ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
カヤツリの周りは黒く、遠くに星々が瞬いている。まるで夜空だ。ただ今回カヤツリ達が居るのは、その夜空の中だった。
「ツッ──」
声にならない声を噛み殺し、両脇にシロコと先生の二人を抱えて青いキヴォトスへ降下する。
あの矢が放たれたと思ったら、自分達がいた場所から、突然宇宙に投げ出されたのだ。こうもなる。
後ろに視線をやれば、音もなく箱舟が炎に包まれて崩れ始めていた。宇宙空間で火がつくはずがないのに、箱舟は燃え盛るそばから消えていく。
そこから、プレナパテスとシロコを抱えた向こうの自分、テラツリが飛び出してくる。如何なる原理か、自分を追い越して、前方の位置につく。
──着いてこい。
頭に響く自分の声。先導するということらしい。
そのうちに、カヤツリの身体を引っ張る力がどんどん強くなっていく。
先生のおかげか、それとも黒い鳥になった自分の能力か、若しくはその両方か。自分達は宇宙にいるというのに、息も詰まらず、凍えもしない。
それでも、恐怖はあった。
キヴォトスの引力に捕まったのは変わらないが、さっきとは違って、何かにぶつかるような抵抗を感じる。
大気圏に突入したのか、先程と感覚が変わっていた。柔らかいが、硬いもの。例えるならゴムの中を突っ切るような抵抗だ。そんな抵抗があるのに、自分達はどんどん加速していく。遂には周りの空間が摩擦で赤熱し始めた。
それは前の自分も同じだが、翼は畳んだまま、重力に引かれるままに頭を下にして落ちている。真似をすれば確かに、抵抗は少なくなる感じがした。
そうしている内に、いつの間にか、雲を突き抜けていて、闇に沈む学園が見える。所々、爆発の跡だろうクレーターが目立つ。
それらの上空を通り抜け、空き地に向かうテラツリから、再度の連絡。
──翼を広げろ!
広げた瞬間、肩周りに激痛が走るが、無視することで、どうにか減速する。
反動を利用して足から着地。地面に長い二本の直線を引くが、そのおかげで、何とか無事に着地が出来ていた。
「はい。お疲れ」
驚きか、感動で口をパクパクさせている先生とシロコを下ろしたカヤツリに、テラツリが揶揄うような声で笑っていた。
自分とは違って、黒い鳥の姿ではなく、箱舟の中と同じ姿だった。黒いコートと、その下から見える黒いスーツ。黒服みたいな格好で、なんだか意外だった。
「契約の影響であって、好きで着てる訳じゃ……」
カヤツリの視線に気づいたのか、テラツリは言い訳を始めたが、一足遅かったようだ。
「へぇ、そうなんだ。てっきり、お気に入りなのかと思ってたよ」
いつの間にかテラノが、テラツリの隣に立っている。笑顔だが妙な圧を感じる。
「……早くホシノを出した方がいい。おそらくご立腹だし、面倒なことになる」
その言葉を聞き終えるか、聞き終えないうちに、カヤツリの気分が悪くなる。それは、かつて、テラノが出てきた時と同じ……
「ああ、遅かったか」
やってしまった。そんな感じで、テラツリは額に手を当てている。
彼の視線の先には、ホシノではなくセトがいた。腰に手を当てて、舌打ちを繰り返し、テラノを睨みつけるセトがいた。
「……どういうつもり?」
端的に言って、セトは激怒していた。わざわざ表に出てきた事からも、それは伺えた。混沌の領域が展開されているから、実体がある分。何を仕出かすか分からない。
「あの時のが、偶然なのは分かる。君が、そこのアヌビスを追って来たのもね。面倒な処理役を投げつけたのもいいよ。だけど、それはないでしょう!?」
「はっきり言わなきゃ分からないよ」
「……分かってるくせに。君の半分は君の方の私なんだよ。同期した今なら、君の気持ちがわかる。君、喜んでるね」
セトにはセトにだけわかる何かがあるらしかった。そして、それがセトが激昂している理由なのだろう。テラノが喜んでいる事、それがセトは気に入らないと言う。
「何様のつもり!? 嘆き悲しみこそすれ、喜ぶなんて」
「いや、それは……」
「カヤツリは黙ってて!」
「……」
テラノを庇おうとしたテラツリは、セトの怒鳴り声で、黙り込んでしまった。セトは、まだ言い足りないのか宙に向かって吠える。
