ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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145話 正体

「……来ましたね。シロコ先輩が」

 

 

 先生の隣でアヤネが呟く。彼女の言う通りに、次元エンジンの前にシロコが待ち構えていた。第一・二次元エンジンは、対策委員の前に為す術なく破壊されてしまったから、今度は手下任せでなく、自分でも防衛しようと言うのだろう。

 

 本船の艦橋での映像からでも、第三次元エンジンの前に立つシロコと、その周りに控える無名の守護者やユスティナ聖徒会の複製が良く見えた。

 

 とんでもない数ではあるが、立ち向かう対策委員会は、怖気づく様子もない。大事な後輩を連れ戻す。それだけの為にここまでやってきているのだ。

 

 そんな対策委員と、脇に見えているであろうホログラムの先生に、シロコは感情の読めない瞳を向けるだけだ。

 

 

「シロコ。一ついいかい」

 

『何。先生』

 

 

 無視されやしないかと、一か八かで聞いてみた先生だったが、シロコの返事に内心喜ぶ。

 

 

「どうして、プレナパテスの言う事を聞いているんだい?」

 

 

 ずっと聞いてみたいことだった。今までずっと、シロコが言ってきたことではあるけれど、それは一番大事な事だったからだ。その理由をはっきりと、先生が納得できなくても、シロコがそう信じる答えを聞いてみたかった。

 

 

『違うよ。先生。逆』

 

 

 けれど、帰ってきた答えは、質問の答えでは無かった。シロコは能面染みた表情で告げる。

 

 

『私がプレナパテスの言う事を聞いているんじゃないの。色彩の嚮導者が私の言う事を聞いているの』

 

 

 それは、いつもの答えと同じだった。シロコが世界を滅ぼそうとしている。ずっとシロコはそうとしか言わないのだ。けれど、先生が聞きたいのはその先だった。どうして世界を滅ぼそうとしているのか。ずっとそれが聞きたいのだ。

 

 役目とか、義務とか、そういうモノを抜きにしたシロコの本音が先生の聞きたいものだった。

 

 

「シロコ──」

 

「先生。大事なことが、シロコさんの反応なんですが……」

 

 

 シロコに再度、質問を投げかけようとした先生に、ヒマリが困惑の表情でタブレットを突き出した。簡易的な箱舟の地図の中心部に光る点がある。そこがシロコの居場所なのだろう。ただシロコは第三区画の次元エンジンの前にいるから、ヒマリが、このタイミングでこれを持ってきた理由は謎だった。

 

 

「待って、第四区画……? どういうこと?」

 

 

 箱舟の中心部は第四区画だ。シロコがいるのは第三区画。物理的にあり得ない。人は同時に二か所に存在することはできない。でも、目の前の現実はそれを否定していた。

 

 

「シロコ先輩が二人……?」

 

 

 アヤネが信じられないような表情で呟く。この呟きが聞こえたのか、対策委員会も少しだけ動揺しているようだった。

 

 しかし、今までシロコだと思っていたシロコそっくりの誰かは、何も言わずに先生たちをみつめるだけだ。

 

 

「ついさっき、反応のあった第四区画の通信機能と監視システムをハッキングしました。そこにも、シロコさんが映っています。それも、ちゃんと制服を着た、アビドスの皆さんの証言通りの姿で」

 

 

 ヒマリの差し出すタブレットの画面が切り替わり、シロコの顔が映った。見覚えのある、マフラーを巻いたシロコの姿だ。

 

 

『ん。やっと繋がった』

 

 

 聞きなれたシロコの声だった。画面の中のシロコは安心したように、対策委員へと話しかけている。

 

 

『ケガはないんですか? シロコちゃん』

 

『そうよ。心配したんだから』

 

『ん。自転車に乗っている時に攫われただけ。急に地面に穴が開いたから、逃げられなかった』

 

 

