ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

170 / 336
169話 俺の知っているユメ先輩

 部屋に戻ると、先生が電話している所だった。丁度、電話が終わったタイミングだったらしく、先生は自分へ手招きしている。

 

 内心ため息をつく。何を言われるかなど分かり切っているからだ。

 

 

「気分転換は出来た?」

 

「いいえ。余計悪くなりましたよ」

 

 

 傍によって、先生の一言に首を振って答える。ホシノとのやり取りの後、射撃場で銃を乱射していた。ただ、イラついていたせいなのもあって結果は散々で、苛立ちを増す結果に終わっていた。

 

 

「皆からですか?」

 

「うん。アヤネからだね。ちょっと、他の三人が落ち込んでるみたい。それでね……」

 

「先生に仲介を頼んだ。そうでしょう?」

 

 

 分かり切ったことを聞けば、これまた分かり切った答えが返ってきた。普段なら待てる答えを先回りする。

 

 

「……本当にご機嫌斜めだね。カヤツリ。初めて会った時みたいだ」

 

「……しょうがないじゃないですか」

 

 

 苛立ちできつい言葉しか出てこない。先生は巻き込まれただけなのに、嫌な雰囲気をまき散らす自分を困ったように見つめるだけだ。それが、自分が子供みたいで情けなくなる。

 

 

「そんなに腹が立ったの?」

 

「ええ、立ちました。立たない方がおかしい。隠し事が多いのは分かってますが、今回俺は、ただ。決着をつけたかっただけなんですよ」

 

「決着……?」

 

 

 先生はよく分かっていない顔だった。アヤネ後輩から、事情は聞いただろうに。

 

 

「アヤネ後輩から、どこまで聞きましたか?」

 

「ネフティスとシェマタの事と……カヤツリの先輩の事。それと、ホシノと手帳の事かな」

 

 

 先生は聞いたことを一つ一つ教えてくれた。大体、大まかな流れは合っていて、流石と舌を巻く。

 

 

「……聞かないんですか?」

 

 

 ただ、自分を見守るだけの先生に聞き返す。アヤネ後輩たちから、仲介を頼まれている筈だから、色々聞いてくると思っていたが。

 

 

「カヤツリにも事情があるんでしょう? 無理には聞かないよ。それにシェマタの件が終われば、話すつもりだよね? 電話口でそう言ったのを聞いたよ」

 

 

 黙る自分に、先生は話し続ける。

 

 

「私が頼まれたのは仲介だからね。ホシノたちの状況を伝えた時点で仕事は一旦終わりなんだ。それに何でもかんでも、私が首を突っ込んでいいわけじゃない。今回の件は、本当は私にその資格はなかったんじゃないかな?」

 

「よく分かりますね……」

 

 

 それは合っている。本来なら、直ぐに終わっていた話なのだ。ハイランダーやネフティスの横槍が無ければこんな事にはなっていない。

 

 

「きっと、今回のカヤツリが抱えている事は、ホシノとカヤツリ。後、もう一人しか聞く資格は無いんだろう?」

 

「そうですよ……だから、俺は怒ったんです」

 

 

 関係ないのだ。後輩たちや、ネフティスやハイランダー。ゲヘナも先生すら。あの話には関係ない。

 

 

「それを外野が掘り返してくるんです。シェマタだなんだと、俺が悪いだの、なんで隠しただのと理由をつけてね。そんな事は分かっているし、聞いたところで意味はないのにです」

 

 

 それを聞かせたところで、自分の求めている答えは来ない。それが真の意味で返せるのはユメ先輩だけだ。これはホシノですら返せない。

 

 

「俺は、ホシノと話し合いたかっただけなんですよ。二人で話して、答えは出ないかもしれないし、本当の答えでは無いかもしれないけど、結論を出して、前に進みたかった。握り込んでしまった先輩の手を離したかった」

 

 

 一息に言いたいことをぶち撒ける。少しだけ、気が楽になった。気付けば、先生は真面目な顔で自分を見ていた。

 

 先生は何も聞かないでいてくれていた。少しだけ考えて、万一の場合に準備しておく事にした。

 

 

「話を聞いてくれますか?」

 