「ああ、むしゃくしゃする……! 君のせいだよ! よくもこんなものを持ってきた!」
「相変わらず、潔癖だね」
テラノは飄々としている。
「その感情は、その怒りは。セトちゃんのじゃないでしょ。私に怒るのは筋違いだよ。それは分かってるよね」
図星なのか、セトは舌打ちをしていた。
「それに、私もカヤツリもこんなになっちゃったけど、まだ生徒だよ。そりゃ生きているんだもの。感情一色とはいかないよ。喜びだけじゃなくて、悲しみも、悔しさも、怒りだってある。セトちゃんみたいに単純じゃないよ」
「随分と口が回る……」
「回るよ。私たちは一心同体なんだよ? カヤツリのやり方くらいマネできるよ。ずっと見てたんだからね」
「喧嘩売ってる?」
「うん」
少しだけ得意気にセトをテラノは煽った。セトもこれは八つ当たりだと理解はしているのだろう。彼女は公正だ。基準はあれだが、ライン越えかそうでないかの判断は厳しい。これは見当違いの怒りだと理解はしているのだろうが、同期したのが良くなかったらしい。
「それで、セトちゃんは何が気に入らないの? そっちの私を無理やりねじ込んだこと? 今は邪魔できないように閉じ込めているみたいだけど」
「やっぱり分かってるじゃない」
「あれは緊急避難だよ? どうしようもなかった」
悪びれる様子の無いテラノに、セトは舌打ちする。険悪な雰囲気に、先生も二人のシロコもカヤツリも口出しができなかった。
この二人はずっと相性が悪い。喧嘩するほど仲が良いと言うが、二人の場合には当てはまらないのかもしれない。
「その前だよ。必要のないことを教えたでしょう? 読めないように対策はしておいたけど」
セトの言う”必要のない事”には心当たりがない。同化の時は、何を想像したのかホシノは真っ赤になっていたし、それに対して自分は仏頂面をしていた。
「カヤツリが信用できないってこと? 心を読まなきゃ信用できないって!? それとも、こっちの自分なら大丈夫って思った!? 随分な思い上がりだね! そんなものを目の前にぶら下げられて、我慢できるはずがないじゃない! 特に君は! だから、ああなったっていうのに!」
セトは更にヒートアップしているようだった。同期して、怒りの感情か何かを流し込まれたせいもあるのかもしれないが、彼女らしくは無かった。
そして、テラノも彼女らしくない。あのテラノは、以前ここにやってきたテラノなのだろう。セトの言い方からしてそうだろうし、カヤツリもそう思う。ホシノにしては、何処か露悪的というか妙な感じがする。
それは、きっと怒り狂っているセト以外が感じていることだった
「そんなに、カヤツリの言葉が信用できないの!? まさか、あの言葉が嘘だったとか思っているの!? 君や後輩がどうでもいいとか、役立たずとか考えてると思っているの!?」
良く分からないが、急に後輩たちの方へと話が飛んだ。セトなりの理由があるらしいし、テラノも、テラツリもその理由は分かっているようだった。
「そんなわけないじゃない! しっかりと行動で、言葉で示しているのに! ただ辛い思いをして欲しくないだけなのに! こっちの邪魔をするな!」
「そろそろかな……プラナちゃん。やって!」
『回収開始』
テラノの声ともに、スンとスイッチが切れたようにセトが静かになった。怒りに歪んだ顔が、一瞬無表情になって、悔しそうな顔に戻っていた。
「ああ、クソ。アフターケアもばっちりってわけ? ホントに嫌な奴になったね」
「うん。同期した時に渡しちゃったからさ。今回収したから、もう帰っていいよ」
二人の間だけで、会話が進んでいた。混乱するカヤツリに、アロナから説明を受けたのだろう先生が言う。
「どうもね。アロナが言うには、向こうのセトの断片が、同期した時に流れちゃったみたい。それで、わざと怒らせて、表面に出したところを回収したみたいだよ」
最初に言っていた奴だろう。半分が向こうのセトの断片がどうとか、それがこっちのセトに流れたらしい。それで、良く分からない事を口走って、怒っていたのだろう。
セトは落ち着いたようで、自分の醜態を恥ずかしがっているようだった。
