ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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15話 カヤツリとホシノ

「ん?起きたのか」

 

 

 気づけば、ホシノは乗ってきた車の助手席に座らされていた。少し困ったような顔でカヤツリがこちらを見ている。カヤツリの顔は血まみれなのと、今までの状況が理解できずにホシノは混乱した。

 

──どうしたんだっけ?二人でビナーを倒して。借金が返せるかもしれなくて。それで……。

 

 

「榴弾が降ってきたんだ」

 

 

 カヤツリが見かねたように、その時あったことを簡潔に言った。それで自分は気絶して、庇ったカヤツリの顔は血まみれなのだという。こっちの情報が洩れていて、横槍を入れられたんじゃないかとカヤツリは推測していた。

 

 

「それで、これからどうするの」

 

 

 きっと、カヤツリなら何かいい考えを持っているはずだった。いつも何だかんだ何とかしてくれるのだ。ホシノも気絶はしたがまだまだ戦える。そんなやる気十分なホシノを見てカヤツリは諦めたように言った。

 

 

「逃げるぞ」

 

「どうして、まだ戦えるよ。それに、まだビナーは動いてるんでしょ」

 

 

 消極的なカヤツリの意見にホシノは反抗した。自分はまだ戦えるし、カヤツリも出血はしているが動けている。あともう一押しで倒せそうなのに、逃げるのは今までのことを無にする行為に等しかった。そんなホシノを見てカヤツリは車の荷台を指さした。

 つられて見ると銃身に何かが刺さっているレールガンが置いてあった。こういうのに詳しくないホシノでも撃てないのが分かった。

 

 

「レールガンがその有様なのにか?どうやってビナーにダメージを通す?ホシノの火力でもダメだったろ」

 

「逃げても追いかけてくるでしょ。どうするつもりなの」

 

「逃げるのはホシノだけだ」

 

 

 一瞬ホシノはカヤツリが何を言っているのかよくわからなかった。徐々にその言葉の意味が分かってくると、頭の中が怒りで染まりかけたが、一旦飲み込んで続きを促した。

 

 

「俺は残ってビナーを何とかする。ビナーの目当ては俺だからな」

 

 

 ホシノにとっては、ある意味予想通りの答えが返ってきた。ただ方法はどうするのだろうか。頼みの綱のレールガンはあの有様で使えそうにないのに。突いていくのならここだった。

 

 

「何とかするって、どうするの」

 

「ホシノがビルを爆破したやつの残りを使う」

 

「無理だよ。それなら、私と一緒に戦った方がいいよ」

 

 

 カヤツリの提案をホシノは否定する。カヤツリの目的は分かっていた。囮だ。一番最初にやろうとしていたことをするつもりなのだ。ユメ先輩に止められて諦めたと思っていたのに。ただ逃げるにしても戦うにしても二人でなら何とかなるとホシノは思っていた。

 

 

「だからさ。一緒に──」

 

「何で、言うことを聞いてくれないんだ」

 

 

 カヤツリの言葉にホシノは息をのんだ。カヤツリ自身もそんな事を言うつもりはなかったようで驚いた顔をしていた。もう取り繕う必要を感じなくなったのか、自分でも抑えきれなくなったのかはわからなかったが、ホシノにはカヤツリが一回り小さくなって見えた。カヤツリはもう立つ気力もなくなったのか、運転席まで来て座り込んだ。

 

 

「悪い。変なこと言った。忘れてくれ」

 

 

 ホシノの目にはカヤツリがもう限界に見えた。ただ、なぜそれほどまでに頑張るのかホシノにはわからなかった。アビドスの校舎が無くなって困るのは分かる。ホシノや先輩も、それを回避するために今まで頑張っていた。

 しかしカヤツリのそれは異常だった。幾ら自分の所為だとは言え命までかけるのはやり過ぎだ。これまでだって、身銭を切って色々やっているのをホシノは知っていた。

 だからホシノは聞いてみたくなった。そういう状況ではないことは分かっているけれど、どうせ打つ手もないのだ。今度は、正面からカヤツリの本音を聞いておきたかった。

 

 

 □

 

 

 カヤツリは疲れ果てていた。全てが徒労に終わったからだった。

 

 それもあっていうべきでは無い事を言ってしまった。カヤツリは自己嫌悪でぐちゃぐちゃになっていた。本当にあんなことを言うつもりはなかったのだ。あんなのは信頼している仲間に言う言葉ではない。

 

 

「何でそこまでするの。こう言っちゃ何だけどさ。カヤツリにそこまでアビドスに思い入れはないでしょ」

 

 

 そんなホシノの疑問はもっともだった。カヤツリはビナーの方を確認する。部隊の方まで移動したのか姿が見えず、遠くの方で戦闘音が聞こえた。ここまで来るにはもうしばらくかかるだろう。カヤツリは大きなため息をついた。

