ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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140話 死が二人を分かつまで

「セリカちゃん。ノノミちゃん。ゆっくり下がるよ」

 

 

 ホシノは未だに砂塵が舞う墜落地点を睨みながら、じりじりと後ずさりする。声を掛けられた二人もしっかりと頷いて、同じように後ずさりした。

 

 遠くに見える薄いカーテンのようになった砂ぼこりの向こう。ぼんやりと見える人型のような影から視線を感じるが、感情のようなものをあまり感じない。

 

 砂ぼこりの中の段々と大きくなる影にホシノは警戒心を数段階跳ね上げた。

 

 

 ──大きいね。戦うとなったら骨が折れそうかな。

 

 

 内心で呟きつつも、無線でアヤネに確認を取る。

 

 

「アヤネちゃん。便利屋ちゃん達とカヤツリは?」

 

 

 今の所は向こうからのアクションは無い。戦闘に発展することは無いかもしれない。けれど、万が一という事もある。空を飛べる相手から走って逃げられるとは思っていない。

 

 逃げるなら便利屋たちの乗った電車か、カヤツリの乗るヘリだ。ただ、ヘリは危ないかもしれない。

 

 

『さっきの攻撃の余波で線路が破損しました。今、ポイントを切り替えて大回りで向かっています。カヤツリ先輩は、ヘリを着陸させてそっちへに行くと』

 

「分かった。便利屋ちゃん達を急がせて。それとカヤツリにも、今の話をお願い」

 

 

 言葉少なくホシノは通信を切る。とりあえず迎えの電車が来るまでは時間を稼がねばならない。

 

 

「ホシノ先輩……」

 

「大丈夫だよ。セリカちゃん……ビナーは居なくなったし、あれと戦うと決まったわけじゃないんだから。案外、助けてくれたのかもよ」

 

 

 不安そうなセリカに、ホシノは希望的観測を口に出す。いまだに分からない事ばかりだが、結果だけならいいことだらけだ。ビナーは倒されて、こちらには被害らしい被害もない。

 

 

「ホシノ先輩には、あれに心当たりは?」

 

「無いはずだけどね……少なくともまだ、戦う気はなさそうだけど」

 

 

 ノノミの質問に過去の記憶を掘り返すが、空を飛べる知り合いなど居るはずもない。それに、人かどうかすらも怪しいのだ。

 

 ビナーの熱線が直撃した挙句、相当な高度から墜落した。生きていたとしても大怪我のはず。それなのに視線の主は立って、ホシノたちを見ている。上がった警戒を下げる要素は全くない。

 

 

「……出てきましたね」

 

 

 砂ぼこりのカーテンから出てきた人影を見て、ノノミが銃を腰だめに構えて警戒する。遠目に見た感じでは普通だが……

 

 

「ひッ……」

 

 

 それが近づくにつれ。全体が露わになる。それを見たセリカは小さく悲鳴を上げた。

 

 それの全身は酷い物だった。鎧か何かを纏っていたのだろうが、熱線のせいで真っ赤に溶けてぐじゅぐじゅになっていた。その溶けた装甲が、身体を焼いているようで、風に乗って嫌な匂いがする。それがそのまま、ホシノたちへ向かって歩いてきていた。

 

 

「燃えている……? いえ……治って?」

 

 

 ノノミの言葉の通りに、それは燃えていた。初めはビナーの熱線の余熱か何かかと思ったが、炎の色が違った。よくあるオレンジや赤色ではなく、赤紫の炎が全身の至る所から噴出している。

 

 不思議なことに、燃えたところはビデオテープを逆回しするかのようにきれいになっていく。全身が見える距離にまで近づく頃には、炎は残り火程度に落ち着き、全身はビナーに撃墜される前であろう姿に戻り、肉の焼ける臭いも消えていた。

 

 それはホシノの見立て通りに大きかった。ホシノどころかカヤツリより大きいかもしれない。

 

 どこかの王様の様な冠と、鳥にも鼻の長い獣にも見える仮面をかぶった何かだ。片手の杖が、妙に印象的だった。

 

