ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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14話 横槍 

 ビナーが廃都市の地盤を割って出現する。最初の時と同じように、荷台からビナーの頭部に向かってフルチャージの砲撃を叩き込む。直撃の衝撃でビナーは大きく揺れた。

 

 

『いいよ!効いてるよ!』

 

 

 先輩は嬉しそうに叫んでいるが、カヤツリはあまり喜べなかった。レールガンの砲撃を叩き込むのはこれで3回目だ。今回は視界を完全に奪おうと思って残った右目を狙ったのだ。ただ当たる直前に鼻先の方へ場所をずらされた。対応速度が異常に速い。段々と当たらなくなってきている。早めに仕留めた方がよさそうだ。

 

 体勢を立て直したビナーを見れば直撃した部分も抉れてはいるが、初撃と比べればダメージは微々たるものだろう。最初のように完全な不意打ちか、躱せないような状態で一撃を入れるしかない。

 

 レールガンを冷却しながら、ビナーの行動を観察する。割れた地面から首だけ出したビナーは、カヤツリを認識するや否や、今までの熱線ではなく光弾を乱射してきた。弾速が速くて躱せず盾代わりのレールガンを振り回して弾く。

 

 これもそうだ。熱線は躱されると思ったのか、弾速があり連射が効くタイプに変えてきた。その場に拘束されるため非常にうっとおしい。そのままビナーの攻撃を捌いていく。

 

 いったん攻撃が止んだ瞬間に、誘導用のグレネードとスモークグレネードを複数投擲。ビナーを覆うように煙が充満する。視界と神秘探知を一時的に潰されてビナーはカヤツリを見失ったようだった。その隙にカヤツリは近くの廃ビルの影へ撤退する。冷却完了までこれで粘るつもりだった。

 

 逃げられた怒りにのたうち回っているビナーを尻目に、しばらく冷却と休息をしていると先輩から通信が入った。たぶんホシノに頼んでいたものの報告だろう。

 

 

『カヤツリ君。ホシノちゃんが準備終わったって』

 

「分かりました。冷却が終わったら連絡するので、そっちのタイミングでやってください」

 

 

 冷却終了の連絡からしばらくして、ビナーの傍のビルが複数爆発した。そのうちの幾つかは、ビナーに倒れこみそのまま下敷きにした。いくら老朽化しているとはいえそれなりの大きさのビルだ。しばらく動けないだろう。

 

 周辺のビルに爆薬を仕掛けて起爆したのはホシノだった。うまくビナーの方に倒れていくか心配だったが杞憂だった。カヤツリは冷却が終わりフルチャージしたレールガンを今度こそビナーの右目に向ける。そしてモードをフルオートに切り替えた。

 

 

 ──砲撃

 

 

 動けないビナーの頭部にレールガンから放たれた砲弾が突き刺さる。今迄は一発だったが今回はフルオートだ。次々と青い燐光を纏った弾が吐き出され、青い光線の様だった。

 

 ビナーの装甲も当たったところから水で濡れた紙のように砕けていく。砲撃から逃げようとビナーも暴れるが場所が悪い。上には廃ビルが圧し掛かり、下の自分が掘った穴に機体の大半が押し込められている状態だ。手でもあれば話は別だっただろうが、生憎蛇みたいな機体のうえに頭部は地面の上だ。もう動けない。詰みだ。

 

 ビナーはしばらく抵抗していたが、砲撃が背中を貫通すると動かなくなった。頭部のヘイローのようなものも消えている。それと同時にレールガンも停止した。銃身が真っ赤に焼けた上に弾切れだ。カヤツリも限界だった。全身の倦怠感が凄まじく立っていられないほどだった。

 

 

「やったね!カヤツリ!」

 

 

 レールガンを放り出して地面に座り込んだまま振り向くと、ホシノが笑顔で戻ってきていた。相応にテンションが高い。今にも踊りだしそうだった。ホシノの気持ちもわからないわけではない。学校の危機がひとまず遠のいたからだ。それにビナーの残骸もオーナー経由であれば換金できるかもしれない。ホシノに引きずられるようにカヤツリの気分もよくなった。

 

 

「ホシノもありがとな。無事に終わってよかった」

 

「カヤツリもね。大変だったでしょ」

 

「そっちもな」

 

 

 イェイ。と二人でハイタッチ。あとは乗ってきた車で帰るだけだ。残骸はオーナーに連絡して引き取ってもらえばいいだろう。幾らになるかはわからないが、結構な金額になりそうな気がした。

 

 

