ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
執事が放った言葉を聞いた対策委員会の反応は三者三様だった。
シロコちゃんは露骨に敵意をむき出しにしたし、セリカちゃんは”何バカなことを言ってるんだ”みたいな顔をしている。アヤネちゃんは何かを探る様な視線を執事に向けていた。
「言いたいことは色々あるけど……その、恐ろしい計画って言うのは? おじさんも知らなきゃ止めようがないんだけど」
ホシノ先輩は変わらない。普段と変わらない雰囲気と表情で執事に聞き返していた。それが、なんだかとても、自分にとっては恐ろしかった。目が全く笑っていなかったからだ。
「結論を単刀直入かつ簡単に言います。状況からして、彼はシェマタを私物化しようとしています。少なくともネフティスにはそう見える。その後の事は言わずとも分かるでしょう?」
「分からないよ」
ホシノ先輩の答えを聞いた執事は、”その後の事”を口に出す。
「あくまで例えばの話ですが、シェマタがあれば砲艦外交ができます。殆どの自治区は言う事を聞かざるを得ません。自治区の中心部の爆撃など、防ぎようがありません。碌でもない使い方などいくらでもありますし、考え付く。あれは個人の手の中に渡っていいような物ではない。そのくらいの事は理解できるでしょう?」
「カヤツリはそんなことしない」
執事の言葉をホシノ先輩は跳ね除けた。カヤツリ先輩の事を全く疑ってはいない。そして、それは自分たちも同じだった。
それを見たスオウさんは、やれやれと言うように口を開く。
「随分と奴の事を信じているようだが、行儀がいいのはお前たちの前だけだ。奴の過去を、お前たちは知らないだろう?」
過去と聞いて、首を捻る。確かにカヤツリ先輩が昔、何をしていたかは知らない。PMC基地でのカイザー理事の口ぶりから、カイザーに居たことは知っているが、それ以上の事は知らなかった。
それは、ホシノ先輩も同様の様で、訝しむような目をスオウさんに向けていた。
「君が、知っているって言うの? おじさんだって全部は知らない、カヤツリの過去を?」
「私ではなく、ネフティスがだ。まあ、ネフティスだけでなく私募ファンドも幾人かは知っているだろうがな。そして、今回の提案の根幹はそこにある。シェマタの事があるとはいえ、一人娘を差し出すなど。まさか、生徒会長でもない唯の生徒相手に、企業であるネフティスがここまですると思っていたのか?」
「スオウさん。そこまでにしておいてください。我々は喧嘩をしに来たわけでは無いのです。ネフティスの視点から見た彼の話をしたいのに、毎回挑発されては話になりません。やるなとは言いませんが、先日の事を忘れたとは言わせませんよ」
執事にそう言われたスオウさんは素直に引き下がる。
ある意味助かった。シロコちゃんがそろそろ限界だ。これ以上悪く言われれば爆発する。
自分の心配と安堵をよそに、話の主導権を取り返した執事が話を仕切り直す。
「我々の目的は、シェマタを悪用されないようにすること。それに尽きます。アレを使用することになったとしても、それはアビドスの為であるべきですから」
「それが、どうしてカヤツリ先輩の話になるんですか!?」
思ったよりも大きな声が出たのは、カヤツリ先輩がそんなことをするはずがないと言うのもある。ただ、それ以上にネフティスの動きは奇妙だった。
「シェマタを所有しようとしているのは、私募ファンドも同じのはずです! カヤツリ先輩よりも、私募ファンドの方に注意を向けるべきです! なんで、そんなにカヤツリ先輩を敵視するんですか!?」
危険度で言えば、私募ファンドの方がカヤツリ先輩よりも上だ。資金も人数も権力も、彼らの方が上のはずだった。スオウさんの言うように、カヤツリ先輩はただの生徒に過ぎない。カヤツリ先輩はただの生徒というには手札が多い。けれど、圧倒的な格差をひっくり返せるほどでは無いのだ。
「私募ファンドは、まだ話が通じ、目的も見えるからですよ」
「え……?」
執事の返答に言葉を失う自分へ、執事は理由を告げる。