 それは、じいっと。仮面の目に当たる部分の、伽藍洞にも見える暗い穴からホシノを見ていた。後ろのノノミやセリカには見向きもしない。お互いに沈黙したまま、ホシノとそれは見つめ合う。

 

 見つめると言うのもどこかおかしいのではないかと、ホシノは思い始めた。時々カヤツリと同じような事をするが。その時とは違う。似たような感覚がするのだが、はっきりと一部分を見ているのではないような気がする。全体を見て、何かを確認するような。それか、ぼやけて見えない窓ガラスの向こう側を見透かそうとしているような。

 

 何故だか、知っているような気がする。ビナーを一撃で屠った相手だ。警戒しなければならないのに、心の何処かで、そんな事はしなくていいと誰かが叫んでいる。

 

 

「ホシノ先輩!!」

 

 

 セリカの絶叫にも近い叫びに、ホシノははっとした。それが手を目の前まで伸ばしていた。もう少しでホシノの頭に触れると言う所で、ピタリと手は止まる。

 

 

「……」

 

 

 ゆらりと、それはセリカの方を向いた。無表情な仮面が、セリカを睨みつけているようにも見える。

 

 

「何よ! ホシノ先輩に何をしようっての!」

 

「セリカちゃん! ッツ……!」

 

 

 ノノミが焦ったように、セリカにも負けないような大声で制止するが、言葉を突然詰まらせる。それがノノミの方を向いて翼を大きく広げたからだ。それはホシノとノノミ、セリカをぼーっと見ている。

 

 

「……翼? 黒い鳥……! まさか……アンタ! シロコ先輩を!」

 

「セリカちゃん! 落ち着いて」

 

 

 セリカが激昂して、銃をそれに向けた。完全に戦闘する気のセリカをホシノは言葉で制止しようとするが、セリカは聞く耳を持とうとしない。

 

 

「だって、ホシノ先輩! シロコ先輩があの電話で言ってたじゃない! 黒い鳥って! コイツよ! コイツがシロコ先輩を!」

 

 

 セリカの言う事は合っている。見た目は確かに、一言で形容するなら黒い鳥だ。シロコが見たのも、これなのかもしれない。もしかしたらプレナパテスとかいう奴なのかもしれない。空から攫ったから、地面には何の痕跡も無かったのかもしれない。

 

 でも、その判断はまだ早い気がした。もし、そうであれば、ビナーに攻撃されるわけがないし、ビナーを消滅させるのも意味不明。もしこいつが黒幕側なのだとすれば完全な敵対行為。状況証拠はクロだが、現状の事を考えればシロの可能性もある。

 

 このことを上手く伝えたくとも、今のセリカは頭に血が上っている。ホシノはセリカをクールダウンさせつつ、状況を説明するのは得意ではない。

 

 

 ──こういう時はカヤツリどうしていたっけ?

 

 

「待ちなさいよ!」

 

 

 ホシノがセリカをどうやって止めようか、言葉を選んでいる間に。それは踵を返して虚妄のサンクトゥムの方角へ歩き去ろうとしていた。勿論、それを見逃すセリカではない。銃を突きつけて制止するように強要するが、それは聞く耳を持たず、歩みが止まる様子はない。

 

 

「セリカちゃん! 落ち着いてください!」

 

「止めないで! ノノミ先ぱ──あっ」

 

 

 パァンと銃声が響いた。セリカのライフルの銃口から、一筋の煙が出ている。

 

 銃を構えて、引き金に指を掛けた状態の人間にちょっかいを掛けてはいけない。何故なら、意図しない状況で弾が出るからだ。それは幼稚園児の時に習うくらい基本的な事だった。

 

 今起こったのはそれだった。セリカを強引にでも止めようと、ノノミがセリカを抑えようとする。それに抵抗しようとして、セリカの指に力が入ったのだろう。

 

 それで、セリカのライフルが暴発した。

 

 けれども、銃の暴発なんて、ここキヴォトスでは大したことは無い。毎日何処かで数回は怒るくらいありふれた出来事に過ぎない。当たったところで大した怪我にもならない。お互いに不注意を謝って終わり。それで済む話だった。

