ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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141話 延長戦

「ここから先は通さないよ」

 

 

 殺気をまき散らして。こちらへ足を踏み出したそれと、茫然と立ちすくむセリカとノノミの間にホシノは盾を構えて割り込んだ。

 

 この様子では、穏便にとは、もういかないだろう。見ただけで話が通じないのが分かる。

 

 

「……」

 

 

 それは無言で杖を構え直す。退く気は無いようで、そのまま歩みを再開する。

 

 トンと、軽い動作から、風に舞う木の葉のような軽やかさで。跳ねたそれはホシノを飛び越して、セリカに向かって杖を槍の如くに突き込んだ。あの図体からは繰り出される動きではない。セリカは反応できていない。ホシノは間に合わない。

 

 

「セリカちゃん!」

 

 

 何とかノノミが間に合って、自分の銃を盾に、攻撃を受け止める。ギリギリとノノミの銃と奴の杖が音をたててぶつかり合う。

 

 

「うっ!……ぐっ……!」

 

「……」

 

 

 ノノミの額に汗が伝っている。彼女の剛力のおかげで何とか鍔迫り合いが成立していた。成立とは言っても、ノノミは両手で、向こうは片手だ。均衡はすぐに崩れる。

 

 その前にと、ホシノは砂の上を駆けて、側面に回り込み、銃を構えた。

 

 視界の端には、動揺から立ち直ったのか、セリカが同じように銃を構えている。

 

 引鉄に掛けた指に力が入る。どれくらい効くかは分からないが、ショットガンの一撃だ。吹き飛ばすまではいかなくとも、体勢を崩すくらいの効果は期待してもいいだろう。

 

 

「なっ!」

 

 

 それの行動と、それが齎した結果に三人の口から驚きの声が漏れる。

 

 奴は足を振り落としただけだ。それだけで十分だった。

 

 それの足に纏わり付いた。おそらくはかなりの密度で圧縮された空気。それが、相手の踏み付けと共に解放された。

 

 轟と吹き荒ぶ風の音。今ここに至っても声を出さないそれの雄叫びにも聞こえるそれが、ホシノ、ノノミ、セリカの三人をまとめて吹き飛ばした。

 

 

「ちぇっ、あんまり効いてないね……」

 

 

 一応、吹き飛ばされる直前に何発かは打ち込んだが、それはピンピンしている。威力の殆どは風圧に殺されたようだった。

 

 ただ無駄ではない。それの狙いが、ホシノに切り替わった。さっきまでよりも強い殺気が向けられている。

 

 

「いいよ。来なよ。君の相手は私だよ」

 

 

 返答代わりの踏み込み突きを、盾で何とか逸らす。

 

 

「セリカちゃん! ノノミちゃん! いつもの!」

 

 

 言葉少なく、作戦を二人に共有する。いつものとは、ホシノが盾役で、残りが攻撃役というシンプルなものだ。

 

 ホシノは攻撃を逸らした左手を見る。ビリビリとした痺れが残っていた。

 

 

 ──重いね……まともに受け止めるのは無理そう。

 

 

 逸らしてこの威力だ。銃弾とは比べ物にならない重さ。あの杖と銃弾では、そもそもの質量が違うから、当たり前の話だと思うが、普通はあり得ない。あの長さの杖を銃弾並みの速度で振り回している。

 

 あの踏み込み突きだって、逸らしたのに、流されもしない。あの威力で、奴にとっては小手調べなのだ。

 

 

「効かない……!」

 

 

 左右からの二人の十字砲火に怯みもしない。拳銃弾ではなく、貫通力に優れたライフル弾。ノノミに至ってはそれを毎秒数百発吐き出すミニガンなのに。装甲の表面に火花が散るだけ。躱す素振りもない。

 

 そのまま、ホシノへ向かって滑るように接近する。

 

 

「うっ、ぐっ」

 

「ホシノ先輩!」

 

 

 盾の上から杖の乱打が叩きつけられる。片手で押さえられず、両手でないと盾が吹き飛ばされそうだ。ホシノとの相性は最悪だった。そもそも攻撃が効いてない時点であれだが。体格と膂力の差がもろに出ている。ただ攻撃の嵐を縮こまって、凌ぐことしか出来ない。両手の痺れが限界に近づいていた。