「さて、幾らになるかな。このビナーは。億はいって欲しいが」

 

「えっ。そんなになるの?」

 

 

 カヤツリの呟きにホシノが反応した。むしろそれで、ホシノの機嫌がいいと思っていたカヤツリは拍子抜けした。

 

 

「なるだろ。こんな強い機動兵器だ。ならない方がおかしい。下手したら学校の借金は全部返せるかもな」

 

「うへへ。なら早く運ぼうよ。カヤツリも手伝って」

 

 

 目を輝かせてビナーをどうにかしようとするホシノにカヤツリは苦笑する。気持ちは分かるが二人だけでは無理だ。ここはアビドス校舎からも遠く、車両も運搬用の物ではない。

 そういえばとカヤツリは思い出す。ビナーに近づき、はしゃぐホシノに気を取られていたが先輩がやけに静かだった。いつもなら誰より先に喜んでいそうなものだったが。カヤツリは連絡を取ろうとするが、雑音ばかりでよく聞こえない。

 

 ──嫌な予感がする。向こうで何かあったのだろうか。ドローンを探そうと、立ち上がって空を見上げたカヤツリの目に何かが映った。上空からビナーの方に何かが降ってきている。降ってきているものにカヤツリは心当たりがあった。ここ数日何度も見たものだ。嫌でも記憶に残っていた。

 

 カヤツリは走ってビナーの傍にいるホシノを庇うように、前に出て拾ったレールガンを盾の様に構える。そんなカヤツリと突然のことに固まるホシノを、降ってきたもの──迫撃砲の榴弾が吹き飛ばした。

 

 

 

 

「発射弾。目標に命中しました!邪魔なドローンも排除済みです!」

 

「そのまま続けろ」

 

 

 カヤツリ達が戦っていた廃都市の遠方に部隊が展開していた。その中で隊長をしていたロボットは呟いた。

 

 

「これに何の意味があるってんだよ。早く帰りたいぜ」

 

「黙って仕事しろよ」

 

「俺は今日、休みだったんだぞ。こんなクソみたいな砂漠で仕事するなんて聞いてない」

 

 

 そのロボットはイラついていた。休みの日に上司に呼び出されたと思ったら、部隊を指揮して、廃都市にいるビナーの爆撃とよくわからないコンテナの回収を指示されたのだ。手当を相応にもらわなければやっていられなかった。そもそも自分の仕事は重役の警護のはずなのに。畑違いにもほどがある。

 そんな彼を隣で補佐をしている同僚のロボットが宥める。

 

 

「まあ、落ち着けって、これが終われば休みがもらえるんだろ。手当も出るだろうし、それでパーッと遊べばいいだろ」

 

「わざわざ死にかけのあれに、横槍を入れる意味が分からない。そのまま放っておけばいいだろ。どっかのガキたちがあそこまで削ったんだ。こっちまで襲われたらどうするんだ」

 

 

 上司からは特に目的も何も聞いておらず、不安があるのも大きかった。そんな隊長を見た補佐は、暇つぶしもかねて憶測を話すことにした。

 

 

「なんかあの廃都市に、お宝があるらしいぜ。それのためなんじゃないのか」

 

「お宝?船ってやつか?理事が血眼で探してるっていう」

 

「それは、まだ場所すら分かってないって話じゃなかったか?それじゃなくて、3年前くらいにうちの会社が作った試作機らしいが」

 

 

 隊長は補佐を見て訝しんだ。なんでこいつはそんな話を知っているんだ。産業スパイか何かか。

 そんな意図を多分に含んだ視線を感じたのか、補佐は慌てて両手を振って否定する。

 

 

「違う違う。お前が思っているようなことはないよ。俺の古巣は技術部門だからさ。そこで聞いたんだよ。ゴリアテの試作機だったかな」

 

「ゴリアテか。対ビナー用に作ったんだったか」

 

「お前も詳しいじゃないか。で、その試作機っていうのが、また雑な作りでな。素体は工業用の荷下ろし機なんだよ」

 

「それのどこがお宝なんだ。荷下ろし機って15mくらいの人型の奴だろ。そこら中に普及してるやつじゃないか」

 

 

 当然の疑問を発する隊長に補佐は”チッチッ”と指を振って止めた。

 

 

「素体は重要じゃないんだ。重要なのは砲の方さ」

 

「ゴリアテの主砲の事を言ってるのか」

 

 

 ゴリアテには両手の大口径の連装砲と背部から伸びている大口径の主砲が載っている。補佐はそれのことを言っているのだろう。補佐は愉快そうな声で続ける。

 

