ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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地下生活者の目的、性格、能力、黒服との関係性に独自解釈が含まれます。


三年生編 対策委員会編3章
153話 ゲマトリアの追放者


 フランシスとデカルコマニーはどことも知れない、暗い通路を歩く。カツカツと靴音が響く廊下を進めば、一つの扉に辿り着いた。

 

 扉の先は薄暗く湿った石作りの部屋。窓には鉄格子がはまり、そこからの薄い光だけが光源だ。簡単に言えば、そこは牢獄と言って差し支えない部屋だった。

 

 

「くるしい……くるしい……」

 

 

 その部屋の主は、冷たそうな床に跪き頭を抱えて呻いている。この場所までやってきたフランシスとデカルコマニーは、その人物に向かって声を掛けた。

 

 

「お前の苦行はこれで終わりだ。起きよ。地下生活者」

 

 

 薄汚いぼろ布のローブで身体を覆い、ボサボサ髪の猫背の男。顔は仮面で覆われて素顔は分からない。仮面は目鼻の代わりに、いくつもの眼が描かれ、その瞳は時計という中々奇抜なデザインだ。

 

 その男。地下生活者は、フランシスに問う。

 

 

「匿名の行人……? 一体、何の用なのです。私に構わないで下さい……」

 

 

 弱々しく、掠れた声で話す地下生活者にフランシスは告げる。

 

 

「ゲマトリアが壊滅した」

 

「……」

 

「ゲマトリアはもう存在しない。解体、もしくは解散とみてもいいだろう」

 

 

 沈黙する地下生活者に、フランシスは更に言葉を重ねる。

 

 

「原因は一つ。シャーレの先生がいたからだ。あの者が、因果とジャンルを捻じ曲げた」

 

 

 その言葉で漸く、地下生活者がフランシスの方を向いた。

 

 

「なるほど、Rule Book(コデックス)が更新されたのですね? 異物感を感じます。また、新たなキャンペーンが始まる……」

 

「そうだ。シャーレの──」

 

「静かに!」

 

 

 豹変した地下生活者は虚空を睨んで、何かを確認している様子だ。

 

 旧友の全く変わらない様子に、フランシスは内心溜息をつく。

 

 この男、地下生活者は追放者だ。かつて、今よりも、ベアトリーチェが来るよりも前にゲマトリアを追放された。

 

 追放されただけあって、人格、性格面に大きな問題がある。もちろんベアトリーチェよりも。彼女が狂気に落ちるまでは、ゲマトリアの一員だったことからも当然の帰結だ。ただ、その代わりに持ち前の能力は強力無比。その能力のせいで、その性格なのか。むしろ逆なのかもしれないが、フランシスは然程それについての興味はない。

 

 そして、地下生活者が行っているのは確認だ。今、キヴォトスに敷かれているルールと状況の確認。

 

 ルールの確認はとても重要だ。地下生活者が、永い間ここに引きこもっているのもあるが。誰しもベアトリーチェの様な末路は御免だからだ。

 

 本来なら、彼女は負けるはずはなかった。確かに調印式では負けたが、アレは彼女にとってはついでの物だ。ユスティナ聖徒会もあったらいいな程度の物。だから、彼女も腹が立ちこそすれ余裕綽々だった。

 

 あの時の彼女の力は、アリウス自治区全ての生徒、ユスティナ聖徒会等々。本来なら、先生一人に負けるはずはない。だが。彼女はミスを犯した。

 

 ベアトリーチェの目的は、自らが崇高に至る事。方法は生徒一人を使用した儀式。それによって自らに神秘を付与し、後から色彩で崇高に至る。

 

 方法としては間違っていない。彼女のミスはそこではない。

 

 彼女のミスは、先生と敵対した事。そして、この世界の絶対のルールを破った事。

 

 先生と敵対したのは、以前黒服が語った通りだ。生徒を守る先生に、悪い大人として立ち塞がったのは悪手だった。勇気と希望、青春の物語。主人公たる先生と生徒たちの物語。その物語上で、生徒を守る先生には絶対に勝てない。

 

 ただ、それは結果に過ぎない。最も致命的だったのは、約束を破ったことだ。

 

 儀式の生贄。ロイヤルブラッド。アリウススクワッドの秤アツコ。アリウススクワッドは調印式の後、自らの運命を悟り、ベアトリーチェから逃亡した。

 

