ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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150話 セトとホルス

 鏡の中のホシノは、口をパクパクさせている。しかし、声の出所は鏡からではなかった。すぐ隣からホシノの声がする。

 

 

「気づくのが遅いよ」

 

 

 勢いよく、隣を見れば、鏡の中に居るのとそっくりなホシノが立っていた。黒いコートに短い髪。盾はどこかにやったのか、持っているのはショットガンだけだ。

 

 

「ずっと、呼んでたんだから。少しは気がついてくれてもいいんじゃないかな……」

 

「……」

 

 

 カヤツリは、何でか言葉が上手く口から出てこなかった。ようやく絞り出せたのは、ホシノの名前だけだった。

 

 

「ホシノ……?」

 

「そうだけど……やっぱり、怒ってるよね……」

 

 

 急に顔を背けて、なんだか気まずそうにホシノは言う。その理由は、今のカヤツリには察することが出来たが、それはお互い様だ。二人とも自分を優先した結果、ああなった。どの面下げて怒れると言うのだろう。

 

 

「ごめんね。カヤツリ、私は何も分かってなかったんだよ」

 

 

 何も言えないカヤツリを、ホシノは正面から見つめてくる。

 

 

「私は、一番知ってるはずだったのにね。そんなお願いだけ伝えられて、もう二度と会えない。それは、自分のせいで、それがどれだけ辛いのかを」

 

 

 それが、何の事を言っているのかは、簡単に察せられた。けれど、カヤツリはホシノの顔をちゃんとは見れない。ホシノの目が眩しいから。

 

 

「私も、謝らなくちゃいけない事が沢山あるんだ。でも、最初に言う事は決まってる」

 

 

 ゆっくりと、ホシノはカヤツリを正面から抱きしめる。

 

 

「ありがとう。カヤツリ。私との約束を守ってくれて。シロコちゃんを助けてくれて。私に気がついてくれて」

 

「会いたかった」

 

 

 一番にカヤツリが言いたいことはこれだけだった。一度言葉に出してしまえば、もう止まらなかった。言葉が堰を切ったように流れ出す。

 

 

「会いたかった。本当にあいたかったんだ……俺は、おれは、それだけでよかったんだ。それだけで、よかったんだよ……」

 

「カヤツリ……」

 

 

 カヤツリは何もない真っ黒な床に項垂れた。いつの間にか自分の姿は鏡と同じ姿になっているが、そんな事はどうでもよかった。

 

 

「大丈夫だと思ってた。一人でも大丈夫って。シロコの事もあるから、自分を見失っても大丈夫って。でも、あの最期のお願いを果たしたら、何もなくなった」

 

 

 今なら思い出せる。おそらくはホシノがした。自分への最期のお願い。

 

 

 ──シロコちゃんをお願いね。

 

 

 かつての先輩のお願いと同種の、呪いのように見えるそれ。それを果たすことに対しては何の呵責もなかった。思う事は同じで、むしろ望むところですらあったのだ。契約で自分を縛りつけるくらいは何のことでもなかった。

 

 死ぬのは辛いが耐えればいい。耐えるのには慣れている。そんなものでは立ち止まる理由にならない。

 

 彼女は新しい世界で、新しい自分の人生を生きればいい。悪いのは自分で、彼女は何も悪くなんてない。シロコに会う資格なんて無いから、全部終わった後は見守るだけでいい。自我を失っても契約が自分を縛る。これで自分の役割はおしまい。

 

 そう思っていた。

 

 でも、シロコにマフラーを渡した後、何もできなかった。

 

 それを果たしたら、ホシノが残した物は何もなくなってしまったから。今まで、自分を支えた物が何も無くなってしまった。

 

 だから、こんなところに自分はいる。何も持たない自分は、自分すら保てなかった。ホシノのことすら忘れていた。

 

 

「ずっと、呼んでくれたんだな……」

 

 

 もう二度と会えないと思っていた。そんな奇跡はあるはずがないと思っていた。

 

 ホシノは自分とは違って諦めなかった。側にいる事になったのは、お願いの内容からして、偶然かもしれない。

 

 でも、呼びかけるのは違う。ホシノは信じたのだ。いつになるかは分からなくても、カヤツリがいつか気がついてくれると信じた。

 

 

「ありがとう。ホシノ。こんな俺を信じてくれて」

 