 

 まあ、すべて話すにはいい機会なのかもしれなかった。それに話さなければホシノは動く様子はなさそうだった。もう守秘義務など、もうオーナーの依頼に巻き込んだ時点でないようなものだ。何か言ってきたらそれで押し通すつもりだった。

 

 

「昔、運び屋をしてた。ちょうどこういう車だった」

 

 

 突然話し始めたカヤツリにホシノは黙った。それを横目にカヤツリは、一つ一つ思い出していく。同じような車の所為だろうか、思い出が泉のように湧き出ていく。

 

 

「名前もなかった俺を拾ってくれたのが始まりだった。最初は簡単な手伝いだけだったな」

 

 

 そうだった。たぶん向こうは体のいい労働力のつもりだったのだろう。名前もなくヘイロー持ちの身寄りのない子供などいくら使いつぶしても問題ないからだ。それに珍しい男だ。どこかに売れば一財産にはなっただろう。

 ただそれでも、いっぱしの仲間として扱ってはくれたのだ。そんなだから、単純な自分は張り切って色々やった。

 

 

「途中から仕事が増えた。あの時は鯨って呼んでたが、ビナーを追い払う仕事だ。まあ護衛だな。皆は護衛代が浮くとか言って喜んでたっけ」

 

 

 カヤツリにはどうやら、そういった才能があるらしかった。ちょうど今乗っている車の荷台に乗って、対物ライフルをビナーの弱点に当てて追い払っていたのだ。

 そこで役割を手に入れて、漸くカヤツリは居場所と名前を手に入れたのだ。

 

 

「だから、校舎の修繕とか、狙撃とかできたんだ」

 

「似たようなこと毎日やってたからな。それはいいんだ。問題はこの後だ。今になって思えば怪しい依頼だったんだけどな。ビナーの縄張りの傍を通る依頼なんて。他にルートは幾らでもあったのに」

 

 

 あの怪しい依頼を元締めの大人と仲間たちが受けた時、カヤツリは止めなかった。薄々怪しいとは思っていたが、自分がいればどうにでもなると思っていた。その慢心の結果は散々だったが。でもカヤツリは、皆は待っていてくれると信じていたのだ。

 

 

「結局、俺はビナーを止めきれなかった。ちょうどここらへんだったかな、最後に積荷ごとビナーに突っ込んだのは。それでどうにかして戻ったら皆は俺を置いていなくなってた」

 

 

 オーナーに、お前は金と引き換えに見捨てられたのだと言われた時、どうしようもなく悲しかった。だって、運び屋のカヤツリからただの名無しの誰かになったからだ。だからオーナーに望むものを聞かれた時に一も二もなく飛びついたのだ。

 

 あの時のカヤツリが欲しかったのは、名前と居場所だったから。カヤツリにとって、それがないのは死んでいるも同然だった。だから必死に覚えた。今度は失敗して捨てられないように。金より価値がある者になれるように。自分はそういうものになれるのか知りたかった。

 

 

「それで、依頼の失敗の借金を被せられて、今は借金の肩代わりをしてくれた大人の犬をやっている」

 

 

 初めてアビドス高校に来た時はこんな事になるとは思ってもみなかった。今の様子をあの時の自分に見せたら、鼻で笑うに違いない。”なんでそんな奴らのためにそんな目にあっているんだ?”くらいは言いそうだった。

 

 

「それで?まだわかんないよ。理由。別に借金に同情したわけじゃないでしょ」

 

「それじゃダメか?割と恥ずかしいんだけど」

 

「言って。言わなきゃ、カヤツリの言う事聞かないから」

 

 

 拗ねたようなホシノにカヤツリは苦笑して、これまでのことを思い出していく。そのうちに落ち込んでいた気分が上向きになってきた。そういえば先輩には色々話した気がするがホシノには何も言っていなかったかもしれない。

 

 

「楽しかったんだよ。先輩とホシノと仕事したり、二人でパトロールしたり、先輩のポカに付き合わされたりするのが」

 

 

 この数ヶ月は最高だった。大変なことの方が多かったけれどもずっと笑っていたような気がする。きっとどんな状況でもその日々は輝いていた。

 彼女たちと一緒ならどこまでだって行ける気がしたし、彼女たちのためならなんだってできた。あの恐ろしいビナーが相手だって戦おうと思えた。

 

 

「本当に嬉しかったんだよ。ホシノに”君がいい”って言われたときは。生まれてはじめて言われた。もうそれだけで十分だった」

 

 

 ホシノにその自覚はなかったかもしれないが、あれはカヤツリにとっての殺し文句だった。カヤツリが一番欲しかったものだ。

 あの一言で、カヤツリは自分のことを”アビドス高校1年生の兎馬カヤツリ”だと、心の底から思えたのだから。

 