気がつけば、セトの大声が目印になったのか、後輩たちがやってきていた。表情を見る感じ、セトの大声を聞いていたらしい。後々の弁解というか、説明が面倒になりそうだった。
「混沌の領域を早く解除して。そうしなきゃ、あの子を引きずり出せないよ」
セトが、苛立ちを隠そうともせずに催促する。
「いいよね? カヤツリ。そうすれば、ホシノも出て来れるらしいし……」
「良いんじゃないですか? やり方もよく分かりませんし」
「うん。じゃあ、解除するね」
「あ! バカ! まだ早い!」
先生とカヤツリの会話に気がついたのか、テラツリが大声を上げるが、一歩遅かった。
「え……? 何かマズかった……?」
焦ったような顔をした先生とカヤツリに、テラツリはため息をついて説明する。
「確かに、混沌の領域を解除しても分離は出来るが。それはパソコンを強制終了するようなものだよ。不具合が出るに決まってる」
「それは、どんな……?」
「全部ばらばらに排出される。服は服。銃は銃。ホシノはホシノって具合に。あとは、もう、ほら。分かるだろう?」
向こうの自分の言葉に対して、何とも無いかのようにセトは言う。
「毎日見てるから、慣れてるでしょう?」
「毎日じゃないに決まってるだろ!」
「そうだね。毎日じゃないね」
「……」
セトが悪戯小僧のように薄ら笑いを浮かべている。その場の、テラノとセト以外の視線が突き刺さる。
「このくらいの意趣返しは許して欲しいな。そろそろだから、あの子にもよろしく言っておいて。程々にしなよって」
顔が青くなるカヤツリの後ろで、ドサドサ何かが落ちる音がする。男性陣は全員目を伏せる。そして、その直後に、恐らくは生まれたままの姿であろうホシノの悲鳴が響いた。
□
キヴォトスに色彩が襲来し、向こうの自分たちと共に箱舟から脱出して、数日が経っていた。
あの後のホシノを宥めるのは非常に骨が折れたが、もう普段のホシノに戻り、あの戦いに参加した者も、それぞれの日常へと戻っている。
先生は壊滅した地区の復興で忙しそうだし、アビドスは相変わらずだ。もう秋になろうと言うのに、夏と暑さが変わらない上に砂まみれ。
色彩の襲来のせいで、カヤツリの計画していたことは後回しになっていた。先に言ったように先生は手が離せないし、ゲヘナもまだ手が離せないらしい。
それなら、後輩たちと仕事をするべきなのだが、そうもいかない事態が起きていた。
「ホシノ……」
カヤツリが一言発すると、部室内の空気が張り詰めた。
カヤツリはそれに我慢して、やり終えた仕事をホシノに渡す。ホシノは苦笑しながらも、それをシロコに渡していた。そして、その最中ずっと、他の後輩たちはチラチラ自分の事を見るのだ。
皆がいるテーブルから離れた場所で、カヤツリは深いため息を吐く。
──働きに見合った報酬を。
元は黒服の言葉ではあるが、この言葉はカヤツリの好きな言葉の一つでもあった。
だが生憎と、このキヴォトスでは守られることがあまりない。部活動で努力しただけ結果が出るかどうかは運だし、アルバイトも雇い主によっては、ぼったくられることもあるだろう。
少なくとも、カヤツリは何度か経験した。味わった感想としては、いい気分ではない。
だからこそ、自分の目の届く範囲。対策委員会での活動や後輩たちには、そうあるべきと心がけていた。
それが手酷く裏切られるとは思わなかったが。
対策委員会部室。その室内では部員が全員集合している。そして、全員がカヤツリに対してよそよそしかった。
なんだか目を合わせてくれないし、距離を取られている。その扱いについて、カヤツリは大いに不満だった。
褒め称えろとは言わない。だが、こんなことをされる謂れもないはずだ。
そう強がって、部室の隅っこで、椅子の背に寄りかかって、寝たふりをしている。目隠し代わりに顔に被せた雑誌の記事が目に痛い。
”他人との距離の測り方”そんな題名の書籍の宣伝が目に入って、笑われているような気分になる。
分かっている。理由は分かってはいるのだ。全部、あのバカのせいなのだ。ああいう大事なことは、先に言うべきなのだ。そんなことくらい、同じ自分だから分かっているはずなのに。あのクソッタレはわざと言わなかったのだ。
おかげで、仕事の進捗がとても遅い。ヒナやマトたち、先生の手が空いても、こちらの準備が終わりそうにない。もう全てが滅茶苦茶だった。
