする。

 

 

「分かった。社長がこんな感じだから、囮は私たちがやるよ。ただ、足はどうするの? 生半可なモノじゃ追いつかれるんじゃない? それに、私たちは砂漠の運転に慣れているわけじゃない」

 

「鉄道を使います。それなら、車よりも速く、運転もさほど苦ではないはずです」

 

 

 鉄道という言葉を聞いた瞬間、カヨコの表情が少し曇ったように見えた。そして、ちらりとノノミの方を見る。

 

 

「いいの? 鉄道って、砂漠横断鉄道でしょ。使うにはネフティスの許可がいるんじゃ……」

 

「それについては心配いりません。起動は私ができますし、許可の方は……いいですよね?」

 

 

 ノノミ後輩が聞いてくる。それは、ある意味当然の話だった。今、砂漠横断鉄道の権利は宙に浮いている。正確には、ネフティスとカヤツリが権利を共同で持っている。だから、ノノミ後輩と自分の許可が無ければ鉄道は使えない。

 

 

「問題ない。存分に使ってくれ」

 

 

 カヤツリの答えに満足したように、カヨコは頷いている。これで陽動部隊は便利屋68が請け負い、主力部隊は対策委員会が請け負うと言う形でまとまった。少し揉めると思っていたのだが、便利屋が陽動役を請け負ってくれて助かったと、カヤツリは一息ついた。

 

 

「今、思いついたんだけど……」

 

 

 名案を思い付いたとセリカ後輩が手を挙げた。

 

 

「その色彩とかいうのを潰すのは無し? 二週間もあるなら、大元を潰した方がいいじゃない」

 

「無理だ」

 

「なんでよ?」

 

 

 すぐさま却下されたことにセリカ後輩は頬を膨らませた。

 

 

「場所が分からないんだよ。それに……」

 

 

 静かに、カヤツリはホシノの方へと目配せした。それを受け取ったホシノは緩い口調で便利屋たちに告げる。

 

 

「便利屋ちゃん達はそろそろ準備した方が良いんじゃないかな。私たちは砂漠に慣れてるけど、君たちはそうじゃないでしょ。少しは慣れておかないと」

 

「そうだね。ほら、社長。そろそろ準備しないと」

 

「え? それもそうね……先に行ってるわ」

 

 

 カヤツリの要望通りに、便利屋たちは準備をしに部屋から出て行った。聞かせたくない話があるのだと言う事は、きっとカヨコやムツキ辺りにはバレているかもしれない。

 

 

「それにって何よ。便利屋たちに聞かせたくないの?」

 

「そうだよ」

 

 

 追々知る事にはなるだろうが、重要な作戦前に言う事ではないと思ったのだ。彼女たちだって、今から言う話を聞かされても困惑するだけだろう。

 

 

「色彩はただの現象なんだそうだ。砂漠でよく見る逃げ水や蜃気楼みたいな奴と同じと考えてもらってもいい。本質をむき出しにしてひっくり返すんだそうだよ」

 

「それがどうしたのよ。今回のも、そうってだけの話じゃないの」

 

 

 セリカ後輩に向かって、カヤツリは首を振る。

 

 

「現象はただあるだけだ。態々、戦力が足りないからって、ゲマトリアを襲ったりはしない。誰かが考えて動いている」

 

「……誰かって?」

 

 

 カヤツリはこの先を言うのがあまり気が進まなかった。ホシノは”心配しなくても大丈夫だよ”とか、”早めに言った方が良いと思うよ”とか気楽なものだったが、カヤツリの意見はそうではない。ホシノには共有したが、だれが、自分の先輩や同級生が、裏切ったなどと言うことを聞きたいだろう。セリカ後輩の一言が無かったら、言う心算は無かったのに。

 

 

「シロコだよ。敵に寝返ったか、脅されてるのか、色彩に触れたせいなのかは分からないが。少なくとも、そう動いている」

 

「え? 何で? シロコ先輩が?」

 

 

 困惑するセリカ後輩にとって代わるように、ノノミ後輩がカヤツリを問い詰める。

 

 

「……行方不明になった電話の時に、色彩に触れてしまったと言う事ですか? それで、そう動いていると? 誰から、そんなことを聞いたんですか。まさか……」

 

「違うよ。確かに、情報元は黒服だけれども、先生から聞いたんだ」

 

 

 だから、虚妄のサンクトゥム攻略から始まったのだ。確かに、セリカ後輩の言う通りに、色彩の場所、虚妄のサンクトゥムに力を供給している場所を探し出し、そこにミサイルや迫撃砲を撃ち込んだ方が話が早い。

 

 けれど、それでは最悪シロコがどうなる分からない。それに、色彩の影響も心配だった。ホシノ相手に言った事は嘘はないし、そう思ってもいる。けれど、やれることはするべきだ。

 

 この間にも、セイアの情報から先生が色彩に触れた者への対処法を調べてくれていた。セリカの言うそれは最終手段なのだ。まだ打つには早い。

 

 