 しかし、数多の手と無限の兵力を手にしたベアトリーチェから逃げ切れるはずもない。かなりの健闘はしたようだが捕縛されている。

 

 ベアトリーチェに必要だったのはロイヤルブラッドたる秤アツコだけ、護衛として行動させていた他のメンバーは用済みとばかりに処理しようとした。

 

 そこで、秤アツコは、ベアトリーチェを脅したのだ。仲間を見逃がさなければ、ここで死んでやると。

 

 困るのはベアトリーチェだ。生贄というくらいだから、生きていなければ意味がない。

 

 そこで口頭での約束が結ばれた。アリウススクワッドを見逃す代わりに、秤アツコを確保する。それぞれの名を賭けた契約が。

 

 ベアトリーチェは、子供相手だからとそれを甘く見て、その約束を破った。それから、命からがら逃げた錠前サオリが先生に助けを求めたことが、ベアトリーチェの終わりの始まり。

 

 幾ら口約束でも約束は約束。それも自らの名を賭けた契約だ。破れば賭けた物を失う。ベアトリーチェは名を賭けた。なら彼女が失うのは名前だ。彼女の肩書き全てが、その効力を失った。

 

 彼女は、儀式を行ったにもかかわらず、負けた事が理解できない様だったが当然だ。約束を破ったあの瞬間から、彼女は舞台装置──マクガフィンと化したのだから。

 

 その時の秤アツコに自覚はなかっただろうが、あれは起死回生の一手だった。もしかしたら、エデン条約を通して法則を見つけたのかも知れない。

 

 

「新しいRule Book(コデックス)は……学園都市。それに、先生……。これが、新しいキャンペーンのボスですか……」

 

「そうだ。あの者、シャーレの先生は不可思議だ。破綻したジャンルで、自らを主人公でないと言いながら、破滅を回避し、あまつさえジャンルすら戻した。我々の計画がいくつも潰されている。黒服もな」

 

「黒服……? ああ、あの者ですか」

 

 

 地下生活者は、黒服の名を呟く。”黒服”は今の黒服の名前だから、直ぐに知っている人物と繋がらなかったのだろう。

 

 興味なさげに呟いているが、目線や、手つきなどから丸わかりだ。上手い事こちらの思惑に乗ってくれたらしい。

 

 色彩を退けたこと。あれが、フランシスには信じられなかった。フランシスの仮説では、先生の無敵性は学園都市のテクスチャあってこそ。学園だから、主人公だからこそ、先生は無敵だった。これが学園以外であれば、そうではない。キヴォトスに色彩が襲来したその時には、そうなるはずだった。

 

 しかし、そうはならなかった。どういった理由か、彼は色彩を撃退し世界を救った。

 

 フランシスにはその手段が分からない。でも、分からないなら確認すればいい。フランシスには、この学園都市のテクスチャを剥がす力はない。先生の無敵性を剥ぎ取って、先生の能力を試せない。

 

 しかし、地下生活者にはできる。フランシスの必勝法と地下生活者は極めて相性がいい。基本的にキャンペーン中の地下生活者は無敵だ。

 

 だから、わざわざこんな所にまで来たのだ。先生に地下生活者を嗾けるためにだ。キャンペーンや黒服を絡めれば、絶対に食いついてくるとフランシスは確信していた。

 

 地下生活者は黒服を意識している。先生に勝つことが出来れば、先生に勝てなかった黒服よりも上だと証明できる。奴はとんでもない負けず嫌いだ。自分を下に見た者を絶対に許さない。黒服にそのつもりは無かったとしてもだ。

 

 

「ン、ンン……? こ、これは…! 思ったより難易度がた、高いじゃありませんか……!」

 

 

 当然の話だ。先生相手に正面からでは分が悪い。難易度が高いどころの話では無い。正攻法ではほぼ不可能だ。それは、地下生活者も分かっているのだろうが、ぶつぶつと言葉をつぶやいている。

 

 

「しかし、万物に攻略法は存在する……! どれ、どれ、盲点、弱点、欠点……なんだっていい……!」

 

 

 こちらには認識できないルールブックとやらを舐め回すように確認する地下生活者。地下生活者の悪癖だ。能力の関係もあるのかもしれないが、世界をボードゲームのように捉えている。

