ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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160話 古い契約と代理人

 アビドス対策委員会部室。

 

 今日、その部屋は狭苦しかった。元々が砂祭りのための準備室だから、大きな部屋ではない。

 

 でも、対策委員全員と、先生を入れても少しは余裕があるほどの広さはある。

 

 何故狭いかと言えば、今日は客人が来ていた。随分と騒がしい客人が。

 

 

「せまーい」

 

「お客なんだからさ、お茶くらい出してよ」

 

 

 先日のハイランダーのCCC。あの双子が部室までやって来ていた。今は、一人は部室の中を走り回り、一人は偉そうに飲み物を要求している。どたばたと騒がしく、あまりの図々しさに全員が呆気に取られていた。

 

 

「ええい、騒がしいぞ。静かにしろ」

 

 

 呆れたように、眼帯の生徒。監督官と言われていた朝霧スオウだったか。眼帯ちゃんが、騒ぐ二人をしかりつけていた。

 

 叱られた当人たちは、不満そうな目で眼帯ちゃんを見ている。

 

 

「そもそも、我々が歓迎されるわけがないだろう? 先日の事すら忘れたのか?」

 

 

 先日。ハイランダーによるアビドス自治区内への無断侵入、無断工事及び戦闘行為未遂。自治区が自治区なら宣戦布告とみられても仕方がない行為だった。ゲヘナあたりなら、ヒナちゃんが即刻飛んでくるだろう。

 

 今日は、その説明に来たとの話だったが、そんな様子は微塵も感じない。あの二人は、悪いことをしたとも思っていなさそうだし、眼帯ちゃんは淡々としている。

 

 

「自分たちの土地を守るために、あのカイザーと戦った連中だ。我々が昨日行った事で心証は最悪だろう」

 

 

 それなりに、こちらの事を調べているようだった。自己分析もできている。訂正するなら、心証は最悪とまでは行っていない。それなら、即刻部屋からたたき出している。

 

 

「だからこそ戦闘の危険性があるとも伝えたはずだ。遊び気分なら帰れ」

 

 

 自分とカヤツリ、先生を除いた後輩全員がムッとする気配を感じた。さっきから好き勝手されているのもそうだし、どこか、こちらを何とも思っていないような、それこそ、道端のゴミでも見るような視線だ。ゴミ扱いされているわけでは無いが、それくらいの興味しか感じない。

 

 褒められた態度ではない。もうシロコちゃんやセリカちゃんなどは微妙そうな顔をしている。

 

 

「もっとも、あんたたちが武力行使に出たところで、勝つのは私だがな」

 

「ッ!」

 

 

 こちらを見下したような表現が含まれた言葉に、シロコちゃんがキレた。それを何とか、セリカちゃんが抑えていた。

 

 随分と自信があるようで、こちらから見た感じも概ね正しい。

 

 得物は服の下だからか分からない。おそらくは長物以外。

 

 立ち位置は前に机、後ろに出口。直ぐに逃げられる立ち位置で、机を蹴り上げれば盾代わりにもできる。

 

 姿勢も、足の位置と重心位置からして、直ぐに動けるだろう。言うだけのことはありそうだ。自分もある程度は本気を出さなければならないくらいか。

 

 

「説明は、ハイランダーではそうなのか?」

 

「何?」

 

 

 ようやく口を開いたカヤツリの言葉に、眼帯ちゃんが反応した。

 

 

「ハイランダーでは説明するって言葉が、喧嘩を売る事なのか? それとも、相手方の部屋で粗相をすることか? それとも、偉そうに自分の実力を誇示する事か? そうしろと教わったか?」

 

 

 カヤツリが眼帯ちゃんを正論で殴っていた。初めて眼帯ちゃんの視線が変わった。カヤツリだけはどこか感情が乗っているような気がする。

 

 

「そうなら、帰ってくれ。アンタの実力なんかどうでもいいし、ここではそんなものは必要ない。必要なのは説明で、アンタの実力の有無じゃない。アンタが説明も案内もしてくれないなら、他の者に説明を頼むだけだ。まさか、先日の件は悪くないからって、本当に喧嘩だけ売りに来たのか?」

 

「カヤツリ! ちょっと!」

 

 