「いいの? 私で?」

 

「いいです。先生は何も先入観がありませんから。それに、伝えておいた方がいいと思って」

 

 

 後輩たちは駄目だ。もうホシノから話を聞いただろうから、公平な判断が下せるか分からない。マトもヒナも駄目だ。彼女たちは自分側に寄りすぎだ。ただ、先生は知らないだろう。知っているかもしれないが、客観的な事実だけなら問題ない。

 

 

「本当にいいの? ホシノじゃなくて……」

 

「聞いて欲しいんです。ホシノに話す前に。電話の前に先生に話した事にも関わりますから」

 

 

 何から話そうかと頭を捻る。話す事が沢山あって、何から行くか悩ましい。見かねた先生が案を出す。

 

 

「じゃあ、今回カヤツリがやった事から聞いてもいいかい? ハイランダーと私募ファンドが来なかった場合の話だよ」

 

 

 昔の話ではなく、今の話が聞きたいらしい。確かに、今回の件はユメ先輩の事を混ぜるとややこしい。その方が分かりやすくて、いいかもしれなかった。

 

 

「もし、私募ファンドが来なかった場合。始めの想定通りなら。明日、契約に従い砂漠横断鉄道の権利が転がり込むことになります。勿論シェマタも一緒に」

 

 

 もう今となっては叶わない話を口に出す。それを思うだけで腹立たしい。

 

 

「シェマタの場所はもう見つけてあります。そこに、ゲヘナのマコトとヒナ、マトを呼んでシェマタを破壊する手筈になってます。こちらはシェマタを手放すのと引き換えに金銭を手に入れる」

 

「……なんで対策委員会の皆に秘密にしたの?」

 

 

 先生が不思議そうに言う。まぁ今の話だけなら、分からないだろう。態々昨日の夜に借りてきた物を先生に渡す。

 

 

「どうぞ」

 

「いや……大きく機密って書いてあるし、コピーや持ち出し禁止って……」

 

「はい。だから、読むだけにして頭に入れて下さい。読み終わったら、ちゃんと返して下さいね。燃やしますから」

 

 

 ゲヘナから許可を得て複製したシェマタの仕様書だ。それを読んだ先生の顔が険しくなる。何回も頷きながら話しているから、あの端末の二人と話しているのだろう。

 

 前は一人だったらしいが、あの色彩の事件の時に合流してそのままになっているらしい。向こうのシロコが何回か話に行っていると聞いている。

 

 

「どうですか? 秘密にする理由がよく分かったでしょう?」

 

「うん……ネフティスの話よりも危険だね。飛ばすのは爆弾どころじゃ無くて、太陽と同レベルのプラズマ……」

 

 

 ネフティスは勘違いしている。彼らの想定よりも危険な兵器だ。本当に死人がでる。それで、最大の問題はそこではなかった。

 

 

「アビドスで運用できるという点で気がつくべきでした。資源も金もないアビドスで運用できるということは、何か絡繰があった筈です。その正体がこれですよ」

 

「生徒が燃料の代わり……しかも、一日寝込むだけ?」

 

「一人で、この火力ともなれば……超兵器の類です。本当にこれの通りなら」

 

 

 イかれたまでのコストパフォーマンスの良さだ。金も資源もなかったが人は残っていたアビドスには垂涎ものだっただろう。だが、問題が発覚した。

 

 例えるなら燃料はガソリンだ。しかし、レギュラーでなくてハイオクを要求するのがいけなかった。

 

 

「黒服に言わせれば神秘の質らしいですが。そこらの生徒では起動しないらしいですよ。スポーツカーへ、ガソリンの代わりに天ぷら油を入れたようなものです。動くわけがない」

 

 

 これがゲヘナが遺産を消したがる理由だった。運が良ければ身一つでこの火力を出せるのは、あまりにも危険過ぎる。火遊び程度のものなら彼女たちも許容するが、これは火遊びでは済まないレベルだ。理由はそれだけではないのだろうが。

 

 そして、ホシノたちに言わなかったのもこれが理由の一つだった。

 

 

