ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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163話 列車砲シェマタ

「おじさんは、ノノミちゃん達にこんなことを教えた覚えは無いよ!」

 

 

 ギャーギャーとホシノ先輩が自分たちへと怒鳴る。激怒までは行かないが、相応に怒っている。自分たちは、生徒会室の中で項垂れて叱られることしかできなかった。

 

 

「生徒会室に無断で侵入するなんて……しかも、私とカヤツリのロッカーを漁ったの!?」

 

 

 きっと写真を見られたことによる怒りと恥ずかしさだろう。顔を真っ赤にして、ホシノ先輩は怒っていた。

 

 カヤツリ先輩のロッカーから、あの手帳を取り出そうとした矢先にホシノ先輩がやって来た。そんなだから、逃げ出せるはずもない。手帳をバレないようにするので精一杯だった。

 

 どうやって察知したのかは、分からない。まさかの勘だろうか? 戦闘勘に関しては底知れないものがあると、カヤツリ先輩が昔ぼやいていたのを思い出した。あり得ないとは言い切れない。

 

 

「ノノミ。アレ、どうする?」

 

 

 シロコちゃんがホシノ先輩に聞こえないように話し掛けてきた。アレとは、カヤツリ先輩のロッカー内の手帳だ。学年に一、名前欄に梔子ユメと手書きで書かれたそれ。

 

 手帳は今、シロコちゃんが隠し持っている。その時の手つきは目にもとまらぬ早業だった。

 

 

 シロコちゃんは、聞いているのだ。

 

 

 ──ここで、ホシノ先輩に見せて聞くべきかどうか。

 

 

 おそらくホシノ先輩は、カヤツリ先輩程で無くとも、ある程度の事は知っているだろう。これを見せれば観念して、梔子ユメ先輩のことを当たり障りの無い範囲内で教えてくれるかもしれない。

 

 梔子ユメ先輩を知っているのは、ホシノ先輩とカヤツリ先輩の二人だけ。昔、アビドス砂漠で二人が初めて会った時の事を考えれば、ホシノ先輩の方が付き合いは長い。なら、梔子ユメ先輩のことに関しては、ホシノ先輩の方が詳しい。悪い考えじゃない。

 

 ホシノ先輩の方を見やる。

 

 ホシノ先輩は、ぶつぶつ言いながら、こちらに背を向けて自分のロッカーを片付けている。ロッカーの中は外と違って埃が酷いのか、大きなくしゃみが何回か聞こえた。

 

 熟考の末の考えをシロコちゃんへ、同じような小声で伝える。

 

 

「今は辞めておきましょうか」

 

「ん。分かった」

 

 

 シロコちゃんは頷いて、こちらを見るのをやめた。

 

 ふうと一息つける。

 

 シロコちゃんの考えは、本当に悪くはない。ただ問題点が一つ。

 

 この手帳はカヤツリ先輩にとってどんな意味を持つのかだ。

 

 ロッカーを開けた時にシロコちゃんが言っていた。開いたのは運だったと。ならば、あんなに厳重に仕舞ってあるのだから、中身はカヤツリ先輩にとって大事なものだ。

 

 でも仕舞い方が変だ。あんな無造作に置いてあるなんて。カヤツリ先輩ならもっとキチンと仕舞う。あれではまるで、急いで放り込んだみたいだ。

 

 それに大事な思い出というなら、こんな誰も滅多に入らない場所に置いておくのは変だ。大事なら家に置いておくのが普通だ。

 

 置いておけない理由は想像がつく。カヤツリ先輩とホシノ先輩は同棲している。そんな家に置かないということは、ホシノ先輩に見つかりたくないのだ。

 

 なら、処分すれば良いと思うが、そうもいかない理由があるのだろう。

 

 つまりは、カヤツリ先輩にとって、あの手帳はそういう物なのだ。

 

 カヤツリ先輩が優先するのは、アビドスの事とホシノ先輩。それと対策委員会。この三つのどれか、若しくは全てに無視できない影響があるから、ここに見つからないように置いているのかもしれない。

 

 だから、今ここで考え無しに見せるのは考えものだ。

 

 この手帳をどうするか、そう考える自分の耳へホシノ先輩の声が響いた。

 

 

「はぁ……全く……ノノミちゃん。そういえば、お客さんが来てるよ。勝手に呼んだね?」

 

 

 それには心当たりしかない。ハッとする自分に、ホシノ先輩は片付けの手を止めて困ったように言う。

 

 