 先生の声がカヤツリを制止した。煽り過ぎだ。反応を見たいのだろうが、言葉のチョイスが強すぎる。”帰れ”以降の言葉はより強く刺したのが分かる。鉄面皮だった眼帯ちゃんの顔がはっきり歪んだからだ。

 

 

「そろそろ、本題を話してくれないかい? 先日の件についての説明に来てくれたんだよね?」

 

「む……失礼した。シャーレの先生だな」

 

 

 先生の声で我に返ったのか、表情は鉄面皮に戻っていた。

 

 

「それで、説明してくれるかい? 対策委員会側だけじゃなくて、君たちハイランダー側の事情も知りたいんだ」

 

「問題ない。元よりそのために来た」

 

 

 先生が優しく眼帯ちゃんに対して促すと、一言”どうぞ”と部屋の外に向かって声かけした。

 

 それが合図だったのか、ぞろぞろと見覚えのない大人たちが入ってくる。

 

 

「……この人たちは?」

 

「紹介しよう。こちらの方々が、アビドスの新たな債権者だ」

 

 

 スーツを着たロボット。着物を着た二足歩行の猫。暑苦しそうなブルドッグ。三者三様の大人たちがそこに立っている。部室がここまで狭いと思わなかったとか、砂が酷いとか、言いたい放題だ。

 

 新たな債権者という事は、彼らがアビドスの債権を買った事になるが、三人もいるのが妙だった。

 

 

「債権を買ったのはネフティスグループだと、そうこちらは認識している。あなた方は、どういった方々なのか。お聞きしても?」

 

「そうですね。そこから始める事にしましょうか。私たちは貴方と話しに来たのですよ。兎馬カヤツリさん」

 

 

 三人の大人たちは、カヤツリと話をするためにここに来たのだと言う。そして、カヤツリもそれを承知しているようだった。

 

 

「まずは自己紹介を。我々は今回の事業に投資した()()の責任者です。以後お見知りおきを」

 

 

 それに対して、カヤツリは納得したように頷いて、自己紹介を返していた。慣れて、自然な動作で社交辞令を言っている。

 

 

「債権を買ったのはネフティスグループなのよね? そう言えばいいじゃない」

 

「そうだね。何か変……」

 

 

 その裏でアヤネちゃんとセリカちゃんが話している。そして、ノノミちゃんも首を捻っている。

 

 

「ノノミちゃん。どうしたの。ネフティスの人なら見覚えがあるから悩んでる?」

 

 

 その気持ちは嬉しいが、思い出せない可能性の方が高いと思う。ノノミちゃんがアビドス高校にきてから、丸二年だ。それからずっと、ノノミちゃんは実家に帰っていない。

 

 いつも決まった時間に電話が何回も掛かっているのを皆知っている。でも、ノノミちゃんは無表情で、通話先を見ずに、通話を切ってしまう。

 

 相手は誰だか想像がつく。きっと両親だろう。一人娘が家を飛び出して、よりにもよってアビドスで一人暮らしをしているのだ。心配するに決まっている。

 

 だから、限度額が無いゴールドカードを持たせている。それ一枚でアビドスの借金を返せる額を捻出できる魔法のカード。ただ、それをノノミちゃんはほとんど使わない。

 

 使う時ですら、どうしようもない時で、それも自分の為には使わない。それは、初めて自分と会った時に言った言葉が原因なのかもしれないし、ノノミちゃんの意地なのかもしれない。

 

 部屋も自分で探し、生活費も自分で稼いでいる。ネフティスの、親のやり方が気に入らないから、出て行った。だから、親には頼らない。ノノミちゃんは、そんなつもりなのかもしれない。

 

 そんなだから、現状のネフティスをノノミちゃんは知らないだろう。もう二年だ。代表の顔が一新していてもおかしくはないのだから。

 

 

「いえ、あの人たちはネフティスじゃありません。ずっと昔、どこかで……」

 

 

 ノノミちゃんの疑問の答えはすぐに分かった。

 

 

「私たちは、私募(プライベート)ファンドです。彼が私債労働組合。そちらが質屋連合。ここには来ていませんが、押収品競売組合に、ゼラチングミ商事、タヌキダイスキ工業などなど、その他多くの方々で構成されている。ね」

 

私募(プライベート)ファンド?」

 

「……少数の投資家から資金を募り、事業を運営するグループの事です。やっと思い出しました……」

 

 

