ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
執事とスオウさんが、用が済んだとばかりに退出してから数十分が経っていた。
自分たちが登校したのは早朝だったが、もうすぐ本来の登校時間だ。低い位置にあった太陽は、高度を増して青空で輝いている。
しかし、晴れた青空とは裏腹に、ホシノ先輩の表情は暗かった。うわの空で、虚空を見つめて、何事かを考えている。何度も懐に手を入れて、携帯を取り出しては仕舞うのを何度も繰り返していた。
あまりに、
「ホシノ先輩……どうしたの?」
「うへ……何でもないよ。シロコちゃん」
「ん。嘘。あのネフティスの人の話を聞いてからおかしい」
シロコちゃんの言う通りで、様子がおかしいのは、執事の最後の話を聞いてからだ。
今までの、カヤツリ先輩に対しての疑いは意にも解さなかったのに。
「ホシノ先輩。執事さんが言っていた事を、カヤツリ先輩に聞きたいんですか?」
ピシリとホシノ先輩の動きが止まる。これは分かりやすい。携帯を出し入れしていたのは、カヤツリ先輩に電話したいからだ。いつもならノータイムでそうしただろう。
が、そこでカヤツリ先輩の言葉が邪魔をする。二日後に全て話すというやつだ。その話す内容に、その事が入っていた場合に面倒な事になる。
自分とて、二日も待てないのかと思われるのは嫌だ。自分たちが手助けできるならまだしも、今回はそうではない。さっきの執事さんにいいようにされたのも、それに拍車をかけている。
カヤツリ先輩なら、あの二人を軽くあしらっただろう。翻弄された自分たちに出番がないのも頷ける。
恐らくは、これも向こうの狙いだったのかもしれない。カヤツリ先輩の手助けをできないようにすること。幸いなことに。いや、カヤツリ先輩の手の上だったのか、その予定はないのだが。
「聞けばいいと思いますよ?」
「ノノミちゃん!?」
沈黙から驚きの声を上げるホシノ先輩は目を見開いている。
それも当然だ。そんな事を後輩から後押しされるとは思わなかったのだろう。
「別に、答えを聞くわけじゃありません。答えられるかどうかだけを聞けばいいんです」
それなら問題はない。答えてくれるなら聞けばいい。答えられないなら待てばいい。
「でも、ノノミちゃんはいいの? たぶん、カヤツリは理由を聞くよ?」
ホシノ先輩の心配も分かる。その事を聞かれたカヤツリ先輩は聞く筈だ。どうして、そんな事を聞くのかと。
そうなれば、答えなければならない。自分が先走って、生徒会室に侵入したこと。それとネフティスを呼んでしまったことを。
「いいんです。私の失敗ですから。それは当然なんです。それよりも、私はホシノ先輩がそんな風なのが嫌なんです」
黙ったままのホシノ先輩は、長くて大きなため息を吐いた。
その後、自分との会話を見守っていた後輩たちを見て言った。
「話を聞いて欲しいんだ。カヤツリと話す前にね」
ホシノ先輩以外の全員の頭上に疑問符が浮かぶ。説明が足りない事に気づいたホシノ先輩は、慌てて補足する。
「ああ、ごめんね。皆も知りたがってたし。これを知らないと、カヤツリが何を話しているかも分からないからさ」
「それって、まさか……」
自分の頭の中の答えが正解だと言うように、ホシノ先輩は口を開く。
「そうだよ。まだ皆が居なかった時の事。その時の私とカヤツリの先輩。ユメ先輩について話すよ。いや、聞いて欲しいな」
どんな心境の変化かと訝しむ。ただ、それは直ぐにやめた。生徒会室での自分の言葉を思い出したからだ。もしかしたら、その時にはもう決めていたのかもしれない。
「ほら、ここで話すのもアレだしさ。生徒会室に行こうか。あそこほど、ユメ先輩を話すのに相応しい場所はないからね」
ホシノ先輩の案内で、生徒会室前に移動する。生徒会室の、あれ程シロコちゃんが苦労した鍵は、ホシノ先輩の鍵で、いとも簡単に開いた。
それを見ていると、始めからこうしていれば良かったと思う。そもそも、カヤツリ先輩に聞けば良かったのだ。電話で聞けば良かった。全部は話してくれなくとも、話せる範囲内で満足できただろうから。