 

 

「ホシノ先輩から離れて下さい!」

 

 

 銃撃が効かないとみるや、ノノミが銃を振りかぶり、攻撃を続けるそれに殴りかかる。

 

 ギロリと視線だけをノノミに向けたそれは、背後から迫るノノミの銃を翼を広げて流した。地面へと流された銃の重さでたたらを踏むノノミに、回し蹴りが入る。

 

 何とか銃を盾にするが、息を詰まらせてノノミは吹き飛ぶ。

 

 

「ノノミ先輩! コイツ! いい加減にしなさいよ!」

 

 

 セリカが怒号と共に、ライフルを連射する。装甲の継ぎ目を狙ってくれているのだろうが、全く効いていない。

 

 

「……まさか、皆! 二つ投げるよ!」

 

 

 ホシノは盾の中で縮こまりながらも、腰の物を二つ足元に転がす。

 

 一、二、三。キッカリ三つ数えると強い光が辺りを塗り潰した。

 

 閃光手榴弾の爆発だ。見た感じはマトモに直撃したはず。盾越しのホシノや目をつぶったセリカやノノミは平気だが、奴はそうもいかない。

 

 しかし、変わらない。閃光に隠れて距離を離したにもかかわらず、ヌルリと滑るように距離を詰めてくる。それが片手で回転させる杖の先端が、空気を切り裂く音がやけに大きく聞こえた。

 

 このままでは、さっきまでと同じで、太鼓代わりにされるだけだ。ホシノもそれは分かっている。

 

 これはただの確認だ。本命は次だ。

 

 また三つのカウントの後に激しい金属音が鳴り響く。二個目の音響手榴弾が炸裂したのだ。

 

 

「やっぱりね」

 

 

 ガンガンと痛む頭を我慢して、ホシノは目の前のそれの様子を見る。

 

 今度は効いていた。

 

 頭を押さえて、地面を転がるとまでは行かないが、ピタリと動きを止めていた。視線はホシノを追っているが、その場から動こうとしない。

 

 

「あまり目が見えないんだね」

 

 

 見えないわけでは無いが、自分たち程は見えないのだろう。だから、閃光手榴弾の効きが悪かった。視界をあまり頼りにしているわけでは無いからだ。

 

 じゃあ、どうやって判別しているのか。

 

 

「耳だね。音を聞いてるんでしょ」

 

 

 それは何も答えないが、恐らく正解だとホシノは確信していた。きっと銃声が攻撃か敵対の意思表示だと認識しているのだろう。だから、セリカの怒声ではなく銃声に反応した。盾を構えるホシノではなく、発砲したセリカに向かって攻撃した。ホシノやノノミに攻撃を繰り出したのも、発砲して銃声を出してからだ。

 

 怒鳴り声が向こうを刺激するのではないかと、セリカを強く止めなかった自分に臍を噛む。しかし、もう後の祭りだ。

 

 

「それで、銃は効かないみたいだけど。効くものもあるよね」

 

 

 様子見に入っている奴に、ホシノは後ろの二人と、もう一人に情報共有がてらしゃべり続ける。話が通じているのかは分からないし、音響手榴弾のせいで、こうなっているのかも知れないが気にしない。聞き入っているのなら、それでいいし。そうでなくとも時間稼ぎができている。

 

 

「衝撃とか、高熱とかは効くみたいだね。さっきもそうだったでしょ?」

 

 

 墜落した後、コイツはビナーの熱線で焼けただれていた。そして、こちらの攻撃にはほとんど無抵抗で攻撃してきたコイツが、唯一防いだ攻撃はノノミのミニガンによる殴打だった。

 

 幾ら装甲が固くとも振動は通ってしまう。だから、コイツはあの攻撃だけは受け流したのだ。そして、衝撃や熱を通す方法は、何もビナーの熱線やノノミの殴打だけではない。もっと強くて両方を与えられるものをホシノたちは持っていた。

 

 

「そろそろかな。お願い。カヤツリ」

 

『了解した』

 

 

 直後、直立していたそれに、炎を纏う雷の槍が突き刺さった。

 

 

 

 

「ダメか?」

 

「ダメだね」

 

 

 カヤツリが後ろから声を掛けると、残念そうにホシノは首を横に振っていた。

 