「私募ファンドは投資家の集まりです。彼らが求めるのは自分の利益。彼らの利益とは単純に言えば、金銭や名誉、地位、その他諸々。それは、こちらも理解が及ぶものです」
「だからと言って……」
「私募ファンドも放置しているわけではありません。彼らもネフティスの名義を借りている身。私募ファンドが権利を手に入れたところで、権利は半々。頭数さえ揃えれば対抗のしようがあります。ですが、彼はそうではない」
私募ファンドに対しては無策ではないか。そう反論しようとするが綺麗にカウンターを決められる。カヤツリ先輩と私募ファンドの違いは話が通じるかどうかだと執事は言う。
確かに、夏の連絡を書面で一方的に打ち切ったのは悪いかもしれないが、それは自分のせいもあるはずだ。
「夏の件ですよね。それで……」
「違いますよ。夏の件はただの確認です。こちらへの対応をどうしてくるかというね」
「確認……ですか?」
執事は大きく頷く。
「はい。彼がネフティスをどう思っているのか。何が欲しいのか。行動理由は何なのか。その確認です。ずっとネフティスは彼を見ていました。彼がアビドスの生徒として入学してからずっと」
「どうしてそこまで……」
ほぼ困惑で作られた自分の呟きに、スオウさんが答えた。
「奴は狂犬だからだ。今は鳴りを潜めたフリをしているが、少なくとも昔はそうだった」
狂犬という言葉が、カヤツリ先輩とは繋がらなかった。それは、他の対策委員も同じようだったが、唯一ホシノ先輩だけは心当たりがありそうな顔をしていた。
「奴はカイザーコーポレーションに所属していた」
「ん。そんな事は知ってる。そんなことが、ここまでする理由?」
シロコちゃんが、遂に我慢できなくなったのか口を挟んできた。それを見たスオウさんは挑発するように笑う。
「カイザーコーポレーションだ。カイザーPMCやカイザーローン、カイザーコンストラクションなどではなくな。それが何を意味するか分かるのか?」
分かるはずがない。おそらくは本社勤めだと言う事を言いたいのだろうが、正直それだけしか分からない。他の皆もそうだろう。
「奴はカイザー理事の側近だった。右腕という奴だ。肝心の理事は、今は失脚して冷や飯を食わされているらしいがな」
PMC基地で、カヤツリ先輩に向かって提案するカイザー理事の姿を思い出し、あの時の理事の様子にようやく納得がいった。妙にしつこく勧誘するものだと思っていたが、居なくなった自分の右腕が現れたら、ああもなるだろう。
「……それで? それは昔の話でしょ?」
静かで、でもその中に苛立ちを含んだ目をホシノ先輩は向けている。カヤツリ先輩を悪く言われているから、流石に癪に障ったらしい。声も不機嫌さが伺えた。
「カヤツリが昔にカイザーに居た事なんて知ってるんだよ。アビドスを苦しめたのはカイザーであって、カヤツリじゃない。カヤツリはそんな事はしてないし、する予定もないよ」
「それが、しているのですよ」
執事の一言で、ホシノ先輩の不機嫌さが消え失せた。今感じられるのは、少しばかりの動揺と不審だけだ。そしてそれは、自分たちもそうだった。
執事は、そんな自分の方に振り向いて、さっきとは別の話題を振ってくる。
「時にお嬢様。何故、カイザーコーポレーションは、ここまでアビドス内に根を張れたとお思いですか?」
「それは、土地や借金があったからでしょう。それはカヤツリ先輩のせいじゃありません」
「ええ、確かに。借金に関しては彼は関係ありません。ですが、他の事に関係しているのです」
執事は窓の外、ある方向を指差した。あそこは確か、アビドス市街地だ。まだまともな建物が残っていて、かつての柴関ラーメンがあった場所。
「今も市街地はカイザー所有。店舗もカイザーの物がほとんどですが、昔は違いました。数年前ならまだ、アビドスに残っている企業やネフティスの子会社もいくつかありました。土地代を払っていればカイザーも文句は言えません。撤退するとはいえ、戻るつもりはありましたので。拠点は残しておいたのです」
それは初めて聞いたことだった。ネフティスはアビドスを捨てて逃げたと思っていたが、戻るつもりはあったらしい。ただ、今は残っていない。次の執事の言葉には大体の予想は着いた。
