ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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16話 決着

 準備が終わり、二人は決めた場所でビナーが出てくるのを待っていた。残った誘導用のグレネードを撒くだけ撒いた。狙った通りに出てくるかは疑問だが今は待つしかなかった。

 

 朝に校舎から出たはずなのに、もう日が暮れようとしていた。すでに遠くの戦闘音が消えて大分経っている。夜の暗闇の中で戦うのは視界の問題もあり避けたかった。

 

 突然、二人の視界の中で地面がひび割れていく。そして勢いよくビナーが飛びだしてくるのが見えた。ビナーの装甲はところどころくすんでおり、カヤツリが開けた頭部の大穴はそのままで、頭部のヘイローも点滅を繰り返していた。

 

 どうも、あの迫撃砲で多少のダメージを負っているらしかった。何かがおかしい。今思えば、ホシノのショットガンはあまり通らず、カヤツリのレールガンも直撃させないと傷もつかなかった装甲が、ただの迫撃砲で傷ついているのは変だった。

 

 カヤツリの頭にはある程度の仮説はあるが、やってみないとわからない。後はやれる事をやるだけだった。

 そのまま待機していた場所から機体のエンジンを吹かして飛び出す。その勢いのまま機体のアームで、地面から出ているビナーの顔面を思いっきりぶん殴った。

 

 

「──!!」

 

 

 ビナーが打撃を受けて地面に叩きつけられた。速度と機体重量を上乗せされた打撃だ。大分効いただろう。

 

 あのコンテナには、パワーローダーは入っていなかった。その代わりに入っていたのは、後付けで武装やブースターが施された作業用の荷下ろし機だった。この荷下ろし機は15m程度の人型で、両手が物を挟めるように鋏型になっているタイプだった。

 武装は色々付いていたのだが、弾は昔カヤツリが特攻した方に入っていたために泣く泣く取り外した。撃てない砲など邪魔なだけだからだ。ただ背中の巨大な砲だけは基部に食い込んでいて取り外せず、そのままだ。

 

 

「やっぱり、効いてるな」

 

 

 起き上がろうとするビナーを見てカヤツリは呟いた。殴った部分の装甲は多少へこんだようで衝撃自体は通るようだ。幾らビナーの全身より小さいとはいえ、頭部くらいの大きさはある全身金属の塊の打撃だ。耐えられる方がおかしかった。

 

 操縦席で機体を操るが、思ったより動きが鈍い。久しぶりの操縦と3年も放置されていた機体だ。動くだけありがたいのかもしれない。鈍った腕の方は錆びを落としながら戦うしかないだろう。

 

 ビナーが体勢を立て直して口を開く。熱線か光弾かは知らないが、遠距離攻撃を仕掛ける択を取ったようだった。カヤツリが殴って吹っ飛ばしたおかげで、距離が開いたからだ。

 ただ、この程度の距離は今のカヤツリには関係ない。機体のブースターを吹かすと、冗談みたいな速さで前方に突っ込む。さっきと同じような勢いで、肩からビナーの首元に突撃した。

 

 ──轟音。金属と金属がぶつかってひしゃげる嫌な音が響く。ひしゃげたのはカヤツリの機体の方だったが。装甲自体の硬さの違いの所為だろうか。しかも今回は安定している首元に突撃した所為でビナーは体勢を崩していなかった。ビナーはこちらを見下ろすように口を向ける。上から熱線を照射する気だ。

 

 

「じゃあ。次」

 

 

 後方へブースターを吹かした後、もう一度突撃する。このままではビナーと押し合いになるが、そうはならない。右のアームを地面に突き刺して、それを軸に右回転。そのまま飛び上がりビナーの右顔面に取りついた。ビナーの右顔面にはカヤツリがレールガンで開けた装甲の穴がある。銃器を取り外していなければ、そこに弾丸を撃ち込めたが心配いらなかった。この機体は二人乗りだ。

 

 

「ホシノ!!」

 

 