「さっきの質問の答えですが、先生。秘密はいつかバレるものです。さっきみたいに、何でもないことからです。シェマタの取り引きもそうじゃないなんて、誰が言い切れるんです?」

 

 

 先生は悲しそうな顔で自分を見ている。それに自分は気がつかない振りをした。

 

 

「死にかけのアビドスが蘇ったんです。いつか必ず嗅ぎつけて、その理由を掘り起こす奴が現れる。皆が居なくなった遥か未来ならいい。でも、シロコたちがいる時期なら最悪です」

 

 

 それを想像するだけでイライラする。それを誤魔化仕切れなくて、声がキツくなる。

 

 

「シロコたちは分かってくれるし、良い後輩です。きっと怒るどころか慰めてくれるかもしれませんね。でも、他の、それこそ一般の奴らは違いますよ」

 

 

 その事を自分はよく知っている。昔によく見たからだ。

 

 

「アイツらは弱くて、一人じゃなにもできないくせに声だけは大きくて、簡単に他者を害する。それも殴りやすい方を。先生だってネフティスの、ノノミ後輩の話を聞いたし、彼女の様子を見たでしょう?」

 

 

 彼ら、または彼女らは、被害者という立場を笠に着て、自分勝手な正義を振り回す。

 

 

「シロコ達が被害に遭ったらどうするんですか。知らないなら、悪い先輩に騙された可哀そうな後輩たちで済むでしょう?」

 

 

 そう言う自分を、先生はただ見つめるだけだ。きっと、先生は分かっているのだろう。

 

 

「と、言うのが表向きの理由です」

 

 

 これは、表向きの理由だった。確かに正しく、その理由もある。でも、一番は違うのだ。

 

 

「本当に言いたくなかったんですよ。俺が、()()()()()()()()()()()()ってことを」

 

 

 本当にこれだけは避けたかった。先生の前なら良い。最悪ではあるが、後輩たちの前でも。でも、ホシノの前で、これを言うのだけは本当に嫌だったのだ。

 

 でも、あの手帳が見つかったと思った時、もう逃げられないと思った。だから、覚悟を決めて言ったのに。本当に勇気を出したのに。それが、騙された結果だったと知って怒ったのだ。ノノミ後輩でなければどうなっていたか分からない。

 

 

「……先生も俺とホシノの通話は聞いていたでしょう? 砂漠横断鉄道の契約に関わる顛末を」

 

「うん。カヤツリが頑張ったって」

 

「……そこですよ。先生。それを俺は言いたくなかったんです。シェマタの事を話すなら、この話は決して切り離せないんですから」

 

 

 シェマタと砂漠横断鉄道はセットだ。だから、シェマタの事を話すなら、それに至る道筋も話さなければならない。

 

 話過ぎて乾いた唇を湿らせて、話題を変える。

 

 

「……先生は、ユメ先輩の事をどれくらい知っていますか? きっと調べたんでしょう?」

 

「うん……表向きには失踪ってなってるけど。本当は亡くなったって事は知っているよ」

 

 

 きっと、どうやって死んだかは聞いていないのだろう。ホシノが言うとは思えない。

 

 

「……ユメ先輩は砂漠横断鉄道の契約を結び、契約金を支払った後。砂漠で砂嵐に飲まれて遭難。そのまま衰弱して亡くなりました。そうなった先輩をホシノが連れ帰ってきたんです」

 

 

 言いたくもない事は一息に言い切った。先生は目を見開いていた。想像を絶する事実だからだ。誰だってそうなるだろう。

 

 

「じゃあ、何で先輩は出かけたんでしょうね。それは契約を結びに行ったからです。なんで契約が結べるようになったか。それは俺が頑張ってしまったからですよ」

 

 

 それは、後悔だった。自分の最大の後悔。もう取り返しのつかないモノ。それを帳消しにできるなら何でもやるだろう。

 

 

「カヤツリ。分かってるとは思うけど、それは……」

 

「自分のせいじゃないって言うんでしょう? それだけなら、そうです。そう思えました。運が悪かったんだって。でも、それだけじゃなかったんですよ」

 

「それだけじゃないって? カヤツリは何をしてしまったと思っているんだい?」

 

 