 

 なら、謝罪ではなく。礼を言うべきだ。さっきのホシノと同じように。

 

 

「うん。どういたしまして」

 

 

 なんだか安心して、カヤツリの口からは素直な感想が溢れた。

 

 

「知らない間に強くなった」

 

「あー……」

 

「ホントにそう思う」

 

 

 くっついた身体が離れて、漸くホシノの顔を見れる。気恥ずかしそうな表情だった。ホシノがやった事は並大抵のことではないのだから、もっと堂々とすればいいのに。

 

 

「いや、褒めてくれるのはいいんだけど。そんな恥知らずな事は出来ないよ。私が変わったのは途中からだし、強い訳じゃない。吹っ切れた訳でもね」

 

「恥知らず? 途中から?」

 

 

 いつの間にか、ホシノは苦虫を噛み潰したような表情に変わっている。

 

 

「嫌な奴に発破をかけられたんだよ。血も涙も無いような感じのくせに。まさか、あんな事言うような奴なんてね」

 

 

 嫌な事、的を射た事を言われたのか、それとも、その人物が言う訳もないことを言われたのか。カヤツリには何となく、その人物が分かった気がする。でも、いつ、どういった状況でそうなったのかは分からなかった。

 

 

「このまま二人、ずっとここにいるのも悪くないんだけどさ。分かってるよね?」

 

 

 照れ隠しと誤魔化しも多分に入った言葉だが、ホシノの声は真剣さに満ちている。

 

 

「……色彩?」

 

「当たらずとも遠からずだね」

 

 

 ホシノは、お楽しみは終わりと言うかのように、カヤツリの肩を叩いて立ち上がった。

 

 

「使ってる方だよ。無名の司祭。あの白装束」

 

「俺じゃ無理だ。見えないんだからな」

 

 

 同様に立ち上がったカヤツリは肩をすくめた。

 

 それらしい奴がいるのは知っている。まだ意識があった頃に気がついて、黒服にも聞いた。シロコの後ろでぶつぶつと碌でもない事を吹き込んでいる奴等だ。今は先生の方にくっついているのだろう。

 

 さっさと駆除したい衝動に駆られるが、問題が一つ。単純にカヤツリの目には見えないのだ。

 

 少し前に繋がりを切断できたのも偶然だ。あれは、偶々気配が強いところを薙いだだけ。一度きりの不意打ち。二度目は効かない。

 

 

「ああ、容赦なく言われてたね。”君に探し物を探す力はない”って。流石、セトちゃんの皮を被っただけはあるね。中身が色彩でも相変わらずの口の悪さ」

 

「……というか。俺はどうなってるんだ……?」

 

 

 カヤツリの疑問に、ホシノが悲しそうな雰囲気になった。何かしら含みがある表情で、カヤツリには嫌な予感しかしない。

 

 

「……今の私とカヤツリは一心同体だよ。ほら、見覚えがない?」

 

 

 パチンとホシノが指を鳴らせば、真っ暗な部屋が前生徒会室になった。もう一度パチンと鳴らせば、対策委員会の部室に変わる。止めとばかりに、もう一度鳴らすとホシノの家に変わった。

 

 

「セトはどうした……?」

 

「消えちゃったよ」

 

「なんで……?」

 

 

 ポツリと零したホシノの呟きに、カヤツリは聞き返すことしかできなかった。今の部屋の模様替えはセトの得意技だった。以前は菓子などを山積みにしていたのを覚えている。

 

 

「カヤツリはね。多分だけど、魂的なもの。黒服が神秘とか言うのに、直接攻撃を受けたんだよ。それで、きっかり半分が吹き飛んだの」

 

「それが、セトだっていうのか……?」

 

 

 ふるふるとホシノは首を横に振る。

 

 

「そんな正確にはいかなかったみたい。セトちゃんとカヤツリは半死半生。そんな中で、セトちゃんは、私に引き寄せられた、来るはずがない”アレ”と、”こうなった”せいで暴走した私と戦ってくれたの。あの子に自覚は無くて、私への恨みで”ああなった”から。結果としてはだけど」

 

 

 ホシノは自分の肩口を触りながらも、口を止めない。

 

 