 操縦席を全開にする。粉塵で前が見えにくいが関係ない。後ろの座席にいるホシノがショットガンをビナーの装甲の穴に向かって連射する。全弾吸い込まれるようにビナーの装甲内部に着弾した。

 ビナーはよろめく。最初の方とは明らかに手ごたえが違った。ビナーは熱線のチャージを中断して、そのまま崩れ落ちた。一緒に機体も落ちるがそのまま機体のアームでビナーを押さえつける。ダメ押しにホシノが射撃を続ける。まだビナーのヘイローが点滅している。まだ稼働している。だが効いている。

 

 

 カヤツリ達を無視して迫撃砲を潰しに行ったのが不思議だった。だってビナーはカヤツリの神秘を感知するまで、ずっと無視していたはずだったのだ。オーナーも大して痛手にならないとも言っていたから、効かないから無視していたはずなのだ。

 ただあの時だけ例外だったのは、ビナーにとって困るから潰しに行ったに違いなかった。違いはビナーの状態だ。装甲が破損して、ヘイローが消えていた。どちらかか両方かが原因で、あの時だけは迫撃砲が痛手になるから、あちらを優先したに違いなかった。

 

 だから試した。まずは不意打ちで一発殴った。向こうが吹き飛んだ。2回目、此方がひしゃげた。ここで、一回食らった攻撃は不意打ち以外は効かないと判断した。

 次は装甲で弾いていると予測して、装甲に穴が開いている部分に攻撃した。これは効いた。最初の接敵時にホシノが同じように装甲の無い場所を撃った時よりも効いている。たぶんヘイローが万全なら一定の火力以下は装甲と素の耐久で対処できたのだろうが、これまでのダメージでそれもできなくなっている。このまま装甲の破損部分を攻めていくのが無難だろう。

 

 

「──!!」

 

 

 崩れ落ちたビナーが復帰した。押さえつけられた頭を動かそうと暴れる。カヤツリも吹き飛ばされないように機体の足のアンカーを起動した。足から杭が地面に打ち込まれるが、ビナーの方が力が強い。機体の関節部やフレームから軋むような嫌な音がする。ホシノも銃弾を撃ち込み続けているが、止まる気配がない。

 

 

「限界だ!いったん離れる!」

 

 

 アンカーを解除して、ブースターを吹かして飛びのいた。あれ以上抑え込んでいたらアームを持っていかれていた。しかし、いくら何でもしぶとすぎる。急いで距離をとるカヤツリに、ホシノが銃をリロードしながら告げる。

 

 

「カヤツリ。残念なお知らせだけど弾がもうないよ。今装填してるので最後」

 

 

 よくない報せだった。車から積めるだけ弾は積んできたのだが、今のでほぼ使い切ったようだった。操縦席を閉めながらビナーの様子を見る。ダメージは確かに蓄積している。ヘイローの点滅がさっきより速い。ただホシノの残弾で倒しきれるかは微妙なところだった。

 

 

 ビナーがこちらに向かって咆哮する。視界は潰れている筈なのにこちらを見つめるような視線を感じた。そのまま光弾を乱射してくるが、対抗して近くの廃車を掴み上げて投げつける。車は幾つか光弾を防ぎながらビナーに当たるが、勢いを殺されていた為か痛くも痒くも無いようだった。

 

 

「もう一発くらえ!」

 

 

 さっきと同じように車を投擲すると、それを躱す様にして地面へ潜って入ってしまった。”しまった”とカヤツリは自分の失敗を悟った。相手の方が耐久も火力も上なのだ。だから相手の攻め手である熱線と体当たりを生かせない近距離で立ち回っていた。それなのに焦って、相手の遠距離戦に付き合ってしまった。光弾のダメージなどたかが知れているのに、攻め手がない不安で守りに入ってしまった。あのまま突っ込むべきだった。

 

 だからきっと、この次は──。

 