 

 Rule Book(コデックス)はこの世界の法則と約束事。キャンペーンは、世界に起こる事件だ。ゲームのイベントと言ってもいい。

 

 地下生活者はキャンペーンを通じて、自身を成長させることを目的としている。まるで、戦闘をこなしたゲームのキャラが、レベルアップするような。

 

 しかし、この世界はゲームのように必ず攻略法があるわけではない。一度勝ったからと言って、ずっと勝ちのままではないし、勝って終わりではない。負けからも学ぶことはあるし、人生は敗北の連続だ。画面越しではなく、実際に経験することで学ぶこともたくさんある。痛みや、汚れ、ストレス、挫折などを忌避していては学ぶものも何もない。そこでしか学べないモノもある。

 

 そもそも勝ち負けなど、視点で幾らでも変わるものだ。勝ち負けなど主観的なものに過ぎない。当人たち以外に価値などない。それは崇高ではない。崇高に勝ったら、崇高よりも価値があるのか? 崇高が何なのか分かるのか? 分かるはずもない。そんなだから、フランシスは地下生活者の考え方には興味は無い。

 

 

「お前がこの世界をどう認識しているかなど興味は無い。しかし、いつまでもボードゲームか何かだと思っていては、正しい勝利にはたどり着けないだろう」

 

 

 地下生活者の注意を向けるために、フランシスは親切心からの忠告の言葉を紡ぐ。さっきと地下生活者の様子は変わらない。頭を抱えて、ぶつぶつと呟くばかりだ。

 

 しびれを切らしたフランシスは、用意していた回答を言う事にした。このまま地下生活者が攻略法を思いつくのを待つのは時間の無駄だ。

 

 

「私が答えを教えてやろう。あの者に勝利するためには……」

 

「邪魔をするなァアッ!! クズがッッ!!」

 

 

 フランシスは答えを言いきることが出来なかった。

 

 いきなり激高した地下生活者が、フランシスの本体であるデカルコマニーの捧げ持つ絵画を奪い取ったからだ。

 

 

「”死”を知らない貴様如きがァ!! ええッッ!! 小生の苦しみ、孤独を……恐怖を理解できるのかァアッ!!」

 

 

 そのまま地下生活者は、奪い取ったフランシスの絵画にがなり立てる。地下生活者の握力が増していき、フランシスの額縁が嫌な音を立て始めた。

 

 

「匿名の行人のクセに出しゃばるなアッ!! これは、小生のキャンペーン!!」

 

 

 高まる握力に、遂には額縁が粉砕され、絵画自体に地下生活者の指が食い込んだ。フランシスはその穴から、左右へ引き裂かれようとしている。

 

 

「小生のキャンペーンに、割り込むなァーッッ!!!」

 

 

 暫くの抵抗の後、ビリビリと地下生活者はフランシスの絵画を完全に破り捨てた。まだ怒りが収まらないのか、デカルコマニーの方を足蹴にし始める。

 

 それを見ながら、半分になったフランシスは熟考する。

 

 恐らくは、口出しされたのが癪に障ったのだろう。それか、自分より先に攻略法が思いつかれたせいかもしれない。

 

 だが、少なくとも目的は達した。これで、地下生活者は先生へと狙いを定めるだろう。

 

 先生の攻略法は簡単だ。正面から相手をしない事。これに尽きる。

 

 相対しなければ戦いのしようもないだろう。不運や偶然と戦えないのと同じだ。

 

 地下生活者が上手くやるかは分からない。今の様子を見る限りは五分五分だが、どう転んでも美味しい。悔しくも自分はそれを観察することはできないが、デカルコマニーは不死だ。また、別の自分が観測してくれるだろう。

 

 そこでフランシスの意識は閉じ、人を蹴りつける鈍い音だけが響いていた。

 

 

 □

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 デカルコマニーを足蹴にするのに疲れた地下生活者は息切れしていた。

 

 叫びながら人を蹴り続けると言うのは疲れる。この場所に閉じこもってからずっと、苦行を続けていたから、運動不足もあるかもしれない。

 

 襤褸くずのようになったデカルコマニーを部屋の隅に蹴り込んで。地下生活者は思考を進めるが、苛立ちが収まらない。演説染みた台詞が口から零れる。

 