 ノノミやセリカの安堵が混じった声に、シロコはしっかりと返事をしている。安心する先生に、ヒマリが情報を追加する。

 

 

「シロコさんの居るエリアは、第四区画の閉鎖されたセクションです。そこは箱舟の上部、物理的に隔離された特別エリアを破壊しなければなりません」

 

『それは私たちがやるからいいよ。先生は、シロコちゃんが戻ってこれるように、通路の確保をお願い』

 

 

 つまりはシロコの居る第四区画から本船のある第一区画までの道を確保すればいい。それはゲーム開発部や美食研究会の力を借りれば容易いことだ。その前に、やらなければいけないことがあるが。

 

 

『させると思う?』

 

 

 もう一人のシロコが淡々と、対策委員たちに向かって告げるが、対策委員たちは何も答えず、次元エンジンに向かって銃を構える。先生はシッテムの箱で援護しようとして、そこへ近づく何かに気づいて叫んだ。

 

 

「皆、下がって!」

 

 

 直前で感づいたのか、もう一人のシロコも対策委員と同じように、次元エンジンから飛びのく。直後、次元エンジンとその周囲の敵を巻き込んで、閃光が辺りを薙ぎ払った。

 

 

『……』

 

 

 壁を強引に焼き切って、黒い鳥が現れていた。その手の光る槍が薙ぎ払った次元エンジンは壁と同じように溶断されている。周りの敵は跡形もない。

 

 黒い鳥はそのまま、シロコに向かって視線を向けて、またじっと見ている。シロコも黒い鳥が何を考えているか分からないようで、膠着状態に入っていた。

 

 

「皆、今のうちに、特別エリアへ!」

 

 

 これは好機だった。シロコが動けない今だけが、ここから無事に離脱できる。それは対策委員も承知なのか、離脱の準備を始めていた。

 

 

『行かせ──ッツ』

 

 

 止めようとシロコが動こうとした瞬間に、黒い鳥がピクリと反応する。シロコは悔しそうな顔で対策委員を見送る事しかできない。そして、対策委員は無事に、その場から離脱する。

 

 それを見届けた先生は、自分のやるべきことをするために、席から立ち上がった。

 

 

 □

 

 

「ちょっと、これは手が出ないねぇ……」

 

 

 物陰に隠れながら、通路の先を見て、ホシノはお手上げというように呟いている。

 

 ホシノの視線の先。そこには目標としている箱舟の特別エリアへ通じる通路があった。後は、それを今までのエンジンと同じように破壊するだけなのだが、最悪なことに通路で戦闘が始まっていた。

 

 通路には、シロコが配置というか、転送したのだろう無名の守護者やユスティナ聖徒会の複製がたむろしている。勿論ここから前も先もそうで、戦闘している片割れは、そいつらだった。

 

 もう片方の方は黒い鳥が暴れまわっている。おそらくは、あのシロコに際限なく雑兵をぶつけられて、振り切られたのだろう。攻撃方法も砂漠の時やさっきの地面に立っての格闘は鳴りを潜めていて、上空を高速飛行しての爆撃に切り替わっていた。

 

 問題なのは黒い鳥の爆撃だった。爆撃というよりもゲームに出てくるドラゴンブレスの方が近いかもしれない。黒い鳥から放たれた火の波が、通路にひしめく敵を押し流している。

 

 

「……火?」

 

「火にしちゃ妙だが……なんか帯電してないか……?」

 

 

 無名の守護者やユスティナ聖徒会も多少は考える頭があるのか、遮蔽物や装甲の厚い仲間を盾にしてやり過ごそうとしていた。しかし、炎に触れるか触れないかの距離で痺れたように動かなくなり、そこを炎が焼き尽くしていっている。

 

 通路は炎の海だった。炎だけでなく紫電も走っている。通路を溶かさないように火力は調整したのか、先ほどまでの勢いはないが、しばらくは燃えていそうだった。

 

 