 そんな事を考えているカヤツリの真下の地面に亀裂が入る。すぐにビナーが突き上げてくる。もう後方への回避は間に合わない。迎撃するしかない。

 地面からビナーが顔を出す瞬間に、ブースターを吹かして上空に逃げて距離を稼ぐ。しかし、ビナーの方が速かった。苦し紛れに、ビナーの頭が機体の足に接触した瞬間にアンカーを起動したが装甲に阻まれる。そのまま二人は機体ごと吹き飛ばされた。

 

 機体は仰向けになって廃都市の地面へ落ちていく。そのまま横転すれば、ビナーの追撃を躱せない。今まで節約していた機体のブースターを全開にする。そのおかげで体勢を立て直しての着地に成功した。しかし、ビナーとの距離は離されてしまった。近づくにはそれなりのリスクが伴うだろう。

 

 

「もうジリ貧だな」

 

 

 カヤツリは悪態をつく。騙し騙し使っていたが、もうブースターの推進剤が残りわずかだった。機体もさっきの突撃で歪んだのか動きが悪い。抑え込みからの連続射撃で何とかなるかと思っていたが、あまりにもしぶとすぎる。何か決め手が欲しかった。レールガンさえ壊れていなければ何とかなったものを。ビナーを探して周りを確認するカヤツリの目に、こちらを見るホシノの顔が映った。

 

 心配するでも、叱咤するでもない。ただただこちらを信じている眼をしていた。

 

 本当は攻め手はまだ残っていた。背中の砲だ。最初、カヤツリは背中の砲を使うつもりは毛頭なかった。機体から外せなかったのもあるのだが、取り外した他の武装と様子が違ったからだ。ホシノは気にした様子はなかったが、カヤツリはとても嫌な感じがした。ただホシノの目を見てカヤツリも覚悟を決めた。

 

 

「じゃあ、いくぞ」

 

 

 カヤツリは、最初からずっと操縦席で唯一光っているボタンを押した。

 押した瞬間、脱力感がカヤツリを襲った。レールガンを撃った時の比ではない。歯をくいしばって耐える。操縦席のモニターを見ると動力がほとんど砲の方に吸われている。とんでもない大食らいだ。その分威力は期待できそうだった。

 

 ビナーも何かを察知したのか、また機体の足元から出てこようとしている。また足元の地面がひび割れ始めていた。

 

 ──エネルギー充填50%

 

 

「何度も同じ手が通用しないのは、お前だけじゃないんだよ!」

 

 

 その攻撃は一度見た。今度はブースターを全開にして跳ぶ。推進剤の残りなど気にしない。どうせこれで最後だからだ。躱した空中の二人に向かってビナーが口を開けて追撃してきた。

 

 ──エネルギー充填70%

 

 口の中では収束する光が見える。口で挟みこんで炙り焼きにでもするつもりなのだろう。途中までは乗ってやろうじゃないか。

 おとなしく口の中には入るが、閉じようとした口を両手のアームと両足で踏ん張って抵抗する。

 

 ──エネルギー充填90%

 

 あともう一手。おそらくビナーの方が速い。ただカヤツリは操縦で手が離せない。

 

 

「カヤツリ!開けて!」

 

 

 ホシノの声と同時に再び操縦席を開放する。熱線による熱気が凄まじいが無視した。ホシノは収束中のビナーの口内に連続射撃を敢行する。ビナーはたまらずよろけた。そのおかげか収束が多少遅れた。

 

 ──エネルギー充填完了。発射可能。

 

 焦ったビナーが熱線を発射しようとするが、こっちの方が速い。

 カヤツリは、トリガーを引いた。

 

 

 次の瞬間。砲口から発射された青い雷光がビナーの全身を貫いた。

 その雷光はビナーの全身を貫通。着弾した地面を蒸発させ大穴を開ける。ビナーはそのまま落ちていき、崩れた地面の大穴の中へ消えていった。

 

 

 

 