この居た堪れない空気の中、自分だけでできる仕事こなしているが、限度がある。最後の仕事もこれで終わってしまった。だから、こんな窓際族みたいな真似をしている。
もう、カヤツリにできることは、ふて寝をするくらいしかできない。結局、ホシノに叩き起こされるまで、カヤツリはずっとそうしていた。
□
「別にそれは、私も皆も怒ってないよ?」
ふて寝したところを叩き起こされて不機嫌そうなカヤツリに、ホシノはそう言った。
「は? だってあんなに……」
「いや、それくらいはいいよ? もう見慣れた筈だし、今更だよ。ここ数日で慣れたでしょ?」
全く見当違いの答えで呆れるばかりだ。それくらいでは怒らないし、別に初めてではない。カヤツリと先生は目を背けてくれていたし、別に不満は無いのだ。少しびっくりはしたけれど。
「え。だから、後輩たちは呆れてたんじゃ……」
「違うよ? 今更って言ったし、私が弁明したから」
後輩たちが待つ柴関の屋台までの道をゆっくりと歩きながら、ホシノは告げる。
「カヤツリ、セトちゃんが言った事の弁明したでしょ。役立たずとか思ってるとかなんとかに対して」
「うん」
「そのせいだよ」
カヤツリはやり過ぎるきらいがある。今回はそれがもろに出ているのだ。
「ほめ過ぎ。歯が浮くとまではいかないけど、アレはダメだよ」
事実に基づいて、褒めている。その本人がやったことを、その成果を、その努力を。そして、カヤツリが期待している事、思っている事、感謝している事。それらの洪水を浴びせたのだ。
はっきり言ってオーバーキルだ。そりゃあ、照れて距離を置くだろう。別に自分を裸に剝いた事に呆れかえって距離を取ったわけでは無い。
「おじさんには無いのが、大いに不満だよ。私も頑張ったと思うんだけど」
そのくせ、自分にはないのが悔しいというか、ムカついた。余りにムカつくから、今の今まで教えなかったのだ。
カヤツリは黙って、何事かを考えている。きっと今誉め言葉を考えているのだろう。それか、まさかの答えに愕然としているのかもしれない。
ふと、向こうの自分たちはどうしているのか、不思議に思った。同じようにじゃれていたりするのだろうか。
あの二人。向こうの自分たちは、いつの間にか姿を消していた。同じく、もう一人のシロコも。ただ、シロコ・テラーの方は、時々姿を見せに来る。話を聞けば二人を探して、アビドスを転々としているらしい。
プレナパテス。向こうの先生の遺品は先生がシャーレでしっかり管理していた。そこにも向こうのシロコは来ているようで、自分の中で整理をつけているのかもしれないと先生は言っていた。
そうであれば、ホシノも嬉しかった。きっと向こうの自分たちも、そうであると信じている。シロコ・テラーの為にも早く帰ってくればいいのにとも思う。
もう一人のシロコ。シロコ・テラーは、見る限りは元気そうに見える。
まあ、カヤツリが仮住まいを何とか用意して、小遣いや保存食とかを仮住まいに置いているせいもあるかもしれない。世界が違っても、シロコには甘かった。
「それで、何かないの?」
もうすぐ柴関に着く。もう時間切れなので、答えを催促する。
ホシノも鬼では無いから、採点は甘めだ。別に悪くても怒ったりはしない。少し拗ねるだけだ。椅子代わりになってもらうだけなのだから、随分優しい対応だと思う。
「聞かないでいてくれて、ありがとう」
「うへぇ……分かるモノなの?」
ホシノは内心舌を巻く。
あの、キヴォトスへ降下後の一幕。セトが怒り狂っていた時のそれ。あの時、ホシノは表に出てこれないようにされていた。
今となってはもう懐かしい前生徒会室。その中に閉じ込められていた。唯一の出口は鍵が掛かっているから出られない。
そして、その部屋にはもう一つ鍵が掛かっている物があった。
カヤツリのロッカー。よくある縦長のそれが鎖でグルグル巻きになっていた。いかにも、”見られたくありません”というように。
結局、ホシノはそれに触らなかったのだが、気になっている事に、カヤツリは気がついていたらしい。
「いや、何か聞きたそうにしてるから。それで、そんな風に思いそうな事は、あの時しかない」
「ありがとうなんて、言うほどの事じゃないでしょ」