「やっぱり、収まるまで様子を見るしかないな……」

 

『まだ時間は残っていますから、焦らなくても良いと思います。消えるまで待つべきでしょう』

 

 

 アヤネ後輩の言う通りに、足を踏み入れれば、敵たちと同じ末路を辿るだろう。黒い鳥の目的は今の所、あっちのシロコの様だし、戦闘が終われば何処かに行くに違いない。カヤツリは一応、先生に無線を繋げる。

 

 

「先生」

 

『把握しているよ。向かってるんだけど、こっちも手間取っていてね。安全策で行こう』

 

 

 何やら無線の向こうの方で戦闘音が聞こえる。先生の邪魔の為か本船の方にも敵が攻め寄せているらしい。先生の指揮とゲーム開発部や美食研究会の声も聞こえるが、まだ余裕を感じられる声だった。

 

 

「じゃあ、休憩だね。やっぱりおじさんには堪えるよ~」

 

 

 早速というように、ホシノが通路脇に腰かけている。そんな事を言いながらも、周りを警戒できる場所に座るのはホシノらしかった。カヤツリもホシノがカバーできなさそうな範囲を選んで壁に寄りかかった。後輩たちも、二人に続くように思い思いの好きな場所に座り込む。

 

 ちらりと周りを警戒するが、敵は全員が黒い鳥の方へと向かっているようだった。おかげで戦闘が収まる気配はない。そして肝心の黒い鳥は何処かに行ったようで、姿は見えないが、遠くから戦闘音がする。

 

 

「何で、あれは戦ってるんでしょう……?」

 

「あっちのシロコ先輩を追っかけるのを邪魔されてるからじゃないの?」

 

 

 ノノミ後輩の零した疑問に、セリカ後輩が、”当然でしょ”とでもいうように答えた。それでも、ノノミ後輩は納得いっていないようだった。

 

 

「あのシロコちゃんみたいに瞬間移動が使えるなら、そうすればいいのにってこと?」

 

「はい……それに、目的も分かりません。アビドス砂漠で私たちを襲ったかと思えば、急に撤退しましたし。艦橋のもそうです。あのシロコちゃんが目的なら、そこで、今みたいに暴れればよかったんです。私たちなんて気にする必要は無いんですから」

 

 

 ホシノの答えに、ノノミ後輩は肯定しつつも、自分の考えを言っている。それはおそらくはカヤツリ以外の全員が気になっている事だった。

 

 あの黒い鳥の目的は何なのか。

 

 それについては、手始めにセリカ後輩が切り出した。

 

 

「どっちかのシロコ先輩を狙ってるのよ。あの電話の時も、艦橋の時も、何かしようとしてたじゃない」

 

『でもセリカちゃん。悪意は無かったと思うよ。電話の時はどうも状況が違うみたいだし、さっきは砂漠の時みたいな殺気は無かったし……』

 

「わけわかんない……頭がおかしいんじゃないの」

 

「そうだと思うよ?」

 

 

 セリカ後輩の半分は鬱憤かつ悪口の冗談に対して、ホシノが頷いた。セリカ後輩はホシノの答えに、顔を顰める。

 

 

「ホシノ先輩……冗談言ってる場合じゃ」

 

「本気だよ。セリカちゃん。少なくとも、アビドス砂漠の戦闘時はそうだったと思う。カヤツリもそう思うでしょ」

 

 

 急にホシノが話を振ってきても、カヤツリは直ぐに反応ができなかった。周りを警戒していたのもあるが、あまりこの話題を掘り下げたくは無かったのだ。けれど、そのことを気取られるのも嫌だったから、カヤツリは自分なりの答えを返す。

 

 

「そうだと思うよ。砂漠の時は、獣みたいな感じだったけれど。艦橋の中じゃ、随分と理性的だった」

 