「皆は好きなとこに座って。片付け途中だし、ソファしかないけど」
狭い生徒会室に置かれた、二つの三人がけのソファに、自分とシロコちゃん、アヤネちゃんとセリカちゃんと別れて座る。
「ホシノ先輩は? 座らないの?」
シロコちゃんが立ったままのホシノ先輩へ聞いた。
ホシノ先輩は残る席。ソファではなく、デスクの側に立つだけだった。そこにホシノ先輩が座ると思っていたから、自分達はこの配置にしたのだ。
「そこはアビドス生徒会長。ユメ先輩の席だからね。私は、いいんだよ」
どことなく悲しそうな雰囲気だ。ここまで話さなかったことからして、愉快な話ではないことは分かる。
ホシノ先輩は、所在なさげに空を見上げていたが、覚悟を決めたのか話しだした。
「私がユメ先輩と初めて会ったのは、アビドスの通学路だった」
通学路と聞いて思い出す。時々、パトロールや仕事で一緒になる時、ホシノ先輩がどこかを懐かしそうな顔で見ていることを。
「その時のユメ先輩は、署名を集めてた。アビドス復興のための嘆願書。その為の署名をね」
多分、連邦生徒会へのモノだ。普通に送っても無駄だと考えたのかもしれない。
「まぁ、全員に相手にされなくて。不良の溜まり場にまで行った挙句に、生徒会長だとバレて、襲われそうになったんだけどね。そこを私が助けたのが始まり」
「えぇ……」
セリカちゃんが、呆れた声を出す。シロコちゃんも似たような感じだが、自分は違和感を感じた。
何というか、キヴォトスの人間らしくなかった。まともというか穏便というか、お人好し? まさに、あの写真通りの人だったのだろう。
「ノノミちゃんの想像通りだよ」
「えっ」
揶揄いの表情でホシノ先輩が自分を見ていた。自分は、どうにも分かりやすい表情をしていたらしい。
「ユメ先輩は、そういう人だったの。お人好しで、甘くて、他人を信じて、それで騙されてばかりいた人。でも、私は、そんな先輩が大好きだった。救われた気がしたんだ」
「救われた?」
「うん。私の写真を見たね? 先輩と私とカヤツリの三人の写真。私は酷い顔でしょ?」
それは否定できない。大凡、写真には不釣り合いな表情だ。真ん中の梔子ユメ先輩が笑顔だから、余計にそう思う。
「燻ってたんだよ。アビドスを救うやり方が分からなくて、ただただ暴力を振りまいてた。その頃の私はずっと誰かに怒ってた。上手くいかないのは自分以外の誰かのせいだって。悪い大人や悪人のせいだから、そいつらを全員追い出せばいいって。そんなバカな事を考えてたんだよ」
そんな自分の反応に笑いながら、ホシノ先輩はそんな事を言った。
初めて会った時と、今のホシノ先輩からは想像がつかない。諦めと枯れた雰囲気しか感じなかった時とは、まるで正反対だ。
自分達の視線がくすぐったそうに、ホシノ先輩は笑う。
「うへ~、おじさんも理想に燃えてた若い時期があったんだよ。融通がきかないっていうのかな。まあ、今とは違うね」
「そんな時に会ったんですか?」
「そう。救われたっていうのはそういう意味。ユメ先輩のおかげで、私は暴力を振りまくだけの存在にならなくて済んだ」
それは、そうだろう。本当にホシノ先輩は救われたのだ。梔子ユメ先輩にその自覚は無かったかも分からないが。
ホシノ先輩は、ここに来たばかりのアヤネちゃんや、セリカちゃんのような気持ちでいたのかもしれない。でも、待っていたのは厳しい現実。そんな中での梔子ユメ先輩の出会いは、文字通りの砂漠にオアシスを見つけた状況に等しかったに違いない。
「ん。カヤツリ先輩は?」
「あー……その時にはまだ居なかったよ」
シロコちゃんの質問に、ホシノ先輩は気まずそうだ。かつてのアビドス砂漠の話を思い出す。断片的なことだけだが、ホシノ先輩はあまり言いたくないだろう。
けれど、シロコちゃんと他二人の視線に負けたのか、渋々といった様子で話し出す。
「私は素直じゃなかった。夢みたいなことを言うユメ先輩を守ってるつもりだったんだ。本当は真逆なのにね。そんな時に、アビドス砂漠でカヤツリに会ったんだよ」