 

「勝利ィ……? 何故にみな、そんなものに執着する? 結果は既に決まっている。我々はいつか死ぬ。それは不変の真理! どうせみな敗北する運命……大事なのはそれじゃねえのさ……!」

 

 

 時が経てば、いずれ皆死ぬ。結局、死に全員敗北するのだ。だからこそ、死ぬまでの間に地下生活者は死を理解したかった。そうすれば、それができれば、死に勝てるから。そうして初めて、自分は死を恐れなくて済む。

 

 

「そうだ……大事なのは過程……! その過程で、小生が何を経験し、気づきを得られるか──ただ、そのことに意味がある……」

 

 

 それを、うだうだと。死を知らない、名無しの権兵衛が好き勝手に。崇高な自分の探究を邪魔したのだ。隅っこでゴミの様に転がっているのが、似合いの末路というモノだろう。腹立たしいことはまだある。

 

 

「貴様らごときが、ゲマトリアという、崇高な求道の名を名乗るぅ……? そ、そんなの、ゲマトリアの名が、廃るだろうがァッ」

 

 

 自分はアイツらとは違う。崇高だのなんだのと、そんなくだらない物の為には動かない。もっと素晴らしくて、不可思議なモノ。そこにあるのに、経験できないモノ。他者は観測できても、自身では決して経験できないモノ。

 

 ”死”

 

 自分はそれを理解したくてたまらないのだ。だから、アイツとは違うのだ。自分を追い出した、勝手にゲマトリアの名前を使っているアイツとは……

 

 

「ゲマトリアが……壊滅?」

 

 

 さっき、匿名の行人(フランシス)が言っていたことを思い出す。

 

 自分の古巣(ゲマトリア)が壊滅したと。ならば、アイツは負けたのだろう。そして、自分はまだ生きている。生きて、求道を続けている。

 

 それを思うと、可笑しくなった。偉そうに自分を追い出して、何の感情も見せない視線を向けたアイツ。アイツよりも上に立っている。その実感が、地下生活者を調子づかせる。

 

 

「いや……本当のゲマトリアはこの小生」

 

 

 口に出してみれば、何だかしっくりくる。今なら何でもできそうだ。頭がとても冴えていた。

 

 

「アア、ならば、小生の求道はそこから始めよう。この、アビドスで」

 

 

 アイツが失敗した地。アビドス。アイツができなかったことを、この自分が成功させる。それは、勝ちなのではないだろうか。自分を追い出したアイツが間違って、自分が正しい。アイツはゲマトリアなんかでは無くて。自分こそが、真のゲマトリア。

 

 

「小生が、真のゲマトリアの姿を見せてやらなくては……ヒヒッ」

 

「随分と、興味深い話をしていますね。地下生活者」

 

 

 するはずのない声が聞こえて、地下生活者は勢いよく振り返る。

 

 

「黒服……!? 何故、小生の居場所に……!?」

 

 

 黒のスーツに黒のネクタイ。そして白い亀裂が目鼻を形作っている顔。

 

 アイツ──黒服が部屋の入り口に立っていた。そして、地下生活者の疑問に答えるように、部屋の隅を指差した。

 

 

「フランシスとデカルコマニーを追ってきたのですよ。連絡事項があったのですが……この様子ではね。またの機会になりそうです」

 

 

 黒服が指を鳴らすと、部屋の隅で襤褸雑巾のようになっているデカルコマニーの姿が消える。そして、ぐるりと首を回して地下生活者の方を向く。

 

 

「……クックックッ、先ほど、興味深い話が聞こえましてね。詳しく話を聞かせて頂いても? 私の手が必要でしょう?」

 

「断るッ! これは小生のキャンペーン!! 貴様に参加されては……」

 

「クックックッ……困ると。私の後追いでは気分が悪いと。相変わらずの様ですね」

 

 

 地下生活者は舌打ちする。さっき迄の気分は消え去っていた。残るのは最悪の気分だけだ。一々口出しされてはたまらない。それにデカルコマニーと違う底知れなさが黒服にはある。同じ手は通用しないだろうし、関わり合いになりたくない。

 

 