『どうして、そんなに対応が違ったんでしょうか。砂漠の時の対応は分かります。ビナーを攻撃したのも、先に攻撃されたからでしょうし。私たちと戦闘になったのもセリカちゃんのがあったからです。……いえ、ちょっと待ってください』

 

 

 カヤツリは心の中で悪態をついた。アヤネ後輩なら気がつくと思っていたが、こんなに早いとは思わなかったからだ。

 

 

『最後。私たちを見逃しました。あれは……』

 

「あそこで変わったんだよ。正確には、電車で轢いて、レールガンを直撃させた時だ」

 

 

 カヤツリは、もう面倒くさくなっていた。やけくそと言ってもいい。誤魔化すのはもう、無理そうな予感がしたのだ。

 

 

「あの時初めて、目が見えたんだろうさ」

 

 

 だから、あの時からずっと、何かを探るようにシロコやホシノを見るのだろう。

 

 

「……だから、見逃したってわけ? 目が見えるのと、頭がおかしいのに何の関係があるのよ」

 

「そうです。ホシノ先輩の見立てでは、目が見えないのに。いきなり目が見えるようになると言うのも変です」

 

「そうだよ。奴は変なんだから。そもそも、あの耐久力からして異常だろう。きっと耐えてるわけじゃないんだろうな」

 

 

 ホシノの話では、装甲が焼けただれていたが、炎が走って復元したと言う。話だけ聞いたカヤツリは、装甲が特別性か何かなのかと思ったが、あのアビドス砂漠での戦闘を見て、考えを改めた。

 

 

「再生だよ。あれは」

 

 

 レールガンの砲撃も耐えきったわけでは無いのだ。身体の幾らかを吹き飛ばされても再生しただけだ。艦橋の出来事も反動など関係ないのだ。反動があっても回復するのだから。

 

 

「それは、分かりますが……初めから見えないのが、どうして見えるようになるんですか?」

 

「ああ、あれは殴ったからだよ。音だけじゃ対応できないから、視覚を戻したんだ」

 

「それは分かったけど……何で理性的になるのよ」

 

 

 セリカ後輩の疑問に、カヤツリはため息をついた。中々、気持ち悪い話になるからだ。

 

 

「砂漠の時に多分、攻撃で頭が吹き飛ばされたんだろう。その時に頭を戻すついでに視界を戻した。それで、決め手は本船の反動だよ」

 

 

 きっとその時に、多少は思考が戻ったのではないだろうか。その後、本船の反動で再生する度に、脳をある程度補強したのだろう。

 

 

「詳しくは分からないけど、機械的な思考は戻ってるんじゃないか? だから、あんなに理性的に見えるんだ。今は無駄なダメージを避けるために、瞬間移動はしないんだろう」

 

 

 艦橋の様子を見た感じ、数秒は完全に動きが止まるようだ。たぶん意識も飛んでいる。それを戦闘中にやるのは致命的だ。

 

 

『シロコ先輩を追うのは? まさか、見分けがついていないってことでしょうか……?』

 

「さあ? そこまでは分からない。でも、シロコ自体が目的ではないんだろう。たぶん、目印か何かにしてるんじゃないか。だから、あんなにじろじろ見るんだ。シロコが目的なら、即行動するだろうから」

 

 

 説明しながら、カヤツリの気分が落ち込んできた。嫌な気分だ。初めて、黒い鳥を見た時と同じ気分だった。

 

 

「……カヤツリ先輩。想像がついてるんですか? シロコちゃんのことも、黒い鳥の事も」

 

「憶測が入るけど」

 

 

 カヤツリはノノミ後輩の言葉に渋々頷いた。艦橋の時のシロコの対応と言葉、数ヶ月前のある事件。それらの事から、薄々は考えていたことだ。けれど、シロコが二人いるという事実で、ほぼほぼ確定してしまった。

 

 ホシノはきっと、途中から気がついているのだろう。途中でセリカの疑問に食いついたのもそうだし、今もずっと黙っているのもそうなのだ。

 