「砂漠横断鉄道についての話があるんだって。登校途中で会うなり、そんな事言うから、おじさんびっくりだよ」

 

 

 それで、ホシノ先輩はここまで来たのだろう。お客を連れて部室に行っても、ネフティスを呼んだはずの自分達が居ないから、校舎中を探したに違いない。

 

 それを聞いたアヤネちゃんが、慌てて部屋から飛び出していく。こちらから呼びつけて、出迎えも無しだと何を言われるか分からない。

 

 セリカちゃんとシロコちゃんも、それを考えたのか、同じように部屋から出て行く。

 

 自分は動けなかった。

 

 後に続こうとした自分の背中に、ホシノ先輩の声が掛けられたからだ。

 

 

「……ノノミちゃんには、ノノミちゃんの考えがあったんでしょ? それで、自分で動いた。ユメ先輩の事と砂漠横断鉄道の事を知るために。違う?」

 

 

 片付けが終わったのか、ホシノ先輩は立ち上がって、自分を見ていた。

 

 勝手に動いて後輩達を巻き込んだことに怒った顔ではなく。少しだけ羨ましそうな顔だ。それが意外だと感じる。

 

 

「昨日の話が気になるのは分かるし、ユメ先輩の事をおじさんにも聞きにくいのは分かるよ。おじさんも、同じようなものだしね」

 

「同じ……ですか?」

 

「うん。私だって全部は知らない。知ってるのはユメ先輩の事だけだよ。多分、この状況を全部知ってるのはカヤツリだけ。でも、私が聞いても答えてくれないんだ。明日が終わるまではね」

 

 

 ホシノ先輩は、適当なおじさんのような雰囲気だが、実際は真逆であるのを自分は知っている。きっとカヤツリ先輩が話してくれないのは相当堪える筈だ。期限があるのがまた嫌らしい。

 

 そのせいもあってか、ホシノ先輩は悲しそうだった。カヤツリ先輩がそうする理由も薄々は分かっていて、それがきっと自分の為であることも分かっているはずだった。それでも消化しきれない思いがある。そんな感じだ。

 

 

「明日までと言われて納得したんですか? ホシノ先輩は、そういう風には……」

 

 

 不思議そうな自分の言葉を聞いたホシノ先輩は、自嘲するように笑う。

 

 

「見えないって? うへ、ノノミちゃんは私の事をよく見てるね。昔の私とは大違いだ」

 

「昔の?」

 

 

 思わず聞き返してしまった。昔のとは、あの写真の頃のだろうか。自分の考えを見透かしたのか、ホシノ先輩は頷いた。

 

 

「そう。あの写真の頃の私。あの頃の私は、自分の事ばかり考えてた。アビドスの為なんて言いながら、出来たのはその場凌ぎだけ。何もしなくても、ずっと幸せな日々が続くと思ってた。それを維持して、先の事を考えてたのはカヤツリと、たぶん……ユメ先輩だけだった」

 

 

 初めてホシノ先輩の口から、梔子ユメ先輩の名前が出た。どういうつもりなのか、判断できずに固まる自分へホシノ先輩はただ話し続ける。

 

 

「私はね。ユメ先輩の事なんて、何も分かってなかったんじゃないかって、今更ながらに思ったんだよ」

 

「……契約の話ですか?」

 

 

 最初は政略結婚の話で落ち込んでいると思っていた。昨日のホシノ先輩は逃げるように居なくなってしまったから。この様子だと違ったらしい。

 

 契約の話という自分の言葉に、ホシノ先輩は何も返さない。ただ独り言のように呟くだけだ。

 

 

「だって知らなかった。ユメ先輩があんな契約を結んでたなんて。私には言ってくれなかった。カヤツリには言ってるどころか巻き込んでるみたいなのにね。私には、なんで言ってすらくれなかったんだろう……」

 

「……」

 

 

 梔子ユメ先輩のことを知らない自分には答えようがない。きっと答えられるのはカヤツリ先輩だけだ。それは、きっとホシノ先輩も分かっている。

 

 これはホシノ先輩の弱音だ。遂には自分を誤魔化しきれなくなったらしい。自分に吐き出して楽になるのなら、存分にやってくれていい。自分たちはこの先輩に頼りきりなのだから。

 

 

 ──貸し一つですよ。カヤツリ先輩。

 

 

 そう、心の中で呟く。この役目はいつもはカヤツリ先輩の役目だ。その先輩は自分の恋人を放っておいて何かをやっている。その尻拭いの少しばかりの仕返しだ。

 