「しかし、貴方の求道はボードゲームの真似事でしょう? 一人では難しいと思いますが。まさか、敵味方含めた全ての動きと解釈を一人でするおつもりで? もちろん、認知バイアスの事は知っていると思いますが。私の計画を流用する以上は、しっかりして頂きたい」

 

 

 早速の口出しに、地下生活者の苛立ちが増す。地下生活者のこれは、求道であって、実験でも、芸術でも、儀式でもない。

 

 しかし、逃げたと思われるのも癪だ。黒服の言葉を否定するために、地下生活者は弁明する。

 

 

「兎に角、貴方に参加の資格はない。口を出されては構いません。これは小生のキャンペーンなのですから。オブザーバーとして、そこで指をくわえて見ているなら構いませんが……」

 

 

 オブザーバーならいい。ゲームマスターとは違って、発言は出来るが何の権利を持たない傍観者。ただ見ていることしかできない役職だ。

 

 もし地下生活者だったら御免被る。自分のキャンペーンが、他人に好き勝手されるなど耐えられない。それは黒服も同じはずだ。自分が失敗した計画を、目の前で見事に達成されるなど。地下生活者にとっては恥辱の極みだから。きっと断るはずだ。

 

 

「なら、それでいきましょう。オブザーバーですか……初体験というのも乙なものです。それに、自分以外のアプローチというのも悪くない」

 

 

 驚くべきことに、黒服はそれで構わないようだった。

 

 

 ──何を考えている?

 

 

 黒服の目的が見えない。それを探ろうとする地下生活者は、黒服を舐め回すように見るが、何も分からない。そして、それを面白そうに見る黒服の視線が煩わしい。

 

 確かに、黒服にもメリットはある。自分の計画の成功か、また別のアプローチを観察できる。ただ、本当にそれだけだろうか? 自分の邪魔をする為なのでは? 何故かって、地下生活者ならそうするからだ。

 

 

「しかし、オブザーバーとして参加するには、二人では人数が足りませんね。私から問題提起ができないのですから、議論も何もありません。解決策として、一人の知り合いを呼んでも? 私ではなく、彼に貴方の相手をしてもらうのはいかがでしょう?」

 

 

 目的はこれかと、地下生活者は看破する。知り合いと言っても、機械か何かの傀儡だろう。それで、引っ掻き回そうというわけだ。ゲマトリアのメンバーが出てくるとは思えないから、これで決まりだ。

 

 

「機械や貴方の同類、貴方の入れ知恵は認めません。貴方は、小生とその者のキャンペーンをただ見て、感想を言うだけ。それでもいいのなら」

 

「良いでしょう。今から呼ぶのは、機械でもありませんし、私のようなキヴォトスの外から来たものでも、ゲマトリアのメンバーでもありません。私のただの知り合いです」

 

「……フン」

 

「異論はないようですね」

 

 

 黒服の後ろから現れた人影に、地下生活者は見覚えがない。機械でも、自分たちと同類でもない。信じられないが、黒服は本気の様だった。黒服にそんな知り合いがいるのも信じられなかったが、黒服は嘘を吐かない。本当のことを全ては言わないだけ。なら、本当に知り合いなのだろう。

 

 しかし、その人影を見た感じ、ゲームに慣れているという訳ではなさそうだ。服装は黒服と同じようなスーツの上に、これまた黒のロングコートを羽織っている。黒服が何か細工でもしたのか、目出し帽しか被っていないのに、中身が認識できない。

 

 黒服と似た雰囲気と体格だ。自分をよく知る黒服ならいざ知らず、自分の手の内を知らないコイツでは自分に勝てるとは思えない。

 

 

「……いいでしょう。着いてきてください。ふさわしい場所へと案内します」

 

 

 案内しながら、彼らに背中を向けて、笑い転げそうな内心をひた隠しにして、地下生活者はこっそりとほくそ笑む。

 

 思わぬ幸運だった。まさか、目の前で黒服を嬲って、笑いものにできる機会が訪れるなんて。黒服が来た時の気分はすっかり晴れている。

 

 黒服以外ならどうとでもなる。黒服の知り合いには、代わりにサンドバッグと自分の踏み台になって貰おう。

 

 心に秘めた、その思いのまま、地下生活者は会場に着くなり宣言する。

 

 

「それでは、始めましょうか! 小生のキャンペーンを!!」

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