 

「直前で翼を盾にしてたよ。貫通してなかったでしょ。たぶん身体に直当てしないと駄目みたい」

 

 

 離れた砂丘の方へとホシノは視線をやっている。そこには大きな砂煙が上がっていた。直撃の勢いのまま、それは後方へと吹き飛んで行ったからだ。そのままの勢いで砂丘に激突したようだった。出てくるにはしばらくかかるだろう。

 

 

「状況はアヤネ後輩からの伝達で知ってるが……」

 

 

 自分の言葉にびくりとセリカ後輩が反応するのが見えた。自分でも頭に血が上り過ぎたと思っていて、かなり後悔しているらしい。

 

 

「セリカ後輩」

 

「……うっ」

 

 

 かなり気まずそうに俯いている。自分の浅慮が原因でこうなっているのだから、この反応は正しい。

 

 

「次は気をつけろよ」

 

「え?」

 

 

 カヤツリはむしろ、この反応であることにほっとしていた。こんなに後悔しているのなら、次はやらないし、セリカ後輩はそれができる人間だった。

 

 当のセリカは目を白黒させて、ホシノやノノミ後輩に肩を軽く小突かれるのを享受していた。おそらくアヤネ後輩からも後でされるだろう。

 

 

「で? どうするの」

 

「戦うしかないだろう。ヘリじゃ追いつかれるし、便利屋はすぐに来るが……」

 

「間に合わないね」

 

 

 砂丘から、また砂煙が新たに発生した。砂のヴェールを突き破って、何かが飛んでここまでやってきている。便利屋は間に合わない。

 

 

「それで、打撃は効くってことで良いのか?」

 

「そのはずだと思うよ。ね? ノノミちゃん」

 

「はい、いきなり反応しましたから……だから、それを?」

 

「うん。ホントはもっと丈夫なのがいいんだけど」

 

 

 ノノミ後輩が、自分が持つ長い鉄の棒を見て、不安そうな表情をしている。手に持つこれは何の変哲もないただの鉄の棒だ。ヘリの中の資材として積んであるものを拝借してきた。一応は滑り止めとして、ビニールテープを巻きつけてはいるが、それだけだ。

 

 

「安心しなよ。ノノミちゃん。それより流れを確認しようか。直ぐにあれが来るよ」

 

 

 ホシノの一言で、ノノミ後輩は気にしないことにしたようだった。それと同時に、セリカが焦ったように砂丘の方をちらちら見ている。

 

 

「もう一度これをぶち込む。そして、戦闘不能になっている間に隠れて逃げる。おそらくこれしかまともに効かないだろうから。結論はこれだ」

 

 

 ホシノの推測であれば、一度視界から外れて距離を取ってしまえば判別は難しいはずだ。一度振り切ってしまうか、他の敵に擦り付けるのもいい。ビナーと敵対していたようだし、執念深いと言うことは無いだろう。

 

 

「チャージまでしばらくかかる。それまで足止めして、何とか動きを止めて、これを叩き込む。簡単だろ?」

 

「いやいやいや! 簡単じゃないわよ! いくら先輩でも一か所に縛り付けるのは難しいでしょ!」

 

 

 セリカ後輩がいつもの調子で反対する。立ち直ったところに否定をぶつけるのは嫌だったが、そこは心配ない。

 

 

「そこは秘策があるから。セリカ後輩たちがやるのは、ここら一帯に足止めするだけだ。それならできそうだろ?」

 

「それなら、まあ……できるけど」

 

「あとは……ほら、持っててくれ」

 

 

 ノノミ後輩へ、レールガンを押し付ける。カヤツリ以外はノノミ後輩くらいしか持てないのだ。リチャージ中ではあるが、追加装甲を増設してあるから、盾くらいにはなるはずだった。

 

 通信越しのアレに使い慣れてるとはいえ、長物一本で挑もうと言うのだ。余計な荷物は持って貰うしかない。ここにホシノと自分がいる以上、問題なくリチャージは進む。撃つときにだけ投げ渡してもらえばいい。

 

 ノノミ後輩はある程度はもう分かっているのか、特に反論もなさそうだ。それに時間切れだ。

 

 

「……」

 

 

 四人の前にそれが上空から降って来る。

 