 

「私が、ユメ先輩だったら。ユメ先輩みたいだったら、ユメ先輩みたいに考えられたら、カヤツリは話してくれるのかな……」

 

「それは……違うと思いますよ」

 

 

 それは違うと思う。梔子ユメ先輩の事は何も知らない自分でも、それだけは分かった。

 

 

「私には梔子ユメ先輩の事は分かりませんが、ホシノ先輩とカヤツリ先輩の事は知っています。そんな私が言うんです。信じてくれとまでは言えませんが、ある程度の確信はあります」

 

「ノノミちゃん……?」

 

 

 急に勢い込んだ風に話しだす自分に、ホシノ先輩は唖然としている。

 

 

「カヤツリ先輩が話さないのは、ホシノ先輩のせいじゃありません。たぶん、カヤツリ先輩も話したくないんだと思います。でも、話そうと決めたんじゃないでしょうか。だから、期限がついているんじゃありませんか?」

 

 

 カヤツリ先輩は真面目だ。話したくない事は徹底的に隠す。話すべきことはすっぱり言う。グダグダと邪魔な情報は言わない。そのことは、色々教えられた自分は知っている。

 

 だから、期限付きで教えないと言うのは、カヤツリ先輩には珍しい中途半端な対応なのだ。その期限が契約の終了日と被るのは偶然ではないのかもしれない。きっとカヤツリ先輩も悩んだ末の結論なのだろう。

 

 もしかしたら、こんなことになるはずでは無かったのかもしれない。最初の切っ掛けだったハイランダーの事件で、カヤツリ先輩の機嫌は相当悪かった。そして、昨日も。それはイレギュラーが頻発しているせいではないのか。

 

 

「だから、執事さんの話を聞けば、ある程度の背景は見えてくると思うんです。それくらいは許されると思いませんか?」

 

 

 きっと、ホシノ先輩なら分かるはずだ。自分たちよりもカヤツリ先輩と一緒に居たのだから、情報量は一番多い。きっとホシノ先輩だけに見えるものがあって、それがきっと満足させてくれる。

 

 それを自分たちに言わなくても構わない。カヤツリ先輩も明日が終われば話してくれると言うから、あの手帳の出番もないだろう。そもそもが、梔子ユメ先輩が一年生の頃など、誰もいないのだから。

 

 

「……ごめんね。ノノミちゃん。変なことを言って。もう大丈夫だよ」

 

 

 少しばかり吐き出して、楽になったのか。ホシノ先輩の雰囲気は元に戻っていた。元に戻せるようになったのかもしれない。

 

 

「じゃあ、行こうか。皆がきっと待ってるよ」

 

「はい。ホシノ先輩」

 

 

 元気良く返事をして、ホシノ先輩の後をついていく。あの二人なら大丈夫だと。そう根拠なく自分は信じて。

 

 

 □

 

 

「まずは謝罪を、先日は申し訳ありませんでした。お嬢様」

 

 

 ネフティスの執事との会話は、驚くべきことに謝罪から始まった。

 

 どうにも迎えは間に合わなかったらしく、護衛であろうスオウさんは仏頂面だ。今にも文句を口から飛び出させるのを我慢しているようにも見える。

 

 

「……執事さん。それは何に対しての謝罪何ですか?」

 

 

 しなければならない覚えはあるが、される覚えはない。その問いに関してはスオウさんが答えてくれた。

 

 

「先日と言ったろう。政略結婚の件だ。突然の話で驚いたはずだ。謝罪はその件になる」

 

「それは、どういう意図で? 悪気があってやったみたいに、おじさんには聞こえるけど」

 

「ああ、悪気はあったとも。こちらも必要な事だったのでな」

 

 

 スオウさんの悪びれもしない態度に、シロコちゃんの眦が吊り上がった。それを見たスオウさんは昨日のように挑発する。

 

 

「どうした。掛かってきてもいいぞ。勝つのは私だろうが」

 

「……いや、いい」

 

 

 退いたシロコちゃんを見て、スオウさんは鼻を鳴らす。怖気づいたとでも思ったのだろうが、理由は多分別だ。

 

 

「兎に角、昨日の連絡通りに砂漠横断鉄道について教えてください。今の謝罪も、それに関連するんでしょう?」

 

「以前と違って……成長しましたね。お嬢様」

 

 

 感激か感心かは分からないが、どこか感極まった執事は、ようやく口を開いた。

 

 

「砂漠横断鉄道はアビドス生徒会とネフティスグループによる共同事業でした。()()()、ですが」

 