 二人が乗った機体は砲撃の反動でビナーから放り出され、地面に落下しつつあった。もう機体の動力はわずかで推進剤も残り少ないが、着地くらいは出来そうだった。カヤツリはエンジンとブースターを全力で吹かす。機体は着地し、最後の仕事を果たして動かなくなった。

 

 

「ビナーはどうなったの」

 

「あの大穴の中に落ちて行った。流石にもう動かないだろ。砲撃が直撃したし、砲撃自体もレールガンの比じゃなかったぞ」

 

 

 操縦席から降りてきたホシノにカヤツリは言う。それに最後落ちていくビナーはヘイローが消えていた。念のため30分ほど待機するが、特に再起動して穴から出てくる気配もない。無力化したと考えてよさそうだった。

 

 

「これで、終わったのかな」

 

「そう考えていいんじゃないか。ただ惜しいことしたな」

 

「どうして?」

 

 

 こんな深そうな穴からビナーを探して引きずり出すのは、もうカヤツリ達だけでは不可能だからだ。せっかく苦労して倒したのに、報酬は自分たちの命とアビドス高校の危機をひとまず脱したことだけ。なかなか泣ける展開だった。

 

 

「うへ……まあ億のお金は惜しいけど、ひとまず無事に終わって良かったよ」

 

 

 確かにそうかもしれない。皆死なずに済んだし、校舎も守られた。手に入れたものも確かにあった。励ますようなホシノの一言にカヤツリは納得した。

 

 

「それにカヤツリの本音も聞けたしね」

 

「うるさいな」

 

 

 こちらをからかって笑うホシノにカヤツリは恥ずかしくなった。まあ色々心配をかけたようだし甘んじて受け入れるしかないだろう。

 恥ずかしさに耐えていると、ふと戦闘前のホシノとの会話を思い出す。

 

 ──相棒か。

 

 考えてみればホシノとの関係が変わったのが一番の報酬かもしれない。恥ずかしいから絶対に言わないが。

 

 空を見上げるともう日が暮れて月が顔を出していた。どうにも冷えるはずだ。野宿できる場所を探さなければならない。ただこんな場所だ。屋根付きの場所くらい簡単に見つかるだろう。

 

 ホシノと一緒に車まで戻る途中でカヤツリは思い出した。少し顔が青くなる。先輩のことをすっかり忘れていた。ホシノが寝ている間に逃がそうとして、車の運転を頼むつもりでずっと待たせているのだ。ホシノとのやり取りで頭から吹き飛んでいた。

 

 そのことをホシノに言うと呆れた顔になった。おとなしく怒られるしかないようだった。とんでもない死闘だったはずなのになんて締まらない終わり方だろう。

 

 嫌そうに車へ向かうカヤツリと、それを笑って追いかけるホシノを夜空の月が見つめていた。




*対策委員会編3章のネタバレ有

・ゴリアテ試作型
 装備評価用に制作された機体。あらゆる武装や装備を評価するため、丈夫で修理しやすい作業用の人型クレーンを流用して制作された。
 コンテナの中の機体は、試作型の主砲テスト用に調整された機体。主砲が重すぎるため、移動補助用のブースター、フレームや関節部が強化された特別仕様。
 そのおかげで他の武装も装備できるキャパシティを手に入れたが、動力自体は共通のため主砲使用時は他の武装が使えず、機体性能が著しく低下するという欠陥がある。 

・シェマタ・レプリカ
 今回、ゴリアテ試作型に積まれていた主砲。列車砲シェマタのデッドコピー。列車砲シェマタはスペックが過剰であったためか、エンジンすら起動しなかった。
 カイザーが断片的に手に入れた設計図からオーナーの協力を得て制作したもの。
 本物と比べかなりスペックダウンさせてはいるが、スペック上はプラズマ化した砲弾を発射するという機能だけは再現することに成功した。
 しかし、幾らスケールダウンしたとはいえ、莫大なエネルギーが必要なことには変わりなく、実験段階では本来のものと同様に起動すらしなかった。

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