 盾代わりにしたであろう翼は再生途中なのか、炎に包まれている。飛んでくるのに酷使したせいか、治り切ってはいないようだ。

 

 それとカヤツリは睨み合う。初対面ではあるが、あまりいい気はしない。

 

 

「カヤツリは好きなようにやって。私たちは勝手に動くから」

 

「分かった。じゃ、行く」

 

 

 ホシノに一声かけて、カヤツリは前へと踏み出す。そのまま腰の回転を乗せて、横面へ鉄棒を叩きつけた。

 

 

「モロに入ったな……」

 

 

 別にそいつは反応しないという訳ではない。風切り音か何かで反応はするが間に合っていないだけだ。それに、カヤツリが持つ鉄棒は本当にそこらの鉄棒だから、装甲には傷すらついていない。

 

 ただ、そいつはよろけていた。幾ら装甲が固かろうが、衝撃までは消せないのは常識だ。それを、ロボット兵相手に繰り返していたカヤツリは良く知っている。本当に久しぶりだが、身体はちゃんと覚えてくれていた。

 

 

「一、二、三、三、四」

 

 

 かつてよくやったように、相手のリズムに合わせて棒を突き込んでいく。こうなると知っていれば、こんな鉄の棒ではなく、以前使っていた物を持ってきたというのに。

 

 そんな事を考えている間も、向こうも杖で抵抗するが、自分に比べれば拙いものだ。大げさなフェイントを混ぜると面白いように引っかかるから、目が良く見えないのもあっているのかもしれない。それにしては、無線で聞いた感じと比べて、やけに弱いような気もする。雷も風もそれほど使ってこない。

 

 

「風が来るわ!」

 

 

 セリカの叫びに全体を見ると、じれったくなったのか、地団太を踏むように足を振り上げるのが視界に入る。

 

 反応するまでもなく、軸足に鉄棒を叩きつけた。棒がしなる程の威力で叩いたおかげで、相手は崩れたバランスを立て直そうとして、風は中断された。

 

 そのまま攻撃を続行するが、急に攻撃が受け止められるようになった。よく見れば、翼が復活しかけている。翼が生えたせいで、機動力が上がり、対応力が上がっていた。

 

 

「やらせません!」

 

 

 ノノミ後輩が、ミニガンをまだ残り火が熾きている翼に向かって掃射する。復活途中は攻撃が通るようで、圧倒的なミニガンの連射速度の前に、徐々に翼が削られていく。

 

 

「チッ……まさか、まだ復活しきってなかったってことか?」

 

 

 が、それも長くは続かない。遂に翼が復活し、機動力が段違いになった。滑る様な動きが非常に読みにくい。押し込んでいたカヤツリが逆に押し込まれる事態だ。

 

 杖の殴打が重い。流したり持ち手に近いところで受けたりと小細工を弄するが、付け焼刃にもならない。じりじりと円を描くように、立ち位置を調整しながら、叩きにくい位置取りを心がけても、機動力が違い過ぎる。ホシノやノノミ後輩、セリカ後輩が銃撃を繰り出しても大したダメージが入っていない。

 

 

「マズイ!」

 

 

 遂に何発目かの殴打の後、鉄棒を掴まれてしまう。そのまま引っ張り合いになる。どうにも力加減はほぼ同等で、膠着状態に陥った。

 

 一対一のタイマンであれば困ったことではあるが、今のカヤツリは一人ではない。

 

 

「今度は効くよ!」

 

 

 ホシノが至近からショットガンを連射した。弾を入れ替えたようで、恐らく虎の子のスラッグ弾だ。今までとは違う鈍い音が目の前の相手から響く。カヤツリの殴打よりも大きく相手の身体が揺らいだ。

 

 

「ノノミ後輩! あとどれくらいだ!」

 

「もう少しです!」

 

 

 背中にレールガンを背負ったノノミ後輩の声に被さるように、待ち望んでいる音が聞こえた。遠くの方から、音が聞こえる。何かの上を通る規則的な音だ。それと、笛のような鈍い大きな音。

 

 

「待たせたわね! 真打の登場よ!」

 

 

 車両の屋根に乗った便利屋が大声で叫んでいる。彼女たちが運転する砂漠横断鉄道が猛スピードで、向かって来ている。

 