()()()?」

 

 

 それは、今はまるで別の意味があるとでも言うような口ぶりだった。事実その通りなのだろうが。

 

 

「途中から、別の計画が組み込まれたのです。そして、その計画が今回の騒動の発端でもあります。極秘で進められた、その計画は非対称戦力兵器計画といいます」

 

「非対称戦力兵器? ホシノ先輩は知ってる?」

 

「そんなの、おじさん知らないよ……」

 

 

 ホシノ先輩の言う通り、この場の対策委員会の人間は知らない。極秘でというくらいだから、関係者以外は知らないのだ。目の前にいる二人以外は。

 

 

「その兵器の名前は、列車砲シェマタ」

 

「しぇまた?」

 

 

 執事が放った言葉をセリカちゃんが鸚鵡返しに繰り返す。その名前の意味をきっと知らないが故の反応だった。

 

 

「……伝説的なアビドスの生徒会長の名前だよ。セリカちゃん。彼女の異名は……」

 

 

 遥か昔、まだアビドスが砂に沈む前。アビドスの黄金時代の少し前。その中で七十の生徒会が乱立した時期があったと言う。所謂内乱。戦国時代。

 

 そんな中、自分以外の生徒会を平定し、アビドスの全盛期をもたらした生徒会長。それがシェマタ。彼女の異名。二つ名は……

 

 

「鉄拳政治のシェマタ。そして…………アビドス出身ではない私も知っている事実。かつてのアビドスはその兵力と資金力で周囲の学園から恐れられていた。だからこそ、この兵器の名前は興味深い」

 

 

 スオウさんが感心したようにアヤネちゃんを見て、持論を展開する。彼女の言わんとするところは分かりやすかった。

 

 鉄拳政治のシェマタの名は力の象徴だ。その名を冠する兵器など、余程の物なのだろう。

 

 そして、かつてのアビドスを象徴するものでもある。その名前だけで、それに関わった人間たちの願いが見えた気がした。

 

 

「力だけでも、かつてのアビドスに戻りたかったのでしょうか……」

 

「力だけじゃ、どうしようもないよ。力だけじゃ自分を見失うよ……」

 

 

 どこか実感がこもったような、寂しそうなホシノ先輩の声を合図に、執事は列車砲シェマタについての話を始める。

 

 

「シェマタは、破壊力も射程距離も、従来の兵器とは比べ物になりません。便宜上は列車砲と名がついていますが、もはや要塞兵器です。一トン以上の爆弾を五百キロメートル以上先まで飛ばす超長距離砲。周囲には迎撃の兵器まで完備されています。そして、それが砂漠横断鉄道を走り回るのです。完成すれば、周囲の自治区に対しての圧倒的な抑止力となるでしょう」

 

 

 抑止力どころの話では無かった。周囲の自治区からしたら恐怖以外の何物でもないだろう。

 

 自治区の中心部へ、アビドス砂漠の奥から爆弾が飛んでくるのだ。迎撃しようにも距離が遠すぎ、位置も線路の上を走行するせいで掴めない。まさに、シェマタの名にふさわしい兵器だった。

 

 

「執事さん。初めはと言いましたが……」

 

「はい、その通りです。初めは砂漠横断鉄道はシェマタを運用するための計画ではありませんでした。文字通り、輸送を目的としたものです。入れ知恵した者がいるのです」

 

「それは、一体誰なんですか!?」

 

「それは、後で話そう。まずはシェマタと私募ファンド、ネフティスの関係についてだ。これは前提条件なのでな」

 

 

 食って掛かる自分を、スオウさんが手を挙げる事で止めた。入れ知恵した者の話は本筋から逸れるのかもしれなかった。

 

 

「はい。今回の騒動は、まさにこのシェマタが大きく関わっているのです。先ほどシェマタについて説明しましたが、ここ数日に至るまで、一人以外は誰も見つけようとさえしませんでした。それは極秘計画だったと言うのもありますし、他の要因もありますが、一番は違います」

 

「それは?」

 

「シェマタは失敗作だったのです」

 

 

 残念そうに執事の液晶の目が下がった。

 

 

「肝心要のエンジンが起動しませんでした。あの飛びぬけたスペックですから、納得できる話ではあります。そして、それは数日前まではそうでした」

 

「諦めきれない誰かが居たのだろうな。再度のシュミレーションの結果、今の技術であれば、完全とは言わないまでもシェマタの再現が可能だという結果が出てしまった」

 