 学校は借金まみれ、在校生は自分含めて3人だけ、おまけに激しい砂嵐。とんでもない状況下だが彼女たちがいるなら、カヤツリにとって、そこは守るべき価値がある場所だった。

 

 

「そりゃあ頑張るさ。当然だろ。誰が何と言ったって、俺にとってはその価値があるんだよ」

 

 

 □

 

 

 カヤツリの返答を聞いて、ホシノは顔が真っ赤になっていた。カヤツリは自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。先輩との話を盗み聞きしたときも思ったが羞恥心というものがないのだろうか。そんなセリフをポンポン言わないでほしい。

 ただ理由は分かった。自分の責任だからみたいな、あの夜盗み聞きしたようなことを言ったら、ぶん殴ってやろうかと思ったが。まあいいだろう。合格だ。

 

 

「わかった。わかったから。もういいよ」

 

 

 まだ何か言おうとするカヤツリを止める。これ以上口を開かせたら何を言い出すか分かったものではなかった。ついでに釘も刺す。

 

 

「でも、一人で残るのは認めないよ。残るなら私も残るし、逃げるなら一緒に逃げなきゃだめだから」

 

「いや、解決策が……」

 

「私も楽しかったから、カヤツリと色々するのは。だから相棒のカヤツリがいなくなるのは嫌だし、先輩も悲しむから。いい?」

 

「はい……」

 

 

 カヤツリが赤くなって何か静かになった。何か勢いで自分も結構恥ずかしいことを言った気がするが、お互い様だ。これはカヤツリが先に恥ずかしいことを言ったせいだ。ただこれで振り出しに戻ってしまった。

 耳をすませば、まだ遠くで戦闘音が聞こえる。ビナーがまだ戦っているのだろう。案外敵も粘っているようだった。

 

 

「火力が必要なんだよね?何か爆発物でも埋まってる場所とかないの?ガソリンスタンドとか。この場所初めてじゃないんでしょ」

 

「何で?」

 

 

 不思議そうな顔をするカヤツリにホシノは呆れた。さっきカヤツリが自分で言ったのだ。もう忘れたのだろうか。

 

 

「ここで前戦ったんだよね?さっき自分で言ったよ」

 

「え……」

 

 

 カヤツリは虚を突かれた表情をした後、黙り込み考え込み始めた。しばらく百面相をして大笑いし始めた。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、無いと思ってたが、意外と奇跡ってあるもんだなって思って。何とかなるかもしれない。ありがとう。一人じゃ気が付かなかった」

 

 

 そのままカヤツリは、車を廃都市の中に向けて発進させた。ホシノはカヤツリが何をしているのかわからなくて、運転中のカヤツリを小突いた。

 

 

「ちょっと、説明してよ」

 

「ああ、悪い。少しおかしくて、説明ね。確かにここに来た。最後にビナーに特攻しようと思って積荷を確認したんだ。二つコンテナがあって、一つはパワーローダー用の弾薬だったから、そのコンテナごとビナーに突っ込んだんだ」

 

 

 カヤツリは笑いをかみ殺しながら説明してくれた。結構なスピードで走行しているので揺れが激しく舌を噛みそうになっていた。随分さっきとは様子が違うがそんなにおかしいことなのだろうか。

 

 

「一つがパワーローダー用の弾薬だったのなら、もう一つの中身は何だったと思う?」

 

「えぇ……。その弾薬を使うものじゃないの。パワーローダーってやつ。まさか確認しなかったの?」

 

「それだけ特注の鍵がかかっててな。面倒だったからしなかったんだよ。バカみたいだろ」

 

「まあ、カヤツリらしいね。どうせ焦って時間ないから後回しにしたんでしょ」

 

「よくご存じで」

 

 

 そんな話をしているうちに、目的地に着いたようで車が止まった。そこは古びた駐車場で止まったままの車が砂に埋もれていた。そしてその奥に、砂に多少埋もれてはいるが目的のコンテナがあった。

 カヤツリの言う通りコンテナ自体がかなり大きく、鍵もかかっていたが、ホシノがショットガンで鍵を吹き飛ばして強引に開けた。中にはカヤツリの予想通りの物が入っていたようだった。

 

 コンテナに入って作業を始めるカヤツリを見てホシノは安心した。カヤツリは喧嘩別れした日から、何かにおびえるように、ずっと様子がおかしかったからだ。やたらとホシノや先輩に対して過保護だったし、コソコソ一人で何かやっていた。

 昔の話を聞いた今なら理由もわかるが、ホシノも少し傷ついたのだ。だからこれくらいの意趣返しは許されるだろう。手伝いを頼むカヤツリにホシノは言う。

 

 

「私でいいの?一人でやるんじゃないの?」

 

「ホシノじゃなきゃダメだ。手伝ってくれ」

 

 

 二人はお互いの顔を見て笑った。

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