「プレナパテスっていうのが、今回の黒幕だって先生は言ってた。そいつのせいかもしれないし、そうではないかもしれない。シロコの事もまだ何も分からないのに、そんな手は取れないんだ」

 

 

 一息に言ったあとで、後輩たちの様子を見る。全員俯いているようにも見える。

 

 それを見て、カヤツリは嫌な気分になった。態々こんな暗い話題をしたくもなかった。いつかは言うべきことではあるが、今でなくてよかった。これでは無駄に悲しませただけ──

 

 

「じゃあ、ちゃっちゃとやってやろうじゃない!」

 

「そうですね。早くシロコちゃんを連れ戻しましょう」

 

「そうだね。まずはやるべきことをやらないと。セリカちゃん」

 

 

 何故だか、やる気が満ち満ちているように見える。良い事なのだが、なんだか心配していた自分がおかしいのかと拍子抜けしてしまった。

 

 

「大丈夫だったでしょ。私たちとは違うよ」

 

 

 違うという意味が良く分からなくて混乱するカヤツリに、ホシノがニコニコして話しかけてくる。

 

 

「私たちみたいに、悪い方には考えないんだよ。私たちが守ってきたのもあるけどさ。きっとそれだけじゃない。こういった考え方が、これからのアビドスには必要なんだろうね」

 

「……そうかもな」

 

 

 やる気十分な後輩たちを眺めて、その意味を反芻するカヤツリの手を、ホシノがぎゅっと握る。

 

 

「じゃあ、私たちもやることをやろうよ。カヤツリ。私たちみたいな考え方にならなくてもいいようにさ」

 

 

 そういうホシノに同意するように、カヤツリはホシノの手を握り返した。

 

 

 □

 

 

『そっちに行ったわ! 準備して!』

 

 

 インカムからのアルの声に、ホシノは大きく伸びをして、立ち上がった。

 

 

「じゃあ皆、走るよ!」

 

 

 一声かけて、砂漠にはしる線路の上を後輩たちを引き離さないような速度で走る。

 

 今のは砂漠横断鉄道に乗ったアルの声だ。陽動に成功して、ビナーをここまで引き連れてきているのだ。

 

 

「来た! 来たわよ!」

 

 

 セリカが叫ぶ方を見ると、白ではなく、黒。夜空の色をしたビナーが首をもたげて、こちらの方を向いていた。口は大きく開かれて、中には光が瞬いている。

 

 

『ダメです! 攻撃予測不安定! 何とかして避けてください!』

 

「皆! 私の後ろに!」

 

 

 ビナーの熱線に対抗するため、ホシノは盾を展開する。昔、一年の頃は出来る気はしなかったが、今ならできる確信がある。視界が光で一杯になるが不安はない。

 

 

「ふぅ~危ないところだったよぉ。これくらいだったら大丈夫かな」

 

『ええ! あの攻撃を耐えた!?』

 

 

 ビナーの攻撃を何とかいなすと、ミレニアムのヴェリタスという部活の助っ人の驚愕の声が聞こえるが、ホシノは皆を安心させるために、おどけながら余裕をアピールする。

 

 

「おじさん、歳と誰かさんのせいで腰が辛いんだからさぁ。あんまり無理はさせないでほしいな。湿布代もバカにならないし……」

 

「だから、そんなに歳は変わらないでしょうが
!」

 

「……」

 

 

 セリカはそもそも何を言っているのか分かっていないらしく、つっこみを入れている。逆にノノミが何か変な勘違いをしている気がするが、ホシノは気にしないことにした。最近なんて範囲は人によってまちまちだし、嘘は言ってないし、時々辛いのも本当だからだ。湿布は使っていないけれど。

 

 自慢の砲撃を耐えられたビナーは動揺したように固まるが、再度砲撃するべく砲口をホシノの方へと構え直す。しかし、ホシノは慌てない。

 

 

「よそ見は良くないよ」

 

 

 その一言が終わるか終わらないかの間に、ビナーの頭にレールガンの砲弾が直撃した。アヤネが同時操縦する戦闘ヘリに乗った遠距離からのカヤツリの攻撃だ。悔しいことにミレニアムの時とは違って、あの砲撃はできないと二人は確信していた。ホシノには理由は見当つかないが、カヤツリが言うには格が足りないんじゃないかとかなんとか。

 

 ただ威力はそれでも十分だ。勢いよくビナーは砂漠へ叩きつけられて動けないでいる。ちらりと見た感じではミサイルの砲口は殆ど潰されていた。

 

 

『装甲、武装共に大破! ビナーへのダメージ甚大です! このままいけばすぐです! 便利屋の皆さんも直ぐに合流します!』

 

 

 アヤネの通信に、ホシノは頷く。今の所は上手くいっている。陽動の邪魔にらないように、念の為カヤツリは有効射程ギリギリの遠くにいるし、今のがビナーの最大火力なら防ぐのは容易だ。ビナーの頭や装甲は大きく欠けているから、セリカやノノミの攻撃も通るだろう。アヤネも別の戦闘ヘリも出撃させているし、直ぐにカヤツリが再度の砲撃を始める。先生も、こことここ以外の戦場含め指揮をしてくれている。ビナーにもう勝ち目はない。