 思っている。その言葉を選ぶところに先生の優しさを感じて、全ての切っ掛けから言う事にした。

 

 

「アヤネ後輩の推理通りです。先輩の手帳は俺のロッカーの中にありました。それを見つけて、中を確認した俺は内容に耐えられなかったんです……」

 

「耐えられなかったって……? いつ、それをカヤツリは見つけたの? ロッカーに入ってたなら、随分前なんじゃ……」

 

 

 先生の言う通りだった。自分は、手帳をかなり早い段階で見つけていた。

 

 

「先輩を失ったホシノが荒れていた頃。俺たちが一年生になって最初の冬。俺は、先輩の幻覚を見るようになっていました。黒服が心配する程ですから相当だったんでしょう。そして、セトはその時に産まれたんです」

 

「それは、どういう……まさか、手帳を見たから……?」

 

 

 静かに先生に向かって頷いた。

 

 手帳の中身は先輩の泣き言だった。誰も助けてくれない事への嘆き。先行きの無い未来への不安。逃げ出したい気持ちと諦めたくない気持ちの葛藤。

 

 先輩がひた隠しにしていたそれを、自分は受け止めきれなかった。そして、自分はセトを生み出した。

 

 

「セトの最初の仕事は、手帳を隠すことでした。俺からもホシノからも、誰にも。ユメ先輩でもある手帳を見つからないように隠したんですよ。俺の記憶ごとね」

 

 

 そして、そのおかげで自分は壊れないで済んだ。それはずっと隠されたままのはずだった。色彩の事件で、自分とホシノが一体化するまでは。

 

 

「色彩の事件で、ホシノが俺の中に入った時。慌てたセトはホシノだけにはバレないようにしました。でも、その時に俺の方の処理が甘くなったせいで、俺は思い出してしまった」

 

 

 だから、セトは怒り狂っていたのだ。何かが流れ込んだのもあったのだろうが、きっと一番の理由はそれだった。

 

 そして、翌日にそのことを思い出した自分は全てを理解してしまったのだ。何故先輩が契約を結びに行ったのか。手帳を自分へと残したのか。あれだけ辛かったのにアビドスに残っていたのか。

 

 

「先輩は優しい人でした。お人よしという言葉が服を着て歩いているような人でしたよ。何度も他人に騙されてました。でも、先輩はバカでは無かったんですよ」

 

 

 本当にバカだったら。ホシノの言うように考えなしだったら。砂漠横断鉄道の事など考えつきもしなかっただろう。あれは、アビドスをどうやって救うか。毎日のように真剣に考えなければ出ない考えだった。

 

 

「たぶん先輩は、信じたかったんだと思うんです。騙されるのは分かっていても、もしかしたらの可能性を捨てられなかった。アビドスの事を考える自分みたいな人間が、どこかにいる事をずっと期待していた」

 

 

 だから、アビドスに来たばかりの自分の事を信じて、置いてくれたのだ。普通なら、あんな怪しい奴など追い出すくらいなのに。

 

 

「先輩は、生徒会長を押し付けられたそうです。そのことを自分で受け入れたと、寂しそうに笑ってましたよ。それ以外にも、自分は上手くできているのか、役に立てているのか。そんな不安を口に出すのを俺は何度も聞いていたんです」

 

 

 今になって思えば、アレは先輩のSOSだったのではないのかと思うのだ。それに自分は気がつくことが出来なかった。それだけでも自分を絞め殺したくなるのに。極めつけはあの日だ。

 

 

「ホシノは話しませんでしたが、俺は知っています。あの日、ユメ先輩とホシノは喧嘩したんです」

 

 

 ユメ先輩が死んだと聞いた時、マトと協力して調べた。あの日に何があったのか。聞き込みもして、総ざらいして調べたのだ。

 

 唯一分かったのは、その日、アビドス校舎から少女の怒鳴り声や、泣き声が聞こえたと言ういくつかの証言。時間もほぼ同時刻だった。

 

 

「ホシノは数日前から、機嫌が悪そうでした。俺が先輩とやっている事にも感づいていたんでしょう。きっと先輩に八つ当たりしたんです」

 

 