「全てカイザーに潰されました。正確にはカイザーの命令を受けた彼にですが」
思った通りの答えだった。執事は遠い目で、顛末を語る。
「最初は他の大人たちは彼を懐柔しようとしました。それらは全て失敗に終わりました。次に力づくで排除しようともしました。これも全て撃退されました。そして、彼らは報復として、最低限のもの以外の全てを奪われたのです」
「奴は理事から様々なことを教え込まされていたようだ。子供と見くびった大人を嵌めることなど朝飯前だろう。むしろ練習だったのかもしれんな? カイザーPMCの
さっきよりは控えめになった口調で、スオウさんが補足する。何故だか妙に詳しかった。ネフティスの調査結果でも暗記してきたのだろうかと思わされる。それほどまでにカヤツリ先輩を悪者にしたいのかと怒りが湧いた。
「だから、危険だと言うんですか。それは横暴じゃありませんか!」
あまりの身勝手な物言いに、声がつい荒くなる。その時のカヤツリ先輩の上司は理事なのだろう。上司の命令に従うのは自然なことだ。カヤツリ先輩の性格なら猶更だ。
しかし、執事は首を横に振る。
「私は彼がやったことを問題視しているわけではありません。問題は彼が何を考えているのか分からない事です。何故彼はアビドスを復興させようとしているのか? 彼は何の為に、何が欲しくて、シェマタを手に入れようとしているのか? 彼がアビドスを物流の中継点にする計画は知っていますが、それにシェマタは不要でしょう?」
言い返したくとも言い返せなかった。自分にも分からないからだ。
アビドスに来た理由は小耳にはさんだことがある。黒服というあの得体のしれない大人の依頼だとかなんとか。でも、アビドスを復興させろとまでは言われていないのではないか。
それと、シェマタを欲する理由は分からない。カヤツリ先輩の計画ではシェマタはどう考えても必要ない。
ネフティスが不審に思うのも当たり前だ。命令とはいえ、ボロボロにしたアビドスを復興させる理由が分からない。最初の時点ではカヤツリ先輩はホシノ先輩の事を何とも思っていなかったらしいから、適当にやればよかったはずなのに。
「ならば、状況から推察するしかありませんでした。だから、調べたのですよ。分かる範囲を徹底的に、かなりの出費と時間が掛かりましたが、幾つかの事が分かりました」
昨日のように、執事は三本の指を立てる。
「彼は契約を守る事に固執している。それが口約束でも、そうでなくともです。そして、それを破り、舐めた態度をとった相手には容赦しない。しかし守る限りは協力する」
一つ指を折る。
「彼は自分の欲が薄い。彼は基本的に他人の為に動くことが多い。それも自分の気に入った相手をです」
二つ指を折る。
「最後に、経緯や理由はともかく、彼はアビドス復興の為に動いてはいるらしいこと」
最後の指を折った執事は自分を見る。
「だからこその昨日の提案でした。そして、それが受け入れられなかったからこそ、我々ネフティスは彼を危険視するしかなかったのです」
「……何故、私なんですか? 私がネフティスだから、カヤツリ先輩に私を差し出したんですか!?」
受け入れられないと言うが、それはネフティスの勝手だ。カヤツリ先輩がホシノ先輩以外を優先するのは考えられない。拗れるに決まっている。
けれど、自分の問いに関して、執事は不思議そうに言う。
「違いますよ? 都合が良いのは否定しませんが。彼はお嬢様を気に入っていると思います。ネフティスから逃げ出してきた、箱入りの何も知らないお嬢様。お嬢様がどうあがこうとも、それが外から見たお嬢様の評価です」
耳が痛い事をぶつけられて、無意識に顔が歪むのが分かる。
「ですが、彼はそんなお嬢様を拾い、かつてのお嬢様が愚かだった事。そして、私とある程度は建設的な会話ができるほどに育て上げた。これを気に入っていると思わずして、なんと思えばいいのですか?」
「でも、私ではカヤツリ先輩の真意は分かりません。引き留められもしないでしょう。それができるのは……」
きっと、ホシノ先輩だけだろう。そう言おうとした自分に、執事は言葉を重ねる。