 ノノミちゃんは、ようやく思い出したようだった。訳の分からない顔のシロコちゃんに説明しながらも、表情は少しこわばっている。

 

 向こうも、ノノミちゃんに気がついたようだ。カヤツリから視線を離して、ノノミちゃんを見ている。

 

 

「おや、お久しぶりですね。以前……もう数年以上前ですか。パーティでお見掛けしたのが最後ですね」

 

「……ええ、お久しぶりです」

 

 

 ノノミちゃんの顔のこわばりが酷い。別にあの大人が変なことを言ったわけでは無いし、妙な視線を向けたのでもない。向こうもそのつもりもないだろう。単純に、ノノミちゃんの生まれが絡みついてきたせいだ。

 

 

「私たち私募(プライベート)ファンドは、あまり表に顔を出したくない。そう言った方々で構成されています。だからこそ、ネフティスの名で債権を購入しました。これがネフティスだけでなく、私たちがここにいる理由です」

 

「怪しいわね……」

 

「実際そうだと思うよ。表に顔を出したくないって言うのは、そう言う事だからね」

 

 

 小声でセリカちゃんに答える。

 

 顔を出したくないと言う事は、やましい物を抱えているか、脛に傷を持つ者たちということだ。きっと全員が全員ではないだろうが。でも、雰囲気からして、昔よく見た奴らと似たものを感じる。

 

 

「あなた方が、債権者だと証明できる物は、何かありますか?」

 

 

 先生もそれを聞いたか、同じ考えに至ったかは定かでないが、確認を要求した。彼らが何を考えて、債券を購入したか分からないし、ネフティスの名義を借りたと言うのも出まかせかもしれない。

 

 

『いえ、そちらの方々は債権者で間違いございません』

 

 

 先生の言葉を否定する言葉が、その場に響いた。その声は、ハイランダーの方、眼帯ちゃんの隣から聞こえてきた。

 

 そこには、ホログラムに映るロボットがいる。ホログラムは眼帯ちゃんの機器から出ているようだった。

 

 

「執事さん……」

 

 

 あえて、ここでは聞かなかった。大体の事は昨日の会話と今のノノミちゃんの反応で察せられるからだ。

 

 

「間違いありません。書類も全て正しいものです」

 

「これで、ようやく話し合いに入ることが出来ますね」

 

 

 アヤネちゃんの言葉に嬉しそうに言う私募(プライベート)ファンドとは真逆の表情の執事を、ノノミちゃんは見ているだけだ。色々と聞きたいことが山のようにあるはずなのに。

 

 

「それでは、どうしますか。カヤツリさん。私たちだけで話しますか?」

 

「いや。聞いてもらった方が良い。何となくそっちの言い分も分かった」

 

「相変わらずのようですねぇ。貴方は」

 

 

 意味深な一言の後、私募(プライベート)ファンドの代表者は話し出す。

 

 

「我々は先日、カイザーからアビドスの債権を買い取りました。殆ど全てをね。そうであれば、砂漠横断鉄道の権利は我々の物。そう言う事になります。だから、我々がハイランダーに工事を依頼したとしても、貴方たちが文句をつける筋合いはないという訳です」

 

「やっぱりそうじゃん」

 

「黙ってろ」

 

 

 ハイランダーに有利な発言に、双子の一人が言葉を漏らすが、眼帯ちゃんに小突かれて黙らされている。

 

 

「……まずはこれを、ハイランダーの倉庫で見つかったものです」

 

 

 一枚の少し古ぼけた紙。何かの書類だろうか。それを代表は机の上に丁寧に置いた。

 

 

 ──売主”セイント・ネフティス”と買主”アビドス生徒会”は……

 

 ──砂漠横断鉄道の全権利を一千万円で売り渡し……

 

 ──契約金の一部として、百万円を即時に支払う。そして二ヶ月以内に、代理人を指名する事を約束する。

 

 ──本契約の締結後、二年以内に残金をすべて支払い……

 

 ──本契約不履行時、買主として、別紙の代理人が本契約と権利を引き継ぎ、支払い義務を負うものとする。

 

 ──アビドス生徒会長、梔子ユメ。

 

 

 懐かしい名前と筆跡が目に飛び込んできた。どこか懐かしい気持ちで胸が満たされる。

 

 