「ぼったくりって?」
「ああ、覚えてるんだね」
シロコちゃんの追求の視線から逃げるようにホシノ先輩は顔を背ける。
「その日はユメ先輩の提案で宝探しに来てたんだ。ユメ先輩は忘れっぽい人で、その日も水筒を忘れたんだよ。それで、偶々、本当に偶然に。そこに仕事に来ていたカヤツリに水を強請ったの」
「……まさか、ホシノ先輩」
カヤツリ先輩の性格からして、料金を請求するだろう。おそらく砂漠だから、多少は割高に。それで、今聞いただけでも、梔子ユメ先輩がどうしたか。そして、ホシノ先輩がどうしたかは想像がつく。
全員の視線を浴びたホシノ先輩は小さくなっている。そのまま、ぼそぼそと言い訳染みた答えを返す。
「悪いことしたと思ってるんだよ? まあ、シロコちゃんの想像通りに、私とカヤツリは揉めてね。翌日カヤツリが新入生として来た時は大変だったよ。あの時は正体を暴いて追い出してやるなんて思ってた。でも今は、ユメ先輩の言う通りにして良かったと思ってる」
さっきの姿が嘘みたいな、見惚れるほどの微笑みで。ホシノ先輩は指折り数えながら、思い出を口に出していく。
「水族館や、美味しいレストランにも行ったっけ。勿論、三人で宝探しもしたよ。借金は大変だったけど、それすら楽しくて。毎日、明日が来るのが楽しみだった。こんな毎日が永遠に続いてほしいとすら思ってた」
それは、自分たちが知らないホシノ先輩の宝物。今もホシノ先輩の中で輝いている思い出たち。それを嬉しそうに語るホシノ先輩は幸せそうだった。
「あの頃は思ってもみなかったけど……今から思えば、あの日々は、まるで夢みたいだった。その時の私はそんな毎日が普通に来ると、そう思ってたんだよ。あれは奇跡だったのにね。私はその価値を全く理解してなかった」
ホシノ先輩の表情が曇り始めた。それを見た、自分を含めた全員が、これから先には良いことが無かったのだと予感できた。
「その頃の私は調子に乗ってた。自分の力がアビドスを良くしていることが実感できて、借金も減って来てて、カヤツリもユメ先輩もいてくれた。それが、当然なんだと思ってた」
声と表情はさっきと変わらないのに、ホシノ先輩が後悔しているのが分かった。纏う雰囲気が暗いものになってきている。
「カヤツリとユメ先輩は、一時期から私に内緒で何かをやってた。私はそれが、気にくわなかった。私を仲間外れにしたカヤツリにイラついた。カヤツリを私から取ったユメ先輩にも不満を抱いた。ありていに言えば、嫉妬したんだよ」
後悔が声に滲み出てきているのが分かった。それでも、ホシノ先輩は話すのを止めなかった。
「その日の私は機嫌が悪かったんだ。前日に黒服に変な取引を持ち掛けられたし、二人の秘密の会議を見てイラついたのもある。それで、私は、あろうことか、ユメ先輩に八つ当たりしたんだよ……」
ホシノ先輩は両手を強く握りしめている。
「もっとしっかりしてください。あなたはアビドスの生徒会長なんですよ。もう少しその肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか。私はそんなことをユメ先輩に言ったんだよ……。考えてたからこそ、ユメ先輩は砂祭りのポスターを持ってきたのに……。本当に何も考えていないのは、私だったのに……ッ」
長い台詞がすらすらと出てきていた。もう二年前の言葉だ。なのに、今も流暢に出てくると言う事は、それほどまでに後悔しているのだ。ずっと、今も昔も、心の片隅でホシノ先輩を苛み続ける苦い記憶。
「それで……どうなったんですか?」
もう、話はクライマックスだろう。もう、梔子ユメ先輩の不在が、この話の結末を物語っていた。
「それから三日間。私は家で腐ってた。自分が八つ当たりをしたのは分かってたから。それで、謝ろうと思って登校したら。そこにユメ先輩は居なかった」
「怒って、失踪した?」