「ええ、お嬢様では力不足でしょうが、それはまだの話です。彼の枷になる人物はもういないのですから。いないなら、お嬢様になってもらえばいい」
「一体……何を言っているの?」
遂にホシノ先輩が口を挟んだ。それも当然の話でもある。執事の話はホシノ先輩を勘定に入れていない。ネフティスではないから省いたのだと思っていたが、それが理由ではないらしい。
「彼を止められる人間がいればいいと言う話です。それは後にも先にも一人だけでした。小鳥遊ホシノさん。貴女ではないのです」
「ふざけ──離して! セリカ! アヤネ!」
ショックで固まるホシノ先輩の代わりに、シロコちゃんが執事に飛び掛かろうとした。必死で後輩二人で抑え込んでいる。これは侮辱だ。先輩二人に対しての侮辱に等しい。二人が大好きなシロコちゃんが怒るのも無理は無かった。
「どうして、その判断を? 根拠なく言ったわけではありませんよね?」
「ええ、もちろんですとも。お嬢様」
執事の自然な答えに嫌な予感しかしない。それは、ホシノ先輩を否定する言葉にしかありえないからだ。
「彼はアビドスで様々なことを行いました。さっきも話した過去の事。別名義を使用しての治安維持。大人を騙しての財産没収。アビドスに対して一生徒がやるようなことでは無いことを。ただ、一定期間。ほんの短い期間。数ヶ月間だけ、それが行われなかった時期があります」
「……待って。まさか……」
「ええ、小鳥遊ホシノさん。貴女なら分かるでしょう? 前アビドス生徒会長。梔子ユメさん。彼女が在籍していた期間だけは、自発的に彼はそのような事を行わなかった。一つだけ例外はありますが、アレは不可抗力でしょうしね」
それを聞いたホシノ先輩は、何も言わなくなってしまった。心情は理解できないが、良くない事は分かる。何とかしなければならない。
「私は梔子ユメ先輩の事を知りませんが、カヤツリ先輩と、ホシノ先輩の事は知っています! ホシノ先輩をカヤツリ先輩は最優先しているはずです!」
「なら、何故お前たちに何も言わない?」
スオウさんの言葉に、思わず言葉に詰まる。スオウさんは更に畳みかけてくる。
「本当に最優先していると言うなら、小鳥遊ホシノだけには情報共有しておくべきではないのか? しかし、奴はシェマタの事はおろか、過去の事を全て話してはいない。それに、今もシェマタの事で暗躍している。結果だけ見れば、梔子ユメよりも優先されていないのは明らかだろう?」
「それは……」
それは、詭弁だ。執事も分かっているのか、困ったような顔をする。
「お嬢様たちにも言い分はあるのでしょう。しかし、結果が全てです。小鳥遊ホシノさんでは彼を止められず、梔子ユメさんだけは止められた。彼女だけが、彼をスオウさんの言う狂犬から、普通の生徒へと留めることができた。そして、彼女がいない今、彼は狂犬へ戻っている。そう我々は認識しています」
ネフティスが昨日の政略結婚を譲歩だと言った理由が分かった。あれは、目的も考えも何もかもが分からないカヤツリ先輩に対して、ネフティスから差し伸べられた手だったのだろう。
ネフティスからしたら、カヤツリ先輩が怖くてたまらないのだ。過去に命令とはいえ、躊躇なくアビドスをボロボロにした人間が、今はアビドスを復興させようとしている。だから、ネフティスは安心したくて、首輪代わりの人間を欲しがったのだ。契約で縛ってしまえばカヤツリ先輩は動けない。
それができた梔子ユメ先輩は居ないから、自分を宛がおうという訳だ。ネフティスにとっては、ホシノ先輩は実績が無いから候補にも入らないのだろう。
「結果が全てだと言うなら、証拠を出してください。カヤツリ先輩が狂犬だと言うなら、カヤツリ先輩が悪事を働こうとしている証拠を!」
何とかしたくても、揚げ足を取る事しかできない。破れかぶれに言っては見たが、自分の儚い希望は崩れ去る。執事が懐から何かを出してきたからだ。
「どうぞ。お嬢様。ここ数週間で撮影された彼の動向です」
隠し撮りであろう写真には、カヤツリ先輩が映っていた。いつもの制服ではなく、キッチリとしたスーツを着ている。場所は、どこかの店の入り口に見える。どうにも高そうな印象だ。