「だから、私募ファンドが?」

 

 

 執事はゆっくりと頷く。

 

 

「どこからか彼らは、それを知ったのでしょう。カイザーから債権を買い占める金銭が足りなかった彼らは、私たちネフティスへ取引を持ち掛けてきました。勿論、シェマタの事は隠したまま。私たちも砂漠横断鉄道は残しておきたかったので、その提案に乗りました」

 

 

 きっと、執事は知らなかったのだろう。シェマタは極秘計画だそうだから。ネフティスは騙された形になる。

 

 

「私募ファンドの目的は一体……それに、カイザーはこの事を知らないんですか?」

 

 

 私募ファンドの目的は置いておいても、カイザーの脅威は深刻だ。本船を失った彼らが、シェマタを放っておくとは思えない。

 

 

「それは心配いりません。良くも悪くも、あの企業はプレジデントの意向が大きく影響します。彼は今、サンクトゥムタワーに夢中です。取り逃した魚の大きさが忘れられないのでしょうね」

 

「ひとまずは、再現可能になったシェマタによって、砂漠横断鉄道の価値が上がったわけだ。私募ファンドは、どうするかは分からないが、シェマタを利用するだろう。それはおまえたちにとっても困るのではないか?」

 

 

 対策委員会の全員が同意したように目配せする。

 

 シェマタは列車砲だ。それの活用方法など一つしかない。破壊と暴力だ。それが他所に撒き散らされればどうなるかは想像するに容易い。

 

 それに、被害を出したシェマタがアビドスが開発したものだと分かればどうなるか。カヤツリ先輩が築き上げたアビドスの信頼が地に墜ちる。それだけは何としてでも阻止しなけらばならない。

 

 

「そもそも、どうしてネフティスは砂漠横断鉄道を売却するなんて契約をしたの?」

 

 

 真面目な表情のホシノ先輩が、参考資料として置かれた契約書のコピーを指差す。

 

 

「その時にあったことを知っているんでしょ? ユメ先輩が、どうしてこの契約を結んだのか知ってるんでしょ? 知ってるなら、教えて欲しいんだけど」

 

「……もう二年も前の契約。それも倉庫で埃をかぶっていたモノです。私には知る由もありません。私はネフティスの幹部ではありますが、他部署で起こったことをすべて把握しているわけではありません。報告が上がっていない以上は、おそらくは現場判断で行われたのでしょう。あの時のネフティスは破産寸前でしたから」

 

「そう……ありがとう」

 

 

 執事の答えに、ホシノ先輩は萎れたような雰囲気になってしまった。どうにかしてやりたくとも、自分にはどうしようもできない。できるのはカヤツリ先輩だけだ。そして、状況は待ってはくれない。

 

 

「結論から言いますと、列車砲シェマタは砂漠横断鉄道の権利と紐づけされているのです。そして、それを私募ファンドは手に入れようとしている。あらゆる手を使って、権利を確保しようとしているのです。これが、お嬢様の求めた砂漠横断鉄道の真実と背景になります」

 

 

 列車砲シェマタ。思ったものよりもとんでもないものが出てきてしまった。私募ファンドはどうにかして止めないといけないのは分かるが、その方法が分からない。

 

 

「カヤツリ先輩は? カヤツリ先輩は、この事を知っているの?」

 

 

 突然のセリカちゃんの声に、恐らくはセリカちゃんを含めた対策委員会の思考が荒ぶった。

 

 カヤツリ先輩は、この事を知っているのだろうか。知っていて、自分たちに黙っていたのだろうか。そして今、何を考えて、何をしているのだろう。

 

 そんな思考が頭の中を蹂躙して、混乱を引き起こす。それは収まる気配を見せない。少なくとも自分自身のものは。

 

 それを止めたのは、執事の言葉だった。

 

 

「そう。まさに本題はそれなのです。私たちがここに来たのは、そのことについて話をするためでもあります。お嬢様の連絡は渡りに船でしたから、便乗した形になりますね」

 

 

 こちらにも目的があったから素直にここまで来たと、執事は言う。

 

 

「私募ファンドの詭弁を指摘しなかったこと。遅れて私募ファンドに提出された契約書。そして、先日のお嬢様との結婚の提案。これらは、全て目的があって行った事になります」

 

 

 対策委員会全員の視線が執事に集中する中、執事は自分たちに懇願するように言った。

 

 

「どうか、彼を止めて頂きたい。兎馬カヤツリ。彼の恐ろしい計画を」

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