シロコちゃんが、そう自分の考えを言うが、それはきっと違う。それなら、ここまでホシノ先輩は後悔していない。もし、そうであるならば取り返せるからだ。後悔は取り返せないからこそ、後悔と呼ばれるのだから。
「ユメ先輩は遭難したんだ。丁度二年前の明日、アビドス砂漠で砂嵐に飲まれて。よくコンパスを忘れるし、携帯も新調しなかったから、道に迷ったんだと思う」
「まさか……」
アヤネちゃんが結末を想像したのか、口を両手で押さえた。きっと、その想像は当たっている。
「ユメ先輩は衰弱死した。私が先輩を見つけるのに三十日かかったから……きっと苦しかったと思う」
ホシノ先輩の話が終わると、部屋は沈黙で満たされた。何を言ったらいいのか分からない。こういう時に掛ける言葉は幾つか知ってはいる。でも、そのどれもがホシノ先輩の為にはならないだろう。
「電話がちゃんと通じてたら、機種を新しいのにしてたら……。そうすれば場所も分かったし、手帳の場所も分かったのに……なんで、私はもっと強く言わなかったんだろ……」
「手帳?」
手帳という単語が妙に引っかかった。それは今日見たそれにとても関係があると思うのだ。ホシノ先輩は、そこに食いつくとは思わなかったらしい。少し困惑が混じった声で話す。
「うん。ユメ先輩の手帳。たのしいバナナとりって言うタイトルのやつ。あれにユメ先輩は色々書いてたんだよ。私が分かる場所って言ってたんだけど……結局、どこを探しても見つからなかった。一昨日に見つかったと思ったんだけどね……」
「一昨日? 見つかったんですか?」
「うん。ほら、これだよ」
ホシノ先輩が懐から取り出した手帳は、カヤツリ先輩のロッカーに放り込まれていたモノと同じだった。違うのは名前欄の組と学年だけだ。こちらは数字で三と書いてある。
三だから、三年生の物だろう。でもホシノ先輩の目当ての物では無かったらしい。もしかしたら、学年でなくて、巻数のつもりなのかもしれない。
それだったら、三番目だから目当てのものではない。カヤツリ先輩のは一だ。これを読めば何かが分かるかもしれなかった。
「カヤツリ先輩は? カヤツリ先輩は何してたのよ!」
考え込んだ自分が黙ってしまった事で、暗くなった雰囲気をどうにか払拭しようとしたのか、セリカちゃんが勢いよく立ち上がる。
「カヤツリ先輩なら、見つけられたんじゃないの? だってドローンとか、監視カメラとか、色々手があるじゃない!」
「無理だよ。だって、カヤツリはその場に居なかったんだから。それで、私がユメ先輩に言った事も知らないんだよ。言えるわけないよ……。カヤツリが居たら、本当に何とかなったかもね……」
セリカちゃんは黙ってしまった。黙ったセリカちゃんの代わりにホシノ先輩の声が響く。
「カヤツリは仕事で、その日から一週間いなかった。そして、一ヶ月帰って来なかった。仕事でミスをしたんだって。そう言ってたよ」
ホシノ先輩の話を聞けば、これは事故だと。自分はそう思った。
全てが最悪のタイミングでかち合ってしまった不幸な事故。ホシノ先輩が怒らなかったら、カヤツリ先輩が仕事で居なくなっていなかったら。他の様々な要因が重ならなかったら、こうはならなかったかもしれないと思う。
でも、それは仮定の話で、もう終わってしまった話だ。自分たちにできる事は、もうない。
そう、考えを止めようとしたとき。自分の頭にひらめくものがあった。
「ホシノ先輩。執事さんの話に関係があるのは、梔子ユメ先輩ではなくて、カヤツリ先輩の事ですか? だから、そんな暗い顔をしているんですか?」
前提として、全員がカヤツリ先輩がシェマタのことを知っている前提で話をしていた。それは、カヤツリ先輩の動きからもそうなのだろう。でも、ここで一つ疑問が残る。
──カヤツリ先輩は、どこでシェマタの事を知ったのだろう。
執事の話が頭の中で反響する。
──丁度、二年前の今日の夜。事件がありました。世間にはカイザーの実験機の事故と報道された事件です。その事故でゲヘナの部隊に損害が出たと。
──ゲヘナの打診で砂漠横断鉄道を売り出すことになった。つまりはゲヘナの横槍が無ければ契約は行われなかったことになります。そして、条件の日にもゲヘナが関わっている。