それを見たホシノ先輩は信じられないと言うような声を出した。
「……嘘。ここって……」
「おや? 小鳥遊ホシノさんは知っているようですね。ならば話が早い。ここは密会によく使われる店なのですよ。中までは入れませんでしたので、ここまでですが。彼は誰かと密会をしていたのは明らかです。ここは普通の生徒が使えるものではありません。大人の紹介が必要な店ですからね」
思ったよりも致命的なものが出てきてしまった。相手がだれかなどは関係が無いのだ。ネフティスにとっては、カヤツリ先輩が誰かと密会していたという事実だけが重要なのだから。
「それと、最近彼は他学園と密に連絡を取り合っているようです。ミレニアム、トリニティ。そして特にゲヘナと。このゲヘナというのが実に良くない」
「ゲヘナの何が悪いと言うんですか。それはネフティスがそう感じているだけでしょう!」
荒っぽい学園ではあるが、マトモな人たちもいることを自分たちは知っている。特にカヤツリ先輩の知り合いはそういう人たちの比重が大きい。それをとやかく言われる筋合いはない。
「先の話で、入れ知恵をしたという人物がいると言う話をしただろう? それは後で話すとも言ったはずだ」
それが今だというのか。それを証明するように、スオウさんは口を開く。
「シェマタは雷帝の作品と言われている。アビドス生徒会に入れ知恵した人物は、この雷帝だろう」
聞き覚えの無い名前だ。ホシノ先輩やアヤネちゃんですら知らないのか、首を傾げている。
「雷帝は、前のゲヘナの生徒会長だった。彼女は発明家にして政治家とも言われた人間だ。ゲヘナで恐怖政治を敷いたが、すぐ部下に失脚させられ、今はキヴォトスの外にいる」
「その、もういない人がゲヘナだからですか? 設計者が雷帝だから権利はゲヘナにあると。そう言う事ですか?」
執事は再び首を横に振る。
「いえ、彼女は関係ありません。彼女はもうゲヘナを卒業しているし、興味もないでしょう。しかし、彼女がゲヘナだという事に意味がある」
さっきと同じような嫌な予感がする。冷や汗が背中を伝うのが嫌でも分かった。
「シェマタには安全装置として、鍵が備え付けられています。お嬢様がお持ちのゴールドカードがそうです。それなしではシェマタは起動しない。しかし、開発元である雷帝がいたゲヘナなら? 抜け道か、スペアキーがあってもおかしくはない」
「それに、奴はミレニアムとも懇意の様だ。奴の持つ特殊兵装。シェマタと同じような原理のアレは、ミレニアムで整備しているようだな?」
「トリニティもそうでしたね。あそこほど砲撃に精通している学園は在りません。運用にも詳しいでしょう」
二人の言いたいことは分かる。カヤツリ先輩がシェマタを起動させ運用するために、三校と連絡を取っていると考えているのだ。
「キヴォトスの三大校を攻撃しない代わりに、援助を受ける。いざという時はシェマタを運用するのを交換条件にでもしたのでしょう。そうでなければ、それ程の条件でなければ、三大校が動くはずがありません。砂漠横断鉄道が本命だと言うのなら、提案を直ぐには却下しなかったはず」
実に大人らしい考え方だった。自分はそう思っていないが、ネフティスはそう思わないのだ。そして、彼らを説得するのは、同じようなものを突きつけなければならない。
カヤツリ先輩が、何も悪事を企んでいない証拠。そして、企んでいたとしても、それを引き留められる誰か。この二つを提示しなければ、ネフティスは納得しないだろう。
納得しなければどうなるか。おそらくはカヤツリ先輩の妨害へと動く。ネフティスの言い分からしたら、私募ファンド相手ならどうにかする手段がある様子だからだ。
しかし、自分たちには打つ手がない。証拠を提示できないからだ。カヤツリ先輩は何も言ってくれないから、反論の材料すらない。できるのは自分たちが知っているカヤツリ先輩は、そんな事をする人ではないと言い募る事だけ。
「お嬢様と対策委員会の皆様、アビドスにとっての最良の提案が、先日のお二人の結婚でした。しかし、それが気に入らないと言うのなら、他の提案もありますが……お聞きになりますか?」
そう、こちらへ問いかける執事の声が、やけに冷たく聞こえた。