 

 暴発した弾は誰にも当たらなかった。外れたからではなく、頭を傾けて躱されたからだ。

 

 

「……」

 

 

 ゆらりと、それは銃弾が飛んできた方へと振り返る。さっきまでは無かった、謝っても許してくれそうにないまでの、殺気と共に。

 

 

 □

 

 

「私に聞きたい事ですか?」

 

 

 黒服は作業する手を止めて、マエストロの方へと振り返った。マエストロは変わらずのボロボロの格好のままだ。

 

 

「貴下は、私に話していないことがあるだろう? 互いに課題を課された身の上だ。貴下だけが持つ情報があるというのは不公平ではないか?」

 

「確かに。それは申し訳ない。マエストロ」

 

 

 真っ当な抗議に黒服は謝罪する。マエストロは身体をカタカタ震わせて、謝罪を受け入れてくれた。

 

 

「ふむ。それでは、何が聞きたいのです?」

 

「その提案は私にとってありがたいが……よいのか? 黒服よ。貴下は今、多忙ではないのか? 後でもいいのだぞ」

 

 

 マエストロは多少散らかったオフィスを見渡している。少しの気恥ずかしさと共に黒服は言い訳をした。

 

 

「私の予想が正しければ、もう少しで先生が尋ねてくるはずですので。散らかっているのは、そのための調べ物が多くありましてね。しかし、ほぼ終わりですから、心配しなくとも大丈夫ですよ」

 

「ふむ。あの六つのサンクトゥムタワーの破壊作戦は順調なようだな。残り一本だったか」

 

「ええ。最後のは骨が折れるでしょうがね」

 

 

 マエストロに返答しつつも、頭の中で情報を纏め終わった黒服は軽快に指を鳴らした。軽い音と共に散らかっていた部屋が多少綺麗になる。

 

 

「どうぞ。立っているのも何でしょうし、掛けてください」

 

「ああ、貴下の言葉に甘えよう」

 

 

 マエストロは身体を軋ませながらも椅子に身体を預け、温めていたであろう質問を発した。

 

 

「アレは死なないと言う事でよいのか?」

 

「ええ。死というモノの定義によりますが、おおむねそうだと考えていいでしょう」

 

 

 黒服は特に聞き返すこともなく答えを返す。

 

 

「死には種類があります。肉体的な死、精神的な死。機能的な死。私たちは、活動が終わることや意味をなさなくなったことに対して、死という言葉を使います。それは貴方の方が詳しいでしょう? マエストロ」

 

「うむ。死を描いた芸術は多岐にわたる。私も一端の知識はあるつもりだ。だが……」

 

 

 それでも、マエストロは納得いかないようだった。

 

 

「アレには複製が使われていたことからして、私の作品だろう。しかし、それにしては……」

 

「クックック……出来が悪いと?」

 

 

 黒服が笑って問うと、マエストロは悔しそうに肯定した。

 

 

「あれは確かに”崇高”だとも、神秘と恐怖が両立している。理屈も理解はした。しかし、それなら、ああはならないはずだ。それは貴下も、そうなのではないか?」

 

「ええ、確かに。想定通りであれば、ああはなっていないでしょうね。貴方の考えをまずは聞かせていただけますか? マエストロ」

 

 

 唸りながらもマエストロは、身体を鳴らす。

 

 

「あれは、セトとホルスを組み合わせたモノだな。ホルスの神秘と恐怖。セトの神秘と恐怖をだ。そうできる理屈は全く理解が及ばないが……」

 

 

 黒服は沈黙で答えた。異論はないと言う事で、つまりは正解だと言う事だ。

 

 神秘と恐怖はコインの裏と表だ。崇高はそれが同時に存在しなければならない。つまり、裏と表を同時に見なければならないのだが、それは不可能である。しかし、同じコインが二枚あるなら話は別だった。

 

 

「セトの神秘が表に出ている時は裏にホルスの恐怖が。逆にホルスの神秘が表に出ていれば、裏にセトの恐怖が。簡単に言えばそう言う理屈です。同じ起源の恐怖と神秘を両立できないのなら、似た別々のもので代用すればいい」