 

「あのシロコは、黒い鳥の正体を知っているみたいだった。それと再生の理屈も。本船の反動を見た時の狼狽えようからして、浅い関係じゃない。黒い鳥の正体はあのシロコの知り合いだよ。なら、俺たちが知っている誰かだ」

 

「……あのシロコ先輩が、こっちのシロコ先輩と同じだとは限らないじゃない……私たちの知らない人かも」

 

 

 セリカ後輩が、どこか言い訳をするかのように呟くが、カヤツリは逃げ道を塞ぐように、別の話をする。

 

 

「俺たちは初めてじゃないだろう。同じ顔をして、同じような経験をした知り合いと似た誰かがやってくるのは」

 

『もう一人の……ホシノ先輩……』

 

 

 アヤネ後輩の答えに、誰も何も言わなかった。

 

 テラノの事を思い出しているのだろう。突然カヤツリ達の前へ現れて、一騒動起こして居なくなった別の世界線からの来訪者。姿は少し違ったが、おおむねはホシノだったテラノ。

 

 この世界にやってきた手段はかなり違ったけれど、テラノとあのシロコの状況は同じだった。なら、あのシロコの状況もほぼこちらと同じだ。全く知らない誰かがいるとは考えにくい。あるかもしれないが、ここでは考えないことにした。

 

 同時に存在する以上シロコではない。姿が違うテラノでもない。そして、後輩たちでもない。

 

 黒い鳥の戦闘方法は銃を使わない。使うのは杖や槍の長物と投擲、それと格闘。最後に電撃と風と炎。

 

 このキヴォトスにも格闘技というモノはある。学ぶ人間もいるが、それを実践で使おうなどと考える者はいない。はっきり言って無駄だからだ。キヴォトスのメインの武器は銃器。銃器相手に接近戦を挑むなど愚の骨頂。密着状態での打開としてはアリかもしれないが、それも格闘や足技だけだ。接近するよりもこちらも銃を使った方が速いし手間もない。長物の扱いなど、普通の学生生活で役立つことはほぼない。だから使い手も居ない。

 

 フェイントに引っ掛かるのもそうだ。面白いように引っ掛かかったのは、動きを知っているからだ。理性が無くとも、身体が勝手に反応するくらいに、良く知っているという事。

 

 そんな奴はカヤツリも一人しか知らない。だから、黒い鳥の正体なんて一つしかないのだ。

 

 

 ──黒い鳥は自分だ。アレは自分の成れの果てだ。

 

 

 あのシロコに何が起こったのかは分からない。けれど、きっと碌でもない事だ。そうでもなければ、伊達や酔狂であんな姿に自分はならないだろう。きっと黒服あたりにそそのかされたか、付け込まれたか。信じたくはないが、自分から行ったのかもしれない。

 

 それは、あまり考えたくない事だった。何故って、ホシノや後輩たち、先生が止めるからだ。だから、黒い鳥がああなっていると言うことは、そういうことだ。もう止める誰かがいないということだ。

 

 そして、あの目。かつてのホシノのようなあの目。全てを失って、何をしたらいいのか分からない迷子のようなあの目。あのシロコは、ホシノのような目に合ったのかもしれない。

 

 自分はそれをどうしようもできなかった。それが悔しいのか、無念なのか、取り返そうとしているのかもしれない。

 

 

「だから、あのシロコは、テラノと同じなんだ。きっとこっちのシロコと同じような経験をした。だから、俺たちの事も知っている。そして、黒い鳥はシロコの事を止めたいんだろう。方法は分からないけどさ」

 

 

 カヤツリは言いたくない事を言わずに、一息に言い切った。後輩たちには言いたくなかった。

 

 別世界とはいえ、あんな自分の成れ果てなんて。それにそうなった経緯も、欠片も悟らせたくは無かった。少なくとも今は。この件は自分だけでゆっくりと消化したかったのだ。

 