「これは、砂漠横断鉄道の売買契約書です。しかし、これは何の効力も持たないはずでした。アビドス生徒会は存在せず、前生徒会長である梔子ユメはもういない。代理人も見つからない。そのまま私たちはハイランダーへ依頼をしたのです。どちらかが健在か、代理人がいれば話は別でしたが……」

 

「対策委員会がいる。対策委員会はアビドス生徒会の後継組織だ」

 

「でも、別組織ですよね? この契約書には()()()()()()()としか書いていない。()()()()()()()()とは書いていないのですから。実際、今の様子を見る限り、彼以外は知らなかったようですし」

 

 

 先生の一言に、代表者は悪びれもしない。

 

 

「そして、これが、問題の一枚です。これについての話をしに来たのですよ」

 

 

 もう一枚の、さっきのよりかは新しい紙が出された。コピーらしく白黒だが、内容は普通に読めた。

 

 

 ──売主”セイント・ネフティス”と買主”兎馬カヤツリ”は……

 

 ──砂漠横断鉄道の全権利を一千万円で売り渡し……

 

 ──契約金の一部として、百万円を即時に支払う事を約束する。

 

 ──本契約の締結後、二年以内に残金をすべて支払い……

 

 ──代理人、兎馬カヤツリ。

 

 

 買主と署名がそっくりカヤツリに置き換わっている。

 

 

「この書類がネフティスグループから提出されたのが、ハイランダーの依頼の後でしてね。先日の騒動は、連絡不足によるものだったと言う事です」

 

 

 筋は通っている。中々苦しいが。ただそれでも、非を認めてはいるから、これ以上の追及はできない。

 

 

「それで、ようやく本題です。カヤツリさん。私どもに砂漠横断鉄道を売却する。または代理人を降りるつもりはありませんか?」

 

 

 誰も口を開かない。自分とてそうだ。状況が分からない。

 

 カヤツリが、砂漠横断鉄道の権利をどうにかしたのは知っているが、金額が予想以上だった。代表者の言い分からして、一千万を払いきっているか、その見込みがあるのだろう。

 

 あと二日か三日というのは、そう言う事だったのだ。

 

 

「貴方が持っていても、宝の持ち腐れでしょう? 貴方が諦めて下されば、もちろん悪いようにはしません。一千万とは言わず、それに加えて債権の分だけになりますが、アビドスの借金を無しにしてもいい。どうですか?」

 

「断る」

 

 

 カヤツリは即答していた。一秒も迷わなかった。借金が無くなると言われても、動揺すらしない。

 

 

「そうですか……残念です。それならば、二日後の総会に出席をお願いします。そこで代理人であることを主張してください。丁度、契約の期日でしょう?」

 

 

 残念ですと言う割には、全く残念そうではない様子で。代表者は総会の日時と場所を告げる。

 

 

「総会では、ファンド内でアビドスの債権、それに付随する権利の分配が行われます。そこで、先ほどの宣言と砂漠横断鉄道の権利を主張してください」

 

 

 念を押して、代表者たちは部屋から出て行ってしまった。

 

 残っているのは、ハイランダー組とホログラムの執事。それと状況が飲み込めない自分たちだけだ。

 

 

『どうするのですか? 一体、どうするおつもりで?』

 

「アンタには関係ないだろう?」

 

『二日後が何の日か、貴方なら分かっているはず。彼らも分かっているでしょう。だから、態々あんな……』

 

「説明してください!! 二人は一体何の話をしているんですか!!」

 

 

 ノノミちゃんが、もう堪えきれないと言うように叫んだ。もう我慢の限界らしかった。

 

 

『……お嬢様。お久しぶりです。お元気そうで何より──』

 

「教えてください!! ネフティスは何を考えているんですか! なんで今更──」

 

「落ち着け。ノノミ後輩」

 

 

 ノノミちゃんは聞く耳を持たなかった。それを、カヤツリが制止する。

 

 そのまま、ハイランダー組の方へ視線をやった。

 

 

「用は済んだろう」

 

 

 話し合いに邪魔だから、帰らせようとしたのだろう。そうしようしたカヤツリを、今度は執事が制止した。

 

 

『朝霧スオウさんだけ、残ってください。一応、彼女はネフティスに雇われて、私の代わりに動いている身なので』

 

 

 あの双子はぶつぶつ言いながらも部屋を出て行った。廊下の方で声がするから、声が聞こえないところで待つのだろう。妙なところで律儀だった。

 