 

 

 どっちが神秘で、どっちが恐怖だったのかは、黒服には分からない。ただテラーとなったのはどちらでもいい。どちらの神秘も黒服は所有しているから、それを複製するだけの話だ。

 

 

「あれは、もうセトとホルスではない。昼夜を体現する太陽を運ぶ船。太陽の具現。元々、セトの仕事は太陽の船の守護者ですから、面白い偶然もあるものです」

 

「しかし、それならば。あのような身体ではないはずだ。あのような不格好な身体でなくとも……」

 

 

 マエストロが言ったのは当然の話だ。いくら崇高と化したとはいえ、テクスチャの影響は多少は残る。ああも生徒の姿を逸脱するのはおかしい。それに、想定よりも弱弱しいうえに、死に体ときている。

 

 

「それは、アヌビスのせいですね」

 

「何?」

 

 

 真剣に耳を傾けるマエストロに、黒服は上機嫌で語る。あくまで仮説だと言う注意も忘れない。

 

 

「彼らがああなった経緯はさっぱり分かりませんが、アヌビスの様子を見る限り、何度も交戦しているようです」

 

「であろうな。楽園の破壊者に対して、セトとホルスは全力で抵抗するだろう。滅ぼすまで止まりはしない。それが関係すると言うのか?」

 

「マエストロ。アヌビスの権能を見たでしょう?」

 

 

 アヌビスの権能。生あるものを死へと誘う力。黒服はその力が振るわれるのを確かに見た。

 

 

「幾ら崇高とはいえ、権能が相手では分が悪い。当たれば文字通りに死ぬでしょう。それこそ彼らは何度も死んだのでしょう。そして、その度に蘇る。互いがお互いを忘れない限り。夜となり日が沈んでも、朝になれば日が昇るようにね。太陽は不滅の象徴ですし、昼夜が入れ替わるようになど、まさに太陽の船にピッタリでしょう?」

 

「……話が見えないが。つまり、そのまま蘇ると言う事だろう?」

 

 

 確かにそうではあるのだが、これにはまた違った知識が必要だった。黒服はくつくつ笑って、話題を切り替える。

 

 

「時に話は変わりますがマエストロ。生物の進化というモノを知っていますか?」

 

「様々な説があると言うあれだろう? 一般常識程度ではあるが知っている」

 

 

 進化とは、生物の形態が時を経て変わっていくことだ。その理由や分類は幾つかあるが、ここでは割愛する。重要なのは、進化の速度は種によって違うと言う事だ。

 

 

「進化の速度は種によって様々ですが……環境の変化や、構造の単純さなどがあります。ただ一般的には生死のサイクル。つまりは世代交代が速い種程、進化の速度は速いと言われています」

 

「待て、黒服。まさか……」

 

「いえ、マエストロ。貴方の考えで合っていると思いますよ?」

 

 

 わなわなと震えて、マエストロは言葉を絞り出す。

 

 

「進化したと? アヌビスの権能で死に、自らの権能で蘇るたびに、死に対して耐性をつけたと?」

 

「耐性と言うのもおかしな話ですが。それで合っています。つまりは人が生まれ死ぬまでのサイクルをごく短時間で繰り返したわけです。それだけ繰り返せば、晒された死に対して進化の一つや二つはするでしょう」

 

 

 毎年冬になると流行するウイルスのように、死ぬ度に身体が変化していっても不思議ではなかった。時間にして何万年分なのか、黒服には想像もつかない。

 

 

「彼は学んだのでしょう。地形に左右されずに追跡できるよう翼を生やし、死に対抗するためにいらない機能は全て切り捨てた。その結果があの異形という訳です」

 

「いや、しかし、それでも。死からは逃れられない」

 

「そうですね。でも、誤魔化すことはできるのではありませんか?」

 

 

 そこまで言えば、マエストロはやっと得心が行ったようだった。

 

 

「確かに、死にかけであれば効くまい。もうほぼ死んでいるのだからな。だからこその、あの醜態か」

 