「我慢してるだろ。たぶん、聞きたいことはそれ以外にもあるはずなんだ。でも、聞かないでいてくれた。だから、ありがとうって」
それは、そうだ。気になる事はある。セトが怒っていたことや、向こうのカヤツリとの違いとか。
向こうのカヤツリは、なんというか。明るかった。それは、プレナパテスの言葉のおかげかもしれないし、それだけではないような気もする。それはあのロッカーの中身のせいもあるのかもしれない。
聞きたい気持ちはある。でも、それは今じゃなくてもいいのだ。時間はまだ、沢山あるのだから。まだまだ自分たちには、その時間が残されている。
「うーん……まあ、いいか。時間は沢山あるんだもんね」
もう、柴関は目の前だった。ホシノは少し悩んだが、合格点を出すことにした。時間は沢山あるし、ここで強請らなくてもいい。家に帰った後でもいいのだ。むしろ、時間が取れる分、そっちの方が良いかもしれない。今日の分の我儘の権利は未使用だ。
後輩たちが確保していた席に座ると、大将が注文を聞いてくれた。いつものメニューを伝えれば、早速とばかりに準備に取り掛かっていた。
後輩たちは、まだカヤツリに対しては距離の測り方を掴み損ねているようだが、心配する必要はなさそうだ。
この様子ではじきに元に戻る。カヤツリのあれは火力が高いから、流石三大校を落としただけはある。使いどころには不満はある。あれが向けられるのは自分だけでいいのだから。きっと、耐えられるのは自分だけ。
『先日の空が赤く染まるという事件ですが──』
屋台のラジオから、先日の事件が流れ出す。やはり、アレの真相はクロノスには伏せられているようだった。まあ、キヴォトスの危機でしたなんて、終わった今では周知する必要もあまりないのかもしれない。
『そして、連邦生徒会を襲撃した覆面水着団とファウストですが、行方は不明。連邦生徒会は、この件に関し──』
「ん?」
マズいと思う間もなく、ラジオのニュースにシロコが反応した。
「シロコちゃん。気になるのかい。数日前に来た時はそうでもなかったが」
「……数日前? でも、気になる」
よせばいいのに、珍しく大将が反応してしまった。大まかなニュースの内容。というか、あの夜あったことについて、シロコに話している。ニュースやあの放送から分かる深夜の放送から始まった大騒動の事を。
シロコを除く全員が、冷や汗を流していた。カヤツリとの気まずさも忘れて、お互いに顔を見合わせる。
「……ズルい」
大将が仕上げに入るため、席から離れた瞬間から。全ての事情を察したシロコは不満一杯という様子で騒ぎ出した。
「ん! もう一度、私を含めた全員でやるべき!」
「いや、それは……」
「ズルい! だから、向こうの私は秘密金庫なんて言ってたんだ!」
何とか宥めようとするカヤツリに対して、シロコは唇を尖らせながらも、ぶつぶつ文句を言っている。気まずさも忘れているようで何よりだが、それとこれとは別の問題だった。
「いえ、シロコちゃん。全員は流石に……もう一度、リオさんやセイアさん、マコトさんと連絡を取るのは難しいですから……今は向こうも忙しくて都合も合いませんし……」
「ちょっと! ノノミ先輩!」
「あ……」
セリカがノノミの失言を咎めるも、もう遅い。全てをシロコは察してしまった。
「その名前、ミレニアムの会長……トリニティやゲヘナとも……!? 先輩!!」
がっくんがっくんとシロコはカヤツリの肩を掴んで前後に揺らしていた。カヤツリはされるがままに振り回されている。
「ホシノ先輩も! まだ何か知ってるはず! キリキリ吐くべき!」
「うへっ!? 何でさ。シロコちゃん!」
振り回されて力尽きたカヤツリを放って、自分の方へとシロコが向かってきた。
その時に、今までとは違った風が、ホシノの身体を撫でる。
それは、乾いていて、涼しい風で。今までの熱く湿ったものとは違った。それは秋の風だった。
その季節に、あまりいい思い出は無い。けれど、あの時とは違うのだ。もう二人ぼっちではない。後輩もいるし、友達も、先生も、カヤツリだっている。だから、もう嫌な季節ではない。
そんな思考は、シロコを何とか宥めるうちに、どこかへと消える。
新しい季節が、直ぐそこまでやって来ていた。