 

「兎に角、装甲が堅いビナーに対してダメージを通すために威力だけを突き詰めたらしい。おかげで通常のバッテリーじゃ出力が足りなかったから、特別な部品が必要だったとか。だから試作機とは言っても砲の試作機だな」

 

「その砲が、あそこにあるって?うちの会社で作ったのに、何であんなところにあるんだ。おかしいだろ」

 

「なんか、実地試験で失敗したらしいな」

 

「なんだ。効かなかったのか」

 

 

 そんな失敗作を回収させるために、自分の休日は潰されたのかと思うと、隊長のイライラが倍増した。憎たらしい目で廃都市を見るといまだに爆撃が続いている。ついでに砲も灰になってしまえばいいのだ。

 

 

「効かなかったんじゃなくて、そもそも使われなかったのさ。だから今になって回収するなんて話が出てる。理事の肝いりのデカグラマトン大隊もビナーには手も足も出なかったからな」

 

「大金かけて作って、使わないとかなんだ。そもそも動かなかったのか」

 

 

 肩をすくめて補佐は答えた。それはしょうもない理由だったからだ。

 

 

「普通に運べばいいものを、運搬に運び屋を使ったのさ。その運び屋が、あの廃都市で壊滅したから砲もあそこで眠ってる。3年間ずっとな」

 

「バカだろ。命令したやつは何を考えてたんだ」

 

「理事だよ」

 

「は?」

 

 

 耳を疑う言葉が聞こえた。隊長は信じられないものを見る目で、同僚である補佐を見つめた。補佐は肩をすくめてその時の状況を話してくれた。

 

 

「当時の理事の警護の当番は俺だった。客が来るっていうんで呼び出されたのさ。今のお前と同じように。その客との会話を盗み聞きしたのさ」

 

「それはまずいだろ」

 

「バカでかい声で話す理事が悪い。嫌でも聞こえる」

 

 

 補佐は、その時の客の姿を思い出す。名前は知らないが、どうにも怪しかった。全身真っ黒のスーツを着たあの男は。その所為でよく覚えているのだ。

 

 

「客の声はよく聞こえなかったがな。珍しく理事は大喜びだったよ。一石二鳥だとか、求めていた部品とか、邪魔者がいなくなるとかな」

 

「それが、どうつながるんだ」

 

 

 隊長にはわからなかった。補佐も”半分以上は推測だが”と前置きをして話した。

 

 

「今思えば、運び屋の誰かを引き抜きたかったんじゃないのか。壊滅した運び屋はビナーから逃げきってたらしいから。それなりに強い奴がいたんだろう」

 

「そいつが勝てなかったってことか?」

 

「いや、言わなかったんじゃないかってな。積荷のことを。理事としてはその時はどっちでもよかったんじゃないか?運び屋が失敗してもそいつを引き抜ける。そいつがうまくやってビナーがいなくなってもいい。理事にとっては共倒れが一番理想だったんだろうが」

 

 

 隊長は補佐の推理に感心した。まあまあ筋は通っていそうだった。真実は理事とその客しかわからないだろうが、この退屈な仕事の暇つぶしにはちょうどよかった。

 

 気が付けば、砲撃の音もやんでいる。どうやら持ってきた弾は全部撃ち切ったらしい。撃ち始める前は此処からドローンで監視していたが、ビナーは中々見ない男子生徒に頭を吹き飛ばされていた。廃都市の方を見ると榴弾による黒煙でよく見えないが、ビナーももう生きてはいないだろう。

 

 これで隊長の仕事はおおむね終わりだ。補佐の推理が正しければ、後はその砲とやらが入ったコンテナを探すだけだ。

 

 そして隊長は休みのことと、これからの事で頭が一杯で、横の補佐の声にすぐ反応できなかった。

 

 

「ビナーが再起動!?逃げろ!!」

 

 

 その声に振り向いた隊長の目に映ったのは、自らの部隊を薙ぎ払うビナーの熱線だった。

 

 

 

 

 振動と何かが焼ける臭いでカヤツリは目を覚ました。遠くでビナーが熱線を吐いて暴れているのが見えた。どうもこっちは眼中にないらしく遠方の方に出鱈目に熱線を照射している。

 顔が何かぬるぬるするので拭うと手が真っ赤になっていた。どうも額を切ったようで派手に血が出ている。ただ体に支障はなく立ち上がることもできた。

 

 

「……ああ。くそ。ホシノは……?」

 

 