 

『詳しい話は、また明日話します。二日後の総会の準備で私も忙しいのです。そもそも今日に顔を出したのもカヤツリさんに提案があっての事なので。ですから、簡単な話でよければ』

 

「それでもいいです。お願いします。執事さん」

 

 

 執事はため息をついて、困り顔で話し始めた。

 

 

『目的は知りませんが……お嬢様たちは砂漠横断鉄道の権利を渡したくないのでしょう? そのためには問題点がいくつかあります』

 

「問題点ってなによ。話はよく分からないけど、カヤツリ先輩がお金を払えばいいんじゃないの? そんなに貯め込んでるなんて知らなかったけど……」

 

 

 話だけなら、そのはずだ。カヤツリは契約で二年間の間にお金を払う。それで、払い終われば、権利はカヤツリの物になる。これで、間違いはないはずだ。

 

 

『契約書が二枚ありますが、まだ前アビドス生徒会長の契約書は厳密には失効していません。代理人が見つかってしまいましたから。そして契約の期日まで、あと二日あります』

 

「それが、なんなんですか!」

 

『彼は代理人です。ですから、あと二日経ち契約が失効しなければ権利は移りません。今の段階で、幾ら契約金を支払ったところで無意味。買主であるアビドス生徒会はもうありませんからね』

 

 

 今は、まだユメ先輩の契約期間内だから。そこで契約金を払っても、アビドス生徒会に権利が渡るだけだ。でも、アビドス生徒会はもうない。代わりに対策委員会があるが、あのファンドの代表者の口ぶりではそうはならないのだろう。

 

 

『ですから、あと二日後に契約が失効してから、カヤツリさんが契約金を全額支払う必要があるのです』

 

 

 全員がカヤツリを見るが、カヤツリは心配なさそうに言う。

 

 

「専用の口座からの銀行振り込みにしてあるから、心配いらない。向こうで勝手にやるし……最悪、現金もある」

 

 

 カヤツリからはいざという時の為の資金はプールしていると聞いた。その場所も、鍵の開け方も知っている。それでも、執事は首を振る。

 

 

『……それは、代理人であることを宣言した場合です。紙だけでなく、総会の場で、言葉で宣言する必要があるのです。前アビドス生徒会長の方の契約書には代理人の名前が書いてありませんからね』

 

「じゃあ、出来なかったら、どうなるんですか?」

 

 

 ノノミちゃんの言葉に執事は疲れたように返した。

 

 

『契約は失効したものとみなされます。代理人もいないのですから、砂漠横断鉄道の権利は彼らの物になる。そして、彼らもそれを狙うでしょう』

 

「どういうことですか?」

 

『総会には警備が必要でしょう? 彼らに知らせないでおくだけでいいのです。先日のハイランダーと同じように。それだけで、彼らはカヤツリさんが会場に入るのを妨害するでしょう。それで間に合わなければ全て終わります。カヤツリさんは代理人を放棄し契約を放棄したとみなされる。連帯保証人と違って強制力はありませんから』

 

 

 悪辣だった。それで、反撃すればさらに増援を呼んで押しつぶすだろう。流石にカヤツリにも限度というモノがある。

 

 

「ん。私たちが一緒に行けばいい」

 

『それこそ無駄です。権利があるのはカヤツリさんただ一人。部外者である貴女たちが行けば、体の良い口実を与える事になる』

 

「じゃあ、どうしろって言うのよ……」

 

 

 セリカちゃんの声に、執事の液晶の目が輝いた気がした。

 

 

『ここで、一つ提案を良いでしょうか? 全てを解決する手段が一つだけあります』

 

 

 それが執事の持ってきた()()なのだろう。あの目の輝き様からして、相当な自信があるらしい。

 

 ただ嫌な予感もする。

 

 

 ──全てを解決する手段が一つだけあります。

 

 

 言葉選びはもっと詩的だが、黒服も似たようなフレーズを使う。大体その後は碌でもない提案なのだ。見た目は良さそうでも、中身は苦い悪意で一杯。見た目がいいだけの中身が腐った食べ物のような提案だ。

 

 そして、そんな自分の想像を飛び越した言葉が、執事の口から飛び出した。

 

 

『兎馬カヤツリさん。今、この場で、お嬢様と結婚していただきたい』

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