 

 

「まただね。皆! また砲撃が……」

 

『緊急事態です!』

 

 

 ホシノはビナーの砲口に集まった光から、再度の砲撃を予測して退避を促すと同時にアヤネの焦った声がインカムから響いた。

 

 

『全体指揮を執っている先生からの連絡です! 作戦領域内に上空から侵入者です!』

 

「はぁ!? 何でよ! 来ちゃいけないことくらい分かるでしょ!」

 

 

 セリカが信じられないと言うように叫んだ。誰が侵入したのかは分からないが、キヴォトスで大規模な作戦が展開されているのは周知の事実だ。それに虚妄のサンクトゥム攻略に参加していない者は避難誘導や各自治区の防衛についている。それに上空からという事はビナーの熱線も見えているはずだ。だから、ここに人が来るということ自体異常なのだ。

 

 まさかとは思うが、クロノスの取材ヘリか何かかもしれない。そんな考えで、盾を構えながらも上空を確認する。機影は見えないし、音もしない。何かがやってくるというような様子はない。カヤツリにも無線で確認するが異常はない。

 

 ただ、ビナーだけは何かを感じ取ったのか、砲口をホシノから外して上空に向け直す。そのままホシノやカヤツリ、便利屋たちとは見当違いの方向に、熱線を照射した。

 

 

「……何やってるんでしょうか」

 

「いや、何かいるね。でも、これはもう間に合わないよ」

 

 

 ノノミは見えないようだったが、ホシノの目は何かを捉えていた。ビナーの熱線を見てようやく気付く。大きな物。例えばヘリとか、そういうものでは無かった。もっと小さい。鳥にしては大きいが、翼の生えたそれが作戦領域を突っ切ろうとしている。

 

 それに、ビナーの熱線が直撃する。その場にいる全員が、それが助からない事を確信していた。予想通りにそれは、ホシノたちとは離れたところに墜落した。どうなったかは離れすぎていて見えない。

 

 まだ追撃したりないのか、ビナーは再度の砲撃を敢行しようと口元に光を集め始める。

 

 

『高濃度のエネルギー反応を確認! 防御してください!』

 

「分かってるよ。アヤネちゃん」

 

 

 ビナーはこっちを向いていないが余波は来るだろう。侵入者には申し訳ないが、こんなところにやってきたのだから、自業自得というモノだ。そう思って盾を構え直したホシノの耳に、アヤネの叫びが聞こえた。

 

 

『違います! ビナーじゃなくて、墜落した方からです!』

 

 

 え? と返事をする間もなく、ビナーとは反対側、侵入者の墜落地点から、ホシノですら鳥肌が立つほどの威圧感が漏れだした。続いて、空で何かが光った後に、空が割れるような轟音が響く。

 

 

「雷……? なんで? 晴れてるのよ……?」

 

 

 セリカが不安そうな声で、赤く染まった空を見て、呟く。その間にも墜落地点からの威圧感はどんどん増していた。光と何かが弾けるような音がここまで聞こえる。

 

 

「皆、私の後ろに隠れて! 早く!」

 

『ビナーの砲撃、来ます!』

 

 

 傍から見れば怯えたようにも見えるビナーの砲撃が、轟音と視界を塗りつぶすほどの閃光を伴って墜落地点へ向けて放たれる。そして対抗するように墜落地点からも小さい何かが放たれた。

 

 ホシノは自分の勘に従って、後輩たちを庇うように、ビナーではなく墜落地点へと向け、盾を構える。威圧感が漏れだしてから、嫌な予感が全く収まらないからだ。そして、それは正解だった。

 

 

「嘘……ビナーが……」

 

 

 攻撃の余波である閃光と熱波が収まって視界が回復したセリカが、信じられないと言うように言葉を漏らす。

 

 ビナーの上半分が消し飛ばされていた。残った下半分は解けるように粒子となって消えていく。

 

 

『全員、今すぐそこから逃げろ!』

 

「カヤツリ?」

 

 

 珍しい、焦ったようなカヤツリの言葉が、インカムから聞こえた。何かを言おうとしたホシノの声を押しつぶすように、カヤツリの言葉がホシノの耳に響く。

 

 

『ミレニアムの時の砲撃が使えるようになってる!』

 

「……本当だ。アヤネちゃん。退くよ。皆にもそう伝えて」

 

『え? はい! 分かりました!』

 

 

 困惑するアヤネにホシノは言い含めて、警戒を続ける。ビナーの時に使えなかった、ミレニアムの時に箱舟に使った攻撃が使えると言う事は、墜落したそれは箱舟と同等の格という事だ。目標のビナーは倒したのだ。あの虚妄のサンクトゥムは遠距離砲撃でどうとでもなる。今、この場に留まる方が危険だった。

 

 

「……いや、もう遅いかな」

 

 

 墜落地点の方からの、はっきりとした視線を感じて、ホシノは緊張で汗ばんだ手で、盾を握りしめた。

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