「それで、私はここからばっさりやられて戦闘不能。”アレ”とセトちゃんは痛み分けで終わり。アレは大怪我を負ってどこかに消えて、セトちゃんとカヤツリはもう、ほとんど死んでた」

 

 

 ”そこで、奇跡が起きたんだよ”その言葉には、正と負の感情がごちゃ混ぜになっていた。

 

 

「多分、契約のせいなんだろうね。ぽっかりと空いた、その居場所に私は引きずり込まれた。セトちゃんの代わりに私がカヤツリの神秘を埋めてるの。一心同体って言うのは、そう言う事だよ」

 

「じゃあ、アレは? あの色彩は?」

 

「ああ、アレ? あれは、色彩が反転させようとして、出来なかったモノだよ。カヤツリの対ってセトちゃんだから。でもセトちゃんの代わりに私がいる。だから、色彩は失敗したんだよ」

 

 

 色彩は、自分を反転させようとしたのだろう。反転した姿であるセトの姿を取ろうとした。でも、セトはもういない。その代わりにホシノが入っている。そして、カヤツリの反対はホシノではないし、ホシノの反対もカヤツリではない。

 

 だから、シルエットだけだったのだ。セトのシルエットで、セトの願いを口走った。セトの願いが、カヤツリの願いという訳ではない。部分的には一致するかもしれないが全てではない。

 

 

「……大丈夫なのか」

 

「今こうして話せているのが、その証明じゃない?」

 

「そうじゃなくて……!」

 

 

 今、ホシノが普通に話せている理由が分からなかった。今の話は、普通に話せる話では無い。ホシノが錯乱してもおかしくはない話なのだ。だって二回目だ。

 

 

「そうだね。カヤツリの言う通り、平気じゃないよ。後悔で一杯だし、自分の事を許せそうにない。それは、お互い様だろうけど」

 

 

 それは、そうだろう。だからこそ分からない。ホシノはやる気に満ちていた。

 

 カヤツリが”強くなった”と言ったのは、それを感じたからだ。黒服の発破で、少しは乗り越えたのかもしれないと思ったからだ。

 

 でも、今の経緯はない。殆ど自分のせいだと、そう思っていたのに。これではホシノも同罪ではないか。

 

 

「でも、まだ終わってないんだよ。まだ、私にできる事は残ってる。それに、夢を見たんだ」

 

「夢?」

 

「うん。幸せな夢だったよ。まだ皆がいて、幸せだった私たちがいる夢。この世界の夢。きっとこの世界なら、シロコちゃんは大丈夫」

 

 

 しっかりとした意志を込めた視線で、ホシノは言う。

 

 

「自分のツケでそうなった私たちは無理かもしれない。でも、シロコちゃんは。シロコちゃんは悪くない。幸せになる。その権利がある。それはカヤツリも思うでしょ?」

 

 

 一も二もなくカヤツリは頷く。それに、ホシノも同じように頷くのだ。

 

 

「なら、それだけでもやろうと思うよ。シロコちゃんと、先生と、この世界の私たちを助けるの。あの時できなかったことをできたら。そうできたら、少しは許せそうな気がするんだ」

 

 

「分かった。何をやればいい」

 

「気が早いね。でも、そうしてくれるって思ってた」

 

 

 カヤツリは即答した。悩む理由などない。それが、ホシノのやりたい事なのだろう。幸いにも自分の今の目的と一致している。そして、ホシノは安心したような顔で微笑む。

 

 

「まだ、シロコちゃんの危機は去ったわけじゃない。さっきも言った通り、無名の司祭を何とかしなくちゃいけない」

 

 

 話が元に戻り、達成しなければならない課題が現れる。ホシノはその解決策を持っているようだった。

 

 

「カヤツリには見えないし、言われたとおりに、その力はない。でも、私にはあるんだよ」

 

 

 ホシノは自分自身の顔をカヤツリに近づける。綺麗な青の瞳が、カヤツリの目と重なりそうになる。そして、ホシノの指が自分自身の左目とカヤツリの右目に近づいていく。

 

 

「しばらく貸してあげる。あと、カヤツリのと交換だから、等価交換だよ。ちょっと痛いけど我慢して」

 

「え」

 

 

 □

 

 

「おお……」

 

 

 司祭は歓喜に震えていた。土壇場での思い付きが上手くいったからだ。

 