 周りを見渡すと少し離れたところにホシノが倒れていた。ヘイローが消えていてかなり焦るが息はしている。気絶しているだけらしい。体に目立った傷もない。カヤツリは安堵の息を吐いた。

 

 盾代わりに使ったレールガンを探すと、これも少し離れたところに落ちていた。回収しようと近づいたが一目見てカヤツリは断念した。おそらくビナーの装甲だろうか。その破片が銃身を貫通していた。カヤツリの頭の傷もこれの所為だろう。

 

 カヤツリは絶望した。まともにビナーにダメージを与えられる武装を失ったのだ。向こうも視界を失い、さっきの爆撃で相応のダメージを負っているだろうが、残りの武器ではもう戦えなかった。ホシノは戦えるだろうが、こちらも同様にダメージを与えられないだろう。

 

 カヤツリはとりあえず安全な場所に移動するため、カヤツリはホシノを抱え上げて離れたところに止めた車まで移動を始めた。

 

 車にはすぐ着いた。ホシノは車体にもたれさせている。ドローンが落とされた可能性を考えて、車に積んである中継器と通信機を起動して先輩に連絡する。

 

 

『カヤツリ君!大丈夫!?』

 

「ある程度は大丈夫ですよ。先輩」

 

 

 先輩の焦った声が聞こえる。そんな先輩の声を聴くのは初めてだった。やはりドローンが破壊されただけで、先輩がどうにかなったわけではないことにカヤツリは安心した。

 

 

『ごめんね。急にドローンが壊れちゃって』

 

「それは、先輩の所為じゃないからいいです。先輩。車の運転は行きのようにできますね」

 

『え?できるけど』

 

「じゃあ、準備が出来たら連絡するので、用意だけお願いします」

 

 

 用件だけ伝えて、カヤツリは通信を切る。そのあと怒りのあまり、近くの建物の壁を殴りつけた。壁が崩れて手が痛いが関係なかった。

 

 

「企業のクソ野郎が。ふざけやがって」

 

 

 タイミングが良すぎる。たぶん見張られていた。この計画を知っているのは装備を発注したオーナーだけだ。オーナーが流した可能性もあるが、企業に強請られたのだと思いたかった。

 

 企業の事だから漁夫の利でも得ようとしたのだろう。今は目論見が外れて返り討ちになって、いい気味だとは思うが、状況は最悪だった。こちらはもう戦えずビナーはまだ健在だ。しかもこちらにはもう打つ手がない。

 

 

「いや、まだあったな」

 

 

 ビナーは今は視界を失っている。そうなると神秘を感知して襲ってくるだろう。カヤツリが囮になればホシノは逃がせる。車は先輩に運転してもらえばいい。ビナーもカヤツリを殺せばそれで満足するだろう。アビドス校舎までは行かずに、これまでと同じように縄張りに引きこもるはずだ。

 

 自分一人が囮になるこの状況に、どうにも昔を思い出して嫌になった。ただ昔と違うのは、きっとホシノと先輩は助けて後悔は絶対しないだろうという事だけだ。

 

 でもカヤツリには、それだけで十分だった。




・レールガン(改修後)
 オーナーが制作したレールガン。原理上、加速部分であるレールが長ければ長いほど弾速が出るので、相応の長さがある。(150㎝程度)
 本来ならバッテリーや電力関連の装置などでかなりの重さがあるのだが、電力関連はカヤツリの神秘で代用しているため、重量を抑え威力を維持しつつ、銃身や装甲の耐久を上げることに成功した。
 そのため盾や鈍器としても使用できる。むしろ威力が高すぎて、生徒やロボット相手では其方でしか使えない。
 チャージ後やフルオート後の冷却問題はどうしようもなく、おとなしく待つか、銃身を入れ替える必要がある。ただ銃身自体が本体並みの大きさと長さのため、とてもかさばる。固定砲台ができる状況なら選択肢に上がるが、今回は逃げながらの戦闘のため却下となった。


・ビナー誘導グレネード
 オーナーが作成したグレネード。グレネードといっても殺傷能力はない。中身はこれまでの実験で”複製”したカヤツリの神秘。ビナーが神秘を感知していることを逆手に取り、縄張り付近にこれをばらまくことで、オーナーは時間稼ぎをしていた。


・ロボット隊長&補佐
 休みだったところを仕事に引きずり出された哀れな労働者。特に理由はなくただ運が悪かっただけである。この後、休みと手当はたっぷりもらえることが確定している。
 まあ、しばらくはパーッとは遊べないだろうが。
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