カヤツリ先輩は自分で見つけ出した? 違う。おそらくは、教えられたのだ。
シェマタの事を知っているのは、ネフティス、前アビドス生徒会、私募ファンド。そして、雷帝のいたゲヘナ。
ネフティスと私募ファンドは無い。その頃のカヤツリ先輩に教えるメリットが何もないし、その時はまだ知らないだろう。だから、残る可能性は二つ。
梔子ユメ先輩か、ゲヘナが。カヤツリ先輩に教えたことになる。
「そうだよ。ノノミちゃん。さっきの執事さんの話で気がついちゃったんだよ……」
悲しそうに、ホシノ先輩は呟いた。
「執事さんが言ってた、カイザーの実験機の事件。あの近くで私はカヤツリの武器を拾ってるんだよ……だから、カヤツリの仕事っていうのは、あの事件なんだよ」
「ゲヘナがカヤツリ先輩に、その仕事をやらせた?」
「もしくは、その逆かもしれません」
シロコちゃんやアヤネちゃんの言う通りかもしれなかった。カヤツリ先輩は、何とかその仕事を成功させたのだろう。そして、ネフティスは砂漠横断鉄道の権利を売り出さざるを得なくなった。
そして、その日に。梔子ユメ先輩は砂漠横断鉄道の売買契約書にサインしている。
自分が考えている間に、ホシノ先輩が広がった疑念に燃料を投下する。
「ゲヘナのヒナちゃんとマトちゃんの事は覚えてる? 対策委員会は風紀委員会の時の騒動で、初めて接触したわけだけど……カヤツリはもっと前から知ってるみたいだった。凄い気安そうだったもの……」
それは、もっと前から知り合いだったから? それは、カヤツリ先輩が一年生の時からの付き合いだったなら納得は出来る。
考えを纏めればこうだ。二パターンある。
カヤツリ先輩は梔子ユメ先輩から、砂漠横断鉄道とシェマタの事を教えられる。もしかしたら、他人の手に渡らないようにでも頼まれたのか。それか、ゲヘナから接触があったのか。そこで、シェマタの事を知ったカヤツリ先輩は、梔子ユメ先輩に相談したのかもしれない。
話を聞く限り、梔子ユメ先輩は暴力を嫌う性格だ。シェマタを使うとは思えない。それはカヤツリ先輩も分かっているはず。だから、今一人で戦っている。
嫌に筋が通っていて、真実のような気がしてくる。
でも、それはホシノ先輩にとっては、良いことでは無い。
だって、それは昔と同じだ。下手をしたら、もっと悪いかもしれない。
蚊帳の外に置かれて、何もさせてもらえない。しかも、それはホシノ先輩の為ではないのだ。
自分と同じ考えに達したのか、ホシノ先輩は泣きそうな目をしている。
「カヤツリが何も話さないのは。ユメ先輩との仕事だから? それとも、そう頼まれたから? 私よりも、ユメ先輩の頼みが大事だから?」
だから、話さないのかもしれない。梔子ユメ先輩に話さないように口止めされていたのかもしれない。それなら、二日後に話すと言う言葉に説得力が出てくる。
それか、カヤツリ先輩のけじめか。もう居なくなってしまった先輩の仕事を完遂してから、ホシノ先輩に話す。そう言ったけじめ。これもカヤツリ先輩らしい。
ただ、どの場合もカヤツリ先輩は話してくれないだろう。しかし、手はあった。
今、シロコちゃんの懐にあるバナナとり手帳。それなら、カヤツリ先輩の想いを引き出せるかもしれない。何か理由があって隠したのだ。それを突きつければ、観念して話してくれるかもしれない。
ただ、それには、カヤツリ先輩だけに手帳を見つけたことを伝えなけれはならない。その手段は今思いついた。荒削りだが、カヤツリ先輩なら通じるだろう。カヤツリ先輩も、手帳の中身を無闇矢鱈と、ホシノ先輩に伝えたくないと思うのは同じのはずだ。
そして、自分たちの視線を受けたホシノ先輩は言葉を絞り出す。
「ユメ先輩が何を考えてたのか。カヤツリは何を考えてるのか……。私は二人にとって何だったのか。私は……知りたいんだ」
不安で一杯だろう言葉と共に、ホシノ先輩は携帯をギュッと握りしめる。
そして、数十秒の逡巡のあと、カヤツリ先輩の連絡先を呼び出した。