 燻る残骸から、セトが立ち上がっていた。装甲は剥がれ落ちて、生身の身体が露わになっているが。どことなく、アヌビスと同じような気配を感じる。服装も黒いコートと色合いも似ている。

 

 

 ──成功だ。

 

 

 色彩が急にいなくなった時は失敗かと危ぶんだ。この様子だと、崇高を損なわずに済んでいる。

 

 

「嘘……また、私のせいで……?」

 

 

 アヌビスは絶望交じりの声を漏らしている。下準備の手間も省けるとは都合が良い。

 

 砲撃が直撃すればプレナパテスも死に体だ。世界が終わるまで、もう少し。世界の終りの引き金を自分で引くこととなるとは、箱の所有者も思いもしないだろう。

 

 司祭は胸がすく思いだった。突如立ち上がったセトに驚いている生徒たちを見るだけでも十分だ。今更砲撃を止めようにも間に合わない。発射された砲撃を止める術などない。

 

 

「終わりだ! 全ての忘れられた神々は滅び去る! 名もなき神と同じように!!」

 

 

 司祭の勝利宣言と共に、砲撃がプレナパテスを飲み込んだ。

 

 これで、色彩の嚮導者の席はセトに転がり込む。自我など関係ない。全てをセトは破壊するだろう。

 

 司祭は笑いが止まらなかった。セトとホルスには煮え湯を飲まされたのもあるからだ。それに、自身が守ったものを自身の手で破壊するなんて、彼らにとっては悲劇だろう。司祭たちにとっては喜劇だが。

 

 

「セトよ。世界を破壊するがいい! ……? ……何故動かぬ」

 

 

 全くセトは動く様子は無かった。ただその場に立ち尽くし、視線をあたりに散らしているだけだ。

 

 司祭は原因をいくつか考える。その一つであるプレナパテスを見て、苛立ちの混じった声が漏れる。

 

 

「まだ、耐えるか!」

 

 

 砲撃が直撃しているにもかかわらず、色彩の嚮導者の権利はプレナパテスにあった。凄まじいまでの密度の砲撃で、プレナパテスの姿は見えないが。あの密度だ。何時までも耐えきれるというものでもない。

 

 そう安心しようとした司祭に、何か嫌な予感が纏わりつく。

 

 あの光景に、どこか違和感を感じるのだ。プレナパテスが砲撃に飲み込まれているという光景に。

 

 

「待て。何故、箱舟のエネルギーがまだ収束している?」

 

 

 プレナパテスの頭上の球体。収束した箱舟のエネルギーが未だに渦巻いていた。

 

 それは変だった。アレを維持するには多大な労力がかかる。司祭が干渉を止めているとはいえ、砲撃を受けているのだ。霧散するか、あらぬ方向に暴発するのが正しい反応だった。

 

 なのに、まだ。エネルギーは収束したまま。プレナパテスが維持しているとしか考えられないが、その理由が理解できない。砲撃に耐えるだけで精一杯のはずなのに、その余力はどこから出ているのか。

 

 そう思って、目を凝らした司祭は信じがたいものを目にした。

 

 

「ホルスだと!?」

 

 

 盾を構えた小柄な誰か。それがプレナパテスへと向かう砲撃を防ぎきっていた。

 

 その正体を司祭は良く知っていた。忘れるはずもない。

 

 

「何!? あり得ぬ! 奴が、何故ここに!?」

 

 

 アレは、前の世界ごと死んだはずだった。アヌビスが世界を滅ぼすのをしっかりと確認したのだ。箱舟に居なかった以上は、ここにいるはずがない。

 

 その上、崇高と化している。このままでは良くないことになる。慌てた司祭は対処を急ぐ。

 

 アヌビスへの接続を確立するのだ。少なくとも同じ崇高同士でなければ話にならない。セトはプレナパテスがまだ生きている以上は使えない。なら、司祭に残された手駒はアヌビスしかいない。

 

 

「いや……止めて。私は、もう……」

 

 

 アヌビスの抵抗をねじ伏せるべく、干渉を強める。セトに切断されたせいで時間はかかるが、四の五の言っていられない。出力を限界まで上げる。

 

 アヌビスの呻く声が強くなり、再接続まで、もう少しという所まで来た。そして、司祭の耳に聞き覚えの無い声が聞こえて、干渉が止まった。

 

 

「そこか」

 