 ちらっと後輩たちを見ると、黒い鳥が誰なのか、シロコの目的等を考え込んでいるようでカヤツリは安心する。一番の問題は後輩たちではないのだ。

 

 

「ホシノ」

 

「何……?」

 

 

 近づいたカヤツリの小さな声に、のろのろとホシノは顔を上げた。予想通りに浮かない表情だった。

 

 恐らくはカヤツリと同じ結論に達したに違いなかった。きっとシロコの事が発覚してからだ。もしくはテラノに何か言われたのかもしれない。

 

 

「大丈夫だよ。大丈夫」

 

 

 慰めの言葉を掛けても、ホシノは浮かない表情のままだ。今の言葉にあまり効果が無いことくらいカヤツリには分かっている。

 

 あのシロコが、どのタイミングでああなったのかは分からない。そのタイミングは過去かもしれないし、未来かもしれないからだ。ホシノにとっては最悪だ。”これから、そういうことが起こりますよ。そして貴女は何もできませんでした”と言われたに等しい。落ち込むのは間違いない。

 

 

「カヤツリの言いたいことは分かるよ。まだ決まったことじゃないって言うんでしょ」

 

「うん。分かってるじゃないか。一々未来の事など気にしていられないんだ。未来かも定かじゃないのにさ」

 

 

 黒服の言った事を思い出す。確かに未来の事を知るのは良いことではなかった。けれど、ホシノは首をブンブンと横に振る。

 

 

「そっちじゃないんだよ。カヤツリ。そっちも気になるし、もう一人の私が言った事も、あの黒い鳥のこともあるけど、割り切ったからね。別のことだよ」

 

「じゃあ、何なんだよ」

 

 

 大きく息と同時にホシノは言葉を吐き出す。

 

 

「あのシロコちゃんはどうするの? こっちのシロコちゃんじゃないからって、放っておくの? あの娘もシロコちゃんなんだよ? それに、アレはカヤツリでしょ……? 話を聞いてくれるのかな……」

 

「ああ……」

 

 

 カヤツリは納得した。初めはあのシロコのことを、こっちのシロコだと思っていた。色彩かなにかに触れて変質してしまったと。でも結果は全く違って、シロコは二人いた。カヤツリ達がこっちのシロコを連れて帰ると言う単純な話では無くなっていた。

 

 最終的に箱舟は自爆させる。そして本船に乗って地上へと帰還する。そう言う手はずだ。しかし、あのシロコが言う事を素直に聞くとは思えない。正体だって憶測だ。皆を箱舟に巻き込むようなら、置いて行かねばならないだろう。キヴォトスの破壊を諦めないかもしれない。

 

 そして、あの黒い鳥も話が通じないかもしれない。最悪は、あの二人を見殺しにすることになるかもしれない。

 

 ホシノはそれが嫌なのだ。勿論カヤツリも嫌だが、心配はいらない。

 

 

「先生が反対しても……いや絶対しないだろうが。もし他の皆が危険だとか言って反対しても、俺は諦めない。あれもシロコなんだからな。あのシロコが抵抗しても、最悪は力づくでいけばいい。話し合いなんて、後でも出来るんだからな」

 

「いいの? 他の学園が反対するかも。先生だって、説得できないかもしれないんだよ」

 

「いいよ? 他の学園が何だよ。それは向こうの都合だろうが、別に気にする必要は無いんだよ。先生だけじゃだめなら、俺も動くし、ホシノだって動けばいいんだ。やり方なんて幾らでも考える。変な気を回さなくったっていいんだよ」

 

 

 ホシノはポカンとした顔をした後に安心したように笑う。

 

 

「そうか、そうだよね」

 

 

 カヤツリも笑って、先生に連絡を取るため、機器を手に取る。そして、戦闘の音も、通路の炎もいつの間にか消え去っていた。

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