「あのアーマーは防具ではなく補助です。身体の機能は最低限でしょうから、ほぼ感覚や記憶は死んでいるでしょう。精々が聴覚と、契約で強引に見えるようにした契約対象と内容くらいですか。その聴覚も意味は理解できず、視界もまともに見えはせず、言葉を発せもしない。内容も詳しくは思い出せないでしょうが……」

 

 

 恐らくは、契約に関連する人物や物しか見えない。見えたとしても、サーモセンサーの人影の如くぼやけたモノで、誰とも判別がつかないだろうが。

 

 それと攻撃してきた者か。それをされれば、相手に関わらず全力で抵抗するだろう。それこそ権能を全開にしてもだ。アヌビスですら逃げ出したのだから、攻撃を加えればどうなるか分からない。

 

 色々と会話の中で考察を繰り返していると、マエストロは残念そうに呟く。

 

 

「ずっと、あのままという訳か? 折角の崇高だと言うのに……」

 

「いえ? 一度アヌビスの権能以外で、完全に殺しきるかすれば、以前の姿に戻るでしょう。”できれば”の話ですが」

 

 

 彼らの不死身には絡繰りがある。自分たちの生死を昼夜に見立てているのだ。あくまで想像だが、セトが表に出ている時は夜で、ホルスが表に出ている時は昼。表に出ている方がやられても、代わりにホルスかセトが出てくるだけ。昼から夜(メセケテット)に、夜から昼(マンジェット)に変わるだけだ。

 

 そして今の彼は死にかけとはいえ、相応に強力だ。並の武器ではあの装甲は抜けない。きっと自分のお手製だ。それを無視できるのはアヌビスの権能だが、それは効きが悪い。通常の手段で全身を吹き飛ばすくらいしなければ。そうでもしないとセトからホルスへ交代しない。

 

 アヌビス以外の攻撃。つまりは純粋な物理的手段で彼らの身体を破壊し、再生させなければならない。そうすれば、かつての身体で蘇るだろう。逆に、そうでもしなければ死に体のままだ。

 

 

「しかし、並行世界とはね。以前にもありましたが……」

 

 

 考え込むマエストロを置き去りに、黒服は独り言ちた。

 

 あの録音装置と、それに仕込んであった記憶媒体。それらから、そのことを推測するのは簡単だった。向こうの自分もそのつもりで渡したのだろう。

 

 きっと、それを自分へと渡すことが契約内容だった。だから、多少の理性を取り戻せた。渡し終わってすぐ消えたのも、アヌビスから自分を庇ったのもそういうことだろう。アヌビスに殺意を向けたことからして、取り戻せる理性は本当に多少なのだろうが。

 

 ふと、録音装置の内容を黒服は思い出した。

 

 彼女も歯がゆいだろう。中から見ていることしかできないのだから。かつて、他人に味合わせたそれを今度は自分が味わっている。

 

 

「彼か、彼の恐怖部分を担当している”彼女”のどちらかが消失しましたか。おそらく空席のそこにホルスが入り込んだ。まさか、死すら通用しないとはね」

 

 

 きっと契約が二人を縛り付けている。”お互いどこにも行かない”という期限を設けず、条件も曖昧なそれ。人生最大の契約の決まり文句、”死が二人を分かつまで”すら跳ね除けて。

 

 

「しかし、幾つか方法は思いつきますが、ゴルコンダ作のアレは先生が厳重に保管しているはず。そもそも、それの存在と効果も知っているのはゴルコンダと私とマダム、スクワッド、先生のみ。ゴルコンダとマダムはもう居ない、スクワッドも私も先生も使う理由がない……ああ、なるほど、そういうことですか。クックック……世界が違っても相変わらず、探究が何か、何も理解しないようですね。さしずめ動機に私への意趣返しも入っているのでしょうか?」

 

 

 一通りの考察が終わり、黒服は一息つく。色々な事の整理がついて、ある程度は片付いた。気分が良いから、自分にしては珍しく、純粋に他者の幸運を祈る。

 

 

「また彼に会えるといいですね。暁のホルス」

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