 何を言ったかは想像がつく。リゾート地で砂祭りのポスターに対してやたらと反応したことと、部屋に貼ってあるビリビリに破いたのを無理やり修復したポスター。

 

 たぶん、あのポスターを破って怒ったのではないだろうか。夢みたいなこと言わないで下さいみたいなことを言ったに違いない。先輩が砂祭りをやろうと言った事から、砂漠横断鉄道に繋がったのだ。たぶんそれを、ホシノは否定した。

 

 

「そうすれば、先輩はどうするか。きっと仲直りするために行動するはずです。そのためには証拠が必要でした。アビドスを復興させられると言う明確な証拠。それを手に入れて、ホシノに見せるために。だから先輩はあの日に、一人で出かけたんですよ」

 

「それが、どうしてカヤツリのせいになるの?」

 

 

 先生はどうにも理解できない様子だった。話だけなら、直接的な原因はホシノが怒ったことだろう。でも、それは違うのだ。

 

 

「俺は知っていたんですよ。先輩が能天気なだけの人ではない事を。ホシノの機嫌が悪かったことを。そして、俺が頑張らなければ、砂漠横断鉄道の話は無かったことも。そして、俺を追いかけてきたビナーから全てが始まったことも」

 

 

 自分は知っていたはずだったのだ。ユメ先輩が、自分たちと同じ唯の生徒だったという当然の事を知っていたはずだった。それなのに、何もしなかったのだ。

 

 良く考えれば分かったはずだ。二人が喧嘩するかもしれないなんてことを。ただ、ホシノに話すだけでよかったのに。先輩に止められたからと、そこで思考を止めるべきでは無かったのに。

 

 そして、先輩がああなった原因は全部、自分がいたからだ。自分がいなければ、ビナーは来なかった。そうすれば報酬金は手に入らなかった。報奨金が無ければ砂祭りをしようなんて話は出なかった。砂祭りの話が無ければ、砂漠横断鉄道の話なんて出なかった。

 

 ビナー相手にあの砲撃を撃たなければ、マトが来ることもなかった。マトが来なければ、砂漠横断鉄道の契約は出来なかった。そうだったら、先輩はホシノと喧嘩しなかった。ホシノも先輩を殺したように見える事をしなくてよかった。先輩も死ななくて済んだ。

 

 

「俺がいなければ、俺がアビドスに来なければ、先輩は死ななかった」

 

 

 それが、自分の出した結論だった。それを言い切った後、部屋に沈黙が満ちる。

 

 先生は、目を閉じて自分の話を反芻しているようだった。

 

 次に目を開いた時、先生の目には優しさが満ちているのが分かった。

 

 そして、先生は口を開いた。

 

 

「カヤツリとホシノも、梔子ユメさんも、きっとお互いの事が大好きだったんだね。だから、ここまで頑張れたんだ。違うかい?」

 

 

 スッと、どこか楽になるのを感じた。

 

 君のせいじゃないとか、君は悪くないとか、そんな言葉でない事が嬉しかった。そう言われると、先輩のした事が悪い事だったみたいに感じるのだ。先輩がそんなことをしたせいであって、君は悪くないよと。

 

 それは、自分の失敗を物言わぬ先輩に押し付けただけだ。

 

 先輩の行為は、きっと善意だった。考え無しの行為ではなかった。ホシノも、拙いなりに考えてはいた。それを自分は知っていて、それを肯定して欲しかった。ただ認めて欲しかった。やっぱり、先輩はそういう人だと。先輩を知らない人にだ。

 

 本当は分かっているのだ。あの時は皆が悪気はなかった事くらい。でも、他人のせいにはしたくなくて、自分のせいにしか思えなくて。自分を悪者にすることしかできない。でも、それは自分を信じた先輩を侮辱する行為でもある。

 

 だから、その言葉で、どこか救われたような気がして、自分は天井を見ることしか出来なかった。溢さないようにするので精一杯だ。

 

 だから、良いと思った。先輩がきっと最期に思って、願ったであろう事を。まだ確信が持てない答えを。自分がやろうと思ったことを。この大人になら、全部話しても良いと。

 

 何となく、そう思ったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。