「な──」

 

 

 司祭は、初め、自分が倒れたのかと思った。視界が真横に傾いているからだ。しかし、視界に映るモノを見て初めて。正しく自分の置かれた現状を認識した。

 

 あれは自分の下半身だ。自分の身体の上半分が床に転がっているから、そう見えるのだ。

 

 床の上に立つ下半身は、切断されたことを今思い出したかのように、床に崩れる。

 

 

「何故だ! 理解できぬ! 我々には、色彩の嚮導者以外は見えず、干渉できないはず──」

 

 

 残った上半身で床を這いずりながら司祭は呻くが、首元をセトに掴まれて持ち上げられた。

 

 そうして、セトの目を見て、司祭はその理由を理解する。

 

 

「ホルスの左目……! ウジャトの目だと! あり得ぬ! 何故それを貴様が!」

 

 

 青く輝く瞳が、セトの眼窩で輝いている。

 

 確かに、その目なら自分たちを見つけられるだろう。その目は全てを見通す目だからだ。だが、それはホルスの左目であって、セトの目ではない。むしろ奪った側だ。

 

 

「借りたんだよ。代わりに片目を持ってかれたが必要経費だ。これで、お前たちを見つけられた」

 

 

 司祭は暴れるがセトの手はびくともしない。どうにか、セトの手から抜け出そうと、隙を伺ううちに気づいてしまった。

 

 

「まさか、そういうことか! 貴様が、ホルスを運んできたのか!」

 

 

 目の前のこれはセトでは無かった。セトではあるのかもしれない。でも、ホルスでもあった。これは複合神性だ。太陽の複合神性。太陽とその防人。二つを合わせて、強引に太陽にしている。ホルスなのだから、左目も使える。セトなのだから、あの体躯でも、砲撃を防ぐのは造作もない。

 

 理屈で言えば可能だ。暗い道なき道を行く太陽の船だ。箱舟と同様に世界を渡れる。太陽なのだから、何度でも蘇る。

 

 さらにここは、ナラム・シンの玉座。あらゆる可能性の混じる場所。ここなら、どちらか一方しか出てこれないホルスとセトは同時に存在できる。

 

 

「よくも可愛い後輩を虐めてくれた」

 

「今更遅い! 貴様の世界はもう滅びたのだ! 貴様は失敗した! 貴様はもう負けているのだ!」

 

 

 凄まじいまでの握力で、司祭の身体が悲鳴をあげる。だが、負け惜しみとばかりに司祭は叫ぶ。自分はもうどうしようもないが、司祭は一人ではない。自分が消えても、他の司祭が何とかする。

 

 

「それは、そっちもだろう」

 

「何?」

 

 

 この復讐は正当なものだと司祭は信じている。セトの言う事に無いはらわたが煮えくり立った。

 

 

「他の世界に干渉しようなんて欲張り過ぎだ。あれで満足すれば良いものを欲張った。だから、神の怒りってヤツに触れる事になるんだ。触らぬ神に祟りなしって言うだろ。曲がりなりにも司祭なら、良く知ってると思ったんだけど」

 

「貴様如きに我々を滅ぼせるものか!!」

 

 

 怒りのままに司祭は叫び散らす。この身が滅びても仲間がいる。全員を滅ぼすことなどできるはずが……

 

 

「そうだな。全ての次元は無理だ。この世界のお前らをどうにかはできない。でも、俺と同じ世界のお前らだけなら出来るよ。ほら」

 

 

 セトの背後に雷の槍がずらりと並んだ。数はまばらなのが一層不気味で、司祭はその数を数えて絶望した。

 

 仲間の数と一緒だった。そして槍が全て別の方向へ向くのを、司祭は確かに見た。

 

 段々と雷槍の輝きが高まって、空気を裂くバチバチとした音が聞こえ始める。そして自分へと、セトの手のそれが近づいていく。

 

 

「止めろ! やめろ!!」

 

 

 自らの辿る運命を察して、大声で司祭は暴れるが、セトの手はびくともしない。

 

 

「止めない。言っただろ。俺は怒ってるって」

 

 

 無情なセトの言葉の後、槍が勢いよく司祭の顔面へと突き込まれた。

 

 

「やめ──」

 

 

 視界一杯のまばゆい光。それが司祭の最期の光景だった。

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