 考えていた作戦は簡単だ。車両でそいつに向かって突っ込む。非常にシンプルで分かりやすい。それぐらいすれば、奴とて流石に堪えるはずだった。誘導はアヤネ後輩とヴェリタスのマキに投げたが、上手くやってくれたらしい。

 

 奴に対して、渾身の突きを叩き込む。それは防御するが、それとなくカヤツリが誘導していた線路の上へと押し込まれる。そこへ便利屋が運転する砂漠横断鉄道が突っ込んでくる。

 

 

「あっ、飛んで──」

 

 

 ノノミ後輩が絶望したように叫ぶ。翼をはためかせて、それは線路の上空へと逃げようとしていた。このままでは躱される。

 

 

「セリカちゃん!」

 

「さっきのお返しよ! 食らいなさい!」

 

 

 セリカ後輩が、ホシノが投げた音響手榴弾を打ち抜いた。再びの金属音が響き、それは方向を見失い、線路へ落下する。

 

 

「砂漠横断鉄道よ!」

 

 

 後方車両の屋根に乗ったアルの大声ともに、線路のそれに向かって、電車が追突した。鈍く重い音が辺りに響く。

 

 

「うえっ、嘘でしょ!」

 

 

 アルがさっきとは違う情けない様子で、驚き叫ぶ。

 

 それは電車を正面から受け止めていた。勢いは殺しきれずに、足と線路の間で火花が散り、全身にダメージが入っているのか、炎が走っている。

 

 

「社長! マズいよ! 持ち上がってる!」

 

 

 それは車両の下に手を突っ込んで力任せに持ち上げようとしていた。そして車両が段々と傾いできている。

 

 

「カヤツリ先輩! 終わりました!」

 

 

 ノノミ後輩が投げ渡すそれを急いで受け取り、車両を受け止めるそれに向けて構える。

 

 レールガンの装甲が展開して、唸り声を上げ始め、砲身が展開し、延長した。

 

 

「行くよ、カヤツリ!」

 

 

 ホシノがレールガンを構えるカヤツリを後ろから支える。カヤツリはそのまま、引き金を引き絞る。

 

 先ほどとは大きさが倍ほど違う砲撃が、車両ごと、炎に包まれるそれを飲み込んだ。

 

 

 □

 

 

「……やったの?」

 

 

 運転席が吹き飛ばされ、前進を止めた車両を見てアルが呟く。アルの言葉に誰も反応しないまま、砂丘の影に隠れて、砲撃に飲み込まれてできた瓦礫の山を遠巻きに見ている。

 

 

 全員が見守る中で、瓦礫からふらりと何かが立ち上がった。

 

 

「くふふ……アルちゃん。それはフラグだったね」

 

「やめてよ。社長が言うから、ホントになっちゃったじゃん……」

 

「え!? 私のせいなの!?」

 

 

 騒ぐ便利屋は別として、瓦礫の山から立ち上がったのは、全身が炎に包まれたそれだった。隠れたカヤツリ達の位置が分かっているのか、こっちを見ている。

 

 

「……本当に何なのよ!?」

 

 

 あまりの不死身ぶりと規格外ぶりに、セリカ後輩が現実逃避のように叫びだす。その間にも、それの炎は収まっていき、さっきと全く変わらない様子のそれが立っていた。

 

 ゆっくりとそれはカヤツリ達を見渡す。全員がつばを飲み込んで、息を殺すことしかできない。

 

 

「……」

 

 

 それは何を思ったのか、そのまま上空へと飛んで行ってしまった。カヤツリ達を置き去りにしてだ。緊張が走っていたその場の空気が弛緩していく。

 

 一分、二分、五分と、何も起こらないのを確認し、やっと全員が作戦の成功を確信した。

 

 乱入者と、それの方がビナーより手古摺る、急に乱入者が退場するとハプニング続きではあったが、成功は成功だ。全員が喜びの声を上げる。

 

 ふと、カヤツリは感極まって抱き着いて来たホシノの、体当たりの衝撃で、さっきの疑問の答えの切れ端を思いついた。

 

 

 ──そういえば、奴の目が何かおかしかったような……

 

 

 けれど、誰も答え合わせができるはずもなく、その断片はすぐに喧噪の中に埋もれてしまった。

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